2019 Volume 105 Issue 12 Pages 1126-1134
The bimetallic work rolls are widely used in the roughing stands of hot rolling stand mills. The rolls are classified into two types; one is a single-solid type, and the other is a shrink-fitted construction type consisting of a sleeve and a shaft. Regarding a shrink-fitted construction type, the interfacial creep sometimes appears between the shaft and the shrink-fitted sleeve. This interfacial creep can be regarded as the relative displacement between the sleeve and the shaft, which often causes the roll damage. In this paper, the FEM simulation is performed to clarify the effect of driving torque on the interfacial creep by considering the driving motor torque. It is found that the relative displacement in the interfacial creep is accelerated by the presence of the motor torque significantly. With increasing the shrink fitting ratio, the relative displacement in the interfacial creep decreases. The effects of motor drive torque on the stress, the displacement and average displacement along the interface were also discussed by varying the motor torque.
鉄鋼圧延において用いられるロールの中で,1000 mmを越える胴径の大きな補強ロール1)や大型H形鋼圧延用ロール2,3)等では,中実式ロールに代わり中空円筒胴部に軸を焼嵌めるスリーブ組立式構造が試行され,一部は実用化されてきた(Fig.1参照)。スリーブ組立式ロールは圧延により消耗したスリーブだけの交換で,軸は継続使用ができる等の利点があるものの,ロール残留曲がり4–6)やスリーブの円周すべりに起因するスリーブ割れ7,8)など,固有の問題がある。この中で,スリーブの円周すべりに関しては,過大な回転トルクによって一気にすべりが生じないような設計がなされていても,スリーブすべりが生じることが報告されている7,8)。そこで,新たなスリーブすべりの要因の解明が求められてきた。
Schematic illustration for real hot strip rolling roll. (Online version in color.)
このようなスリーブ組立式ロールにおけるスリーブの挙動に関する研究は少ないが,同様な現象は,転がり軸受において,軸とインナーレース間,ハウジングとアウターレース間ですべりが生じ,これがクリープ現象として,50年以上前から知られている9–11)。しかし,その生成機構を定量的に取り扱った研究は見当たらない。
著者等は先に,スリーブすべりの新たな要因として,“界面クリープ”(単に,クリープと略称することがある)によるすべりに注目した12)。界面クリープとは界面における微小な相対変位の累積であり,結果的にはスリーブすべりをもたらす要因と考えて,熱間鋼板圧延仕上作動ロールを対象に,その生成機構を自由転がり条件下で考察した12)。そこでは,モーターの駆動トルクを加えない,単純な転がり条件下でも,界面クリープが生じることを明らかにした。これより,組立式ロールに固有のスリーブ円周すべりが,界面クリープが原因で引き起こされることを数値シミュレーションで表現して初めて実証した。このように,前報では,自由転がり条件として,ロール上下方向の対称な荷重のみを考えた。しかし,実ロールでは駆動トルクとそれに釣り合う被圧延材からのトルクにより界面クリープの加速が予想される。
