2019 Volume 105 Issue 11 Pages 1080-1089
The effects of grain shape, crystallographic texture, and elastic anisotropy on the X-ray stress factor in polycrystals were studied. Polycrystal models with <110> fiber textures, comprised of single crystals exhibiting four different elastic anisotropy factors, were prepared. Then, the effects of the degree of <110> orientation, elastic anisotropy, and shape of the grains on the X-ray stress factor were examined using a self-consistent method consisting of the effective-medium approximation and Eshelby’s inclusion method. Also, the effects of the degree of <110> orientation and elastic anisotropy on the X-ray stress factors were analyzed using the Voigt and Reuss approximations. The analyses using the self-consistent method revealed that the degree of <110> orientation and elastic anisotropy of single crystal affect the dependence of the X-ray stress factor on the aspect ratio of spheroidal grains. The comparison of the analyses using the self-consistent method, Voigt and Reuss approximations revealed that there is a correlation between the aspect-ratio dependency of the X-ray stress factor and the difference between the X-ray stress factors calculated using the Voigt and Reuss approximations; when the difference between the X-ray stress factors calculated using the Voigt and Reuss approximations is large, the effect of the aspect ratio of the spheroidal grain on the X-ray stress factor is large.
冷間加工等の加工プロセスにより材料中に形成される残留応力は,破壊や疲労強度に大きな影響を与えるため,その正確な評価は加工プロセス条件を検討する上で重要である。X線応力測定法は,測定精度が高いことから広範に利用されている残留応力測定法である。X線による残留応力評価には,X線測定により得られる格子ひずみと残留応力とを結び付けるX線的弾性率が必要となる1–5)(集合組織を有する異方性材料においては,X線的弾性率はX線応力ファクターと呼ばれる)。
一般にX線的弾性率は,等方的な多結晶材料を対象として測定されている。そのため,等方的な多結晶材料を対象として測定されたX線的弾性率は,集合組織に起因した弾性異方性を有する多結晶材料に対して正確な残留応力を与えない。しかし,鉄鋼材料をはじめとする多くの金属材料において,材料内の集合組織による弾性異方性を反映したX線応力ファクターの実測がなされていない多結晶材料は数多く存在する。実測によらずに集合組織による弾性異方性を反映したX線応力ファクターを得る方法として,モデル計算によりX線応力ファクターを推定する方法が挙げられる6–8)。ここで,X線応力ファクターを力学モデルにより理論的に推定するためには,多結晶材料を構成する単結晶の弾性率の把握が不可欠である。しかし,実用的な金属材料においても,単結晶弾性率が実測されている合金組成および結晶構造は限定されている。この理由として,多くの合金組成および結晶構造において,弾性率測定に必要な数mm角程度の大きな単結晶の育成が困難であることが挙げられる。加えて,単結晶育成に対する実験的な労力も,実測されている単結晶弾性率が限定されている要因であると考えられる。最近,Taneらは,集合組織を有する多結晶材料から単結晶の全弾性スティフネスを決定することが可能なinverse Voigt-Reuss-Hill近似9)およびinverse Self-consistent近似10)を構築した。この方法を用いれば,単結晶育成が困難な材料においても,単結晶弾性率を決定することが可能である。そのため,単結晶の弾性特性の実測がなされていないために,X線応力ファクターを計算することが困難であった多結晶材料においても,モデル計算によって得られたX線応力ファクターを用いた残留応力の解析が可能になると考えられる。
