2019 Volume 105 Issue 2 Pages 190-196
Erichsen and deep drawing tests were performed to examine the formability of 0.2% carbon steel sheets containing the bimodal microstructure fabricated by 70-75% heavy-reduction controlled rolling process with a range of heating temperatures from 700-1000°C. The formability of steel sheets was analyzed and discussed in terms of the microstructure, the crystallographic texture, the strain-hardening exponent, and the anisotropy coefficient, which are obtained from the tensile test. In Erichsen test, Erichsen Index (EI) of 900- and 1000°C-heated specimens with a bimodal structure of submicron-sized grains (< 1 μm) and micron-sized grains (2-5 μm) is similar to that of as-received specimen with an average grain size of 41 μm, meaning superior formability. In deep drawing test, failure took place in all 700°C-heated specimens, while others could be drawn with a drawing ratio of 2.0. 900- and 1000°C-heated specimens were uniformly deformed without ears.
高強度と高靭性が要求される自動車,電車などの輸送機器の構造には,多量の鉄鋼材料が使用されている。輸送機器は,利用時のエミッション削減に力を注いでおり,空力設計(デザイン)や駆動系と並んで,車体軽量化が課題となっている。
車体軽量化のためには,鉄鋼材料の高強度と強靭性化により部品のコンパクト化を図る必要があるが,部品に形状を付与するためには同時に高延性化および成形性が必須である。しかしながら,一般的に鉄鋼材料は高強度化を図ると延性は減少し,特に,超高強度化をすると伸びが急激に減少する1,2)。高強度と高延性の両立は鉄鋼材料の設計における重要な課題であり,現在に至るまで様々な研究が行われており,また現在でも活発に研究が行われている3)。
高強度と高延性を両立させるための手段として,金属の内部組織が不均一なヘテロ構造がある。ヘテロ構造の一種であるバイモーダル組織は,二種類の結晶粒サイズを有する組織形態であってCu系合金の強加工熱処理より研究が始まった4)。当初行われてきた研究では,強加工プロセスと熱処理など複数のプロセスを経ていたため,高速生産を前提としたバルク材料として発展には限界があった5–9)。一方で,低炭素鋼において相変態点付近で熱間押出しにより,サブマイクロンおよびマイクロン粒が混合するバイモーダル組織を形成し,高強度と高延性が両立することが判明している10)。この現象は鉄鋼材料では相変態点以上の温度で加工熱処理により発現される現象で,加工オーステナイトの相変態挙動(加工γ→α)でのすなわち粒界と粒内の核形成挙動が異なること,また再結晶オーステナイトの相変態挙動(再結晶γ→α)が異なることにより,サブマイクロンサイズとマイクロンサイズの粒が混在するバイモーダル組織が形成されると想定できる。圧延によってこの現象が実現できれば,高強度と高延性を両立する新たな加工熱処理法として利用できる可能性がある。そこで,板材の圧延を押出しと類似にした,大圧下制御圧延によるバイモーダル薄鋼板の創製を意図して,まずは圧延と類似な変形挙動を有する平面ひずみ圧縮実験を用いて様々な鋼(C-Si-Mn鋼,Nb鋼)におけるバイモーダル組織形成の可能性について調査した結果,S20C,加工条件は加工温度850°C,ひずみ1.2以上(1パス),冷却速度20−30°C/sの条件でサブマイクロン(<1 μm)とマイクロン粒(2-5 μm)が混合するバイモーダル組織が形成され,さらに高強度と高延性が両立できることを確認できた11,12)。平面ひずみ圧縮試験の結果を基にして,S20Cを用いて圧下率70−75%(幅拘束)大圧下制御圧延を実施し,圧延プロセスによるバイモーダル組織の形成,集合組織の発達,機械的特性の分析を行った結果,加熱温度900−1000°C(予想加工温度850−950°C)でバイモーダル組織を形成し,平面ひずみ圧縮試験と同様に優れた機械的特性を示した13,14)。
