2019 Volume 105 Issue 1 Pages 38-47
The microstructure of the bonding interface was investigated for a roll bonded 2-ply clad sheet of 16Cr-stainless steel and aluminum. Structural changes with heat treatment performed after roll-bonding were also investigated. At the bonding interface of as-rolled specimen, intermediate layer with a thickness of about 20 nm is formed. This intermediate layer is uniform without breakage, but has an uneven interfacial surface, consisting of a mixture of various oxides. Since there is no direct contact between the base metal at this bonding interface and atomic diffusion beyond the intermediate layer is not observed, it is considered that the clad sheet is bonded via this intermediate layer. When the heat treatment is performed at a temperature of 300 to 500 degree of centigrade after rolling, the bonding strength increased because the internal structure of the intermediate layer is reconstituted into a uniform layer with the same thickness of about 20 nm consisting of mainly Al amorphous oxides and α-Fe separated into islands inside the intermediate layer. At this time, atomic diffusion beyond the intermediate layer does not occur, presumably owing to the role of the intermediate layer as a diffusion barrier. Furthermore, when the heat treatment temperature rises to 550 degree of centigrade or higher, intermetallic compounds of θ-FeAl3 and η-Fe2Al5 are formed at a thickness of around 10 μm at the joining interface resulting in the interfacial fracture between these intermetallic compounds and the aluminum base metal.
圧延法で接合されたクラッド板は,強固で均一な接合強度を有するとともに大量生産に適することから,様々な組み合わせの実用材料が個々の特性に応じた高機能材料として活用されている。中でもステンレス鋼とアルミニウムとの圧延接合においては,素材の温度を高めることによってアルミニウムが容易に軟化するために,簡便に接合性を高めることが可能となる。その際,アルミニウムを軟化させるために必要な200°C~400°C程度の温度域においてステンレス鋼とアルミニウムの両方がともに十分な耐酸化性を有することから,本手法は特別な真空設備や雰囲気加熱炉を必要とせず,大気中での圧延接合が可能である点で,工業的な生産性に優れている。このように製造されたステンレス鋼とアルミニウムとのクラッド板は,ステンレス鋼が持つ強度特性や耐食性に加えて,アルミニウムが持つ軽量性や熱伝導特性とを兼ね備えた高機能材料として利用されている1)。
