Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
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ISSN-L : 0021-1575
Mechanical Properties
Simplified Evaluation Method for Brittle Crack Arrest Toughness of Steel Plates Exploiting Charpy Impact Test
Hiroyuki Shirahata Teppei OkawaTakehiro InoueKohsaku Ushioda
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2018 Volume 104 Issue 3 Pages 155-165

Details
Synopsis:

In order to develop a simplified evaluation method for brittle crack arrest toughness, correlation between the result of ESSO tests and that of Charpy impact tests was investigated. Charpy impact test specimens with three notch shapes were cut from various steel plates manufactured in a laboratory and a plate mill. The transition temperature determined by the chevron-notch Charpy test correlated better to the results of the ESSO test than those of V-notch or pressed-notch Charpy tests. To determine the cause, an instrumented Charpy test was performed using the V-notch and chevron-notch specimens. As a result, fracture initiation energies of chevron-notch specimens were considerably low irrespective of materials. This indicates that the chevron-notch Charpy test is suitable for evaluating arrest toughness. Furthermore, the transition temperature is linearly related to the square root inverse of the cleavage facet size measured by SEM. Therefore, it is concluded that the chevron-notch Charpy test can be applied to estimate arrest toughness in heavy thick steel plates produced in a plate mill.

1. 緒言

近年,輸送効率向上のためにコンテナ船の大型化が進んでおり,適用される鋼板にも,高強度化(降伏点(YP)390~460 N/mm2級),極厚化(板厚70 mm超)の要求が高まっている1)。板厚が厚くなると,いわゆる板厚効果によって,脆性破壊の発生特性だけでなく伝播停止特性(以下,アレスト性と表記)も低下し,通常の造船Eグレードのシャルピー衝撃特性を満たす鋼材であっても長大き裂を停止させるのは困難であることが明らかとなった2)。この研究をきっかけに,日本国内では産学が連携して大型アレスト試験に関する共同研究が始まった。その研究成果をもとに,板厚75 mm以下の鋼板では,船体設計温度−10°Cにおけるアレスト靭性Kcaが6000 N/mm1.5以上であれば脆性き裂をアレストさせることができるとの指針が示され3),日本海事協会ではアレスト性保証規格が制定された4)。さらに,この規格は国際船級協会連合(IACS:International Association of Classification Societies)の統一規則(UR:Unified Requirements)にも反映されたため5),アレスト性の重要性が世界的に認知され,今後高アレスト鋼の需要が増加することが予想される。

鋼板のアレスト性を評価する方法としては,温度勾配型のESSO試験が一般的である。これは,標準幅500 mmの試験片に温度勾配を付け,応力を負荷した状態で低温部に楔を衝撃的に打ち込んで脆性き裂を発生させ,試験板内で停止させる試験方法である。そのときの応力とき裂長さから有限幅の影響を考慮したTangent公式を用いてKcaを算出し,アレニウス型のプロットで整理してアレスト性を評価する。近年,日本溶接協会(JWES:The Japan Welding Engineering Society)アレスト委員会において,アレスト靭性に及ぼす試験装置,試験片形状,温度分布,打撃等の影響が詳細に調査されており,規格化がなされた6)

ESSO試験を行うためには1000 tonクラス以上の大型引張試験機が必要であり,また,多大な試験コストや工期を要するため,鋼板の大量生産時の品質保証試験には適さない。そこで,これらに代わる各種の小型試験が提案され,大型試験によるKcaとの対応関係について検討されてきた。例えば,CCA(Compact Crack Arrest)試験は,一定温度のもとで剛性の高い楔負荷を行うことによりき裂を発生させ,変位一定でき裂を進展させる試験であり,ASTMで規格化されている7)。別の評価方法として,NRL落重試験(米国Naval Research Laboratoryにて開発)8),DWTT(Drop Weight Tear Test)試験9),テーパ型DCB(Double Cantilever Beam)試験10)等が挙げられ,ESSO試験との対応が検討されている。

さらに小型の評価試験として,シャルピーサイズの試験片を用いた検討も従来から数多く行われてきた。一般的に行われる2 mmVノッチシャルピー試験は,主に脆性き裂の発生特性を評価する方法とされる11)。そこで,アレスト性を評価するため,脆性き裂を発生させやすくする種々の工夫がなされ,一定の効果があることが確認された。例えば,プレスノッチ12),疲労ノッチ,電子ビーム加熱と機械ノッチまたは疲労ノッチの組み合わせ13)等である。

