Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
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ISSN-L : 0021-1575
Forming Processing and Thermomechanical Treatment
Newly Developed Wear Testing Machine Having Sufficient Reproducibility Useful for Investigating Roller Chains
Ryoichi Saito Nao-Aki NodaYoshikazu Sano
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2020 Volume 106 Issue 1 Pages 28-38

Details
Abstract

Roller chains are commonly used for transmission of mechanical power on many kinds industrial machinery. Roller chain makers have done a lot of efforts to improve the wear resistance by using conventional types of wear testing machine. However, such conventional wear testing needs huge amount of time and cost. Therefore, this study focuses on developing a new wear testing machine, which can evaluate the wear amount efficiently without using main chain components such as inner plate, outer plate and roller. The experimental results show that this newly developed wear testing machine may realize the almost same wear rate under stable condition and similar wear status of the conventional chain type testing machine. The newly developed wear testing machine may be useful for improving the wear resistance of roller chains conveniently compared to the conventional chain type testing machine.

1. 緒言

ローラチェーンは動力伝達や部品搬送を行う機械要素として,自動車やオートバイ,鉄鋼,化学,食品,エレクトロニクスといった幅広い産業分野で使用されている。ローラチェーンとスプロケットの噛み合いによる駆動力の伝達は,同じ目的で使用されるベルト駆動方式と比較すると,伝動能力が大きく,スリップが無視できる程小さいため伝達効率も高いといった利点を持つ。ローラチェーンは信頼性の高い動力伝達機械要素であるが,一般にチェーンの寿命は切断その他の突発的な事故を除けば,ほとんどの場合,チェーンの伸びによって決まる。チェーンがスプロケット上で噛み合う際,Fig.1のピンとブシュが摺動し,ピン外周とブシュ内周の摩耗が進行する。これがチェーンの伸びをもたらし,摩耗が進行すると,伸びたチェーンがスプロケットに乗り上げる等の不具合をもたらす。このため,チェーンの耐摩耗性を向上させることが,チェーンメーカの重要な課題の一つとなっている111)

Fig. 1.

Schematic illustration of the roller chain whose mechanical wear between pin and bush causes elongation and final failure. (Online version in color.)

この耐摩耗性の評価は,実物サイズのチェーンとスプロケットを用いたチェーン実体摩耗試験機による評価方法を採用することが多い。しかし,この方法では実体のチェーンとスプロケットを用い,数十リンクのチェーンやプレートを準備する必要があり,これらの準備や据付に多大な費用と工数が必要とされる等の問題がある。このような観点から,使用するチェーンを少なくした試験機の研究も行われているが12,13),実機との比較はなされておらず,試験後のピンの摩耗断面が扇形となり,実体のチェーンと異なることから,評価精度に課題が残されている。

更に,近年では従来の鉄鋼材料から,セラミックス等の高機能材を用いたチェーンの開発も進んでいる14)。一例として,加熱炉内で用いるチェーン等は,高温環境下における耐摩耗性が要求されるため,セラミック製チェーンの実用化が進められているが,実体摩耗試験機による評価は試験片の製作費用を考えても実現性は低い。そこで本研究では,チェーン実体との再現性が高く,簡便で高精度な評価ができる新たな「円筒面摺動式摩耗試験機」の開発に取り組む。

2. 実体チェーンの摩耗と評価方法

2・1 チェーンの摩耗のこれまでの評価方法

Fig.1は本研究に用いるローラチェーン構成部材各部の組立て状態を示すもので,稼働中の引張り力をTで表している。外プレートと内プレートを引張り方向に交互に組み合わせて連結させたものが基本構造である。外リンクは外プレートにピンを圧入して結合したもの(Fig.1の①)を呼び,内リンクは自由に回転できるローラをはめたブシュを内プレートに圧入して結合したもの(Fig.1の②)を呼ぶ。これらの圧入により,回転を防ぐことができる。ピンとブシュは滑り軸受け部を構成し,圧力を受けながら滑り摩擦を繰り返し,その累積により時間と共にピンとブシュの摩耗が進行する。Fig.2は摩耗によるチェーン伸びが許容限である2%を超えたために廃棄となったチェーンの摺動部,ピンとブシュの摩耗状況を示す。共に軸直角断面で三日月状に摩耗し,ピンの摩耗深さWP(Fig.2(a)参照)はピン外径の約17%に達し,ブシュの摩耗深さWB(Fig.2(b)参照)はブシュ肉厚の約26%に達している。特に断らない限り,ピンとブシュの摩耗深さの合計量(WP+WB)をチェーンの摩耗WTと呼ぶ。

Fig. 2.

