Tetsu-to-Hagane
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EBSD and ECCI Based Assessments of Inhomogeneous Plastic Strain Evolution Coupled with Digital Image Correlation
Ryohei KakimotoMotomichi Koyama Kaneaki Tsuzaki
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2019 Volume 105 Issue 2 Pages 222-230

Details
Synopsis:

We measured local grain orientation gradient and dislocation density by electron backscatter diffraction (EBSD) measurement and electron channeling contrast imaging (ECCI) to obtain strain maps near a stress concentration source in a pure nickel as a FCC model specimen. In particular, we obtained relationship among grain orientation spread (GOS), dislocation density, and equivalent plastic strain on the specimen surface, which were obtained by EBSD, ECCI, and digital image correlation (DIC), respectively. After obtaining GOS-strain and dislocation density-strain relations, the strain distribution in the specimen interior was also determined by measuring the GOS and dislocation density. Both of the GOS and dislocation density showed a linear correlation, and the dislocation density-strain relation showed a relatively small deviation.

1. 緒言

鉄鋼材料をはじめとした延性金属材料における破壊現象では,局所塑性ひずみ発達が重要な役割を有している。例えば,Dual-phase鋼1,2)や変態誘起塑性3,4)を呈するオーステナイト鋼では,変形中に導入されたボイドやクラックなどの微視的損傷先端における塑性ひずみ発達および損傷の伝ぱ・合体が最終破壊を支配している。特に延性き裂進展先端では,その応力集中に由来して顕著な不均一塑性ひずみが現れる。このため,延性破壊および延性き裂進展現象を理解するために,き裂先端近傍の塑性ひずみ勾配や特定金属組織における局所塑性ひずみの定量的測定法の確立が求められている。また,き裂開口/進展にともなう塑性ひずみ発達挙動は応力状態が異なる材料の表面と内部で異なり,き裂進展を考える上では表面に加えて材料内部の塑性ひずみ分布を測定する必要がある。

現在では,応力/ひずみの数値解析的手法として有限要素法(FEM)が確立されている。さらに近年では,材料の結晶構造および組織界面を考慮した結晶塑性FEMも発展してきている57)。一方,実験的手法としては,人工的な微細粒子または金属の微視組織をランダムパターンとして利用したデジタル画像相関(DIC)法がひずみマッピング法として知られる810)。しかし,試料表面の画像を基にひずみを算出する手法であるため,試料内部のひずみはDIC法により測定できない。この問題を解決する方法として,二つの手法が考えられる。一つは,三次元トモグラフィーによる塑性ひずみマッピングである11)。他方は,変形材の結晶方位勾配または転位密度測定による塑性ひずみマッピングである12,13)。本研究では,後者に注目することとする。

まず,変形材の結晶方位勾配を用いた塑性ひずみマッピングについて示す。結晶方位測定法としては,電子線後方散乱回析(EBSD)法が挙げられる。特に,EBSD法によって測定される結晶方位から得られるKernel Average Misorientation(KAM),Grain Reference Orientation Deviation(GROD),Grain Orientation Spread(GOS)の3つは,材料の塑性ひずみを評価する有用なパラメータであると報告されている1416)

KAMは,周辺ピクセルとの方位差平均を示す指標であり,式(1)で示される。

  
KAM=i=16αi/6(1)

本研究で用いたEBSD測定のピクセルは六角形である。つまりKAMとは,ある結晶粒内の任意の六角形ピクセルと隣接する6つのピクセル間の方位差αiの平均を示す。KAM値は幾何学的に必要な転位(GN転位)の転位密度と対応があるため,転位運動によって与えられる塑性ひずみと定量的な対応があるとされる17)。しかし,周囲との平均方位差を指標とするため,Fig.1に示すように単調な塑性ひずみ勾配がある場合はその傾きがKAM値と対応する。このため,塑性ひずみ勾配があるにも関わらず,KAM値が一定値を示すことがある。この場合,KAMマップのKAM値の最小値への漸近点は弾塑性境界を表す。

Fig. 1.