そこで,本論文では,スリーブと軸を焼嵌め接合した4重式圧延機のワークロールにおける,界面クリープの数値シミュレーションに際して,先に考察したモデルを基に実際の圧延条件に近づけるために,駆動トルクを軸に付与して,界面クリープに及ぼすトルクの影響を調べる。また,ロールの有する耐すべり性を支配する焼嵌め率と摩擦係数の界面クリープへの影響を明らかにして界面クリープへの考察を深める。さらに界面クリープによるスリーブすべりに起因するスリーブ割れを考察するためスリーブ内面に生じる応力についても言及する。
Fig.1に,本研究で対象とする4段式圧延機に使われるスリーブ組立式薄板圧延ロールの圧延中における概略図を示す。Fig.1(a)は,ロール長さ中央軸断面,Fig.1(b)は,ロール軸断面をそれぞれ見たものである。Fig.1に示すスリーブロールは,鋼製の軸に,胴部スリーブが焼嵌めにより組立てられておりスリーブには耐摩耗性と強靭性の双方が要求されるため,外層にハイスや高クロム鋼などの耐摩耗材,内層には合金鋼からなる複合スリーブで構成されるのが一般的である。
界面クリープの解析に用いるロールへの負荷は,バックアップロールからスリーブへの圧下力P,圧延材からスリーブへの圧延反力Pと摩擦力(せん断力)およびモーターから軸への駆動トルクTである。駆動トルクT=0および摩擦力S=0の条件での界面クリープの生成に関して著者等は先の研究で,その生成機構を明らかにしてきた12)。ここでは軸駆動トルクTと摩擦力(せん断力ともいう)Sを付加することによる界面クリープの挙動を明らかにする。そこで,軸駆動トルクTとロール焼嵌め部の有する滑りトルクTrの関係を整理する。焼嵌め接合型ロールでは,軸駆動トルクTに対して,ロール側の滑り抵抗トルクTrを大きくする必要がある。すべり安全率をαとすると,T,Trは次式(1),(2)で表される。
(1) |
(2) |
ここでdは軸直径(≅スリーブ内径),lbはロール胴長,μは軸・スリーブ間の摩擦係数,およびσr,shrinkは焼嵌め時の半径方向応力(焼嵌め圧力)である。ξは焼嵌め有効率で焼嵌め寸法,面形状の加工誤差に伴う,実質焼嵌め率の低下を表わす。スリーブ・軸間におけるスリーブ抵抗トルクは基準条件(ξ=1,lb=1 mm,μ=0.3,σr=-21.6 MPa,δ/d=0.5×10-3,2・2参照)でTr=3193 N m/mmとなる。また軸駆動トルクTは,モーターの定格トルクTm=471 N m/mm(日新製鋼(株)呉製鉄所熱間仕上げF313)上,減速比η=1.882であるがここではη=1とする)を基準として用いる。この基準条件T=Tm=471 N m/mmより,式(2)の安全率はα=6.77である。
次に,軸トルクの導入に際して,回転モーメントの釣合いから圧延材によって,スリーブ外径にもたらされる基準条件におけるせん断力Sは,式(3)で求まる。
(3) |
モーターの定格トルクTm=471 N m/mmの場合,式(3)より,摩擦力(せん断力)はS=1346 N m/mmと求まる。
2・2 界面クリープの解析方法Fig.2とFig.3は数値シミュレーション法の説明図である。Fig.2に示すように,ロールを回転させず,ロール表面の周方向荷重移動でロール回転を表現する10,11)。Fig.2(a)はロールが回転する実体ロールであるが,これをFig.2(b)のように,荷重を一定の間隔φ0で離散的に移動させることでロールの回転を表現する。なお荷重移動間隔は解析精度と計算時間を考慮して,φ=4°とした12)。
The roll rotation of the replaced by the discrete shifted loads at interval of the load shift angle φ0. (Online version in color.)
Modeling of FEM 2D model. (Online version in color.)
Fig.3に,本研究で使用する数値シミュレーションのモデルを実体ロールモデルと関連させて示す。Fig.3(a)は,実体ロールとその負荷条件を示し,Fig.3(b)はこれをモデル化したもので,中心に剛体を導入してロール中心の変位と回転を拘束する。さらに,解析と考察を容易にする観点から,Fig.3(c)のように,軸全体を剛体にし,軸の変位と回転を拘束したモデルを用いる。また,せん断力Sを加えて解析を行うため,軸の各部位に反力が発生し,その反力によるモーメントの総和が軸駆動トルクTとなる(T=SD/2,Fig.3(a)参照)。Fig.4には,モデルのメッシュ分割図を示す。メッシュ分割には,四辺形一次要素を用い,その数は,4.6×104である。
Standard FEM mesh model. (Online version in color.)