Pin and bush whose wear amounts reach the use limit. (Online version in color.)

このような摩耗の状態を調べるため,Fig.3に示すような,実物サイズのチェーンとスプロケットを用いたチェーン実体摩耗試験方法がある15)。この試験方法は,実体のチェーンとスプロケットを用いるため,最も直接的な評価方法であり,比較的実機の摩耗を再現できている。しかし,試験のために,外プレート,内プレート,ローラといったチェーン構成部品を全て用意する必要があり,チェーンサイズが大きくなるほど,据付や製造に多大な費用・工数を要し,準備に一ヶ月以上有することもある。そこで本研究では,実体チェーンやプレートを用いなくとも,摺動部材の耐摩耗性を実体チェーンにおける結果と同様に評価できる新たな「円筒面摺動式摩耗試験機」の開発に取り組む。

Fig. 3.

Conventional wear testing machine for the roller chain. (Online version in color.)

2・2 チェーンの摩耗のメカニズム

2・2・1 チェーン伝動におけるチェーンの摩耗発生箇所

Fig.4にローラチェーンの一般的な伝動状況を示す。Table 1は,伝動範囲における①ピンとブシュ間の接触荷重Pc,と②ピンとブシュの角度変化に伴う摺動,の状態を示す。チェーンの摩耗は①と②が同時に作用することで発生する。位置A1から位置A2に移動する際の範囲A(Fig.4Table 2参照)と,位置B1から位置B2に移動する際の範囲B(Fig.4Table 2参照)にて①と②は同時に発生し,他の範囲では同時には発生しない。

Fig. 4.

Illustration for range A, B, C, D, E, F, each of which has distinct mechanical state in the roller chain. (Online version in color.)

Table 1. Variation of tensile load and bend angle.
RangeTensile loadBend angleWear
ATChanging as θA=0→θ0Appears
BTChanging as θB0→0Appears
CTFixed as θC=0Not appears
DT→0Fixed as θD0Not appears
E0θE≒0 Depending on
the slack of the chain
Not appears
F0→TFixed as θF0Not appears
Table 2. Definition of position A1, A2, B1, B2 and θ0 in range A, B shown in Fig.4.
ItemsDefinition
Position A1The chain starts engaging with the sprocket under tension in the driving side.
Position A2The chain is bent at angle θ0 under tension in the driving side.
Position B1The chain starts to move away from the sprocket under tension in the driven side.
Position B2The chain is bent at angle θ0 under tension in the driven side.
Angle θ0The angle specifies the interval of sprocket teeth as θ0=2πN, where N is the number of teeth in sprocket

ここで角度変化に伴う摺動とは,チェーンがスプロケットに巻き付くことで生じるピン・ブシュの水平位置からの角度のずれを指す。Fig.4の範囲Aに注目する。∠OAO'=θAと定義すると,0≦θAθ0,Pc=Tである。ここでθ0はスプロケットの歯の等間隔角度を示し,スプロケットの歯数をNとすると,θ0=2 π/Nである。注目するピン,ブシュを黒丸で示す。Fig.4の位置A1に黒丸があるとき,∠OAO'=0である。黒丸が位置A2に移動すると,チェーンがスプロケットに巻き付くことで外プレートと内プレートに屈曲角度が生じ,∠OAO'=θ0となる。ピンは外プレートに,ブシュは内プレートに圧入固定されているため,外プレートと内プレートの屈曲角度は,ピンとブシュのずれの角度と等しい。ピン・ブシュに角度差が生じ,接触荷重Pcが作用するため,範囲Aで摩擦・摩耗が生じる。

範囲Bについても,範囲Aと同様である。∠OBO'=θBと定義すると,0≦θBθ0,Pc=Tである。Fig.4の位置B1に黒丸があるとき,∠OBO'=θ0である。黒丸が位置B2に移動すると,∠OBO'=0となる。ピン・ブシュに角度差が生じ,接触荷重Pcが作用するため,範囲Bで摩擦・摩耗が生じる。

2・2・2 ピンおよびブシュの摺動状態

チェーンの摩擦挙動は,摩耗が発生するFig.4の範囲Aと範囲Bの2区間でのピンとブシュの摺動動作に注目すれば良い。そこで,範囲Aと範囲Bのピン・ブシュの摺動状態について,Fig.5を用いて説明する。なお,Fig.5はスプロケットの歯が外リンクに入った場合を示し,ローラの絵は省略する。Fig.5(a)Fig.4の範囲Aを示し,Fig.5(b)Fig.4の範囲Bを示す。

Fig. 5.