A schematic for the relationship among plastic strain, KAM, GROD, and GOS. The red line indicates plastic strain (orientation) gradient. The KAM value and its asymptote point correspond to the gradient of plastic strain and the elasto-plastic boundary, respectively. The arrows show the GROD values, which qualitatively correspond to the plastic strains. Note that the GROD at (b) is lower than that at (c) in the different grain, which is a mismatch with the actual value of plastic strains. The GOS distribution is stepwise, but can show plastic strain gradient across multiple grains. (Online version in color.)

GRODは,各結晶粒の平均方位を基準として,粒内の変形勾配を示す指標であり,式(2)で示される。

  
GROD=θiθAVE(2)

ここで,θiおよびθAVEは,それぞれ結晶粒内のi番目のピクセルの方位および基準となる平均方位を示す。GRODは塑性ひずみ勾配に対応する塑性ひずみ分布を定性的に示す18)Fig.1の両矢印はGROD値を表す。図中の(a),(b)を比較すると,(a)でのGROD値は塑性ひずみと対応して,(b)でのGROD値よりも大きい。しかし,(b),(c)を比較すると,(b)での塑性ひずみは(c)より大きいにも関わらず,(b)でのGROD値は(c)でのGROD値より小さい。なぜならば,基準値となる平均方位が粒毎に異なり,結晶粒間の定量的な比較ができないためである。そのため複数粒を跨いだ塑性ひずみ分布の定量的解析には向かない。

GOSは,結晶粒全体の方位変化を示す指標であり16),式(3)で示される。

  
GOS=i=1n(θiθAVE)/n(3)

ここで,nは粒内のピクセル数を示す。つまりGOSとは粒内の各ピクセルのGROD値を平均化したものである。GOS値は結晶粒単位で値が決定されるため空間分解能がKAMおよびGRODと比べて著しく低いが,Fig.1に示すように粒毎の塑性ひずみを定量的に評価することができ,結晶粒単位の変形量の尺度として相関が高い。

次に,転位組織観察による塑性ひずみ解析法としては,透過型電子顕微鏡(TEM)による転位密度測定が良く用いられる19,20)。本質的に,転位密度と塑性ひずみは以下の式(4)で導かれることが知られる。

  
γ=ρbx(4)

ここで,γはせん断塑性ひずみ,ρは転位密度,bはバーガースベクトル,xは転位の平均移動距離である。つまり,塑性ひずみと転位密度の定量的関係を実験的に算出することで,転位密度分布から塑性ひずみ分布を求めることができる。しかし,この式を実際の多結晶・複雑組織を有する試料に適用する場合には,バルク試料からの薄膜試料切り出し位置の特定が必要であり,また多数・広範囲の観察が要求される。このため,塑性ひずみマッピングにTEMを利用することは多大な労力を要する。そこで,TEMに代わる新たな手法として,走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた電子チャンネリングコントラストイメージング(ECCI)法が挙げられる21,22)。ECCI法ではバルク試料をそのまま用いて直接転位観察が可能であるため,バルク試料の転位密度を容易にかつ広い範囲で測定することができる。

本論文では,以下の2つについての結果および考察を示す。

(1)試料表面において,応力集中部の結晶方位勾配および転位密度勾配をEBSD法およびECCI法より測定する。この結果をDIC法と組み合わせることにより,EBSD/ECCI法による塑性ひずみ分布測定法を示す。

(2)DIC法が適用できない試料内部において,(1)に示すEBSD/ECCI法を用いた手法により,応力集中部の不均一塑性ひずみ分布を測定する。

2. 実験方法

2・1 供試材および試験片

本研究の目的は鉄鋼材料の延性破壊現象の理解に向けた技術開発であるが,簡単のため,転位密度とひずみの関係を複雑にする因子を除くように材料選択をした。具体的な指針を以下に示す。

