Tetsu-to-Hagane
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ISSN-L : 0021-1575
Mechanical Properties
Fatigue Behavior of Fe-Cr-Ni-based Metastable Austenitic Steels with an Identical Tensile Strength and Different Solute Carbon Contents
Takuro OgawaMotomichi Koyama Yuri NishikuraKaneaki TsuzakiHiroshi Noguchi
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2018 Volume 104 Issue 2 Pages 88-97

Details
Synopsis:

Fatigue properties of Fe-19Cr-8Ni-0.05C and Fe-19Cr-8Ni-0.14C steels were investigated using a rotating bending fatigue test machine. Fatigue limit of both of the steels were dominated by critical stress amplitude for crack initiation. Because of the austenite stability, the fatigue limit of the Fe-19Cr-8Ni-0.05C steel was 200 MPa higher than that of the Fe-19Cr-8Ni-0.14C steel. Although occurrence of dynamic strain aging in the Fe-19Cr-8Ni-0.14C was expected to improve fatigue limit, the effect did not appear due to the remarkable increase of phase stability that deteriorates positive effects of transformation-induced plasticity and transformation-induced crack closure.

1. 緒言

オーステナイト系ステンレス鋼は耐食性の観点から様々な場面で構造部材の一部として使用されている。オーステナイト系ステンレス鋼を含む構造部材を長期使用する場合には,突発的な事故の主因である疲労破壊挙動を理解する必要がある。疲労特性は疲労寿命および疲労限を基準に評価されており,疲労限の向上は構造部材にとって重要な課題の一つとして挙げられる。一般的には,疲労限は疲労き裂の発生限界と,発生後にき裂進展が停留する疲労き裂の停留限界の二つに分けられる13)。つまり,疲労き裂の観察が各材料の疲労特性の支配因子を理解する鍵となる。

汎用ステンレス鋼であるSUS304は,変形誘起α'−マルテンサイト変態を呈することで変態誘起塑性(Transformation-induced plasticity:TRIP)効果46)を示す準安定オーステナイト鋼として知られている。SUS304の平滑材における疲労限は疲労き裂発生限界によって支配される7)。これは,準安定オーステナイト系ステンレス鋼において,その疲労き裂発生限界と比較して,疲労き裂の停留限界が低いためである。つまり,準安定オーステナイト系ステンレス鋼の平滑材の疲労限を向上させるためには疲労き裂の発生限界の向上が必要とされるのに対して,疵などの応力集中源の影響に対して疲労限をロバストにするためには疲労き裂の停留限界を改善することが重要となる。この考え方に基づいて,準安定オーステナイト系ステンレス鋼の疲労き裂の発生限界および停留限界を向上させるための注目因子について以下に述べる。

鉄鋼材料の疲労限の向上に必要な因子の一つに加工硬化がある。特に,準安定オーステナイトステンレス鋼は,TRIP効果による顕著な加工硬化を示す。そのため,変形誘起マルテンサイト変態を制御すること,つまりひずみあたりのマルテンサイト変態率が疲労限向上に対して重要である。また,炭素による動的ひずみ時効(dynamic strain-aging:DSA)810)もコーキシング効果や疲労き裂停留現象でよく知られるように疲労限の向上に対して重要な働きをする。このDSAは固溶元素である炭素がき裂先端の塑性域において転位周りの弾性ひずみ場に偏析することにより転位の運動を阻害し,結果としてき裂先端の硬化を引き起こす。しかし,一般的なオーステナイト系ステンレス鋼ではDSAは起こらないとされている。これは室温において,FCC構造を持つオーステナイト鋼では炭素の拡散能が低いためである。しかし,近年の研究ではFe-Mn-Cオーステナイト鋼でも室温においてDSAを示すことが報告されている1113)。この一因はMnの添加によってMn-C対を形成することで転位運動を阻害するためである11,14)。さらに前報15)において我々は一般的なSUS304鋼に炭素を添加することで,引張試験において持続的なマルテンサイト変態およびDSAによる持続的な加工硬化能が発現することを確認した。特に後者のマルテンサイト変態助長DSAはMnを必要としないため,Fe-Cr-Ni基オーステナイト鋼の疲労特性改善指針の一つとなりうる。

前報の引張変形挙動の研究15)によると,Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼は変形初期において急激なマルテンサイト変態が起こり,著しく高い加工硬化を示した。一方で,Fe-19Cr-8Ni-0.14C鋼においては,通常のSUS304に比べて塑性ひずみに対するマルテンサイト変態率は低い。しかし,マルテンサイト変態と同時に発現する変態助長DSAにより持続的な加工硬化を引き起こし,Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼と比べて同程度の引張強度と約2倍の破断伸びを示した。これらひずみ時効および変態挙動と引張特性の関係は明らかにされたが,疲労特性に対して未解明である。上述の通り,TRIP効果による加工硬化と動的ひずみ時効硬化は疲労特性に影響する最重要因子である。本報では,これらFe-19Cr-8Ni-0.05C鋼およびFe-19Cr-8Ni-0.14C鋼の疲労特性を明らかとする。