剛体軸に対するスリーブの移動量uθを次のように定義する。荷重が角度φ=0°からφ(同時にφ=πから(π+φ)であるが,少略することがある)まで移動する間の,界面上の角度θにおけるスリーブ内面の変位をuθP(0)~P(φ)(θ)と表示する。ところで,ここでは軸を剛体としているため,ロール回転(荷重移動)によって剛体各部には位相差は生じない。一方,スリーブは弾性体であるため,ロール回転(荷重移動)に伴って,スリーブ各部には,位相差が生じる。このことは剛体軸の焼嵌め面と弾性スリーブ焼嵌め面の周方向相対変位uθが,スリーブ内面の変位に等しいことを意味する。すなわち,変位uθP(0)~P(φ)(θ)が焼嵌め面におけるクリープを表現するものといえる。
Table 1に,解析に用いるロールモデル寸法,機械的性質および境界条件を示す。ロールに加わる外力Pは,バックアップロールによるスリーブへの負荷と圧延材によるスリーブロールへの反力が等しいとしてロール1 mm当たり荷重P=13270 N/mmを用いた。これは普通鋼板の熱間圧延に相当する条件を想定したものである13)。スリーブと軸との焼嵌め接合において,焼嵌め代δを内径dで除したものを焼嵌め率δ/dと定義し,ここではδ/d=0.5×10-3を用いる。またスリーブ・軸間の摩擦係数はμ=0.3とする。
Mechanical properties | ||
Sleeve | Young’s modulus of steel sleeve E | 210 GPa |
Poisson’s ratio of steel sheeve ν | 0.28 | |
Shaft | Young’s modulus of rigid shaft Es | ∞ GPa |
Roll size | ||
Outer diameter of sleeve | 700 mm | |
Inner diameter sleeve d | 560 mm | |
Shrink fitting | ||
Shrink fitting ratio δ/d | 0.5×10–3 | |
Friction coefficient between sleeve and shaft μ | 0.3 | |
External force | ||
Concentrated load per unit width P | 13270 N/mm (Total: 1.327×107 N, Rolled width: 1000 mm) | |
Frictional force per unit width S* | 1346 N/mm | |
Motor torque per unit width Tm* | 471 N m/mm | |
Resistance torque per unit width Tr* | 3193 N m/mm | |
Bending force from bearing Pb | 0 N m/mm |
数値解析には,複数の材料で構成された構造に対して比較的容易に実行できる有限要素法(Finite Element Method,以降FEMと略称する)を用いた。有限要素法の適用例は様々報告されており,複合材などへの適用14–19)が比較的容易であるという利点の他に,引張試験片のような単純な構造の解析20)から,ボルト・ナットのような複雑な構造の解析21)まで行うことができ,汎用のFEMソフトも数多く開発されている。ここではMSC,Marc/Mentat 2012を用いる。このソフトでは,非線形解析に完全ニュートン・ラプソーン法を使用しており,接触解析には,直接拘束法を使用している22)。解析タイプは静的構造で平面ひずみ解析とする。
Fig.5には,スリーブが荷重移動φ=0~φ=φを受けるときの,スリーブ界面の周方向変位uθP(0)~P(φ)(θ)を示す。ここで変位uθP(0)~P(φ)の上付きP(0)~P(φ)は,荷重をφ=0~φ=φと移動させたとき,θにおけるスリーブ変位uθ(θ)を意味する。
Definition of interfacial displacement due to the shifted load P(0)~P(φ). (Online version in color.)
Fig.6に集中荷重Pに加えてせん断力Sが付加される場合で,φ=0,およびπ,2πまで移動したとき,それぞれの変位uθP(0)(θ),uθP(0)~P(π)(θ)およびuθP(0)~P(2π)(θ)を示す。初期荷重φ=0では,せん断力が作用する側の荷重位置(θ=0°)の両側付近での変位の絶対値は異なり,せん断力の+方向側(θ>0)で変位の絶対値は大きく,|uP(φ)θ,T=Tm(-θ)|<|uP(φ)θ,T=Tm(+θ)|である。次に,変位の非対称性を調べるため,初期荷重φ=0において,トルク有無による変位分布uθP(0)(θ)を比較してFig.7に示す。トルク無し(T=0)の場合は,変位分布は荷重位置(φ=0,π)の両側で対称性23)がある。一方,トルクを加えると,せん断力Sが作用する荷重位置(θ=0)では対称性が崩れる。但しSが作用しないφ=π付近ではほぼ対称に近い。また,せん断力が加わると平均変位は,初期荷重でuP(0)θ,ave.>0であり,この段階で界面クリープが生じることが示される。
Displacement due to load shifting P(0)~P(φ) with T=Tm when φ=0, φ=π and φ=2π. (Online version in color.)
Comparison of displacement distribution when φ=0, T=Tm and T=0. (Online version in color.)