これまで,圧延法で接合されたクラッド板について様々な接合機構が議論されており,ステンレス鋼とアルミニウムとのクラッド板についても多くの議論がなされている2–5)。代表的なものとして,例えばSUS304Lステンレス鋼とA1050アルミニウムの素材を冷間圧延した場合には,素材304Lステンレス鋼の表面に存在した硬化層が,接合前のブラッシング処理および圧延加工によって分断されて亀裂を生じ,形成された谷間に軟質なアルミニウムが侵入して接合する機構2)が提案されている。またSUS304Lステンレス鋼とA3003アルミニウム合金の素材を500°Cに加熱した真空圧延においては,圧延接合中の摩擦熱によって接合界面近傍の一部が一旦溶融することによって接合する機構3)が提案されている。この系においては接合界面近傍の微細構造が調査されており,接合界面近傍の一部が一旦溶融し,さらに急冷されることによって,厚さ数nmのアモルファス層とともに,A3003中のCuおよびSiの高濃度域が選択的に溶融したことによるマダラ組織を形成することが示されている。さらに同クラッド板を圧延接合した後に500°Cで短時間熱処理すると,上記のマダラ組織が結晶格子縞を持つ羽毛組織に変化し,またアモルファス相とステンレス鋼の間から金属間化合物である微細柱状組織が析出して,これを介して原子拡散が進行する結果,接合強度が上昇する4)と解析されている。またこれとは別に,SUS304オーステナイト系ステンレス鋼とA1050アルミニウムとを450°Cの温度で大気中で熱間圧延接合した材料については,その接合界面にアルミニウムの非晶質酸化膜とCrの結晶酸化膜からなる中間層が存在し,またCr酸化物とAl酸化物が固溶体を形成し易く親和性が良いと考えられることから,これら酸化膜を介して両材料が接合されていることが示されている5)。
しかしながら,上記した温度の中間として位置づけられる約250°Cで圧延接合されたステンレス鋼とアルミニウムとのクラッド板について,その接合界面の微細構造を詳細に調査した例は少なく,その接合機構も明らかでない。また,同クラッド板を上述した500°Cよりも低い300~400°Cの温度で熱処理した場合には,中間層を超えた原子拡散が困難となることが予想されるにもかかわらず本研究で明らかとなったように接合強度の上昇が見られる。しかし,この熱処理にともなう接合界面の微細構造変化について検討された例は見当たらない。
そこで,本報では,約250°Cの温度で圧延接合した16Crステンレス鋼とアルミニウムとの二層クラッド板を対象とし,また圧延接合の後に300から600°Cの熱処理を行なった際の接合界面の微細構造変化に焦点を当て調査した。詳細な接合機構については,次報で述べる。
調査には,16Crステンレス鋼とアルミニウムとを積層した二層のクラッド板を用いた。各々の代表的な化学組成はTable 1に示すとおりである。素材となる16Crステンレス鋼には大気焼鈍・酸洗したコイル材を用い,あらかじめその接合面を砥粒入りナイロンブラシでブラッシング処理して清浄化した。もう一方の素材であるアルミニウムにはJIS H 4000に規定された1100アルミニウム(以下A1100と表記する)の調質仕様H24のコイルを前処理なしで用いた。
16Cr-stainless steel (mass%) | |||||
C | N | Si | Mn | Cr | Fe |
0.008 | 0.011 | 0.55 | 0.45 | 16.4 | bal. |
A1100 aluminum (mass%) | |||||
Si | Si | Si | Si | Si | Si |
0.10 | 0.10 | 0.10 | 0.10 | 0.10 | 0.10 |
圧延接合にはワークロール径がφ250 mmの4段圧延機を用い,圧延機の入側に配置した素材コイルを大気中でインライン加熱し,重ね合わせて圧延接合した。圧延ロール直前での素材コイル温度は両素材ともに約250°C,接合は1パスの圧延で行ない,全板厚を合計した圧下率は21.4%である。圧延接合を完了した時点の厚さは,16Crステンレス鋼が0.55 mm,A1100アルミニウムが1.50 mmであり,合計して2.05 mmである。
このように製造した二層クラッド板に対して接合後に熱処理を行ない,熱処理条件にともなう接合強度の変化,ならびに接合界面近傍における金属組織の変化を中心に調査した。
熱処理のためには接合したクラッド材から切り板サンプルを採取し,その一部を200~600°Cの電気加熱炉で300~30000 s保持する熱処理を行なった。
クラッド板の接合強度は,JIS K6854-3(接着剤−はく離接着強さ試験方法−第3部:T型はく離)に類似したピール強度によって評価した。試験片は引っ張り方向が接合時の圧延方向と平行となる方向で10 mm幅×150 mm長さとし,幅方向の端面は切断時の影響を除去するために切削仕上げした。得られた試験片について長手方向の片側端部を機械的に強制はく離してFig.1に示すT字型試験片とし,分離したステンレス鋼とアルミニウムのそれぞれを引っ張り試験器のつかみ具にチャッキングして,クロスヘッド速度150 mm/minの条件で引き剥がした。接合強度を,その際のクロスヘッド荷重の平均値を試験片幅で除した値を以て,単位幅あたりのピール強度(N・mm−1)と定義して算出した。
Shape of specimen used for peel strength test.
