Tetsu-to-Hagane
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Mechanical Properties
Influence of Transformation Pseudoelasticity and Accumulated Plastic Strain on Low Cycle Fatigue Characteristics of Fe-30Mn-4Si-2Al Alloy
Nobuo Nagashima Takahiro Sawaguchi
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2018 Volume 104 Issue 7 Pages 393-399

Details
Synopsis:

Fe-30Mn-4Si-2Al alloy (mass%) was reported to show excellent low cycle fatigue properties. We investigated fatigue characteristics of the Fe-30Mn-4Si-2Al alloy as a function of accumulative plastic strains, comparing with the low cycle fatigue test results of Fe-28Mn-6Si-Cr-0.5Nb C alloy and SUS304 steel. The obtained results are shown below. The fatigue life of Fe-30Mn-4Si-2Al alloy is the longest in all the strain ranges as compared with Fe-28Mn-6Si-5Cr-0.5NbC alloy and the SUS 304 steel. In particular, it has a long life in test of high strain amplitude. The εpa - Nf characteristics of Fe-30Mn-4Si-2Al alloy show a straight relationship (εpa = Cp/NfKp). The result that the Manson-Coffin rule holds was obtained. In addition, Cp = 5.62, Kp = 0.72, which is an extremely high value. The fatigue damage value D obtained from the Manson-Coffin equation of Fe-30Mn-4Si-2A alloy was almost 1, similar to Fe-28Mn-6Si-5Cr-0.5NbC alloy or SUS 304 steel. However, the relationship between the accumulative plastic strain λp and fatigue life N is much higher than the limit λp of Fe-28Mn-6Si-5Cr-0.5NbC alloy obtained in the previous report. In particular, the results of εta = 2.0% and 1.4% were 20 times the limit λp. It was found that the excellent low cycle fatigue life of Fe-30Mn-4Si-2Al alloy is caused by the much slower accumulation of plastic strain and the extremely high values of Cp and Kp. The above results show that the repetitive motion of partial dislocation progresses slowly as ε martensite repeats normal and reverse transformation and the developmental process of repeated deformed tissue and fatigue crack propagates in a zigzag along γ/ε interface. As a result, it agrees with previously reported fact that crack growth is suppressed.

1. 緒言

高Mn鋼はSi添加により,形状記憶効果を有する。1982年,Satoらは単結晶Fe-30Mn-1Si(mass%)合金が非常に大きな形状回復ひずみを示すことを最初に報告した1)。近年,形状記憶Fe-Mn-Si合金として世界中で活発に研究が進められている2)。その後,形状記憶効果は多結晶合金でも確認され,形状記憶特性を得る添加元素であるMnやSiの役割や最適組成も調べられた35)。これらの調査の結果,Fe-(28-32)Mn-6Si付近が形状記憶効果を得るために最適組成であることがわかった。Mnの最適添加量は,オーステナイト→εマルテンサイト(γε)変態のマルテンサイト変態開始温度(Ms点)が室温付近になる条件を満たしている。Mnの役割は,一部,Cr,Ni,Cu,Al,C,Nなどで置換することができる4,6,7)。添加成分元素濃度は,γ相の安定性とγε変態のMs点の二つの条件を満足するように調整されるが,これら元素の添加はFe-Mn-Si合金の耐食性,強度,加工性などの諸特性改善や低材料コスト化など,合金の工業材料としての付加価値を高める効果もある。一方,Siは母材を固溶強化し積層欠陥エネルギー(SFE:Stacking Fault Energy)を低下させて,変形時の母相のすべり変形を抑制,γε変態を促進する役割がある。