これまでの研究により,X線応力ファクターは,多結晶体内の集合組織や結晶粒の形状に依存することが明らかになっている2,7,8)。ここで,X線応力ファクターは,材料内の巨視的および微視的な弾性特性を反映することから,X線応力ファクターには,単結晶の弾性異方性,多結晶体内の集合組織および結晶粒の形状とそれらの組み合わせが影響を与えると考えられる。しかし,これらのパラメータの組み合わせがX線応力ファクターに及ぼす影響はこれまでに系統的に調べられていない。そこで,本研究では,多結晶内の単結晶の弾性異方性,結晶配向度および結晶粒の形状が異なる多結晶材料モデルに対して,Voigt近似,Reuss近似およびSelf-consistent法によるX線応力ファクターの計算を行い,各種パラメータとその組み合わせがX線応力ファクターに及ぼす影響を調べた。
集合組織を有する多結晶材料のX線応力ファクターに及ぼす単結晶の弾性異方性の影響を明らかにするため,純鉄および弾性異方性の異なる3種類の立方晶系の単結晶モデルで構成された多結晶材料に対してX線応力ファクターの計算を行った。ここで,用いたモデル単結晶の弾性特性について説明する。純鉄単結晶の弾性スティフネスを基準として,弾性異方性の異なる3種類の単結晶モデル(モデルA,BおよびC)の弾性スティフネスを算出した。純鉄および3種類の単結晶モデルにおいて,体積弾性率B=(c11+2c12)/3および単結晶弾性率からVoigt-Reuss-Hill近似11)を用いて計算される多結晶ヤング率は等価であると仮定し,モデルAでは異方性因子A=2c44/(c11-c12)を純鉄単結晶の1/2とした。モデルBにおいては,異方性因子Aを1とし,モデルCにおいては,異方性因子Aを純鉄の異方性因子の逆数とした。純鉄12)および3種類のモデル単結晶の弾性スティフネス(c11,c12,c44)および異方性因子AをTable 1に示す。
| c11 | c12 | c44 | A | |
|---|---|---|---|---|
| Pure Fe | 231.4 | 134.7 | 116.4 | 2.407 |
| Model A | 264.4 | 118.2 | 88.0 | 1.204 |
| Model B | 275.9 | 112.5 | 81.7 | 1.000 |
| Model C | 350.1 | 75.4 | 57.1 | 0.416 |
純鉄およびモデル結晶の弾性異方性を把握するため,Table 1に示す弾性スティフネスを用いたテンソル演算13)により単結晶ヤング率の方位依存性を計算した。Fig.1(a)に〈100〉方位から〈110〉方位の間の純鉄,モデルAおよびモデルBの単結晶ヤング率の結晶方位依存性を示す。ここで,θは〈100〉方位からの角度である。純鉄の単結晶ヤング率は,θ=0°の〈100〉方位において極小値を示し,θ=54.7°の〈111〉方位において極大値を示す。モデルAにおいても,ヤング率は〈100〉方位および〈111〉方位においてそれぞれ極小値および極大値を示すが,純鉄の場合と比較して,ヤング率の方位依存性が小さい。一方,モデルBにおいては異方性因子Aが1であり,単結晶弾性率が等方的であるため,ヤング率は結晶方位に依存しない。

Directional dependence of single-crystalline Young’s modulus in directions between <100> and <110>, calculated by coordinate conversion of cij: (a) pure iron, model A, and model B, and (b) pure iron and model C. θ is an angle from the <100> direction.
Fig.1(b)に純鉄とモデルCの単結晶ヤング率の結晶方位依存性の比較を示す。モデルCにおいては,〈100〉方位において極大値,〈111〉方位において極小値を示し,純鉄と比較して極大値および極小値を示す方位が逆になっている。これは,モデルCにおける異方性因子Aが純鉄の値の逆数であるためである。
集合組織における結晶配向度がX線応力ファクターに及ぼす影響を明らかにするため,結晶配向度の異なる3種類の〈110〉繊維状集合組織の多結晶モデルを作製した。Fig.2に繊維状集合組織における〈110〉方位の頻度分布を示す。ここで,角度αは繊維軸方向からの角度である。σ110は〈110〉配向分布のばらつきに対する標準偏差であり,σ110=9°において〈110〉の配向度が最も高く,σ110=15°において〈110〉の配向度が最も低い。

Frequency distribution of <110> in polycrystals as a function of angle α: <110> fiber textures of σ110 = 9, 12, and 15º.
