Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
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ISSN-L : 0021-1575
Mechanical Properties
Mechanical Investigation on Interface Failure Mechanisms of Dissimilar Welded Joints
Takuya Yamashita Hayato YamashitaYuji Nagae
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2019 Volume 105 Issue 1 Pages 96-104

Details
Synopsis:

2 types of dissimilar welded joints (DWJ), Mod.9Cr-1Mo steel / Alloy 600 / SUS304, which were differential heat input during welding to the ferrite steels were manufactured in this study. Welding methods for Mod.9Cr-Mo steel were used Plasma Arc Welding (PAW) and GTAW, respectively. Constitutions of the heat affected zone (HAZ) formed in Mod.9Cr-1Mo steel were different in PAW and GTAW. The coarse grain HAZ (CGHAZ) was formed in Mod.9Cr-1Mo steel adjacent to Alloy 600 in the dissimilar welded joint by PAW (PAW_DWJ). In contrast, the fine grain HAZ (FGHAZ) was formed in Mod.9Cr-1Mo steel adjacent to Alloy 600 in the dissimilar welded joint by GTAW (GTAW_DWJ). Specimens were sampled from Mod.9Cr-1Mo steel / Alloy 600 part. Creep tests were conducted at 550°C. In creep tests, a GTAW_DWJ failed at the interface, the PAW_DWJs failed at Mod.9Cr-1Mo steel part i.e. not at the interface. Therefore, the Speckle Image Correlation Analysis (SPICA) and the Finite Element Method (FEM) in specimens were carried out to analyze the deformation behavior of the HAZ to focus on mechanical factors of the interface failure mechanisms. SPICA revealed that the concentration of strain in the PAW_DWJ was issued the width of CGHAZ away from interface. The analysis combined with FEM results suggests that slow creep strain rate of CGHAZ formed adjacent to Alloy 600, the difference in creep strain rate between Mod.9Cr-1Mo steel and Alloy 600 was able to be mitigated. As a result, a noticeable shear stress causing interface failure wasn’t issued in the PAW_DWJ.

1. 緒言

火力・原子力発電プラントでは,高熱効率と経済性が求められる。そのため,高温部ではクリープ強度と耐酸化性に優れたオーステナイト鋼,低温部では経済性に優れたフェライト鋼が使用される。これら両鋼を繋ぐため,異材溶接継手(Dissimilar Welding Joint; DWJ)が必ず存在する。フェライト鋼とオーステナイト鋼の溶接材料には,Alloy 600を用いる。Alloy 600の線熱膨張係数はフェライト鋼とオーステナイト鋼の中間であり,熱膨張係数の差違による界面での応力集中を低減することが出来る1,2)

フェライト鋼/オーステナイト鋼異材溶接継手のクリープ破断位置は,試験条件により変化する。次世代型高速炉および火力プラントの使用温度条件である550°Cでは,フェライト鋼とAlloy 600の界面で破断が生じる研究結果が報告されている113)。これらの研究結果の報告はGas Tungsten Arc Welding(以下,GTAW)およびShielded Metal Arc Weldingにより製作された異材溶接継手を用いている。

異材溶接継手の界面破断メカニズムについては多数の研究が行われているが,解明に至っていない。界面破断メカニズムは,力学的および冶金学的要因に分けて考えられる。力学的要因としては,異材界面に生じるせん断応力が挙げられる2,3)。冶金学的要因としては,異材界面に平行なType I炭化物が析出・成長し,粗大な(>1 μm)Type I炭化物近傍にキャビティが発生すること9,10),界面に沿った酸化物に起因した亀裂進展が挙げられる4,6,12,13)

本研究では,フェライト鋼への溶接時の入熱量が異なる2種類の異材溶接継手を製作した。溶接材料にはAlloy 600,フェライト鋼には改良9Cr-1Mo鋼,オーステナイト鋼にはSUS304を使用した。溶接には高入熱であるPlasma Arc Welding(以下,PAW)および低入熱であるGTAWをそれぞれ使用した。改良9Cr-1Mo鋼に形成された熱影響部(Heat Affected Zone:以下,HAZ)の組織はPAWとGTAWとで異なっていた。異材溶接継手の界面破断の報告があるのは改良9Cr-1Mo鋼とAlloy 600間であるため,改良9Cr-1Mo鋼/Alloy 600部を用いて試験片を製作し,550°Cのクリープ試験を実施した。試験より,GTAWを使用した試験片は界面破断し,PAWを使用した試験片は界面破断しないという結果が得られた。そのため,HAZのひずみ分布計測および有限要素解析(Finite Element Analysis;FEA)を実施し,異材溶接継手の改良9Cr-1Mo鋼に形成されるHAZの変形挙動に着目し界面破断メカニズムを力学的観点で分析した。

