Tetsu-to-Hagane
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Surface Treatment and Corrosion
Effect of Surface Textures of Iron substrate on the Crystal Orientation Relationship between Electrodeposited Zinc and Iron
Bungo KuboSatoshi OueTakashi FutabaAkinobu KobayashiYasuto GotoHiroaki Nakano
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2018 Volume 104 Issue 6 Pages 322-330

Details
Synopsis:

Zn deposition was performed galvanostatically at 1500 A/m2 and a charge of 1.48×104 C/m2 onto both the high purity electrolytic iron and the cold rolled steel sheets in an agitated sulfate solution at 40 °C to investigate the effect of surface textures of Fe on the crystal orientation relationship between Fe and Zn. Zn deposited on the high purity electrolytic iron with large grain size showed the orientation relationship of {110}Fe//{0001}Zn. However, with increasing the angle of inclination of {110} Fe plane from the surface of substrate, the deviation of orientation relationship of {110}Fe//{0001}Zn increased. This result suggests that the orientation relationship of {110}Fe//{0001}Zn is difficult to be completed in the middle of deposition with increasing the angle of inclination of {110} Fe plane from the surface of substrate, as a result, the epitaxial growth of Zn easily changes to random growth. On the other hand, Zn deposited on the cold rolled steel sheets with small grain size showed preferred orientation of {0001} regardless of orientation of Fe, which indicates that the orientation of deposited Zn is more affected by deposition overpotential than by the orientation of Fe substrate. Although the strain was introduced to the high purity electrolytic iron with sandblasting, the orientation relationship of {110}Fe//{0001}Zn hardly changed with sandblasting, showing that the strain of Fe substrate has scarcely effect on the orientation relationship between Fe and deposited Zn.

1. 緒言

電気Znめっき鋼板は,薄膜有機被覆処理が施され,耐食性,耐指紋性等に優れた高機能化成処理鋼板として,家電分野において幅広く使用されている。Znめっき鋼板の明度1,2),光沢1),表面粗度3,4),プレス成形性4,5)は,Znの結晶配向性に依存するため,その配向性を制御することが重要である。そのため電析Znの結晶配向性に及ぼす電解条件3,69),電解液の種類10,11),電解液への微量無機1214),有機添加剤1518),原板への有機物予備吸着1922)の影響についてこれまでに多数研究されている。

一方,α-Fe上へのZn電析では,Znは初期,バーガースの方位関係〔{110}Fe//{0001}Zn,[111]Fe//[1120]Zn〕に従いエピタキシャル成長することが知られている10,23)。電析Znは,バーガースの方位関係以外にも{111}Fe//{0001}Znに従いエピタキシャル成長することが報告されており24),電析Znと素地Feの方位関係は,Feの表面性状の影響を受けることが予想される。鋼板への実用レベルでのZn電析では,Znのエピタキシャル成長とランダム成長が混在しており,電析Znの結晶配向性は,ZnとFeの面方位関係の影響を受けることが予想される。そこで,本研究では,結晶配向性,形状,粒径,粒内歪みの異なるFeを準備し,Zn電析を行い,ZnとFeの面方位関係を電子後方散乱回折(Electron Back Scatter Diffraction Pattern,EBSD)法により調べた。

2. 実験方法

電解液組成および電解条件をTable 1に示す。電解液は市販の特級試薬を用い,ZnSO4・7H2O 1.2 mol/L,Na2SO4 0.56 mol/Lを純水に溶解させて作製した。pHは硫酸により2に調整した。めっき原板としては,高純度電解Fe(東邦亜鉛製アトミロンMP,純度99.999%)およびFe多結晶体である冷間圧延鋼板(JIS G 3141)を使用した。高純度電解Feの結晶は電場方向に特定な面が配向する電場配向繊維組織型25)であり,大きな繊維状結晶から成る。そこで,その側面(幅100-200 μmの繊維状),および上面(粒径100-200 μmの楕円状)の両面にZn電析を行なった(Fig.1)。また,一部の実験においては,高純度電解Feの側面,表面に歪みを付与するため,サンドブラストを行なった。サンドブラストは,粒径80 μmのガラスビーズを供試材から20 mm離れた位置より0.3 MPaの吹き付け圧で,1分間行なった。

