Tetsu-to-Hagane
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Casting and Solidification
Simulation of Crack Initiation on the Slab in Continuous Casting Machine by FEM
Keigo Toishi Yuji MikiNaoki Kikuchi
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2018 Volume 104 Issue 9 Pages 486-492

Details
Synopsis:

In continuous casting of steel, prevention of surface cracks on the slab is an important issue. For quantitative evaluation of cracks that occur in the continuous casting machine, the critical strain for crack generation was analyzed by a high-temperature tensile test and FEM simulation. Based on obtained material property values, a model for crack generation by tensile strain was constructed. The local strain at the notch relative to the strain in the whole specimen was determined by a simulation of the tensile test, and the critical strain for crack generation εc was calculated. The results of a crack simulation by FEM using εc showed that the average strain until crack initiation was small under deep notch conditions. The average strain at crack generation calculated by the simulation model was in good agreement with the value measured in the tensile test. As a result of the simulation applying temperature distribution to the slab, the depth change of the oscillation mark was more influential to crack formation than the change of the width. The effect of the shape of the oscillation mark on the crack cannot be organized only by the stress concentration factor. Simulation analysis that includes the shape of the oscillation mark is considered to be effective. Using this simulation model, it is possible to predict the generation of cracking when the temperature distribution or the oscillation mark shape in actual operation changes.

1. 緒言

鋼の連続鋳造においてスラブの表層割れ・内部割れの防止は重要な課題である。スラブの曲げや曲げ戻しの際には鋳片表面に大きな引張り応力が生じ,これがスラブ横割れの原因となる場合がある。過去から鋼の高温脆化の実態解明や鋳片の力学的挙動が数多く研究されてきた110)。鋳片の横割れ防止のために,高温引張り試験で測定した断面収縮率と温度の関係から脆化温度範囲を評価し,脆化温度範囲を回避するように連続鋳造機内で鋳片温度を制御し,特に曲げや曲げ戻しの際に矯正帯で鋳片表面温度が脆化温度範囲に入らないように二次冷却条件を制御するなどの対策が取られている。Awajiyaら11)はフランジ型試験片の圧縮試験を行い,低炭素鋼と極低炭素鋼の断面収縮率(Reduction of area)を測定した。低炭素鋼/極低炭素鋼ともに高温脆化現象が発生すると報告した。

割れ発生限界歪みを測定した従来の研究は,Yasunakaら12)が行った鋼塊の曲げ試験,Hayashiら13)が行った傾斜温度場での高温引張り試験,Fuら14)が行ったフランジ付き試験片の圧縮・割れ試験,松宮ら10)が行った溶融曲げ試験法による割れ発生限界歪みの測定がある。Yasunakaらは,鋼塊の曲げ試験により割れ発生限界歪みεcが1~10%でかつ鋼種依存性があると報告した。Fuらは,フランジ付き試験片の圧縮試験で,Nb含有鋼の割れ発生限界歪みが30%~50%になると報告した。Hayashiらは,凝固シェルの温度分布を模擬した傾斜温度場を持つ引張試験により,割れ発生限界歪みを測定し,切欠き深さの増加に伴い割れ発生の限界歪みは低下すると報告した。松宮らはTL-TSが大きいほど割れ発生限界歪みは小さくなり,固液共存層の厚みが深く,デンドライト樹間の切れ込みの深いほど割れ感受性が高いと報告した。

本報告では連続鋳造機内で発生する割れの定量的な評価のために,高温の引張り試験とシミュレーションにより割れ発生限界歪みを評価するとともに,得られた材料特性値に基づいて,FEMあるいは,構造物の亀裂進展解析等に使われるX-FEMの手法1517)を用いて,連鋳機内の曲げ歪みによる割れ発生を評価するモデルを検討した。

2. 実験と計算方法

2・1 高温引張り試験方法

鋳片の割れ発生限界歪みの評価とシミュレーションで用いる応力−歪み曲線の測定のために,高温引張り試験を実施した。Fig.1に引張り試験片の模式図を示す。試験片は中炭素鋼(C:0.17%)から採取し,全長68 mm,平行部長さ15 mm,平行部径6 mmとし,平行部の中央に幅2 mm,深さ1.5 mmのV状の切欠きを環状に加工した。Fig.2に引張り試験の温度履歴を示す。試験片を室温から一旦δ相の温度域まで加熱し,600 s保持した後,試験温度まで5°C/sで冷却し,試験温度で60 s保持後に引張りを行った。歪み速度は2×10−3/sとした。本試験では,切欠き部を含む平行部長さ15 mm間で発生した歪みを平均歪みとして定義する。割れ発生限界歪みは,引張り試験を試験片が破断する前に停止させて平均歪み量を変化させる試験を行い,試験後の試験片表面を観察して割れの発生を判定した。

Fig. 1.