最近,Fe-Mn-Si合金におけるγε変態が,低サイクル疲労特性の改善に有効であることが見いだされ,建築用の制振ダンパーとしての新たな応用が始まっている8,9)。Fe-Mn-Si系形状記憶合金の代表組成の一つであるFe-28Mn-6Si-5Cr合金にナノスケールの微細炭化物を析出させたFe-28Mn-6Si-5Cr-0.5NbC合金は,比較的簡単なプロセスで優れた形状回復ひずみを示す合金として開発され10,11),引張応力の負荷と除荷を繰り返すと部分的な擬弾性を示すことが報告されている12)。この合金を±0.2%以上の大きなひずみ振幅で引張圧縮塑性変形すると,引張変形誘起εマルテンサイトの結晶学的傾斜角を有する表面起伏が,その後の圧縮によって元の平坦な表面に可逆的に戻ることが見いだされた12,13)。変形誘起マルテンサイト変態は,外力により相変態の駆動力が与えられることでエネルギー的に安定な構造への変態が促進される現象として理解されているが,変形の反転(引張→圧縮)により逆変態に有利な方向のシアー変形が与えられれば,引張で生成したεγへの逆変態も生じうることが示唆された2)。繰り返し塑性変形下の可逆的なγε変態を,このタイプのマルテンサイト変態の変態転位であるShockley部分転位の反復運動として捉えると,γε変態と同様に部分転位運動を素過程として含むγ双晶変形やγ相の拡張転位すべりなど,低積層欠陥エネルギーの高Mnオーステナイト鋼(広義にはFe-Mn-Si合金も含む)の特徴的な塑性変形モードでも同様の効果が期待される。このような観点から,著者らは,系統的に積層欠陥エネルギーを変化させた様々なFe-Mn-Si基合金の低サイクル疲労特性を調査した1422)。前報14)ではFe-30Mn-(6-x)Si-xAl合金(x=1,2,3,4,5,6)を創製し,全ひずみ幅Δε=2%(εta=1.0%)低サイクル疲労試験を実施した。Fig.1に実験結果を示す。比較のため同一条件で試験したステンレス鋼SUS304の値も示す。この実験は,Al濃度を連続的に増加させることでSFEを少しずつ上昇させて塑性変形様式を制御し,その耐疲労特性に対する影響をみたものであり,x=0は代表的な形状記憶合金のFe-30Mn-6Si合金であり,x=3のサンプルは引張試験においては変形双晶の働きにより優れた強度・延性バランスを示すFe-30Mn-3Si-3Al TWIP(twinning induced-plasticity)鋼である。x=0,1,3などはSUS304より優位に高い値を示している。2mass%のAl(x=2)を含有する合金が飛び抜けて高い値を示している。

Fig. 1.

Low-cycle fatigue test (strain controlled test, strain amplitude=1.0%, strain rate=4×10–3s–1) results of Fe-30Mn-(6-x)Si-xAl alloy2).

Fe-Mn-Si合金における,これら特異な塑性変形モードや形状記憶・擬弾性効果が低サイクル疲労寿命に及ぼす影響は,塑性ひずみの線形累積を解析することにより,その詳細を知ることが期待される。前報15)ではFe-28Mn-6Si-5Cr-0.5NbC合金(以下FMS合金と呼ぶ)とSUS304鋼の低サイクル疲労試験を実施した結果,FMS合金は繰り返し応力が高く,εta=0.6%ではSUS304鋼の4倍の高寿命であるが,εta=1.4%以上ではSUS304鋼との顕著な差は見られなかった。また,各ひずみ試験における寿命に差はあるが,破断までの累積塑性ひずみはほぼ同じであった。この要因として,FMS合金の繰り返し試験中では,εマルテンサイト相による擬弾性変形により,累積塑性ひずみの蓄積を遅らせることで低サイクル疲労寿命を改善しているが,その効果は擬弾性効果が得られる低ひずみ振幅域に限定されることを明らかにした。

本研究では,Fe-30Mn-(6-x)Si-xAl合金の中で最も高い低サイクル疲労寿命が得られているFe-30Mn-4Si-2Al合金について,低サイクル疲労特性のひずみ振幅依存性と累積塑性ひずみの関係を調査した結果について報告する。