バイモーダル薄鋼板の2次加工を行うためには,機械的特性のみならず基礎的な成形性の調査が不可欠である。本研究では,圧下率70−75%の大圧下制御圧延により製造されたバイモーダル薄鋼板の成形性を,エリクセン試験,深絞り試験,r値分析から検討し,金属材料の組織,集合組織,異方性,成形性の観点から整理した結果を示す。
成形試験への供試材としては,凡そ75%の圧下率,加熱温度を変化させて大圧下制御圧延法により製作されたS20C薄鋼板(0.213C-0.25Si-0.47Mn-Fe:wt%)を用いた。圧延は,N2ガス雰囲気での電気抵抗加熱炉に試験片を挿入し,加熱温度700°C・800°C・900°C・1000°Cで35分間を維持し,ガラス潤滑,圧延速度4.2 m/min,目標圧下率70%(加熱温度700°Cのみ)・75%(各ひずみ速度2.7と2.8 s−1),ミスト冷却(10−30°C/s)の条件で行った。圧延条件によるS20C薄鋼板の内部組織および集合組織の特徴をTable 1とTable 2に示す。用いられた薄鋼板の内部組織(RD方向)は,Ac1の近傍である加熱温度700°C・800°Cでは転位セル(Dislocation cell)および亜結晶組織(Subgrain)になっている。一方Ac3以上である加熱温度900°C・1000°Cではサブマイクロン(1 μm)とマイクロンサイズの結晶(1-5 μm)が混合するバイモーダル組織になっている。
Heating temp. | Reduction ratio, % | Average strain | Microstructure | fLAGBs, % | Grain size, µm |
---|---|---|---|---|---|
As-received | 0 | 0 | Coarse ferrite-pearlite | – | 41 |
700°C | 70 | 1.4 | Mainly elongated grains | 71 | 20.5 |
800°C | 75 | 1.6 | Elongated grains and ultrafine grains | 52 | 10.8 |
900°C | 75 | 1.6 | Bimodal structure | 27 | 1.34 |
1000°C | 75 | 1.6 | Bimodal structure | 25 | 1.63 |
Heating temp. | Dominant components of the texture | Intensity of texture by ODF map |
---|---|---|
700°C | α–(<110>//RD) and γ–(<111>//ND) fibers | 14.2 |
800°C | {113}-{4 4 11}<110>, {332}<113>, and γ–(<111>//ND) fibers | 9.8 |
900°C | {113}-{4 4 11}<110> and {332}<113> | 8.7 |
1000°C | {113}-{4 4 11}<110>, {332}<113>, and {100}<011> | 8.2 |
圧延による異方性や機械的特性を調査するため,圧延方向に対して0°・45°・90°の方向にゲージ部l 10 mm×w 5 mm×t 1 mmの試験片を放電加工により切出し,引張試験を行った。引張試験は容量50 kNの島津型万能試験機を用い,ひずみ速度1×10−3/sで室温大気中にて行い,変位の測定は,試験片の標点間部に直接貼り付けた島津SG10-100伸び計およびビデオにて測定した。値を加工硬化指数(n)は引張試験で得られたデータから真応力―真ひずみに変換して取得した。一般的にr値は公称ひずみの15%或いは20%で引張試験片の幅と厚みの変化から取得するが15),今回は最も低い均一伸びが凡そ7.3%であるため,公称ひずみ7%でr値を取得した。引張試験は各条件で3回行い,その平均値をTable 3に示す。