Schematic views of sample at tensile test.

Fig. 2.

Temperature history at tensile test.

2・2 高温引張り試験のシミュレーション方法

高温引張り試験のシミュレーションモデルをFig.3に示す。シミュレーションモデルは引張り試験片と同様に全長68 mm,平行部長さ15 mm,平行部径6 mmとし,平行部の中央に幅2 mm,深さ1.5 mmのV状の切欠きを環状に作成した。計算次元は3次元で,要素の種類は4節点線形四面体要素を用い,要素数は約30万とした。材料特性値はヤング率,ポアソン比,変形抵抗の実測値を用いた。ヤング率,ポアソン比は共振法により室温~1200°Cまで測定した。外力として試験片両端を変位拘束し,引張りの境界条件を与えた。

Fig. 3.

Simulation model at tensile test by FEM.

2・3 FEMによる割れのシミュレーション方法

X-FEM(拡張有限要素法)とは有限要素法をベースに,(1)式に示すようにその要素内に新たな自由度と内挿関数を付加することで変位の不連続面を定義する解析法であり,物体が応力や歪みを受けた時の破壊,損傷挙動を解析可能である。通常のFEMに対して,メッシュに依存せずにき裂の進展をシミュレーションすることが可能であり,また少ないメッシュ分割数で解析精度を高めることが期待される解析法のため,本論文では割れの発生シミュレーションにX-FEMを適用した。

  
u h ( x ) = I N N I ( x ) [ u I + H ( x ) a I + α = 1 F α ( x ) b I α ] (1)

但し,NI:接点Iに関する形状関数,uIaIbI:接点自由度,H(x):ヘビサイド関数,Fα(x):き裂先端漸近関数である。

損傷発生モデルとしては粘着損傷(Cohesive damage)を用いた。粘着損傷モデルは応力と歪みに基づく損傷発生基準(最大主応力,最大主歪み,最大公称応力)であり,き裂の発生基準と伝播方向はき裂先端前方の要素中心での応力/歪みの値に基づく。(2)式,(3)式に示すように,最大主応力ないしは最大主歪みが限界値f=1に達すると損傷が発生する。

  
f = σ n σ max 0 (2)
  
f = ε n ε max 0 (3)

但し,f:割れ発生限界値,σn:最大主応力,σ0max:割れ発生限界応力,εn:最大主歪み,ε0max:割れ発生限界歪みである。ここで,最大主応力σnが正の時,〈σn〉=σnであり,σnが負の時〈σn〉=0とした。同様に最大主歪みεnが正の時,〈εn〉=εnであり,εnが負の時〈εn〉=0とした。

Fig.4に実機スラブのシミュレーションモデルを示す。鋳片のサイズは鋳造方向に55 mm,厚み方向に20 mmの2次元モデルとし,要素の種類として4節点線形平面ひずみ要素を使用した。鋳造方向の中央に深さ0.2~1.0 mm,幅3 mm~12 mmのオシレーションマークを与えた。鋳片の温度は予め伝熱計算で得られた温度分布を与えた。材料特性値はヤング率,ポアソン比,変形抵抗の実測値を温度に応じて与え,更に高温引張り試験で測定された結果をもとに,鋳片に割れ発生限界歪みを与えた。外力として曲げ歪みを付与したときの,割れが発生する現象をシミュレーションした。二次元のシミュレーションにおいては,オシレーションマークを含む鋳造方向に55 mm間で鋳片表面に生じた歪みの平均値を平均歪みとして定義する。本シミュレーションにおいては割れの伸展については解析せず,オシレーション部の局所歪みが割れ発生限界歪みに達して,割れが発生した時の歪みを評価した。

Fig. 4.

