Tetsu-to-Hagane
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Transformations and Microstructures
Continuous Cooling Transformation Characteristics of Ti-5Al-2Fe-3Mo
Yoshitsugu TatsuzawaTomonori Kunieda Hideki Fujii
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2018 Volume 104 Issue 4 Pages 235-241

Details
Synopsis:

To investigate basic characteristics of the phase transformation that strongly affects mechanical properties in a high-strength β-rich α+β type titanium alloy, Ti-5Al-2Fe-3Mo, microstructures of the specimens continuously cooled from the β region at various cooling rates were examined.

Vickers hardness at room temperature sharply increased with increase of cooling rates in the specimens cooled at cooling rates lower than 20°C/s, reached the maximum value of 477 HV at 20°C/s and decreased with increase of cooling rates higher than 50°C/s.

At the cooling rates higher than 50°C/s, the α″ phase (orthorhombic martensite phase) laths of 0.1 to 0.5 μm in width were formed. Meanwhile, the grain boundary α phase and the side-plate α phase were formed in the specimens cooled to room temperature at 20°C/s. In the specimens cooled at 5 to 50°C/s, the black plate type of the α phase was formed. TEM observation revealed that the black plates have hcp crystalline structure and very fine (0.05 to 0.2 μm in width) compared with the α″ phase in the specimens cooled at 50°C/s or higher cooling rates. In addition, the extremely fine acicular hcp phase of 50 nm or less in width was also formed at the area where the black plates were not formed. It is considered that the above fine microstructures led to quite high Vickers hardness of around 477 HV.

The formulated continuous cooling transformation diagram indicated that Ti-5Al-2Fe-3Mo is excellent in hardenability and thermal processability, suggesting that the alloy has a lot of advantages industrially.

1. 背景

near βα+β型チタン合金のTi-5mass%Al-2mass%Fe-3mass%Moは,Ti-5mass%Al-1mass%FeやTi-5mass%Al-2mass%FeなどのTi-Al-Fe系合金にβ安定化元素であるMoを3mass%添加することで,最汎用α+β型チタン合金のTi-6mass%Al-4mass%Vを上回る強度特性,疲労特性を付与した,高コストパフォーマンスのチタン合金である13)。2000年代初頭に開発されて以降,これらの特性を活用することで,二輪車や一部高級四輪車の吸気エンジンバルブ等に使用されており3),今後のさらなる用途拡大が期待されている。また,Ti-5Al-2Fe-3Moは上記の特徴に加え,熱処理性にも優れ,熱処理条件により様々な高機能特性を付与するこができる4,5)。例えば,α+β二相高温域で溶体化処理後,急冷することで,焼鈍材に比べ著しく低い0.2%耐力(400~600 MPa,焼鈍材:約950 MPa),高引張強度(1200~1400 MPa,同:約1050 MPa),β合金並みの低ヤング率(約80 GPa,同:約115 GPa)を発現させることができる4,5)。さらに最近では,溶体化処理後に加工し300~450°Cで保持することで加工方向に形状が変化する特異形状変化や,同温度で極短時間保持することで500 HV以上(焼鈍材:約330 HV)に硬化する高速時効硬化などの特性も発現させることができることが報告されている68)。しかし,このような優れた特性を発現させるためには,比較的狭い条件範囲で適切な加工・熱処理を行う必要があり,特にこれらの高機能特性を発現させる要因となる相変態特性を詳細に把握することは,工業的に極めて重要である。そこで,相変態特性の中でも特に基本的で加工熱処理の工程設計に多用されるβ単相域からの連続冷却変態特性を調査し,β処理組織に及ぼす冷却速度の影響を検討した。

2. 実験方法

消耗電極式真空アーク溶解炉で2回溶製したTi-5Al-2Fe-3Moの200 kg鋳塊を用い,熱間鍛造により直径100 mmのビレット形状とした。その後,β域に加熱し圧延することで,直径13 mmの丸棒とし,これを供試材とした。供試材の化学組成をTable 1に示す。本合金のβ変態点は約955°Cである1)

Table 1. Chemical composition of a material used (mass%).
Ti Al Fe Mo O C N H
Balance 5.1 2.0 3.0 0.18 0.002 0.003 0.0025

供試材から直径3 mm,長さ10 mmの円柱状試験片を,長さ方向が圧延方向と平行になるように切り出し,フォーマスタ試験機(富士電波工機,FTM-100)を用いてFig.1に示す熱処理を行った。熱処理は,真空雰囲気にて,β変態点以上の1000°C,20 minの溶体化処理後,試験片にHeガスを吹き付けることで0.5~300°C/sの一定の冷却速度で室温まで冷却した(Fig.1 (a))。また,連続冷却中の組織変化を調査し,連続冷却変態線図に反映させるため,溶体化処理後,600~900°Cまでの途中の温度まで冷却した後,Heガス急冷(HeQ)し組織凍結する熱処理も行った(Fig.1(b))。

Fig. 1.

