2018 Volume 104 Issue 8 Pages 461-466
The steel industry has been concerned with contamination by tramp elements during repeated recycling of carbon steel. Increase of Cu content has never been observed at least by monitoring EAF steel bars from the late 1980s. However, the increase may happen in future. To surely avoid the increase which leads to ineffective recycling, mechanisms of Cu mixing in carbon steel should be understood. The factors for Cu in carbon steel produced in Japan were identified. We distinguished two sources of Cu in obsolete steel scrap: Cu alloyed in carbon steel which has been contaminated by previous recycling and Cu contained in materials beside carbon steel. We found that, by dynamic material flow analysis, the Cu content derived from the former source has gradually increased because of increasing shares of bar and section which have a relatively high Cu content, which leaded to 0.05% increase in Cu content during three decades. On the other hand, Cu derived from the latter has become smaller from the late 1990s. One of the reasons was thought as increase of exporting scrap-mixed metal (often termed “zappin scrap”) from around the year. In the near future, it is predicted that the substantial part of the export will be rapidly reduced by amendment of relevant regulations. We estimate that Cu content in steel bars will become 0.49% on the average, if scrap-mixed metal is domestically recycled in a commercial way. This result underlines the necessity of improving the separation of Cu materials from carbon steel scrap.
普通鋼リサイクルにおけるトランプエレメントの濃化は以前より危惧されてきた1–4)。その中でも特にCuは,電化された製品において鉄鋼材と共に用いられることから,鉄スクラップへの混入が少なくない5)。鉄鋼材のCu濃度の許容値は,品種によって異なっており6),濃化が最も危惧されるのは,許容値が一番大きな品種である棒鋼である2)。棒鋼におけるCu濃度は,表面赤熱脆性を生じさせないため0.4%程度以下に抑制したい7)。
一方,普通鋼電炉工業会8)の経年での報告では,1987年から2013年まで,時代によって鉄筋棒鋼中のCu濃度は大きく変わっていないことが報告されている。しかしながら,Cuの混入源は明らかになっておらず,先述の30年程度の趨勢が,果たして今後も続くかわからない。そこで,本研究では,日本におけるCu濃度を決定する要因を同定することを目的とする。
普通鋼中に含有される循環性不純物元素(トランプエレメント)の由来はいくつかに大別できる6)。本研究では,その循環フローの違いから,4つに区分した。その4つは,Fig.1に概念図を示すように,鋼材の生産時に合金あるいは表面処理として意図して使用される元素(フローf1),普通鋼の原料として用いられる普通鋼加工スクラップ中の普通鋼に合金成分として含有される不純物元素(フローf2),普通鋼の原料として用いられる普通鋼老廃スクラップ中の普通鋼中に合金成分として含有される不純物元素(フローf3),普通鋼スクラップ中に混入する普通鋼以外の素材を構成する不純物元素(フローf4)とした。フローf3は過去からの繰り返しのリサイクルにより普通鋼中に蓄積された不純物と考えられ,フローf4は,今回のリサイクルにおいて追加的に混入する不純物と考えられる。
Flow of impurity elements associated with carbon steel recycling.
本研究では,代表的なトランプエレメントであるCuに着目した。そこで,t年に生産された普通鋼に含有されるCu量p(t)は,式(1)のように表せる。ただし,一部の鋼材品種でCuを合金元素として添加するものの,総量は小さく6)考慮しなかった。また,原料に含有するCuはスラグやダストにはならず,全て鋼材に含有されるとした。
(1) |
ここで,f2(t)はt年に原料として消費された加工スクラップに合金成分として含有されるCu量,f3(t)はt年に原料として消費された老廃スクラップに合金成分として含有されるCu量,f4(t)はt年に原料として消費された老廃スクラップに混在する普通鋼以外の素材を構成するCu量,fpig(t)は消費された銑鉄中のCu量を表す。
