Tetsu-to-Hagane
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Al Deoxidation Equilibrium of Fe-10-30 mass%Mn Melt at 1873 K
Ryosuke NishigakiHiroyuki Matsuura
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2019 Volume 105 Issue 3 Pages 369-372

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Synopsis:

Efficient and sophisticated refining process for highly alloyed steel is required in order to meet the highest-priority demand for physical and chemical properties of such steel products. In the present study, Al deoxidation equilibrium of the molten Fe-Mn system for which the demand has been continuously increasing nowadays was measured in the Mn composition range from 10 to 30 mass% at 1873 K. Equilibrated oxide phase varied depending on Al concentration; MnAl2O4 or Al2O3 was equilibrated at relatively low or high concentration range, respectively. The interaction parameter between Al and O, and equilibrium constant of Al2O3 dissolution reaction estimated from results of Al2O3-equilibrated experiments did not show the significant Mn concentration dependence of the Fe-Mn melt.

1. 緒言

近年,Mnを高濃度に含有する高Mn鋼は優れた強度と加工性能を併せ持つ鋼材として注目を集めており,特にTWIP鋼は自動車用鋼材としての商業利用が本格化しつつある。TWIP鋼はMnを15~30 mass%の高濃度で含むオーステナイト鋼であり,高濃度のMn添加によりオーステナイト相が安定化するのみならず,積層欠陥エネルギーが低下することで,εマルテンサイト変態や双晶変形の進行が容易になっている1)。さらにAlを3 mass%程添加することで積層欠陥エネルギーを増加させてεマルテンサイト変態を抑制し,また,塑性変形時に微細な変形双晶が導入されることで硬化して,括れが抑えられて均一な伸びを示す1)。遅れ破壊の抑制2)や高速変形への耐性3)も報告されており,これらの優れた力学特性から次世代の自動車用鋼板材料として期待が高まっている。

清浄度の高い高Mn鋼を溶製するためには,Mnを数十mass%含む溶鋼を対象とする二次精錬が重要であり,安定した精錬操業と一定品質の鋼材を製造するためには二次精錬温度での熱力学的知見が重要である。純Fe融体のAl脱酸に関してはこれまでにも数多くの研究が報告されている一方,Mnを高濃度に含有する溶鋼のAl脱酸反応についての研究報告は多くない。Ogasawaraら4)とPaekら5)は,Fe-Mn-Al系のAl脱酸平衡を1873 Kで報告している。さらにPaekらはPeltonら6,7)によって提唱された修正擬化学モデルを用いて測定結果を解析し,その結果に基づいて純Fe融体から純Mn融体までの広範囲の組成域におけるFe-Mn-Al系の脱酸平衡の推算値を示している。ただし,Paekらが脱酸平衡の測定対象とした融体は15~22 mass%Mnであり,報告されたモデルの妥当性を検討するためにはより広範囲の組成域での実験に基づいた測定結果が欠かせない。

また,脱酸プロセスにおけるMn系介在物の生成機構811),Mn含有鋼における介在物を用いた組織制御1214),加工工程におけるMn系介在物と母相の反応機構15)などの検討においても関連する熱力学データが重要であり,そのような観点からも広範な温度範囲での溶鋼・固相鋼におけるMnの熱力学データの精確な測定値や,測定結果と妥当なモデルに基づいて推算される化学ポテンシャル図16)等の熱力学的知見が望まれる。

以上をふまえ,本研究では1873 Kにおいて10~30 mass%Mnを含有するFe-Mn融体のAl脱酸平衡を測定した。

2. 実験

実験装置の概要をFig.1に示す。Al2O3坩堝(外径38 mm,内径34 mm,高さ45 mm)内に所望組成となるように電解鉄および試薬Mn片を量り取って装入し,15 kWの高周波誘導加熱炉に設置された硬質ガラス製反応管(外径54 mm,内径50 mm,高さ300 mm)内の所定位置に保持した。Cu切削片を773 Kに加熱した脱酸炉に通じて精製したArガスを500 cm3/minで反応管内に導入した。所定の加熱速度で試料を昇温・融解して約40 gのFe-Mn融体を得た。試料の温度を測定するため,B型熱電対をAl2O3製保護管に入れて融体内に挿入した。融体温度が1873 Kに到達した後,予め坩堝上部に設置した高純度Al線,もしくは予備作製したFe-1 mass%Al合金を所定量添加して,Al脱酸を行った。そののち,予備実験により決定した平衡時間に到達するまで試料を1873±5 Kで保持した。平衡時間に到達した後に,炉の電源を遮断してから素早く反応管より試料を取り出し,直ちに水冷した。

Fig. 1.