Conditions | Orientation, RD (°) | YS (MPa) | UTS (MPa) | UE (%) | EL (%) |
---|---|---|---|---|---|
As-received | 0 | 214.0 | 432.0 | 20.5 | 36.3 |
45 | 211.7 | 424.7 | 21.2 | 37.8 | |
90 | 216.0 | 433.0 | 19.7 | 34.7 | |
Average | 213.3 | 428.6 | 20.6 | 36.7 | |
700°C | 0 | 505.3 | 595.3 | 10.0 | 16.0 |
45 | 478.7 | 565.7 | 11.0 | 18.7 | |
90 | 509.7 | 594.3 | 9.5 | 16.4 | |
Average | 493.1 | 580.3 | 10.4 | 17.5 | |
800°C | 0 | 592.5 | 678.5 | 7.3 | 15.6 |
45 | 542.7 | 616.3 | 10.7 | 21.1 | |
90 | 608.5 | 680.0 | 7.5 | 13.2 | |
Average | 571.6 | 647.8 | 9.0 | 17.8 | |
900°C | 0 | 552.8 | 662.0 | 12.4 | 22.9 |
45 | 530.7 | 655.7 | 14.6 | 26.7 | |
90 | 558.0 | 667.0 | 11.7 | 22.5 | |
Average | 543.1 | 660.1 | 13.3 | 24.7 | |
1000°C | 0 | 490.8 | 609.5 | 15.1 | 28.2 |
45 | 515.0 | 613.0 | 14.9 | 27.2 | |
90 | 517.7 | 617.0 | 12.6 | 24.1 | |
Average | 509.6 | 613.1 | 14.4 | 26.7 |
*Average=(R0+2R45+R90)/4
一般的に板材の成形性指数として加工硬化指数(n)と塑性ひずみ比(r)があげられる。プレス加工中に,加工硬化指数は伸びフランジ性に支配的であり,一方で塑性ひずみ比は塑性異方性として深絞り性と強く関係がある。塑性ひずみ比(ランクフォード値r)は引張試験中の厚さ方向の真ひずみに対する幅方向の真ひずみで求められる。しかし,薄板で厚みのひずみを測定が困難である時には体積一定だと仮定すると,次式で表すことができる。
(1) |
W0とWfは最初と最後の幅,t0とtfは最初と最後の厚さ,L0とLfは最初と最後の長さである。平均r値(r)および面内異方性(∆r)は次式により求められる。
(2) |
(3) |
r0,r45およびr90は圧延方向に対する0°,45°および90°のr値である。高いr値は,フランジ部での縮み変形が生じやすいこととパンチ肩部での板厚が減少しにくくなることを示し,深絞り性が高いことを意味する。面内異方性は,深絞りで発生する耳(earing)に影響し,∆r>0になると圧延方向に対して0°および90°で耳が発生する。一方で,∆r<0になると圧延方向に対して45°で耳が生じる。
2・4 エリクセン試験圧延材から試験片を放電加工によりl 50 mm×w 30 mm×t 1 mmに切出し,エリクセン試験を行った。エリクセン試験はφ8 mmの半球型パンチを用いてパンチ速度0.4 mm/s,試験片抑え力(10 kN),グラファイト潤滑で室温大気中にて行い,パンチストロークにより薄板で割れが発生する時,エリクセン指数(EI)を求めた。エリクセン試験はJIS Z 2247を参照して各条件で5回行った。
2・5 深絞り試験圧延材から試験片を放電加工によりφ15,20,25 mm×t 1 mm(それぞれ絞り比1.5,2.0,2.5)に切出し,深絞り試験を行った。深絞り試験はφ10 mmの円型パンチを用いてパンチ速度1 mm/s,油潤滑(出光興産製)で室温大気中にて行い,限界深絞り比(Limiting drawing ratio)を求めた。深絞り試験は各条件で4回行った。エリクセンおよび深絞り試験の試験片や概略をFig.1とFig.2に示す。
Schematic illustration showing the Erichsen and deep drawing specimen. (Online version in color.)
Schematic illustration showing (a) the Erichsen and (b) deep drawing tests. (Online version in color.)
