Tetsu-to-Hagane
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Ironmaking
Intra-Particle Water Migration Dynamics during Iron Ore Granulation Process
Takahide Higuchi Liming LuEiki Kasai
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2019 Volume 105 Issue 11 Pages 1033-1041

Details
Synopsis:

The influence of iron ore properties, such as ore type, mineralogical texture, and particle size, on the intra-particle water migration dynamics were evaluated using immersion method. When immersed, ores were reached 68–78% of their final saturation in first 60 s and then approached final saturation slowly. It typically took up to 1×105 s to reach final saturation. Compared with the initial and final saturation water contents of 2.8–4.0 mass% in the case of Brazilian ores, Australian ores showed higher water contents of 5–6.4 mass% due to more porous structure. While the final saturation water content was partially explained by the porosity and total pore volume of ores, the kinetics of water migration should be considered to explain the saturation curve of different ores. In terms of mineralogical texture, porous texture showed higher final saturation water contents than dense texture. Finer particles showed higher final saturation water contents than coarser particles. A revised migration model was introduced to explain the effect of pore size distribution and trapped air. It was revealed that water migration proceeds more readily in the finer pores due to the larger capillary force, which is needed to overcome the trapped air. The water migration in the coarser pores is restrained due to the weak capillary force against trapped air, resulting in lower degree of saturation at equilibrium. Compared with Australian ores, Brazilian ores showed a lower degree of saturation due to their higher proportion of coarse pores.

1. 緒言

近年,鉄鉱石の品位は徐々に変質しており,鉄鋼業においては安定かつ高生産を実現するためには,鉱石性状の理解が急務となっている。鉄鉱石中の脈石分の増加は,焼結鉱品質の低下に直結するだけではなく,高炉における還元材比の増加の一因となる。焼結プロセスでは通気性の確保が重要であり,鉄鉱石はドラムミキサーにおいて調湿および造粒され擬似粒化される。水分の適正量は鉄鉱石の空隙率,比表面積,濡れ性に大きく影響され,過剰の添加水は通気性悪化を引き起こす。Khosa and Manuel1)は,適正造粒水分値の経験式を提案し,鉱石中のLOI(Loss on Ignition),Al2O3およびSiO2比率や,粒度分布によって適正水分値を予測できることを示した。LOIは水が浸透できる気孔容積の指標であり,粒度分布は粒子比面積,すなわち表面水分の指標となる。一方,Matsumuraら2)は,飽和水分値に及ぼす開気孔体積の影響を調査し,鉱石中の開気孔体積の増加にともない適正造粒水分値と飽和水分値の差が拡大することを指摘した。これは,粒子内への水分移動速度が遅いために,飽和水分測定時には水分で満たされていた開気孔が,実際の造粒プロセスを模擬した時間域では十分に浸透されないためである。水分浸透には100分程度の時間を要する鉱石も有り,速度論的な議論が必要である事を示している。添加水分量が一定の場合,時間と共に粒子内に水分が移動するため,表面に残存する水分量は低下する。表面水分の確保を考慮して造粒水分を決める必要があるが,従来の研究では,化学成分や物性値に基づいた適正水分値の予測に主眼が置かれており,速度論的な検討は十分ではない。

造粒前および造粒過程における鉄鉱石粒子と水分の相互作用については,粒子間の水分浸透と粒子内の水分移動現象を分けて議論する必要がある。粒子内の水分移動挙動に関しては,浸透法や遠心法により評価されている35)。Ivesonら6)は,気孔構造を単純化するために気孔径の平均値を用い,水の吸収が閉塞気孔の片面から起こる閉塞気孔モデルを構築した。実験には直径約30 mmの粗大な塊鉱石を用いられており,焼結プロセスで対象とする粉鉱石に比べて非常に大きいという課題がある。

以上により,本研究では,実機で使用される粒度の粉鉱石を用いて,気孔率,気孔径分布,粒子径および鉱物学的特性を考慮して粒子内の水分移動挙動を検討した。

2. 実験方法

2・1 原料

原料には豪州鉱石(鉱石AおよびB),およびブラジル産鉱石(鉱石CおよびD)を用いた。Table 1およびFig.1に,化学組成および水洗後の鉱石粒子断面(-2+1 mm)の顕微鏡写真を示す。

Table 1. Chemical composition (mass%) and mean particle size (MPS) of the ore samples tested.
Ore Samples T.Fe SiO2 Al2O3 LOI MPS (mm)
Ore A 57.6 5.7 1.5 10.2 3.2
Ore B 61.5 3.7 2.3  5.4 2.0
Ore C 62.5 6.5 1.3  1.7 2.6
Ore D 64.0 3.4 1.9  1.9 2.7
Fig. 1.