2. 実験方法

供試材はFe-30Mn-4Si-2Al(mass%)であり,以下FMSA合金と呼ぶ。FMSA合金は真空誘導溶解により調製し,1470 K/10 hの溶体化処理を施し,870 Kで14%の熱間鍛造圧延により創製した。試験前の金属組織はγ単相であり,結晶粒径は約30 μmである。疲労試験は試験機容量50 kNのサーボ油圧疲労試験機を使用し,両振り(応力比R=−1)条件下で行った。最大全ひずみ振幅(εta=Δε/2)は2.0%,1.4%,1.0%,0.7%の4条件とし,ひずみ速度を5×10−3s−1とした。使用した試験片は直径8 mmの平行部付きで,これに標点間距離8 mmの伸び計を取り付けて軸ひずみを検出した。

3. 実験結果と考察

3・1 低サイクル疲労特性

Fig.2に破断繰り返し数(Nf)とNf/2の応力振幅(σa=Δσ/2)の関係を示す。また,Table 1に低サイクル疲労試験結果を示す。図中には前報15)で報告したFMS合金とSUS304鋼の結果を合わせて示す。FMSA合金はFMS合金とSUS304鋼の中間にあたる。

Fig. 2.

S-N diagram showing the low-cycle fatigue properties.

Table 1. Low-cycle fatigue test results.
materials Number of cycles to failure, Nf (cycles) Stress amplitude, σa (MPa) Total strain amplitude, εta Plastic strain amplitude, εpa Elastic strain amplitude, εea Pseudoelastic strain amplitude, εPEa Fatigue damage value, D
SUS304 steel 164 607 0.020 0.0157 0.0043 1.25
304 524 0.014 0.0106 0.0034 0.83
1600 413 0.009 0.0065 0.0025 1.21
5250 317 0.006 0.0042 0.0018 1.25
FMS alloy 157 722 0.020 0.0140 0.0060 0.0020 0.81
631 711 0.014 0.0082 0.0058 0.0018 0.99
3315 679 0.009 0.0041 0.0049 0.0013 1.11
18290 618 0.006 0.0016 0.0046 0.0008 0.76
FMSA alloy 3446 477 0.020 0.0156 0.0044 0.0017 0.79
6730 441 0.014 0.0102 0.0038 0.0015 1.05
12961 412 0.010 0.0067 0.0033 0.0010 1.13
24395 365 0.007 0.0043 0.0027 0.0007 1.15

Fig.3に低サイクル疲労試験で得られたNf/2の全試験のヒステリシスループを示す。低サイクル疲労試験では,徐荷曲線と応力ゼロの交点が繰り返し塑性ひずみ振幅(εpa=Δεp/2)である。Fig.3εta=2.0%ひずみ制御試験の除荷曲線の直線部分に引いた接線の勾配を,FMSA合金のヤング率(E=179 GPa)にして引いた。ヒステリシスループの除荷曲線は,最大応力振幅から30%程度除荷した点からひずみの減少が大きくなり内側に曲がる。これは前報15)で報告した変態擬弾性ひずみである。このヤング率の線と応力ゼロとの交点をPE点としてPE点とεpa点の差を変態擬弾性ひずみεpEaとしTable 1に示す。FMSA合金は前報15)のFMS合金と同様に,破断寿命の1/2において擬弾性効果を失わないが,FMS合金のεpEaに比べ1割ほど小さい。

Fig. 3.

Stress-strain hysteresis loops at half-life cycle Nf/2 showing FMSA alloy, loops obtained of total strain amplitude: 2.0%, 1.4%, 1.0% and 0.7%.

