Tetsu-to-Hagane
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Surface Treatment and Corrosion
Determination of Facet Plane and Cleavage Fracture Plane of the Top Dross Formed in a Molten Zinc
Takeshi Konishi Mina ShibataJunpei MikiKohsaku Ushioda
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2019 Volume 105 Issue 12 Pages 1143-1152

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Synopsis:

In a molten zinc bath of a continuous galvanizing line, top dross particles crystallize as Fe2Al5 intermetallic compound containing Zn. These particles easily adhere to the steel sheets causing surface defects. Therefore, controlling the top dross particles is a key issue. The present study focused on the determination of facet plane of top dross using three-dimensional analysis of morphology of the top dross by simultaneous exploitation of the serial sectioning process and electron back scattering diffraction (EBSD). Furthermore, the crystallographic plane of the cleavage fracture surface of the top dross was determined by EBSD, after cleavage crack was introduced by Vickers hardness indentation. The following results were obtained: (1) The facet planes of the top dross consist of two planes of (001), four planes of {110} and eight planes of {111}. In addition, the top dross particles grow fastest in the [001] direction. Consequently, the top dross particle is concluded to have the polyhedron structure with 14 facet planes. (2) The cleavage fracture surface of the main crack in the top dross is (100) plane.

1. 緒言

ゼンジマー方式の連続溶融亜鉛めっきライン(CGL:Continuous Galvanizing Line) における亜鉛浴内においては,鋼板から溶け出したFeが浴中のZnやAlと反応して高融点の晶出物(ドロス)を形成する。このようなドロスは鋼板に付着しやすく,ドロス欠陥と呼ばれる表面欠陥が発生することはよく知られている。しかし,高品質の溶融亜鉛めっき鋼板を安定的に製造する上でドロスの制御は工業的にきわめて重要であるにもかかわらず,ドロスに関する基礎的な情報,例えば3次元形状や破壊形態の詳細はほとんど調査されていないように思われる。亜鉛浴中の種々の機器はドロスが鋼板に付着しないような設備機能をもつことが望ましく13),このような目的に対して合理的に設備設計するためにはドロスの形状を正確に把握することは重要である。また,ドロスによる表面欠陥の発生機構を解明するためにも,ドロス自身の破壊形態の詳細は重要である。ドロスの中で最も主な晶出物と考えられる亜鉛浴中に浮遊するトップドロスは,18~19 wt%(10.6~11.2 at%)程度のZnを含有するFe2Al5であると報告4,5)されている。トップドロスに関しては,Ariokaら6)による次のような報告がある。Ariokaら6)はトップドロスをZnから抽出する方法を開発し,トップドロスはファセット面をもつこと,およびその3次元形状は14面体であることを明らかとした。また,前報7)では,トップドロスの組織観察と機械的性質の調査を行い,以下の知見を得た。すなわち,Znを含有するトップドロスはファセット面をもつこと,またトップドロスにビッカース硬さ試験の圧子を押し込むと方位によりき裂の入り方が異なることを確認した。しかしながら,以下の2つの観点からの研究は,いまだないように考える。すなわち,(1)Ariokaら5)はトップドロスの3次元的形状は14面体であることを明らかにしたが,具体的なファセット面についての報告はない。また,一般的に,液相から晶出した結晶の成長速度は結晶方位に依存しており8,9),異方性が見られることが知られているが,そのような3次元形状の異方性に関する報告もない。(2)トップドロスに導入されたき裂の入り方は方位により異なることを前報7)で明らかにした。しかし,トップドロスの破壊形態やき裂の結晶学的な特徴については報告がない。

そこで,本研究では,上記の2つの観点に焦点を絞り検討を行った。まず,トップドロスのファセット面を決定し,3次元形状が14面体になる理由を結晶学的に解明することを目的とした。そのために,トップドロスのファセット面の特定に取り組んだ。その際,トップドロスのファセット面の観察面に対する3次元的な配置を正確に把握し,ファセット面を決定する試みを行った。また,トップドロスの3次元形状解析結果を利用して,形状異方性を明らかとすることに取り組んだ。本研究の特徴は,イオンミリング(IM:Ion Milling)法5)によるシリアルセクショニングとSEM-EBSD (Scanning Electron Microscopy - Electron Back Scattering Diffraction)による結晶方位解析の併用であり,トップドロスの3次元解析は初めての試みと思われる。本研究のもう一つの目的はトップドロスのへき開破壊面の決定であり,ビッカース硬さ試験機を用いてトップドロスにき裂を導入した後に,SEM-EBSDによる結晶方位解析を行った。