Self-consistent法を用いたX線応力ファクターの計算においては,多結晶材料の巨視的弾性コンプライアンス(巨視的弾性スティフネス)が必要である。そこで,まず,Self-consistent法を用いた多結晶材料の巨視的弾性スティフネスの計算方法について説明する。Bruggemanの有効媒体近似14)に基づいたSelf-consistent法においては,多結晶の弾性スティフネスの行列表記cpcは次式で与えられる15–17):
| (1) |
ここで,A(i)はε(i)=A(i)εpcで定義されるひずみ集中係数である。εpcは多結晶体における平均(工学)ひずみであり,ε(i)は結晶粒iにおける平均ひずみである。c(i)は単結晶の弾性スティフネスを結晶粒の座標系に座標変換した結晶粒iの弾性スティフネスである。Eshelbyの等価介在物理論18)により,ひずみ集中係数A(i)は次式で与えられる:
| (2) |
ここで,Iは単位行列である。S(i)はEshelbyテンソルの行列表記であり,S(i)が結晶粒の形状および多結晶の弾性率スティフネスcpcを反映する19,20)。〈X〉は,行列Xの多結晶内の結晶配向分布を反映した配向平均である。本研究においては,結晶粒の形状をアスペクト比a3/a1で表現される回転楕円体として計算を行った。
3・2 Self-consistent法を用いたX線応力ファクターの計算方法Fig.3に繊維状集合組織を有する多結晶体の座標系(座標系S)とX線散乱ベクトルの座標系(座標系L)の間の方位関係を示す。X線応力ファクターは,多結晶体の平均応力〈σSkl〉と,Fig.3の角度φおよびΨによって定義されるX線散乱ベクトルの方向に法線ベクトルが存在する{hkl}面の垂直ひずみとを結ぶ係数である。ここで,座標系Sにおける多結晶体の平均ひずみテンソル〈εSij〉は,多結晶体の平均(残留)応力テンソル〈σSkl〉を用いて次式で表される:
| (3) |

Orientation relationship between the coordinate system x of a polycrystalline specimen (S) and the coordinate system x’ of the X-ray scattering vector (L).
ここで,SpcijklはSelf-consistent法を用いて計算される多結晶体の弾性スティフネスを用いて計算される弾性コンプライアンステンソルである。{hkl}面の法線がX線散乱ベクトルの方向(x'3方位)と平行な結晶粒におけるひずみテンソルの平均{εSij}は式(3)によって計算される〈εSij〉を用いて,次式で表される:
| (4) |
ここで,{ASijkl}は{hkl}面の法線がx'3方位に平行な複数の結晶粒に対するひずみ集中係数テンソルの平均であり,式(2)を用いて計算される。X線散乱ベクトルの方向の垂直ひずみ{εL33}は{εSij}を座標系Lに座標変換することによって計算される。
| (5) |
ここで,ωijは座標系Sから座標系Lに座標変換するための座標変換テンソルである。角度φおよびΨによって定義されるX線散乱ベクトルの方向の垂直ひずみ({hkl}面の垂直ひずみ)と多結晶材料内の平均応力を結ぶX線応力ファクターは,式(5)における{εL33}を用いて次式で表される:
| (6) |
本研究では,立方晶系の単結晶で構成された多結晶系材料において頻繁に用いられている{211}面のX線応力ファクターに対して計算を行った。また,対象とした多結晶材料のモデルにおいて,結晶面法線がX線散乱ベクトルと完全に一致した結晶粒に対してX線散乱ベクトルの方向の垂直ひずみ{εL33}を計算し,X線応力ファクターを算出した。これは,以下のReuss近似に基づいたX線応力ファクターの計算においても同様である。
3・3 Voigt近似およびReuss近似に基づいたX線応力ファクターの計算方法Reuss近似21)においては,多結晶体内の応力が一定であると考える。そのため,{hkl}面の法線がx'3方位と平行な結晶粒における座標系Sでのひずみテンソルの平均は,次式を用いて計算される。
| (7) |
ここで,{SRijkl}は{hkl}面の法線がx'3方位と平行な結晶粒の弾性コンプライアンステンソルの平均である。式(5)と同様に{εSij}を座標変換することによって,X線散乱ベクトルの方向の垂直ひずみ{εL33}を得ることができる。このようにして得られた{εL33}を用いてX線応力ファクターを計算することができる。
Voigt近似22)においては,多結晶体内のひずみが一定であると考える。そのため,各結晶粒におけるひずみは次式で表される:
| (8) |
ここで,〈SVijkl〉は結晶粒の弾性スティフネスの結晶配向平均を用いて計算した多結晶の弾性コンプライアンステンソル(Voigt近似によって計算される多結晶の弾性コンプライアンステンソル)である。式(5)の場合と同様にεSijを座標系Lに座標変換することによって,X線散乱ベクトルの方向の垂直ひずみεL33を得ることができる。このようにして得られたεL33を用いてX線応力ファクターを計算することができる。
式(3)に示すようにX線応力ファクターには多結晶材料の巨視的な弾性特性が影響する。そのため,Self-consistent法を用いた多結晶材料の巨視的弾性スティフネスの計算を行い,〈110〉方位の配向度および単結晶の弾性異方性が多結晶ヤング率の異方性に与える影響を調べた。Fig.4(a)に結晶粒の形状をアスペクト比a3/a1を1とする球状として計算した純鉄の多結晶ヤング率の方位依存性を示す。ここで,θは繊維軸方向(x1方位)に平行な方向からの角度であり,σ110=9,12および15°は〈110〉配向分布の標準偏差を表す。すべての純鉄多結晶において,ヤング率はθ=0°の繊維軸方向において極大値を示し,θ=49°近傍の方位において極小値を示す。〈110〉配向分布における標準偏差σ110の差が多結晶ヤング率に及ぼす影響は,θ=0°,49°および90°付近において大きくなっていることがわかる。

Directional dependence of Young’s modulus of polycrystals: (a) pure iron with fiber textures of σ110 = 9, 12, and 15º, (b) pure iron, model A, and model B with a fiber texture of σ110 = 9º, and (c) pure iron and model C with a fiber texture of σ110 = 9º. The Young’s modulus was calculated using the self-consistent method, where the shape of grains was assumed as spherical (a3/a1 = 1).