Heat treatment patterns. The β transus (Tβ) is around 955°C1).

熱処理後の試験片について,光学顕微鏡観察,透過型電子顕微鏡(TEM)観察,X線回折(CuKα),ビッカース硬度測定により組織解析を行った。硬度測定は,荷重5 kgfで3点測定し,その平均値を求め,ばらつきが大きい場合は,1 kgfの荷重で測定点数を5点増やし,その平均値を求めた。光学顕微鏡観察およびX線回折はL断面を,TEM観察ではTおよびL断面を対象に実施した。TEM観察用の薄膜試料は,90 ml過塩素酸+360~525 mlブタノール+900 mlメタノール混合液を用いて,約−35~−30°Cで電解研磨することで作製した。本合金は,他のα型やnear α型のα+β型チタン合金と同様,β相からα相への変態時に体積変化が小さく,フォーマスタ試験機で検出される試料長変化のみでは変態開始点の測定が困難な場合もあった。そのため,試料長変化のほか,熱分析や凍結組織観察の結果を総合して,変態開始点を判定した。

3. 実験結果

3・1 連続冷却後の室温硬度

Fig.2β域から室温まで各冷却速度で冷却した試料の室温での硬度測定の結果を示す。比較のため,同じα+β型チタン合金であるTi-5Al-1Fe9),Ti-6Al-4V10,11),Ti-6mass%Al-6mass%V-2mass%Sn(CuおよびFeをそれぞれ0.7mass%含有)10,11)の結果も併せて示す。Ti-5Al-2Fe-3Moの室温硬度は,0.5°C/s冷却材では357 HVであるが,冷却速度の上昇と共に室温硬度も上昇し,20°C/s冷却材では最大硬度値の477 HVまで上昇した。一方,さらに冷却速度が上昇すると室温硬度は低下し,300°C/s冷却材では386 HVであった。Ti-5Al-2Fe-3Moの室温硬度の冷却速度依存性は,Ti-5Al-1FeやTi-6Al-4Vに比べ大きく,本合金と同様にβ安定化元素の含有量が多く焼き入れ性の高いTi-6Al-6V-2Snのそれに近かった。しかし,Ti-6Al-6V-2Snの室温硬度は,高冷却速度域では一定であり,本合金のように中間の冷却速度域で最大硬度を示す挙動は認められていない。

Fig. 2.

Effect of cooling rates on Vickers hardness at room temperature in β heat treated Ti-5Al-2Fe-3Mo. For comparison, the data for Ti-5Al-1Fe,9) Ti-6Al-4V,10,11) and Ti-6Al-6V-2Sn10,11) are also shown.

3・2 連続冷却変態時のミクロ組織変化

Fig.3β域から室温まで各冷却速度で冷却した試料の光学顕微鏡組織を示す。100°C/s以上の高冷却速度で冷却すると,マルテンサイト的な組織を示し,β粒界に析出した板状粒界アルトリオモルフ(粒界α相)は確認されなかった(Fig.3(a),(b))。一方,50°C/s冷却材では,β粒内の大部分はマルテンサイト的な組織であったが,一部で粒界α相(図中のαGB)やそこからβ粒内に生成したサイドプレートα相(同αL)も確認された(Fig.3(c))。このサイドプレートα相は,いわゆるblack plate1214)の形態であり,粒内にも僅かながらblack plateが生成していた。black plateとは,Ti-CrやTi-Vなどの合金を特定の700°C以下の温度で等温変態させた際,変態初期に生成する通常のα相よりも高アスペクト比のα相であり,光学顕微鏡観察時にエッチングにより黒く現出するため,black plateと呼ばれている12)。また,結晶学的にはblack plateは通常のα相と同様に,β相とはBurgarsの方位関係を有し,晶癖面({110}β)も同じである14)。一方で,成長速度は通常のα相よりも1桁近くも速いことが知られている12)

Fig. 3.

Optical micrographs of the specimens cooled from 1000°C to room temperature at the cooling rates of (a) 300°C/s, (b) 100°C/s, (c) 50°C/s, (d) 20°C/s, (e) 5°C/s and (f) 1°C/s.