Table 1. Electrolysis conditions.
Bath composition ZnSO4·7H2O (mol/L) 1.2
Na2SO4 (mol/L) 0.56
pH 2
Operating conditions Current density (A/m2) 1500
Amount of charge (C/m2) 1.48 × 104
Temperature (°C) 40
Cathode Fe (5 × 10 mm2, 9 mmφ)
Anode Pt (8 × 12 cm2)
Stirrer (rpm) 400
Fig. 1.

Schematic diagram of high purity electrolytic iron.

原板は,電析前に600,1500,2000番のエメリー紙で研磨し,さらに化学研磨により鏡面仕上げにした。化学研磨は,2.0 mol/LのH2O2および1.0 mol/LのHFを含む40°Cの溶液中に10 s浸漬して行なった。化学研磨を行なった後,20 mass%のH2SO4水溶液にて10 s酸洗,10 sアルカリ電解脱脂を行なった。電析は,定電流電解法により電流密度1500 A/m2,通電量1.48×104 C/m2(Zn付着量5 g/m2),浴温40°Cにおいて,スターラー400 rpmの撹拌下で行なった。陰極には高純度電解Fe(5×10 mm2)および冷間圧延鋼板(直径9 mmφ),陽極には網目状のPt(8×12 cm2)を用いた。

素地Feおよび電析Znの表面形態をSEMにより観察した。また,Zn電析後およびZn除去後,同一箇所におけるZn,Fe表面の結晶方位を電子後方散乱回折(Electron Back Scatter Diffraction Pattern,EBSD)法により調べた。Zn電析前にFe素地に圧痕を打ち,その圧痕を基準に同一箇所のZn, Feの方位を測定した。電析Znの除去は,Arイオンミリングによりエッチングして行なった。また,Fe結晶粒内の歪分布を評価するため,EBSDにより,結晶粒内の局所的な方位差を定量化した Kernel Average Misorientation(KAM)値26)を測定した。なお,KAM値を測定する際は,サンドブラスト後,エメリー紙研磨,化学研磨により鏡面仕上げにした。

3. 実験結果

3・1 高純度電解Fe上での電析ZnとFeの方位関係

3・1・1 高純度電解Fe側面へのZn電析

Fig.2にZn電析前の高純度電解Fe側面の反射電子像を示す。高純度電解Feの側面には,上下に縞状の結晶組織が見られ,電場方向に特定な面が配向する電場配向繊維組織型の結晶となっていることが確認された。

Fig. 2.

Backscattered electron image of cross section of high purity electrolytic iron.

Fig.3に高純度電解Feの側面に電析したZnの二次電子像(a)および反射電子像(b)を示す。Zn電析では,板状の結晶が素地Feと平行にまたは,若干傾斜して積層した。この板状結晶の板面はZn六方稠密晶の基底面[{0001}面]である。電析Znの成長方向に着目すると,Fig.3(a),(b)の中央より右側部では,Znの板状結晶が素地Feに対してほぼ平行になっているのに対して,左側部では,板状結晶が素地に対してやや傾斜してランダムに成長していた。この電析Znの形態の相違は,Znのエピタキシャル成長が,素地Feの結晶粒の面方位の影響を受けているためであり,Fig.3(a),(b)中央部の上下方向に,素地Feの結晶粒界が存在していると予想される。

Fig. 3.

SEM images of Zn deposited on cross section of high purity electrolytic iron.