Fig.4(b)にσ110=9°の繊維状集合組織を有するモデルAおよびモデルBの多結晶ヤング率の方位依存性と純鉄多結晶の方位依存性との比較を示す。モデルAにおいても純鉄の場合と同様に,ヤング率はθ=0°の繊維軸方向(x1方位)において極大値を示し,θ=49°近傍の方位において極小値を示すが,ヤング率の方位依存性は純鉄の場合と比較して小さいことがわかる。これは,モデルAの単結晶の弾性異方性が小さいためである。一方,単結晶が弾性的に等方なモデルBにおいては,多結晶ヤング率も方位に全く依存しない。
Fig.4(c)にσ110=9°の繊維状集合組織を有する純鉄とモデルCの多結晶ヤング率の比較を示す。モデルCのヤング率は,θ=0°の繊維軸方向において極小値,θ=49°近傍の方位において極大値を示し,その極大値と極小値を示す方位は純鉄の場合と逆になっている。これは,モデルCの単結晶では,Fig.1(b)に示すように純鉄と比較して単結晶ヤング率の極大値と極小値を示す方位が逆になっているためである。
4・2 X線応力ファクターに及ぼす集合組織および弾性異方性の影響Fig.5(a)にσ110=9°の繊維状集合組織を有する純鉄多結晶に対して,Voigt近似,Reuss近似およびSelf-consistent(SC)法によって計算したX線応力ファクターF11を示す。ここで,Self-consistent法による計算においては,すべての結晶粒の形状をアスペクト比a3/a1=1の球状とし,アスペクト比を定義している座標系のx3方位(結晶粒の[110]方位と平行な方位)および繊維軸方位回りの回転に対して,結晶粒は等方的に分布していると仮定した。また,以下のすべての計算を含めてφ=0°である。Self-consistent法によって計算したX線応力ファクターは,sin2Ψの増加に対して,非線形的に増加し,sin2Ψ線図はうねりを生じる。これは,多結晶材料中に存在する集合組織のためである。Self-consistent法によって計算したX線応力ファクターを,Voigt近似およびReuss近似によって計算した値と比較すると,すべてのsin2Ψの値において,Self-consistent法によって計算したX線応力ファクターはVoigt近似およびReuss近似によって計算した値の間に存在することがわかる。ここで,Self-consistent法によるX線応力ファクターの計算においては,Voigt近似およびReuss近似において考慮されていない結晶粒間の弾性相互作用が考慮されている。そのため,より実験値に近いX線応力ファクターの計算が可能であると考えられる6)。

X-ray stress factor F11 of polycrystalline pure iron calculated by the self-consistent method: polycrystalline pure iron with fiber textures of σ110 = (a) 9º, (b) 12º, and (c) 15º. The aspect ratio a3/a1 of the grains in polycrystals is 1, and φ= 0º. The X-ray stress factors calculated using the Voigt and Reuss approximations are shown for comparison.