2. 異材溶接継手の製作および試験片の採取

フェライト鋼/オーステナイト鋼異材溶接継手のフェライト鋼には,高温強度特性に優れる改良9Cr-1Mo鋼,異材溶接部の溶接材料は欧州において実績のあるAlloy 600を用いた。ステンレス鋼にはSUS304を用いた。使用した材料の化学成分範囲をTable 1に示す。改良9Cr-1Mo鋼はJSME2016年版高速炉規格14)およびASME2015 Grade91(SA-387)15)の化学成分範囲を満たしている。SUS304の化学成分はASME2015 304(SA-240)15)の化学成分範囲を満たしている。Alloy 600の化学成分はASME SFA5.14 Class ERNiCr-316)の化学成分範囲を満たしている。

Table 1. Chemical compositions of Mod. 9Cr-1Mo steel, SUS304 and Alloy 800. (mass%)
MaterialsCSiMnPSNiCrCuFeMoVNNb+TaTi
Mod.9Cr-1Mo steel0.080.260.450.0060.0010.18.890.950.220.066
SUS3040.050.560.90.0310.0028.0718.82
Alloy 600 (PAW)0.030.202.990.0030.00272.0418.420.012.762.770.43
Alloy 600 (GTAW)0.030.203.020.0030.00274.6918.410.010.522.670.33

PAWおよびGTAWにより,異材溶接継手をそれぞれ製作した。PAWはGTAWと比べ,入熱量が高いという特徴がある。溶接施工条件をTable 2に示す。

Table 2. Procedure of welding.
PAW_DWJGTAW_DWJ
WeldPAW butteringButt weld by GTAWGTAW butteringButt weld by GTAW
GrooveUU
Welding current (A)220130-250280-300150-250
Arc voltage (V)3511-1210.511-12
Welding speed
(cm/min)
9888
Heat input (kJ/cm)5111-2322-2411-23
Interpass temp. (ºC)≦200≦177≦200≦177
PWHT740ºC×2 h740ºC×2 h740ºC×2 h

溶接施工は下記の手順で実施した;

①改良9Cr-1Mo鋼にAlloy 600をバタリング溶接(PAW or GTAW)

②720°C×2 hの溶接後熱処理後,炉冷

③Alloy 600バタリング部およびステンレス鋼を両側U字開先に加工

④開先を突き合わせて本溶接(GTAW)

製作した異材溶接継手の断面マクロ写真をFig.1に示す。製作した異材溶接継手はJIS Z 2343(2001)浸透深傷検査およびJIS Z 3104(1995)放射線探傷検査を実施し,欠陥指示がないことを確認した。

Fig. 1.

Cross-section view of the dissimilar welded joints.

既往研究において,異材溶接継手の破断は改良9Cr-1Mo鋼部又は改良9Cr-1Mo鋼とAlloy 600の界面で生じている。本研究では,破断が生じる改良9Cr-1Mo鋼/Alloy 600から試験片を採取した。試験片は平行部直径6 mm,標点距離30 mmの中実丸棒試験片とし,試験片標点距離の中心に改良9Cr-1Mo鋼とAlloy 600の境界面が位置する様に採取した。試験片の採取位置をFig.2に示す。

Fig. 2.

Sampling location of specimens from the dissimilar welded joints.

3. 熱影響部の定義

PAWを用いて施工した改良9Cr-1Mo鋼/Alloy 600異材溶接継手(以下,PAW_DWJ)とGTAWを用いて施工した改良9Cr-1Mo鋼/Alloy 600異材溶接継手(以下,GTAW_DWJ)では,入熱量の違いによりHAZの組織と形成範囲が異なる。

PAW_DWJおよびGTAW_DWJの結晶粒径分布およびビッカース硬さ分布をFig.3に示す。計測はどちらも,継手表面から1/4 tで行った。本研究において改良9Cr-1Mo鋼に形成されたHAZの範囲を,結晶粒径が改良9Cr-1Mo鋼母材部の平均値(0.02 mm)となる位置までと定義する。この位置はビッカース硬さにおける最軟化部に対応している。改良9Cr-1Mo鋼に形成されたHAZ範囲は,PAW_DWJが7 mm,GTAW_DWJが5 mmとなっていた。

Fig. 3.