2. 供試材および実験方法

Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼およびFe-19Cr-8Ni-0.14C鋼(mass%)を真空誘導溶解によって作製した。上記2鋼種および比較材のSUS304の化学成分をTable 1に示す。本鋼の応力ひずみ曲線およびα'−マルテンサイト体積とひずみの関係をFig.115)に示す。インゴットは1273 Kで熱間鍛造および溝圧延を施し,断面寸法21 mm×21 mmの角棒に成型した。その後1313 Kで3.6 ksの固溶体化処理を行い,水焼入れを行った。熱処理後,旋盤を用いてFig.2に示す試験片を作製した。試験片表面はエメリー紙により2000番まで研磨した後0.1 μmのアルミナ粒子によるバフ研磨を行った。その後,機械研磨による加工層を除去するために,2 L H3PO4,40 g C2H2O4.H2Oおよびゼラチン40 gの電解液を用いて,17 V,120 sで電解研磨を行った。

Table 1. Chemical composition of the steels used (mass%).
MaterialNiMnCrSiPCNS
Fe-18Cr-8Ni-0.05C8.42< 0.00119.1< 0.001< 0.0010.0480.00090.001
Fe-18Cr-8Ni-0.14C8.4< 0.00118.8< 0.001< 0.0010.140.00120.0005
SUS3048.70.8418.420.490.020.0460.0440.005
Fig. 1.

(a) Engineering stress-strain curves at an initial strain rate of 10–4 s–1. (b) Martensite fraction vs. engineering strain curves obtained at an initial strain rate of 10–4 s–1. “Reproduced with permission from J. Mater. Sci., 52, 7868 (2017). Copyright 2017, Springer.”

Fig. 2.

Shape and dimensions of fatigue specimen (unit: mm).

疲労特性は,小野式小型回転曲げ試験機を用いて室温,周波数30 Hz ,応力比R=−1,波形は正弦波にて評価した。すべての疲労試験中,加工発熱の影響を抑えるために扇風機で送風を行った。試験片表面情報はレプリカ法により観察した。疲労限近傍の試験条件では,試験前および1.0×107サイクル毎にレプリカシートに表面起伏を転写し光学顕微鏡にて観察した。次に,得られた平滑材のS-N曲線より同程度の繰返し数で破断する応力振幅においてFe-19Cr-8Ni-0.05C鋼およびFe-19Cr-8Ni-0.14C鋼の疲労き裂進展挙動をレプリカ法により観察した。レプリカ法による観察は試験前,試験中3.0×103サイクル毎および試験後に行った。また,試験後破断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し,試験片表面を後方電子後方散乱回折(EBSD)観察および電子チャネリングコントラスト(ECC)法観察16)することでき裂の進展と微視組織の関係を調査した。EBSD観察におけるビームステップサイズはいずれも50 nmに設定した。

3. 結果

3・1 S-N曲線およびき裂進展曲線:マクロ疲労特性

Fig.3に応力振幅−疲労寿命曲線(S-N)曲線を示す。Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼およびFe-19Cr-8Ni-0.14C鋼の疲労限σwはそれぞれ480 MPaと280 MPaであった。また,比較材であるSUS304におけるσwの平均は275 MPa7,17)である。各疲労限において107サイクル後に試料表面を光学顕微鏡で観察した結果,いずれの鋼種においても疲労き裂は観察されなかった。すなわち,両鋼の疲労限は疲労き裂発生限界に支配されている。また,疲労限よりも高い応力振幅における疲労寿命に注目すると,Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼の応力振幅増加に対する疲労寿命の低下量がFe-19Cr-8Ni-0.14C鋼よりも小さい(S-N曲線の傾きが大きい)。換言すると,Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼の方が応力振幅に対して鈍感である。

Fig. 3.

Relationship between stress amplitude σa and the number of cycles to failure Nf.