The load and sliding condition of driving state and driven state. (Online version in color.)

Fig.5(a)に示す駆動側について説明する。Fig.5(a-1)は位置A1と等しく,チェーンの屈曲角度θA=0である。Fig.5(a-3)は位置A2と等しく,チェーンの屈曲角度θA=θ0である。Fig.5(a-2)は,屈曲角度θA=θ0/2の位置を示す。駆動側では,スプロケットがチェーンのローラを押すことで発生したチェーン張力により,ピンとブシュ間に接触荷重Pc=Tが生じ,押圧状態となる。この状態のまま,スプロケットの回転と共に,ブシュが反時計回りに回転する(Fig.5(a-2))。スプロケットの歯の等間隔角度θ0分回転した時点で,ブシュの摺動が止まる(Fig.5(a-3))。ブシュ内面の周速度を摺動速度Vとする。Fig.5(a)に示すように,ブシュの摺動角度θAはスプロケットの回転角度と等しく,ブシュの回転速度はスプロケットの回転速度と等しい。すなわち駆動側では,接触荷重Pc=Tの押圧状態でピンが固定され,ブシュが摺動速度Vで角度θ0回転する摺動を示す。

次に従動側について説明する。Fig.5(b-1)は,Fig.4の位置B1と等しく,チェーンの屈曲角度θB=θ0である。Fig.5(b-3)は,Fig.4の位置B2と等しく,チェーンの屈曲角度θB=0である。Fig.5(b-2)は,屈曲角度θB=θ0/2の位置を示す。従動側では,駆動側でチェーン張力Tが発生するので,ピンとブシュ間に接触荷重Pc=Tが生じ,押圧状態となる。この状態のまま,スプロケットの回転と共に,ピンが反時計回りに回転する(Fig.5(b-2))。スプロケットの歯の等間隔角度θ0分回転した時点で,ピンの摺動が止まる(Fig.5(b-3))。すなわち従動側では,接触荷重Pc=Tの押圧状態でブシュが固定され,ピンが摺動速度Vで角度θ0回転する摺動を示す。

チェーンが駆動,従動のスプロケットを経て1周すると,ピンとブシュの位置関係が初期の水平状態に戻るため,チェーン1周あたり1往復の揺動摩擦と見える。しかし,その実態は,駆動側のFig.5(a)では,ピン固定でブシュが摺動し,従動側のFig.5(b)では,ブシュ固定でピンが摺動する複雑な摩擦挙動をしている。これがチェーンの摩擦のメカニズムである。

3.ピンとブシュの摩擦挙動を再現する試験機の開発

3・1 開発試験機設計指針

チェーン実体摩耗試験は,最も直接的な評価方法であるが,チェーンの準備や据付に多大な工数と費用が必要とされる。チェーン実体摩耗試験機より簡易な方法で,チェーン実体の摩擦条件を可能な限り再現させることで,チェーン実体摩耗試験機と同様の評価が可能な試験装置の開発を試み,開発試験機の指針を①②とした。

①ピン・ブシュの実際の摺動を可能な限り実現する

②試験装置の単純化を目的に,最小限の部品構成とする

チェーン実体摩耗試験では,チェーンとスプロケットの噛合い時の振動や,チェーンを構成する部品の製造公差や組立,装置への据付誤差等により,試験結果にばらつきが生じやすい。そこで指針②より,ピンを想定した中実軸とブシュを想定した円筒物の2部品のみを用いて,外プレート,内プレート,ローラを用いない構造とした。このことで,再現性の向上,試験片製作費や納期の削減および作業効率の向上を見込んだ。なお,表面処理等,試験片の製作上の簡易性を考慮して,試験片は実製品に準拠する寸法とした。

3・2 ピン,ブシュの摩擦挙動の再現

Fig.6は開発試験機とチェーン実体における,ピンとブシュの表面の摺動方向を示したものである。指針①より,開発試験機の動作は,ピンを固定しブシュを往復摺動させる構造とした。Fig.6に示すように,チェーン実体では,ピン固定でブシュが摺動する状態と,ブシュ固定でピンが摺動する状態を繰り返す。ここで,チェーンの伸びに影響するチェーン引張り方向のピンとブシュの接点,点P・Q(Fig.6参照)に注目すると,それぞれの摺動方向は往復を示す。開発試験機もチェーン実体と同様に,ピンとブシュの接点を往復摺動させることで,チェーン実体と同様の評価が可能と考え,開発試験機に往復摺動摩擦機構を採用した。この機構は,ピンを一定荷重で押圧しながら,ブシュを揺動させればよく,開発試験機の制御も容易であることから,試験精度の向上も見込める。なお,摺動方向の詳細な説明を付録に示した。

Fig. 6.