著者らは近年,アレスト鋼の工業生産・出荷に対応するため,板厚40~100 mm,YP 390~460 N/mm2級の実機鋼板を用いて,各板厚部位から採取した小型試験結果とESSO試験結果との相関を調査し,表層のNRL落重試験とt/4(t:板厚)部のVノッチシャルピー試験の組み合わせによりアレスト性を評価できることを見出し,アレスト性合否判定基準として確立した14,15)。しかし,上記はあくまでも現行の実機鋼板をベースとしており,成分系や製造プロセスが大きく異なる鋼板にも適用できるとは限らない。また,NRL落重試験では加工の途中で脆化ビードを置く工程が必要であり,工期短縮の効果は限定的である。したがって,鋼板の成分や製法に限定されず,機械加工のみで試験片を採取し,既存のシャルピー試験機を用いて簡便にアレスト性を評価できる方法に対するニーズは依然として大きい。

そこで著者らは,Vノッチの底を山形にしたシェブロンノッチシャルピー試験片を考案した16)。本報では,実験室および工場で試作した種々の鋼板を用いて,上記試験によるアレスト性の簡易評価の可能性について検討した結果を報告する。

2. 実験方法

2・1 板厚25 mm材を用いた特性評価

本研究ではまず,実験室溶解・圧延によりアレスト性の異なる複数の鋼板を製造し17),温度勾配型ESSO試験と各種ノッチ形状のシャルピー試験を実施して,特性の比較を行った。供試鋼の化学成分は0.11%C-0.3%Si-1.4%Mn-0.008%P-0.003%S-0.01%Nb-0.01%Ti-0.03%Al-0.004%N(ここでは,mass%を%と略記)であり,これをベースとしてNi量を0~1%の範囲で変化させた。真空溶解により溶製した150 kgの鋼塊を1150°Cで90 min(5.4 ks)加熱後,1000°C以上の温度で粗圧延を行った後,種々の温度,累積圧下率で制御圧延 (CR:Controlled Rolling)を行い,板厚25 mm,幅320 mmの鋼板を製造した。圧延後は加速冷却(ACC:Accelerated Cooling)を行い,室温まで冷却した。同一成分系では母材強度がほぼ一定となるように,15 min(900 s)の焼戻し処理の温度を調整した。結果として,鋼AはYP 390 N/mm2級,鋼Bおよび鋼CはYP 460 N/mm2級となった。Table 1に供試鋼の化学成分と製造条件を示す。ここで,CR温度は,放射温度計を用いて測定したCR開始時の表面温度とし,CRの1パス当たりの圧下率は約15%とした。

Table 1. Chemical compositions (mass%) and manufacturing conditions of the steels tested.
SteelChemical comp.CRTemperingAr3
(°C)
Ni
(%)
Ceq
(%)
Temp.
(°C)
Reduction
(%)
Temp.
(°C)
A100.3485050550720
A200.3495050620680
A300.3478050550730
A400.3585075550730
A500.3578075570750
B0.490.3785050550690
C10.990.4185050550670
C20.990.4195050620630
C30.990.4178050550680
C41.010.4185075550670
C51.010.4178075570690

Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5

鋼板のt/4部から圧延方向(RD:Rolling Direction)にVノッチ,プレスノッチ,シェブロンノッチシャルピー試験片を採取し,板厚方向にノッチを導入して試験に供した。Vノッチおよびシェブロンノッチシャルピー試験片の形状をFig.1に示す。シェブロンノッチの断面積はVノッチと等しいが,切欠き底の応力集中度を高めることで,脆性き裂を発生させやすくしている。アレスト性の評価には,標準的なESSO試験片と同一のノッチ形状を有し,幅だけが300 mmである小型のESSO試験片を採取して,各供試鋼につき3~5体の試験を行った。アレスト性指標としてKcaが4000または6000 N/mm1.5となる温度(TKca4000TKca6000)を求めた。WES 2815によれば,推奨試験片幅は350~1000 mmで,温度勾配は0.25~0.35 °C/mmとされる。300 mm幅で推奨温度勾配を適用すると,試験が困難となる可能性がある(き裂伝播したときの応力拡大係数K値の変化が,材料のアレスト性の温度依存性に近く,条件をうまく選定しないとアレストしにくい)ため,本研究では温度勾配を0.4~0.7 °C/mm程度と大きめに設定した。試験片幅を300 mmとしたことによるKcaへの影響は不明であるが,温度勾配を大きくするとKcaは低めに評価される6)

Fig. 1.