Fig.4に高純度電解Feの側面に電析したZn(b)およびZn除去後の素地Fe(a)の同一箇所におけるEBSDによる結晶方位解析像を示す。高純度電解Feの側面は,Fig.2に示した様に電場配向繊維組織型の縞状の組織から成り,図(a)中のA~E点の結晶粒毎に異なる面方位を示した。一方,電析Znの面方位(b)は,A~E点の素地Feの結晶粒毎に異なり,素地Feに対応して変化した。これは,電析Znが下地Feに対してエピタキシャル成長しているためと考えられる。なお,部分的に電析Znの方位解析ができていない箇所が見られるが,これは,Zn表面の凹凸に由来するものである。次に,これらA~E点における素地Feおよび電析Znの極点図を作成した。

Fig. 4.

Crystal orientation mapping images of cross section of high purity electrolytic iron and Zn deposited on its iron. [(a) Fe, (b) Zn] (Online version in color.)

Fig.5に高純度電解Fe側面の{110}極点図および電析Znの{0001}極点図を重ねて示す。B点においては,素地Feの{101}面と電析Znの{0001}面が素地面に対してほぼ平行になっており,Fig.4に示す結晶方位像と対応している。A,C,D,E点においても,素地面からのFe{110}面の傾斜角は,Zn{0001}面の素地面からの傾斜角とほぼ一致しており,A~E点の何れの箇所においても,{110}Fe//{0001}Zn の方位関係が成立している。

Fig. 5.

{110} and {0001} pole figures respectively for cross section of high purity electrolytic iron and Zn deposited on its iron. (Blue and red colors respectively shows {110} and {0001}pole figures) (Online version in color.)

3・1・2 高純度電解Fe上面へのZn電析

Fig.6に高純度電解Feの上面に電析したZn(b)およびZn除去後の素地Fe(a)の同一箇所におけるEBSDによる結晶方位解析像を示す。高純度電解Fe上面のA,B,C点の結晶粒(a)は,何れも{111}面の方位を示した。このA,B,C点における電析Znの結晶方位(b)は,ほぼ同一であった。電析Znの方位解析像(b)のコントラストは,A,B,C点の素地Feの結晶粒毎に異なり,Znが素地Feに対してエピタキシャル成長している様子が伺われた。次に,このA,B,C点における素地Feおよび電析 Znの極点図を作成した。

Fig. 6.

Crystal orientation mapping images of upper surface of high purity electrolytic iron and Zn deposited on its iron. [(a) Fe, (b) Zn] (Online version in color.)

Fig.7に高純度電解Fe上面の{110}極点図および電析Znの{0001}極点図を重ねて示す。A,B,C点の何れにおいても,素地面からのFe{110}面の傾斜角は,Zn{0001}面の素地面からの傾斜角と概ね一致しており,{110}Fe//{0001}Znの方位関係が認められた。しかし,高純度電解Fe側面への電析Znに比べると,素地面からのFe{110}面とZn{0001}面のそれぞれの傾斜角には,若干の相違が見られた。そこで次に,素地面からのFe{110}面とZn{0001}面のそれぞれの傾斜角の関係を調べた。

Fig. 7.

{110} and {0001} pole figures respectively for upper surface of high purity electrolytic iron and Zn deposited on its iron. (Blue and red colors respectively shows {110} and {0001}pole figures) (Online version in color.)

Fig.8に高純度電解Feの側面および上面に電析させたZnについて,素地面からのFe{110}面とFe{0001}面のそれぞれの傾斜角の関係を示す。図中の点線は,素地面からのFe{110}面とZn{0001}面のそれぞれの傾斜角が同一となる場合を示す。素地面からのFe{110}面とZn{0001}面のそれぞれの傾斜角は,ほぼ一致しており,{110}Fe//{0001}Znの方位関係が成立していることが分った。しかし,詳細に見ると,素地面からのFe{110}面の傾斜角が大きくなるほど,プロットは図中の点線から若干外れた。そこで次ぎに,{110}Fe//{0001}Znの方位関係のずれに及ぼす素地面からのFe{110}面の傾斜角の影響を求めた。

Fig. 8.