Typical cross sectional images of the samples tested (particle size: –2.0+1.0 mm). H: Hematite, HH: Hydro hematite, mH: Microplaty hematite, M: Martite, kM: Kenomagnetite, vG: Vitreous goethite, oG: Ocherous goethite, K: Kaolinite, Q: Quartz

鉱石Aは,vitreousゲーサイト組織(以後vGと称す)を主体とするピソライト鉱石であり,少量のハイドロヘマタイトを含む。鉱石Bはマラマンバおよびブロックマン系の鉱石である。緻密質のヘマタイトまたはマータイト粒子,ゲーサイト組織を内包するヘマタイトとマータイト混合組織,およびゲーサイト組織主体の粒子から構成される。鉱石CおよびDは,主に緻密質ヘマタイト粒子で構成される。鉱石C中のヘマタイト粒子は緻密であり,無定形の結晶が複雑に重なり,プレート様の粗大な結晶組織が整列した構造である。また,ケノマグネタイトの元鉱も観察された。鉱石Dのヘマタイト粒子は,より微細な気孔を多数有しており,微細なマイクロプレートが互いに交錯する構造が見られた。

Cloutが提案した鉱石分類群7)に従って,鉱石AおよびCの-4.75+2.8 mm粒度のサンプルを洗浄し,顕微鏡観察下で,外観,硬度および磁気特性などの物理的特性に基づき,組織毎に分別した。

2・2 鉱石粒子内部への水分移動挙動の測定

鉱石試料を,+4.75 mm,-4.75+2.8 mm,-2.8+2 mm,-2+1 mmおよび-1 mmの5つの粒度区分に篩分けた。造粒プロセスでは,粒径1 mm以上の鉱石粒子は核粒子として作用すると考えられるため,本研究では1 mm以上4.75 mm以下の3つの粒度区分を実験に用いた。付着粉による影響を除去するために粒子を十分に洗浄し,105°Cで24時間乾燥させて密封保存した。Fig.1に示すように,粒子表面に付着粉の存在は認められなかった。

実験では,水洗・乾燥後の粒子約50 gを深さ20 mmの水浴中に浸漬させ,浸漬時間を10 sから6×105 sの範囲で変更した。浸漬後の粒子を水浴から取り出し,タオル紙を用いて表面の光沢が無くなるまで水分を拭き取った。その時の重量をWwetとし,105°Cで乾燥させた後の重量をWdryとした。浸漬時間tにおける含水率Wtを式(1)で定義した。

  
W t = W w e t W d r y W w e t × 100 (1)

ここで,Wt:浸漬時間tにおける含水率(mass%),t:浸漬時間(s),Wwet:表面水分除去後の試料重量(g),Wdry:乾燥後の試料重量(g),である。

再現性を確認するため各条件で2回以上測定し,平均値を用いて解析した。

2・3 気孔構造の評価

粒子の気孔構造は水分移動ダイナミクスに影響を及ぼし,気孔率や全気孔容積は,最終的な水分の保持容量に影響を及ぼすと考えられる。骨格密度ρrについては,乾式自動密度計(Micromeritics製,AccuPycII 1340)を用いてヘリウムガスによる定容積膨張法により測定した。供試粒度と重量は,それぞれ-4.75+2.8 mm,12~15 gとした。骨格密度の定義は,試料重量(g)をヘリウムガスの侵入できない試料体積(cm3)で除した値である。固体中の閉気孔を固体体積として扱うため,真密度の値よりも小さくなる。同じ試料を用いて,かさ密度測定装置(Micromeritics,GeoPyc 1360)を用いてビーズ容積置換法により粒子の見掛け密度ρaを測定した。測定には粒子表面の凹凸に沿って流動しやすい微粉を用いた。全気孔率εは,式(2)で計算した。

  
ε = 1 ρ a ρ r (2)

ここで,ε:鉱石粒子の全気孔率(-),ρa:粒子見掛け密度(kg/m3),ρr:粒子骨格密度(kg/m3),である。

気孔構造を評価するために,水銀ポロシメーター(Micromeritics AutoPore IV 9500)を用いた。供試粒度と重量は,それぞれ-4.75+2.8 mm,2~3 gとした。Table 2に測定結果を示す。メジアン気孔径は,累積気孔容積が50 vol%となる気孔径と定義した。