2. 実験方法

2・1 トップドロスの作製方法

トップドロスの作製においては,前報7)と同様の手法を用いた。すなわち,黒鉛るつぼ内(口径135 mm×高さ173 mm×底径85 mm)に亜鉛(電気亜鉛99.99 wt%)を約10 kg溶解させ大気雰囲気中で浴温を460°Cに保った。この亜鉛浴に直径20 mm程度の純Alのボールを全重量の0.5%添加しAlの溶解を確認したのち,0.5 mm角程度の大きさに細かく切り刻んだFe(合金化溶融亜鉛めっき鋼板として製造量の多い極低炭素鋼)を全重量の0.5%添加した。用いた極低炭素鋼の成分をTable 1に示す。上記の状態を1日間保ち,トップドロスを作製した。なお,1日間保持した後の亜鉛浴の液相の濃度はAl:0.140 wt%,Fe:0.32 wt%であり,Tangの状態図5)の3重点と良く一致した。したがって,この亜鉛浴はAlとFeが過飽和の状態にあり,トップドロスが晶出しやすい条件であると考えることができる。また,トップドロスの存在状態は冷却中にきわめて速く変化するため,組織の凍結方法に十分注意を払った。まず,ガラスピペットを利用して,実験室の亜鉛浴の浴表面からトップドロスを吸い上げて採取した。その後,採取した溶融液を銅の鋳型に滴下させて急冷した。冷却速度が最も速いと考えられる液滴と銅の鋳型との接触面近傍を研削し,その面を観察した。

Table 1. Chemical compositions of extremely low carbon steel (wt%).
wt%
CSiMnPS
≦0.010.010.140.010.01

2・2 トップドロスの3次元形状の解析手法

2・2・1 トップドロスの抽出による解析

本報では,トップドロスのファセット面と3次元形状の異方性を解析するにあたり,その形状に極力影響を与えないシリアルセクショニング法を用いることを基本とした。しかし,本手法との比較としてZnを優先的に溶解しトップドロスを抽出し,SEMで観察する方法も同時に採用した。トップドロスの抽出においては,Ariokaらの報告6)と同様の手法を用いた。抽出方法をFig.1に示す。すなわち,ガラス製シャーレ内にトップドロス(サンプル)を置き,25 mlビュレットで発煙硝酸を少量ずつ滴下した。サンプル表面のZn部のみが優先的に溶解し,ドロスが分離する。トップドロスを分離後,速やかにろ過し,水洗した。ろ過には,オムニポアメンブレンフィルター(1.0 μm JA)を用いた。このように抽出したトップドロスをSEMで観察し,その3次元形状を求めた。

Fig. 1.

Extraction method for top dross.

2・2・2 イオンミリング(IM)法を用いたシリアルセクショニングによる解析

トップドロスのファセット面と3次元形状の異方性の解析には,対象とする試料の切削とSEM-EBSD測定を繰り返すIM法10)によるシリアルセクショニング法を用いた。シリアルセクショニング法を用いた3次元形状解析手法の概略をFig.2に示す。なお,試料には垂直に穴をあけ,その穴を基準に位置合わせをおこなった後にSEM-EBSD測定を行うことでずれ防止を行っている。以下に述べるように,本手法はファセット面を精度よく解析する目的に優れていると考える。すなわち,試料の研削を行わない通常のSEM-EBSD測定でファセット面のトレース解析を行うと,Fig.3(a)のようにファセット面が観察面に斜めに存在するトップドロスを測定している可能性がある。それに対し本手法を用いると,研削によって形状と位置が変化しなかったトップドロスはFig.3(b)のようにファセット面が観察面に垂直に存在すると判断できる。本研究では,ファセット面が紙面に垂直に入っていることを確認してトレース解析行い,ファセット面を決定した。また,トップドロスの3次元形状の異方性の解析にはシリアルセクショニングの結果に基づき,特定の結晶面が成長したトップドロスの長さを求めることにより評価した。ここで,長さとはドロスの切削(深さ)方向における長さを意味し,その定量化には個々のトップドロスに対して完全に切断されるまでの必要切削回数を評価する方法を用いた。シリアルセクショニングを行う際には,切削方法が重要である。切削方法として,集束イオンビーム (FIB:Focused Ion Beam)法11)やウルトラミクロトーム法などの機械研磨法を検討したが,加工領域の広さ,被加工材料の硬さおよび3次元化の位置精度の観点から,汎用的な切削方法として知られるIM法10)を選択した。IM法では,Arイオンビームを用いて切削する10)。切削精度は数μmと良くはないが,試料にダメージが入りにくく,硬さが異なる試料の切削も可能である。最大加工領域は1000 μm×500 μmであり,サイズが約100 μmのトップドロスを対象とした本研究の目的には,この手法が最適であると考えた。

Fig. 2.