Relationship of angles of inclination of both {110}Fe and {0001}Zn from the surface of high purity electrolytic iron.

Fig.9に高純度電解Feの側面および上面に電析させたZnについて,素地面からのFe{110}面の傾斜角と{110}Fe//{0001}Znの方位関係からのずれの関係を示す。Fe{110}面が素地面から傾斜するほど,{110}Fe//{0001}Znの方位関係のずれが大きくなった。

Fig. 9.

Relationship between the deviation of orientation relationship of {110}Fe//{0001}Zn and the angle of inclination of {110}Fe from the surface of high purity electrolytic iron.

3・2 多結晶体の冷間圧延鋼板上での電析ZnとFeの方位関係

Fig.10に冷間圧延鋼板に電析したZnのSEM像を示す。Znの板状結晶が積層している箇所(図中A)とZnの板状結晶が鋼板とほぼ平行に大きく成長し平滑となっている箇所(図中B)が見られた。何れの箇所においても,Zn六方稠密晶の基底面が鋼板とほぼ平行になっており,電析Znは{0001}面に優先配向していると予想される。

Fig. 10.

SEM images of Zn deposited on the cold rolled steel sheets.

Fig.11に冷間圧延鋼板に電析したZn(b)およびZn除去後の素地Fe(a)の同一箇所におけるEBSDによる結晶方位解析像を示す。素地Feの方位は結晶粒毎に異なっているが,電析Znは,素地Feの方位に係わらず,{0001}面に優先配向していた。図中のA,Bの箇所では,素地Feの方位は明らかに異なっているが,電析Znの方位はほぼ同一であった。なお,素地Feの結晶粒径は5~10 μm程度であり,高純度電解Fe(Fig.46)の粒径に比べるとかなり小さい。

Fig. 11.

Crystal orientation mapping images of the cold rolled steel sheets and Zn deposited on its steel sheets. [(a) Fe, (b) Zn] (Online version in color.)

Fig.12に冷間圧延鋼板のFeの{110}極点図と電析Znの{0001}極点図を重ねて示す。Zn{0001}面は素地面とほぼ平行になっているのに対して,Fe{110}面は素地面から大きく傾斜しており,高純度電解Feで見られた{110}Fe//{0001}Znの方位関係は冷間圧延鋼板では見られなかった。冷間圧延鋼板上では,電析Znは,素地Feの方位に係わらず,{0001}面に優先配向していた。

Fig. 12.

{110} and {0001} pole figures respectively for the cold rolled steel sheets and Zn deposited on its steel sheets. (Blue and red colors respectively shows {110} and {0001}pole figures. A and B correspond to the measuring points in Fig.11) (Online version in color.)

3・3 サンドブラストを行なった高純度電解Fe上での電析ZnとFeの方位関係

高純度電解Fe上面へサンドブラストを行ない,EBSDにより,結晶粒内の局所的な方位差を定量化したKernel Average Misorientation(KAM)値26)を測定した。Fig.13にサンドブラスト前後の高純度電解Fe上面のKAM像を示す。サンドブラストにより,高純度電解Feに歪みが導入されていることが確認された。

Fig. 13.

Kernel average misorientation maps of upper surface of high purity electrolytic iron with and without sandblasting. [(a) without sandblasting, (b) with sandblasting] (Online version in color.)

Fig.14にサンドブラスト前後の高純度電解FeのKAM値の分布図を示す。高純度電解FeのKAM値は,サンドブラストにより高い方にシフトしていることが分かる。サンドブラストを行なっていない高純度電解Fe上面のKAM値は平均すると0.53であるのに対して,サンドブラスト後の高純度電解Feの上面,側面のKAM値の平均は,それぞれ1.91,1.29であった。

Fig. 14.

Distribution diagram of kernel average misorientation of high purity electrolytic iron with and without sandblasting. (Online version in color.)