Shapes of V-notch and chevron-notch Charpy test pieces.

また,Vノッチおよびシェブロンノッチシャルピーの破壊挙動を,き裂の発生と伝播特性の観点から定量的に評価する目的で,計装化シャルピー試験機(東京試験機製作所製,ACIEM-50-S)を活用した。これは,衝撃ハンマーに装着されたロードセルを通じてハンマーが受ける荷重の時間波形と,レーザ変位計から変位の時間波形を同時に取得することができ,これらを合成することによって荷重−変位曲線を求めることができる。供試鋼は,0.09%C-0.1%Si-1.6%Mn-0.01%P-0.003%Sを主成分(Ceq:0.42%)とする連続鋳造スラブを用いて,実験室圧延機によりCR温度850°Cまたは 950°C,累積圧下率50%の条件で製造したYP 460 N/mm2級の25 mm材である。圧延後は室温までACCを行い,550°Cで15 min(900 s)の焼戻し処理を施した。Ar3は小型シミュレータ試験の結果から670~700°Cと推定された。鋼板のt/4部からRD方向に試験片を採取し,板厚方向にノッチを入れて,種々の温度で計装化シャルピー試験を行った。

2・2 板厚60~70 mm材を用いた特性評価

実際のコンテナ船に適用される鋼板は板厚が50 mm程度以上であるため,連続鋳造スラブを用いて実験室圧延機で板厚60 mmのYP 390 N/mm2級鋼板を製造して,通常の引張,Vノッチシャルピー試験に加え,シェブロンノッチシャルピー試験とESSO試験を実施した。また,厚板工場で60~70 mmのYP 390 N/mm2級鋼板を試作して,同様の試験を実施した。供試鋼の代表成分をTable 2に示す。鋼D1~D9,E1,E2は実験室で製造した板厚60 mm,鋼D10~D16は工場で試作した60 mm,F1~F8は工場試作の70 mm鋼板である。実験室での製造条件は,1100°Cで90 min(5.4 ks)加熱,1000°C以上で粗圧延を行い,表面実測温度760°Cから累積圧下率50%,1パス当たりの平均圧下率9%でCRを行い,室温までACCを行った後,530°Cで15 min(900 s)の焼戻し処理を施すプロセスをベース(鋼D2)とした。鋼D1,D3,D4はCR開始温度を730,800,840°C,D5,D6はCR累積圧下率を60,40%,D7は焼戻しなし,D8,D9は焼戻し温度を430,630°Cと変化させた。鋼E1,E2はCRの開始を760°C,累積圧下率を60,50%として,その半分を700°C開始の二相域圧延(ICR:Inter-Critical Rolling)とした。

Table 2. Typical chemical compositions of the steels tested (mass%).
SteelCSiMnPSothersCeqAr3
D1~160.090.251.500.0080.003Cu, Ni, Nb, Ti, B0.37715°C
E1,20.080.201.440.0060.002Cu, Ni, Nb, Ti, B0.34730°C
F1~80.090.231.540.0080.002Cu, Ni, Nb, Ti0.38710°C

Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5

厚板工場における製造条件は,1100°C以下の温度域に加熱して,粗圧延,CRを行った後,400°C以下の温度までACCを行い,一部は550°C以下の温度で15 min程度の焼戻し処理を施した。CR開始温度(表面実測)は730~800°C,累積圧下率は50~60%の範囲で変化させた。1パス当たりの圧下率は7~10%であり,CR終了温度はいずれもAr3変態点以上である。

各鋼板のt/4,t/2部からRD方向にシェブロンノッチシャルピー試験片を採取し,板厚方向にノッチを入れて,試験に供した。実験室60 mm材に限り,表層の黒皮を除去した位置からも同様の試験片を採取して試験を行った。実験室材は幅が320 mm程度であったため,前述の25 mm材と同様に300 mm幅の標準ESSO試験片を採取し,同じ要領で試験を行った。工場試作材からは500 mm幅のESSO試験片を採取して,WESの推奨条件で試験を行った。また,光学顕微鏡,SEM-EBSDを用いて,各板厚位置におけるRD,TD(Transverse Direction)垂直断面のミクロ組織と集合組織を調査した。

