Tetsu-to-Hagane
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Note
Unique Mechanical Properties of Harmonic Structure Designed Materials
Kei Ameyama Naoki HorikawaMie Kawabata
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2019 Volume 105 Issue 2 Pages 124-126

Details
Synopsis:

Harmonic Structure (HS) has a heterogeneous microstructure consisting of bimodal grain size together with a controlled and specific topological distribution of fine and coarse grains. In other words, the HS is heterogeneous on micro- but homogeneous on macro-scales. The most unique feature of HS is its continuously connected UFG Shell structure. In the present work, the HS design has been applied to pure metals and alloys via SPD powder metallurgy process. At a macro-scale, the harmonic structure materials exhibited significantly better combination of strength and ductility, as compared to their homogeneous microstructure counterparts. This behavior is essentially related to the ability of the HS to promote a large strain hardening and uniform distribution of strain during plastic deformation, leading to improved mechanical properties by avoiding or delaying localized plastic instability. Such outstanding mechanical properties of HS materials are attributed to the continuously connected UFG-Shell structure. This unique microstructure provides stress partitioning in the micro scale and stress dispersion in the macro scale.

1. 緒言

構造用金属材料には高い強度と大きな延性が同時に要求されるが,均一結晶粒からなる組織を持った金属材料では,高強度化すると加工硬化率が真応力と等しくなる塑性不安定条件,dσ/dε=σ(σ:真応力,ε:真ひずみ)に早期に到達し,ネッキングを生じて破断に至ることが知られている15)。そのため,これまで金属材料の高強度化と高延性化の両立は困難であると理解されてきた。しかしながら,強度と延性の二律背反問題は,不均一なヘテロ構造を有する材料であれば解決できることが知られるようになり,注目されている。このようなヘテロ構造には,バイモーダル組織2),ラメラ組織6),伸長粒組織7),ナノ結晶粒分散組織8),そして,調和組織912),などがある。いずれの方法も,ナノメートル寸法から数十マイクロメートル寸法の領域で不均一な構造を造り込み,高強度と同時に高延性を実現している。本稿では,粉末冶金法と超強加工法を組み合わせて創製される調和組織材料について,高強度と高延性の両立のメカニズムについて考察した。

2. 方法と結果

調和組織は,数十μm~200 μm程度の金属粉末に,ボールミルや高圧ガスジェットミルなどの方法で加工を加え,粉末表面部のみに超強加工を施すことで形成される13,14)。表面超強加工された金属粉末では,表面部にナノ結晶組織が形成され内部には粗大粒組織が残存する。そのため,焼結後には,ナノ結晶が成長してできた微細粒組織が互いに連結して網目構造となり,その網目内部に旧粉末内部の粗大粒組織が島状に分布した構造ができる。すなわち,調和組織は,微細粒組織(Shell)と粗大粒組織(Core)の混合体であるが,単なる「混合」ではなく,“硬い”微細粒組織と“軟らかい”粗大粒組織が材料内部の空間を「周期的」に埋め尽くしている。Shell/Coreを1つの単位とする網目が互いに繋がったマクロな拡がりを持つ構造であり,ラメラ構造のような単一方向への構造変化ではなく,等方的な構造変化が周期的に存在する,という特徴を有している。以下,純Niを対象とした調和組織材料について述べる。

使用した粉末は,C:0.03,Si:0.05,Mn:0.15,S:0.01,Cu:0.01,Fe:0.39,Ni:bal.(mass%)の,プラズマ回転電極法により作製した,平均粉末粒子径149.5 μmのNi粉末である。この粉末に対し,遊星型ボールミル装置により種々の時間,メカニカルミリング(Mechanical Milling:MM)による粉末表面超強加工を行った。MMに用いた容器はSKD11製,ボールは直径9 mmのSUJ2製であり,目的試料のMM加工前に,粒子径2.5 μmのカルボニルニッケル粉末を72 ks MM加工することで,容器とボールにNiコーティングを施した。なお,MM加工には凝集防止用にヘプタン1 mlを助剤として添加した。その後の焼結は放電プラズマ焼結装置を用いて1173 K,1.8 ks,100 MPaで真空(<15 Pa)焼結した。得られた焼結体は,EBSD,TEMによる組織観察,ならびに,ゲージ部1 mm角×3 mm長の引張試験片を用いた引張試験(初期ひずみ速度:5.6×10−4・s−1)により評価した。