接合界面近傍の観察については,クラッド板の圧延方向に平行な断面について,エメリー紙による湿式研磨とバフ研磨によって断面観察試料を作製し,バフ研磨ままの断面を光学顕微鏡で観察した。また同断面を5%の弗化水素酸水溶液に浸漬エッチングすることによって,アルミニウム層のミクロ組織を観察した。バフ研磨まま断面の光学顕微鏡観察において,接合界面に金属間化合物が認められた試料の一部については,SEM(Scanning Electron Microscopy)による観察とともに,SEMに搭載されたEDS(Electron Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)を用いて元素分析を行った。
さらに圧延接合したままの二層クラッド板,ならびに接合圧延後に熱処理した試料のうち400°Cで300 s保持する熱処理を行なった二層クラッド板については,その接合界面を含む薄膜試料を作製し,FE-TEM(Field Emission -Transmission Electron Microscopy)で観察することにより微細構造を詳細に調査した。FE-TEM用の薄膜試料は,圧延方向に平行な断面となるようにFIB-μサンプリング法によって採取した。この際,FIB加工時の熱によって特にアルミニウムが変質することを極力避けるために,クライオFIB(Cryo-Focused Ion Beam)装置を使用した。表面保護のためには,最表面に約50 nm厚さでC蒸着した後にFIBによりCデポジット処理を施している。接合界面の微細構造観察においては,接合界面を横断する部位についてマイクロ電子線回折(μ-electron diffraction)による構造解析とμ-EDSによる元素分析を行い,物質の同定を行った。また,μ-EDSの強度プロファイルから各相の構成元素の半定量解析も実施した。
クラッド板の実使用における最も重要な特性として界面の接合強度が挙げられる。この接合強度には,クラッド板の接合界面の状態が強く反映されると考えられることから,クラッド板のマクロな特性として先ず接合強度を評価した。なお肉厚の薄いクラッド板においては接合界面の垂直引っ張りによる破壊荷重や界面せん断荷重を直接測定することが困難なため,接合強度の評価には一般的に2節に述べたようなピール強度が用いられる。
圧延接合後に熱処理されたクラッド板のピール強度の加熱温度および加熱保持時間依存性をFig.2に示す。圧延接合したままの状態と200°C熱処理材とではピール強度に変化が無いが,300°Cの熱処理によってピール強度は明瞭に増大し始める。200°Cの熱処理によってピール強度が変化しないのは,圧延接合のプロセスにおいて,クラッド材が200°C以上の熱履歴を既に経験しているためと考えられる。熱処理温度のさらなる上昇にともなってピール強度は増大し,450~500°Cで最大を迎えるが,500°Cの熱処理では長時間(30000 s)の熱処理を行なうと一部でピール強度の急激な低下が見られるようになる。ここで450°Cまでの熱処理温度ではピール強度に対する30000 sまでの熱処理時間の影響は認められず,ピール強度は熱処理温度にのみ依存している。熱処理温度が500°C以上となるとピール強度に対する熱処理時間の影響が強く表れるようになり,500°Cでは30000 s,550°Cでは3000 s,600°Cでは300 s以上の保持時間でピール強度が急激に低下する。これらのうちピール強度がゼロと評価されたデータは,ピール試験を行なう以前に接合界面が既に破壊したためにピール試験を行うことができなかったことを示している。
Effect of heat treatment conditions on peel strength.
Fig.3は,上記と同様に熱処理されたクラッド板のうち,熱処理温度が200°Cから600°C,保持時間を3000 sとした条件について,接合界面近傍における主にアルミニウムのミクロ組織写真を示す。図中に矢印で示した位置が接合界面を示し,その上方がアルミニウム層である。ステンレス鋼とアルミニウムとの圧延接合においては,両素材の変形抵抗が大きく異なるために,個々の材料の圧延圧下率に差異が生じる。そのため少なくとも圧延ロール入口近傍では両素材に速度差が生じ,これに起因して,圧延中の両素材の接触界面では相対すべりによるせん断応力とせん断ひずみが生じることが予想される。実際,圧延接合したままのクラッド板において,接合界面近傍のアルミニウムには上記のせん断ひずみに起因したメタルフローが強く残留しており,その様相は200°C熱処理材においても同様である。熱処理温度が300°Cに上昇すると圧延中のせん断ひずみを強く受けたと考えられる接合界面近傍のアルミニウム側においては再結晶が進行し始め,350°C以上では視野内の全領域が再結晶組織を呈する。なお350°Cから450°Cの範囲では,接合界面の極近傍においてアルミニウムの著しい粒成長は認められず,周囲に比べて細粒を保つ傾向が見られる。
Optical micrographs showing change in microstructure of aluminum close to bonding interface as a function of annealing temperature for 3000 s. Arrows indicate interface between 16Cr-stainless steel and aluminum.