Schematic drawing of serial sectioning process.

Fig.3.

Schematic illustration showing cross sectional view of top dross. (a) Facet planes of top dross are not perpendicular to the surface. (b) Facet planes of the top dross are perpendicular to the surface.

2・3 トップドロスの結晶方位解析方法

トップドロスの結晶方位解析にはSEM-EBSDを用いた。SEMを加速電圧25 kVで操作し,菊池線を用いてトップドロスの結晶方位解析を行った。解析には,TSLソリューションズの解析ソフトOIM Analysis ver.7を用いた。2元系のFe2Al5のX線プロファイルは,oC16構造を基にして解析したもの12)とoC24構造を基にして解析したもの13)が従来から報告されている。また,近年盛んに結晶構造の解析が行われるようになり,Al過剰組成やFe過剰組成の低温域においてc軸方向に沿った部分占有サイトが規則化すること,および従来のoC24構造のFe2Al5を母構造とした超格子構造が複数存在することが報告されている1416)。そこで,前報7)においては,従来からのFe2Al5の空間群(Cmcm)13)とX線回折から得られたピーク位置からPawlley法17)を用いてトップドロスの正確な格子定数(斜方晶:a=7.61Å b=6.48Å c=4.23Å)を決定した。本報では,この格子定数データを用いてEBSDで得られる菊池線をフィッティングした。

2・4 トップドロスへのき裂の導入方法

トップドロスへのき裂の導入方法に関しては,Tsukaharaらの報告18)と同様の手法を用いた。すなわち,トップドロスにビッカース硬さ試験の圧子を押し込み,クラックを導入した。荷重が小さい場合(たとえば98 mN)には,き裂が発生しない問題が発生した。そこで,前報7)で述べたように,588 mNの荷重で圧子を押し込み,安定してPalmqvist型のき裂が発生することを確認して,クラックを導入した。

3. 実験結果

3・1 トップドロスの3次元形状とファセット面の決定

3・1・1 抽出法によるトップドロスの3次元形状の決定

発煙硝酸を用いて母相のZnをまず優先的に溶解し,その直後に水洗してろ過を行い,トップドロスのみを抽出した。抽出されたトップドロスのSEM観察結果をFig.4に示す。母相のZnに対し発煙硝酸の量が過剰に多いとFig.4(a)のように形状が崩れることが判明した。一方,母相のZnに対し発煙硝酸の量が少な過ぎると母相のZnが溶け残りトップドロスのみを抽出することができなかった。そこで,発煙硝酸の量を制御する検討を行い,試料3 gに対し発煙硝酸15 ml程度が最適であることが判明した。その結果,Fig.4(b)に示すようなファセット面を有する14面体形状をもつトップドロスを数個抽出できた。しかし,最適化条件においても多くのトップドロスはFig.4(a) のように形状が崩れていた。このことは,発煙硝酸によりトップドロスのみを安定的に抽出することは容易ではなく,母相のZnに加えてドロス自体も同時に溶解している可能性を示唆する。

Fig. 4.

SEM images of extracted top dross particle. (a) Partly dissolved shape and (b) normal shape.