Table 2. Pore structure parameters of ores measured by different methods.
Ore samples Particle Size
(mm)
Helium/powder displacement methods Mercury porosimetry
Skeletal Density
(kg/m3)
Envelope Density
(kg/m3)
Porosity
(–)
Total Pore Volume×10–6 (m3/kg) Median pore Diameter×10–9 (m)
A –4.75 + 2.8 3790 2980 0.215 68 37
B –4.75 + 2.8 4300 3260 0.241 81 224
C –4.75 + 2.8 4620 3590 0.223 66 3456
D –4.75 + 2.8 4910 3900 0.205 48 498

測定された気孔パラメーターを用いて,2つの計算保持含水率(w1Sw2S)を定義し,実験値と比較した。骨格密度と粒子見掛け密度の結果から式(3)でw1Sを,水銀圧入法の結果から式(4)でw2Sを計算した。

  
w 1 S = V u n i t ε ρ w V u n i t ρ a + V u n i t ε ρ w × 100 = ε ρ w ρ a + ε ρ w × 100 (3)
  
w 2 S = ρ w i v ( p ) i W u n i t + ρ w i v ( p ) i × 100 (4)

ここで,w1Sw2S:計算保持含水率(mass%),ρw:水の密度(kg/m3),ν(p)i:ステップiの水銀の侵入体積(m3/kg),Vunit:単位体積;1(m3),Wunit:単位質量;1(kg),である。

細粒の測定値については,本測定の適用限界であり,精度が低いと考えられたため,解析から除外した。

3. 実験結果

3・1 粒子内水分移動に及ぼす鉱石種の影響

Fig.2に,4つの鉱石(-4.75+2.8 mm)の含水率の時間依存性を示す。全ての鉱石で含水率は急激に上昇し,浸透時間1×105 s付近で鉱石毎に異なる最終飽和含水率を示した。Fig.2(b)に浸透初期600 sまでの詳細を示す。60 s以内に1×105 sにおける含水率の約68~78%に達した(Phase Iと称す)。その後,含水率は緩やかに増加し(Phase IIと称す),最終的に約1×105 s(Phase IIIと称す)では含水率変化は停滞し,飽和状態となった。浸透時間60 sおよび1×105 sにおける含水率を,初期飽和含水率および最終飽和含水率と定義した。このように飽和状態に達するには時間を要するため,一般的な実機ドラムミキサーの滞留時間(300 s程度)においては,部分的に飽和している状態と考えられる。

Fig. 2.

Change in the water content of ores with immersion time. (a) immersion time up to 105 s, (b) immersion time up to 600 s (particle size: –4.75+2.8 mm)

Table 2の水銀ポロシメトリーによる全気孔容積に着目すると,鉱石A,Bは鉱石C,Dよりも多孔質である。また,鉱石A, Bの気孔メジアン径は小さく,微細気孔が多く存在する。鉱石A,Bの初期飽和含水率および最終飽和含水率は,それぞれ約5.0および6.5 mass%であり,鉱石C,Dの2.8および4.3 mass%と比べて高い値を示した。これは,全気孔容積の大小関係と関連している。

そこで,最終飽和含水率を計算保持含水率(w1Sw2S)と比較した。Fig.3に結果を示す。鉱石Cを除き,実験値と計算値は正の相関を示した。鉱石Cは,鉱石Aと同程度の気孔率と全気孔容積を有し,鉱石Dよりも多孔質であるにもかかわらず,最終飽和含水率は低い値を示した。これは,最終飽和含水率が全気孔容積だけでは説明できず,気孔構造や鉱石組織の影響を考慮する必要があることを示唆している。また,最終飽和含水率は計算値よりも全体的に低く,浸透時間1×105 s経過後においても水で満たされていない気孔が存在する。

Fig. 3.

Relationship between final saturation water content and calculated water holding capacity of ores. (particle size: –4.75+2.8 mm)

そこで,全気孔容積に対して水で満たされた気孔の容積比として,飽和度X(%)を式(5)に定義した。

  
X = W w e t W d r y ρ w W d r y i ν ( p ) i × 100 (5)

Fig.4(a)に飽和度Xの浸漬時間依存性を示す。Fig.4(b)は浸透時間600 sまでの詳細図である。飽和度は浸漬時間に対して急激に増加し,鉱石の種類に応じて飽和度が異なるものの,変化の割合は同様の傾向を示した。例えば,鉱石AからDの初期飽和度(浸漬60 s)は,それぞれ75,66,41,64%で,最終飽和度(浸透1×105 s)は,それぞれ99,86,61,88%となった。浸透時間1×105 sでは,鉱石Aの気孔はほぼ水で占められているのに対して,鉱石B,C,Dでは,それぞれ14,39,12%の気孔が残存した。

Fig. 4.

