2020 Volume 106 Issue 1 Pages 1-11
The rolling force must be estimated with high accuracy in cold rolling control. For the purpose, the coefficient of friction must be determined with high accuracy. However, if the coefficients of friction determined from conventional methods, the cold rolling control with high accuracy recently becomes difficult. Therefore, it is desirable that a new method for determining the coefficient of friction is developed. In this paper, the tribologically numerical modeling is proposed in order to confirm the coefficient of friction at the interface between roll and workpiece. The coefficient of friction dependences on rolling parameters are calculated by using the model, and from these calculated results it can be confirmed that the coefficient of friction obtained is used efficiently for the cold rolling control.
冷間圧延される板材の寸法・形状制御を精度良く行うための圧延制御において,圧延中の圧延荷重を高精度に求めることが必要である。しかしながら,圧延荷重を計算するためには圧延中に直接計測できない摩擦係数と変形抵抗があるため,それらの摩擦係数と変形抵抗を精度良く予測できなければならない。このレビュー論文においては,これまで冷間圧延制御のために摩擦係数がどのように取り扱われてきたのかについて説明し,これからの摩擦係数の新たな取り扱い方について提案するものである。
1970年代までは,冷間圧延における摩擦係数は引張試験から得られた静的変形抵抗と実測した圧延荷重により冷間圧延理論式から逆算して求められていた。最も代表的なStone1)の摩擦係数の圧延速度依存性をFig.1に示す。そのように逆算して得られた摩擦係数の圧延パラメータ依存性を調べて摩擦係数式を構築し,冷間圧延制御を行うために,その摩擦係数と静的変形抵抗から実際の圧延中の圧延荷重を予測していた。
Relationship between coefficient of friction and rolling speed1).
1970年代になると,日本においてタンデムミルの圧延速度が2000 m/minを超え,圧延速度が高速になるにつれて実測圧延荷重がこれまでの圧延荷重式から求められる予測圧延荷重よりも大きくなる問題が発生した。日本鉄鋼協会の圧延理論部会においては,その原因は圧延材料の変形抵抗が引張試験から得られた静的変形抵抗にあるとし,実際の圧延におけるひずみ速度に対応するひずみ速度依存性を考慮した動的変形抵抗を用いる必要があると考えた。
そこで,低炭素鋼の変形抵抗σfを次式のようにひずみε,ひずみ速度
(1) |
で与えた五弓,木原の式2)を低炭素鋼板の冷間圧延における動的変形抵抗として使用することができるかについて研究が行われた。その結果,式(1)から求められた値を動的平均変形抵抗として使用することに問題はないとの判断がなされた3,4)。
その結果を受け,1200 m/minを超える高圧延速度域における摩擦係数に関して,圧延理論部会において鉄鋼メーカと大学との共同研究が行われた。そこでは,式(1)から得られた動的平均変形抵抗式とHitchcock5)のロール偏平式を用い,圧延荷重を実測し,Bland and Ford6)の冷間圧延理論式から逆算して摩擦係数が求められた。共同研究では,同じ低炭素鋼の供試材と同じパーム油の圧延油が用いられ,その逆算された摩擦係数と圧延速度の関係をFig.2に示す7)。
Relationship between coefficient of friction and rolling speed obtained by rolling theory group of ISIJ7).