(1)侵入型固溶原子などによる転位ピニングおよびデピニングは転位の平均移動距離に強い影響があるため,炭素や窒素などの固溶元素の含有は避ける。

(2)ひずみは,転位運動および転位密度増大だけではなく,双晶変形や変形誘起マルテンサイト変態によっても与えられる。このため,極端に低い積層欠陥エネルギーを有する材料や準安定オーステナイト鋼は避ける。

(3)転位が交差すべりをし,容易にセルなどの転位集合体を形成する場合,転位密度とひずみの関係にどう影響するかについては今後の要検討対象である。本研究では簡単のため,比較的交差すべりが容易である体心立方構造の材料は避ける。

上記理由より,安定構造であり,かつオーステナイトと同じ結晶構造を有する純金属である純Ni(純度99.4%)を供試材として用いた。上記課題を含め,組織や合金成分が複雑化した際の影響については,今後の検討課題とする。最終熱処理として,1 mm厚さの薄板を800°Cで30 min保持して焼鈍したのち,炉冷を施した。熱処理後,Fig.2に示す2種類の形状の試験片を放電加工により切り出した。Fig.2(a)は機械的特性を測定するための引張試験片形状である。平行部形状は,4 mmw×1 mmt×30 mmlである。引張試験前に,表面傷による応力集中を避けるため,エメリー紙(#1000)で研磨を施した。試験条件は,試験温度20°C,初期ひずみ速度1.0×10−4 s−1とした。測定された応力−ひずみ曲線をFig.3に示す。0.2%耐力は79 MPa,引張強さは401 MPaであり,大きな加工硬化を示している。Fig.2(b)は後述するSEM内その場引張実験用の試験片形状である。平行部形状は,2 mmw×1 mmt×10 mmlである。その場引張実験用試験片はエメリー紙(#1000)研磨の後にダイヤモンドサスペンション(9 µm,3 µm)を用いてバフ研磨を施した。また本研究では,不均一塑性ひずみを誘起するために,試験片側部に放電加工により溝幅0.1 mm,溝深さ0.5 mmの切欠き(Fig.2(b’))を導入した。この切欠き近傍の応力集中部を塑性ひずみ分布解析の対象とした。最後に,コロイダルシリカを用いてバフ研磨を施し,試験片表面を鏡面に仕上げた。

Fig. 2.

Sample dimensions used for (a) tensile testing and (b, b’) strain evolution analysis (mm).

Fig. 3.

Engineering stress-strain curve of the Ni specimen without notch.

2・2 ひずみ発達挙動の測定

DIC法を用いて引張試験中の試験部の局所ひずみを計測するために,試験片(Fig.2(b))表面にランダムパターンを付与した。本研究では,ランダムパターンとして粒径約50 nmのコロイダルシリカを表面に塗布した8,23)。ひずみ発達挙動を測定するための引張試験の条件は,試験温度20°C,初期ひずみ速度2.5×10−4 s−1とした。この初期ひずみ速度は切欠きを無視して見積もられた値である。最大試験力は90 Nとし,負荷時から除荷時にかけて試験片表面をSEM内で観察し,in-lens検出器を用いて二次電子像を取得した。観察条件は,加速電圧5 kV,照射電流10 pA,作動距離15 mmとした。得られた画像を解析ソフトVIC-2D(Correlated Solution, Inc.)を用い,局所ひずみを算出した。画像解析におけるステップサイズとサブセットは,それぞれ10ピクセル,31×31ピクセルとした。

2・3 試験片表面・内部のEBSD/ECCI測定

引張試験後の観察では,表面に付与したコロイダルシリカを除去するため,再度コロイダルシリカを用いてバフ研磨を施した。試験片表面の切欠き近傍の結晶方位解析を行うためにEBSD測定システム(OIM ver.7.x)を用いた。観察条件は,加速電圧20 kV,照射電流10 nA,作動距離15 mm,ビームステップサイズ0.2 µmとした。