Change in the degree of saturation with immersion time for various ores. (a) immersion time up to 105 s, (b) immersion time up to 600 s. (particle size: –4.75+2.8 mm)

このような鉱石毎の飽和度の差異は,鉱石特性に起因する。Fig.5に鉱石毎の気孔径0.003~100 μmにおける積算気孔径分布を示す。鉱石Aでは,直径0.1 μm以下の微細気孔が64%と最も多く,鉱石Bでは50%程度であった。鉱石Cでは,特に気孔径10 μm以上の存在比率が顕著に高い。鉱石Dの気孔径分布は鉱石Bよりも粗く,鉱石Cよりも微細であった。このような気孔径分布の違いが浸透挙動に影響を与えているものと考えられ,これについては4・2節で考察する。

Fig. 5.

Pore size distribution of the ores tested. (particle size: –4.75+2.8 mm)

3・2 粒子内水分移動に及ぼす鉱物組織の影響

Table 3に,鉱石AおよびCにおける鉱石組織の存在比率,粒子骨格密度,見掛け密度,空隙率および最終飽和含水率を示す。鉱石Aは,主に多孔質のvGを主成分とし,次に緻密質vG,G+HH(ハイドロヘマタイトを含むゲーサイト)の存在比率が高い。従来の鉱石分類法7)では,HHを主体とする粒子は,緻密質ヘマタイト,マータイト,HHのいずれかのグループに分類される。しかし,本研究の試料では,HH組織の大部分はゲーサイトと共存していたことから,10 vol%以上のHHを含む鉱石組織のグループをG+HHとした。鉱石Cでは,主として微細なプレート型ヘマタイトまたはマータイト組織(mH/M)が多く,次いでマータイト主体でゲーサイトを含む組織(M+G),G+HH,多孔質vG,ゲーサイト主体でマータイトを含む組織(G+M),緻密質vGの順となった。骨格密度は,mH/M,M+G,緻密質~多孔質vGの場合,5214 kg/m3,4837 kg/m3,3925~3949 kg/m3,気孔率は6%,18%,8~19%であった。過去の研究で報告された値8)に関しては,mH/Mの密度4.7~4.9 g/cm3,気孔率5~7%,M+Gでは,密度4.0~4.3 g/cm3,気孔率21~27%,vG組織では,密度3.3~3.8 g/cm3,気孔率13~30%であり,本研究の測定値と同様の傾向を示した。また,G+Mの骨格密度はM+Gよりも小さいが,これはG+MがM+Gに比べてゲーサイト組織が多く,多孔質であるためと考えられる。

Table 3. Dominance and measured porosity of typical texture groups present in Ores A and C.
Ore textures Frequency (mass%) Densities (kg/m3) Porosity Final saturation water content
Type Ore A Ore C Skeletal Envelope mass%
mH/M 33.6 5214 4880 0.06 1.6
M+G 22.3 4837 3979 0.18 4.9
G+M 8.4 4468 3355 0.25 6.4
G+HH 13.3 11.2 4098 3413 0.17 5.4
vG (dense) 22.3 4.8 3925 3594 0.08 3.9
vG (porous) 59.1 9.3 3949 3182 0.19 6.9

mH: Microplaty hematite, M: Martite, G: Goethite, HH: Hydrohematite, vG: Vitreous goethite

Fig.6(a)に,粒径-4.75+2.8 mmの鉱石組織毎の最終飽和含水率を示す。多孔質vGは緻密質vGの3.9 mass%に比べて,6.9 mass%と高い値を示した。mH/Mの含水率は1.6 mass%と最も低かった。G+Mは6.4 mass%,G+HHは5.4 mass%,M+Gは4.9 mass%と,ヘマタイトおよびマータイト組織からゲーサイト組織比率が増えるにつれ,または緻密質から多孔質になるにつれ,最終飽和含水率が増加した。Fig.6(b)に,鉱石AとCの鉱石組織毎の加重平均をとった最終飽和含水率の計算値と実測値の比較を示す。未測定の鉱石組織が若干存在するために,計算値は実測値に比べて若干低い値となっているが,飽和含水率は組織毎の飽和含水率の積算値で説明できる。

Fig. 6.