3・1・2 シリアルセクショニング法とEBSDの併用によるトップドロスのファセット面の決定

作製したトップドロスのファセット面を決定するために,シリアルセクショニング法とEBSDを併用することにより3次元結晶方位解析を行った。代表的な結果をFig.5からFig.10に示す。Fig.5は,凝固したサンプルの表面直下をEBSDを用いて解析した結果であり,トップドロスと液相Znの凝固組織のSEM-EBSDによるIQ(Image Quality)像である。トップドロスも液相Znの凝固組織も非常に鮮明で結晶性が高いことがわかる。Fig.5(a)は,研削前の初期表面のIQ像である。そこから深さ方向に約15 μmごとに研削したトップドロスのIQ像が,それぞれFig.5(b)(c)(d)(e)(f)(g)である。Fig.5と同一視野におけるトップドロスの板面法線方向ND(Normal Direction)のIPFM(Inverse Pole Figure Map)がFig.6である。また,最表層45 μmから90 μmの深さに存在するFig.6(d)(e)(f)(g)に示したトップドロスにおいて,NDが[001]方位と誤差20°以内の粒を選択しピンク色で色づけしたものを,それぞれFig.7(a)(b)(c)(d)に示す。また,Fig.8(a)(b)(c)(d)は,Fig.7(a)(b)(c)(d)で色付けしたトップドロスの(001)正極点図である。ここで,正極点図は,ND-A1-A2を試料座標軸とて作成しており,A1,A2軸はそれぞれ観察試料の上下および左右方向を示す。Fig.7(a)(b)(c)(d)に示す通り,50 μm以上の比較的大きなトップドロスでND方位が[001]方位と誤差20°以下のものは四角形をしており,明瞭なファセット面をもつことが判明した。また,Fig.7(a)(b)(c)(d)を見比べると,矢印で示したトップドロスの形状は観察面が深くなってもその位置と形状はほとんど変化していないことが明らかである。さらに,Fig.8(a)(b)(c)(d)の正極点図における矢印が示す通り,Fig.7の矢印で示したトップドロスの極点は研削されても1°以下の変化であった。すなわち,注目したトップドロスはそれぞれ一つの単結晶であり,試料に平行な研削ができていることがわかる。以上より,ファセット面は観察面に垂直に存在していることが示唆される。Fig.7の矢印で示した,深さ方向に形状変化のない代表的な1つのトップドロスを選び,そのファセット面を詳細にトレース解析した結果をFig.11(a)(b)に示す。Fig.11(a)に例示した結晶模型から明らかなように,視野内で観察したトップドロスのファセット面は,結晶模型の対角線を含む面に平行な面であることが判明した。すなわち,{110}面がファセット面である。また,Fig.11(a)の視野内で観察したトップドロスのファセット面が観察面に垂直に存在していると仮定しトレース解析で面指数を求め,その結果を逆極点図にプロットしたものがFig.11(b)である。Fig.11(b)からも明らかなように,Fig.11(a)に示したトップドロスの4つのファセット面の全てが誤差15°以内で{110}面に平行であることが判明した。誤差は,ファセット面が完全に垂直に入っていなかったことに起因すると推察される。

Fig. 5.

SEM-EBSD image quality maps of top dross particles at (a) the initial surface, at the depth of (b) 15 μm, (c) 30 μm, (d) 45 μm, (e) 60 μm, (f) 75 μm, and (g) 90 μm from the initial surface.

Fig. 6.

EBSD inverse pole figure maps of top dross particles at (a) the initial surface, at the depth of (b) 15 μm, (c) 30 μm, (d) 45 μm, (e) 60 μm, (f) 75 μm, and (g) 90 μm from the initial surface.

Fig. 7.

Top dross particles within 20 degrees from ND//[001] are colored together with the crystal model. Top dross particles at the depth of (a) 45 μm (b) 60 μm, (c) 75 μm, and (d) 90 μm from the initial surface.

Fig. 8.

(a) (001) pole figure of top dross particles shown in Fig.7 (a), (b) that in Fig.7 (b), (c) that in Fig.7 (c) and (d) that in Fig.7 (d). Arrows designate poles of top dross particle indicated by arrows in Fig.7.