Fig.8に,T=TmとT=0で荷重を1周させて,スリーブ変位の挙動を平均変位uθ,ave.P(0)~P(φ)と荷重回転移動角φとの関係で示す。トルク有無によらず,荷重が移動するにつれて平均値はほぼ線形的に増加していくが,Fig.6に示したようにトルクが加わると,せん断力の作用により,変位の非対称性が大きくなるとともに,無トルクの場合より2倍近く平均変位が大きい。なお,荷重移動をφ=2π×5,すなわち5回転させると,変位が1回転の略々5倍になることを確認しており,1周の平均変位で,スリーブ変位の評価を適切に行えるものと考える。
Comparison of history of average displacement when T=Tm and T=0. (Online version in color.)
前報の無トルク条件での研究では,界面クリープの生成機構を,界面でのせん断応力τrθと摩擦応力μσrとの関係から考察した。具体的には①焼嵌め面で発生するすべり域の存在(応力準平衡域,τrθ≅|μσr|),②すべり域を中心に変位が残留すること(残留変位),③荷重移動(ロール回転)とともに界面の平均変位が増加することに注目した。Fig.9に初期荷重を負荷した場合のT=TmとT=0におけるすべり域を比較して示す。Fig.9(a)はトルクT=Tm=471 N m/mmがある場合のすべり域とせん断応力τP(0)rθ,T=Tm,摩擦応力μσP(0)rθ,T=Tmの分布,同様にFig.9(b)はトルクがない場合(T=0 N m/mm)の分布を示す。ここではすべり域として,解析の精度を考慮し,±1 MPa以内で一致する領域を求める。Fig.9(a),(b)より,負荷位置θ=0,πいずれの両側にもτrθP(0)≅|μσrP(0)|となる領域(すべり域)が確認できる。しかし,トルク有りの場合,集中荷重Pだけでなく,せん断力Sも作用するθ=0では,すべり域はせん断荷重の方向側(+θ側)で大きく加えて,せん断応力も同様に大きく,逆側では小さい。つまり,せん断荷重の作用により荷重中心において,せん断応力の対称性も崩れてせん断応力作用方向で大きい。そのため,初期荷重の段階でせん断力Sの方向に+θ方向に界面クリープの加速が生じるものと考えられる。これはFig.7に示した軸トルクを伴う初期荷重時の変位の非対称化とも一致する。
Comparison of slippage zone* under the initial loading P(0) when S=0 N/mm and S=1346 N/mm. (Online version in color.)
一方,せん断力が作用しないθ=πに注目すると,トルクの有無で,その両側のすべり域での明らかな違いはみられず,変位uθの傾向と一致する。
ロールに加わる軸トルクとしてロール当たりのモーター定格トルクTmを基準にして考察してきた。しかし,実ロールの軸には,定格トルクに加えて,減速比η,上下ロール配分比,オーバートルク,圧延材噛み込み時の衝撃係数など多くの要因で軸トルクが過大に加わる。そこでここでは軸トルクが無い場合のT=0に加えて,モーターの基準トルクT=TmおよびT=3Tm,T=Tr=6.77 Tm,さらにTrをこえるT=8 Tm,10 Tmそれぞれを負荷する場合につき考察した。Fig.10に1回転後の各軸トルクにおける変位分布uθ,TP(0)~P(2π)(θ)を示す。トルクが大きくなるにつれて平均変位が大きくなり,せん断力が作用するθ=0での変位と,せん断力が作用しないθ=πとの差が次第に大きくなる。このθ=0(θ=2π)ではせん断力に加えてすべり域も大きいことから(Fig.9(a)),付加せん断力によってスリーブが+θ方向に局所移動(すべり)が大きく,全周すべりを駆動していると見ることもできる。
Displacement distribution by varying torque T as T=0, Tm, 3 Tm, Tr (=6.77 Tm), 8 Tm, 10 Tm when φ=2π.
Fig.11はその平均変位
Average displacement vs. T/Tm when φ=2π.