3. 実験結果および考察

3・1 板厚25 mm材の各種シャルピー試験とESSO試験結果の対応

ESSO試験結果の例として,Fig.2に鋼A1,A2,A5,およびC1の破面写真を示す。強CR条件で製造した鋼A5の一部でスプリットネイル状の破面形態が確認されたが,その他はすべてサムネイル状であった。シャルピー試験結果の例として,Fig.3に鋼A4の吸収エネルギー,脆性破面率の遷移曲線を示す。プレスノッチやシェブロンノッチは,脆性破壊の発生が容易となるようにすることで,き裂伝播停止特性の差を抽出することを狙ったものである。しかしながら,どちらも脆性破面率が0%となる場合があり,伝播停止特性を評価する際には不適当と判断した。そこで,解析に当たっては脆性破面率が0%のデータ(Fig.3(c)~(f)中の塗りつぶしデータ)を除外したうえで,tanh関数で遷移曲線を近似した。プレスノッチ試験片で得られた吸収エネルギーは10~100 J程度と狭い範囲に限られており,脆性破壊が発生せずに解析から除外したデータの割合が40%以上あった。本供試鋼は,プレスでは十分に脆化できなかったものと思われる。それに対して,シェブロンノッチ試験片による吸収エネルギーは20~200 J程度と,プレスノッチよりも広い範囲に分布しており,除外データの割合は30%未満であった。シェブロンノッチ特性の鋼種比較を行うため,CR条件の異なるA1,A2,A5,および,Ni量の異なるA1,B,C1のエネルギー遷移曲線をFig.4に示す。CR温度が低く,累積圧下率が大きいものほど遷移曲線が低温側に位置していることがわかる(Fig.4(a))。また,Ni添加量が増えるほど,低温(例えば−80°C)における吸収エネルギー値が増加する傾向が認められる(Fig.4(b))。

Fig. 2.

Examples of fracture appearance of the ESSO tests for the steels A1, A2, A5 and C1 (ESSO specimen width: 300 mm).

Fig. 3.

Charpy transition curves obtained from (a),(b) V-notch, (c),(d) pressed-notch and (e),(f) chevron-notch Charpy test pieces for the steel A4. Solid plots indicate completely ductile fracture (crystallinity=0%); therefore, they are excluded for drawing transition curves.

Fig. 4.

Chevron-notch Charpy absorbed energy transition curves for specimens with (a) different CR conditions and (b) different Ni contents.

次に各種シャルピー試験の評価指標とアレスト性指標TKca6000との対応を調査する。Vノッチの指標は,JIS規格にしたがい脆性破面率が50%の温度(vTrsと表記)とした。プレスノッチは,本供試鋼における吸収エネルギーの全データの平均値が29 Jであったことから,遷移曲線上で20,30,40,50 Jを示すときの温度を求め,TKca6000との相関が最も良くなる40 Jのときの温度を遷移温度(pT40J)とした。シェブロンノッチの場合(平均値75 J)も同様にして,エネルギーが70 Jとなる温度を遷移温度(cT70J)とした。そのときの脆性破面率は70%程度であり,後でFig.7(b)として示す破面と比較して,山形部,側端部および下端部の延性領域が小さい破面に相当する。

各供試鋼の遷移温度とTKca6000との関係をFig.5に示す。前述したように,ここで示すTKca6000は,標準試験片により求めた値とは異なる。この図から,シェブロンノッチシャルピーによるcT70JTKca6000の相関が最も良好であることがわかる。Vノッチは脆性き裂の発生特性の評価に用いられ,vTrsは結晶粒径に加えて介在物やMA(Martensite-Austenite constituent)等の脆化相,偏析等,脆性破壊の起点になるものの影響を反映するとされる。それに対してアレスト性は,それらの影響を受けにくいとされ,cT70JTKca6000の相関が良好であることは,シェブロンノッチがアレスト性の評価に適していることを示唆するものと考えられる。プレスノッチシャルピーのデータは少ないが,これを考慮した自由度調整済決定係数(R2)が最も小さかったこと,および,脆性破壊が発生しなかった試験片の割合が,シェブロンノッチよりも大きかったことから,アレスト性の評価には不適切と考えられる。そこで,以降の検討対象からは除外した。

Fig. 5.

Relationship between TKca6000 and Charpy transition temperatures for the steels A, B and C (ESSO specimen width: 300 mm).

3・2 計装化シャルピー試験結果に及ぼすノッチ形状の影響

計装化シャルピー試験により得られた荷重−変位曲線を積分することで吸収エネルギーが求められる。こうして算出したエネルギーと,ハンマーの最大上昇角度から求めたエネルギーは,Vノッチ,シェブロンノッチともにほぼ一致することが確認された。−100°C,−120°CにおけるVノッチ,シェブロンノッチシャルピーの荷重−変位曲線の例をFig.6に示す。2種類の供試鋼のうち850°CでCRを行ったものをCR,950°Cで行ったものをOR(Ordinary Rolling:普通圧延の意味)と表記した。

Fig. 6.

