Tetsu-to-Hagane
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Mechanical Properties
Estimation of Elastic Stiffness Ratio c12/c44 and Anisotropy Parameter Ai in the Steels with Bcc Structure
Setsuo TakakiTakuro Masumura Toshihiro Tsuchiyama
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2019 Volume 105 Issue 9 Pages 935-937

Details
Synopsis:

In the dislocation characterization by the modified Williamson-Hall method, elastic stiffness ratio c12/c44 and anisotropy parameter Ai (=2c44/(c11c12)) are important parameters to determine the contrast factor. In order to determine the values of elastic stiffness cij, we need the information of Young’s modulus E*, shear modulus G* in poly crystal, and Young’s modulus of single crystal; E100, E110, E111. The values of E* and G* are experimentally obtained by the resonance method. However, it is not so easy to fabricate single crystal, especially for practically used metals in which many alloying elements are contained. Therefore, we need to estimate the values of E100, E110, E111 in some way. In this paper, the following equations were proposed to estimate these values for the steels with bcc structure.

E100 = 0.647 × E* E110 = 1.079 × E* E111 = 1.387 × E*

The coefficient in each equation was determined by the average value of Ehkl/E* in pure iron. In the steels with bcc structure (E*=206 GPa), it was confirmed that c12/c44 and Ai are given by the following equations as a function of Poisson’s ratio ν.

c12/c44 = –1.466 + 8.887 × ν Ai = 2.885 – 1.602 × ν

As a result, c12/c44≒1.11 and Ai≒2.42 are applicable for the modified Williamson-Hall method under the condition; ν=0.29.

1. 緒言

X線や中性子線などの放射線回折を利用した転位解析については,コントラストファクターを用いたmodified Williamson-Hall(mWH)法1)が採用されることが多いが,コントラストファクターを決定するには,まず弾性スティッフネスと呼ばれるパラメーターc11c12c44を得る必要がある2)。これらの値は,多結晶のヤング率E*と剛性率G*,単結晶の,〈100〉,〈110〉,〈111〉方向に対応するヤング率E100E110E111を用いて得られる弾性コンプライアンスs11s12s44から以下のような過程を経て求められる3)E*とG*は,次式で示されるポアソン比νならびに体圧縮率κを求めるために必要なデータである。

  
ν=(E*/2G*)1(1)
  
κ=3(12ν)/E*(2)

また,s11s12κの間には次式が成り立つことが分かっている。

  
κ=3(s11+2s12)(3)

一方で単結晶のヤング率E100E110E111については,それらの逆数と方位パラメーターΓとの間に次式で表される直線関係が成り立つ。Γの値は,{100},{110},{111}の結晶面に関してそれぞれ0,1/4,1/3である。

  
(1/Ehkl)=s11s0×Γ(4)
  
Γ=(h2k2+k2l2+l2h2)/(h2+k2+l2)2(5)

Γ=0に対応する切片値(=1/E100)はs11に対応する。ここで得られたs11を式(3)に代入して,s12(負の値)を求めることができる。なお,s0については,s11s12s44の関数として次式で与えられる。

  
s0=2s112s12s44(6)

式(6)にs11s12を代入してs44が得られる。c11c12c44については,s11s12s44の値を次式に代入して求めることができる。

  
c11=(s11+s12)/(s11s12)/(s11+2s12)(7)
  
c12=s12/(s11s12)/(s11+2s12)(8)
  
c44=1/s44(9)

最終的にコントラストファクターの値を決定するためには,弾性定数比c12/c44ならびに次式で定義される異方性パラメーターAiという二つの値が必要である2)

  
Ai=2c44/(c11c12)(10)

多結晶のヤング率と剛性率については共振法などによって実験的に求められるが,単結晶の作製は容易ではない。とくに,実用金属材料では多くの合金元素が添加されているため,現実的な問題として単結晶を作製することは困難である。しかし,上述のように,単結晶のヤング率は,弾性定数cijの値を求めるうえで不可欠の情報であり,何らかの方法でそれらの値を見積もる必要がある。そこで本論文では,実測した多結晶のヤング率から単結晶のヤング率を推定する方法を提案し,これらの値から具体的にc12/c44ならびにAiの値を算出することを試みた。これらは,mWH法による転位解析においてコントラストファクターを決定する重要なパラメーターであり,本論文では,フェライトやマルテンサイトのようにbcc構造を有する鋼において,信頼性の高い値を提案することも目的の一つとしている。