Fig.2から,摩擦係数は1200 m/minの圧延速度を超えると0.05以下の低い値になり,それ以上では圧延速度の増加と共にわずかに低下するという結果を得ることができた。これらの結果から,1200 m/minを超える高圧延速度域における圧延荷重をFig.2から得られた摩擦係数式と式(1)から得られた動的平均変形抵抗式を使用することにより,精度良く求めることができるようになった。
1980年代に入って,安定した高速圧延を実現するために先進率圧延制御が行なわれるようになり,圧延中に測定した先進率からBland and Fordの冷間圧延理論式6)より摩擦係数が求められるようになった。求められた摩擦係数から圧延パラメータ依存性を調べて摩擦係数式を構築し,それから得られた摩擦係数値と式(1)から得られた動的変形抵抗値より,圧延中の圧延荷重を予測した8)。
1980年代には,冷間圧延する鋼種があまり多くなかったので,式(1)の低炭素鋼の動的平均変形抵抗式を用いていても,この冷間圧延制御には大きな問題は生じなかった。しかし,1990年代に入ると多種の鋼板が圧延されるようになり,低炭素鋼に対応する式(1)では,多種の鋼板の動的平均変形抵抗を特定することができなくなった。そのため,先進率より求めた摩擦係数と圧延中に計測された圧延荷重を用いて,冷間圧延理論式から圧延中の平均変形抵抗を特定する方法により冷間圧延制御を行う方法が用いられるようになった。
しかし2000年代に入り,高張力鋼板の冷間圧延においては先進率より精度を維持した摩擦係数を得ることが困難な状況になり,求めた先進率と計測した圧延荷重により,圧延制御を行うことが困難になっている。Fujii and Maeda9)は,この冷間圧延制御方法により圧延制御を行ったときの高張力鋼板の実機における摩擦係数と変形抵抗のデータを報告している。Fig.3に普通鋼板と高張力鋼板の摩擦係数と先進率の関係,Fig.4に同じ鋼板の変形抵抗と先進率の関係を示す。
Relationship between coefficient of friction and forward slip ratio of mild steel and HTSS9).
Relationship between flow stress and forward slip ratio of mild steel and HTSS9).
Fig.3において,普通鋼板の摩擦係数は先進率の増加につれてほぼ直線的に増加し,その値のばらつきもほぼ同じであるが,高張力鋼板の摩擦係数は先進率2%まではばらつきはわずかに増加しているが,先進率2%を越えるとそのばらつきは非常に拡大し,圧延制御が成り立たない様子を示している。Fig.4の変形抵抗においても,普通鋼板の値は先進率に依存しないでほぼ一定であるのに対して,高張力鋼板の値は先進率の増加につれて減少し,物理的に理解できない結果を示している。
このような状況から,1000 MPaを超える超高張力鋼板の冷間圧延においては,先進率より得られた摩擦係数を用い,変形抵抗を予測する圧延制御方法では,冷間圧延における圧延材の板厚および張力を精度良く制御できない状況になっていることが予測される。そのため,新たな冷間圧延制御方法を構築する必要がある。
本レビュー論文は,新たな冷間圧延制御方法を構築するためにトライボロジカル数値モデリングにより,ロールと材料界面の潤滑モデルの定式化を行い,各種圧延条件における摩擦係数を求め,摩擦係数式を構築する研究成果を報告する。
冷間圧延理論式から実測した圧延荷重を用いて摩擦係数を求める方法としては,2章において説明した日本鉄鋼協会の圧延理論部会の「冷間圧延における潤滑」研究グループにおいて用いられた方法を説明する。冷間圧延理論式としては次式に示すBland and Fordの式6)用いられた。
(2) |
ここで,kmは平均変形抵抗,hは板厚,h1は入口板厚,h2は出口板厚,μは摩擦係数,R’は偏平したロール半径,およびαはかみ込み角である。ロール偏平式として次に示すHitchcockの式を用いた。
(3) |
ここで,Rはロール半径,Pは圧延荷重,bは板幅,νはポアソン比およびEはヤング率である。
摩擦係数の求め方は,実測した圧延荷重から式(3)を用い偏平したロール半径を求め,式(2)より摩擦係数を仮定し圧延荷重Pを求め,くり返し計算により実測した圧延荷重に一致する摩擦係数を求めれば良い。その際,式(2)の平均変形抵抗kmの値としては,実機圧延における圧延材料が低炭素鋼板の場合は,式(1)から求めた動的平均変形抵抗を使用することができる。しかし,圧延材料が低炭素鋼板以外の場合は,式(1)に対応する動的変形抵抗式が無いので,この方法では実機における摩擦係数の求め方には用いることはできない。
