2019 Volume 105 Issue 12 Pages 1173-1178
Fatigue tests were conducted up to 1011 cycles on high-strength steel to clarify a fatigue limit. The fatigue limit of the high-strength steel was not confirmed by gigacycle fatigue tests up to 1010 cycles, while our previous study suggested that the fatigue limit was probably confirmed by those up to 1011 cycles. However, the 1011 cycles fatigue testing was challenging since it took 2 months even by using ultrasonic fatigue testing at 20 kHz. In this study, 3 specimens were tested beyond 1010 cycles. Although a test on a specimen was terminated at around 5 x 1010 cycles, 2 specimens reached 1011 cycles without failure. In other word, no specimen failed above 1010 cycles. These results demonstrated the fatigue limit on high-strength steel in a gigacycle region. The fractured specimens below 1010 cycles revealed internal fractures originating from oxide-type inclusions. When the specimens failed in long life regions, clear ODAs (Optically Dark Areas) were observed on the fracture surfaces at around the internal fracture origin, while the ODAs were obscure in case of failure in short life regions. The runout specimens up to 1011 cycles were forcibly fatigue-fractured at higher stress amplitudes in the short life regions. As the result, the ODA was observed on the forcibly fatigue-fractured surface. This meant that small internal cracks existed in the runout specimens since the ODA was a trace of small internal crack growth. Namely, non-propagating cracks were the mechanism of the appearance of the fatigue limit.
引張強度が1200 MPa以上の高強度鋼1)では,介在物を起点とした内部破壊2–8)(フィッシュアイ破壊)が生じ,通常の疲労限が消滅する。そのため,高強度鋼では109回を超えるギガサイクル域までの疲労特性を考慮する必要がある。高強度鋼のギガサイクル疲労の大きな特徴は内部破壊の出現であるが,内部破壊の特性は通常の表面破壊とは大きく異なる。疲労限の有無以外にも,水素の影響9,10)や寸法効果11,12)等でも違いが認められている。また,通常の疲労限は強度支配となり引張強度やビッカース硬さとよい相関を示すが,内部破壊では起点となる介在物の寸法が主な支配因子となる13,14)。
内部破壊特性の評価には,20 kHzという超高速の疲労試験を実現できる超音波疲労試験15–21)が有効である。仮に100 Hzで試験した場合,109回に到達するのに3~4ヶ月を要するが,20 kHzでは1日で到達する。超音波疲労試験を用いる際に最も注意が必要な点は繰返し速度の影響であるが,内部破壊の場合には繰返し速度の影響が小さく,通常の疲労試験結果と同等の結果が得られることが確認されている21)。著者らは,3年を要する100 Hzで1010回までの長期間の疲労試験を実施し,1週間で取得した20 kHzで1010回までの試験結果と比較した。その結果,複数種の高強度鋼において,内部破壊の場合には両者がよく一致することを確認した22–24)。このようにして,1010回ギガサイクル疲労試験を1週間で完了できる加速試験技術が確立され,様々な材料や条件下での内部破壊特性の調査が可能となった8–13,25–27)。これらの研究により,内部破壊特性に関する膨大なデータが蓄積された。
その後,著者は内部破壊メカニズムを解明し,ギガサイクル疲労強度の予測式を導出する研究に着手した。その際には,先ずは内部微小き裂の伝ぱ特性を調査する必要があった28)。そこで,ビーチマーク法により内部微小き裂が伝ぱする様子を可視化することを考えた。多数の予備試験を行った結果,超音波疲労試験を用いた二段多重変動応力疲労試験により,内部微小き裂に相当する小さなビーチマークが出現する条件が見出された29)。また,内部微小き裂の伝ぱ速度を評価した結果,内部破壊は内部微小き裂の伝ぱ寿命により支配されていることが分かった30)。このようなメカニズムに基づき,内部微小き裂の伝ぱ寿命を算出するための力学モデルを提案し31),高強度鋼のギガサイクル疲労強度の予測式を導出した32)。
このような研究の過程において,内部破壊の場合でも,ギガサイクル域において疲労限が存在する可能性が示唆された。Fig.1は,前報32)において予測式を導出する過程で実験データをフィッティングした結果の代表例である。この図の意味は後に詳述するが,大事な点は,白と黒のプロットが横軸のNf/
Typical result of fitting in the previous report32).