Hardness and crystalline particle diameter distribution in the dissimilar welded joints.

PAW_DWJおよびGTA_DWJの光学顕微鏡による断面ミクロ観察をFig.4に示す。断面ミクロ観察は継手の表面から1/4 t位置で実施した。PAW_DWJの界面近傍には,GTAW_DWJに比べ粗粒なHAZが形成されている。HAZの組織を結晶粒径が改良9Cr-1Mo鋼母材の平均値より高いものをCGHAZ(一般的に炭素鋼のCGHAZは溶融線直下の組織を指すため,本報告で示すCGHAZは一般的な炭素鋼における定義とは異なる),低いものをFGHAZと定義する。PAW_DWJのCGHAZおよびFGHAZはそれぞれ2 mm,5 mm,GTAW_DWJのCGHAZおよびFGHAZはそれぞれ0 mm,5 mmとなっていた。

Fig. 4.

Microstructure at HAZ of Mod. 9Cr-1Mo steel in the dissimilar welded joints.

4. クリープ破断試験

クリープ破断試験はJIS Z 2271に従い実施した。クリープ破断試験条件は550°C,応力は163~230 MPaの範囲とした。応力−破断時間の関係を,JSME高速炉規格改良9Cr-1Mo鋼板・鍛鋼品の平均傾向14)および改良9Cr-1Mo鋼同材溶接継手の平均傾向17)とともに,Fig.5に示す。試験温度550°Cにおける異材溶接継手の強度は,母材に比べて低く,改良9Cr-1Mo鋼同材溶接継手の強度と同程度である。PAW_DWJとGTAW_DWJのクリープ強度を比較すると,PAW_DWJの方が低い傾向が見られる。破損様式については,PAW_DWJが母材又はHAZ破断であるのに対し,GTAW_DWJでは母材破断に加えて界面破断も生じた。GTAW_DWJの界面破断は温度550°C,応力190 MPaの試験条件で生じている。破断伸び−破断時間の関係をFig.6に示す。同材溶接継手は既往知見により,Type-IV破断による延性低下が報告されている1820)。異材溶接継手についても同様にType-IV破断の影響による延性低下が見られる。PAW_DWJおよびGTAW_DWJの延性低下傾向はほぼ同等であるが,界面破断したGTAW_DWJはその傾向から外れ,顕著な延性低下が見られる。温度550°C,応力190 MPaの条件で試験したPAW_DWJおよびGTAW_DWJの試験片断面観察結果をそれぞれFig.7Fig.8に示す。PAW_DWJはHAZで延性的に破断し,界面に亀裂は生じていない。一方,GTAW_DWJは,試験片全体に大きな変形はみられず,脆性的に破断している。改良9Cr-1Mo鋼側およびAlloy600側の破断面を観察しても,明確に界面で破断しており,一般的に異材溶接接手の界面破断の要因の1つとして考えられている,界面近傍での粗大なType-I炭化物(1 μm以上)の析出・成長は見られなかった。亀裂は試験片表面で生じ,界面に沿って試験片中心方向に伝搬したと考えられる。亀裂の進展はある程度ゆっくりと進行したと考えられ,界面には酸化被膜の形成が見られた。異材界面に生じる酸化被膜の成長については,界面破断を促進する可能性があることが報告されている12,13)

Fig. 5.

Creep life of PAW_DWJ and GTAW_DWJ at 550ºC.

Fig. 6.

Creep ductility of PAW_DWJ and GTAW_DWJ at 550ºC.

Fig. 7.

Cross-section view of PAW_DWJ at 550ºC 190 MPa, tR=5122 h.

Fig. 8.

Cross-section view of GTAW_DWJ at 550ºC, 190 MPa, tR=5093 h.