2. 室温での単結晶と多結晶のヤング率

純鉄単結晶のヤング率についてはいくつか報告されており47),ヤング率の逆数(1/Ehkl)と方位パラメーターΓの間には,Fig.1に示すような関係が得られている。データのバラツキはほとんどなく,(1/Ehkl)とΓの関係は次式で与えられる。

  
(1/Ehkl)[GPa1]=0.00750.012×Γ(11)
Fig. 1.

Relation between the orientation parameter and the reciprocal of Young’s modulus of single crystal in pure iron47).

この式において,直線の切片値がs11,傾きがs0に対応する。上式に基づいて得られる単結晶のヤング率については,E100=133.3 GPa,E110=222.2 GPa,E111=285.7 GPaという値になる。一方で純鉄多結晶のヤング率E*については,ひずみゲージ法によってE*=206 GPaという値が報告されており6),この値は他の報告例7)と比較して妥当と思われるので,本論文では多結晶純鉄のヤング率としてE*=206 GPaを採用した。(Ehkl/E*)として単結晶のヤング率を規格化すると,(E100/E*)=0.647,(E110/E*)=1.079,(E111/E*)=1.387という値が得られる。この値は,あくまでも室温における多結晶と単結晶のヤング率の相関性を示したもので,広い温度範囲で普遍的に適用できるか否かを確認しておく必要がある。以下,多結晶と単結晶のヤング率の相関性に及ぼす温度の影響について検討する。

3. 単結晶と多結晶のヤング率の相関性に及ぼす温度の影響

純鉄単結晶についてヤング率の温度依存性を検討した研究例は見いだせなかったが,Masumoto and Kikuchiは,Fe-19.43 mass%Cr合金について温度とヤング率の関係を系統的に調査している3)。その結果をFig.2の(a)に示す。温度が高くなるほど単結晶ならびに多結晶のヤング率は小さくなる傾向にあるが,両者には何らかの相関性があるように見うけられる。そこで,縦軸を(Ehkl/E*)で整理し直した結果を図(b)に示す。図中の破線は,室温での純鉄に対応する値を示している。低温域では破線と実線の間にわずかな差が見られるが,傾向としては(Ehkl/E*)の値は温度に依存せずにほぼ一定と考えてよいであろう。とくに室温付近の狭い温度範囲であれば,(Ehkl/E*)の値に及ぼす温度の影響は無視できるであろう。そこで,合金鋼(bcc)の単結晶については,次式で〈100〉,〈110〉,〈111〉方向に対応するヤング率を見積もることにした。

  
E100=0.647×E*(12)
  
E110=1.079×E*(13)
  
E111=1.387×E*(14)
Fig. 2.

Effect of temperature on the elastic constants in a ferritic steel (Fe-19.43%Cr): Young’s modulus Ehkl in single crystal and E* in poly crystal3).

4. c12/c44ならびにAiの値に及ぼすポアソン比の影響

ポアソン比νは,金属の弾性変形を議論するうえで重要な因子の一つであり,結晶構造がbccの合金鋼については,0.28~0.3程度の値となることが一般的に知られている。ただし,その値が合金元素によって変化するか否かについては明確な答えが得られていない。そこで,これまでに報告されている各種合金7)についてポアソン比の値をまとめてみた。Fig.3に,bcc構造を有する合金鋼のポアソン比をまとめて示す。νの値は0.28から0.32の間でばらついているが,系統的な合金元素の影響は見られない。これらデータはすべてSpeichら8)が超音波パルス法により測定したヤング率,剛性率から算出したものであるため測定手法等の相違による誤差ではない。また,彼らは集合組織の影響についても考えている。板材の圧延方向とそれに垂直な方向に切出した試料に対してX線回折測定を行い,それら試料と,結晶方位がランダムに近い粉末状試料の各ピーク強度を比較し,その差が20~30%以内の試料で弾性率を測定している。したがって,ここでのポアソン比の値にバラツキが大きいのは,装置の性能に起因したヤング率や剛性率の測定誤差に起因するところが大きいように思われ,すべてのデータに関して平均値を求めるとν≒0.29という結果が得られた。ただし,合金元素の影響がないとは結論できず,現在の測定技術で再評価する必要があろう。コントラストファクターを決定するには,上述のようにc12/c44ならびにAiという二つの値が必要であり2),以下,これらの値に及ぼすポアソン比の影響について検討する。

Fig. 3.