Fig.1に,ミリング(MM)時間が(a):180 ks,(b):360 ks,(c):540 ksの焼結体のEBSD(GB:Grain Boundary)像を示す。図中,黒く観察される微細粒のShellが網目状に連結し,その内部に粗大粒のCoreが分布した調和組織が形成されている。結晶粒径8 μmを閾値としてこれ以下をShellとした場合,MM時間が長時間であるほどShell割合(S)は増加し,それぞれ(a):15.6%,(b):33.5%,(c):65.4%であった。また,これらの組織のShell/Coreの平均結晶粒径(μm)は,(a):3.5/37.2,(b):3.0/31.7,(c):2.7/26.8,であり,MMとともにShell/Coreともに微細化が進んだ。

Fig. 1.

EBSD (GB) images of harmonic structure Ni compacts. (a) MM180 ks, (b) MM360 ks, and (c) MM540 ks samples, respectively.

Fig.2(a)に,これらの調和組織材料の引張試験結果を,均一組織を有する初期粉末焼結体(A:平均結晶粒径:64.9 μm)の結果と併せて示す。B,C,Dは,それぞれFig.1(a),(b),(c)の組織を持つ調和組織材料(Harmonic Structure:HS)の結果である。Fig.2(b)に,(a)の応力−ひずみ線図の面積から求めた靭性値(UT:破断までの吸収エネルギー)と引張強さ(σu)との関係を示す。これらの結果から,均一材料Aと比較して,調和組織材料B,C,Dはいずれも高強度を示すとともに高靱性であり,しかも,靭性値はShell割合が増加するほど,言い換えれば網目構造が発達するほど,上昇することがわかる。また,加工硬化挙動に着目すると,Shell割合が増加するほど加工硬化が増大している。このような調和組織材料の加工硬化の顕著な増大は,他の材料種においても観察された12)

Fig. 2.

Tensile test results of a homogeneous (A) and harmonic structure (B, C, D) compacts. (a): Stress-strain curves and (b): relationship between UTS and tensile toughness. B, C and D corresponds to the microstructures (a), (b) and (c) in Fig.1, respectively.

均一組織を持つ材料の高強度化では,早期の塑性不安定の発生による延性の低下は避けられないが,高強度化と同時に加工硬化率が上昇すれば,塑性不安定の発生はより高ひずみ側にずれ,結果的に均一伸びを増加させ延性の向上に結びつく。そのためには,加工硬化を生じさせるための転位の増殖促進が必要となる。そこで,調和組織材料の変形のごく初期段階での詳細な組織観察を行った。Fig.3(a),(b)は,Fig.1(c)Fig.2Dの調和組織材料(HS)を5%引張変形した後にEBSD観察した結果で,(a)はEBSD(GB)像,(b)は(a)と同一場所のKernel Average Misorientation(KAM)像である。なお,KAM解析は,加速電圧20 kV,測定領域570 μm×470 μm,stepサイズ500 nmで測定した。引張方向はいずれも図の水平方向である。また,Fig.3(c)は比較のための均一材料(Homo)の5%引張変形後のEBSD(KAM+GB)像である。(a),(b)から明らかなように,調和組織材料ではShellに対応した領域とその近傍でKAM値が大きく増加していることがわかる。KAM値の増加と転位密度の上昇には相関があることが知られており15),実際に,このようなKAM値が増加した領域では,TEM観察により高密度の転位が存在することが確認され,局所方位差(KAM)の増加が転位に起因していると推測される。一方,(c)の均一材料では5%引張変形では局所的なKAM値の増大部分はほとんど見られない。したがって,調和組織材料では,変形初期にKAM値の増大を引き起こすような転位がShellならびにその近傍で放出されたと考えられ,これらの高密度の転位が大きな加工硬化に寄与していることが強く示唆される。同時に,KAM値がShell領域で増大していることから,Shellの特徴である連結した網目構造の役割の重要性が示唆される。そこで,Shellの網目構造を部分的に壊した構造を作製し,引張試験を行った。