Bland and Fordの冷間圧延理論式において,Hitchcockのロールの偏平式および動的平均変形抵抗式を用いても圧下率10%以下の範囲では,摩擦係数は圧下率の増加に伴い減少することが理解されている。この原因は,冷間圧延理論式が均一変形理論により導出されたものであるので,Gokyuら10)が報告しているように,ld/hmは1よりも小さな厚板圧延ばかりでなく,ld/hmが1よりもかなり大きな値の薄板圧延においても入口部での付加的せん断変形の影響があるものと考えられる。
3・2 先進率から求める方法先進率はロール中立点xnがなす角θnを用いて,次式のように得られる。
(4) |
ここで,Vはロール速度,V2は出口速度およびDはロール直径である。先進率δが式(4)で与えられれば,Bland and Ford6)の冷間圧延理論式より,摩擦係数は次式で与えることができる。
(5) |
ここで,δは先進率,rは圧下率,R'は偏平を考慮したロール半径,およびh2は出口板厚である。先進率は,ロール速度と材料の出口速度を計測することにより求められる。
実験室的には,ロール表面に圧延方向と垂直な2本のけがき線を入れ,圧延後の材料表面の2本のけがき線の間隔とロール表面の2本のけがき線の間隔より簡便的に求めることができる。
実機のタンデムミルにおいて後方張力σ1や前方張力σ2が作用している場合には式(5)は次式で与えられる。
(6) |
ここで,k1は入口側の材料の変形抵抗およびk2は出口側の材料の変形抵抗である。実機圧延において先進率から摩擦係数を求めるため,Yamamotoら8),藤井ら11)は式(6)に補正を加えた改良式を提案している。
Mizuno12,13)およびSaeki and Hashimoto14,15)は,実験室レベルで先進率から式(5)を用いて摩擦係数を求めている。彼らの研究報告から,先進率から摩擦係数を求める方法には多くの問題点があることを認識しなければならない。以下に主な問題点を挙げておく。
(1)先進率法は簡便である上に,圧延荷重法に比べかなり信頼度の高い摩擦係数を与えるものと認められるが,相対的に材料の板厚が小さくなるとその適用に疑問が生じる。低炭素鋼板の場合,ロール直径に対する板厚がおよそ0.002以下になると,摩擦係数の変化に対して先進率の変化が対応しなくなる13)。
(2)圧延荷重法から逆算して求めた摩擦係数はFig.1に示すように圧延速度の増加とともに減少する結果が得られるが,先進率法から求めた摩擦係数は明確な圧延速度依存性を示さないことが多い15)。
(3)冷間圧延において摩擦係数が高くなると,中立点近傍でせん断応力がせん断降伏応力を超えることが起こる。このような条件の接触界面では,ロールと材料界面が付着することになり中立点が明確に確認できなくなり,正確な先進率が得られなくなることが考えられる。
以上の問題点とともに,先進率を求めるためのロール速度と材料の出口速度を測定する実機における計測器の測定感度の問題点も見落としてはならない。
3・3 新しい摩擦係数の求め方3・1および3・2項において説明したように,冷間圧延理論式から逆算して求める方法および先進率から求める方法により求めた摩擦係数には,多くの問題点があることが理解できる。このような問題点を含んだ冷間圧延制御方法を用いた現在の実機タンデムミルの冷間圧延においては,圧延材の板厚および張力を高精度に制御できない状況になっていることが予想される。そのため,新たな冷間圧延における圧延制御方法を構築する必要がある。
新たな冷間圧延制御方法を構築するために,トライボロジカル数値モデリングにより,ロールと材料界面の潤滑モデルの定式化を行い,各種圧延条件における摩擦係数を求め,冷間圧延における摩擦係数式の構築を行う方法を提案する。
流体膜で工具と材料間が完全に隔てられるような状況では,せん断応力を流体潤滑理論によって導出して,加工力の解析を行うことが必要となる。このような潤滑モデルをplasto-hydrodynamic lubricationと名づけ,冷間圧延の解析を行ったのがCheng17)である。
ChengはFig.5のロール間の圧延形状に示すように,ロールを剛体,材料のみが塑性体であると考え,流体潤滑理論に支配される流体膜の中で剛塑性体の材料が圧延されるものとして解析を行っている。ロールと材料間の入口部に導入される油膜厚みは弾性流体潤滑理論によって独立に求め,流体の運動方程式および連続の式に加え,圧力および温度と粘度との関係式,ロール間の材料の平衡方程式,降状条件式,連続の式並びにエネルギー式によって接触弧での圧延圧力分布および摩擦せん断応力分布を計算している。
Geometry of rolling process with plasto-hydrodynamic lubrication17).