Fig.5(b)に示すように,σ110=12°の繊維状集合組織を有する純鉄多結晶においては,X線応力ファクターは,sin2Ψの増加に対してより直線的に増加することがわかる。Fig.5(c)に示すσ110=15°の場合は,集合組織の影響はさらに低下し,X線応力ファクターは,sin2Ψの増加に対してほぼ直線的に増加する。また,σ110=12°およびσ110=15°の場合も,σ110=9°の場合と同様に,Self-consistent法によって計算したX線応力ファクターはVoigt近似およびReuss近似によって計算した値の間に存在する。また,σ110=9,12および15°の計算結果の比較から,Voigt近似およびReuss近似との間の差は標準偏差σ110の増加に伴って低下することがわかる。以上の結果から,繊維状集合組織における結晶配向度がSelf-consistent法によって計算されるX線応力ファクターおよびVoigt近似およびReuss近似によって計算されるX線応力ファクターの差に影響を及ぼすことがわかる。
Fig.6(a)にσ110=9°の繊維状集合組織を有するモデルAに対して,Voigt近似,Reuss近似およびSelf-consistent法によって計算したX線応力ファクターを示す。σ110=9°という比較的強い集合組織が存在するにも関わらず,X線応力ファクターは,sin2Ψの増加に対してほぼ直線的に増加する。また,すべてのsin2Ψの値においてVoigt近似とReuss近似の間の差も小さい。これはモデルAの単結晶において弾性異方性が小さいためである。Fig.6(b)に示すように,単結晶が弾性的に等方的な場合は,集合組織(σ110=9°)が存在する場合においても,X線応力ファクターは,sin2Ψの増加に対して直線的に増加する。また,Self-consistent法による計算値は,Voigt近似とReuss近似による計算値に一致する。以上の結果から,単結晶の弾性異方性がSelf-consistent法によって計算されるX線応力ファクターおよびVoigt近似およびReuss近似との間の差に影響を及ぼすことがわかる。

X-ray stress factor F11 calculated by the self-consistent method: (a) model A, (b) model B, and (c) model C with a fiber texture of σ110 = 9º. The aspect ratio a3/a1 of the grains in polycrystals is 1, and φ= 0º. The X-ray stress factors calculated using the Voigt and Reuss approximations are shown for comparison.
Fig.6(c)に示すように,モデルCに対して,Self-consistent法によって計算したX線応力ファクターにおいては,sin2Ψとの間の直線関係からのずれが大きく,Voigt近似とReuss近似による計算値の差も大きい。また,Fig.5(a)に示す純鉄の場合と比較すると,各sin2Ψの値におけるVoigt近似とReuss近似の値の大小関係およびX線応力ファクターとsin2Ψの間の直線関係からのずれが逆になっている。これは,純鉄とモデルCで単結晶ヤング率が極大値と極小値を示す方位が逆になっていることと対応している。このことからも,単結晶の弾性異方性がSelf-consistent法によって計算されるX線応力ファクターおよびVoigt近似およびReuss近似によって計算されるX線応力ファクターの差に影響を及ぼすことがわかる。
4・3 X線応力ファクターの結晶粒のアスペクト比依存性Fig.7(a)にσ110=9°の繊維状集合組織を有する純鉄多結晶に対して,様々な値の結晶粒のアスペクト比a3/a1を仮定し,Self-consistent法によって計算したX線応力ファクターを示す。ここで,繊維状集合組織の優先配向方位である[110]方位がアスペクト比を定義している座標系のx3方位に対応している。また,Ψ=40°(sin2Ψ=0.413)およびφ=0°である。比較として,Voigt近似およびReuss近似によって計算したX線応力ファクターを示す。Self-consistent法によって計算したX線応力ファクターは結晶粒のアスペクト比a3/a1に依存し,アスペクト比a3/a1の増加に伴って低下する。アスペクト比10と∞とした場合のX線応力ファクターの値はほぼ同じであり,高アスペクト比の領域では,X線応力ファクターの値はアスペクト比a3/a1にほとんど依存しない。また,すべてのアスペクト比の場合において,Self-consistent法による計算値は,Voigt近似およびReuss近似によって計算した値の間に存在することがわかる。

X-ray stress factor F11 calculated by the self-consistent method as a function of aspect ratio a3/a1 of the grains in polycrystals: polycrystalline pure iron with fiber textures of σ110 = (a) 9º and (b) 15º, and (c) model A and (c) model C with fiber textures of σ110 = 9º. The angles φ and Ψ are 0º and 40º, respectively. The X-ray stress factors calculated using the Voigt and Reuss approximations are shown for comparison.