(a) Final saturation water contents measured for typical ore textures, and (b) Final saturation water contents measured and calculated based ore texture groups for Ores A and C.

Fig.7に,最終飽和含水率に対する鉱石組織毎の含水率の寄与を示す。鉱石Aでは,多孔質vGの影響が63%と高く,次に緻密質vG,G+HHの順となった。鉱石Cの場合,M+Gの影響が25.8%と比較的大きく,それ以外の鉱石組織の寄与は,同程度であった。

Fig. 7.

Contribution of individual textural groups to the final saturation water content measured.

Fig.8に,最終飽和含水率と空隙率の関係を示す。気孔率が同じでも,ゲーサイト系組織の飽和含水率は,ヘマタイト系組織よりも高い。これは,先に述べたように気孔径分布の違いや,ヘマタイトとゲーサイト組織の濡れ性の違い9,10)が関係している。同様の空隙率にも関わらず豪州鉱石と南米鉱石の間で最終飽和含水率に違いが生じた原因は,このような組織毎の吸収特性の違いによる。

Fig. 8.

Relationship between final saturation water contents and porosity. (particle size: –4.75+2.8 mm)

3・3 粒子内水分移動に及ぼす粒径の影響

Fig.9に,鉱石BとCにおいて,粒径が異なる場合の含水率経時変化を示す。粒子径の減少に伴い含水率は増加し,初期飽和含水率と最終飽和含水率も増加する傾向が見られた。粒子径による違いは,最終飽和含水率よりも浸透初期において顕著であった。これは粗大粒子の水分移動速度が,浸透後半において速いことを示唆している。鉱石Cは鉱石Bと異なり,最終飽和含水率の粒径依存性は小さい。鉱石Bはブレンディング鉱石であるため,粒度毎の鉱物組織の構成差が鉱石Cに比べて大きいものと考えられる。

Fig. 9.

Change in the water content with immersion time for different size particles from (a) Ore B, (b) Ore C.

4. 粒子内水分移動モデル

4・1 従来の粒子内水分移動モデル

粒子内水分移動は毛管力によって進行し,Lucas-Washburn(LW)式により接触角と毛管半径に依存する11,12)。下部が水に浸漬し,上部が開放された単一毛細管を考える。水が毛細管内を移動する速度は,上昇方向を正とすると,式(6)と(7)で表される。

  
d V d t = π Δ P R 4 8 η L (6)
  
Δ P = 2 γ cos θ R ρ w g L (7)

ここで,V:移動水量(m3),L:毛細管上昇(m),R:毛細管半径(m),ΔP:毛細管上端と下端の圧力差(Pa),γ:表面張力(N/m),η:粘度(Pa·s),θ:接触角(°),g:重力加速度(m/s2),である。

従来の浸透モデルでは,水分移動速度(dV/dt)はΔPLRの関数であり,駆動力となるΔPは,Lが増加すると減少する。さらにdV/dtは1/Lの比例するので,毛管上昇にともない水分移動速度は低下する。この傾向は,Fig.2(a)の経時変化で示される通りである。毛管半径の影響としては,ΔPRの逆数に比例するため,気孔径が小さいほどΔPは大きい。しかし,dV/dtR4の関数でもあるため,上式を全体として見ると,気孔径が小さいほど水分移動速度は小さく13),気孔径が大きいほど水分移動速度が大きい。これは,重力影響を無視した式(8)からも明らかである。

  
L = R γ cos θ 2 η t (8)

接触角θについては,ΔPに含まれており,濡れ性の良い材料では水分移動速度が大きい。鉱石AとDの気孔のメジアン径は37 nm,498 nmと鉱石BとCに比べて小さい。同じ起源をもつ鉱石の接触角が同程度であると仮定し,メジアン径をLW式中の毛管径として用いると,鉱石AとDのdV/dtは小さくなる。しかし,Fig.4(b)では鉱石AとBまたは鉱石CとDにおいて明確な差は認められない。すなわち,メジアン径を代表径として取扱うには限界があり,浸透挙動を支配する毛管径を明らかにする必要がある。