Karman18)の平衡方程式を下記の式(7)に示す。
(7) |
マクロ塑性流体潤滑における摩擦せん断応力τƒはニュートン流体の仮定から
(8) |
で示される。ここで,ηは圧延油の粘度である。運動方程式から求めた次式の速度u
(9) |
を代入すると,摩擦せん断応力は
(10) |
で与えられる。ここで,hは油膜厚,U1は材料の入口速度およびUrはロール速度である。
圧延圧力分布は,式(7)に式(10)を代入し,材料の降伏条件式を用いて求められる。この際の潤滑油の粘度式は圧力と温度の影響を考慮した式を用い,潤滑油内の温度は,エネルギー式から求められ,その境界条件としての材料表面の温度は材料の加工エネルギーのすべてが熱に変換されるものとして考えている。
4・1・2 境界潤滑冷間圧延のロールと材料界面における境界潤滑モデルをFig.6に示す。Bowden and Tabor19)が示した境界潤滑モデルとは異なり,Fig.6に示すように接触界面全域に一様な平均圧延圧力paが作用している。
Boundary lubrication model in rolling process.
このときの垂直荷重Pおよびせん断力Tは
(11) |
で示される。ここで,Aは塑性接触面積,paは圧延塑性接触部に作用する平均圧延圧力およびτbは圧延塑性接触部に作用する境界摩擦せん断応力である。そこで,圧延塑性接触面での摩擦係数μaは
(12) |
で与えられる。境界潤滑における摩擦せん断応力は
(13) |
で与えられる。マクロ塑性流体潤滑の場合と同様,式(7)にτƒに代わり式(13)を代入して圧延圧力分布が求められる。
4・1・3 動圧流体潤滑と境界潤滑の混合潤滑最初に,動圧流体潤滑と境界潤滑を重ね合わせた混合潤滑モデルを説明する。この混合潤滑モデルは圧延潤滑界面での境界潤滑領域の面積比をαとすると,境界潤滑領域での摩擦せん断応力τbと動圧流体潤滑領域での摩擦せん断応力τfとを重ね合わせて,混合潤滑における摩擦せん断応力τmixは
(14) |
で与えられる。圧延圧力分布は式(7)にτƒに代わり式(14)を代入して求めることができる。
次に,動圧流体潤滑と境界潤滑とを重ね合わせた混合潤滑における摩擦係数をFig.7に示す混合潤滑モデルより求める。
Mixed lubrication model combined with hydrodynamic lubrication and boundary lubrication.