次に,最表層から30 μmまでの深さに存在するFig.6(a)(b)(c)のトップドロスで,NDが(110)面の法線方向と誤差20°以内に存在する比較的大きな粒を選択し,青色で色づけしたものをFig.9(a)(b)(c)に示す。Fig.10(a)(b)(c)は,Fig.9(a)(b)(c)のそれぞれに対応する(110)極点図である。Fig.9(a)(b)(c)が示す通り,NDが(110)面の法線方向と誤差20°以内の粒はファセット面を持ち,多角形の形状を有する。また,Fig.9(a)(b)(c)において,矢印で示すトップドロスの形状は観察面が深くなっても位置と形状がほとんど変わらないことが明らかとなった。さらに,Fig.10(a)(b)(c)の正極点図における矢印が示す通り,Fig.9の矢印で示したトップドロスの極点は,研削されても1°以下の変化であった。すなわち,注目したトップドロスはそれぞれ一つの単結晶であり,試料に平行な研削ができていることがわかる。この事実は,ファセット面が観察面に垂直に存在することを示唆する。Fig.9のトップドロスの形状が深さ方向にほとんど変わらない粒を選び,そのファセット面を詳細にトレース解析した結果をFig.11(c)(d)に示す。Fig.11(c)に例示した結晶模型から明らかなように視野内で観察したトップドロスのファセット面は,低指数面である(001)面,{110}面,{111}面であることが判明した。また,Fig.11(c)の視野内で観察したトップドロスの8つのファセット面が観察面に垂直に存在していると仮定しトレース解析で面指数を求め,その結果を逆極点図にプロットしたものがFig.11(d)である。Fig.11(c)に示したトップドロスの全てのファセット面が上記のいずれかの面であることは,Fig.11(d)からも明らかである。さらに,(110)面の法線方向と誤差20°以内に存在する他の多くの大きなトップドロスにおいても同様であることを確認した。以上の解析から,ファセット面は,(001)面である2つの面,{110}面の4つの面,および{111}面である8つの面から構成されることが明らかとなった。

Fig. 9.

Top dross particles within 20 degrees from the direction perpendicular to (110) plane are colored together with the crystal model. Top dross particles at (a) the initial surface, at the depth of (b)15 μm and (c) 30 μm.

Fig. 10.

(a) (110) pole figure of top dross particles shown in Fig.9 (a), (b) that of Fig.9 (b) and (c) that of Fig.9 (c). Arrows designate poles of top dross particle indicated by arrows in Fig.9.

Fig. 11.

(a) Trace analyses of a top dross particle with near ND//[001] showing four {110} facet planes and (b) their orientations in inverse pole figure. (c) Trace analyses of a top dross particle with normal direction perpendicular to (110) plane showing two (001) facet planes, two {110} facet planes and four {111} facet planes and (d) their orientations in inverse pole figure.

3・1・3 シリアルセクショニングとEBSDの併用によるトップドロスの3次元形状の異方性に関する解析

トップドロスのファセット面が,3・1・2項で述べたように (001)面,{110}面,{111}面と推定されたこと,さらにはファセット面ではないが代表的な低指数面の一つである (010)面にも注目して,トップドロスの3次元形状の異方性を検討した。結晶の長さの異方性は,約15 μmの研削を15回繰り返して得られたトップドロスの3次元EBSD解析の結果に基づき,特定の結晶方向に成長したトップドロスの長さを求めることにより評価した。ここで,長さとは,ドロスの切削(深さ)方向における長さを意味し,その定量化には,個々のトップドロスに対して完全に切断されるまでの必要切削回数を評価する方法を用いた。結果をFig.12に示す。なお,切削間隔は15 μmと仮定し,測定する粒の個数を50個以上にするため,各方位からの誤差範囲は30°以内まで許容した。それぞれの図に示した矢印は,成長方位ごとにもっとも頻度が高く存在した長さの範囲を意味する。また,核生成して間もないトップドロスを除外するために,切削1回のみで存在がなくなってしまったドロスに関しては評価の対象外とした。まず,観察面がファセット面に近い面を有するトップドロスについて,紙面奥行方向の結晶の長さを比較する。Fig.12より,観察面が(001)面に近いトップドロスは,他の面と比較して紙面奥行方向に長いドロスが有意に多いことが分かる。次に,紙面奥行方向に長いトップドロスは,観察面が(111)面に近いトップドロスである。また,紙面奥行方向の長さが短いトップドロスは,観察面が(110)面に近いものであった。一般的に,液相から晶出した結晶の成長速度は結晶方位に依存しており,異方性が見られることが知られている8,9)。本研究で対象とした液相Znからのトップドロスの晶出物の長さも異方性を示し,(001)面に垂直な方向は他の方位よりも紙面奥行方向に長いドロスが多いことが判明した。ゆえに,トップドロスは[001]方位に成長速度が速く細長い形状をしていることが予想される。また,観察面が(110)面に近いトップドロスと観察面が(010)面に近いトップドロスを比較すると,観察面が(010)面に近いトップドロスの方が紙面奥行方向に長いものが多いことが判明した。これらの結果は,次のように理解できる。すなわち,Fig.11(a)に示したように,ND//[001]方位から観察したドロスは四角形の形状をとり,その四角形のファセット面は(110)面である。また,トップドロスの四角形の対角線である[010]方向の長さは,(110)面と垂直な方向の長さより長いことはFig.11(a)から明らかである。この事実は,トップドロスの3次元解析から得られた形状異方性に関するFig.12に示した本研究結果を支持する。

Fig. 12.