なおステンレス鋼のミクロ組織についてはデータを示さないが,いずれの熱処理温度においても加工組織を呈しており,再結晶粒の形成は認められなかった。また,Fig.3において550°Cおよび600°Cの接合界面では,熱処理の工程もしくは断面試料調製の過程で界面破壊を生じた結果,両素材の間に空隙が認められた。
Fig.4には,同様に熱処理されたクラッド板のうち,熱処理温度が500°Cから600°C,保持時間を300 sから30000 sとした条件について,接合界面近傍のバフ研磨ままの光学顕微鏡写真を示す。500°Cの熱処理材では,300 sから30000 sのいずれの保持時間においても接合界面の状態は同一であり光学顕微鏡で観察する限りにおいて,異相の生成は確認されない。熱処理温度が550°Cになると,接合界面には異相が見られるようになり,保持時間が300 sの条件では不連続に島状の異相が認められる。保持時間が3000 sを超えると異相が接合界面の全域を覆い,異相とアルミニウムとの界面が破壊されて分離する。また保持時間が3000 sの熱処理では異相の平均厚さが約4 μmであり,30000 sの条件では同じく平均の厚さが約13 μmと厚く成長している。さらに熱処理温度が600°Cに上昇すると,保持時間が300 sから30000 sの全ての条件で接合界面の全域を覆う異相が見られ,異相とアルミニウムとの間では破壊が認められた。ここで600°Cの熱処理条件においては保持時間によって異相の厚さに変化が見られず,いずれの保持時間においても平均で約6 μmと一定となった。これは後でも述べるが,異相界面に空隙ができたため,原子拡散が不可能になったことに起因すると考える。
Optical micrographs showing intermetallic compound formed at bonding interface subjected to various heat treatments.
Fig.5には,熱処理温度が550°Cおよび600°Cで保持時間が300 sと30000 sの条件で熱処理した材料における接合界面のSEM反射電子像を示す。550°Cで300 s保持したFig.5a)では生成初期の異相が接合界面からアルミニウム側に向かって島状に成長する様子が見られる。その他のFig.5b)~d)の条件では異相が接合界面の全面を覆っているが,ステンレス鋼側の異相界面はほぼ直線であることからこの異相界面が初期の接合界面に相当すると考えられる。また,熱処理条件に関わらず,異相は接合界面からアルミニウム側に向かって成長したと推察する。なお,アルミニウム側の異相先端は均一でなく凹凸が認められる。これは,Fig.5a)の550°C 300 sの熱処理材で見たように,生成初期には異相が局所的に成長するため,部位によって異相の厚さに変動が生じたためと考えられる。
SEM-BSE image of heat-treated bonding interface and SEM-EDX analysis result of intermediate layer.
これら異相についてSEM-EDSスペクトルからZAF補正法(ZAF correction method)を用いて元素分析した結果をFig.5中に併せて示す。EDSスペクトルには主にFeとAlが検出され,また酸素が検出されないことから,これら異相はFe-Al系の金属間化合物と考えられる。AlとFeとの原子比は,熱処理条件もしくは部位によって異なる。すなわち,異相の生成初期であるFig.5のa1もしくは成長先端であるアルミニウム側のb1やc1ではAl/Fe比が3.0を上回ることから,θ-FeAl3金属間化合物と金属Alが混合した状態にあると考えられる。同様にステンレス鋼に近い側のFig.5のb2やc2ではAl/Fe比がほぼ3.0に近いことからθ-FeAl3金属間化合物の単体として存在すると考えられる。さらに600°Cで30000 sの保持を行なった接合界面では,その部位に関わらずAl/Fe比が約2.5となり,異相の全体がη-Fe2Al5となっていると考えられる。
ここで550~600°Cにおけるθ-FeAl3金属間化合物の線膨張係数はおよそ1.55×10−5 K−1とされ6),16Crステンレス鋼の1.2×10−5 K−1と比べると約1.3倍大きく,A1100アルミニウムの2.3×10−5 K−1と比べると約0.7倍と小さい。すなわち加熱中の金属間化合物には隣接するアルミニウムの熱膨張によって大きな引張の応力が加わることが予想される。また,θ-FeAl3の破壊靭性値(KIC)は1.27 MPa・m1/2と低く,脆い7)。そのため熱処理過程(おそらく加熱中)での引張熱応力が大きいアルミニウム側で脆い金属間化合物が破壊したと推察される。Fig.2で見られたように,高温かつ長時間で熱処理したクラッド板にはピール強度の急激な低下が生じたのは,上記のような理由であると推察される。なお,600°C熱処理材では金属間化合物の厚さが薄い。これは,既に述べたように熱処理の加熱途中で600°Cに到達する以前に界面破壊が生じたことを示すと考えられ,そのために金属間化合物が一定厚さ以上には成長することができなかったものと考えられる。