f4(t)はそれ自体を直接同定することが困難である。これは,普通鋼スクラップ中に混在する他の素材の量は,スクラップごとに偏りがあると考えられ,その代表的な量を直接定量することは相当の労力が必要なためである6)。そこで,式(1)のp(t),f2(t),f3(t),fpig(t)を同定することによりf4(t)を推計した。
p(t)は,以下の式(2)によって導出される。
(2) |
ここで,Pi(t)は品種iのt年における生産量,ci(t)は品種iのt年における平均Cu濃度である。日本では,Cu濃度は炉別で比較的異なることが知られているが,炉別の品種別生産量は統計から得られない5)。そのため,それぞれ炉の区別のない生産量ならびにCu濃度の平均値とした。
f2(t)は,以下の式(3)によって導出される。
(3) |
ここで,Pi,u(t)は品種iの用途uに向けたt年の生産量,ψu(t)はt年における用途uでの鉄鋼材の加工歩留率である。
f3(t)は,以下の式(4)によって導出される。
(4) |
ここで,Fi(k,t)は品種iのt年における普通鋼老廃スクラップとして回収されたもののうち,k年に生産された普通鋼の回収量である。Fi(k,t)は,動的MFA(material flow analysis)によって,以下の式(5)により推計できる。
(5) |
ここで,Di,u(k)は品種iの用途uに対するk年の国内消費量,λu(t−k)は用途uのt-k年使用時の廃棄率,ρ(t)はt年における鉄鋼材の使用済み回収率である。また,Di,u(k)はさらに以下の式(6)によって各種統計から得られる。
(6) |
ここで,Ei,u(t)は品種iの用途uに向けたt年の鉄鋼材正味輸出量,E'i,u(t)は用途uにおける品種iのt年の最終製品としての正味輸出(間接輸出入)量である。輸入分に関して,鉄鋼材ならびに最終製品を構成する鉄鋼材のCu濃度は,それらの鉄鋼材が総量に対して小さいことから,国内で生産された品種別Cu濃度と同じとした。
fpig(t)は普通鋼の生産量に対し,製鋼歩留りによって割り戻し,そこからスクラップ投入量を引くことで銑鉄の投入量を推計したのち銑鉄のCu濃度0.025%9)を乗じることで推計した。製鋼プロセスの歩留りは,経年で上昇しているとの報告があるものの,本モデルにおける値の影響の小ささから,歩留りは0.9とした10)。
以上の手法で,1985年から2013年について,普通鋼中に含有されるCu量を4つの分類ごとに推計し,その時系列の変化の要因を考察した。
2・2 データ整備本モデルでは,普通鋼中Cu濃度ci(t)を時間の関数とした。過去に報告されている5,6,8,12)電炉棒鋼のCu濃度の平均値を95%信頼区間とともに,試料の推定生産年にしたがいFig.2に示した。これらの回帰直線の傾きは−1.7×10−4となり,Cu濃度はほとんど変化していないと考えられた。電炉棒鋼は,各品種の中でCu許容濃度が最も高く2)様々なスクラップが原料として消費されるため,スクラップに混在する不純物量に最も敏感であると考えられた。その棒鋼において,Cu濃度は経年で変化していないことから,他の品種についてもCu濃度は経年で変化しないと考えた。モデルでは,Cu濃度はtの関数ci(t)として与えているが,Table 1に示す各普通鋼の品種iの炉の区別のない代表的な平均Cu濃度6)を用い,年に依らず定数とした。なお,棒鋼のCu濃度は,先述の電炉棒鋼の観測値の経年での平均Cu濃度約0.3%に対し,0.05%以下とされる転炉棒鋼のCu濃度の加重平均のため,0.269%となっている6)。
Time-series Cu contents in EAF steel bars in Japan.
Steel product forms | ci [%] |
---|---|
Rail | 0.165 |
Sheet pile | 0.248 |
Section | 0.176 |
Bar | 0.269 |
Wire rod | 0.016 |
Plate and sheet | 0.039 |
Pipe | 0.013 |
本モデルで用いた各種フロー量Pi,u(t),Di,u(k),Ei,u(t),E'i,u(t)やパラメータλu(t−k),ρ(t),ψu(t)は,1985年から2013年までの日本国内に対し動的MFAを行った既存研究11)より得た。
1985年から2013年の日本で生産された普通鋼に含有されるCu量を鋼材品種別に積上げてFig.3に示す。さらに,その原料のうちCuの主要な供給源である老廃スクラップに含有されるCu割合wobs(t)は式(7)で同定され,その経年変化もFig.3に右軸をスケールとして示す。また,以降の考察のために,式(8)ならびに(9)により,老廃スクラップ中に含有される鉄スクラップを構成する普通鋼中の合金成分由来のCu量(f3)の割合と,同じく老廃スクラップ中に含有される鉄スクラップに混在する普通鋼以外の素材に由来するCu量(f4)の割合を,それぞれw3,w4とした。
(7) |
(8) |
(9) |
Amount of Cu in carbon steel produced in Japan and its content in obsolete steel scrap from 1985 to 2013.
Fig.3より,2000年ごろは老廃スクラップに含有されるCu割合は0.27%程度であったが,2010年ごろには0.20%以下となっていると推計された。そこで,wobsを,w3とw4に区別した推計結果をFig.4に示す。合金成分由来のCu量(f3)は,過去に生産された鋼材が排出され,スクラップとして回収され,投入されることで普通鋼中に混入する。国内で消費される老廃スクラップに含まれる普通鋼の品種別割合をFig.5に示した。近年では,Cu含有率が比較的高い棒鋼や形鋼の占める割合が大きくなってきたため,合金成分由来のCu量の割合w3が大きくなっていたことがわかった。一方,他素材由来のCu量の割合w4が経年とともに大きく減少していることがわかった。1990年以前に比べ,1990年代は0.05から0.1ポイントほどw4が減少しており,さらに2000年頃以降著しく減少傾向を示した。
Contents of Cu derived from alloying Cu in steel, w3, and from other materials, w4, in obsolete steel scrap from 1985 to 2013.