Simulation model at continuous casting slab by FEM.

3. 結果および考察

3・1 高温引張り試験

鋳片の割れ発生限界歪みの評価のために,高温引張り試験を実施した。最初に深さ1.5 mmのV状の環状切欠きを有する引張試験片にて,試験温度600°Cから1100°Cで試験片破断まで引張り試験を行い,断面収縮率(Reduction area,RA)を測定した結果,試験温度800°C付近でRAは極小となった。また,引張り試験で得られた応力−歪み曲線において,最大引張り強さは130 MPa,平均歪み0.035~0.05付近でサンプルが破断した。この結果を基に,最も割れが発生し易い試験温度800°Cで,割れ発生開始と思われる領域(平均歪み0.035~0.05)で引張りを停止する試験を行い,割れ発生限界歪みを評価した。

Table 1に引張りを途中で停止した試験の条件を示す。歪み0.038,0.041,0.044,0.048,0.049の5条件で引張りを停止する試験を実施した。平均歪み0.038で引張りを停止したサンプルでは割れは確認されなかったが,平均歪み0.041を付与した時に切欠きの中央部に割れの発生が確認された。Fig.5-(a)にSEMによる破面観察結果,Fig.5-(b)にその拡大写真を示す。引張り試験後の割れ発生サンプルを液体窒素で冷却し,切欠き部から横方向に破面出しを行った。割れ破面にはディンプルが確認され,延性破壊であったと推定される。Fig.6に光学顕微鏡による割れ部の凝固組織観察結果を示す。引張り試験後の割れ発生サンプルを縦方向に切断し,ナイタール腐食後に組織観察を行った。サンプルの割れは切欠き部から粒界に沿って発生・伸展していることが確認された。

Table 1. Tensile test conditions.
Notch depth (mm) Temperature (°C) Strain
(–)
Stress (Mpa) Crack
Case① 1.5 800 Break 130
Case②-A 1.5 800 0.038 122 No
Case②-B 0.041 131 Yes
Case②-C 0.044 109 Yes
Case②-D 0.048 130 Yes
Case②-E 0.049 123 Yes
Fig. 5.

Fracture morphology of the tensile test sample by SEM.

Fig. 6.

Crack fracture surface by microscope.

3・2 高温引張り試験のシミュレーションによる割れ発生限界歪みの評価

割れ発生限界歪みを評価するために,高温引張り試験のシミュレーションをFEMにより行った。シミュレーションモデルは引張り試験片と同様のサイズで,平行部に切欠き幅2 mm,深さ1.5 mmを持つ丸棒引張り試験片とした。材料物性値として800°Cでの切欠きなし時の引張り試験で得られた応力−歪み曲線を用いた。試験片の温度は800°C一定とし,外力として試験片両端に引張りを付与した。Fig.7にシミュレーションと引張り試験(切欠き1.5 mm)で得られた応力−歪み曲線を示す。シミュレーションで得られた応力−歪み曲線は,引張り試験の応力−歪み曲線と良く一致した。

Fig. 7.

Stress-strain curve obtained by simulation and measured.

次に,割れ部に局所的に付与される歪みを評価するために,シミュレーションで平均歪みに対する切欠き部の局所歪みを算出した。Fig.8にシミュレーションによる平均歪みと切欠き部の局所歪みの関係を示す。引張り試験での割れ発生歪み(0.041)のときのシミュレーションでの切欠き部の局所歪みを,割れ発生限界歪み0.3(εc)として決定した。Fig.9にHayashiら,Fuらによる割れ発生限界歪みの測定結果13)を示す。Hayashiらは引張り試験片側面の評点間隔の変化から割れ発生時の平均歪みを評価しており,本論文で求められた局所歪みとは単純に比較できないが,Hayashiら,Fuらによって求められた割れ発生限界歪みは12~30%であり,今回引張り試験とシミュレーションで求めた局所的な割れ発生限界歪みは30%(800°C,C=0.17%)であった。

Fig. 8.

Relation between average strain and local strain at notch by the simulation.

Fig. 9.

Critical strain as influenced by cool side temperature (Hayashi, Fu et al.).