3・3 接合界面のTEM観察これまでの結果から,約250°Cで圧延接合したクラッド板を300°Cから500°Cの温度で熱処理すると,接合界面近傍のアルミニウムでは再結晶が開始するが,光学顕微鏡観察では接合界面に顕著な変化は見られない。さらに550°C以上の熱処理では,保持時間の延長とともに脆いFe-Al金属間化合物の形成とその成長が観察され,さらに加熱時の熱応力によって金属間化合物とアルミニウムとの間で界面破壊が生じることが推察された。したがって,金属間化合物が生成するよりも低い300°Cから500°Cの温度域での接合界面の変化について詳細に調査した。すなわち,ピール強度が増大し始めてから金属間化合物が生成するまでの中間の温度である400°Cでの熱処理材に注目して接合界面のTEM観察を行ない,圧延接合したままの試料と比較検討した。ここで,Fig.2で見たように400°C熱処理材のピール強度は保持時間に依らずほぼ一定であったことから,TEM観察用サンプルの熱処理条件としては,その初期過程である400°C,300 s保持の条件を選定した。
Fig.6には接合界面のTEM明視野像を示す。250°Cで圧延接合したままの接合界面(Fig.6a)では,アルミニウム側に約1 μmの粒径を持つ等軸的で転位の整理された回復粒が見られる。同様に16Crステンレス鋼の側には,接合界面近傍の約1 μmの範囲で,50から100 nmサイズの微細なセル領域が見られる。さらに接合界面から1 μm以上離れた部位では,厚さがおよそ0.5 μmで長さが2.0 μm程度の伸長したセルからなる構造が観察される。Fig.3a)に示したアルミニウム側における材料流動も考慮すると,上に述べた界面近傍におけるステンレス鋼の組織的な特徴は圧延接合の際に両材料の界面近傍の部位が強いせん断加工を受けた痕跡と考えられる。一方で400°C,300 sの条件で熱処理した接合界面(Fig.6b)では,アルミニウム層のサブグレイン成長が進み,Fig.3e)に示した光学顕微鏡組織も考慮すると結晶粒径が数μm以上の再結晶粒となっている。また16Crステンレス鋼の側は圧延接合まま材と変わりなく,接合界面近傍に微細なセル構造がそのまま残存している。
TEM images of bonding interface between 16Cr-stainless steel and aluminum. a) as rolled, b) 400°C, 300 s heat treated
Fig.7には,さらに高倍率でのTEM明視野像を示す。Fig.7a)に示す圧延接合まま材ならびにFig.7b)に示す400°C,300 s熱処理材のいずれにおいても,アルミニウムと16Crステンレス鋼との界面に,複数の内部構造を持つ中間層の存在が確認される。この中間層は,観察した全界面領域において均一に形成されており,中間層の欠損や厚さの大きな変化は認められない。Fig.7a)の圧延接合まま材における中間層は,全体が約20 nmの厚さを持ち,その内部構造に注目してみると,不均一に波打つ複数の層から構成されている。またFig.7b)の400°C,300 sの条件で熱処理した接合界面における中間層については,圧延接合まま材と同様に,全体が約20 nmの厚さを持つが,その内部構造はより均一化しており,波打ちの少ない平坦な層構造の中に,島状の異相と思われる領域が点在する構造となっている。
Magnified TEM images of bonding interface between 16Cr-stainless steel and aluminum. a) as rolled, b) 400°C, 300 s heat treated
Fig.8には,接合界面を横切る方向でTEM-EDSによる注目元素のライン分析を行った結果を示す。ライン分析から見た中間層の厚さは,圧延接合まま材で約80 nm以内,熱処理材で約60 nm以内の範囲にあり,Fig.7のTEM写真で観察される中間層の厚さ約20 nmに比べて大きい。この原因として,Fig.8における測定分解能が,Fig.7のTEM写真および後述するFig.10,11における測定分解能に比べて粗いために,中間層の厚さを広く見積もっている可能性や,Fig.8で使用した薄膜試料の法線方向が接合界面に対して傾いていた可能性などが考えられる。それでもなおFig.8の測定結果から,中間層の厚さは,圧延接合ままに比べて,400°C,300 sの熱処理では拡大しないことが示唆される。さらに中間層には特徴的な酸素の存在が認められる。これは接合素材であるアルミニウムや16Crステンレス鋼の表面に形成されていた酸化被膜に由来すると考えられる。この酸素はFeやAlの濃度が変動する界面の範囲内に収まっており,400°C,300 sの熱処理を経た後でも酸素原子の拡散消失などは起こっていない。
Results of TEM-EDS line analysis across bonding interface between 16Cr-stainless steel and aluminum.