Table 3に,圧延方向・圧延条件の変化によるS20Cの機械的特性を示す。圧延前材料(以下供試材と称する)により圧延されたS20Cの降伏強度と引張強度はそれぞれ270-350 MPa,150-220 MPa程度向上した。加熱温度700°Cと800°Cの引張特性に比べ,加熱温度900°Cと1000°Cの場合は高強度を維持しながら高延性を持つことが確認できる。ここで加熱温度とは,大圧下圧延直前での鋼材の,電気炉での加熱温度を表す。
供試材の面内異方性は無いとみなして良い。一方,加熱温度700°Cと800°Cは圧延方向45°で強いV形の面内異方性を示すが,加熱温度900°Cと1000°Cの面内異方性は弱い。
3・2 ランクフォード(r値)と加工硬化指数(n)Fig.3に,各圧延材の圧延方向によるr値の変化を示す。加熱温度700°Cと800°Cのr値は,45°で極大となる強い逆V形を示す。一方で,供試材加熱温度900°Cと1000°Cでは,相対的に均一なr値を示した。一般的にr値は集合組織に依存し,鉄鋼材料において制御圧延による相変態(γ→α)から発達する{311}〈110〉,{112}〈110〉および{11 4 4}〈110〉が強く発達するほどr45が高くなる。またα-fiberは,冷間・温間圧延により〈110〉//RDとして{111}〈110〉から{001}〈110〉まで集合組織が発達する19)。r値,圧延方向,集合組織とのプロット図20)をFig.4に示す。加熱温度700−900°Cで制御圧延された薄鋼板では,相変態(γ→α)から発達する{311}〈110〉,{112}〈110〉と{11 4 4}〈110〉が強く発達している。一方で,加熱温度1000°Cで制御圧延された薄鋼板では,様々な集合組織とr値が低い{100}〈011〉の集合組織が発達しており,これによりr値が全圧延方向にかけて一様に低くなる原因と思われる。
Change in r-value in terms of angle from the rolling direction of control-rolled steels at different heating temperatures. (Online version in color.)
Plots of r versus angle of rolling direction for texture components predicted by relaxed constraint method; commonly, {111}<110> developed by cold rolling, {311}<110>, {112}<110>, {11 4 4}<110>, {332}<113> developed during the austenite to ferrite transformation by controlled rolling, and {110}<011> developed from recrystallized austenite to ferrite transformation20).
Fig.5に,加熱温度の変化によるrや∆r値の変化を示す。供試材・加熱温度700°C・800°C・900°C・1000°Cのrや∆r値はそれぞれ0.78,0.65,0.94,0.78,0.61と0.04,−0.09,−0.11,−0.04,0.03である。加熱温度700°C・800°Cの試料では∆r値が0より低いため,45°で耳が発生すると予想される。深絞りでの理想的な加工因子として高いr値と0に近い∆r値が求められるため,加熱温度700°C・800°Cの圧延材より加熱温度900°C・1000°Cの薄板が良い深絞り性を示すと予測できる。
Change in normal and planar anisotropy in terms of a heating temperature of control-rolled steel. (Online version in color.)
Fig.6に,加熱温度の変化による加工硬化指数(n値)の変化を示す。供試材・加熱温度700°C・800°C・900°C・1000°Cのn値はそれぞれ0.258,0.12,0.119,0.134,0.153である。供試材のn値に比べ,圧延材のn値は低いことがわかる。しかし圧延材のn値は,加熱温度が800°Cから1000°Cまで加熱温度が増加することにつれて徐々に向上した。一般的に高いn値を持つ材料のほど,優秀な伸縮性(ストレッチ性)と均一伸びを持つことと知られている16)。したがって,加熱温度700°C・800°Cの圧延材より,加熱温度900°C・1000°Cの方が良い伸び性を示すことと見込まれる。成形性指数の結果をTable 4に示す。
Change in n-value in terms of a heating temperature of control-rolled steel.
Conditions | r0 | r45 | r90 | r | Δr | n |
---|---|---|---|---|---|---|
As-received | 0.82 | 0.76 | 0.78 | 0.78 | 0.04 | 0.258 |
700°C | 0.60 | 0.70 | 0.62 | 0.65 | –0.09 | 0.120 |
800°C | 0.86 | 1.00 | 0.91 | 0.94 | –0.11 | 0.119 |
900°C | 0.75 | 0.79 | 0.76 | 0.78 | –0.04 | 0.134 |
1000°C | 0.63 | 0.59 | 0.61 | 0.61 | 0.03 | 0.153 |
Fig.7に,エリクセン試験による圧延材の荷重−変位曲線を示す。エリクセン試験で利用した荷重計が0.5 kNの単位での出力であったため,グラフが階段状になっている。供試材・加熱温度700°C・800°C・900°C・1000°Cの最大パンチ荷重(kN)はそれぞれ9,9,12,11,10.5である。供試材と加熱温度700°Cの最大パンチ荷重より,加熱温度800−1000°Cの方が高い荷重が必要であることがわかる。この結果は引張試験の結果と一致している。
Load-displacement curves of control-rolled steels obtained from the Erichsen tests. (Online version in color.)