異材溶接継手の界面破断における力学的要因としては,異材界面に生じるせん断応力が挙げられる。異材溶接継手のように不均質で構成された突合せ溶接継手が引張りを受けた場合,負荷応力レベルが低強度部の降伏強さをこえると,低強度部で塑性変形が始まり,母材と中間層の間に大きな変形量が生じ,接合界面では変位を等しくするようなせん断応力が生じることが報告されている3)。高温の一定荷重によるクリープ破断試験においても時間依存の塑性変形が時々刻々と進行し,異材界面に同様なせん断応力が生じる。改良9Cr-1Mo鋼のHAZはクリープ変形量が大きいことから,せん断応力も大きいことが報告されている21)。また,高温の長時間クリープ試験では,界面近傍に生じるせん断応力の影響よりも,改良9Cr-1Mo鋼HAZ細粒域での炭化物の凝縮・粗大化およびクリープボイドの生成によるクリープ損傷(Type-IV損傷)の影響が大きいため,HAZ細粒域で破断が生じることが報告されている3)

5. ひずみ分布計測

クリープ破断試験において,PAW_DWJが界面破断を生じなかった理由として,PAW_DWJとGTAW_DWJとでHAZ組織が異なることにより,クリープ変形挙動に違いが出たため,異材界面におけるせん断応力の影響が異なったことが考えられる。そこで,GTAW_DWJが界面破断したクリープ試験条件(550°C,190 MPa)で,クリープ試験中のPAW_DWJとGTAW_DWJのHAZの変形挙動を把握するため,HAZのひずみ分布計測を実施した。HAZのひずみ分布計測にはSpeckle Image Correlation Analysis(以下,SPICA法)を使用した。SPICA法はレーザー光を物体の表面に当てた際に生じるスペクトル模様を変形の前後で撮影し,画像相関解析により発生した変位を計測する方法である22)Fig.9にスペクトル模様を付与した試験片を示す。試験片は平行部幅8 mm,厚さ3.5 mm,標点距離30 mmの板型試験片とし,試験片標点距離の中心に改良9Cr-1Mo鋼とAlloy 600の境界面が位置する様に,継手表面から1/2 tの位置より採取した。白金箔は試験片に多点溶接により溶接し,ショットブラストによりスペクトル模様を付与した。4章に示すクリープ試験で用いた試験片と試験片形状が異なるのは,白金泊を貼るには試験片表面を平面とする必要があったためである。

Fig. 9.

Overview of the specimen for using SPICA.

PAW_DWJおよびGTAW_DWJのSPICA法によるひずみ分布計測結果をFig.10に示す。SPICA法によるひずみ分布計測は試験片の軸方向に対して実施した。PAW_DWJについては,FGHAZあるいは母材の領域である異材界面から約7 mmを中心にひずみが集中する。ひずみの集中は,クリープ試験時間経過と共に大きくなる傾向を示した。界面近傍に形成されたCGHAZおよびAlloy 600については,クリープ試験開始から終了までひずみが集中せず,クリープ試験時間経過におけるひずみの変化も殆ど無い。GTAW_DWJについては,クリープ試験時間経過に伴い,異材界面から約6 mmの位置にひずみ集中がやや見られるようになる。しかし,PAW_DWJと比較すると,全体的にひずみが小さく,PAW_DWJほど顕著なひずみ集中を示さなかった。

Fig. 10.

Strain distribution in dissimilar welded joint by SPICA.

SPICA法により得られた異材溶接継手のひずみ分布より,PAW_DWJについては,Alloy 600とCGHAZのひずみは同程度であり,Alloy 600とCGHAZとの間のクリープ変形量の差は小さいため,界面破断に寄与する様な大きなせん断応力が生じておらず,界面破断し辛い状態であると考えられる。また,界面から離れたFGHAZあるいは母材で顕著にひずみが集中することで,クリープ変形により率先してFGHAZあるいは母材で破断するため,界面破断を生じないと考えられる。一方,GTAW_DWJについては,PAW_DWJと比較すると,全体的にひずみが小さいこともあり,Alloy 600とFGHAZのひずみの差はあまり大きいとは言えないが,PAW_DWJにおけるAlloy 600とCGHAZのひずみ差より大きいため,界面に生じるせん断応力はPAW_DWJと比べ大きいと考えられる。また,PAW_DWJの様に界面から離れた所で顕著なひずみ集中もないため,界面に生じるせん断応力が大きく影響し,界面破断を生じると考えられる。