Comparison of the sliding direction of surface. (Online version in color.)

3・3 摺動試験部分の構造と概説

Fig.7に開発試験機の構造の概略を示す。試験片のブシュは,ホルダに圧入固定される。ホルダは治具A,Bに固定されるため,組み上がった治具と試験片ブシュは一体構造となる。ブシュの内径にピンを挿入し,試験機のモータシャフトと治具Aを連結する。モータを運転させて,ブシュを摺動させる。ピンをブシュに押し付けるために,ブシュ端面から飛び出したピンの両端を油圧シリンダにより水平方向に押圧する。押圧されたピンは回転しないため,ブシュを揺動させれば,ピンを固定したブシュの往復摺動摩擦となる。更に往復摺動を1サイクルとし,摺動終わりから開始までのアイドリング時間を設定できるようにした。油圧シリンダは水平方向に移動し,ピンおよびブシュが摩耗しても,ピンとブシュ間の接触圧力を一定に保つ。ピン中心の移動量を計測することで,ピンとブシュを取り外すことなく,ピン・ブシュの合計摩耗量を計測可能とした。なお,実体チェーンでは,ピンとブシュの摺動により摩耗粉が生成され,振動によりピンとブシュの隙間から排出される。開発試験機は,摺動部が少なく振動が生じにくいため,摩耗粉が堆積しやすい。そこで,負荷方向を水平方向とし,ブシュの鉛直上下方向に孔を設けた。Fig.8に試験片の断面と摩耗粉の流れを示す。

Fig. 7.

Schematic illustration of the newly developed wear testing machine. (Online version in color.)

Fig. 8.

Flow of the wear debris and lubricant for the newly developed wear testing machine using the grooved bush. (Online version in color.)

3・4 開発試験機の仕様

Fig.9に開発試験機の揺動部の外観を示す。ピン径DP=10~100 mmを視野に,ここではピン径DP=15 mm~23 mmを試験対象とし,開発試験機の仕様を決めた。Table 3に開発試験機の仕様を示す。

Fig. 9.

Photograph of the newly developed wear testing machine. (Online version in color.)

Table 3. Specification of the newly developed wear testing machine.
Whole size1700×1300×1800 [mm]
LoadPc700-80,000 [N]
Average sliding speedV0.01-7 [m/min]
Idling time0.01-9.99 [sec]
Sliding angleθ00.2-72 [degree]
Diameter of the pinDPφ15-23 [mm]
Diameter of the bushDBφ22-40 [mm]
Inside diameter of the bushDBIφ16-24 [mm]
Length of the pinLP68-100 [mm]
Length of the bushLB52-77 [mm]
Length of the sliding area52-77 [mm]

4. 開発試験機とチェーン実体摩耗試験機を用いた同一条件での摩耗試験

4・1 試験片仕様と試験条件

開発試験機における寸法,荷重および摺動速度はチェーン実体摩耗試験機(Fig.3(b)参照,以下実体試験機とする)と同一とした。ここでは,試験片寸法は,ピン外径DP=15.8 mm(Fig.10(a)参照),ブシュ内径DBI=16.3 mm,ブシュ長さLB =52.9 mm(Fig.10(b)参照)とし,ピンの材質はSCM435,ブシュの材質はSCM415とした。それぞれの化学成分をTable 4に示す。Table 5に機械的性質および加工方法を示す。開発試験機用のピンおよびブシュは旋盤加工とした。一方,実体試験機用のピンは冷間鍛造,ブシュは冷間引抜加工とした。それぞれの試験片は,そのままの状態で試験に供したため,表面状態が異なる。

Fig. 10.

Size of the pin and bush for wear testing [mm]. (Online version in color.)