20°C/s冷却材では,さらに多くのblack plateが観察された(Fig.3(d))。5°C/s以下まで冷却速度を低下させると,Widmanstätten状の針状α相組織を示した(Fig.3 (e),(f))。

Fig.4にマルテンサイト的な組織を示した高冷却速度で冷却した試料のX線回折結果を示す。50~300°C/sの冷却速度で冷却すると,大部分はα”相(底心斜方晶マルテンサイト相)の回折ピークが確認されたが,50および300°C/s冷却材では,β相と推定される回折ピークも確認された。一方,20°C/s冷却材では,hcp相(α相またはα′相(六方晶マルテンサイト相)およびβ相の回折ピークが確認され,高冷却速度の試料に比べ,塑性歪みや組織の微細度と相関のある半値幅は狭かった。

Fig. 4.

X-ray diffraction analysis for the specimens cooled from 1000°C to room temperature at the cooling rates of 20 to 300°C/s.

Fig.5に100°C/sで室温まで冷却した試料のTEM組織を示す。光学顕微鏡観察(Fig.3(b))ではマルテンサイト的な組織であったが,TEM観察では幅約0.1~0.5 μmの微細な針状組織であり,電子回折パターンよりこの針状組織はα”相と確認された(Fig.5(b))。これはX線回折結果(Fig.4)と一致している。また,針状組織内部にはコントラスト差を生じている部分があり,より微細な下部組織を有していることが確認された(Fig.5(c))。この下部組織は極めて微細であり,本研究で行ったTEM観察ではその本質は明らかにできなかった。なお,一部では双晶のような組織形態も観察されたが,電子回折像からは双晶関係は認められず,薄膜試料内厚さ方向の位置関係からこのような組織形態が生じたと考えられる(Fig.5(d))。

Fig. 5.

TEM micrographs of the specimen (transverse section) cooled from 1000°C to room temperature at the cooling rate of 100°C/s. (b) Enlarged image of (a). (c) and (d) Enlarged images of the α″ phase.

Fig.6に20°C/sで室温まで冷却した試料のTEM組織を示す。光学顕微鏡観察(Fig.3(d))ではblack plateが観察されたが,TEMでは約0.05~0.2 μm幅の著しく微細で高アスペクト比の針状プレートからなる組織が生成していた。この針状プレートは,電子回折パターンよりhcp相であることが確認され,その組織の特徴からblack plateであると考えられる(Fig.6(a))。black plateは,周囲のβ相と(0001)[1120]α//(110)[001]βであり,ほぼBurgersの結晶方位関係15,16)を満たしていた。また,black plateの内部には,上記100°C/sで室温まで冷却した場合と同様に,微細な下部組織が観察された(Fig.6(b))。一方,black plateが生成していない領域ではコントラスト差が生じており,この部分では約50 nm以下のさらに微細な針状組織が確認された(Fig.6(c))。電子回折パターンより,この極微細針状組織もhcp相であることが確認され,black plateと同様,周囲のβ相と(0001)[1120]α//(101)[111]βからなるBurgersの結晶方位関係15,16)を有していた。

Fig. 6.

TEM micrographs of the specimen (longitudinal section) cooled from 1000°C to room temperature at the cooling rate of 20°C/s. (a) Black plate type α phase and surrounding area. (b) Enlarged image of black plate type α phase. (c) Extremely fine acicular α phase formed in the area in which black plates do not form.

Fig.7にblack plateを含む領域に対して行った,TEM/EDSによる元素定性分析結果を示す。α安定化元素であるAlの濃度分配は確認されなかったが,β安定化元素であるFeやMoはblack plateに対応する領域で濃度が低下しており,β相や極微細針状組織が生成していると思われる領域の方が高濃度であった。

Fig. 7.

Distributions of Ti, Al, Fe and Mo in the specimen (transverse section) cooled from 1000°C to room temperature at the cooling rate of 20°C/s (TEM/EDS analyses).

Fig.8に20°C/sで600°Cまで冷却した後,Heガス急冷した試料のTEM組織を示す。Fig.6(a),(b)と同様の形態,寸法のblack plateが生成していた。一方,Fig.6(a),(b)に示したような極微細針状組織が形成した際に生じるコントラストは確認できなかった。

Fig. 8.

TEM micrographs of the specimen (transverse section) cooled from 1000°C to 600°C at the cooling rate of 20°C/s and followed by helium gas quenching. (a) Black plates type α phase. (b) Enlarge image of black plate type α phase.