Fig.4および5で見たように,16Crステンレス鋼とアルミニウムとのクラッド板に対して550°C以上の温度で熱処理を行なうと,接合界面にFe-Al系の金属間化合物が生成する。しかしながらFig.7や8で見たように,少なくとも400°Cの熱処理温度では接合界面を大きく超えた原子拡散や中間層の明瞭な構造変化は生じていないように見える。そこで,単純な系としてAl-Fe拡散対を対象とし,中間層を介さずに直接接触させて熱処理した場合のAlとFeの相互拡散挙動および金属間化合物の形成について,Thermo-calc/DICTRAによる推定を試みた。計算にはDICTRAバージョンTC2017aを用い,熱力学データベースとしてSSOL5,拡散データベースとしてMOB2を用いた。DICTRAに搭載されたHomogenizationモデルを使用し,FeAl化合物内の拡散は金属Al中と等しいと仮定して計算している。
Fig.9a)-c)には,一例として550°Cで300から30000 s保持する熱処理を行なった場合の界面近傍における元素濃度分布の計算結果を,またFig.9d)には,400~600°Cの各温度における金属間化合物の厚さの計算結果の保持時間にともなう変化を示す。Fig.9a)-c)の濃度分布がプラトーを示す領域は,各々FeAl3,Fe2Al5,FeAl2の金属間化合物の形成に相当し,元の接触界面からアルミニウム側へ向かった金属間化合物の成長が見られる。この計算結果は,Fig.4の観察結果において,高温かつ長時間の熱処理を行なった際に,μmオーダーでの原子拡散が進行した領域が,金属間化合物の生成する領域として表われているとともに,Fig.5において,熱処理時間にともなってAl/Fe比が変化した様子が再現されている。
Results of Thermo-calc / DICTRA calculation of mutual diffusion behavior in Al-Fe diffusion couple.
このようにFe-Al拡散対においては,その相互拡散領域が金属間化合物の生成厚さとして表現されるため,計算から得られた金属間化合物の厚さに及ぼす熱処理温度ならびに保持時間の影響をFig.9d)に併せて示す。解析初期に仮定した金属間化合物の厚さを無視すれば,400°C以下の熱処理温度では,長時間熱処理によってもほとんど原子拡散は進行していない。実際に,Figs.7および8に示したように,400°Cのような低温での熱処理においてはnmオーダー領域での原子拡散にとどまっており,金属間化合物の形成は観察されず,また熱処理の後でも中間層が極めて薄いまま維持されることと一致する。一方で,450°Cから500°Cの熱処理温度においては,Fig.9d)から長時間熱処理によって厚さ数μmの金属間化合物の生成が計算では予想される。しかし実際には,Fig.4に示したように,低温の500°C以下の熱処理では30000 sまでの保持時間で界面に金属間化合物の形成は見られなかった。これは,酸素を含む中間層が相互拡散を著しく遅延させる効果を有することを示唆する。すなわち,450°Cから500°Cの長時間熱処理においては,酸素を含む中間層が大きな拡散障壁としての役割を果たしていることを示唆する。550°Cの熱処理温度においては,保持時間3000 sでは4 μmの,保持時間30000 sでは10 μm強の厚さで金属間化合物の生成が予測され,Fig.4での観察結果とほぼ一致する。したがって,中間層の拡散バリアーとしての役割は,温度とともに大きく変化すると思われる。詳細な機構については,今後の課題と考える。さらに熱処理温度が600°Cに達すると,計算結果ではさらに金属間化合物の厚さが増すと予測されるが,Fig.4の結果からは保持時間にかかわらず,金属間化合物の厚さは約6 μmと一定であった。これは前述したように熱処理の加熱途中で成長した金属間化合物が目標温度に到達する以前に熱応力により界面剥離してしまい,それ以上には金属間化合物の厚さが成長できなかったためと考えられる。