6. 有限要素解析結果および考察

クリープ試験時のひずみおよびせん断応力分布状態を把握するために,有限要素解析を実施した。解析条件は,GTAW_DWJで界面破断が生じた温度550°C,応力190 MPaとした。解析ソフトには汎用非線形構造解析システムFINAS ver.21を使用した。解析モデルをFig.11に示す。解析モデルは,8節点四辺形3次元膜応力要素(QMEM8)の12000エレメント,36681ノードとした。PAW_DWJの構成要素は,Alloy 600および改良9Cr-1Mo鋼(CGHAZ,FGHAZ,母材)とした。GTAW_DWJの構成要素はAlloy 600および改良9Cr-1Mo鋼(FGHAZ,母材)とした。PAW_DWJとGTAW_DWJの解析モデルは,クリープ試験片の対称性を考慮して,平行部をモデル化(ハーフモデル)したものであり,実際の試験片と同様に,構成要素およびHAZ幅が異なっている。弾塑性クリープ解析では,弾塑性構成則を2直線近似した等方硬化則を仮定し,Misesの降伏条件を採用した。各構成要素の機械的特性(弾塑性構成則およびクリープ構成則)をTable 3に示す。Table 3に示すAおよびnは,それぞれ(1)式のノートン則におけるクリープ係数および指数である。

  
ε˙=Aσn(1)
Fig. 11.

Finite element model of dissimilar welded joints.

Table 3. Mechanical properties of Mod.9Cr-1Mo steel and Alloy 600 at 550ºC.
Poisson coefficientYoung’s modulus
[Gpa]
Yield stress
[MPa]
Work hardening coefficient [MPa]A
[MPa–nh–1]
n
Mod.9Cr-1Mo steelBM0.306124.835041361.00 × 10–258.75
CGHAZ0.306121.432339479.24 × 10–3512.7
FGHAZ0.306121.437265671.27 × 10–5420.2
Alloy 600 (Alloy 71823))0.301112.924517325.24 × 10–6623.3

改良9Cr-1Mo鋼各要素の機械的特性については,異材溶接継手より通常サイズの試験片および微小試験片を採取し取得したものである。Alloy 600については,引張特性は異材溶接継手より微小試験片を採取し取得したものであるが,クリープ特性については十分なデータが無いため,同じニッケル基合金であるAlloy 718のデータを用いている23)。異材溶接継手と同材溶接継手のクリープ強度がほぼ同等であることから,温度・応力条件におけるクリープ破断時間を同材溶接継手のクリープ破断関係式より算出し,破断に至ると予想される時間(約5000 h)までのクリープ解析を実施した。異材溶接継手は,材料特性の異なる改良9Cr-1Mo鋼母材,HAZおよびAlloy 600からなることから,単軸負荷条件であるにも拘わらず,ひずみおよびせん断応力は複雑な分布状態となる。PAW_DWJとGTAW_DWJのひずみおよびせん断応力は,外表面におけるQMEM要素の正規化した座標系の積分点で最も大きい値を示す。この最大点を通る軸方向に沿っての,ひずみおよびせん断応力分布をFig.12およびFig.13にそれぞれ示す。

Fig. 12.

Strain distribution in dissimilar welded joints (550ºC, 190 MPa).

Fig. 13.

Shear stress distribution in dissimilar welded joints (550ºC, 190 MPa).

ひずみについては連続的にみると,PAW_DWJでは,異材界面においてCGHAZがAlloy 600と接するため,Alloy 600と改良9Cr-1Mo鋼間のクリープひずみ速度差が,FGHAZとAlloy600が接する場合に比べて緩和され,界面近傍におけるひずみの集中が回避される。一方,GTAW_DWJでは,異材界面においてクリープひずみ速度差が大きいAlloy 600とFGHAZが接することで,クリープひずみ速度が速いFGHAZが極端に変形してしまい,界面近傍のFGHAZでクリープひずみが集中する。有限要素解析により得られたひずみとSPICA計測により実測したひずみを比較すると,解析モデルは各要素の機械的特性の不連続により各要素の境界でピークが出てしまう。これは,SPICA計測により実測したひずみの分解能が,有限要素解析よりも低いためであると考えられる。この影響を除いて考えると,解析により得られたひずみ分布の様相はSPICA計測により実測したひずみ分布と同様であり,本解析は実現象を再現出来ているといえる。