塑性接触面積Aの境界潤滑領域Arの面積比をαとすると
(15) |
となる。塑性接触領域に作用する垂直荷重Pは次式で与えられる,
(16) |
式(16)においてprは境界潤滑領域の接触部に作用している垂直圧力およびpfは流体力学作用により生じる垂直圧力である。塑性接触領域に作用する摩擦せん断力Fは
(17) |
で与えられる。式(17)においてτbは境界潤滑領域の接触部に作用している摩擦せん断応力およびτfは流体力学作用により生じる摩擦せん断応力である。ここで,τbおよびτfは次式で与えられる。
(18) |
この混合潤滑領域における摩擦係数μmixは
(19) |
で与えられる。
冷間圧延の圧延潤滑界面においては,Fig.6に示すように一様な平均圧延圧力paが作用しており,境界潤滑領域はさほど小さくはないので,次式が
(20) |
成り立つ。そのときの摩擦せん断応力と摩擦係数は
(21) |
で与えることができる。
4・1・4 静圧流体潤滑と境界潤滑の混合潤滑最初に,静圧流体潤滑と境界潤滑を重ね合わせた混合潤滑モデルを説明する。鋼板の冷間圧延後の材料の表面性状を観察すると多数のオイルピットが観察される。このような表面観察から,オイルピットの圧延油内に静水圧が発生し,その静水圧により垂直圧力を支えているとする混合潤滑モデルが考えられる。この混合潤滑モデルは圧延潤滑界面での境界潤滑領域の面積比をαとすると,オイルピット内での摩擦せん断応力はτf=0となるので,混合潤滑における摩擦せん断応力τmixは
(22) |
で与えられる。圧延圧力分布は式(7)にτƒに代わり式(22)を代入して求めることができる。
次に,静圧流体潤滑と境界潤滑とを重ね合わせた混合潤滑における摩擦係数をFig.8に示す混合潤滑モデルより求める。
Mixed lubrication model combined with hydrostatic lubrication and boundary lubrication.
境界潤滑領域の面積比をαとすると,塑性接触領域に作用する垂直荷重Pは次式
(23) |
で与えられる。
式(23)においてprは境界潤滑領域に作用している垂直圧力およびqは静水圧により生じる垂直圧力である。塑性接触領域に作用する摩擦せん断力Fは
(24) |
で与えられる。ここで,静水圧を生じているオイルピットで作用する摩擦せん断応力は無視できるので,混合潤滑領域における摩擦係数μmixは
(25) |
で与えることができる。
冷間圧延の圧延潤滑界面においては,Fig.6に示すように一様な平均圧延圧力paが作用しており,境界潤滑領域は大きいので,次式
(26) |
が成り立つ。そのときの摩擦せん断応力と摩擦係数は
(27) |
で与えられる。
4・1・5 実際の冷間圧延における混合潤滑実際の冷間圧延の圧延潤滑界面は動圧流体潤滑,静圧流体潤滑および境界潤滑からなる混合潤滑であると考えられる。このような混合潤滑においても圧延潤滑界面における境界潤滑の面積比αが明らかになれば,実際の混合潤滑モデルにおける摩擦せん断応力や摩擦係数は
(28) |
で与えられることが4・1・3および4・1・4項から理解できる。
4・2 ロールと材料界面の入口油膜厚みh1冷間圧延におけるロールと材料間で完全流体潤滑されている入口部をFig.9に示す20)。入口油膜厚みの計算のための仮定は次の通りである。
Schematic representation in inlet zone.