Fig.4εtaNfの関係を示す。前報14)の同じ化学成分のFMSA合金の低サイクル疲労試験結果をFig.4中に×印(Nf=8070)で示す。本研究で創製したFMSA合金の×印のデータと同レベル(εta=1.0%)制御によるNfは12961であり,寿命が長い。しかし,Fig.5,6に示す塑性ひずみ,および弾性ひずみとNfは直線関係であることから,このNfは正常であり,前報14)の8070回のNfがばらつき範囲と考えられる。FMSA合金の破断寿命はFMS合金とSUS304鋼と比べ,全てのひずみ範囲において最も長い。特に高ひずみ振幅の試験において長寿命である。

Fig. 4.

Total strain amplitude εta plotted against the number of cycles to failure Nf.

Fig. 5.

Plastic strain amplitude εpa plotted against the number of cycles to failure Nf.

Fig. 6.

Elastic strain amplitude εea plotted against the number of cycles to failure Nf.

Fig.5εpaNfの関係を示す。FMSA合金は最も右側である。特にFMSA合金は高ひずみ領域においてεpa-Nf特性は他の材料に比べ長寿命である。εpa-Nf関係はεpa=Cp/NfKp,で表すことができる。この関係はManson-Coffin則と呼ばれ,低サイクル疲労において最も基本的な関係である2325)Table 2KpCpをまとめて示す。FMSA合金はlogεpa-logNf関係は直線関係にありManson-Coffin則が成立する。ここで特筆すべきはFMSA合金のCpが5.62である。通常Cpは0.1~0.5程度であり,εpa-Nf関係においてこのようなCpが高い繰り返し弾性ひずみ特性の報告は見当たらない。また,Kpが0.72も,Kpが0.8であるTi-24V合金26)で報告された値に匹敵する高い値である。

Table 2. Summary of the low cycle fatigue properties of the three materials (SUS304 steel, FMS alloy, FMSA alloy).
Materials plastic strain amplitude (εpa=Cp/NfKp) elastic strain amplitude (εea=Ce/NfKe)
Kp Cp Ke Ce
FMS alloy 0.45 0.15 0.07 0.009
SUS304 steel 0.38 0.10 0.24 0.014
FMSA alloy 0.72 5.62 0.26 0.038

Fig.6に弾性ひずみ振幅(εea=εtaεpa)とNfの関係を示す。本論文では弾性ひずみ振幅を全ひずみ振幅と塑性ひずみ振幅の差として求めているので,前述の擬弾性ひずみ振幅成分も含んだ値になっている。εea-Nf関係はεea=Ce/NfKe,で表すことができる。Table 2KeCeをまとめて示す。前報15)ではFMS合金のεea-Nf関係は,他の材料に比べ試験レベルにおける弾性ひずみが高くなった。この理由として,低サイクル試験中に変形擬弾性ひずみの増加によることを明らかにした。しかし,FMSA合金はSUS304鋼のεea-Nf関係を右側にシフトした関係となりCeが極めて高い値である。この結果は,FMSA合金が擬弾性とは別の要因による全応力レベルで長寿命であることを示唆している。

Fig.7に繰り返し数Nσaの変化,すなわち繰り返し軟化硬化曲線を示す。全ひずみ範囲においてFMSA合金の繰り返し軟化硬化特性はいずれの曲線も似た傾向であり,20サイクル程度まで初期の緩やかな繰り返し硬化の後,軟化ステージが200サイクルまで続き,その後加工硬化度の高い第二硬化ステージが現れて疲労破断する。文献16では,各ステージの繰り返し変形組織変化を,それぞれ,転位密度の上昇,固執リューダースすべり帯中のεマルテンサイトの形成,ε体積率の増加によって特徴付けている。

Fig. 7.

Stress amplitude σa plotted as a function of the number of cycles N, for different values of the total strain amplitude εta, for FMSA alloy.