次に,疲労限よりも高い応力振幅におけるき裂長さ-サイクル数曲線をFig.4に示す。この曲線の傾きが各サイクル数におけるき裂伝ぱ速度に対応する。ここで,各応力振幅は104~105回疲労寿命に対応する条件を選択した。つまり,Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼では580 MPa(Nf=51,700),Fe-19Cr-8Ni-0.14C鋼では310 MPa(Nf=17,900)を対象とした。これら異なる鋼種における疲労き裂進展速度を直接定量的に比較することはできないが,同鋼種における主き裂と二次き裂の進展速度の比較はできる。ここでの特徴的な傾向としては,Fe-19Cr-8Ni-0.14C鋼の二次き裂の進展速度は主き裂に比べて著しく遅いことを挙げる。Fig.4および破断試料の解析結果より,Fe-19Cr-8Ni-0.14C鋼では,1.5×104サイクルで0.7 mm未満であった2つのき裂が合体・進展し,1.8×104サイクルで直径5 mm試料の破断を引き起こしている。一方,同鋼における二次き裂は,Fig.4に示すように1.5×104サイクルで0.6 mm程度であり,破断時(1.8×104サイクル)においても1 mm未満であった。また,各疲労寿命の8割程度のサイクル数に注目すると,Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼においては4.2×104サイクル時(疲労寿命N/Nf=81%)に,投影き裂長さが1.9 mmのき裂が観察された。一方でFe-19Cr-8Ni-0.14C鋼においては,1.5×104サイクル時(疲労寿命N/Nf=84%)において確認された最大の投影き裂長さは約0.7 mmである。

Fig. 4.

Fatigue crack length plotted against number of cycles.

3・2 疲労き裂進展挙動および微視組織発達

Fig.4に対応するFe-19Cr-8Ni-0.05C鋼の主き裂のレプリカ像をFig.5に示す。3.0×103サイクル(Fig.5(b))において,試料表面には表面起伏が全面的に現れ,すべり線に沿ってき裂が発生した。この疲労き裂の伝ぱ経路は主にすべり線と平行になっている(Fig.5(c-g))。破断直前である5.1×104サイクルでは,最大投影き裂長さが約5 mmに達した。また,二次き裂も複数本観察された。

Fig. 5.

Replica images showing main fatigue crack propagation of the Fe-19Cr-8Ni-0.05C steel (σa=580 MPa) at (a) 0, (b) 3×103, (c) 6×103, (d) 9×103, (e) 1.2×104, (f) 1.5×104, and (g) 2.7×104 cycles.

Fig.6にFe-19Cr-8Ni-0.14C鋼における主き裂のレプリカ像を示す。Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼と同様,3.0×103サイクルにおいてき裂の発生が確認された。Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼と比べて,表面起伏は不鮮明である。破断直前の1.5×104サイクルにおける最大投影き裂長さは約0.7 mm程度であり,Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼の最大投影き裂長さより小さいが,同一円周上に存在する複数のき裂が合体することで最終破断に至っている(Fig.6(g))。

Fig. 6.

Replica images showing main fatigue crack propagation of the Fe-19Cr-8Ni-0.14C steel (σa=310 MPa) at (a) 0, (b) 3×103, (c) 6×103, (d) 9×103, (e) 1.2×104, (f) 1.5×104 cycles. (g) Other main cracks at 1.5×104 cycles.

次に,き裂進展観察(Figs.5,6)に用いた試料の破断材に存在する表面き裂の先端をEBSD観察した。Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼およびFe-19Cr-8Ni-0.14C鋼におけるEBSD観察の結果をそれぞれFig.7およびFig.8に示す。Fig.7(b)に示すように,Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼のき裂周辺は全域がα'−マルテンサイト変態している。Fig.7(c)における方位解析より,き裂先端部およびき裂先端後方から分岐している鋭いき裂はα'−マルテンサイトのすべり面{110}αに沿って進展していることがわかる。また,き裂近傍に限らず,試料表面全域において各結晶粒中にα'−マルテンサイトが観察された。

Fig. 7.

(a) SE image and (b) phase map, and (c) RD-IPF map of the Fe-19Cr-8Ni-0.05C steel fractured at 580 MPa. The EBSD images are overlapped with the corresponding IQ map.

Fig. 8.

(a) SE image and (b) phase map, and (c) RD-IPF map of the Fe-19Cr-8Ni-0.14C steel fractured at 310 MPa. The black arrows indicate α’-martensite along annealing twin boundaries. The EBSD images are overlapped with the corresponding IQ map. (d-f) ECC images corresponding to regions indicated in (b).

一方で,Fig.8(b)に示すようにFe-19Cr-8Ni-0.14C鋼においては試験後でもオーステナイトが主相として存在している。α'−マルテンサイトの形成箇所は主に二種類である。まずは,き裂先端である。き裂先端ではα'−マルテンサイトが点状に現れている。第二の形成箇所は焼鈍双晶界面である。薄いα'−マルテンサイトが焼鈍双晶界面に沿って存在し,それらが粒内に向かって成長している。ε−マルテンサイトは本研究のEBSD観察条件では検出されなかった。また,Fig.8(a)の白点線で囲まれた範囲においてき裂分岐が起こっている。Fig.8(c)より,き裂分岐が起こった領域では有意な結晶方位差が存在していることがわかる。き裂はこの有意な方位差が存在する領域を避けるように進展している。この方位差が存在しているき裂近傍領域に対してECC法を用いると,粒界状の微細な組織が観察される(Fig.8(d))。拡大像(Fig.8(e))をみると転位密度が高い領域(暗いコントラスト部)と低い領域(明るいコントラスト部)が存在することがわかる。これら微細な粒に対応する大角粒界はEBSDで検出されず,いずれも小角粒界または亜粒界である。従来論文18)では,FCC合金において繰返し引張/圧縮応力により誘起されるFig.8(e)のような微細組織は転位セルとして報告されている。また,一部の結晶粒では積層欠陥またはε−マルテンサイトと考えられる厚さ100 nm未満の板状生成物が小角粒界/亜粒界を貫通して存在していることが確認された(Fig.8(f))。