スリーブすべりを防止するロール設計上の観点からは,式(1)のスリーブ円周すべり抵抗トルクTrが基準となる。式(1)より,既定のロール寸法や負荷条件では,摩擦係数μと焼嵌め圧力σr,shrinkがTrの主要な要因である。ここでは先ず焼嵌め圧力σr,shrinkを支配する焼嵌め率に注目する。一般にスリーブ組立式ロールの場合,焼嵌め率は0.4×10-3~1.0×10-3の範囲が適用される。スリーブ焼嵌め率範囲の限定は,実用上使われてきた範囲に基づくもので,この範囲は下回るとすべり,上回ると張り割れ8)の危険性が高くなる。ここでは,焼嵌め率を0~1.0×10-3の範囲で変化させ,基準焼嵌め率δ/d=0.5×10-3を中心に,荷重1回転後(φ=2π)の変位を求めて考察する。Fig.12に,スリーブの平均変位
Average displacement vs. δ/d when φ=2π, T=Tm and T=0. (Online version in color.)
なお,スリーブロール内周からの破壊を考えると,焼嵌めによる円周方向応力は可能なかぎり小さくし,かつスリーブすべりの低減が求められる。そのため,クリープによるすべりを防ぐためには焼嵌め率以外の要因を合わせて考察する必要がある。
4・3 摩擦係数の影響スリーブのすべり防止策として,前節の,焼嵌め率につづいて摩擦係数の影響を考える。そこで,実用性を考慮して摩擦係数の基準条件μ=0.3を挟んで,摩擦係数をμ=0.1~1に変化させ,1回転後の変位uθを求めた。なお,変動させた摩擦係数の上限について述べる。スリーブ組立式ロールのスリーブ内面と軸面間における摩擦係数として,μ=0.2が実験値として用いられている1)。その他,鉄鋼同士の摩擦係数としてμ=0.4が報告されている24)。このようにスリーブロール接合面では,μ=0.2~0.4が用いられることが多い。また,鉄鋼に用いられる多くの金属に目を向けてみると,金属では一般に,合金よりも純金属のほうが摩擦係数は高いと言われている。そこで,純鉄に近いアームコ鉄と組み合わせて測定された摩擦係数をみると25),摩擦係数の高い順に,アルミニウム,ニッケルは0.82,0.58で,ちなみに鉄では0.52となっている。したがって,ここでの検討では摩擦係数の上限値として1.0を用い,これ以上は実用的ではないと考えた。Fig.13に平均変位
Average displacement vs. μ when φ=2π, T=Tm and T=0. (Online version in color.)
一方トルク無しの場合,摩擦係数の増加によりμ=0.2付近で変位uθが極大値をとる特異性がみられ,μがさらに大きくなると,トルク付加の場合同様,μ=1でほぼ一定値に収束する。トルク無しの場合に,μに対して変位が極大値をもつ理由は“すべり域”の概念で理解できる。即ち,“すべり域”が生じた状態で,外からの力を除くとすべり域は小さくなるが,残されたすべり領域には,接合界面に沿って歪みが残留する(残留歪み)5)。この残留歪は,すべり域の大きさに比例する。摩擦係数が一定値より小さいか大きいといずれの場合にも残留(すべり域)が小さくなることが,スリーブ焼嵌めロールを用いて示されている。文献5)では焼嵌め式ロールに曲げを付加した後,荷重を除荷したときに生じる残留たわみ量を数値シミュレーションで考察しており,除荷後の残留曲がりは摩擦係数の減少と共に増加するが,摩擦係数0.1~0.2の範囲でピークを示し,それ以降は減少し0に至る。なお,残留曲がりがピークを示す摩擦係数は荷重によって変化する。即ち,曲げ荷重が加えられた後に除去されるとロール軸の残留曲がり(残留ひずみ)が最大値を示し,その生成機構としてすべり域の概念を用いて説明されている5)。
界面クリープを防ぐために,焼嵌め率δ/dや摩擦係数μを大きくすることはその使用範囲に制約はあるものの,有効である。
スリーブ組立式ロールにおける致命的な課題の一つであるスリーブの割損事故7)では,スリーブの円周方向すべりが生じてスリーブ焼嵌め面に円周方向引掻傷とともに部分的な焼付が起こり,その成長過程でスリーブ内面に数ミリオーダーの凹凸が発生する。それが応力集中源となって,スリーブ内面に疲労き裂が生じ,その進展の結果割損に到ると考えられている7)。割損起点の発生には,主として円周方向応力σθが支配的であるとみなされるため,ここではσθに注目する。