せん断応力については,GTAW_DWJの場合,Alloy 600とFGHAZの間で大きな値を示している。これは,SPICAひずみ分布計測結果および有限要素解析の結果からも分かる通り,Alloy 600とFGHAZのひずみの差が大きい為である。この大きなひずみの差により生じる界面でのせん断応力は,力学的要因として界面破断に大きく寄与するものと考えられる。一方,PAW_DWJの場合,Alloy 600とCGHAZ間およびCGHAZとFGHAZ間で大きなせん断応力を示している。PAW_DWJの界面におけるせん断応力については,CGHAZによりひずみが抑えられることで,GTAW_DWJと比べて小さいものとなり,界面破断にいたる程の影響を及ぼさないと考えられる。ここで,界面破断が生じなかった温度550°C,応力210 MPaのせん断応力の有限要素解析の結果をFig.14に示す。GTAW_DWJの破断時の界面のせん断応力は応力190 MPaのものと比較し,幾分小さく,PAW_DWJの破断時の界面のせん断応力はほとんど見られない。加えて,GTAW_DWJ,PAW_DWJとも,試験応力が低応力になると,界面のせん断応力がやや高くなる傾向が見られた。

Fig. 14.

Shear stress distribution in dissimilar welded joints (550ºC, 230 MPa).

以上の結果より,GTAW_DWJがクリープ試験において界面破断が生じた力学的要因として,クリープひずみ速度が大きく異なるAlloy 600とFGHAZが接することで,Alloy 600から改良9Cr-1Mo鋼にかけてのひずみの差が大きくなり,界面に大きなせん断応力が働くことが考えられる。一方,PAW_DWJは高入熱溶接により,クリープひずみ速度がFGHAZと比べて遅いCGHAZがAlloy 600とFGHAZの間に形成する。これにより,Alloy 600とFGHAZ間のひずみが緩和し,界面におけるせん断応力が抑えられたため,界面破断を回避したと考えられる。

7. 結言

GTAWおよびPAWの2種類の方法によりそれぞれバタリング溶接した異材溶接継手(改良9Cr-1Mo鋼/Alloy 600)を製作し,試験温度550°Cのクリープ試験を実施した。加えて,界面破断における力学的要因を明らかにするために,SPICA法によるひずみ分布計測および有限要素解析を実施し,以下の知見が得られた。

(1)異材溶接継手の結晶粒径分布計測の結果から,GTAW_DWJは界面近傍の改良9Cr-1Mo鋼に細粒の組織(FGHAZ)を形成するのに対し,PAW_DWJはバタリング溶接時の高入熱の影響により,粗粒の組織(CGHAZ)を形成することが分かった。

(2)試験温度550°Cにおける異材溶接継手のクリープ強度は,母材に比べて低く,同材溶接継手の強度と同程度であることが分かった。また,応力190 MPaの試験条件でGTAW_DWJは界面破断を生じ,他の破壊形態に比べて顕著な延性低下が見られることが分かった。

(3)SPICA法によるひずみ分布計測の結果,GTAW_DWJは全体的にひずみが小さいのに対し,PAW_DWJは界面から離れたFGHAZあるいは母材で顕著にひずみが集中することが分かった。

(4)有限要素解析の結果より,PAW_DWJはクリープひずみ速度がAlloy 600とFGHAZの間であるCGHAZを界面近傍に形成することで,界面から離れた点にひずみが集中し,界面破断の要因となる大きなせん断応力が界面で発生しないことが分かった。それに対しGTAW_DWJは,クリープひずみ速度差が大きく異なるAlloy 600とFGHAZが接しているため,クリープの進行によりAlloy 600とFGHAZのひずみ差が大きくなり,大きなせん断応力が生じるため,界面破断が生じることが分かった。

(5)有限要素解析の結果より,試験応力が低応力になると,界面のせん断応力がやや高くなる傾向が見られた。これより,低応力になるほど,界面破断が起こりやすくなる可能性がある。しかし,PAW_DWJにおいて,低応力長時間の試験でHAZ破断が見られたことから,界面破断は母材あるいはHAZ破断が起こるよりも早期に,界面に働くせん断応力がある閾値に達するとことで生じると考えられる。

文献
 
© 2019 The Iron and Steel Institute of Japan

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