Share of steel product forms in obsolete steel scrap consumed in Japanese steelmaking furnaces from 1985 to 2013.
Cu濃度の変化は,鉄鋼材の用途の変化と老廃スクラップに混在する他素材の量により影響を受けていることがわかった。また,後者の要因により,Cuは濃化していないことが示唆された。これは,Cuが比較的使用されていない使用済み製品の発生が増えたか,発生した使用済み製品から鉄スクラップを分離・回収する際に他素材の分離率が向上したか,2つの要因が考えられた。そこで,次節では,前者の要因の1つとして雑品スクラップの輸出による影響を評価した。
3・2 雑品スクラップの輸出雑品スクラップとは,産業系廃製品や廃家電,廃OA機器等の有害物を含む使用済電気電子機器等が,その他の金属スクラップ等(主に鉄スクラップ)と混合された状態で,鉄スクラップとして流通するもので,近年では年間100万トン以上が,日本から中国へ輸出されている13)。この雑品スクラップの輸出に関する統計は存在しないものの,2008年までは,当該物品の輸出時と輸入時の通関品目に違いがあると考えられたため,貿易統計14)から推定できるとされる13)。しかし,2009年2月以降はそれらの違いが解消され,同手法が適用できなくなった13)。同手法によって2008年まで推計した結果をFig.6に示した。推計手法の詳細は付録に記した。1990年代から,中国への雑品スクラップの輸出が一定量確認されはじめ,2000年前後から,その輸出量が増えてきたことがわかる。ここで,雑品スクラップの輸出がFig.4で推計されたw4を減少させた要因であると考え,雑品スクラップが輸出されず国内で処理されていたと仮定したときのw4を推計した。中国において雑品スクラップは手選別され,総重量の約4%のCuが回収される15)。これが雑品スクラップのCu含有率と考えた。次に,雑品スクラップが輸出されなかった場合は,国内にて解体・分離等の処理を経た後に鉄スクラップとなると考えられる。そこで,データが入手可能であった自動車の国内での処理におけるCu分離率を適用することとした。ただし,2005年に自動車リサイクル法が施行された後はその影響を受けた解体処理が実施されたと考えられるため,同法施行以前の実態を適用した。2003年に実施された調査16)では,使用済み自動車のうち足回りなどを取り除かれたのち,処理物に含まれるCuのうち平均で約40%が鉄スクラップ中に混入すると報告された。そこで,雑品スクラップも60%はCuが分離され,1.6%のCuが混在した鉄スクラップとして国内で消費されたと想定した。このとき,過去のw4はFig.7のように推移していたと推計された。これより,雑品スクラップが国内で処理されていたと仮定すると,2005年頃までは,国内で発生する老廃スクラップの他素材由来のCu含有率は減少していなかったと考えられた。1990年代後半から2005年頃までのw4の減少は,雑品スクラップの輸出によって,発生する使用済み製品を構成する素材構成比においてCu含有率が減少していたためと考えられた。一方,2005年頃以降は,雑品スクラップが国内で処理されていたと仮定しても,w4が更に減少していたと推計された。考えられる要因は,使用済み製品から鉄スクラップを回収する時にCu素材の分離率が向上したことである。この2005年ごろは,自動車リサイクル法の制定や施行時期であり,使用済み自動車の処理におけるCuの分離率が向上したことが考えられた。
Time-series export of scrap-mixed metal (zappin scrap) from Japan to China.
Cu content in obsolete steel scrap derived from other materials,w4, if scrap-mixed metal (zappin scrap) had not been exported and had been treated in Japan.