以上のような背景から,本研究では高強度鋼について1011回までギガサイクル疲労試験を実施し,内部破壊の疲労限について検討した。超音波疲労試験でも1011回に到達するには約2ヶ月を要するため,これまでに1011回ギガサイクル疲労試験結果に関する報告例は無い。
Table 1に供試材の化学成分を示すが,供試材は低合金鋼SCM440の熱間圧延丸棒である。熱処理は,1153 K×30 min,油冷で焼入れ行った後,473 K×60 min,空冷で焼戻しを行った。これらの熱処理は,直径12 mmの丸棒形状に下加工した後に行った。熱処理後のビッカース硬さはHV604で,3.26 HVの関係から推定した引張強度は1969 MPaである。本研究では引張試験を実施していないが,SCM440鋼に同様の熱処理を施した場合の引張特性は文献33)で参照可能である。Fig.2に旧オーステナイト粒界を出現させた組織写真を示す。組織は焼戻しマルテンサイトの様相を呈し,旧オーステナイト粒径は20 μm程度であった。
Steel | Element (mass%) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
C | Si | Mn | P | S | Cr | Mo | |
SCM440 | 0.40 | 0.21 | 0.71 | 0.009 | 0.009 | 0.96 | 0.16 |
Microstructure of the tested steel.
疲労試験は,超音波疲労試験により,繰返し速度20 kHzで行った。使用した試験機は島津製作所製超音波疲労試験機USF2000である。打切り繰返し数は最大で1011回を目標とした。その際,破断しなかった試験片についても介在物寸法を確認するため,試験終了後により高い応力振幅で強制的に内部破壊させた22)。試験片形状をFig.3に示すが,最小部直径が3 mmの砂時計型の形状を採用した。その際,最小部付近表面の最終仕上げはバフ研磨(周方向)とした。また,試験中は試験片の発熱を防ぐために試験片を空冷した。空冷には,5.5 kWのコンプレッサー(流量600 L/min.)とボルテックスチューブ型のクーラーを使用した。空冷により十分に発熱を防ぐことができたため,間欠試験19)は行わず,全て連続試験により実施した。疲労試験は室温大気中で行い,応力比の条件はR=-1とした。
Profiles of specimens in mm.
破面観察は,走査型電子顕微鏡(SEM)と光学顕微鏡(OM)により行った。通常,破面観察には走査型電子顕微鏡のほうが適しているが,ODA34–36)(Optically Dark Area)を観察するためには光学顕微鏡が有効である。焦点深度の浅い光学顕微鏡では凹凸の大きい破面の視野全体についてピントを合わせることはできないが,焦点をずらしながら撮影した複数枚の写真から画像処理によりピントが合っている部分だけを貼り合わせるマルチフォーカス機能により,視野全体についてピントの合った光学顕微鏡写真を得た。
Fig.4に,疲労試験結果を示す。白のプロットで試験片が破断した結果を示し,黒のプロットで破断しなかった結果を示している。破断しなかった結果についてはプロットに矢印を付し,複数のプロットが重なっている場合には重なっている数を矢印の横に示した。1011回までの試験は680 MPaで実施し,1本の試験片は5×1010回付近で中断したが,2本の試験片は1011回に到達した。また,1本の試験片は8.37×109回で破断した。従って,1010回以上で破断した試験片は無かった。
Fatigue test results.
Fig.5に,電子顕微鏡による破面観察結果の代表例を示す。全ての試験片が内部破壊を示し,内部破壊の起点は酸化物系介在物であった。Fig.5では破面の片方で介在物が観察され,他方の破面では介在物が抜け落ちた穴が観察されている。酸化物系介在物は母地から剥離しやすいため,しばしばこのような様相が観察される。ただし,介在物が割れて,破面の両方で介在物が観察される例もあった。介在物寸法は14~35 μmの範囲で,平均寸法は22 μmであった。
Typical SEM images of fracture surfaces at around the internal fracture origin. This specimen was fractured at 8.66 × 107 cycles at 800 MPa.