(1)ロールと材料は入口部で剛体である。
(2)材料は入口部において圧延油の圧力がYになったときに降伏する。Yは材料の降伏応力である。
(3)圧延油は非圧縮,ニュートン流体で,その流れは層流,2次元である。その慣性力は無視する。
(4)圧延油によって伝導される熱は無視する。
(5)ロールと材料の表面温度は一定で,周りの温度T0に等しい。
(6)圧延油の粘度ηは圧力pと温度Tの関数であり,粘度は油膜断面の平均温度の関数である。
(7)油膜厚みhが入口油膜厚みh1の100倍以上になれば熱効果は無視してよい。
Fig.9において,U1およびU2は材料およびロールの速度である。
レイノルズ方程式は
(29) |
であり,h=(tanθ)xから式(29)は
(30) |
となる。式(30)の境界条件は,一般的にはh=∞のときp=0,h=h1のときp=Yと与えられる。計算を簡単にするため,前者の境界条件を仮定(7)からh=100h1のときp=p*と近似できる。ここで,p*は
(31) |
で与えられる。
次に,エネルギー方程式は
(32) |
で与えられる。ここで,Kは圧延油の熱伝導率である。式(32)の圧延油の速度uは
(33) |
を用いた。式(27)の境界条件としては,y=0のときT=T0,y=hのときT=T0とし,積分を行い油膜断面の平均温度Tmを求める。
式(30)と式(32)中の圧延油の粘度式としては,バラスの式
(34) |
を用いた。η0は常圧,常温での粘度,αとβは粘度の圧力および温度係数である。
一般には,式(30)と式(32)とを線形化し,変数pとTの連立方程式を解くことにより,入口油膜厚みh1を求めるのであるが,安定した入口油膜厚みの解を求めることはできない。そのため,ここではAzushima and Kitamura21)が開発した近似解法を用いて入口油膜厚みを求める数値解析法を使用する。開発した近似解法とは,レイノルズ方程式の油膜厚みhを100h1からh1の区間において100等分し,それぞれのiのステップ区間において圧延油の平均温度Tmiを一定にして,レイノルズ方程式とエネルギー方程式を独立に計算する方法である。
計算した入口油膜厚みh1から,圧下率rの圧延における出口油膜厚みh2は次式となる。
(35) |
ここで,入口板厚はt1,出口板厚t2とし,圧下率をr=(t1-t2)/t1とする。ロールと材料間の塑性接触域での平均油膜厚みhmは
(36) |
で表すことができる。
4・3 トライボロジカル数値モデリング4・3・1 境界潤滑領域の面積比αの定式化ロールと材料間の接触域の入口点における境界潤滑領域の面積比α1は,ロールと材料表面の2乗平均粗さσロールとσ材料の次式で表される合成粗さσ
(37) |
と4・2項で計算された入口油膜厚みh1から,次式で表される22)。
(38) |
ここで,ロールと材料の表面凹凸は正規分布しているとする。境界潤滑域の面積比は入口側α1から出口側α2に向かって変化する。
ロールと材料間の接触域での境界潤滑領域の平均面積比αmは,式(36)の平均油膜厚みhmと式(37)の合成粗さσから,
(39) |
を導出することができる。
4・3・2 トライボロジカル数値モデリングによる摩擦係数の求め方トライボロジカル数値モデリングによる摩擦係数の求め方として,最初に実機の圧延条件における入口油膜厚みを計算する。4・2項によりニート圧延における入口油膜厚みが計算できる。エマルション圧延の場合にはAzushimaらの文献23,24)より,エマルション圧延における入口油膜厚みの計算プログラム(小豆島研究室)を用いて入口油膜厚みを計算することができる。つづいて,式(38)により入口点の境界潤滑領域の面積比α1を求めることができ,実機の混合潤滑下の入口点の摩擦係数は,
(40) |
によって与えられる。同じ方法を用いれば,入口点から出口点までの摩擦係数を与えることができる16)。
ここでは,摩擦係数のトライボロジカル数値モデリングとして,入口点から出口点までを平均化した式(36)の平均油膜厚みと式(39)の境界潤滑領域の平均面積比を用いた平均摩擦係数μmは
(41) |
で導出される。
平均摩擦係数を求める式(41)より,具体的な圧延条件における平均摩擦係数を計算することができ,平均摩擦係数の各種トライボロジー因子依存性について示すことができる。
摩擦係数の計算の基本条件は,材料の降伏応力はY=500 MPa,材料の入口板厚はh1=2.0 mm,材料の出口板厚はh2=1.2 mm,ロール半径はR=166 mm,材料表面とロール表面の合成粗さはσ=0.92 μm,圧延油粘度はη0=0.05 Pa・s,粘度の圧力係数はα=2E-8/Pa,粘度の温度係数はβ=0.08/°C,圧下率はr=40%並びに境界摩擦係数はμb=0.12である。最初に,この基本条件において圧延速度を12から2400 m/minまで変化させて計算を行った。つづいて,材料の降伏応力を200,500と1000 MPa,ロール半径を105と166 mm,材料表面とロール表面の合成粗さを0.69と0.92 μm,圧延油粘度を0.05と0.10 Pa・s,粘度の圧力係数を1E-8と2E-8/Pa,粘度の温度係数を0.03と0.08/°C,圧下率を20と40%,境界摩擦係数を0.08と0.12とトライボロジー因子を変化させたときの計算を行った。Fig.10に基本条件の摩擦係数と圧延速度の関係を示す。Fig.10の摩擦係数と圧延速度の関係の計算結果は,Fig.2に示した日本鉄鋼協会圧延理論部会の共同研究の摩擦係数と圧延速度の関係の実験結果とよく合っていることが理解できる。
Relationship between coefficient of friction and rolling speed in basic rolling conditions.