Fig.8に各ひずみ試験のεpa-N関係およびεea-N関係について示す。Fig.8(a)εpaはあまり変化がなくほぼ一定である。一方,Fig.8(b)εeaFig.7の繰り返し軟化硬化曲線の傾向とよく対応しており,εeaは初期硬化,軟化,第二硬化の三段階を示す。また,Fig.8(c)に各ひずみ試験の繰り返し数を無次元化したεea-N/Nf関係を示す。εeaは全繰り返し数の約20%で飽和し,εtaが1.0%以上の高ひずみ試験では20%から破断まで徐々に増加する。Fig.8(d)εea/εta-N関係を示す。オープンマークのSUS304鋼の場合,εea/εtaの割合は10~30%で繰り返し初期から破断まであまり変化が無い。一方,前報15)で報告したソリッドマークのFMS合金の場合,εea/εtaの割合は繰り返しによって増加し,振幅が小さくなるほど大きく,εta=0.6%では,繰り返し初期ではεeaの割合が45%程度であるのに対し,1000cycleでは約80%となる。これは,低ひずみ振幅で形状記憶合金を繰り返し変形した場合,繰り返し硬化が進むほどに擬弾性成分の寄与が高くなるためであると考えられる。FMSA合金のεta=0.7%の結果は,繰り返し初期ではεeaの割合が55%程度であるのに対し,最終破断では約80%となり,FMS合金と同様に擬弾性が寄与していることが示唆された。また,εta=2.0%の結果を比較するとFMS合金はεea/εtaの割合は30%で繰り返しの変化が殆ど無い。一方,FMSA合金は,εea/εtaの割合が200回から破断まで徐々に増加した。

Fig. 8.

Changes in strain amplitude with increasing number of cycles during the low cycle fatigue test. (a) εpa-N, (b) εea-N, (c) εea-N/Nf, and (d) εea/εta-N. (Online version in color.)

3・2 疲労損傷評価

Fig.5に示すようにFMSA合金にも,εpaNfには良い相関があった。低サイクル疲労特性は,塑性ひずみ因子による線形累積損傷則により整理される27)。そこで,塑性ひずみ因子による線形累積損傷則による疲労損傷値Dを求めた。また,塑性ひずみの総和(累積塑性ひずみ)λpと疲労寿命の関係を求めひずみ因子による疲労損傷との相関について検討した。

塑性ひずみ因子による疲労損傷の線形累積は,Manson-Coffinの式から以下の様に導かれる。

  
D = N f ( ε p a ε 0 ) α , α = 1 K p , ε 0 = C p (1)

Table 1に(1)式から求めたDを示す。なお,Dは線形累積損傷則が成立する場合ほぼ1になり,成立しない場合1から離れる。FMSA合金もSUS304鋼,FMS合金同様,ひずみ因子による疲労損傷はほぼ1となった。すなわち,FMSA合金においても線形累積損傷則が成立することがわかる。しかし,FMSA合金はKp, Cpの値が著しく高いため,従来材より高いNf値でD=1の関係が成立している。

Fig.9に破断繰り返し数までのλpと繰り返し数Nの関係を制御ひずみ毎に示す。ここで,λpは,疲労試験の1サイクルごとの塑性ひずみ(εpai)を足した値でありλp= Σ i = 1 N f ε p a i で示される。Fig.9中には前報15)のFMS合金とSUS304鋼の結果も示す。各ひずみ制御試験において,全ての材料でλpNの関係は直線関係である。ここでFMSA合金ではεta=1.0%と0.7%の試験を行ったが,FMS合金とSUS304鋼についてはεta=0.9%と0.6%の試験結果をこれらと比較した。前報15)では,各ひずみ制御試験においてFMS合金とSUS304鋼で同程度のλpで破断していた。そこで前報15)では,FMS合金とSUS304鋼の中間の値を限界λpとした。Fig.9の図中にこの限界λpを点線で示した。前報15)では擬弾性ひずみを含むFMS合金においても,塑性ひずみが線形に累積する低サイクル疲労特性の破壊メカニズムが成立していることを示した。本研究のFMSA合金のλpは前報15)の限界λpと比較するとεta=2.0%と1.4%で約20倍であった。Fig.9(c)εta=1.0%と(d)εta=0.7%の図においてFMSA合金の1.0%と0.7%の結果はひずみ制御値が大きいにも関わらず,Nfは長く,λpも大きい。

Fig. 9.