Number-length frequency profiles of top dross particles in (a) (010), (b) (001), (c) (110) and (d) (111) planes.

3・2 トップドロスのき裂の結晶学的解析

ここでは,トップドロスのき裂を,EBSDを用いて結晶学的に解析した。前報7)で,トップドロスはビッカース圧子を押し込むと4隅に均等にき裂が入る場合だけではなく,き裂の入り方に異方性があることを知見した。そこで,き裂面を明らかにするために,[100]方位,[010]方位および[001]方位からビッカース圧子を押し込んで発生したき裂面の結晶方位解析を,EBSDを用いて行った(Fig.13)。[010]方位からビッカース圧子を押し込んで発生したき裂(Fig.13(a))は,Fig.13(d)に示すように圧痕の4つのコーナーのうち2つのコーナーから明瞭なき裂が発生しており,き裂面は(100)面であることが判明した。ここで,ビッカース圧子を押し込む場合の応力状態を考慮すると,き裂は観察面に垂直に入っており,この面でへき開破壊したき裂と考えることができる。また,[001]方位からビッカース圧子を押し込んだ場合には,Fig.13(c)に示すようにき裂は4つのコーナーから発生しているが主クラックは(100)面に平行であり,(010)面に平行なき裂は相対的に極めて小さい。一方,Fig.13(b)に示すように[100]方位からビッカース圧子を押し込んだ場合には,き裂は不明瞭であり4つのコーナーのうち1つから小さなき裂が発生し,他のき裂はコーナーとは無関係なところに存在し,へき開破壊面もコーナーから発生したものと異なる。コーナーから発生したき裂の方位解析を行うと,Fig.13(e)に示す通り(001)面もへき開破壊面になる可能性が示唆されるが,(001)面は主クラックにはならないことが判明した。なお,各方位で3サンプルを測定したが,同様の結果が得られた。また,圧子の押し込み方向とき裂の入り方は,前報7)の結果を再現している。

Fig. 13.

Secondary electron images showing the crack occurrence on the surface of top dross particles after applying a 588 mN Vickers hardness indentation force in the direction of (a) [010], (b) [100], and (c) [001]. (d) EBSD inverse pole figure map of (a), (e) that of (b), and (f) that of (c).

4. 考察

4・1 トップドロスのファセット面と3次元形状について

トップドロスのファセット面は(001)面の2つの面,{110}面の4つの面および{111}面の8つの面から構成されることが明らかとなった。以上の結果に基づき,溶解法で得た10 μm程度の比較的小さなトップドロス(Fig.14(a))のファセット面について考察を行う。(001)面は2つ有していることからFig.14(a)の青矢印の面であることが推定できる。{110}面は4つ有していることから,Fig.14(a)の赤矢印の面であることが推定できる。さらに,{111}面は8つ有していることからFig.14(a)の緑矢印の面であることが推定できる。次に,Fig.14(a)におけるB,Cの切断面での結晶の形状について考察した。その結果を,Fig.14(b)(c)に示す。なお,Fig.14(d)には,考察のための結晶模型を記載する。Bの切断面では,Fig.14(b)のような八角形であり,(001),{111},および{110}面がファセット面になっていると考えられる。また,Fig.14(a)から{111}面や{110}面が(001)面と比較して広いことは興味深い。これは,{111}面や{110}面が(001)面より液相Znとの界面エネルギーが低くファセットになりやすいことを示唆する。その結果,Fig.14(b)に模式的に示したように(001)面の成長速度が最も速く〈001〉方位の長さが最も長くなったと考えられる。この機構は,Fig.12に示した結晶方位ごとの長さのデータの結果からも支持される。一方,Cの切断面では,{110}面がファセット面になることからFig.14(c)のようなひし形の形状に成長すると考えられる。Fig.7Fig.11(a)に示したEBSDによる観察結果は,ひし形の形状をうかがわせる。以上の考察から,トップドロスは理想的に成長すれば,〈001〉方位に細長く,(001)面の2面,{110}面の4面および{111}面の8面をファセット面とする14面体の3次元形状をとることが理解できる。また,Fig.14(a)は大きさが約10 μmと比較的小さいトップドロスの場合であるが,成長に伴う形態変化については今後の詳細な調査が必要である。おそらく,界面エネルギーの総和を最小にするように,結晶成長が進行するものと推察する。

Fig. 14.