Fig.15に高純度電解Feの側面および上面にサンドブラスト後電析したZn(b,d)およびZn除去後の素地Fe(a,c)の同一箇所におけるEBSDによる結晶方位解析像を示す。高純度電解Feの側面(a)は,電場配向繊維組織型の縞状の組織から成り,図(a)中のA,B,C点の結晶粒毎に異なる面方位を示した。電析Znの面方位(b)は,A,B,C点の素地Feの結晶粒毎に異なり,素地Feに対応して変化した。一方,高純度電解Fe上面のA,B,C点の結晶粒(c)は,何れも{111}近傍の面方位を示した。このA,B,C点における電析Znの結晶方位(d)は,ほぼ同一であった。以上の結果は,サンドブラストを行っていない場合(Fig.46)とほぼ同様であった。

Fig. 15.

Crystal orientation mapping images of high purity electrolytic iron with sandblasting and Zn deposited on its iron. (Online version in color.)

Fig.16に高純度電解Feの側面および上面にサンドブラスト後の{110}極点図および電析Znの{0001}極点図を重ねて示す。高純度電解Feの側面および上面のA,B,Cの何れの箇所においても,素地面からのFe{110}面の傾斜角は,Zn{0001}面の素地面からの傾斜角とほぼ一致しており,{110}Fe//{0001}Znの方位関係が成立している。

Fig. 16.

{110} and {0001} pole figures respectively for high purity electrolytic iron with sandblasting and Zn deposited on its iron. (Blue and red colors respectively shows {110} and {0001}pole figures. A, B and C correspond to the measuring points in Fig.15) (Online version in color.)

Fig.17にサンドブラスト後の高純度電解Feの側面および上面に電析させたZnについて,素地面からのFe{110}面とZn{0001}面のそれぞれの傾斜角の関係を示す。素地面からのFe{110}面とZn{0001}面のそれぞれの傾斜角は,ほぼ一致しており,{110}Fe//{0001}Zn の方位関係が成立しているが,素地面からのFe{110}面の傾斜角が大きくなるほど,プロットは図中の点線から若干外れており,サンドブラストを行っていない場合とほぼ同様の傾向を示した。

Fig. 17.

Relationship of angles of inclination of both {110}Fe and {0001}Zn from the surface of high purity electrolytic iron with and without sandblasting.

4. 考察

電析Znと素地Feの面方位関係が素地Feの種類により異なったので,ここでは,電析Znと素地Feの方位関係に及ぼす素地Feの表面性状の影響について考察する。Table 2に素地Feの表面性状と電析Znと素地Feの方位関係をまとめた。高純度電解FeにZnを電析させた場合,{110}Fe//{0001}Znの方位関係が見られるのに対して,冷間圧延鋼板上での電析では,素地Feの方位に係わらず,Znは{0001}面に優先配向しており,Znと素地Feの間に特定の方位関係は見られなかった。

Table 2. Effect of surface textures of Fe substrate on the crystal orientation relationship between deposited Zn and Fe.
Substrate Electrolytic Fe Cold rolled steel sheets
Upper surface Cross section
Sandblasting to Fe With Without With Without Without
Grain size of Fe (μm) 100-200 φ Width 100-200 5-10 φ
Purity of Fe (mass%) 99.999 99.98
Preferred orientation of Fe {111}
Current density of Zn (A/m2) 1500
Preferred orientation of Zn {0001}
Relationship of Fe/Zn {110}Fe // {0001}Zn All Fe // {0001}Zn

α-Fe上へのZn電析では,Znは初期,バーガースの方位関係〔{110}Fe//{0001}Zn,[111]Fe//[1120]Zn〕に従いエピタキシャル成長することが知られている10,23)。一方,鋼板上での電析Znの結晶配向性は,電析過電圧に依存し,過電圧の増加に伴い,{0001}→{1011}→{1120}→{1010}面へと変化することが報告されている27,28)。実際に硫酸塩浴からのZn電析では,1000-4000,6000,8000-12000 A/m2の各電流密度下では,Znの優先配向面はそれぞれ,{0001},{1011},{1120}であることが報告されており3),Pangarovの理論に対応している。本研究でのZn電析は,1500 A/m2で行っており,電析Znは,過電圧理論では,{0001}面に配向し易いことが予想される。なお,本研究でのZn電析時の陰極電位は−0.792 V前後であり,Zn電析の平衡電位が−0.76 Vであることから,電析の過電圧は,0.032 V程度と小さかった。

