Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
Chemical and Physical Analysis
Accurate Online Measurement of Iron Concentration in Galvannealed Coating Layers by Shift of X-ray Diffraction Peak
Tomohiro Aoyama Hisato Noro
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2018 Volume 104 Issue 7 Pages 363-368

Details
Synopsis:

The authors have developed a new online measurement system for the Fe concentration in galvannealed (GA) coating layers based on the proportionality between the X-ray diffraction (XRD) peak angle of the δ1 phase and the Fe concentration. The online system was realized by high speed measurement of the XRD peak angle by a one-dimensional detector and use of a correction algorithm for the angular error caused by the displacement of the GA strip surface from the measurement position. The XRD profile and displacement were simultaneously measured by the one-dimensional detector and a laser displacement meter, respectively. The high accuracy of this new online system was demonstrated in a continuous galvanizing line with GA steel strips of Si-added and Si-free base steels. The developed system showed sufficiently high accuracy even with the Si-added base steel, with which adequate accuracy could not be obtained with conventional online systems, based on the diffracted intensity of the Γ phase, due to the suppression of Γ phase formation. Since the δ1 phase is the major phase of the GA layers, the main advantage of the developed system is that its accuracy is less sensitive to the composition of the base steel. The developed system can be applied to other online measurement applications in the steel industry for various purposes such as measurement of phase transition, orientation, crystallinity, strain and other features.

1. 緒言

合金化溶融亜鉛めっき(Galvannealed:GA)鋼板は,塗装後耐食性や塗膜密着性,スポット溶接性等の特性に優れるため,自動車用鋼板として広く用いられている。GA鋼板は,一般に連続溶融亜鉛めっき製造ライン(Continuous Galvanizing Line:CGL)で,鋼板に溶融亜鉛めっき処理を施した後に加熱処理を施して製造される。加熱処理中にめっき層と下地鋼板中に含まれるZnとFeが相互拡散して反応し,GA層中にζ相,δ1p相,δ1k相(以下,δ1p相とδ1k相をあわせて単にδ1相と呼ぶ),Γ1相,Γ相(以下,Γ1相とΓ相をあわせて単にΓ相と呼ぶ)といった複数のFe-Zn金属間化合物(Intermetallic Compound:IMC)が形成される1,2)。これらのIMCは,それぞれ異なる機械的特性を有しており,GA層の合金化が不足したり過剰になると,プレス成型時にめっき表面が鱗片状に剥離するフレーキングや,めっきが粉末状に剥離するパウダリングといった問題が発生する3)ため,合金化度を適正に制御することが必要となる。このため,GA鋼板の製造においては,GA層の合金化度をオンラインで測定,評価することが重要であり,これまでに多数の方法が提案されている413)。これらのうち,X線回折(X-ray Diffraction:XRD)法を応用した手法46,9,1113)は,1970年代後半を皮切りに,その多くは1980年代半ばから1990年代半ばにかけて報告されている。これらの手法は,GA層中の特定のIMCのXRD強度の関係式に基づくものであり,主に合金化に伴うζ相やΓ相のXRD強度の変化を利用したものである。

近年,自動車の更なる軽量化のため,自動車用鋼板の高強度化が進められているが,高強度化のために鋼中に添加されるPやSiをはじめとしたいくつかの元素は,GA層の合金化を抑制する1,1425)ことが知られている。Uraiら19)は,Pの鋼中添加有無によって,GA層中の平均Fe濃度(以下,単にFe濃度と記す)が同程度の場合でも,Γ相の形成が抑制され,GA層中のIMCの存在比が異なることを示した。また,鋼中に添加したSiは,めっき工程直前の焼鈍中に,酸化物として鋼板表面あるいは表面近傍に析出し,めっき層中へのFeの拡散を妨げて合金化を抑制する15,23)。加えて,鋼中の固溶Si自体にも,Γ相の形成を抑制する効果があることが報告されている15,24,25)。したがって,GA層中のFe濃度が同程度であっても,PやSi等の鋼中添加元素の有無によって,GA層中のIMCの存在比に差異が生じ,各IMCのXRD強度や強度比が変化すると考えられる。このため,GA層中のIMCのXRD強度とFe濃度の関係を用いた従来の手法では,鋼中添加元素の影響により合金化度の正確な測定が困難となるケースが発生すると予想される。したがって,IMCのXRD強度とFe濃度の関係に基づく従来の手法にかわる,新しい手法を構築する必要がある。