(a) SEM image of extracted top dross particles having facets, (b) conceptual figure of the vertical section B, and (c) that of the transverse section C together with the (d) crystal model.

4・2 トップドロスのへき開破壊面について

Znを含むトップドロスのへき開破壊面が(100)面であることが3・2節で明らかとなった。このことは,(100)面の表面エネルギーが低く,また[100]方向の原子間の結合力が弱いことを示唆する。ここでは,トップドロスのへき開破壊面が(100)面であることの結晶学的な理解を,母構造である2元系Fe2Al5の結晶構造を用いて考察する。Fig.15(a)に,Burkhardtら13)によって提案されている2元系Fe2Al5の結晶構造の模式図(斜方晶:a=7.656 Å b=6.415 Å c=4.218 Å)を示す。Fig.15(b)は,Burkhardt らの結晶模型13)において,[001]方向から見て上方向が[100]方向,左方向が[010]方向の場合の原子配置図を独自に作製したものである。同様に,Fig.15(c)は[100]方向から見て上方向が[010]方向,左方向が[001]方向の場合の原子配置図であり,Fig.15(d)は[010]方向から見て上方向が[001]方向,左方向が[100]方向の場合の原子配置図である。Fig.15(b)(c)(d)にそれぞれ上方向に垂直な面の中で最も原子密度が高い面を記載する。[100]方向に垂直な面では,単位格子中に2つのFe原子と4つの占有率0.25のAl原子の部分占有サイトおよび2つの占有率0.32のAl原子の部分占有サイトが存在している面が最も原子密度が高く,原子密度は0.133(unit/Å2)である。また,Fig.15(b)に示すように,へき開破壊面になると予想される充填面と隣接する面との面間隔は1.276 Åである。[010]方向に垂直な面では,単位格子中に1つのFe原子と2つのAl原子が存在している面が最も原子密度が高く,原子密度は0.093(unit/Å2)である。また,Fig.15(c)に示すように,その充填面と隣接する面との面間隔は1.069 Åである。[001]方向に垂直な面では,単位格子中に2つのFe原子と4つのAl原子が存在している面が最も原子密度が高く,原子密度は0.122(unit/Å2)である。また,Fig.15(d)に示すように,その充填面と隣接する面との面間隔は0.352 Åである。以上より,2元系Fe2Al5においては,(100)面は最密充填面であり,かつ面間隔が最も長いと評価される。したがって,(100)面は表面エネルギーが最も低い面であり,同時に[100]方向の原子間の結合力は最も弱いと推察される19,20)。そのため,2元系Fe2Al5と結晶構造が類似しているトップドロスにおいても(100)面がへき開破壊面になったと推定される。ここで,トップドロスは2元系Fe2Al5と化学組成が異なりZnが11 at%程度含まれることに留意する必要がある。Znを含有するトップドロスの表面エネルギーおよび原子間結合力の異方性を,第一原理計算を用いて2元系Fe2Al5と比較検討するには,前報7)でも論じた通り結晶構造中のZn原子の取りうる位置の情報が必要となる。これについては,今後の課題としたい。

Fig. 15.

(a) Schematic illustration showing crystal structure of Fe2Al5 phase reported by Burkhardt et al.13) and that viewed along (b) [001] direction, (c) [100] direction and (d) [010] direction.

5. 結論

溶融亜鉛浴中に形成するトップドロスに関して,シリアルセクショニング法とEBSDを併用することによりトップドロスのファセット面を決定し,トップドロスの3次元形状の異方性を検討した。また,トップドロスにき裂を導入し,EBSDを用いてへき開破壊面の検討を行った。得られた結果は,次の通りである。

(1)トップドロスのファセット面は,斜方晶における低指数面の(001)の2面,{110}の4面および{111}の8面と考える。また,トップドロスは,[001]方位に細長い形状をとる。それゆえ,理想的に成長すれば,14面体構造をとることが示唆される。

(2)トップドロスは,(100)面でへき開破壊が最も生じやすいと考える。

謝辞

本研究において,金沢大学 門前亮一教授,渡邊千尋教授および下川智嗣教授には,貴重なご意見をいただきました。ここに,皆様に衷心より感謝申し上げます。

文献
 
© 2019 The Iron and Steel Institute of Japan

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