Effect of alloying elements on the Poisson’s ratio ν in steels with bcc structure7).

多結晶のヤング率E*は206 GPaで一定と仮定し,ポアソン比νの値を0.28から0.32の範囲で変化させ,パラメーターc11c12c44を計算により求めた。すなわち式(2)においてνの値が変化するとκの値が影響を受け,結果的にc11c12c44の値が変化することになる。計算結果をFig.4に示す。図(a)に示すように,c11c12についてはνの値に対応して直線的に大きくなる傾向を示すが,c44についてはνの値とは無関係にほぼ一定の値となる。そのため,弾性定数比c12/c44νの値に対応して大きくなる。一方,異方性パラメーターAiについては,νの値が変化してもそれほど影響を受けないことが分かる。なお,c12/c44Aiの値は,νの関数としてそれぞれ次式で与えられる。

  
c12/c44=1.466+8.887×ν(15)
  
Ai=2.8851.602×ν(16)
Fig. 4.

Effect of Poisson’s ratio on the values of elastic stiffness cij, elastic stiffness ratio c12/c44 and anisotropy parameter Ai in steels with bcc structure.

上式は,あくまでも多結晶のヤング率を206 GPaとした場合の結果であり,試験温度や合金元素の影響でヤング率が変化した場合には,パラメーターc11c12c44に関して異なった値が得られるため,そのヤング率に対応した計算を行う必要がある。

純鉄についてポアソン比を0.29とした場合には,式(15)ならびに(16)よりc12/c44=1.11,Ai=2.42という値が得られる。Rayne and Chandrasekharは,純鉄について室温以下におけるパラメーターc11c12c44の温度依存性を詳細に調査しており,27°Cにおいてc11=228.6 GPa,c12=132.8 GPa,c44=115.6 GPaという値を得ている9)。これらの値から,c12/c44=1.15,Ai=2.41という結果が得られる。それ以外にも,純鉄についてはc12/c44=1.13~1.22,Ai=2.42~2.43といった値が報告されている10)。いずれも著者らの結果と近い値が得られているが,研究者によってc12/c44ならびにAiの値が異なるのは,実験で得られるE*ならびにG*の値に誤差があるためと思われる。とくに,多結晶金属の場合,E*やG*の値は集合組織の影響を受けて変化するため7),これらの値を測定する際には,“多結晶試料の結晶方位分布がランダムであること”を前もって確認しておく必要がある。どの程度の集合組織であれば良いかは難しい問題であるが,例えば試料の切出し方向を変えてもヤング率や剛性率がほとんど変化しなければ問題ないと思われる。装置の測定精度は日々向上しているため,集合組織の影響さえ排除できれば,より高い精度でポアソン比を決定できるであろう。なお,集合組織の小さい試料が必要となるのはヤング率および剛性率の測定に対してのみであり,実際の転位解析を行う試料に集合組織があっても問題ないことを著者らは報告している11)

5. まとめ

結晶構造がbccの鋼において,単結晶のヤング率は多結晶のヤング率から式(12)~(14)を用いて推定することができ,基本的に多結晶のヤング率と剛性率さえ分かれば,c12/c44ならびにAiの値を算出できる。ただし,多結晶金属のヤング率や剛性率は集合組織の影響を顕著に受けるため,これらの値を測定する際には,“多結晶試料の結晶方位分布がランダムであること”を前もって確認しておく必要がある。bcc構造を有する合金鋼については,ポアソン比を0.29とした場合には,modified Williamson-Hall法における転位解析において,c12/c44≒1.11,Ai≒2.42という値を使用することが可能である。

謝辞

本研究は,JSPS科研費JP15H05768の支援を受けて行われたものである。なお,研究の一部は,日本鉄鋼協会「鉄鋼のミクロ組織要素と特性の量子線解析研究会」のもとで実施された。

文献
 
© 2019 The Iron and Steel Institute of Japan

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