通常,GA製品は,GA層中のFe濃度が10mass%程度で,δ1相が主体となるように制御される1416)。したがって,GA層の主相であるδ1相の変化に着目すれば,GA層中のFe濃度をより高精度に測定することが可能になると期待される。また,XRD法の場合,角度パラメータは集合組織に影響されやすい強度パラメータに比べてより精度が高いため,角度パラメータを用いることができれば,更なる高精度化が期待される。これまでに,Itoら4)によって,GA層の合金化度合いによってδ1相のXRDピーク角度が変化することが報告されている。しかしながら,この当時はXRDプロファイルをオンラインで連続的に高速かつ高精度に測定する技術がなかったため,XRDピーク角度のシフトを用いたオンライン測定技術の実現には至らなかったと考えられる。通常,XRD測定でピーク角度を測定するには,X線源あるいは検出器のいずれか,または両方を回転させてXRDプロファイルを測定し,ピーク角度を算出する。その方法をオンライン測定に適用した場合には,測定時間が非常に長くなるため,製造中のGA鋼帯のGA層中のFe濃度変化を逐次的に捉えることができなくなる。例えば,2θが3°の範囲を0.05°間隔で,1点あたり30秒ずつ測定した場合には,XRDプロファイル1測定あたりの測定時間は約30分となる。また,この従来方法においては,回折計を絶えず連続的に稼動させるため,装置の機械的耐久性が低下するという懸念もある。近年,XRD法で残留応力や極点図を高速測定するためによく用いられている,微小な半導体検出素子を1列あるいは水平方向に多数並べた1次元検出器や2次元検出器を用いることによって,これらの問題や懸念を解消できると考えられる。しかしながら,実際のGA鋼板製造ラインにおいては,連続的に走行する鋼帯の厚みの変化や振動によって鋼板表面の高さ位置が変化する。1次元検出器や2次元検出器をオンライン測定に用いた場合には,この変位によって角度誤差が発生するため,これを補正する必要がある。

このような背景のもとに,著者らは,GA層の主相であるδ1相のXRD法による角度パラメータの変化に着目し,これをオンラインで高速かつ高精度に測定する方法を開発した13)。本報告では,これにより実現した,GA層中のFe濃度の高精度オンライン測定技術について報告する。

2. オンライン測定原理の検討

2・1 ラボ回折計による実験方法

XRD法による角度パラメータを用いたGA層中のFe濃度のオンライン測定方法を検討するに当たり,ラボのXRD装置でGA層中のFe濃度とδ1相のXRDピーク角度の関係を調査するとともに,1次元検出器をオンラインにて適用した際に発生する角度誤差の補正方法を検証した。

試料には,ゼンジマー式CGLで付着量とFe濃度が異なるTable 1に示すGAめっき処理を施した,Table 2に示す下地組成の板厚1.0 mmのGA鋼板を用いた。これらのGA鋼板から,30 mm角サイズの鋼片を切り出した後,50vol%トルエン-50vol%エタノール溶液,次いでアセトンで各5分間超音波洗浄して乾燥させたものを,XRD測定試料として用いた。なお,めっき付着量とFe濃度は,XRD測定用試料に隣接した部位から,150 mm×50 mmサイズの鋼片を切り出し,次に示す手順で化学分析した値である。めっき付着量は,測定非対象面を完全にシールして,ヘキサメチレンテトラミンを少量添加した5vol%塩酸水溶液中でめっき層を溶解し,溶解前後の試料片の重量差から算出した。また,Fe濃度は,めっき層溶解後の溶液を誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)発光分光分析法で分析した結果から算出した。