Schematic diagram of experimental apparatus.

得られた試料を0.2~1 gの大きさに切断し,各種分析に供した。試料中酸素濃度は不活性ガス融解−赤外線吸収法(LECO社製TC-600)により定量した。MnおよびAl濃度は,試料を混酸(10 cm3硝酸−5 cm3塩酸)を用いて加熱・酸分解し,ろ過により未溶解酸化物を除去した後に誘導結合プラズマ発光分光分析法(日立ハイテクサイエンス社製PS7800)で定量した。

Fe-Mn融体と平衡する酸化物相を同定するために,急冷後の試料を適宜切断して鏡面研磨した後に,Al2O3坩堝−合金界面および合金内部に極めて稀に観察された酸化物介在物をSEM-EDS(JOEL製JSM-6010LA)を用いて観察・定量した。

3. 結果

本実験の条件ならびに結果をTable 1に示す。Fig.2にFe-20 mass%Mn-5 mass%Alを1873 Kで保持した際の脱酸材添加からの保持時間と合金中O濃度の関係を示す。ここでO濃度分析値とともに示したエラーバーは分析結果の標準誤差を示す。脱酸材添加前のO濃度は約80 massppmであり,脱酸材添加と同時に急激に減少した。O濃度は脱酸材添加から20分以降はほぼ同じであり,また,いずれの試料においても坩堝−合金界面や介在物の観察結果から脱酸平衡酸化物はAl2O3であった。本実験結果に基づいて本実験条件での平衡到達時間を60分として以降の全実験を行った。

Table 1. Experimental conditions and results.
Exp. No.Temp. (K)Ar gas flow rate (cm3/min)Holding time (min)Mn concentration (mass%)Al concentration (mass%)O concentration (mass%)Equilibrium phase
P0118735001020.875.2180.0052Al2O3
P022022.295.1340.0017
P034019.475.1320.0021
P046020.425.1390.0012
10-118735006011.180.0040.0008MnAl2O4
10-211.700.3630.0003Al2O3
10-310.790.9420.0003
10-410.155.0230.0004
20-118735006020.780.0050.0011MnAl2O4
20-221.240.0160.0005
20-321.750.4050.0004Al2O3
20-422.880.9210.0003
20-520.425.1390.0012
30-118735006033.680.0210.0006MnAl2O4
30-233.660.0480.0008Al2O3
30-333.400.7790.0004
30-431.055.7850.0007
Fig. 2.

Change in total oxygen content in alloy with sample holding time for the Fe-20 mass%Mn-5 mass%Al at 1873 K.

Fig.3に1873 Kにおいて測定したFe-10 mass%Mn(Mn濃度:10.2~11.7 mass%),Fe-20 mass%Mn(同20.4~22.9 mass%),およびFe-30 mass%Mn(同31.1~33.7 mass%)中のAl濃度とO濃度の関係を示す。測定されたO濃度は融体中Mn濃度の増加に伴い若干増加する傾向が見られた。また,図中に比較のためにPaekらにより報告された修正擬化学モデルに基づいて計算された脱酸曲線5)を示すが,Al濃度が小さくなると測定された計算曲線よりも低値となり,測定結果はOgasawaraら4)の報告値と近かった。

Fig. 3.

Relationship between total oxygen content and Al content in alloy for Fe-10, 20, and 30 mass%Mn alloys at 1873 K.