Table 4. Chemical composition of specimens [%].
Testing machineNewly developed
wear testing
Conventional chain
type testing
ItemsPinBushPinBush
MaterialSCM435SCM415SCM435SCM415
C0.370.170.350.15
Si0.260.300.190.21
Mn0.810.780.760.76
P0.0230.0160.0140.013
S0.0230.0120.0200.013
Cr1.110.901.120.98
Mo0.150.150.160.18
Table 5. Surface properties of the pin and bush.
Testing machineNewly developed wear testingConventional chain type testing
ItemsPinBushPinBush
Hardness [HRC]55.459.155.059.6
Surface roughness Ry [μm]6.412.013.65.4
Fabrication processLathe turning
→Heat-treatment
→Shotblasting
Cold forging
→Heat-treatment
→Shotblasting
Cold-drawn pipe
→Heat-treatment
→Shotblasting

Fig.1112は表面状態の違いを写真で示したものである。Fig.11に開発試験機に用いたピンとブシュの軸方向断面観察図を示す。Fig.11(a-2)のピン,Fig.11(b-2)のブシュによれば,断面の最表面に旋盤加工痕が見られ,目立った酸化被膜は見られない。なお,Fig.11(a-1)より,ピンには顕著な圧延フローが観察される。Fig.12は実体試験機に用いたピン,ブシュの軸方向断面観察図を示す。Fig.12(a-2)のピン,Fig.12(b-2)のブシュに注目すると,断面の最表面に厚さ20 μm程の酸化被膜が見られる。両者の違いが後述する初期摩耗に差をもたらす。

Fig. 11.

Axial cross section of the near surface of the pin and bush for the newly developed wear testing (5% Nital etching).

Fig. 12.

Axial cross section of the near surface of the pin and bush for the conventional chain type testing (5% Nital etching). (Online version in color.)

Table 6に試験条件を示す。チェーン使用時は,耐摩耗性を向上させるため,摺動面へグリース等の潤滑剤の塗布が推奨されている。しかし,ここでは材料の摩耗に対する試験方法の差を明らかにするため,摺動面を脱脂し,潤滑による外乱要因を除いた。予備試験において,開発試験機ではばらつきが小さいことを確認できていたため,本試験の試験本数は,開発試験機で3セット,実体試験機で2セットとした。開発試験機は,ブシュが1往復摺動する毎に1サイクルとカウントし,実体試験機は,チェーンが装置を1周する毎に1サイクルとカウントする。サイクル数Nは,実設備における1年稼動を想定しN=25×104回以上とした。なお開発試験機と実体試験機は,摺動終わりから開始までのアイドリング時間が異なるが,ここでは考慮していない。

Table 6. Comparison of testing condition.
ItemsNewly developed wear testingConventional chain type testing
Idling time per one cycle0.6 [sec]5.1 [sec]
Definition of one cycleNReciprocationRevolving
LoadPc29,500 [N]
Average sliding speedV2.19 [m/min]
Sliding angleθ032.7 [degree]
Condition of sliding surfaceDry

摩耗量の測定方法について示す。ローラチェーンにおいては,ピンとブシュの摩耗の合計量がチェーンの伸びをもたらすため,ピンの摩耗量WP(Fig.13参照)とブシュの摩耗量WB(Fig.13参照)を合計した摩耗量WT=WP+WBで評価する。開発試験機では,ピン中心の変化量を測定したものがWTに相当する。実体試験機では,稼動した張力を保持した引張り側(Fig.4参照)でチェーンの長さの変化を測定し,測定範囲内に含まれるピンとブシュの数量で除したものがWTに相当する。このような軸芯の変化を測定する方法は,両試験共,試験途中で試験片を取り外す必要が無く,試験中断の影響を最小限にできる。

Fig. 13.

Comparison of the wear amount between WNT (newly developed) and WCT (conventional). (Online version in color.)

4・2 摩耗試験結果

Fig.13Table 7は,開発試験機と実体試験機の摩耗試験結果であり,サイクル数Nに対する摩耗量WT=WP+WBを示す。ここで開発試験機の摩耗量をWNT,実体試験機の摩耗量をWCTとする。それぞれの試験片を比較できるサイクル数N=25×104回時(Fig.13のF)の摩耗量は,開発試験機WNT=0.85~0.93 mm,実体試験機WCT=0.69~0.84 mmであり,開発試験機のほうが大きい。摩耗曲線に注目すると,開発試験機,実体試験機共に試験初期の摩耗速度が大きく,その後はほぼ一定の傾きで推移し,摩耗量がほぼ1 mmを超えた後,傾きがやや大きくなる。試験初期の曲線の立ち上がりは,初期摩耗と呼ばれる状態で,サイクル数がほぼN=3×104回まで続き,その後定常摩耗に遷移する。このような遷移現象は,繰り返しを伴う金属の凝着摩耗において一般的にみられる現象である16,17)