Obuchi and Watanabe14)は,多孔質焼結体を用いた溶融金属の浸透実験において,粗大な気孔には液体が十分に溶浸されずに,空隙が残存することを報告しており,閉塞されたガスの内圧により毛細管力が相殺され,多孔質内の液体の移動が抑制される可能性を指摘した。Ivesonら6)は,粒子内水分移動メカニズムを説明するために閉塞気孔モデルを提案した。このモデルでは毛細管力とガスの内圧がバランスするまで水分移動が進行し,その後,トラップされた空気が水に徐々に溶解することで,未飽和の気孔内に水が置換される。その後,Lvら15)は,Ivesonのモデルに基づいて鉄鉱石粉の充填層内の浸透挙動を議論しているが,充填層内の水分浸透を取り扱っている。また,既往の研究では,鉱石粒子の実際の気孔径分布が考慮されていない。したがって,気孔径分布と閉塞気孔の両方を考慮する新しいモデルが必要である。

4・2 改良された粒子内水分移動モデル

鉱石粒子内の気孔構造は複雑であり,気孔長さや気孔数の実測は困難である。本研究では,水銀ポロシメトリーで実測された気孔径分布が粒子表面に一様に存在すると仮定し,LW式の修正を試みた。

Fig.10に,気孔径分布,閉塞空気および粒子表面毎の気孔を考慮した粒子内水分移動モデルの概略図を示す。それぞれの気孔は異なる半径を持ち,連結しておらず片側は閉じていると仮定した。AUおよびABは鉱石粒子の上面と下面を示し,全圧力の作用点である。鉱石粒子の側面に関しては,全圧の作用点を明示していないが,それぞれの気孔位置の水深に応じて定義した。鉱石粒子形状を立方体と仮定すると,上面,側面および底面の気孔に対するΔPijは式(9)で表される。

  
Δ P i U = 2 γ cos θ R i U + ρ w g L i U P i n s i d e , i U + P w , i U + P a i r Δ P i S = 2 γ cos θ R i S P i n s i d e , i S + P w , i S + P a i r Δ P i B = 2 γ cos θ R i B ρ w g L i B P i n s i d e , i B + P w , i B + P a i r (9)
Fig. 10.

Schematic diagram of the revised intra-particle water migration model showing a single ore particle containing pores of varying diameters.

ここで,Pinside,ij:閉塞空気の内圧(Pa),Pair:大気圧(Pa),Pw,ij:水圧(Pa),添字iは個々の気孔(i=1,2...n),添字jU:上面,S:側面,B:下面,である。

毛細管力,水圧および大気圧は,気孔の位置に関わらず水分移動の駆動力となる。一方で閉塞空気の圧力は反力として働く。重力は駆動力または反力として働く。ガス温度の変化が無視できると仮定すると,個々の気孔iについて,閉塞された空気の内圧Pinside,ijは移動水量Vij(m3)および気孔容積V(p)ij(m3)を用いて式(10)のように表される。

  
P i n s i d e , i j = P a i r V ( p ) i j V ( p ) i j V i j (10)

気孔が全表面に均等配分されていると仮定すると,各表面jにおける気孔iの体積V(p)ijは,式(11)のように表される。

  
V ( p ) i = V p a r t i c l e ρ a ν ( p ) i V ( p ) i U = V ( p ) i B = 1 6 V ( p ) i V ( p ) i S = 2 3 V ( p ) i (11)

ここで,Vparticle:鉱石1個粒子の平均体積(m3),V(p)i:気孔iの容積(m3),である。

次に,水分移動が停止するときの飽和度を定式化した。粒子上面では,気孔内にトラップされた空気は浮力により上方に放出され易いと考えられるため,閉塞空気の効果は底面と側面にのみ適用した。ここで,接触角60°,半径50 μmの毛細管を考えると,重力に逆らって上昇できる毛細管の最大上昇高は15 cmとなり,本研究の粒子サイズよりも非常に大きい。また,毛細管上昇による水柱の長さが粒子の半径程度とし,接触角60°と仮定すると,半径4 mm以上の気孔では気孔内に水柱を保持する毛管力よりも重力が上回るため,気孔内に水分を保持できずに滴下する。この気孔径は鉱石の気孔径よりも非常に大きい。したがって,重力の影響は無視出来るほど小さい。また,本試験における水圧200 Paは大気圧に対して0.2%程度であり,水圧の影響は小さい。したがって,式(9)は式(12)で表される。