Typical load-displacement curves of instrumented Charpy impact test obtained from 0.09%C-0.1%Si-1.6%Mn steel plates.

CRとORの差に着目すると,いずれもCR材の吸収エネルギーの方が大きいことがわかる。また,荷重−変位曲線の形状にはノッチ形状による差異が明らかに見られ,シェブロンノッチでは初期の急激な荷重ピークと,それ以降の比較的緩やかなピークが認められる。試験後の破面外観の例をFig.7に示す。シェブロンノッチでも切欠き山形部の少し下から脆性き裂が発生している様子が見られることから,荷重−変位曲線で見られる最初のピークは脆性き裂発生までに吸収したエネルギーに対応するものと考えられる。

Fig. 7.

Examples of fracture surface of (a) V-notch and (b) chevron-notch Charpy specimens obtained from 0.09%C-0.1%Si-1.6%Mn steel plates rolled at 850°C and tested at –100°C. (Online version in color.)

Vノッチの場合,荷重が上昇してピークを経た後急激に低下し始める点までが脆性破壊の発生に対応し,荷重急減後緩やかな低下に戻る点が脆性破壊の伝播と停止に相当するとの報告がある11)。そこで本研究では,荷重の急激な低下が緩やかになる点までのエネルギーを発生エネルギー(Ei),それ以降を伝播エネルギー(Ep)と定義して解析を行った。一方,シェブロンノッチについては従来知見がないため,最初のピークに相当するエネルギーをEi,それ以降のエネルギーをEpとした。EiEpの分離の実例をFig.8に示す。Epは脆性き裂が停止した後の最終リガメントの延性破壊エネルギーに対応し18),正確には延性き裂伝播エネルギーと呼称すべきものである。ただし,アレスト性が良好で,脆性き裂が短い距離で停止すれば,残りのリガメントの延性破壊に要するエネルギーが増加するので,今回定義したEpは間接的にアレスト性を反映するものと考えられる。本研究ではEpに着目して議論する。

Fig. 8.

Separating method of absorbed energy into crack initiation energy (Ei) and post propagation energy (Ep) for V-notch and chevron-notch Charpy tests, respectively (0.09%C-0.1%Si-1.6%Mn steel).

今回調査した全サンプルについてエネルギーの分離を行い,Epと全エネルギー(Et)との対応をプロットした結果をFig.9に示す。VノッチではEtの大部分をEiが占めており,Epの割合はわずかである。一方,シェブロンノッチではEtに対するEiの割合が小さく,70%程度以上をEpが占めている。したがって,シェブロンノッチシャルピーはVノッチシャルピーと比べて脆性破壊発生特性の影響を受けにくいといえる。

Fig. 9.

Relationship between total absorbed energy (Et) and post brittle fracture energy (Ep) of steels processed by controlled rolling (CR) and ordinary rolling (OR).

これを裏付ける例として,板厚60 mmの実験室材で焼戻し条件を変化させた鋼D2,D7~D9のt/4部から採取した引張試験,Vノッチおよびシェブロンノッチシャルピー試験,小型ESSO試験の結果をFig.10に示す。焼戻しなし(ACCまま)材は引張強度(TS)が高く,焼戻し温度とともにTSは低下する。vTrsは焼戻しなしに対して430°Cで急激に低温化し,焼戻し温度とともに緩やかに下がる。これは,ACCにより生成した5%程度のMAが430°Cの焼戻しにより分解したこと,および530°C以上ではTSが低下したことによるものと考えられる。一方,cT70Jは熱処理条件によらずほぼ一定であり,小型ESSOによるTKca4000の挙動と対応することがわかる。

Fig. 10.

Effect of tempering condition on TS, vTrs, cT70J at t/4 thickness and TKca4000 for the steels D2, D7~D9 produced in the laboratory (ESSO specimen width: 300 mm).