Fe-19Cr-8Ni-0.14C鋼では,粒内に加えて粒界もき裂伝ぱ経路となっている。一例をFig.9に示す。Fig.9(a)は310 MPaで疲労破断させた試料を機械研磨し,表面き裂を二次電子線像で観察した結果である。この領域に対応するレプリカ画像をFig.9(b)に示す。破線で囲んだ領域において粒界き裂進展が観察される。粒界き裂進展は,き裂面から非対称なすべりをともなっている。

Fig. 9.

(a) SE image and (b) replica optical image showing asymmetry slip pertaining to the crack growth in the Fe-19Cr-8Ni-0.14C steel tested at 310 MPa.

Fe-19Cr-8Ni-0.14C鋼における破面近傍の金属組織をFig.10に示す。結晶粒内の組織形態は大きく二種類に分類できる。一つはFig.10(a)の中央に観察されるように,結晶粒全域にα'−マルテンサイトが形成している組織である。もう一つはFig.10(b)に示すオーステナイト中に存在するラビリンス組織である。ラビリンス組織はFCC合金で典型的に形成する疲労組織である19)。また,Fig.8bと同様,一部焼鈍双晶界面に沿ってα'−マルテンサイトがFig.11に示す領域に形成している。Fig.11において方位解析した結果,例えば黒点線で囲われた領域において,焼鈍双晶界面に沿ったα'−マルテンサイトは複数の異なる結晶方位を有していることがわかった。

Fig. 10.

ECC images in a vicinity of the fracture surface of the Fe-19Cr-8Ni-0.14C steel tested at 310 MPa. (a) Martensite formation. (b) Labyrinth dislocation pattern.

Fig. 11.

(a) RD-IPF and (b) phase maps in a non-cracked region of the Fe-19Cr-8Ni-0.14C steel fractured at 310 MPa.

3・3 疲労破面観察結果

Fig.12および13にFe-19Cr-8Ni-0.05C鋼およびFe-19Cr-8Ni-0.14C鋼のき裂進展観察試験で破断した試験片の破断面をそれぞれ示す。Fig.12(b)Fig.5に示したFe-19Cr-8Ni-0.05C鋼における主き裂の起点である。Fig.12(c)は二次き裂の起点を示している。これら二つのき裂に対応する破面は他の領域と比較して平坦である。この二次き裂と主き裂に対応する破面領域の間にはFig.12(d)に示すようにストライエーションパターンに加えてディンプル破面が観察される。

Fig. 12.

SEM fractographs of the Fe-19Cr-8Ni-0.05C steel (σa=580 MPa): (a) overview of the fracture surface, (b) main crack initiation site, (c) sub-crack initiation point, (d) striations and dimples. The inset in Fig.12 (d) indicates a magnified image showing formation of striations.

Fig. 13.

SEM fractographs of the Fe-19Cr-8Ni-0.14C steel (σa=310 MPa): (a) overview of the fracture surface, (b) main crack initiation site, (c) another main crack initiation point, and (d) coalescence point of the main cracks. The inset in Fig.13 (d) indicates a magnified image showing formation of striations.

一方で,Fe-19Cr-8Ni-0.14C鋼においては,破面上に複数のき裂の起点が観察される。Fig.13(d)における白い筋は,Fig.13(b)およびFig.13(c)を起点とするき裂がストライエーションパターンを形成しながら合体したためにできたものである。このようにFe-19Cr-8Ni-0.14C鋼においては複数の主き裂同士が試験片表面を通して合体し,破断に至っている。ここで,Fig.3中に黄色矢印で示す点に対応する試料は例外的である。この試料の破面と試料外観をFig.14(a)および14(b)に示す。他の試料と同じく複数き裂が発生しており,その発生サイトが示す破面の特徴はFig.13と同様である(Fig.14(c),(d))。しかし,その発生サイトはいずれも互いに離れており,Fig.14(e)に示すストライエーションをともなう疲労き裂進展を十分にした後,引張破断によって各き裂は合体したと考える。複数の長いき裂が合体した結果,Fig.14(b)の外観に見られる崖のような段差が形成した。

Fig. 14.