3・3 割れ発生シミュレーション

高温引張り試験とシミュレーションによって得られた割れ発生限界歪みを用いて,引張り試験での割れ発生のシミュレーションをX-FEMにより行った。材料物性値として800°Cでの切欠きなし時の引張り試験で得られた応力−歪み曲線を用い,割れ発生限界歪みを0.3とした。試験片の温度は800°C一定とし,外力として試験片両端に引張りを付与した。Table 2に示すように切欠き幅2 mmで切欠き深さ0.5 mm~2 mmの条件と,切欠き深さ1.5 mmで切欠き幅1.0 mm~3.0 mmの条件で引張り試験時の割れ発生をシミュレーションした。

Table 2. Condition of simulation at tensile test.
Notch depth (mm) Notch width (mm) Temperature (°C) Critical strain (–)
Case-A 0.5 2.0 800 0.3
Case-B 1.0
Case-C 1.5
Case-D 2.0
Case-E 1.5 1.0
Case-F 1.5 3.0

Fig.10に切欠き深さ1.5 mmでの最大主応力分布図と切欠き部の拡大図を示す。試験片両端部の引張りによって切欠き中央部での割れの発生が確認された。Fig.11にシミュレーションによる切欠き深さと切欠き部が割れ発生限界歪みに達して割れが発生したときの平均歪みを示す。切欠きが深いほど割れ発生までの歪みが小さい結果となった。また,切欠き深さ1.5 mmでの割れ発生時の平均歪みは0.04程度であり,この結果は引張り試験での割れ発生時の平均歪み0.041と非常に良く一致している。Hayashiら13)は角棒状試験片の一面にV溝と半円溝の形状を加工し,傾斜温度場引張り試験によって割れ発生限界歪みに及ぼす表面溝形状の影響を調査した。この結果では割れ発生限界歪みに及ぼす溝形状の影響は観察されず,溝深さだけに依存し,平滑な面では約35%,0.5~1 mmの溝をつけると10%まで低下することを報告している。実験方法と割れ発生限界歪みの評価方法に違いはあるが,本方法でも表面切欠きは割れ発生限界歪みを低下させ,オシレーションマーク深さが割れ発生に大きな影響を及ぼしていることを示している。

Fig. 10.

Maximum principal stress distribution of tensile test in simulation (notch:1.5 mm, deformation×5).

Fig. 11.

Relation between average strain at generation of crack and notch depth by the simulation (notch width=2 mm).

Fig.12にシミュレーションによる切欠き幅と割れ発生までの平均歪みを示す。切欠き幅が狭いほど割れ発生までの歪みが小さい傾向であったが,その影響は切欠き深さよりも小さい結果となった。Maeharaら18)は低合金鋼の高温延性に及ぼす切欠形状の影響を調査し,切欠深さの変化により強度が上昇し,延性は低下したが,切欠きの鋭さ(応力集中係数)の影響は小さいと報告した。今回のFig.11Fig.12に示す切欠き付き引張り試験のシミュレーションにおいても,割れ発生までの平均歪みは切欠き幅の影響よりも切欠き深さの影響が大きく,過去の知見と同様の傾向であった。

Fig. 12.

Relation between average strain at generation of crack and Notch width by the simulation (notch depth=1.5 mm).

次に,高温引張り試験とシミュレーションによって得られた割れ発生限界歪みを用いて,連鋳機内の実機スラブを模擬した割れ発生のシミュレーションを行った。3次元の引張試験で得られた割れ発生限界局所歪みを2次元の実機鋳片のオシレーションマーク形状を模擬した解析に用いることは両者の応力多軸度に違いはあるものの,オシレーションマーク形状が割れ発生に及ぼす影響を定性的に評価する方法としては妥当と考え,実験で得られた割れ発生限界歪みをオシレーションマーク部での割れ発生評価のシミュレーションに適用した。伝熱計算はFEMを用い,割れ発生のシミュレーションはX-FEMを用いて計算した。Fig.13に伝熱計算で得られた上部矯正帯相当の鋳片の温度分布を示す。温度分布を応力解析の鋳片に付与した。Fig.14にオシレーションマーク深さを変更した時の応力集中係数と割れ発生時の平均歪みの関係を示す。割れ発生時の平均歪みは,オシレーションマーク部が割れ発生限界歪みに達して割れが発生したときの,長さ55 mmの鋳片表面の歪みの平均値であり,オシレーションマーク深さ0.6 mm,幅4 mmの条件を基準とする指数とした。同時に各条件でのシミュレーションでの割れ発生時の最大主応力分布の例を(a)~(c)に示す。応力集中係数はオシレーションマーク深さおよびオシレーションマーク先端部の曲率から以下の式によって求めた19,20)