Accumulated plastic strains λp plotted against the number of cycles N, (a) εta=2.0%, (b) εta=1.4%, (c) εta=1.0%, and (d) εta=0.7%. The dotted line shows the limited λp.

式(1)で得られた疲労損傷DではFMSA合金はほぼ1となっている。このことは,塑性ひずみ因子による線形累積損傷則が成立し,CpKpの各値が非常に高くなっていることの寄与がはるかに大きく疲労損傷の進行が極めて遅いため,高いNf値をもたらしていることを示している。しかし,累積塑性ひずみはFMSA合金で飛び抜けて高く,他の材料とは異なる傾向にあった。

3・3 低サイクル疲労寿命改善メカニズム

FMSA合金の低ひずみ振幅における弾性ひずみ振幅成分からの寄与が,繰り返し変形によって徐々に上昇する現象は,FMS合金で報告された変態擬弾性の挙動と極めて類似している15)。FMS合金の変態擬弾性は,除荷時の逆マルテンサイト変態による非線形なひずみ回復であり,塑性ひずみの累積を遅れさせる効果がある。前報14)を参考にすると,FMSA合金は繰り返し変形中期から後期にかけてεマルテンサイトの体積率を増加させるので,変態擬弾性が繰り返し変形とともに現れたと考えられる。しかし,前報15)で報告したように,FMS合金の場合,変態擬弾性によるNfの上昇は0.6%程度の低全ひずみ振幅領域に限られ,全ひずみ振幅が1%を超えると,Nfは従来材と同レベルになる。一方,FMSA合金の極めて高いNfの値は,塑性ひずみの累積に対して金属疲労の進行が極めて遅い性質によることについて,本論文で報告してきた。以下では,FMSA合金のこのような低サイクル疲労特性を与える疲労メカニズムについて検討する。

Nikulinら14)はFe-30Mn-(6-x)Si-xAl合金について低サイクル疲労試験を実施し,X線解析(XRD)ならびに疲労試験後のき裂先端のEBSD解析,破面解析を実施して,Nfに及ぼす組成,積層欠陥エネルギー,繰り返し変形組織の影響を議論した。その結果,FMSA合金はき裂周辺に均一変形部とは異なる方位の微細なεマルテンサイトがき裂周辺の局所応力の影響で発達し,き裂進展の抑制に寄与していることが示唆された。また,別報16)では,FMSA合金中,繰り返し変形下のεマルテンサイトが極めてゆっくり発達することを示した。Liら21)は,レプリカ法によるき裂進展速度の測定の結果,FMSA合金の低サイクル疲労寿命がき裂発生の抑制よりもき裂進展の抑制によることを報告した。しかし,εマルテンサイトの発達がより急速に生じる0mass%Al(x=0)の形状記憶合金Fe-30Mn-6Siの場合には,Nfは最適成分のFMSA(x=2)合金よりも低下する14)。前報15)で用いたFMS合金(Fe-28Mn-6Si-5Cr合金)は28mass%Mnと6mass%Siであるが,緒言で述べた様にMnはCrなど一部を他の金属に置き換えることができ,FMS合金と文献16)のFe-30Mn-6Siは熱力学的な性質や機能力学特性や組織がほぼ同じである。前報15)で報告したとおり,FMS合金は擬弾性によるNfの上昇を低ひずみ振幅で示すものの,高ひずみ振幅でのNfはSUS304と同程度である。FMS合金など,形状記憶効果を示す成分では,変形誘起されたεマルテンサイトが熱力学的に安定で,繰り返し変形に対して体積率を増加させる。εの体積占有率が高くなると,ε基底面やγ/ε界面での割れが生じやすくなり,従来材に対する低サイクル疲労特性の優位性が低下する14)。このためFMS合金は低サイクルにおける高ひずみの疲労強度が従来材と同じになった。Juら22)は,εマルテンサイトは,反復部分転位運動による塑性ひずみ局在化の抑制,破面粗さ誘起き裂閉口,主き裂先端の二次き裂の応力緩和などのき裂進展抑制と,二次き裂の合体による亀裂進展加速の両面の働きが有ることを指摘している。このJuらの報告によると,Fe-30Mn-6Alは疲労試験後,γ単相で,き裂進展は主に{111}γ面に沿って成長し,ε相も二次き裂も発生しない。FMSA合金とFe-30Mn-6Si合金では主き裂がγ/ε界面に沿って成長し,二次き裂が多数観察された。二次き裂の形成には,疲労き裂進展に2つの影響がある。主き裂との合体とき裂の強化である。前者は疲労き裂進展を促進し,後者は減速させる。Fe-30Mn-6Si合金は前者の影響が大きく主き裂と二次き裂の合体が観察されき裂が急速に進展した。一方,FMSA合金では二次き裂は主き裂の先端付近に現れず,平行に生じた。平行に生じた二次き裂は二つのプロセスにより疲労き裂の成長を減速させた。したがってFMSA合金の疲労き裂進展メカニズムは次のように考えられる。第1のプロセスは応力の再分布であり,二次き裂の開始および伝播中にき裂先端部に残留応力が放出されるために生じる28)。この挙動はき裂先端遮蔽メカニズム29)を介して主き裂の疲労伝播に対する耐性を高める。第2のプロセスは二次き裂の開口により,き裂先端開口変位(CTOD)が減少することを示している。