Fig.4にAl2O3坩堝−合金界面の測定例としてFe-30 mass%Mn-0.02 mass%Alを用いた実験での観察結果を示す。Al濃度が小さくなるとFig.4のように坩堝−合金界面には坩堝とは異なる酸化物が層状に生成していた。この酸化物はEDSによる組成分析結果よりMnAl2O4と同定された。

Fig. 4.

SEM image of the interface between Fe-30 mass%Mn-0.02 mass%Al alloy and Al2O3 crucible after equilibration at 1873 K for 60 min.

実験後の試料において,合金相と平衡する酸化物相の同定結果をもとにFig.3には平衡酸化物相を区別して示した。本研究結果からはAl2O3とMnAl2O4の二固相が平衡する融体組成を決定することは不可能であるが,図中に示したAl濃度範囲に平衡酸化物相が変化する領域があることがわかった。この領域はPaekら5)によって報告された修正擬化学モデルに基づいて計算される二固相が平衡する組成とは異なった。

Al2O3がFe-Mn融体と平衡すると考えると,(1)式の脱酸平衡が成立する。

  
Al2O3(s)=2Al_(1mass%inFex%Mn)+3O_(1mass%inFex%Mn)(1)

ここでAl2O3の活量基準を純物質,AlおよびOの活量基準をそれぞれFe-x mass%Mn融体中1 mass%ヘンリー基準とする。式(1)の平衡定数をK,融体は純Al2O3固体と平衡しているため活量を1とし,また,純Fe融体中の相互作用助係数として報告されているeAlAl=0.0438)およびeOO=−0.1717)を用いると式(2)が導かれる。

  
log[mass%Al]2[mass%O]3+0.086[mass%Al]0.516[mass%O]=(3.38[mass%O]+3[mass%Al])eOAl+logK(2)

式(2)をもとにFig.5に測定結果を示す。この図の傾きが−eOAl,y切片がlog Kに対応する。Fig.6に決定されたeOAlのFe-Mn融体のMn濃度依存性を示す。比較のため,Kangら18),およびPaekら5)によって広範なAl濃度範囲で報告された純Fe融体ならびにFe-Mn融体のAl脱酸平衡の測定結果を同様に式(2)を用いて解析し,得られたeOAlを示した。本解析ではFe-Mn融体中のeAlAlおよびeOOの値が不明であるため,式(2)に基づいて,傾きからFe-Mn融体中のeOAlを決定することは熱力学的に厳密ではないが,Fig.6に示すように,Fig.5より得られたeOAlはMn濃度に対する変化は小さかった。

Fig. 5.

Relationship between values determined by Eq.(2) using results after equilibrium experiments.

Fig. 6.

Dependence of eOAl value with Mn content in Fe-Mn alloy at 1873 K.

また,Fig.7にlog KのMn濃度依存性を,Kangら18),およびPaekら5)の報告値の解析結果とともに示す。log Kについても,実験誤差の範囲内でMn濃度の依存性は見られなかった。本研究での測定結果,ならびに以上の考察結果をふまえると,Paekら5)により報告された修正擬化学モデルに基づいて計算された脱酸曲線はMn添加の影響を過大に評価している可能性がある。Fe-Mn融体におけるAlやOの自己相互作用係数やAlとOの相互作用係数,酸化物の溶解反応の平衡定数を精確に決定し,Mn濃度依存性を正しく評価するためには更なる実験結果の蓄積を要する。

Fig. 7.

Dependence of log K value with Mn content in Fe-Mn alloy at 1873 K.

4. 結言

本研究ではFe-10~30 mass%Mn融体のAl脱酸平衡を1873 Kで測定し,Al2O3もしくはMnAl2O4が平衡する融体のAl濃度とO濃度の関係を明らかにした。Al2O3平衡における測定結果より推算された融体中のAlとOの相互作用係数,ならびにAl2O3溶解反応の平衡定数の,Fe-Mn融体のMn濃度に対する依存性は小さかった。

謝辞

本研究の一部は,公益財団法人 日立金属・材料科学財団の第31回材料科学研究助成金特別助成制度の支援により行われました。ここに感謝の意を表します。

文献
 
© 2019 The Iron and Steel Institute of Japan

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