つづいて,Fig.11に摩擦係数の材料の降伏応力依存性,Fig12に摩擦係数のロール半径依存性,Fig.13に摩擦係数の材料表面とロール表面の合成粗さ依存性,Fig.14に摩擦係数の圧延油粘度依存性,Fig.15に摩擦係数の粘度の圧力係数依存性,Fig.16に摩擦係数の粘度の温度係数依存性,Fig.17に摩擦係数の圧下率依存性およびFig.18に摩擦係数の境界摩擦係数依存性を示す。Fig.11からFig.18に示す摩擦係数の各種トライボロジー因子依存性の計算結果から,実機における摩擦係数のトライボロジー因子の依存性についても,ここで提案しているトライボロジカル数値モデリングを用いることにより予想することが可能であることが理解できる。
Flow stress dependency of workpiece on coefficient of friction.
Roll radius dependency of coefficient of friction.
Combined surface roughness dependency on coefficient of friction.
Viscosity dependency of rolling oil on coefficient of friction.
Pressure coefficient dependency of rolling oil on coefficient of friction.
Temperature coefficient dependency of rolling oil on coefficient of friction.
Reduction in thickness dependency on coefficient of friction.
Boundary coefficient of friction dependency on coefficient of friction.
Fig.2に示す日本鉄鋼協会の圧延理論部会の共同研究において行われた研究グループのうち,ロール半径298 mmのx印で示す冷間圧延理論式から逆算した摩擦係数と圧延速度の関係の結果とトライボロジカル数値モデリングを用いて計算した摩擦係数と圧延速度関係との比較を行う。
この共同研究においては,同じ低炭素鋼板,同じ圧延油(パーム油)を使用し,圧延荷重を測定し,Bland and Fordの冷間圧延理論式とHitchcockのロール偏平式を用いた逆算摩擦係数を計算する方法を用いて,摩擦係数を求めた。一方,トライボロジカル数値モデリングを用いて摩擦係数を求める計算条件は,中島7)の「圧延理論部会の共同研究成果」の報告よりできる限り集めた。Fig.19にFig.2のx印の結果と計算結果を実線で示した。報告には完全な計算条件では無かったにもかかわらず,よく合っていることが理解できる。
Comparison of relationships between coefficient of friction and rolling speed.
潤滑モデルによりロールと材料界面に作用する摩擦応力を求め,摩擦係数を与えるトライボロジカル数値モデリングを新たに提案した。その方法を用いて,摩擦係数と圧延速度の関係を主体にし,摩擦係数の多くのトライボロジー因子依存性を計算した。更に,トライボロジカル数値モデリングより求めた摩擦係数と圧延速度の関係と実験により求めた摩擦係数と圧延速度の関係を比較し,両者の関係がよく一致する可能性のあることを確認した。このトライボロジカル数値モデリング法を用い摩擦係数値を求め,摩擦係数式を構築することにより,実機における摩擦係数の予測が可能になることを示すことができた。このトライボロジカル数値モデリングを用いることにより,冷間圧延における圧延材の板厚および張力を適確に制御できる新たな冷間圧延における制御圧延方法を構築することが可能になろう。
本論文を作成するに当たり,図面の作成にご協力いただいた東京電機大学の柳田明氏に深く感謝いたします。