Table 1. Sample list showing coating weights and Fe contents in GA layers.
Sample No. Coating Weight (g/m2) Fe Content (mass%)
1-1 57.3 9.0
1-2 44.4 9.7
1-3 46.0 11.4
1-4 47.0 12.9
1-5 62.0 14.5
Table 2. Chemical composition of base steel sheet used in laboratory experiment (mass%).
C Si Mn P S
< 0.01 0.01 0.14 0.02 0.01

GA鋼板を下記の条件でXRD測定した。XRD測定装置には,リガク社製AutoMATE IIを用いた。入射X線にはCr-Kα線源(40 kV-40 mA)と4 mmφコリメータを配置し,X線の試料表面への入射角度を63.5°に固定した。また,半導体型1次元検出器をその中心が2θ=130°となるように配置し,測定角度間隔0.01°,測定時間30秒の条件で,試料の2θ=120-140°範囲のXRDプロファイルを測定した。さらに,試料1-3をセットしたXRD装置の試料台を0.5 mmステップで上下させて,適正位置から−1.5~+1.5 mmの範囲で高さ位置を変化させてXRD測定を行い,試料の高さ方向の変位に伴う角度誤差とその補正方法を検証した。

なお,δ1相のXRDピーク角度は,測定したXRDプロファイルから125.5-128.3°の範囲のデータを抜き取り,Savitzky-Golay法でスムージングしたのち,バックグラウンドを直線近似して除去し,重心法で求めた。

2・2 GA層中Fe濃度とδ1相ピーク角度の関係

Fig.1は,δ1相のXRDプロファイルの一例である。Fig.1で矢印で示すように,δ1相のXRDピーク位置は,GA層中のFe濃度の増加に伴い高角側にシフトする。Table 1に示した試料のδ1相のXRDピーク角度を重心法により求めると,Fig.2に示すように,GA層中のFe濃度とδ1相のXRDピーク角度は,概ね正比例関係となり,GA層中のFe濃度Fe%は,Fe%=a×2θδ1+bと表すことができる。ここで,2θδ1δ1相のXRDピーク角度,aおよびbは任意の係数である。

Fig. 1.

Typical XRD patterns of δ1 phase. The peaks shift depending on the Fe concentration in the GA layers.

Fig. 2.

Relationship between Fe concentration in a GA layer and peak angle of δ1 phase.

δ1相のXRDピーク角度がGA層中のFe濃度とともに,変化する理由は,組成とともに固溶体合金の格子定数が直線的に変化するというVegard則によって説明できる。GA層では,合金化処理に伴い,ZnとFeが相互に拡散する。このとき,δ1相のFe濃度範囲は原子濃度で8.5~13.0at%2)と比較的広いため,δ1相中にGA層の合金化度合いに応じた濃度のFeが固溶すると考えられる。その結果,GA層の合金化度合いによってδ1相の格子定数が変化し,δ1相のXRDピーク角度がシフトしたと考えられる。

2・3 高さ方向変位に伴う誤差とその補正方法

XRDプロファイルを高速測定するために,1次元検出器や2次元検出器をオンラインに適用する場合には,鋼帯の厚みの変化や振動による鋼帯表面の高さ方向変位が原因で発生する角度誤差を補正する必要がある。以下に,その補正方法について述べる。