アレスト性を既存のシャルピー試験機により簡易に評価するためには,脆性き裂発生特性の除外と伝播距離の確保が重要であると考えられる。前述したように,発生特性除外の程度はVノッチよりもシェブロンノッチシャルピーの方が大きい。また,伝播距離もシェブロン部があることで2.5 mm長くなっている。これがシェブロンノッチシャルピーの妥当性を示す根拠として十分かどうかは議論の余地があるが,Vノッチシャルピーよりも適しているとはいえよう。

3・3 板厚60 mm実験室材の特性評価結果

実験室で製造した板厚60 mm材のうち,CR開始温度を変化させた鋼D1~D4,および累積圧下率を変化させた鋼D5,D6,E1,E2の各板厚部位から採取したシェブロンノッチシャルピーのcT70Jと小型ESSOによるTKca4000との関係をFig.11に示す(後述の理由によりE1,E2を除いて回帰)。図中にはt/4とt/2部のcT70Jを平均した値も示した。

Fig. 11.

Relationship between TKca4000 and cT70J of each thickness position and average of t/4 and t/2 for the steels D1~D6, E1 and E2 produced in the laboratory (ESSO specimen width: 300 mm). Regression lines are drawn without the steels E1 and E2 rolled in inter-critical region.

製造条件によるアレスト性の変化に着目すると,CR開始温度が低く,累積圧下率が大きいほどTKca4000は低温となっている。ICR材E1,E2は,条件の近いD5,D2と同等のアレスト性を示すことがわかる。cT70JTKca4000との相関に目を向けると,t/4,t/2部については正の相関が認められる。ただし,ICR材のcT70Jは高い傾向にある。一方,表層部について見ると,全体としてはほとんど相関が見られない。ICR材のcT70Jは明らかに低く,これは集合組織の影響と考えられる(後述)。累積圧下率を変化させた鋼D2,D5,D6については正の相関が認められるが,CR温度を変化させた鋼D1~D4では逆相関となっている。高温CRを行ったD3,D4の表層特性が良好である原因は,一般に高Ceq鋼で表層cT70Jが低温になる傾向があることから,表層部に微細な下部ベイナイトが生成した可能性が考えられる。一方,低温CR材D1,D2の表層下1 mmでは,仕上温度が部分的にAr3変態点以下となって生成したと考えられる粗大なフェライトが確認されており,これが影響した可能性がある。しかしながら,最表層部を含めた詳細な組織調査は行っておらず,詳細は不明である。

鋼D1,D4,E1の小型ESSO試験片の破面写真の例をFig.12に示す。停止したき裂前縁の形状はD1,D4ではサムネイル状であるが,E1では若干スプリットネイル状になっていることに加え,表層部に厚いシアリップが認められる。上記供試鋼の各板厚位置における光学顕微鏡ミクロ組織,およびEBSD粒界マップ(方位差≧15°)をFig.13Fig.14に示す。低温でCRを行った鋼D1の方がD4よりも細粒組織である。ICRを行った鋼E1は,D4と比べても粗大な組織であることがわかる。それにもかかわらず鋼E1のアレスト性は良好であることから,集合組織の影響が予想される。

Fig. 12.

Examples of fracture appearance of the ESSO tests for the steels D1, D4 and E1 produced in the laboratory (ESSO specimen width: 300 mm).

Fig. 13.

Optical microstructures of the steels D1, D4 and E1 (TD cross section).

Fig. 14.

Grain boundary maps of the steels D1, D4 and E1 (RD cross section; Misorientation≧15°).

同供試鋼の各板厚位置における集合組織を表す結晶方位分布関数(ODF:Crystallite Orientation Distribution Function;Bunge表示,φ2=45゜断面)をFig.15に示す。t/2部は圧縮ひずみを受けた加工オーステナイトから変態したときの典型的な集合組織を呈しており,{112}~{113}〈110〉と{332}〈113〉の集積度が高い19)。これらの方位は,Fig.15の右側に立方体で示すように,き裂伝播方向であるTDにへき開面である{100}面が配置しないため,き裂は直進しにくい(すなわち,アレストには有利である)と考えられる20)。t/4部の集合組織はランダムに近いが,{001}〈010〉,{110}〈001〉への集積が若干見られることからわかるように,t/2部と比べるとき裂は直進しやすい。表層部については明らかな鋼種差が見られ,ICR材E1はt/2と類似のODFであった21)のに対し,D1,D4はt/4と同様に比較的ランダムであった。したがって,E1のアレスト性向上は,表層部のアレストに有利な集合組織,さらに板厚方向の顕著な集合組織の分布が影響したものと推察される。

Fig. 15.

Crystallite orientation distribution functions of the steels D1, D4 and E1 (Bunge; φ2=45°).