Fig.6に,光学顕微鏡による破面観察結果の代表例を示す。(a)が106回付近の比較的短い寿命で,(b)が108回付近の比較的長い寿命で破断した試験片である。また,(b)の破面はFig.5(a)の破面と同一である。(b)では,起点となった介在物の周囲に黒く見える領域がある。この領域は,電子顕微鏡像では凸凹した破面様相となっている。一方,(a)では,黒く見える領域は不明瞭で小さい。このように黒く見える領域がODAである。ODAは105回付近で内部破壊した場合には観察されず,106回付近から観察されるようになり,107回以上で内部破壊した場合には明瞭になる。Fig.6で黒く見える領域は,このようなODAの特徴と一致している。Fig.7は,1011回まで試験を行った後,高い応力振幅で強制的に内部破壊させた場合の破面である。Fig.7では,強制破壊させた際の繰返し数はFig.6(a)の繰返し数に近いが,Fig.6(b)とよく似た明瞭なODAが観察された。長寿命域で破断しなかった試験片を短寿命で強制破断させた場合にODAが観察されることは過去にも報告されているが22,34,35),1011回まで試験を行った場合にも同様の傾向が確認された。
Typical OM photos of fracture surfaces at around the internal fracture origin. (a) is the specimen fractured at 3.01 × 106 cycles at 920 MPa. (b) is the specimen fractured at 8.66 × 107 cycles at 800 MPa.
OM photo of fracture surfaces at around the internal fracture origin. This specimen was first load-cycled up to 1011 cycles at 680 MPa and then forcibly fatigue fractured at 2.48 × 106 cycles at 890 MPa.
Fig.4の疲労試験結果において,1010回以上で試験片が破断しなかった点は疲労限の傾向を示している。このことをより明確にするために,Fig.1と同様の解析を行ってみる。Fig.1は,前報32)で高強度鋼のギガサイクル疲労強度の予測式を導出する際に,各定数を求めるために実験データのフィッテングを行った結果である。前報では,内部破壊が内部微小き裂の伝ぱ寿命により支配されるとして疲労強度を計算したが,き裂進展則には以下のような式を用いた。
(1) |
ここで,
(2) |
ここで,σaは応力振幅である。式(2)を式(1)に代入して,
(3) |
ここで,Dは式(3)の右辺を適当な定数に置き換えたものである。式(3)に基づき,実験データから∆Kinc・
Fig.8に,Fig.1の図に本研究の実験データをプロットした結果を示す。本研究の実験データはひし形のプロット(◇と◆)で示しているが,前報のデータとよく一致している。また,1010回以上で非破断であったデータは黒のプロット(◆)で示しているが,これらは前報で求めたThresholdとして示されている水平線の線上となっている。この結果は,疲労限が存在する傾向をより明確に示してる。すなわち,1011回までのデータをプロットすることにより,横軸のNf/
Present results plotted in a graph of Fig.1.
疲労限が出現するメカニズムに関しては,き裂の発生限界と停留き裂の二つが考えられる。通常の表面破壊の場合には停留き裂により疲労限が生じると考えられているが,結論的には内部破壊の場合も同様であると考えられる。根拠は,Fig.7で示したように,1011回で非破断となった試験片でもODAが観察された点である。Fig.7の試験片は1011回で非破断となった後,高い応力振幅で強制的に内部破壊させたものであるが,強制破壊させた際の繰返し数は106回付近である。106回付近の繰返し数で明瞭なODAが形成されないことはFig.6(a)から明らかなため,Fig.7のODAは1011回までの試験中に形成されたものである。また,前報30)のビーチマークによる解析で,ODAは内部微小き裂が伝ぱした領域であることが明らかとなっている。従って,Fig.7のODAは,1011回で非破断となった試験片に内部微小き裂が存在していたことを示している。これは,停留き裂と考えられる。すなわち,通常の表面破壊の場合と同様に,内部破壊の場合でもき裂の停留により疲労限が発現すると考えられる。
本研究では,高強度鋼について1011回までギガサイクル疲労試験を実施し,内部破壊の疲労限について検討した。その結果,以下のような結論を得た。
(1)3本の試験片について1010回以上の疲労試験を行い,1本は5×1010回付近で中断したが,2本は1011回に到達した。すなわち,1010回以上で破断した試験片は無かった。
(2)破断した試験片は全て内部破壊となり,内部破壊の起点は酸化物系介在物であった。また,介在物寸法は14~35 μmの範囲で,平均寸法は22 μmであった。
(3)光学顕微鏡を用いてODAの観察を行ったが,短寿命で破断した場合のODAは不明瞭で小さく,長寿命で破断した場合には明瞭なODAが観察された。また,1011回まで試験を行った試験片を,高い応力振幅により短寿命で強制破断させた場合にも明瞭なODAが観察された。
(4)今回の実験データから∆Kinc・
(5)1011回で非破断となった試験片でもODAが観察された点は,内部に停留き裂が存在していたことを示している。すなわち,内部破壊の場合でもき裂の停留により疲労限が発現すると考えられる。
本研究の一部はJSPS科研費18H03748の助成を受けて行われたものである。ここに謝意を表する。