4・2 接合界面に見られる中間層の構造についてFig.10には約250°Cで圧延接合したままの接合界面について,高分解能TEM明視野像と明視野像における各場所でのTEM μ-EDSによる点分析の結果を示す。図中のaで示す点はアルミニウム母材組成を,またfで示す点は16Crステンレスの母材組成を示すことから,中間層の厚さは約20 nmであり,それを超える範囲への原子拡散が生じていないことがわかる。中間層に相当するb~eの位置のμ-EDSスペクトルには酸素のピークが認められる特徴がある。この酸素は,母材アルミニウムに近い側(c)においては明瞭な電子線回折パターンを示さなかったことから,アモルファスのAl酸化物として存在すると考えられる。一方,母材16Crステンレスに近い側(d)では微量のCrを含むAlFeO3の回折パターンが確認された他,別の部位では微量のCrを含むFe3O4やFeAl2O4が確認された。このことから,圧延接合したままの接合界面に存在する中間層は,様々な組成と形態を持つ金属酸化物の集合体として存在すると考えられる。
TEM image near bonding interface and result of TEM μ-EDS spot analysis (as rolled specimen).
Fig.11には400°C,300 sの条件で熱処理した接合界面について,高分解能TEM明視野像と,明視野像における各場所でのTEM μ-EDSによる点分析の結果を示す。図中にaとfで示す位置は各々アルミニウム母材と16Crステンレス母材の組成を示すことから,中間層の厚さは圧延接合まま材と同様に約20 nmであり,400°Cの熱処理を経た後でも中間層を超える範囲への原子拡散は認められない。中間層に相当するb~eの位置では,圧延接合まま材と異なり,中間層内のcの位置においてα-Feの回折ピークが確認された。一方でEDSスペクトルにはAlのピークが明瞭に認められるものの回折パターンからはAlの存在を示すパターンが見られない(b,c,d)。したがって,Alはアモルファス酸化物として存在すると考えられる。
TEM image near bonding interface and result of TEM μ-EDS spot analysis (400°C, 300 s heat treated specimen).
以上より,圧延接合ままの接合界面には主にFeとAlおよび微量のCrと酸素とが混合した様々な形態の酸化物が存在し,その混在によって複雑に波打つ形態で複数の構造を持つ中間層が構成されていたと思われる。一方,圧延接合の後に400°C,300 sの熱処理を施すと,熱処理前に存在したFeやAlを含む混合酸化物のうち,Alが酸素と強く結びつくことによってAlのアモルファス酸化物が支配的となり,複数の均一な層構造を持つ中間層として再構成されると考えられる。また,Feを含む酸化物は一部Alにより還元されα-Feとして中間層中に島状に残存し,α-Feの回折パターンを示したと推察する。
4・3 中間層の生成原因と熱処理による再構成ステンレス鋼およびアルミニウムはいずれも,大気中で強固な不動態被膜を形成する金属である。その酸化被膜厚さは熱処理条件によって変化するが,例えば低酸素分圧下で400~600°Cに加熱されたSUS430鋼の酸化被膜厚さは10~43 nm8),大気中で長期間放置されたA1070アルミニウムの酸化被膜厚さはおよそ20 nm9)とされ,いずれも数十nm程度である。本研究で用いたクラッド板は,約250°Cで圧延接合されているが,それぞれの不動態被膜が加熱大気中において極めて安定であることを考慮すれば,いずれも数十nmの薄い被膜として存在すると考えられる。