Fig. 3.

EBSD images after 5% tensile deformation. (a): EBSD (GB) and (b): EBSD (KAM) images of a harmonic structure Ni compact. (c): EBSD (KAM) image of a homogeneous compact.

Fig.4(a),(b)に,未加工粉末と360 ksのMM加工を行った粉末を混合して作製した混合粉末材料(Hetero)のEBSD(GB)像,ならびに,この混合粉末材料EとFig.2の調和組織材料Cの引張試験結果を示す。混合粉末材料Eは,Shell割合:36.0%,Shell/Coreの平均結晶粒径(μm):3.0/35.8であり,図中の矢印で示した箇所で網目構造が途切れた組織となっている。混合粉末材料Eと調和組織材料Cは,Shell割合,結晶粒径ともにほぼ同等の特徴を有し,降伏強度や加工硬化挙動も類似しているにもかかわらず,引張試験結果から明らかなように,より早期に破断に至っている。最大引張応力近傍で引張試験を中断して両試験片の断面収縮量を測定すると,調和組織材料Cではゲージ部全体にわたってほぼ均等に断面減少し局部収縮がほとんど見られなかったが,混合粉末材料Eでは試験片の一部で局部収縮が認められた。同様な変形挙動はSUS304L等の他の調和組織材料と混合粉末材料においても認められた10)。これらのことから,降伏強度や加工硬化挙動は,結晶粒径等のミクロな組織学的要素に強く依存しているが,延性はマクロな局所変形の発生と密接に関係していることが示唆される。すなわち,Shellの網目構造が局所変形を抑制することで均一な変形が持続し,延性の増大に結びついており,その結果,高い引張強さと同時に高い延性と靭性を発現していると考えられる。

Fig. 4.

(a):EBSD (GB) image of a heterogeneous (Hetero) compact. Arrows indicate incomplete network. (b): Tensile test results of Hetero (E) and harmonic structure (C) compacts.

以上のような調和組織の特徴は,必ずしも粉末冶金法だけで実現されるものではなく,Cu2)や1050アルミニウム14)の溶製材の加工熱処理のように,硬質相(微細粒や未再結晶粒など)の中に軟質相(粗大粒や再結晶粒など)が分布するような組織においても認められ,高強度と高延性を実現するための普遍的な組織形態と考えられる。

3. 結言

調和組織材料の変形の特徴は,変形初期からの大きな加工硬化と変形中期以降における局所変形の抑制にあることが明らかとなった。すなわち,転位の増殖というミクロな変形と,均一変形の維持というマクロな変形が重畳することによって,高強度と同時に高延性・高靱性が両立した力学特性を示す。調和組織材料では,結晶粒単位での「要素個々」の単なる線形複合則で「強さ」が実現されているのではなく,ナノ・ミクロからマクロへの幅広いスケールで微細組織が周期性を持つように制御されたことで生まれる各要素間の非線形調和によって,線形複合則を遥かに超える「強さ」と「ねばさ」を同時に実現していることが強く示唆された。

本研究は,H22年度~H27年度,JST産学共創基礎基盤研究「革新的構造用金属材料創製を目指したヘテロ構造制御に基づく新指導原理の構築」プロジェクトの支援を受けて行われたものである。

文献
 
© 2019 The Iron and Steel Institute of Japan

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