初期の電析Znは,Feの結晶粒ごとにエピタキシャル成長し成長方向が異なるため,Feの結晶粒界上で隣接するFe上のZnと成長が競合し,Feの結晶粒界上を起点にエピタキシャル成長からランダム成長へと移行し易い6,29,30)。Feの結晶粒径が小さくなると,粒界が多くなるため,電析Znのエピタキシャル成長が継続し難くなる29,30)。すなわち,素地Feの結晶粒径が小さくなると,電析Znの結晶配向性に及ぼすFe面方位の影響が小さくなることが推察される。本研究の結果は,冷間圧延鋼板上でのZn電析では,Znの結晶配向性は,電析初期から素地Feの結晶方位よりも電析過電圧の影響をより強く受けていることを示唆している。電析Znの結晶配向性に及ぼす素地Feの結晶方位の影響が小さい要因としては,冷間圧延鋼板の結晶粒径が小さいことが考えられる。

一方,冷間圧延鋼板では,Fig.11(a)に示すように,結晶方位を示す色にグラデーションが見られることから,鋼板表層に若干歪みが残存していることが分かる。この歪みが電析Znと素地Feの方位関係に影響を及ぼすことが予想されたので,高純度電解Feにサンドブラストを行い歪みを付与したが,ZnとFeの面方位関係は,サンドブラスト前とほぼ同様であり(Fig.17),方位関係に及ぼす素地鉄Feの歪みの影響は特に見られなかった。また,高純度電解Feと冷間圧延鋼板では,Feの純度に若干相違があるが,ZnとFeの方位関係に及ぼすFeの純度の影響は,現状不明であり,今後の検討が必要である。

高純度電解FeへのZn電析では,Fig.89に示す結果から,素地面からのFe{110}面の傾斜が大きくなる程,電析途中から{110}Fe//{0001}Znの方位関係が成立し難くなり,エピタキシャル成長からランダム成長へ移行し易くなることが予想される。これは,言い換えると,電析Znは,素地面に対するZn基底面の傾斜が小さい時,すなわち{0001}面に配向して成長する方が,エポタキシャル成長が継続し易いことを示唆している。実際に,電析Znは{0001}面に配向している時の方がよりエピタキシャル成長し易いことが報告されており7),その要因として,素地面からのFe{110}面の傾斜が小さくなるほど,{110}Fe//{0001}Znの方位関係のずれが小さくなることが考えられる。

5. 結言

高純度電解Feおよび冷間圧延鋼板上へZnを電析し,FeとZnの面方位関係に及ぼすFe表面性状の影響について調査した。結晶粒径の大きい高純度電解Fe への電析Znにおいては,{110}Fe//{0001}Znの方位関係が見られた。しかし,素地面からのFe{110}面の傾斜角が大きくなるほど,{110}Fe//{0001}Znの方位関係にずれが生じた。この結果から,素地面からのFe{110}面の傾斜が大きくなる程,電析途中から{110}Fe//{0001}Znの方位関係が成立し難くなり,エピタキシャル成長からランダム成長へ移行し易くなることが予想される。一方,結晶粒径の小さい冷間圧延鋼板上での電析Znは,素地Feの方位に係わらず,{0001}面に優先配向しており,電析初期から素地Feの結晶方位よりも電析過電圧の影響をより強く受けることを示している。高純度電解Feにサンドブラストを行い歪みを付与したが,電析Znと素地Feの面方位関係は,サンドブラスト前とほぼ同様であり,方位関係に及ぼす素地Feの歪みの影響は特に見られなかった。

文献
 
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