  
Δ P i U = 2 γ cos θ R i U + P a i r Δ P i j = 2 γ cos θ R i j P a i r V ( p ) i j V ( p ) i j V i j + P a i r , ( j = S : S i d e , B : B o t t o m ) (12)

表面j,気孔iに対する飽和度Xijは,式(13)で表される。

  
X i j = V i j V ( p ) i j (13)

粒子全体の飽和度Xは,Xijを各表面毎にすべての気孔について総和して計算される。

  
X i = V ( p ) i U X i U + V ( p ) i S X i S + V ( p ) i B X i B V ( p ) i × 100 X = i ( V ( p ) i X i / 100 ) i V ( p ) i × 100 (14)

本モデルによると,粒子内水分移動は粒子表面で等しく開始する。側面および底面からの水分移動については,移動水量(Vij)の増加にともない閉塞空気の内圧が増大するためにΔPijが減少する。その結果,水分移動速度(dV/dt)が小さくなる。例えば側面からの浸透では,閉塞空気の圧力(Pinside,ij)が毛管力(2γcosθ/R),大気圧(Pair)の和と等しくなるとΔPijはゼロになり,水分移動が平衡に達する。Phase Iにおける鉱石毎の水分移動挙動の違いを議論するために,平衡時の飽和度を式(12)と(13)より算出した。上側に位置する気孔については,平衡飽和度が100%に達すると仮定した。側面および底面に位置する気孔に関しては,式(12)のΔPiSおよびΔPiBに0を代入し,平衡飽和度を式(15)より算出した。

  
X i U = 1 X i j = 2 γ cos θ R i j P a i r + 2 γ cos θ , ( j = S , B ) (15)

Fig.11に,式(14)と(15)を用いて計算した各鉱石の平衡飽和度の気孔径依存性を示す。接触角は,豪州鉱石とブラジル鉱石でそれぞれ45°と60°とした9,10)。気孔径分布はFig.5に示す結果を用いた。微細気孔ほど毛細管力が大きく,平衡飽和度も高くなる。気孔径20 μm以上では,鉱石種に依らず平衡飽和度は20%程度となった。平衡飽和度に及ぼす接触角の影響は,気孔径の影響ほど大きくはないが,低接触角の鉱石ほど平衡飽和度は高い。

Fig. 11.

Effect of pore diameter on the degree of saturation at equilibrium.

Fig.12に,鉱石Cにおける,気孔径分布と気孔径毎の平衡時の浸透水分体積の関係を示す。気孔径が0.1 μm以下では水分は気孔内に概ね浸透する。しかし,気孔径が1 μm以上では浸透水分体積は気孔体積に比べて著しく小さい。粒子全体の平衡飽和度は気孔毎の浸透水分体積を積算し,気孔量で除した値となる。鉱石Aでは特に0.1 μm以下の微細気孔の含有率が高く,平衡飽和度は80%と最も高い値となった。次に,鉱石Bで72%,鉱石Dで65%となり,鉱石Cは10 μm近傍の粗大気孔が多く,平衡飽和度は49%と最も低くなった。

Fig. 12.

Comparison of the pore volume intruded by mercury and water at equilibrium for Ore C.

Fig.13に本モデルにおける水分移動挙動の模式図を示す。2本の曲線は粗大および微細気孔のケースを示す。粗大気孔ではdV/dtが高いが,微細に比べて早期に平衡に達し(t=tc),その時の到達移動量(V)も小さくなる。

Fig. 13.

Schematic time dependence of flow volume based on the new migration model. (tc: time reaching equilibrium for the coarse pores, tf: time reaching equilibrium for the fine pores)

Fig.14に鉱石毎の平衡飽和度の計算値と,各浸漬時間(60,3000,1×105 s)における実測飽和度の関係を示す。本モデルでは浸漬時間3000 sにおける飽和度と高い相関を示した。さらに,微細気孔の存在比率として気孔径0.1 μm未満の存在比率を比較すると,-0.1 μm比率の増加にともない飽和度は増加した。

Fig. 14.

Comparison of calculated and actual degrees of saturation.