SEMによるECC像の観察条件は,加速電圧30 kV,照射電流10 nA,作動距離2.7 mmとした。試験片表面の切欠き近傍の各結晶粒内をECCI法によって観察し,転位密度を後述する手法で算出した。ECC像のコントラストは結晶粒の格子ひずみに大きく依存するため,粒内に比べ格子ひずみがより大きい粒界では,粒内と同じ試料傾斜角およびコントラストで明瞭に転位を結像することが難しい。本研究では,より簡便な条件で個々の転位線を観察し複数粒の転位密度を測定する必要があったため,粒内のみを観察対象とした。転位密度はECC像に格子を描画し,格子と転位線の交点の数から式(5)を用いることで算出した24)

  
ρ=n1/l1+n2/l2t(5)

ここで,l1とl2は格子の線の長さ,n1とn2は転位線と格子の交点の数,tは電子線侵入深さである。本研究では,t=90 nmとした22)。ECCI測定後,試験片表面においてDICの結果とEBSD/ECCI法の測定結果の相関性について評価した。

同様に,試験片内部のEBSD/ECCI測定を行うため,試験片を板厚方向にエメリー紙研磨し,ダイヤモンドサスペンション,コロイダルシリカを用いてバフ研磨を施し,厚さを半分にした。試験片内部のEBSD/ECCI測定は,試験片表面観察と同条件で行った。

3. 実験結果

3・1 DIC観察結果

Fig.4に示すとおり,引張試験後に行ったDICの結果とSEMで観察して取得したECC像を重ねることで,各結晶粒の位置を決定し,粒内の平均塑性ひずみとして算出した。最大試験力90 N負荷した後に除荷した際の相当塑性ひずみ(εeq)分布である。ここで,相当ひずみは平面ひずみ状態と仮定して決定した。しかし,本来平面応力状態である表面を平面ひずみ状態と仮定することは正しくない。εzが測定できない表面観察によるDICで,平面応力状態の相当ひずみを測定,補正する方法については今後の検討課題である。図より,切欠き先端からひずみ勾配が観察される。ひずみ分布が左右非対称になっている原因は負荷中にねじりが挿入されたためであると考える(補足資料にて詳述。)。ここで,最大ひずみ量が1.80%であり,切欠きからの距離が大きくなるに従い,0.20%までひずみが低下している。本研究では,この不均一なひずみ分布の中で,特にひずみ勾配が大きい左半分を対象に,次節よりEBSD/ECCIによる塑性ひずみ解析を試みる。

Fig. 4.

Local plastic strain, εeq map near the notch after unloading obtained by DIC on the surface of the specimen with ECC image. This figure was used to calculate the average εeq of each grain. (Online version in color.)

3・2 EBSD観察結果

本研究では,結晶粒サイズでの結晶方位差分布の評価を行うため,粒径未満の空間分解能は要求せず,塑性ひずみと良い相関があるGOSを用いた。Fig.5にEBSD測定で取得した試験片表面(Fig.5(a))と試験片内部(Fig.5(b))の切欠き近傍でのGOSマップを示す。Fig.5(a’),(b’)の詳細については後述する。

Fig. 5.

GOS maps coupled with grain boundary maps near the notch after unloading obtained by EBSD (a) on the surface and (b) in the interior of specimen. The GOS errors caused by (a’) the presence of subgrain boundary in grain H and (b’) the difference of grain size between grain 1 and 2. (Online version in color.)

Fig.6に試験片表面におけるGOS値とDICで得られた結晶粒毎に平均したεeqの関係をプロットしたものを示す。詳細は後述するが,結晶粒HにおけるGOS値は亜粒界の影響で高く測定される(Fig.5(a’))。このため,Fig.6は亜粒界の影響を除いて測定した値(赤丸)もプロットしている。これより後の結果は,この亜粒界の影響を除いたGOS値を用いて示している。また,各点より線形近似直線を算出した結果,結晶粒毎のGOS値とεeqの関係式として,以下の式(6)が得られた。

  
GOS=0.329εeq+0.118(6)
Fig. 6.

The relationship between grain orientation spread, GOS and local plastic strain, εeq on the surface of the specimen. The data obtained by Fig.4 and Fig.5(a) were used. The red open circle is GOS value after consideration of the effect of the subgrain boundary shown in Fig.5(a’). (Online version in color.)