Table 7. Definition and comparison between wear amount WNT and WCT.  WNT|𝓀=∑WNT/3 = (No.1 + No.2 + No.3)/3  ∆WNT=WNT|𝓀+1−WNT|𝓀  WCT|𝓀=∑WCT/2 = (No.1 + No.2)/2  ∆WCT=WCT|𝓀+1−WCT|𝓀
𝓀Number of cycle N (×104)Wear amount WT=WP+WB [mm]
WNT: Newly developed wear testingWCT: Conventional chain type testing
No.1No.2No.3WNT|𝓀∆WNTNo.1No.2WCT|𝓀∆WCT
11.00.140.160.140.1470.1470.100.070.0850.085
22.00.190.200.190.1930.0460.150.090.1200.035
33.00.240.260.230.2430.0500.200.130.1650.045
43.90.260.280.250.2630.0200.220.150.1850.020
55.80.320.310.300.3100.0470.270.180.2250.040
67.00.350.340.320.3370.0270.290.210.2500.025
77.70.370.360.340.3570.0200.310.230.2700.020
89.60.410.400.380.3970.0400.350.260.3050.035
912.00.460.470.430.4530.0560.400.310.3550.050
1015.00.560.550.530.5470.0940.510.390.4500.095
1121.00.740.780.700.7400.1930.690.570.6300.180
1225.00.880.930.850.8870.1470.840.690.7650.135
--27.00.970.99---0.980---------------
--32.01.221.16---1.190---------------
1335.01.35------1.3500.4631.261.071.1650.400
--38.01.50------1.500---------------
1442.01.75------1.7500.4001.641.391.5150.350

試験片による摩耗量のばらつきに注目すると,サイクル数N=3×104回時(Fig.13のE),開発試験機では0.03 mm,実体試験機では0.07 mmである。同様にサイクル数N=25×104回時(Fig.13のF),開発試験機では0.08 mm,実体試験機では0.15 mmである。このように開発試験機では,試験片による摩耗量のばらつきは,実体試験機の半分程度と小さい。この結果は,開発目標に合致するものである。なお,両試験機の摩耗曲線の考察は,次章で述べる。

5. 開発試験機とチェーン実体摩耗試験機の摩耗状態の比較と考察

5・1 定常摩耗時における摩耗速度の比較

摩耗試験片と同じピン径DP=15.8 mmを用いた実体チェーンにおける許容摩耗量は通常3 mmである。これに対し,同一ピン径を用いた本研究の摩耗試験では,Fig.13より両試験機共に0<N<3×104回の範囲で初期摩耗が生じている。その初期摩耗量は開発試験機でWNT|𝓀=0.24 mm,実体試験機でWCT|𝓀=0.17 mmであり,それぞれは実体許容摩耗比8%,6%に相当する。すなわち,実設備における許容摩耗量の90%超は定常摩耗に支配されるため,材料の摩耗に対する試験方法の比較は,定常摩耗で行う必要がある。そこで,初期摩耗と定常摩耗との区別を明確にし,定常摩耗における摩耗特性を比較する目的で,摩耗速度に注目する。

サイクル数あたりの摩耗量から求められる摩耗速度dWT/dNは,開発試験機ではdWNT/dN,実体試験機ではdWCT/dNで表され,それぞれ式(1)(2)により求めることができる。なお,両試験機の摩耗量は,Table 7の平均摩耗量∆WNT,∆WCTを用いた。

  
dWTNdNΔWTNΔN,ΔWTN=WTN|k+1WTN|kinTable7(1)
  
dWTCdNΔWTCΔN,ΔWTC=WTC|k+1WTC|kinTable7(2)

計算の一例を以下に示す。Table 7より,サイクル数N=21×104~25×104回における開発試験機の摩耗量∆WNT=0.147 mmである。式(1)より,摩耗速度dWNT/dN=3.68×10-6 mm/cycleが求まる。

  
dWTNdNΔWTNΔN=0.14725×10421×104=3.68×106mm/cycle

式(1)(2)を用いて算出した両試験機の摩耗速度をFig.14に示す。Fig.14では,サイクル数Nは測定区間の中央値をプロットした(N=21×104~25×104回では,23×104回にプロット)。両試験機の摩耗速度は,サイクル数N=3×104回までの初期摩耗(Fig.14のG)では異なるが,それ以降の定常摩耗においてはほぼ一致している。

Fig. 14.

Comparison of the wear rate between dWNT/dN (newly developed) and dWCT/dN (conventional). (Online version in color.)