例えば冷間圧延接合過程においては,圧延中の材料展伸によって表面硬化層が破断して新生表面が現出することが報告されている2)ことから,同時に酸化被膜が破断する可能性も考えられる。しかし,Fig.7で見たように,実際の接合界面には酸化物からなる中間層が切れ間なく均一に存在していることから,素材表面の酸化被膜は圧延中に破壊されることなく材料とともに展伸してその表面を覆ったまま接合されたと考えるのが妥当である。すなわち,中間層の酸化物は異種金属のバインダーの役割を有すると推定される。Oikawaら5)はSUS304オーステナイト系ステンレス鋼とA1050アルミニウムとを450°Cの温度で大気中で熱間圧延接合した材料について,その接合界面にはアルミニウムの非晶質酸化膜とCrの結晶酸化膜からなる中間層が存在し,これら酸化膜を介して両材料が接合されているとしている。本研究における16Crフェライト系ステンレス鋼とアルミニウムとの圧延接合材の接合界面には,Crの結晶酸化膜が見られないが,主にアルミニウムの非晶質酸化膜と(Fe,Cr,Al)系の酸化物が接合に寄与していると考えられる。
接合界面に見られる中間層は約20 nmの厚さを持ち,複数の層構造を成して存在するが,これは,圧延接合の際に両素材の接合面同士が相対すべりを起こしながら互いを平滑化し,各々の酸化被膜と母材粒子を巻き込みながら一体化して形成されたと考えられる。圧延接合の直後には,これらの酸化物が混在した状態で不均一な層構造を持つ中間層を構成し,この中間層を介して接合が達成されていると考えられる。その後,クラッド板に対して300°Cから500°Cの温度範囲で熱処理を施すと,中間相中のFeやAlを含む混合酸化物のうち,Alが酸素と強く結びつくことによってAlのアモルファス酸化物が形成されて複数の均一な層構造を持つ中間層が再構成され,また一方のFe系酸化物はAlにより還元されてα-Feとなって中間層中に島状に残存する。この様に再構成された中間層は,圧延接合したままの不均一な構造に比べて安定と考えられることから,300°Cから500°Cの熱処理によるピール強度増大に対して何らかの形で貢献していると推定される。ここで500°C以下の熱処理温度では,中間層を超えて母材にまで至る原子拡散は起こらず,中間層の消失や厚さの変化も起こらない。すなわち,酸素を含む中間層は熱処理温度が低い(500°C以下)場合には異種金属の相互拡散の障壁となる役割をもち,脆い金属間化合物の形成を抑制する効果も併せ持つと推察される。
さらに熱処理温度が上昇して550°Cを超えると,中間層を超えた原子拡散が進行するようになるが,原子拡散が進行するとすぐにθ-FeAl3からなる金属間化合物が形成される。この金属間化合物は脆いために,加熱によって周辺のアルミニウムとの間に生じる熱膨張差に起因した引っ張り応力に耐えることができず,金属間化合物層とアルミニウムとの間で界面破壊を生じてピール強度の急激な低下を招いたと考えた。
16Crステンレス鋼とアルミニウムとを約250°Cで圧延接合したクラッド板に対して200°C~600°Cの熱処理を行ない,熱処理条件にともなう接合界面の構造変化を調査した結果,以下の知見を得た。
(1)圧延接合したままのクラッド板の接合界面には,厚さ約20 nmの中間層が存在する。この中間層は全面に均一に形成されており,中間層の欠損や大きな厚さの変化は認められない。また中間層はクラッド接合母材の主たる構成元素であるFeやAlの他に酸素を含み,様々な酸化物が混合した不均一に波打つ複数の層から構成されている。
(2)クラッド板を接合圧延後に300から500°Cの温度で熱処理すると,接合強度が増す。中間層は,主にAlアモルファス酸化物からなる厚さが20 nmの均一な層であり,その内部に島状に分離したα-Feを含む中間層へと再構成される。ただしこの熱処理の前後で,中間層の消失や中間層を超えた相互拡散は起こらず,中間層の厚さは変化しない。さらに熱処理温度を上昇すると接合強度が増すが,550°C以上となると接合界面にはθ-FeAl3やη-Fe2Al5の金属間化合物が10 μm前後の厚さで生成し,金属間化合物とアルミニウムの間で界面剥離を生じる。
(3)16Crステンレス鋼とアルミニウムの界面に存在する酸素を含む中間層は,両金属のバインダーとしての役割と同時に,500°C以下での熱処理における異種金属元素の相互拡散障壁としての役割を有すると推察した。