A set of exceptional fractographs of the Fe-19Cr-8Ni-0.14C steel (σa=400 MPa). (a) Overview of the fracture surface. The arrows indicate fatigue crack initiation sites. The broken red lines indicate boundaries between fatigue crack growth and tensile fracture regions. (b) Appearance of the specimen. The yellow arrow indicates a cliff on the fracture surface. (c) Main crack initiation site and (d) a sub-crack initiation site. (e) Fatigue striations.

4. 考察

4・1 疲労限影響因子:疲労き裂発生

3・1節で述べたようにFe-19Cr-8Ni-0.05C鋼およびFe-19Cr-8Ni-0.14C鋼は共に疲労限において疲労き裂の発生が確認できなかったことから,平滑材の両鋼の疲労限は疲労き裂発生限界によって支配されている。まずは,Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼の疲労限はFe-19Cr-8Ni-0.14C鋼に比べて顕著に高いことに注目する。前報15)で調査した結果(Fig.1(b)),Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼ではひずみあたりのマルテンサイト変態量が大きく,ひずみ速度10−4 s−1,引張応力580 MPa,10%塑性ひずみ時に対応するα'−マルテンサイトの体積量は約40%である。Fe-19Cr-8Ni-0.14C鋼における同塑性ひずみ量でのα'−マルテンサイト量は約2%である。対応して,Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼の疲労き裂近傍では全域がα'−マルテンサイト変態しており(Fig.7(b)),Fe-19Cr-8Ni-0.14C鋼における疲労き裂先端近傍領域ではオーステナイトが主相となっていた(Fig.8(b))。つまり,き裂発生サイトのα'−マルテンサイト形成能がき裂発生限界に強く影響している。

き裂発生サイトのα'−マルテンサイト形成能の観点から金属組織観察結果を考察する。Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼では試料表面すべての結晶粒においてα'−マルテンサイトが観察されたので,いずれの結晶粒でき裂が発生したとしても,α'−マルテンサイト形成による硬化の影響を受けている。一方,Fe-19Cr-8Ni-0.14C鋼はひずみに対するマルテンサイト変態率が低く,疲労破断後にα'−マルテンサイトが存在しない結晶粒も観察される。また,Fig.8(b)に示されるようにき裂近傍から離れた領域ではα'−マルテンサイト量は著しく低いので,き裂発生時にはき裂発生サイトでα'−マルテンサイトはほとんど形成していなかったと考える。Fig.10(a)に示すようにα'−マルテンサイトで満たされた結晶粒も存在しているが,上述議論に則ると,このようにα'−マルテンサイトの効果の影響を強く受けた粒はき裂の発生サイトとはならず,Fig.10(b)に示すα'−マルテンサイト変態を伴わない転位組織が発達する粒においてき裂が発生する。炭素による固溶強化分,形成したα'−マルテンサイトの硬さはFe-19Cr-8Ni-0.14C鋼の方がFe-19Cr-8Ni-0.05Cより高い。しかし,疲労き裂は最弱組織で形成するので,結果としてα'−マルテンサイトを伴わない結晶粒を有するFe-19Cr-8Ni-0.14C鋼の疲労き裂発生限界がFe-19Cr-9Ni-0.05C鋼より低くなったと考える。

また,今回εマルテンサイトは検出されなかったが,引張試験では今回用いた2鋼種において有意な量のε−マルテンサイト形成が確認されている15)。特にFe-19Cr-8Ni-0.14C鋼では400 MPa以下で有意な量のεマルテンサイトが観察されており,今回の疲労試験中でもε−マルテンサイトが形成していると考える。εマルテンサイトはき裂発生の原因2022)であるとともに,疲労損傷発達抑制因子2326)としても知られるので重要である。ε−マルテンサイトの形成を間接的に示す証拠が3つある。一つはFig.6に示す不明瞭な表面起伏,二つ目がFig.8(b)に示される粒状のα'−マルテンサイトの存在,三つ目がFig.11に示される異なる結晶方位を有する双晶界面に沿ったα'−マルテンサイトの形成である。これら三つの観察事実がε−マルテンサイト形成の間接証拠となる理由を以下に述べる。