ここでGOSの単位は[°],εeqは[%]である。この関係式を用いて,DICでは測定することが出来ない試験片内部の相当塑性ひずみをGOS値から算出した。得られた結果をFig.7に示す。図より,おおよそ切欠きからの距離が長くなるに従い,塑性ひずみは小さくなる傾向が見られる。しかし,Fig.5(b’)に示すとおり結晶粒1,2を比較すると,結晶粒2は結晶粒1よりも切欠き先端からの距離が長いにも関わらず,塑性ひずみが大きいことが分かる。この要因に関しては後述の考察に示す。本研究では前述の通り,試験片表面の相当ひずみを平面ひずみ状態として測定したので,ここから得られた関係式を試験片内部に適用することは本来矛盾を含む。この問題は将来の検討課題とするので,以下の議論にこの矛盾点が内包されていることには留意されたい。

Fig. 7.

EBSD-based assessment of the relationship between local plastic strain, εeq in the interior of the specimen calculated by Eq.(6) and distance from the notch tip, L. The GOS data shown in Fig.5(b) were used.

3・3 ECCI観察結果

Fig.8にECCI法で取得した変形前の試験片表面の初期組織を示す。Fig.8(c)に初期転位密度を測定するために用いた図を示す。図中の黄色線は格子を表す。前述した式(5)を用いて転位密度を測定した結果,初期転位密度は4.69×1012 m−2となった。また,Fig.5に示した変形後の試験片の各結晶粒内について,同様のECCI法で取得した転位組織をFig.9(a)(試験片表面)とFig.9(b)(試験片内部)に示す。

Fig. 8.

(a) ECC image showing an overview before the tensile deformation. Magnified images showing at the center of the grain (b) without and (c) with mesh. The surface orientation satisfies the Bragg condition and each dislocation can be clearly identified. (Online version in color.)

Fig. 9.

ECC images showing the dislocation structures on the surface at the center of (a1) grain B, (a2) grain E, (a3) grain G, and in the interior at the center of (b1) grain 2, (b2) grain 4, (b3) grain 7 for the regions corresponding to the distance from the notch tip, L. The locations of the grains are available in Fig.5, GOS map.

Fig.10に試験片表面における転位密度とDICで得られた結晶粒毎に平均したεeqの関係をプロットしたものを示す。また,各点より線形近似直線を算出した結果,以下の式(7)が得られた。

  
ρ=2.00×1013εeq+4.69×1012(7)
Fig. 10.

The relationship between dislocation density, ρ and local plastic strain, εeq on the surface of the specimen.

ここでρの単位は[m−2],εeqは[%]である。この関係式を用いて,前述の3・2項と同様に試験片内部の塑性ひずみを転位密度から算出した。得られた結果をFig.11に示す。図より,Fig.6とおおよそ同様の結果が得られた。

Fig. 11.

ECCI-based assessment of the relationship between local plastic strain, εeq in the interior of the specimen calculated by Eq.(7) and distance from the notch tip, L.

4. 考察

Fig.6Fig.10に示す決定係数R2から分かるように,GOS値−DICひずみの相関は転位密度−DICひずみの相関よりもばらつきが大きい。ここではまず,各手法の誤差の原因について議論する。その上で,EBSD法とECCI法による塑性ひずみ測定法の用途について提案する。

4・1 GOS値の誤差

4・1・1 亜粒界の存在

第一に,Fig.5(a’)に示す結晶粒Hについて議論する。EBSD測定の特性上,5°未満の方位差を有する亜粒界は粒界として同定されず,粒内方位差として算出される。このため5°未満の方位差を有する亜粒界が対象結晶粒に隣接しているとGOS値が過剰に見積もられる。このため,亜粒界が隣接している結晶粒Hでは周囲の結晶粒に比べてGOS値が高くなっている。結晶粒Hと亜粒界をまたいだ隣接結晶粒は同一結晶粒として同定されているため,これら2つの結晶粒内において同一のGOS値が算出されている。この問題は対象の結晶粒のみを抜粋し,改めて測定することで解決され,この結果をFig.6に反映させている。