検出器に1次元検出器や2次元検出器を用いる場合には,X線の発散による角度分解能の低下を抑えるため,X線管球に円筒状のコリメータを取り付ける。その場合,入射X線は疑似的な平行ビームとして扱うことができる。Fig.3は,入射X線に平行ビームを用いた際の,試料表面の高さ方向変位に伴う角度誤差を示した概略図である。試料表面の高さが基準面からΔZ変位した場合,X線源Sから照射されたX線の試料表面の照射位置は点Oから点O’に移動する。このとき,X線入射角αは変化しないが,ゴニオメーター円上の任意の点Aにおける真のX線出射角はΘ’となり,回折計の見かけ上の出射角Θとの間に差異が生じる。これが,試料面の高さ方向変位に伴う角度誤差の原因である。ゴニオメーター半径をRとすると,真の回折角2θ’は次式で表すことができる。

  
2 θ ' = α + tan 1 ( R sin Θ Δ Z R cos Θ + Δ Z / tan α )
Fig. 3.

Schematic illustration of angular error due to displacement of sample surface in vertical direction.

Fig.4に,試料1-3を用い,試料の高さ位置を基準面から変位させて測定したδ1相ピーク角度と,上記補正式によって角度誤差を補正したピーク角度を示す。Fig.4中に白丸で示した補正前のδ1相のピーク角度は試料面の高さ方向変位によって大きく変化し,ΔZ=±1.0 mmのとき角度誤差は平均で約0.25°となる。これは,GA層中のFe濃度に換算すると,約2.0mass%と非常に大きな誤差となる。この角度誤差を上記補正式によって補正すると,Fig.4中の黒丸で示すように,角度誤差はFe濃度換算で0.3mass%以内に抑えられる。以上のように,XRD測定位置の高さ方向変位に伴う測定誤差は,基準面からの高さ方向変位を同時測定することによって補正することが可能である。

Fig. 4.

Results before and after correction of angular error due to displacement of sample surface in vertical direction. The solid line indicates the peak angle without displacement, and the dashed lines indicate whose errors corresponding to ±0.3 mass%.

3. オンライン実験

3・1 オンライン装置およびオンライン実験方法

これまで述べたGA層中のFe濃度とδ1相のXRDピーク角度の関係,および高さ方向変位に起因する誤差の補正方法に基づき,オンライン測定装置を製作した。さらに,新手法と従来手法のオンライン測定装置をCGL上に同時に設置し,これらの手法による分析正確さを比較した。

Fig.5(a)に,本研究で開発したオンライン装置のXRD測定ヘッド部の概略図を示す。また,参考のため,Fig.5(b)に,Kawabeら6)による従来手法のXRD測定ヘッドを示す。新手法の測定ヘッド部には,GA鋼帯に対する入射角αが65°となるようにCr管球を設置し,δ1相のXRDプロファイルを高速測定するための1次元検出器を配置した。また,鋼帯表面の高さ方向変位による誤差補正のため,XRDプロファイル測定位置近傍の直上にレーザ変位計を設置し,XRDプロファイルと同時に測定ヘッド−鋼帯間距離を測定できるようにした。レーザ変位計によって測定した基準面からの変位に基づいて,角度誤差の補正を行った後,Fe濃度の算定式に基づき,Fe濃度を算出する。なお,X線管球には,回折計の基準位置でX線照射径が,約4 mmφとなるコリメータを取付けてある。一方,Fig.5(b)に示した従来手法のXRD測定ヘッド部は,X線源となるCr管球と,Γ相のXRD強度測定用1台およびバックグラウンド強度測定用2台の合計3台の比例計数管(S-PC)で構成されている6)

Fig. 5.

Schematic illustration of measurement modules of online systems. (a) Newly developed online system in this paper consisting of a one-dimensional detector and laser displacement meter. (b) Conventional online system proposed by Kawabe et al.6) based on the XRD intensity of the Γ phase.