3・3 連続冷却変態線図

Fig.9に試料長の変化,熱分析の結果,および凍結組織の観察結果を総合して作成した連続冷却変態線図を示す。変態温度の測定は,50°C/s以上の冷却速度で冷却した試料ではX線回折でα”相の回折ピークが確認されたため,冷却中の体積収縮および急激な発熱反応を示した温度を変態開始温度とした。一方,20°C/s以下で冷却した試料では光学顕微鏡観察で粒界α相が確認されたため,粒界α相の生成開始温度を変態開始温度とした。

Fig. 9.

CCT diagram of Ti-5Al-2Fe-3Mo. αS; temperature at which phase transformation starts. αL; temperature at which side-plate α phase (lamellar structure) formation starts.

50°C/s以上の高冷却速度では,冷却速度によらずほぼ一定の約180°Cで変態しており,この温度をMS点とした。さらに50°C/s冷却材では,一部で粒界α相およびサイドプレートα相の生成が確認されたため,粒界α相およびサイドプレートα相が生成した後,残部がα”相に変態したと推定し,変態開始曲線のノーズ位置を決定した。0.5~20°C/sの冷却速度で冷却した試料では,凍結組織観察より粒界α相およびサイドプレートα相のそれぞれが確認されており,その観察結果に基づき,粒界α相の生成開始温度(図中のαS)は700~900°C,またサイドプレートα相の生成開始温度(同αL)は600~800°Cとした。

4. 考察

4・1 マルテンサイト生成開始温度

Ti-5Al-2Fe-3MoではMS点が約180°Cであり,一般的なα+β型合金に比べ低い温度であった。そこで,このMS点の妥当性について検討した。純チタンやチタン合金におけるβ相の安定度の指標として,Mo当量([Mo]eq=mass%Mo+0.67×mass%V+2.9×mass%Fe+0.77×mass%Cu−1.0×mass%Al)が提案されている17)。これは,β域から急冷した際にマルテンサイト変態せず室温まで100%のβ相が残留する臨界添加量の逆数を各二元系で求め,Moを1とした場合の係数をかけて一次結合式で表した指標である。一般に,Mo当量が高いほどβ安定度が高く,MS点は低くなる。Fig.10に本合金と他のα+β型チタン合金Ti-5Al-1Fe,Ti-6Al-4V,Ti-6Al-6V-2SnのMo当量とMS点を整理した結果を示す。Ti-5Al-1Fe9)およびTi-6Al-4V10,11)では300°C/sで室温まで冷却した試料の値を用いており,厳密には拡散変態を伴っているが,高冷却速度域ではせん断変態成分が大きく,変態開始温度はほぼ一定であるので911),ここではMS点に準ずる変態点としてこの値を用いた。Fig.10に示すように,MS点はMo当量と良い相関を示しており,約180°CというTi-5Al-2Fe-3MoのMS点は,Mo当量の観点からは妥当と考えられる。

Fig. 10.

Relationship between Mo equivalent17) and MS temperature of Ti-5Al-2Fe-3Mo, Ti-5Al-1Fe,9) Ti-6Al-4V10,11) and Ti-6Al-6V-2Sn.10,11)

4・2 室温硬度と冷却速度の関係

Ti-5Al-2Fe-3Moでは,20°C/s以下では冷却速度の上昇と共に室温硬度は上昇し,20°C/sで最大硬度となり,それ以上の冷却速度では硬度は低下した(Fig.2)。最大硬度を示した20°C/sで冷却した試料では,光学顕微鏡やTEM観察で約0.05~0.2 μm幅の微細なblack plateが多く観察されており(Fig.3(d)Fig.6(a),(b)),本研究で用いた全冷却速度の中で最も微細な組織であった。前述のように,black plateは,特定の温度以下(Ti-6.6at%Crで約620°C)で等温変態させた際に変態初期に生成することが知られており,拡散変態生成相と考えられている13,14)。本研究でも, TEM/EDS分析結果から,変態中にFeやMoなどのβ安定化元素の拡散を伴っていることが示されており,black plateは拡散変態生成物である。Ti-5Al-2Fe-3Moでは,20°C/sの冷却速度ではマルテンサイト変態せず,かつ,β安定度が十分高いため,20°C/sでもα変態開始温度が低く,Fig.9に示したように,大部分のα相がサイドプレートα相生成開始温度以下の600°C付近で変態し,black plateが生成したと考えられる。また,この低温域で生成したためプレートの幅も小さくなったと考えられる。なお,black plateは,微細な下部組織を有していた。このような微細な下部組織の生成要因については,本研究で実施した解析では解明できなかったが,これらの下部組織も室温硬度が高くなった一因であると考えられる。上記に加え,black plate生成領域以外では,さらに微細な約50 nm幅以下の極微細針状組織の形成も確認されている。20°C/sの冷却速度で600°Cまで冷却した試料では,極微細針状組織が確認されていないことから(Fig.8),600°C未満の温度域で生成したものである。近年,本合金において,β相が450°C付近で数nm程度の寸法の極微細hcp相に等温マルテンサイト的な変態をし,500 HV程度に硬化することが指摘されており7,8),本研究においても冷却中に同様の変態が生じ,極微細針状組織が生成し,高硬度値が得られた可能性がある。また,Fig.6ではblack plate内にコントラストが確認された。これは,上記等温マルテンサイト的な変態により生じた大きな変態ひずみを緩和するため,black plate内にひずみが導入されたことを示唆している。