形成したε−マルテンサイトが試験後に観察されない原因を2つ挙げる。一つは,ε−マルテンサイトがα'−マルテンサイトに変態した場合である。もう一つが,εマルテンサイトを誘起したせん断応力とは逆方向の成分を有するせん断応力によって,変形誘起逆変態2326)が起こった場合である。前者の場合はα'−マルテンサイトが残存し,後者の場合は逆変態後にオーステナイト単相となる。α'−マルテンサイトは,ε−マルテンサイトと二次ε−マルテンサイトまたはすべり帯の交差部から形成することが知られる27,28)Fig.11α'−マルテンサイトが内部に異なる結晶方位を有する事実は,このα'−マルテンサイト全体が同一の変態転位運動で形成したものではないことを示している。特に双晶界面は,ε−マルテンサイトの核となるイントリンシック積層欠陥と類似の積層構造をとっており,ε−マルテンサイトの核生成サイトとなりうる。双晶界面に沿ったε−マルテンサイトと,異なるバーガースベクトルを有する複数のすべり転位が相互作用した結果,ε−マルテンサイトが変態し,異なる結晶方位を有するα'−マルテンサイトが形成したと考える。さらに,ε−マルテンサイトの一部が二次のε−マルテンサイトまたはすべり転位との交切によりα'−マルテンサイト変態した状態で,ε−マルテンサイトのみが変形誘起逆変態した結果がFig.8(b)の粒状のα'−マルテンサイトであると考える。また,変形誘起逆変態が起こると,表面起伏が消失する23)。これがFig.6で観察された不明瞭な表面起伏の原因といえる。つまり,これら間接証拠から粒状のα'−マルテンサイトが形成している結晶粒ではε−マルテンサイトが形成していたと考える。しかし,Fe-19Cr-8Ni-0.14C鋼における疲労き裂はα'−マルテンサイトが存在しない粒で選択的に形成したので,今回の疲労き裂発生限界にはε−マルテンサイト変態は影響せず,疲労限改善には繋がらなかったと考える。

4・2 疲労寿命影響因子:疲労き裂進展

次に,疲労限よりも高い応力振幅において,Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼の疲労寿命がFe-19Cr-8Ni-0.14C鋼よりも応力振幅に対して鈍感である理由を考える。Fig.5およびFig.6に示すように,両鋼において疲労き裂の発生寿命は疲労寿命全体の10~20%程度であり,疲労限以上の応力振幅における疲労寿命は疲労き裂の伝ぱ寿命で支配されている。このため,以下疲労き裂伝ぱ挙動について考察する。

Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼の疲労寿命の応力振幅依存性を考える上では,α'−マルテンサイト形成と疲労き裂進展の関係が重要である。なぜなら,応力振幅の増大は1サイクル中に与えられる塑性ひずみ量の増大を意味するので,き裂進展経路の力学場および力学的特性の応力振幅依存性にマルテンサイト変態が加工硬化現象などを通して密接に関与するからである。上述のき裂発生の議論で述べたように,α'−マルテンサイトはき裂発生前でさえ形成している。き裂が発生すると,その先端の応力集中に起因してさらに大きな塑性変形が与えられるので,Fig.7(b)に示すようなき裂先端近傍領域がほぼ全域α'−マルテンサイト変態した状態となる。き裂先端におけるα'−マルテンサイト変態はき裂進展に対して重要な役割が2つある。一つはき裂先端の硬化である。硬化によってき裂先端の塑性変形が妨げられるので,き裂進展が抑制される。もう一つは変態誘起き裂閉口17,29,30)である。α'−マルテンサイト変態は稠密構造(FCC)から非稠密構造(BCC)への体積膨張型の変態なので,き裂先端でこの変態が起こると局所的に体積膨張しようとする。しかし,き裂先端の塑性域は周囲の弾性域に拘束されているので,変態域は圧縮される。この圧縮応力がき裂の開口を抑制するので,結果としてき裂の進展速度が低下する。つまり,α'マルテンサイト変態が極めて容易なFe-19Cr-8Ni-0.05C鋼では,これら変態由来のき裂進展抑制機構が効果的に働いていると考える。より詳細に言及すると,疲労き裂伝ぱ挙動はき裂長さが短いときと長いときの2つに場合分けされる。疲労き裂が短い段階ではFig.7(c)に示すようにき裂はα'−マルテンサイトのすべり面{110}αに沿っている。き裂開口中にき裂先端におけるα'−マルテンサイト量が飽和した後,さらなる開口によりα'−マルテンサイトがすべり変形を受けたと考える。α'−マルテンサイト中ですべり変形が繰り返し起こり,空孔や転位ダイポールなどの複数転位の相互作用に由来する格子欠陥が増加した結果,すべり面上において損傷蓄積型の疲労き裂進展31)が起こったと想定される。また,Fig.9に示すように粒界き裂進展も観察される。疲労における粒界き裂進展も損傷蓄積型であることが報告されており,従来損傷蓄積型と報告されている粒界き裂進展においても,Fig.9で示すようなき裂面に対して非対称なすべり変形が観察されている32)。これらのようなき裂進展が起こる場合,上述のき裂進展抑制機構は最大せん断応力が働くすべり面上での転位蓄積および転位組織発達を抑制する。