ゼンジマー式CGLの溶融亜鉛めっき処理工程および合金化処理工程の後段のライン上に,Fig.5に示した新手法と従来手法のオンライン測定システムの双方を設置した。このCGLにおいて,Table 3に示す極低炭軟鋼(Steel A)とSi添加高強度鋼(Steel B)の各鋼帯に,合金化溶融亜鉛めっき処理を施し,製造中のGA層のFe濃度を2つのシステムで同時にオンライン測定した。Steel Aには,GA層の合金化を抑制するSiは添加されておらず,Steel BにはSiが1.5mass%添加されている。高さ方向変位に伴う誤差の補正効果の検証のため,各鋼種とも1.4 mmと2.0 mmの2種類の板厚の鋼帯を用いた。Table 4に,これら2つのオンライン測定システムの測定条件を示す。なお,各システムにおいて,基準試料を用いて,各鋼種用の検量線をあらかじめ作成し,オンラインFe濃度を算出した。さらに,XRD測定した位置とほぼ同じ位置からGA鋼片を採取し,ラボ回折計での実験と同じ分析方法でGA層中のFe濃度を算出し,この分析結果をもとに2つのオンライン分析結果の,次式で表される分析正確さσdを算出して比較した。

  
σ d = Σ ( O i C i ) 2 / ( n 1 )

Table 3. Chemical composition of base steel sheets used in online experiment (mass%).
C Si Mn P S
Steel A < 0.01 0.01 0.16 0.01 < 0.01
Steel B 0.09 1.5 1.5 0.01 < 0.01
Table 4. Measurement conditions of two online systems.
Newly developed system Conventional system6)
X-ray tube Cr target (40 kV-40 mA) Cr target (40 kV-50 mA)
Incident angle α 65° 60°
X-ray detector 1D semiconductor detector S-PC detector
Kβ Filter Vanadium
125.5-128.3° (0.02° step)
for calculation of peak angle of the δ1 phase
Γ phase: 139 deg (fixed)
BGL: 90 deg (fixed)
BGH: 150 deg (fixed)
Measuring time 10 s 30 s (10 s × 3)

ここで,nは試料数,Oiは任意の試料iのオンライン分析によるFe濃度,CiはICP発光分光分析法により得られた任意の試料iの化学分析によるFe濃度である。なお,めっき溶解前後の重量変化から求めた,これらのGA鋼板のめっき付着量は,43.6~59.8 g/m2であった。

3・2 オンライン実験結果および考察

Fig.6は,Steel AおよびSteel BのGA層中Fe濃度のオンライン分析値と化学分析値を比較した結果である。Si無添加のSteel Aの結果(Fig.6(a))では,双方の手法によるオンライン分析値と化学分析値の差異は小さく,分析正確さσdはともに0.5mass%であった。一方,Siが添加されたSteel Bの結果(Fig.6(b))では,従来手法による分析正確さσdは0.9mass%と大きくばらついていたのに対し,新手法による分析正確さσdは0.5mass%と小さかった。以上の結果から,従来手法ではオンライン分析が困難となるSi添加鋼においても,新手法によって良好な分析正確さが得られることが明らかになった。なお,いずれの鋼種においても,板厚による新手法の分析値の誤差への影響はほとんど見られず,新手法の誤差補正方法が正しく機能していることが確認できた。

Fig. 6.

Comparison of Fe concentrations determined by chemical analysis and online XRD systems. GA layers on (a) Steel A and (b) Steel B. The solid circles (●) and triangles (▲) indicate the Fe concentration by the developed system. The open circles (◦) and triangles (△) were measured by the conventional system. The solid and open circles indicate base steel thickness of 1.4 mm, and the solid and open triangles indicate base steel thickness of 2.0 mm.