4・1・2 結晶粒径依存性

第二に,Fig.5(b’)に示す2つの結晶粒1,2について議論する。図より,2つの結晶粒を比較すると,GOS値が結晶粒1に比べて結晶粒2の方が大きい。塑性ひずみ勾配をマクロな視点で見ると,Fig.4のDIC法の塑性ひずみ分布測定結果より,切欠きからの距離が長くなるに従い,塑性ひずみはおよそ単調に減少している。つまり,各結晶粒は塑性ひずみ量と対応して,切欠きからの距離が長くなるに従い,結晶方位変化は小さくなる。また,Fig.11の転位密度から算出した内部塑性ひずみ測定結果より,結晶粒1,2の転位密度は同程度であった。以上のことから,2つの結晶粒に関して,結晶粒2より結晶粒1が方位変化していないとは考え難い。ここで,GOS値とは前述の式(3)に示すとおり,算出対象領域の大きさ(粒径)の影響は考慮していない。つまり,より正確には,GOS値は各結晶粒内の塑性ひずみの積分値に対応すると考える。例えば,粒内平均塑性ひずみが同程度の2つの結晶粒を考える。Fig.12に示すような塑性ひずみ勾配がある場合,平均塑性ひずみが同一であっても,粒内塑性ひずみ差は粒径の増大とともに大きくなり,対応してGOS値が大きくなる。このため,粒径が大きく異なる結晶粒の塑性ひずみをGOS値から比較・算出することは大きな誤差を伴う。ここで観察された粒径は3次元形状を考慮していないため,上記ひずみの誤差が実際に結晶粒径の影響に起因するかは結論づけられないが,可能性の高い原因の一つとしてここで挙げる。

Fig. 12.

Schematic demonstrating macro scale plastic strain gradient. The average plastic strain is identical for grain a and b, while GOS becomes larger in grain b. This shows a grain size effect on GOS. (Online version in color.)

4・2 転位密度の誤差

転位密度から求めた塑性ひずみの誤差については,粒界の影響が挙げられる。本実験における転位密度は,粒内中央部の一定範囲のみを対象としている。しかし,変形中に蓄積される転位分布を考えると,粒界近傍ではひずみの適合条件を満たすために,GN転位密度が粒内よりも高くなる25)。粒径が小さいと,相対的に粒界近傍の高GN転位密度の影響を強く受ける。このため,転位密度と塑性ひずみの関係には粒径依存性があり,これが誤差の原因となっている(Fig.13)。また,セルなどの転位下部組織形成挙動の結晶方位依存性も誤差の原因となり得る。しかし,Fig.10およびFig.11に示したように,転位密度はDIC法によって測定された塑性ひずみおよび切欠き先端からの距離に対してほぼ単調に変化しており,決定係数も高いため,上記原因による誤差は小さいと考える。ここで注意したいこととして,回復現象が起こった場合に言及する。大塑性変形時は転位増殖よりも回復による転位密度低下の影響が大きくなるため,塑性ひずみに対して転位密度は単調に増大しない。大変形に適用する場合は,別に転位密度−塑性ひずみの関係を測定する必要がある。

Fig. 13.

Schematic demonstrating micro scale plastic strain gradient. The GN dislocation density is higher near the grain boundary because of strain compatibility condition. When the observation area size at the center of grain is identical, GN dislocation density becomes higher with decreasing the grain size.

4・3 EBSD−GOS値とECCI−転位密度から算出した内部ひずみ解析結果の比較

Fig.14にGOS値から算出した内部塑性ひずみと転位密度から算出した内部塑性ひずみの相関をプロットしたものを示す。図より,結晶粒2,3,4の3点のばらつきが大きい。一般的に前述の式(4)に示すとおり,転位の平均移動距離が一定と仮定すると,塑性ひずみと転位密度には比例関係があり,Fig.10においても塑性ひずみと転位密度は高い決定係数とともに比例関係が示された。つまり,転位密度測定による塑性ひずみは信頼性が高いと考えられ,Fig.14における線形関係からのずれはGOS値により測定された塑性ひずみの誤差によると考える。結晶粒2における高いGOS値の原因は,その大きな結晶粒径にあることを既に指摘した。結晶粒3と4では,Fig.5(b)に示すように粒径が周囲と比べて小さいために,相対的に低いGOS値を示したと考える。

Fig. 14.