低サイクル疲労中のFMSA合金の全ひずみ範囲において,き裂進展寿命が支配的であり,全ひずみ範囲における長寿命はき裂進展が極めて遅いことによる。二次き裂先端のεマルテンサイトが部分転位の反復運動による正逆方向を繰り返しながらゆっくりと発達し,き裂先端ではγ/ε界面に沿って疲労き裂がジグザグに進展する。これらがFMSA合金のき裂進展速度が極めて遅くなった理由である。

4. 結言

Fe-30Mn-(6-x)Si-xAl合金(x=1,2,3,4,5,6)の中で最も低サイクル疲労特性が優れたFMSA合金(x=2)について,低サイクル疲労試験を行い疲労特性ならびに累積塑性ひずみについて検討した。得られた結果を以下に示す。

(1)FMSA合金の破断寿命はFMS合金とSUS304鋼に比べ,全てのひずみ範囲において最も長い。特に高ひずみ振幅の試験において長寿命である。

(2)FMSA合金のεpa-Nf特性は直線関係を示し。Manson-Coffin則が成り立つ結果が得られた。また,Cp=5.62,Kp=0.72と極めて高い値である。

(3)FMSA合金のManson-Coffinの式から求めた疲労損傷値DはFMS合金またはSUS304鋼と同様にほぼ1であった。しかし,累積塑性ひずみλpと疲労寿命の関係はFMSA合金が前報15)で得られた限界λpより極めて高い。特にεta=2.0%,1.4%の結果は限界λpの20倍であった。

(4)FMSA合金の優れた低サイクル疲労寿命は,FMS合金と同様に変態擬弾性の影響が一部に見られるが,それ以上に塑性ひずみの累積に対する疲労の進行が遅く,CpKpの各値が非常に高くなっていることの寄与がはるかに大きいことがわかった。

(5)以上の結果は,部分転位の反復運動により,εマルテンサイトが正逆変態を繰り返しながらゆっくり発達する繰り返し変形組織の発達過程と,γ/ε界面に沿って疲労き裂がジグザグに進展する結果,き裂成長が抑制されている既報の実験事実と一致する。

文献
 
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