ここで,試験初期における開発試験機と実体試験機の摩耗速度の違いについて考察する。初期摩耗に影響を及ぼす試験片の表面性状に注目すると,開発試験機用のピン,ブシュの表面は旋盤加工面(Fig.11参照)であり,目立った酸化被膜は見られない。これに対し,実体試験機用のピン,ブシュの表面には,酸化被膜が厚く形成されている(Fig.12参照)。乾燥摩擦においては,金属表面に形成される酸化被膜が摩擦面に存在すると,金属同士の凝着が妨げられ,摩擦摩耗において有効に作用する1820)。酸化被膜と旋盤加工面の影響により,開発試験機は,実体試験機よりも試験初期の摩耗が多かったと推測される。また,実体試験機におけるNo.1とNo.2の試験初期のばらつきは,酸化被膜が厚く不安定な状態で形成されている影響と推測される。摺動を繰返し,摺動面に摩耗粉が付着することで,金属同士の接触が少なくなり,製作方法による表面状態の影響が小さくなると,開発試験機と実体試験機の摩耗速度の差は15%以下と小さくなる。サイクル数N=3×104回以降(開発試験機の摩耗量WNT|𝓀=0.24 mm以上)がこれに該当する。

Table 8に試験終了後,装置から取外し実測したピンの摩耗量WP,ブシュの摩耗量WB,合計摩耗量WT=WP+WBを示す。開発試験機は試験片No.1,実体試験機は試験片No.2を用いた。合計摩耗量WTに対するピンの摩耗量WPの割合は,開発試験機WNTと実体試験機WCTで一致している(WP/WNT=WP/WCT)。先には,ピンとブシュの合計摩耗量の摩耗速度が,開発試験機と実体試験機でほぼ一致していることを述べた。ピンとブシュの摩耗量の比率も両試験機で一致している。なお,軸芯の変化量から求めたTable 7の摩耗量WNT,WCTと,部品単体から測定したTable 8の摩耗量WNT,WCTを比較すると,両試験機それぞれにおいてほぼ一致している。このように,装置から取り外さない測定方法においても,比較的高い精度で摩耗量の評価ができることが分かる。

Table 8. Total wear amount WNT ≠ WCT and wear ratio WP/WNT = WP/WCT.
ItemsWNT: Newly developed wear testing fom No.1WCT: Conventional chain type testing from No.2
From Pin and Bush [mm]WP/WNT0.46WP=0.82WP/WCT0.45WP=0.64
WB/WNT0.54WB=0.95WB/WCT0.55WB=0.79
(WP+WB)/WNT1.0WP+WB
=1.77
(WP+WB)/WCT1.0WP+WB
=1.43
From Table 7 [mm]WNT=1.75WCT=1.39

5・2 チェーン実体試験機との断面形状の比較

Fig.15(a)に開発試験機のピンの断面形状の変化を示す。三日月状の摩耗範囲を呈し,x軸で対称である。Fig.15(b)に実体試験機のピンの断面形状の変化を示す。三日月状の摩耗範囲を示し,x軸にほぼ対称である。断面形状の変化から,開発試験機のピンと実体試験機のピンは,同等の摩耗範囲を示す。

Fig. 15.

Pin diameter profile after testing. (Online version in color.)

Fig.16(a)に開発試験機のブシュの断面形状の変化を示す。三日月状の摩耗範囲を呈し,最も摩耗した位置はx軸に対し約-15°傾いている。Fig.16(b)に実体試験機のブシュの断面形状の変化を示す。実体試験機のブシュは開発試験機と同様に,三日月状の摩耗範囲を示し,最も摩耗した位置はx軸に対し約-15°傾いている。これはスプロケットの噛合い位置に依存していると考えられる。断面形状の変化から,開発試験機のブシュと実体試験機のブシュは,同等の摩耗範囲を示すことが確認できる。なお,試験条件は摺動角度θ0=32.7°であるが,三日月状の摩耗範囲の端点は,ピンとブシュ共に約180°に達している。これは,ピン,ブシュの双方の摩耗により,接触面の曲率半径が増加し,接触面積が増加したためと考えられる。両試験機のピンとブシュは同様の断面形状を示すことから,開発試験機は実体試験機と同様の摩耗を再現できている。

Fig. 16.

Bush inside diameter profile after testing. (Online version in color.)

5・3 チェーン実体試験機との摩耗面の比較

Fig.17にピンの摩耗面観察図を示す。Fig.17(a)は開発試験機,Fig.17(b)は実体試験機を示す。摺動方向はいずれも鉛直方向とする。Fig.17(a-2),(b-2)に注目すると,溝状の引っ掻き傷が見られる。Fig.17(a-3),(b-3)に注目すると,黒色物が付着した凝着面が見られる。両試験によるピンの摩耗面は,引っ掻き傷と凝着面が支配的であり,巨視的な比較をすると,類似性が見られる。

Fig. 17.

Wear surface of the pin. (Online version in color.)