さらに50°C/s以上の高冷却速度では,冷却速度が上がるほど硬度が低下した。Fig.9に示したように,Ti-5Al-2Fe-3Moは,50°C/s以上の高冷却速度ではα”相へマルテンサイト変態する。その組織は下部組織も含め微細であったが(Fig.5),最も高硬度値を示した20°C/s冷却材(Fig.6)で確認された超微細針状組織に比べると若干組織が粗大である。そのため,20°C/s冷却材に比べ室温硬度が低くなったものと考えられる。また,上記のように,この超微細針状組織は450°C付近で生じる等温マルテンサイト的な変態により生成したと推定される。そのため,冷却速度が上がるほど,同程度の温度域に保持される時間が短くなり,超微細針状組織を形成し難くなるため,硬度が低下したと考えられる。

4・3 連続冷却変態挙動

最後に,Ti-5Al-2Fe-3MoとTi-6Al-4V10,11)の連続冷却変態挙動を比較する。Ti-5Al-2Fe-3Moでは50°C/s以上の冷却速度でマルテンサイト変態したのに対し,Ti-6Al-4Vでは300°C/sでも冷却時に若干拡散を伴い,厳密にはマルテンサイト変態ではなく拡散変態によりα相が生成する10,11)。また,1°C/sの冷却速度では,β変態点とα相の体積率が急激に増加するサイドプレートα相生成開始温度の差は,Ti-6Al-4Vでは約100°Cである10,11)のに対し,Ti-5Al-2Fe-3MoではFig.9に示したように約200°Cであり,変態開始に要する時間が長くなっている。すなわち,Ti-5Al-2Fe-3MoはTi-6Al-4Vに比べ焼き入れ性が極めて高い合金である。このように,Ti-5Al-2Fe-3Moは熱処理性に優れ,熱間加工性の優れるβ単相域加工を変態点以下の低温でも活用しやすいなど,工業的に利点の多い合金である。

5. 結言

near βα+β型チタン合金Ti-5Al-2Fe-3Moのβ単相域からの連続冷却変態特性を評価した。以下に結論を示す。

(1)Ti-5Al-2Fe-3Moは,室温硬度の冷却速度依存性が大きく,20°C/s以下の冷却速度では冷却速度の上昇とともに室温硬度が高くなり,20°C/s冷却材で477 HVの高硬度値を示した。それ以上の冷却速度では,冷却速度の上昇とともに室温硬度は低下した。

(2)50°C/s以上の冷却速度で室温まで冷却すると,α”相(底心斜方晶マルテンサイト相)が生成した。ただし, 50°C/s冷却材では一部で粒界α相やサイドプレートα相も生成し,β粒内の残部がα”相に変態した。

(3)20°C/s以下の冷却速度で室温まで冷却すると,粒界α相やサイドプレートα相が生成した。また,5~50°C/sの冷却速度範囲では,black plateが生成した。特に20°C/s冷却材では光学顕微鏡観察により多量のblack plateが生成しており,TEM観察によりこのblack plateは約0.05~0.2 μm幅の極めて微細な針状組織(hcp相)で,この内部にはさらに微細な下部組織を有することが確認された。black plate生成領域以外では,さらに微細な約50 nm幅以下の極微細針状組織(hcp相)も生成していた。これらの組織は著しく微細であることから,室温硬度が高くなった要因と考えられる。

(4)Ti-5Al-2Fe-3Moは,β変態点とα相の体積率が急激に増加するサイドプレートα相生成開始温度の差が約200°Cと大きい。

文献
 
© 2018 The Iron and Steel Institute of Japan

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