き裂が長くなると,Fig.12(d)に示したように破面の一部でストライエーションの形成が確認された。これは疲労き裂先端が鈍化/再鋭化機構33,34)で進展していることを示唆している。き裂の鈍化/再鋭化の繰り返しでき裂が進展する場合は,進展に伴う塑性変形に由来した残留圧縮応力(塑性誘起き裂閉口)がき裂進展を強く抑制する。上述の変態き裂閉口は,この塑性誘起き裂閉口を助長するき裂閉口機構である。この場合はき裂先端から射出された転位の数がき裂の進展量を決定する。つまり,き裂が長くなった際にはTRIP効果による硬化と変態誘起き裂閉口により開口を抑え,き裂先端からの転位射出量を低減させることでき裂進展速度を低下させていると考える。以上の変態の効果はひずみあたりのα'−マルテンサイト変態量が大きいほど強くなるので,α'−マルテンサイト変態能が高いFe-19Cr-8Ni-0.05C鋼の疲労寿命が応力振幅に対して鈍感になったと考える。

関連して,短いき裂の場合は{110}αに沿ったき裂進展であるので,き裂進展挙動の結晶方位依存性が大きいことにも着目する。マルテンサイト変態挙動も強く荷重方位に依存するので,変形に対して容易に変態するFe-19Cr-8Ni-0.05C鋼のき裂進展挙動の結晶方位依存性は強い。このように強く結晶方位依存性が現れる場合,同一試料の表面に複数存在するき裂の進展速度は大きくばらつく35,36)。今回の実験結果でもFig.4に示すように,主き裂と二次き裂の進展速度は顕著に異なっている。き裂は,ある程度長くなるとき裂前縁に複数の結晶粒を含み,かつ塑性域が大きくなるので,き裂の進展速度は安定する37)。つまり,短いき裂の進展挙動に起因して,主き裂のき裂進展速度と比較して,その他のき裂の伝ぱ速度は顕著に小さくなる。ここで,Fig.12(a)およびFig.12(c)に示す破面に存在する二次き裂の進展領域は小さく,主き裂と二次き裂の進展領域の間にディンプル破面が観察される(Fig.12(d))ことに注目する。この事実は,主き裂が試料の引張破断を引き起こすために十分なだけ進展したあとに,き裂の合体が起こったことを示している。換言すると,Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼の場合は二次き裂の伝ぱがほとんど疲労寿命に影響していない。

一方Fe-19Cr-8Ni-0.14C鋼では,塑性ひずみの大きなき裂近傍において,少量のα'−マルテンサイトが確認できる(Fig.8(b))。しかし,α'−マルテンサイトが多量に形成している結晶粒(Fig.10(a))やα'−マルテンサイトの優先生成サイトである双晶界面(Fig.11(a))は伝ぱ経路となっていない。また,き裂はオーステナイトの{111}γすべり面に沿って進展している。つまり,き裂が短い場合は,疲労き裂は{111}γすべり面上における疲労損傷蓄積によりα'−マルテンサイトを避けて進展しており,き裂の開口に伴う塑性変形によって一部α'−マルテンサイト変態したと考える。金属組織発達の観点では,き裂が存在しない領域で,かつオーステナイトが主相である場合の疲労転位組織はラビリンス型である。今回の疲労き裂はオーステナイト中を伝ぱしているので,ラビリンス組織中にき裂が伝ぱし,そのき裂の開口/伝ぱ中に射出または増殖した転位とラビリンス組織を構成する転位が再配列した結果Fig.8(e)の転位セルがき裂近傍で形成したと考える。結晶方位によってはすべり転位の代わりに積層欠陥やε−マルテンサイトが形成することも想定され,その一例がFig.8(f)と考える。き裂が長くなった場合は,Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼と同じく,ストライエーションが観察される(Fig.13(d))ことから,き裂の鈍化/再鋭化の繰り返しでき裂が進展していると考える。Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼と異なる点は,Fig.13(a)に示す破面上において二次き裂の進展領域が大きく,最終引張破断よりも前の段階で主き裂と合体していることである。つまり,き裂の合体がき裂の進展に影響を与えているので,二次き裂の進展挙動は疲労寿命および疲労強度に影響している。例外的に,Fig.3中黄色矢印で示す点(σa=400 MPa)については,Fig.14に示すようにき裂の発生サイトがいずれも互いに離れていたため合体の影響が小さく,結果として他の試験結果と比べて疲労寿命が大きい側に外れていると考える。Fe-19Cr-8Ni-0.14C鋼の二次き裂と主き裂の伝ぱ速度の差がFe-19Cr-8Ni-0.05Cよりも小さい原因の一つは,マルテンサイト変態の寄与の低下である。Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼では,マルテンサイト変態がほぼ全ての粒で強く働き,き裂進展を抑制する。つまり,発生したき裂のほとんどはマルテンサイト変態によって停留または減速する。結果として,低確率で存在するマルテンサイト変態の影響が小さい粒でのみき裂が大きく成長し,主き裂となる。一方,Fe-19Cr-8Ni-0.14C鋼ではFe-19Cr-8Ni-0.05C鋼に比べて安定なオーステナイト粒が多く存在する。このため,主き裂だけでなく,発生したき裂のうち複数が比較的高確率でα'−マルテンサイト変態の影響を受けずに進展を継続する。よって,主き裂と二次き裂の伝ぱ速度の差が小さくなったと考えられる。