Fig.8に,加熱温度の変化によるエリクセン値(EI)と全伸び(EL)の変化を示す。供試材・加熱温度700°C・800°C・900°C・1000°Cのエリクセン値はそれぞれ5.13,3.98,4.57,4.9,5.08である。供試材のエリクセン値より,加熱温度700°Cのエリクセン値が大幅減少した。一方で加熱温度が700°Cから1000°Cまで増加することにつれて,エリクセン値は徐々に向上した。この結果から,加熱温度900°C・1000°Cの圧延材は優れた張り出し性を示しており,加熱温度1000°Cの張り出し性は供試材のとほぼ同一であった。この傾向はn値と一致しており,また全伸び−加熱温度曲線からも同様に確認できる。しかしながら,加熱温度700°Cの全伸びは加熱温度800°Cと類似にも関わらず,エリクセン値が大幅に減少した。Sarayらは,エリクセン試験中に相当な延伸組織を持つIF鋼では延伸組織の粒境界から応力集中によるクラックイニシエーションが発生するため,成形性が低下すると報告した21)。
Change in EI and EL in terms of a heating temperature of control-rolled steels. (Online version in color.)
加熱温度700°Cではα−フェライト相の領域であるため,圧下率70%で大圧下圧延されても完全再結晶に至らず,主に加工組織である延伸組織(サブグレイン)を構成している。加熱温度700°Cの圧延材の小傾角粒界(Low-angle grain boundary)の分布と平均ミスオリエンテーションはそれぞれ71%,13.8°であるため13),これにより張り出し性が低下したことと考えられる。一方で加熱温度800°C,900−1000°Cでは,それぞれα−γの二相領域,γ単相領域で大圧下制御圧延により部分再結晶と相変態から大傾角粒界(High-angle grain boundary)を持つ等軸結晶(フェライト相)の分布が増加する。加熱温度800°C・900°C・1000°C圧延材の小傾角粒界の分布と平均ミスオリエンテーションはそれぞれ52%,21.5°,27%,31.4°,25%,32.6°である。加熱温度の増加につれて小傾角粒界の分布は減少し,平均ミスオリエンテーションは増加する13)。これは,粒界の傾角が15°以上である大傾角粒界の分布が増加することを意味する。よって加熱温度の増加につれて張り出し性が徐々に向上したことと考えられる。
Fig.9に,加熱温度の変化による供試材と制御圧延材の深絞り性の比較を示す。絞り比(Drawing ratio)1.5では,供試材と圧延材の全てで深絞りが可能であった。一方で絞り比2.5では,全ての試験片で割れが発生し,深絞りができなかった。絞り比2.0では,加熱温度700°Cの圧延材のみで100%割れが発生したが,他の加工温度の圧延材では深絞りが可能であった。しかし,供試材では100%の確率で絞ることができたが,加熱温度800°C,900°C,1000°Cの圧延材ではそれぞれ50%,50%,25%の確率で絞ることができ,残りは破断した。これは,供試材と比較して,大圧下圧延材では超微細粒からなる低いr値とn値に起因することと考えられる。
Deep drawability comparison of as-received and control-rolled steels in terms of a heating temperature. (Online version in color.)
Fig.10に,絞り比2.0で深絞り後の圧延材の外見を示す。加熱温度800−1000°Cの圧延材では絞ることが可能であった。側面から観察すると,加熱温度800°Cの試料では45°で耳が強く発生した。一方で加熱温度900°C・1000°Cのでは均一に成形されている。
Appearance of the control-rolled steel sheets after deep drawing at a drawing ratio of 2.0. (Online version in color.)