  
α = 1 + 2 a ρ (4)

α:応力集中係数(−),a:オシレーションマーク深さ(mm),ρ:曲率半径(mm)である。

Fig. 13.

Temperature distribution at upper bending point by heat transfer analysis.

Fig. 14.

Relationship between crack generation strain and stress concentration factor by changing oscillation mark depth (width=4 mm).

オシレーションマーク深さの増加,あるいはオシレーションマーク幅の減少により応力集中係数は増加する。Fig.15からオシレーションマーク深さが深く,応力集中係数が大きいほど割れが発生するまでの平均歪みは小さい傾向が得られた。これは今回の引張り試験での切欠き深さと割れ発生までの歪みの関係と一致し,温度分布を考慮してもオシレーションマークが深いほど割れが発生し易い傾向は変わらなかった。

Fig. 15.

Relationship between crack generation strain and stress concentration factor by changing oscillation mark width (Depth=0.6 mm).

Fig.15にオシレーションマーク幅を変更した時の応力集中係数と割れ発生時の平均歪みの関係を示す。オシレーションマーク幅の減少により応力集中係数は増加し,割れ発生時の平均歪みは減少するが,その影響はオシレーションマーク深さが増加した時よりも小さい結果となった。すなわち,オシレーションマーク形状が割れ発生時の平均歪みに及ぼす影響は,オシレーションマーク幅を変化させた時よりも,オシレーションマーク深さを変更した時の応力集中係数の変化の影響が大きく,オシレーションマーク形状においては幅よりも深さが重要であることが分かる。また,今回の結果から割れに対するオシレーションマーク形状の影響は応力集中係数のみでは一義的に整理できないことが分かる。従って,シミュレーション等で実際のオシレーションマーク形状を入力し,割れ発生時の歪みを評価する手法が有効であると考えられる。本シミュレーションによって,実操業での温度分布やオシレーションマーク形状が変化した際の割れ発生を予測できる可能性がある。

4. 結言

高温引張り試験とFEMによる割れのシミュレーションにより,以下の知見を得た。

(1)高温引張り試験にて予備試験での割れ発生開始と思われる領域(平均歪み0.035~0.05)で引張りを停止し,歪み0.041付近で切欠き中央部での割れの発生を確認した。引張り試験を模擬したシミュレーションにより,試験片の平均歪みに対する切欠き部の局所歪みを算出した。実測の割れ発生時の平均歪み(0.041)が付与されたときの,シミュレーションで求められた切欠き部の局所歪みを,割れ発生限界歪みεc0.3として算出した。

(2)FEMにより,測定された割れ発生限界歪み(0.3)を物性値として,切欠きを持つ引張り試験片の割れの発生をシミュレーションした結果,シミュレーションによる割れ発生時の平均歪みと,実測の割れ発生歪み(0.041)は良く一致した。また,切欠きが深いほど割れ発生までの平均歪みは小さく,その影響は切欠き幅よりも大きかった。

(3)実機相当温度のスラブに歪みを付与したシミュレーションの結果,オシレーションマーク深さが深いほど割れ発生時の平均歪みは小さく,温度分布を考慮してもその傾向は変わらなかった。また,割れに対するオシレーションマーク形状の影響は幅の変化よりも,深さの変化の影響が大きかった。割れに対するオシレーションマーク形状の影響は応力集中係数のみでは一義的に整理できず,シミュレーション等によるオシレーションマーク形状を入力した解析が有効であると考えられる。

本シミュレーションによって,実操業での温度分布やオシレーションマーク形状が変化した際の割れ発生を予測できる可能性がある。

文献
 
© 2018 The Iron and Steel Institute of Japan

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