以上から,ICR材のアレスト性決定機構は通常のCR材とは大きく異なることが示唆され,シェブロンノッチ特性で同列に整理することは難しいように思われる。ここであらためてFig.11を見ると,t/4,t/2部のcT70J,あるいはこれらの平均とTKca4000の相関は,ICR材を除くことで良好となり,t/4,t/2の平均値の場合でR2は0.7から0.9に向上する。

3・4 板厚60~70 mm実機材の特性評価結果

工場で製造した板厚60,70 mm材のt/4およびt/2部から採取したシェブロンノッチシャルピーのcT70J平均値と標準ESSO試験により求めたTKca6000との関係をFig.16に示す。シャルピー,ESSOともに10°C程度以内の誤差は避けがたいことを考えれば,両者の相関は良好といえる。Fig.16中に符号を示した供試鋼について,ESSO試験片の破面写真,およびt/4,t/2部の光学顕微鏡ミクロ組織をFig.17Fig.18に示す。アレスト性の良好な鋼F4の破面のt/2部には顕著な凹凸が見られ,停止き裂前縁はスプリットネイル状である。鋼D13ではt/2のき裂進展が若干抑制されたようにも見えるが,サムネイル形状に近い。アレスト性の低い鋼D15は典型的なサムネイル形状である。ミクロ組織を比較すると,鋼F4が最も微細である。また,同一成分でもCR温度の高い鋼D15の方がD13よりも粗大な組織を呈している。

Fig. 16.

Relationship between TKca6000 and average of cT70J of t/4 and t/2 thickness position for the steels D10~D16 and F1~F8 produced in the plate mill (ESSO specimen width: 500 mm).

Fig. 17.

Examples of fracture appearance of the ESSO tests for the steels F4, D13 and D15 produced in the plate mill (ESSO specimen width: 500 mm).

Fig. 18.

Examples of optical microstructures for the steels F4, D13 and D15 produced in the plate mill (RD cross section).

3・5 シェブロンノッチシャルピー特性の支配因子と厚手材のアレスト性簡易評価方法

板厚25 mm材(鋼A,B,C)では,ESSO試験片の破面単位(有効結晶粒径に相当するものと推定)が小さいほどアレスト性が良好であることを前報で報告した17)。本研究においてシェブロンノッチシャルピーとESSO特性との相関が確認されたことから,シェブロンノッチシャルピー特性と破面単位との相関も予想される。そこで,t/4部の破面単位(dF)の−1/2乗とcT70Jの相関をFig.19に示す。強CRで表層部が二相域となった鋼A5を除くと,Ni添加量毎にほぼ等しい勾配の直線関係で整理でき,前報の結果とも整合することがわかる。鋼A5が上記相関から逸脱している原因は次のように考えられる。板厚25 mmの鋼板のt/4部からシャルピー試験片を採取すると,必然的に表下1 mmからt/2部近傍までを含むことになる。鋼A5は,他の鋼と比べて板厚方向に強い集合組織分布が生じたことを確認しており,そのために破面単位の割にcT70Jが良好となったものと推察される。この集合組織分布の影響について詳細は不明であるものの,シェブロンノッチシャルピーは有効結晶粒径およびNiの影響を評価できる試験法であるといえる。

Fig. 19.

Relationship between dF–1/2 and cT70J for the t/4 portion of 25 mm thick plates (steel A1~A5, B and C1~C5).

実験室で製造した板厚60 mm材(鋼D1~D6,E1,E2)についてはESSO試験片の破面単位測定は実施していないため,EBSDにより測定した粒径を用いてシェブロンノッチシャルピー特性との相関を調査した。鋼板の表層,t/4,t/2部のcT70JとEBSD粒径 (dEBSD)との関係をFig.20に示す(E1,E2を除いて回帰)。ここでは,方位差≧15゜を粒界の条件として,最小粒径を5 pixel(今回の測定条件では円相当径で約2.3 μm)としたときの算術平均をdEBSDとした。回帰したデータに着目すると,表層部のcT70Jの変化はdEBSDでは説明できない。t/4,t/2部については,概ね細粒ほどcT70Jが低温化する傾向が認められる。t/4とt/2を比較すると,結晶粒の大きい領域では差が小さいが,細粒域ではt/4に対してt/2のcT70Jが低温化することがわかる。この原因は,Fig.15で示したように,集合組織の影響と解釈される。ICR材E1,E2に着目すると,明らかに集合組織が異なる表層部はもとより,t/4部やt/2部でのcT70Jも直線より低温側に位置している。集合組織の関与は確実であろうが,この原因を解明するためにはさらなる調査が必要である。以上から,EBSD粒径と有効結晶粒径の対応は不明確であるものの,厚手材の内部から採取したシェブロンノッチシャルピーのcT70Jは粒径と集合組織の影響を反映した指標と考えられる。ただし,集合組織の影響の定量化は今後の課題である。

Fig. 20.