Fig.18にブシュの摩耗面観察図を示す。Fig.18(a)は開発試験機,Fig.18(b)は実体試験機を示す。摺動方向はいずれも鉛直方向とする。Fig.18(a-2),(b-2)に注目すると,溝状の引っ掻き傷が見られる。引っ掻き傷は実体試験機のほうが細かく,金属光沢の面も少ない。Fig.18(a-3),(b-3)に注目すると,黒色物が付着した凝着面が見られる。両試験によるブシュ摩耗面の差は,摺動状態により生じたと考えられる。開発試験機は,実体試験機と異なり,常にピンとブシュの間に圧力が加わっている。また摺動を終えてから始まるまでのアイドリング時間が実体試験機と比較し短い。このような圧力が維持される状態や,アイドリング時間の差がブシュの摩耗面に影響を与えることも考えられる。しかし開発試験機によるピン,ブシュの摩耗量の割合は実体試験機と相違無く,摩耗面は引っ掻き傷と凝着を繰り返した面が観察されることから,耐摩耗性の評価に対する問題は小さいと考えてよい。

Fig. 18.

Wear surface of the bush. (Online version in color.)

6. 結言

試験工数と費用が多大なチェーン実体摩耗試験機に対し,試験片をピン,ブシュに限定することで,精度や工数を改善した試験機を開発し,以下の結論を得た。

(1)試験に要する部品が少ない開発試験機は,チェーン実体摩耗試験機よりも試験結果のばらつきが小さく,試験精度の向上や試験工数の削減の利点を有する。

(2)チェーン伝動では,チェーンとスプロケットの噛み合いにおける特定の範囲において,ピンとブシュに摩耗が生じることを明らかにし,その際のピンとブシュの摩擦挙動も明らかにした。(Fig.4Fig.5参照)

(3)そのことを反映させ,チェーン実体と同様の摩擦条件を有し,かつ単純な摩擦部と簡便な操作性を持つ摩耗試験機を開発した。(Fig.6Fig.7参照)

(4)チェーン実体摩耗試験機と比較して,材質の摩耗特性を支配する定常摩耗に関して両者が一致していることを示した。この結果,開発試験機はチェーン実体摩耗試験機の摩耗挙動を高精度で再現できることを確認した。

付録

ピン・ブシュの摩耗挙動の再現

ここでは,チェーン実体のピン,ブシュの摺動方向と,開発試験機の摺動方向について説明する。Fig.A1(a)(b)は,チェーン実体の摺動方向を示し,Fig.5(a)(b)のピンとブシュのみに注目した図である。Fig.A1(a-1)~(a-3)Fig.5(a-1)~(a-3)と等しく,Fig.A1(b-1)~(b-3)Fig.5(b-1)~(b-3)と等しい。なお,Fig.5(b)では負荷方向を基準に図示したが,Fig.A1(b)ではピンの位置を基準とする。

Fig. A1.

Real roller chain under uni-directional friction between the driving state and the driven state. (Online version in color.)

ピンとブシュの摺動による接点の移動と摺動方向について説明する。Fig.A1(a)に示す駆動側では,接触荷重Pc=Tの押圧状態で,ブシュが角度θ0回転する。そのため,ブシュの接点は角度θ0の範囲を移動し,ピンの接点は移動しない。Fig.A1(b)に示す従動側では,接触荷重Pc=Tの押圧状態で,ピンが角度θ0回転する。そのため,ピンの接点は角度θ0の範囲を移動し,ブシュの接点は移動しない。ここで,チェーンの伸びに影響するチェーン引張り方向のピンとブシュの接点,点P・Qに注目する。ピン表面の点Pの摺動方向はFig.A1(a)で鉛直上向き,Fig.A1(b-3)では鉛直下向きである。ブシュ表面の点Qの摺動方向は,Fig.A1(a-1)で鉛直下向き,Fig.A1(b)では鉛直上向きである。すなわち,チェーン引張り方向の接点P・Qに限れば,摺動方向は往復を示す。

Fig.A2に開発試験機の動作を示す。接触荷重Pc=Tの押圧状態でブシュを角度θ0分往復摺動させる。この動作により,チェーン引張り方向の接点,点P・Qにおけるピン・ブシュの表面の摺動方向は往復となり,チェーン実体と等しい。このことより,開発試験機では,ピンを固定し,ブシュを往復摺動させる機構を採用した。

Fig. A2.

Newly developed wear testing machine under reciprocating friction for 1 cycle. (Online version in color.)

文献
 
© 2020 The Iron and Steel Institute of Japan

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