雑品スクラップの輸出は,国内の鉄リサイクルに混入するCu量に大きく影響を与えてきたことがわかった。日本では,廃棄物の処理および清掃に関する法律の一部を改正する法律(廃棄物処理法改正法)ならびに特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律の一部を改正する法律(バーゼル法改正法)が2017年6月16日に公布され,それぞれ2018年6月,12月までに施行される17,18)。廃棄物処理法改正法では,雑品スクラップの保管に関して一定の管理が実施される。バーゼル法改正法では,雑品スクラップに混在する使用済電気電子機器の一部が該当する有害廃棄物が規制対象物として法的に明確化され,輸出承認が要件化される。他方,中国において,国内で環境汚染を避けるために,廃プラ類を含む24品目の固形廃棄物の輸入を2017年末までに禁止するとした19)。中国政府は,雑品スクラップの輸入も含め,今後さらに輸入規制をする方針を打ち出している20)。
そこで,雑品スクラップが輸出されなくなる将来を想定し,2019年の1年間に国内で生産される鉄鋼材のCu濃度の推計をした。2019年における普通鋼スクラップの排出量を,動的MFA11)により推計した。動的MFAに際し,2019年までの各年のフロー量は,1994年から2013年の平均値とし,その他のパラメータは直近の値のまま変わらないと仮定した。2019年における雑品スクラップ輸出量は2008年と同じ170万トンとし,国内の処理によりCu含有率1.6%の鉄スクラップとして流通するとした。棒鋼以外の品種はTable 1にあるCu濃度で生産され,追加的に増えたCuは,全て棒鋼のCu濃度に影響するとした。
その結果,2019年に生産される棒鋼のCu濃度は0.49%と推計され,許容濃度とされる0.4%7)が満たされないと推計された。そこで,棒鋼がCu濃度の許容濃度を超えないために必要となる雑品スクラップのCuの分離率を推計したところ,76%以上の分離が必要であるとわかった。既存研究15)において,自動車リサイクル法施行前であっても使用済み自動車中のCuはシュレッダにより78%程度が単体分離されるとしている。雑品スクラップには,国内リサイクル市場において採算的に素材の単体分離・回収が困難な処理物が多く含まれている13)ものの,専用の処理プロセスが存在する使用済み自動車における単体分離率と同程度の高い水準で雑品スクラップからCuを分離することを求めていく必要が示された。
1980年代からの普通鋼の生産に随伴するCu量を,その由来別に推計した。発生する老廃スクラップを構成する品種において不純物合金としてのCu値の高い形鋼や棒鋼の比率が上昇し,30年で老廃スクラップのCu値を約0.05%上昇させたとわかった。一方,国内で生産される普通鋼のCu濃度は変化してきていないのは,1990年代後半から他素材からの混入によるCu分が減少してきたためであることもわかった。この混入が回避されてきた大きな要因が,雑品スクラップの輸出であると考えられた。さらに,2005年以降は,使用済み製品が国内で処理される際のCu素材の鉄スクラップからの分離率が向上したことも要因である可能性が示された。
今後,急激な雑品スクラップの輸出規制が生じることが予想され,それらが国内で処理される際には,過去の商業的に見合う処理よりも高いCu分離率での処理を実行しなければ,Cu濃度が許容を超える可能性があることが示された。
本研究の一部は,JSPS科研費基盤B(15H02860),基盤A(15H01750),環境省第III期「環境経済の政策研究」の助成を受けたものです。
雑品スクラップの輸出に関する統計は存在せず,中国への雑品スクラップの輸出分に限っては,鉄スクラップの輸出の一部として含まれていることがわかっている。2008年までは,日本からは鉄スクラップのHSコードで輸出される一方,中国においては銅スクラップのHSコードで輸入されている実態から,日本と中国の鉄スクラップと銅スクラップの貿易統計の差異を利用して推定できるとされる。
日本で報告された中国への鉄スクラップの輸出量−中国で報告された日本からの鉄スクラップの輸入量 式(A)
中国で報告された日本からの銅スクラップの輸入量−日本で報告された中国への銅スクラップの輸出量を式(B)
これらの(A),(B)2式のいずれかを計算することにより日本から中国への雑品スクラップ輸出量を推計することができる。しかし,2009年2月からこの差異がなくなり,それ以来,雑品スクラップの輸出量がこの手法で推計できなくなっている。貿易統計14)よりデータが得られた1992年から2008年において,日本から中国への雑品スクラップ輸出量を(A),(B)それぞれで推計した結果をFig. A1に示す。一般に,貿易統計においては,自国から他国への輸出量に比べ,他国から自国への輸入量は比較的正確に報告されると考えられる。そのため,(A)式の第1項である日本で報告された中国への鉄スクラップ輸出量と,(B)式の第2項である銅スクラップの輸出量には不確実性があると考えた。そこで,(A),(B)両手法により推計された日本から中国への雑品スクラップ輸出量のうち,前述の値の不確実性による影響を受けにくい手法による推計値を採用することとした。
その推計に用いた値である,(A)式の第1項の日本で報告された中国への鉄スクラップの輸出量,(B)式の第2項の日本で報告された中国への銅スクラップ輸出量,に対するそれぞれの手法で推計された雑品輸出量の割合を求めた。その割合が高いほど,その推計に使った値に不確実性があってもその影響を受けにくいため,値が高い方の結果を採用することとした。
その結果,(A)について,求めた割合の絶対値は最も低い年で3%ほどであり,(B)については最も低い年でも250%ほどであった。以上より,雑品スクラップ輸出量の推計値は式(B)による結果を採用した。
Amounts of export of scrap-mixed metal from Japan to China estimated by methods (A) and (B).