Relationship between dEBSD–1/2 and cT70J of each thickness position for 60 mm thick plates produced in the laboratory (steel D1~D6, E1 and E2). Regression lines are drawn without the steels E1 and E2.

上記を踏まえて,厚手材の全厚特性であるアレスト性を各板厚位置から採取した小型試験で評価する手段について考察する。鋼板表面付近は応力3軸度が低いので,脆性破壊が生じにくい。板厚の内部で脆性き裂が先に伝播し,表面付近が破断せずにリガメントとして残り,この部分が内部のき裂伝播の駆動力を低下させることで,き裂伝播を抑制する。その結果,き裂が停止したときの形状は一般的にサムネイル状になる。リガメントは最終的に延性破壊により破断して,破面上にシアリップとして残る。今回のICR材や,特殊な製法により表層部のみを細粒化した鋼板22)では,き裂伝播初期から厚いシアリップが形成され,アレスト性が大幅に向上する場合がある。

ここで,アレスト性支配因子(ただしNiは除く)の各板厚位置における寄与を考える。一般的に有効結晶粒径は表層部で小さく,板厚内部ほど大きくなり,板厚方向の粒径分布は連続的になると考えられる。したがって,冷却条件の影響を受けやすい表層部,板厚方向の平均温度に近いt/4部,最高温度に相当するt/2部の3層に分けて特性を評価するのが,汎用性と簡便性の観点から合理的と考えられる。

一方,集合組織はFig.15に示したように,t/4とt/2で大きく異なり, 強CR材のt/2部ではき裂進展が抑制されるためにスプリットネイル状になるものと考えられる。表層部については,ICR材でt/2部と同様の集合組織が発達し,これがシアリップ形成に寄与したものと推察される。表層からt/4,およびt/4からt/2の間の集合組織はほぼ連続的に変化しており,特異な領域は見られないことから,集合組織の観点からも表層,t/4,およびt/2部の特性を評価する必要がある。

ただし,表層部については,粒径分布が変動しやすくシェブロンノッチ特性との相関が不明瞭であり,集合組織がどの程度影響しているかも不明である。ICR材の表層シェブロンノッチ試験片の破面は未確認であるが,シアリップを再現するには伝播距離が足りない可能性もある。したがって,現時点ではICR材を対象外として,t/4,t/2部のシェブロンノッチ特性の組み合わせによりアレスト性を評価するのが現実的な手段と考えられる。今後は,厚手材のアレスト性に及ぼす表層部の影響を定量的に評価するとともに,各部位の特性を組み合わせる手段についても検討する必要がある。実験的には困難が予想されるが,最近では結晶粒スケールの脆性き裂伝播現象をモデル化し,実鋼板スケールのき裂伝播・停止挙動を再現する取り組み23)が行われており,この方面からのアプローチが期待される。

4. 結言

アレスト性の簡易評価法の確立を目的に,実験室で製造した板厚25 mm,および60 mm材,工場で製造した60~70 mm材を用いて,各種シャルピー試験(Vノッチ,プレスノッチ,シェブロンノッチ)適用の可能性を検討した結果,以下の結論を得た。

(1)プレスノッチでは脆性破壊が発生しない割合がシェブロンノッチよりも高く,プレスノッチシャルピーの遷移温度とESSO特性の相関も良くなかった。脆性破壊発生特性の評価に用いられるVノッチシャルピーでも,遷移温度とESSO特性の相関が確認されたが,シェブロンノッチシャルピーの遷移温度とESSO特性との相関の方が良好であった。

(2)計装化シャルピー試験機を用いたVノッチ,シェブロンノッチシャルピーの吸収エネルギーの解析結果から,シェブロンノッチでは脆性き裂の発生エネルギーの割合が低く,アレスト性を効果的に抽出できるものと推定された。

(3)シェブロンノッチシャルピー特性はNi量,有効結晶粒径,集合組織の影響を反映するもの推定された。アレスト性に及ぼす表層部の寄与は不明確であるが,板厚内部のシェブロンノッチ特性を組み合わせることによって,板厚60~70 mm材(表層部特性が大きく影響する二相域圧延材は除く)のアレスト性を簡易的に評価できる可能性がある。

文献
 
© 2018 The Iron and Steel Institute of Japan

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