Fig.14(a)に軸トルクT=Tmを与えた場合の応力σθ,TP(0)~P(2π)(θ)とσθ,TP(0)~P(4π)(θ),Fig.14(b)にトルクフリーT=0の場合の応力σθ,TP(0)~P(2π)(θ)とσθ,TP(0)~P(4π)(θ)を示す。解析によって求まる界面の応力は,これまで議論した変位とは異なり,荷重移動が進んでもほぼ一定値を保つ。すなわち,Fig.6やFig.7のような変位が蓄積する現象は応力では見られない。Fig.14(a),(b)より1回転後φ=2πと2回転後φ=4πとで,応力分布に違いは殆ど見られず,応力振幅の大きいトルク有りの場合,Fig.14(a)から最大応力σmax=121 MPa,最小応力σmin=72 MPaと,焼嵌め応力を中心とする両振りに近い応力状態と見なすことができる。これらの応力によるスリーブ内面からの疲労破壊の可能性に関しては,スリーブ内面に不可避な引張残留応力の影響が大きいことが知られており,その解明の後,考察を進める。またトルクによる,2回転後の応力σθ,TP(0)~P(4π)(θ)への影響は,軸トルク付加によって,荷重点θ=0近傍で最小応力が圧縮側で大きくなり応力振幅で約9%増加する。一方せん断力Sを与えないθ=π近傍では両者の差は小さい。これらは,このように,θ=0,せん断力Sの存在により,負荷位置θ=0の+側で-方向のせん断応力が,大きくなることと符合する。
Comparison of σθ,TP(0):P(2π)(θ) and σθ,TP(0):P(4π)(θ) when T=Tm, T=0. (Online version in color.)
本論文では,スリーブ組立式ロールに生じる界面クリープの挙動について,先に行った自由転がり条件から軸トルクを加えることにより,実際の圧延条件に近づけ,駆動トルクの界面クリープへの影響を明らかにした。加えて,軸トルクや焼嵌め条件,更にはスリーブ内面応力を含めた要因を考察することにより界面クリープに対する理解の深化が期待される。以下に,得られた結論をまとめる。
(1)軸トルクTの付加により,スリーブ変位uθ(界面クリープ)は加速され,付加トルクの増加に対してその増加量は大きくなる(Fig.11)。
(2)軸トルクT付加による界面クリープの加速効果は,摩擦応力とせん断応力が等しい“すべり域”の概念の導入により説明できる。すなわち,軸トルクに伴なう荷重点におけるせん断力の付加により,界面でのせん断応力の対称性が崩れて(Fig.9(a))せん断力方向側のすべり域が大きくなって,その方向の円周方向変位が大きくなる。この結果,回転毎のスリーブすべり量が増加する。
(3)焼嵌め面におけるすべり抵抗トルクへの支配的因子である,焼嵌め率δ/dと摩擦係数の変位uθへの影響を考察した。焼嵌め率δ/dの増加により軸トルクTの有無によらずクリープは指数関数的に減少し,uθに対するトルクTの影響割合(無トルク時の変位にトルクTによって付加される変位の割合)はδ/d=0.25付近で最大になる(Fig.12)。
(4)摩擦係数μの増加とともに,トルクTm付加での変位uθは指数関数的に減少する。一方,無トルクの条件では,μの大きい側ではuθはほぼ一定値に減少していくが,μ=0.2付近で最大を示して,さらにμが減少すると,変位も減少していく特異な挙動をとる。このような軸トルクによる変位への影響については“すべり域”の概念で説明できる。
(5)スリーブすべりに伴うスリーブ割れを支配する円周方向応力は,荷重移動の進行によらず2回転後(φ=4π)でほぼ一定値を示す。トルクTmの付加により,2回転後の応力σθは無トルクの場合に比べて最小応力が圧縮側に少し大きくなり,応力振幅で約15%だけ無トルクの場合より大きい。
なお,本研究では数値シミュレーションに軸トルクを加えることで,実際のロールの現象にさらに近づけた解析を行った。しかし,実ロールの界面クリープの定量的な予測精度向上のためには,今後軸の弾性変形の影響を考慮するなどの変更が必要である。