4・3 粒子内水分移動のメカニズム

これまでの議論を基に,粒子内水分移動のメカニズムをまとめると以下のようになる。

(1)浸漬時間0 sから60 s(Phase I)では,水分は全ての気孔から侵入を開始する。粗大気孔中の水分移動量および移動速度(dV/dt)は大きいものの,閉塞空気の内圧も急激に増加し,低飽和度のまま局所的な平衡状態に到達する。気孔径によって到達時間は異なるが,順次粗大気孔への水分移動は停滞する。一方,微細気孔においては内圧の影響を受けつつも,毛細管力が大きいために,飽和度は継続して増加する。

(2)浸透時間60 sでは,水分移動は継続しているが,閉塞空気の影響により,その速度は著しく低下する。

(3)浸透時間60 sから3000 s(Phase II)では,閉塞空気との共存下でさらに水分移動が進行する。微細気孔のサイズによって平衡への到達時間は異なるが,3000 s以内に順次微細気孔における水分移動が停滞する。

(4)浸漬時間3000 sでは,閉塞空気の内圧と毛管力がバランスし,気孔内は水で部分的に満たされた状態となる。

(5)浸透時間3000 sから1×105 s(Phase II)では,飽和度はさらに増加する。平衡到達後の水分浸透については,LW式では説明できない。過去の報告6)にあるように,閉塞空気は徐々に水中に溶解・拡散し,微細な泡の形成を経て空気中に解放されるものと考えられる。空気の溶解速度は水中の溶存空気濃度,内圧,温度に依存し,気孔構造とは無関係であることから,この浸漬時間における水分移動は各鉱石で同様の経時変化を示している。

(6)浸漬時間1×105 s以降(Phase III)においては,残存した気孔は水で満たされ飽和度が増加するが,完全飽和に必要な時間は鉱石毎に異なる。

5. 実験結果に基づく実機造粒プロセスの考察

造粒工程では,核粒子内に吸収された水分は造粒にほとんど寄与しない。本研究では乾燥鉱石粒子を用いたが,実際の鉄鉱石は初期水分を含有する。調湿原料では,適正造粒水分量が増加することが知られており6),粒子内に吸収される水分量を把握することは非常に重要である。本研究では接触角を既報の文献値として取扱ったが,表面の濡れ現象は複雑であり,濡れの履歴によって異なるヒステリシスを示す。したがって,粒子内水分移動に及ぼす初期水分の効果については,さらなる検討が必要である。

Fig.2に示したように,粒子内水分移動が最終飽和に到達するには長い時間を要する。ドラムミキサーの造粒過程においては,滞留時間は数百秒以下であり,造粒工程で添加された水分の一部は粒子内に吸収され,一部は表面水分として残る。表面水分の確保には,吸収水分量を考慮して調湿するか,擬似粒化性の低下を防止するために,生石灰を増配したり転動時間を増加させるなどの対策が必要である。

6. 結言

実機で使用される粒度の粉鉱石を用いて,気孔率,気孔径分布,粒子径および鉱物学的特性を考慮して鉱石粒子内の水分移動挙動を検討した。鉱石を水浸させると,粒子内への水分移動は直ちに進行し,浸透60 s間(Phase I)において含水率は,最終飽和含水率の68~78%に到達した。その後,含水率は徐々に増加し(Phase II),最終的に浸透時間1×105 s以降に飽和状態となった(Phase III)。豪州鉱石の最終飽和含水率は5~6.4 mass%とブラジル鉱石の2.8~4.0 mass%よりも高い値を示した。気孔率および全気孔容積が大きい鉱石ほど,最終飽和含水率は高くなった。鉱石組織の観点では,緻密質組織に比べて多孔質組織の最終飽和含水率が高い。細粒の鉱石は,粗大な鉱石よりも最終飽和含水率が高くなった。

最終飽和含水率は空隙率または全気孔容積と良い相関を示したが,本実験の浸透時間内では気孔は水で完全に満たされておらず,閉塞空気の影響を考慮すべきことが示唆された。気孔構造をメジアン径で代表させる従来モデルを修正し,気孔径分布,閉塞空気および浸透面の影響を考慮した新たなモデルを導入した。本モデルでは,微細気孔の毛細管力は大きく,閉塞空気の内圧に逆らって水の移動が進行する。一方,粗大気孔では内圧に打ち勝つ十分な毛細管力を有しないため,飽和度が低い状態で平衡に到達する。したがって,微細な気孔を有する鉱石に対して,粗大気孔の比率が多い鉱石では平衡飽和度が著しく小さくなる。

謝辞

本研究の遂行および論文執筆にあたり,貴重なご意見と多大なるサポートを頂いたCSIRO Mineral ResourcesおよびQCAT(Queensland Centre for Advanced Technologies)の研究員・技術員関係各位に厚く謝意を表す。

文献
 
© 2019 The Iron and Steel Institute of Japan

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