EBSD分析・引張試験・成形性試験の結果を総合的に分析すると,加熱温度700°Cではフェライト−パーライト相のままで圧延され,サブグレインを含む加工組織になっており,r値が高いα−(〈110〉//RD)とγ−(〈111〉//ND)fiberの集合組織が強く発達した。しかしながら,低いr値と低い深絞り性を示した。これは,転位セル構造であるサブグレインが主に構成された加工組織では,結晶粒内で転位移動スペースの制約が高いことにより内部欠陥が成長しやすく,低成形性に繋がったと考えられる。加熱温度800°Cではフェライト−オーステナイト二相の領域で圧延され,金属組織は加工組織の分布より,等軸結晶の分布が高くなった。なお,相変態集合組織({113}~{4 4 11}〈110〉,{332}〈113〉)とγ−fiberの集合組織が発達した。r値が高いγ−(〈111〉//ND)fiberの集合組織の発達により,良い深絞り性を示したが,圧延方向45°で高いr値を持つ相変態集合組織により圧延方向45°で耳が発生したと考えられる。加熱温度900−1000°Cではオーステナイト単相の領域での制御圧延により等軸でサブマイクロン(<1 μm)とマイクロン粒(2-5 μm)を混合するバイモーダル組織を形成した。さらに相変態集合組織({113}~{4 4 11}〈110〉,{332}〈113〉)と再結晶オーステナイトからの相変態集合組織({100}〈011〉)が発達した。加熱温度900°C・1000°Cの集合組織の強度が低いことやr値が低い{100}〈011〉の集合組織とさらに多様な集合組織が混在した。これにより加熱温度900°C・1000°Cの成形性は,供試材の成形性より低減するが,均一で優れた成形性を示したと考えられる。
0.2%炭素鋼におけるエリクセンと深絞り試験の結果から,サブマイクロンとマイクロン粒が混合するバイモーダル組織を形成した加熱温度900°C・1000°Cの圧延材では,高強度・高延性を有しつつ,優れた成形性を示した。
大圧下制御圧延法により製作されたS20C薄鋼鈑を用いて引張試験,エリクセンおよび深絞り実験を行い,成形性について調査した。得られた結果は以下とTable 5に示す。
Conditions | Anisotropy | Formability | ||
---|---|---|---|---|
r | Δr | Erichsen Index (EI) | Probability of success at DR=2 (Earing) | |
As-received | 0.78 | 0.04 | 5.13 | 100% (Non-earing) |
700°C | 0.65 | –0.09 | 3.98 | 0% (Failure) |
800°C | 0.94 | –0.11 | 4.57 | 50% (45° earing) |
900°C | 0.78 | –0.04 | 4.9 | 50% (Non-earing) |
1000°C | 0.61 | 0.03 | 5.08 | 25% (Non-earing) |
(1)供試材・加熱温度700°C・800°C・900°C・1000°Cのrや∆r値はそれぞれ0.78,0.65,0.94,0.78,0.61と0.04,−0.09,−0.11,−0.04,0.03である。
(2)供試材・加熱温度700°C・800°C・900°C・1000°Cのエリクセン値(EI)はそれぞれ5.13,3.98,4.57,4.9,5.08であり,加熱温度900°C・1000°Cの圧延材は優れたストレッチ性を示した。特に,加熱温度1000°Cの圧延材のエリクセン値は,供試材に相当した。一方,小傾角粒界からなるサブグレインにより,加熱温度700°C・800°Cの圧延材は成形性が低下した。
(3)絞り比2.0の深絞り試験では,加熱温度700°Cの圧延材では割れが発生したが,他の加熱温度の圧延材では絞ることができた。加熱温度800°Cの圧延材では圧延方向45°で耳が発生した。一方でバイモーダル組織を有する加熱温度900°Cおよび1000°Cの圧延材では,耳なしで均一に絞られた。この結果はr値と一致した。
本研究は,JST産学共創基礎基盤研究「革新的構造用金属材料創製を目指したヘテロ構造制御に基づく新指導原理の構築」ならびにJSPS特別研究員助成事業により行われたものである。