The relationship between the EBSD-based interior local plastic strain, εeq and the ECCI-based interior local plastic strain, εeq. The data obtained by Fig.7 and Fig.11 were used.

4・4 提案:EBSDとECCIによる塑性ひずみ測定法の用途

第一に,EBSD法の特徴について述べる。EBSDは広範囲に自動測定可能な手法であるので,塑性ひずみとの統計的な相関を容易に算出することができる。つまり,結晶粒程度の空間分解能における塑性ひずみを統計的に評価するためにはGOS値の解析が有効である。しかし,EBSD測定では亜粒界の存在や結晶粒径依存性などが解析結果にばらつきを与えるため,多数のデータを用いた統計的解析から考察することが要求される。

第二に,ECCI法について述べる。ECCIを用いた転位密度測定については,局所的な塑性ひずみとの相関に対して定量的に高い信頼性を有する。しかし,EBSD法と比較して,転位密度測定は観察および解析に時間を要するため,多数・広範囲に解析をする場合にはEBSD法と併用することが有効である。

以上のことから,EBSD/ECCIを組み合わせた塑性ひずみ発達の測定法として,以下を提案する。まず変形勾配を有する試料を用意し,EBSD法とDIC法を用いてGOS値と塑性ひずみの関係式を算出する。この際,結晶粒径より十分大きな領域を解析対象のユニットとし,複数粒の平均値を用いることでGOS値と塑性ひずみの関係の誤差を小さくする。粒界および析出物等の第二相によって生じる弾性ひずみは無視できるとすると,今回と同程度の変形量では,GOS値と転位密度は比例関係を有する。つまり,ECCI法で初期転位密度のみ測定することでGOS値と塑性ひずみの関係式から転位密度と塑性ひずみの関係式を算出することができる。この手法を用いることで,転位密度の測定数を減らし,材料内部の塑性ひずみを正確に測定することができ,延性破壊および延性き裂進展機構の解明に繋がると期待する。

5. 結論

本研究では,試料表面の応力集中部にEBSD法およびECCI法を適用することで,結晶方位勾配(GOS値)および転位密度を測定した。得られた結果をDIC法と組み合わせることにより,塑性ひずみと結晶方位勾配/転位密度の相関を評価し,EBSD/ECCI法による塑性ひずみ分布測定法を示した。また,DIC法が適用できない試料内部にEBSD/ECCI法を用いた手法を適用し,応力集中部の不均一塑性ひずみ分布を測定した。以下に得られた結果を示す。

(1)試料表面の応力集中部におけるEBSD/ECCI法を用いた測定より,DIC法で測定した相当塑性ひずみは,GOS値/転位密度のそれぞれと線形的な相関を有していることが示された。

(2)試料内部の応力集中部をEBSD/ECCI法で測定し,試料表面で得られた相当塑性ひずみとGOS値/転位密度の関係式から内部の塑性ひずみ分布を得た。その結果,切欠き先端からの距離が長くなるとともに,塑性ひずみが単調に小さくなる様子を捉えることが出来た。

(3)EBSD法で測定したGOS値の誤差の要因として,亜粒界の存在および結晶粒径依存性を指摘した。

謝辞

本研究は,JST産学共創基礎基盤研究プログラム「革新的構造用金属材料創製を目指したヘテロ構造制御に基づく新指導原理の構築」(20100113)およびJSPS科学研究費補助金(JP16H06365,JP17H04956)からの支援を頂き行った。また,ひずみ分布の解釈について福島良博助教と有益な議論を行った。ここに深謝する。

文献
 
© 2019 The Iron and Steel Institute of Japan

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