Fig.7(b)に示すようにσ110=15°の繊維状集合組織を有する純鉄多結晶の場合も,X線応力ファクターはアスペクト比a3/a1の増加に伴って低下するが,低下量はσ110=9°の場合と比較して小さい。また,Voigt近似およびReuss近似の値の差も,σ110=9°の場合と比較して小さい。このことから,X線応力ファクターのアスペクト比依存性には繊維状集合組織における結晶配向度が影響していることがわかる。
Fig.7(c)に示すように単結晶の弾性異方性が小さいモデルAにおいては,比較的強い集合組織(σ110=9°)が存在する場合においても,X線応力ファクターのアスペクト比依存性が小さく,Voigt近似およびReuss近似の間の差も小さい。このことから,X線応力ファクターのアスペクト比依存性には単結晶の弾性異方性も影響していることがわかる。
純鉄と比較して単結晶ヤング率の極大値および極小値を示す方位が逆であるモデルCにおいては,Fig.7(d)に示すようにアスペクト比の増加に伴ってX線応力ファクターが増加する。また,Voigt近似およびReuss近似の値の大小関係もFig.7(a)に示す純鉄の場合と逆になっている。このことからも,X線応力ファクターのアスペクト比依存性に単結晶の弾性異方性が影響することがわかる。
これまでの計算の結果により,繊維状集合組織における結晶配向度および単結晶の弾性異方性がX線応力ファクターの結晶粒のアスペクト比依存性に影響を及ぼすことが明らかとなった。そこで,結晶配向度および単結晶の弾性異方性がX線応力ファクターの結晶粒のアスペクト比依存性に及ぼす影響を総合的に理解するため,Self-consistent法を用いて,純鉄,モデルA,モデルBおよびモデルCの単結晶で構成されたσ110=9,12および15°とする繊維状集合組織を有する多結晶材料に対して,X線応力ファクターF11のアスペクト比依存性を計算した。さらに,Voigt近似およびReuss近似を用いたX線応力ファクターF11の計算を行い,Voigt近似およびReuss近似によって計算されるX線応力ファクターの差とX線応力ファクターのアスペクト比依存性を系統的に整理した。
Fig.8にアスペクト比a3/a1を1および∞とした場合のX線応力ファクターの差ΔF11をVoigt近似とReuss近似によって計算したX線応力ファクターの差ΔF11VRに対してプロットした結果を示す。ここで,φ=40°である。Voigt近似とReuss近似の間の差ΔF11VRの増加に伴って,アスペクト比a3/a1を1および∞とした場合の差ΔF11が増加し,両者には明確な相関があることがわかる。ここで,多結晶内のひずみが一定であるとして多結晶弾性率を計算するVoigt近似と多結晶内の応力が一定であるとして計算を行うReuss近似の差は,多結晶体内の弾性不均質性の強さを反映することが知られている23)。多結晶内の弾性不均質性が強い場合,結晶粒間の弾性相互作用が強くなるため,多結晶弾性率は結晶粒のアスペクト比に敏感になると考えられる10)。X線応力ファクターにおいても,Voigt近似とReuss近似の差は,集合組織における結晶配向度と単結晶の弾性異方性の強さによって決まる多結晶体内の弾性不均質性を反映するため,Voigt近似とReuss近似の差はX線応力ファクターの結晶粒のアスペクト比依存性との間に明確な相関を有していると考えられる。

Difference in the X-ray stress factors ΔF11 in polycrystals comprised of grains of a3/a1 = 1 and ∞ as a function of that in the X-ray stress factors calculated using the Voigt and Reuss approximations ΔF11VR. The angles φ and Ψ are 0º and 40º, respectively.
Self-consistent法,Voigt近似およびReuss近似に基づいたモデル計算により〈110〉繊維状集合組織を有する多結晶材料に対して,X線応力ファクターに及ぼす単結晶の弾性異方性,結晶配向度および結晶粒の形状の影響を調べた。得られた結果を以下に示す。
(1)〈110〉繊維状集合組織の結晶配向度および単結晶の弾性異方性は,X線応力ファクターの結晶粒のアスペクト比依存性に影響を与える。〈110〉繊維状集合組織の結晶配向度が高く単結晶の弾性異方性が大きい多結晶材料においては,X線応力ファクターの結晶粒のアスペクト比依存性が大きい。
(2)X線応力ファクターの結晶粒のアスペクト比依存性とVoigt近似とReuss近似によって計算されるX線応力ファクターの差には相関があり,Voigt近似とReuss近似によって計算されるX線応力ファクターの差が大きい場合には,X線応力ファクターの結晶粒のアスペクト比依存性が大きい。
本研究は第24回鉄鋼研究振興助成により実施された。