Fe-19Cr-8Ni-0.14C鋼におけるき裂進展へのマルテンサイト変態の影響について詳述する。Fe-19Cr-8Ni-0.14C鋼では,き裂の発生・伝ぱともにオーステナイトを主相とする領域を選択して起こるので,先在α'−マルテンサイトの影響は小さい。しかし,上述のき裂開口時に形成するα'マルテンサイトはき裂進展に影響する。また,α'−マルテンサイトがき裂近傍に存在するということは,α'−マルテンサイト変態によって助長されるDSA15)がき裂先端を硬化させる可能性がある。例えばFe-19Cr-8Ni-0.14C鋼は動的ひずみ時効に由来して1 GPa程度の高い引張強度を示す15)。このDSAによる硬化もき裂進展に影響すると考えられる。しかし,今回の結果において疲労限は従来材であるSUS304鋼とほぼ同一の値を示し,き裂進展で支配される疲労寿命もひずみあたりのマルテンサイト変態率が高いFe-19Cr-8Ni-0.05C鋼よりも短い(Figs.3,4)。従って,Fe-19Cr-8Ni-0.14C鋼におけるDSAは,マルテンサイト変態の影響と比較して,少なくとも,き裂の発生限界および疲労限より大きな応力振幅におけるき裂進展には有意に寄与しないといえる。

以上の議論では,炭素添加はオーステナイト安定化の影響で本鋼種の疲労特性を向上させなかった。ここでの問題がマルテンサイト量であるとすると,疲労試験前にショットピーニング3840)や予ひずみを導入することでマルテンサイト量は上昇する。このような予加工によりマルテンサイト量を制御すれば,炭素による固溶強化や動的ひずみ時効硬化の影響が顕在化し,炭素添加による準安定オーステナイトステンレス鋼の疲労限向上が実現できる可能性がある。同様の考え方に基づくと,試験条件として平均応力を上昇させれば疲労初期段階のマルテンサイト変態量を増大させることができるため,固溶炭素の影響が疲労特性改善に働くと期待される。また,ここまで平滑材の疲労特性について主に考察を行ってきたが,実機においては疵の影響を無視することは出来ない。微小疵が存在すると,多くの場合疲労限はき裂の発生限界ではなく,き裂の停留限界によって支配される。実用環境における固溶炭素量と準安定オーステナイトステンレス鋼の疲労限の関係を理解するために,将来的には微小き裂を導入した試験片を用いた調査が必要である。

5. 結言

本研究において,準安定オーステナイトステンレス鋼における疲労限と疲労寿命における固溶炭素の効果について以下の結論を得た。

1.ひずみあたりのマルテンサイト変態率の高いFe-19Cr-8Ni-0.05C鋼の疲労限は比較材であるSUS304の疲労限よりも約200 MPa高い480 MPaであった。一方でFe-19Cr-8Ni-0.14C鋼の疲労限は,固溶強化および動的ひずみ時効硬化の影響があるにも関わらず,SUS304鋼とほぼ同じ280 MPaであった。また,両鋼ともに疲労限は疲労き裂の発生限界で支配されていた。

2.Fe-19Cr-8Ni-0.05C鋼の微小き裂はα'−マルテンサイトの{110}αに沿って,Fe-19Cr-8Ni-0.14C鋼ではオーステナイトの{111}γに沿って進展する。両鋼とも,き裂が長くなるとストライエーション模様が破面上に形成されることから,き裂は特定の結晶面を持たないき裂先端の鈍化/再鋭化機構によって進展するようになることがわかった。この疲労き裂進展に対してもα'−マルテンサイト変態が最重要因子であり,変態能が大きいFe-19Cr-8Ni-0.05C鋼の方がFe-19Cr-8Ni-0.14C鋼よりも応力振幅に対してロバストな疲労特性を示した。

3.今回の化学組成と試験条件では,炭素添加によりオーステナイトが安定化したため,Fe-19Cr-8Ni-0.14C鋼ではα'−マルテンサイト変態が強く抑制された。このため,変態誘起き裂閉口や変態誘起塑性の影響が大きく低減され,相対的に効果が小さい炭素による固溶強化および動的ひずみ時効硬化の影響が疲労限に現れなかった。

謝辞

本研究はElements Strategy Initiative for Structural Materials(ESISM)および第25回日本鉄鋼協会鉄鋼研究振興助成の一環として行われたものである。

文献
 
© 2018 The Iron and Steel Institute of Japan

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