Fig.7に,Steel AとSteel Bの,GA層中Fe濃度の化学分析値とδ1相ピーク角度,およびΓ相強度による指標の関係を示す。これらを直線で近似して傾きを求めた結果,Fig.7(b)に示すように,Fe濃度に対する従来手法のΓ相強度による指標の傾きは,Steel Aで0.13mass%−1,Steel Bで0.06mass%−1であり,Steel Bの傾きはSteel Aに対し,54%と大幅に低下した。一方,Fe濃度に対する新手法の指標であるδ1相のピーク角度の傾きは,Fig.7(a)に示すように,それぞれSteel Aで0.16°/mass%,Steel Bで0.13°/mass%であり,Steel BのSteel Aに対する傾きの低下は19%と,従来法に比べ大幅に抑えられていた。さらに,XRD法の場合,角度パラメータは,集合組織に影響されやすい強度パラメータに比べてより精度が高い。したがって,従来手法ではSteel Bの分析正確さσdが大幅に増加したのに対し,新手法では分析正確さσdの増加が抑えられたと考えられる。

Fig. 7.

Relationship between the Fe concentrations and the indexes of the developed and the conventional online systems. (a) Peak angles of the δ1 phase for the developed system. (b) Values of the function of the Γ phase intensities for the conventional system. The open circles (◦) and solid triangles (▲) indicate Steel A and Steel B, respectively, and the solid and dashed lines indicate the fitted lines for Steel A and Steel B, respectively.

通常,GA製品はGA層中のFe濃度が10mass%前後1416)になるように制御されて製造される。この濃度領域においては,δ1相がGA層の主相として存在1416)し,下地鋼板の界面近傍にΓ相が形成される3)。従来手法はGA層のマイナー相であるΓ相のXRD強度変化に基づいたものであるのに対し,新手法は,GA層の主相であるδ1相のXRDピーク角度の変化を利用したものである。Γ相の形成は,PやSi等の鋼中添加元素,特にSiによって大幅に抑制される15,24,25)。このため,Steel Bにおいて,従来手法のΓ相強度による指標の傾きが低下し,Fe濃度の分析正確さが低下したと考えられる。一方,鋼中添加元素によるGA層の合金化挙動の変化の影響を受けて,δ1相へのFe拡散挙動も変化する21)と考えられる。しかしながら,δ1相はこれらの元素の有無にかかわらず,主相として存在する。このため,δ1相のピーク角度の傾きの変化は,Γ相のXRD強度の傾きの変化に比べて小さくなり,新手法では鋼中添加元素によらずGA層中のFe濃度を高精度にオンライン測定できたと考えられる。

本報では,1次元検出器によるXRDプロファイルの高速測定と,レーザ変位計を用いた角度補正による,GA層中のFe濃度の高精度分析方法について報告した。本手法を用いれば,オンラインでXRDプロファイルの変化を捉えることができるため,鋼組織の相分率や歪み,配向性はじめとした,製造中の鉄鋼材料の変化を測定することが可能となる。したがって,本論文で報告したGA層中のFe濃度の測定以外にも,様々な目的や用途に展開することができると考えられる。また,主成分分析等の多変量解析と組み合わせることにより,更なる高精度化や高度化が図られれば,鉄鋼製品の品質向上に貢献すると期待される。

4. 結言

GA層の主相であるδ1相のXRDピーク角度の,合金化に伴う変化に着目し,GA層中のFe濃度の高精度オンライン測定技術を開発した。

δ1相のXRDピーク角度を高速測定するための1次元検出器と,高さ方向の変位に伴う角度誤差を補正するシステムを備えたオンライン測定システムをCGLに設置して実証実験を行い,従来システムでは測定精度が低下するSiを鋼中添加した下地鋼においても,GA層中のFe濃度を高精度に評価できることを実証した。

本システムは,GA層中のFe濃度以外にも,製造中の鉄鋼材料の鋼組織の相分率や歪み,配向性等のオンライン評価にも応用できると考えられる。

謝辞

本研究におきまして,オンライン測定方法の検討,およびオンライン装置の製作に多大なご協力をいただきました,株式会社リガク藤村一氏をはじめ,関係者の皆様に感謝いたします。

文献
 
© 2018 The Iron and Steel Institute of Japan

This article is licensed under a Creative Commons [Attribution-NonCommercial-NoDerivatives 4.0 International] license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top