Tetsu-to-Hagane
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Fundamentals of High Temperature Processes
Agglomeration and Removal of Alumina Inclusions in Molten Steel with Controlled Concentrations of Interfacial Active Elements
Katsuhiro Sasai
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2020 Volume 106 Issue 10 Pages 708-718

Details
Abstract

In this study, Al deoxidation experiments have been performed in a mildly stirred steel bath with controlled O and S concentrations, to investigate the effects of interfacial active elements on the agglomeration and removal of Al2O3 inclusions in molten steel. The decrease rate constants of total Al2O3 inclusions, Al2O3 cluster inclusions, and Al2O3 single inclusions as well as the maximum average diameter of Al2O3 cluster inclusions decrease with increasing O and S concentrations in molten steel. However, the effect of O is much greater than that of S. These experimental results have been analyzed based on the kinetics of Al2O3 inclusion removal and the interfacial chemical interaction between Al2O3 inclusions in molten steel. The following findings have been obtained on the agglomeration and removal mechanisms of Al2O3 inclusions in molten steel. The Al2O3 inclusions in molten steel are removed by a mechanism whereby large Al2O3 cluster inclusions, formed by Al deoxidation, float and separate while repeatedly agglomerating and coalescing with fine Al2O3 single inclusions suspended in molten steel. The agglomeration of Al2O3 inclusions during floating and separation can also be explained by a mechanism whereby the agglomeration force due to the cavity bridge force is exerted between the Al2O3 inclusions and the Al2O3 inclusions come in complete contact when the Al2O3 inclusions with thermodynamically agglomerating tendency are approaching each other. The effects of O and S interfacial active elements are considered in both these mechanisms.

1. 緒言

最近の製品に求められる品質・材質の高度化に伴って,これまで問題とならなかった微細な介在物でも製品への混入量が厳しく制限され,高清浄化への要求水準は益々高くなってきた。一方,従来から溶鋼中介在物の分離除去には溶鋼の攪拌が有効な手段として広く利用されてきたが,その効果の追求にも限界があり,厳格化する介在物要求レベルに十分応えることが難しくなっている。このような現状では,精錬工程で微小な介在物までを対象に凝集合体を促進し浮上分離に有利な粗大介在物として溶鋼中から除去すると共に,鋳造工程では介在物の更なる凝集合体を抑制し連続鋳造用ノズルへの付着堆積,それに伴うノズル付着物の剥離や湯面変動を防止するといった工程一貫での介在物制御が必要と考えられる。そのため,溶鋼中アルミナ介在物の凝集機構を,流体力学的な作用の理解に留まらず界面化学的な相互作用にまで踏み込んで解明し,その科学的根拠に基づいて溶鋼中介在物の凝集性を製鋼プロセス全体で精緻に制御することが期待される。

著者は,これまで溶鋼中のアルミナ粒子間に働く凝集力を直接測定する新たな実験方法を確立すると共に,界面物性を考慮して実測の凝集力を解析することによりアルミナ介在物間には溶鋼に濡れ難いために生じる空隙架橋力に起因して強い凝集力が作用することを示した1,2)。この実験方法を用いて凝集力に与える界面活性元素の影響についても定量的に評価し,溶鋼中の酸素と硫黄はいずれもアルミナ介在物間の凝集力を低下させるが,その界面活性効果は硫黄に比べて酸素の方が著しく大きいことを明らかにした3)。これらの一連の基礎研究によれば,アルミニウム脱酸により溶鋼中に生成したアルミナ介在物は空隙架橋力を起源とする凝集力に基づいて凝集合体しアルミナクラスターを形成すると考えられ,その凝集性は凝集力を介して界面物性の影響を受けることが予想される。

本研究では,界面化学的な相互作用の観点からアルミナ介在物の凝集機構を理解するための基礎研究として,流体力学的な作用の影響を極力抑制した緩やかな攪拌浴を用いて溶鋼中酸素濃度と硫黄濃度を制御したアルミニウム脱酸実験を行い,溶鋼中でのアルミナ介在物の凝集・除去挙動に及ぼす界面活性元素の影響を調査した。実験結果を介在物除去の速度論と介在物間の界面化学的相互作用に基づいて解析することにより,溶鋼中でのアルミナ介在物の凝集・除去機構を検討した。

2. 実験方法

2・1 溶鋼のAl脱酸実験

Al脱酸実験には,介在物の凝集・除去挙動に及ぼす溶鋼流動の影響を極力抑制する目的から高周波誘導加熱(30 kW, 20 kHz)されたグラファイト円筒を発熱体とする抵抗加熱炉を用いた13)。内径40 mm,高さ150 mmのアルミナ製るつぼ内に電解鉄(C濃度=0.001 mass%, S濃度=0.0001 mass%, O濃度=0.005 mass%, Mn=0.0001 mass%)500 gを入れ,Arガス雰囲気中で溶解した。溶鋼温度は1600°C一定である。式(1)で示されるAl脱酸反応の化学量論比から0.018 mass%Oの脱酸に必要なAl添加量は0.02 mass%となる。

  
2Al_+3O_=Al2O3(1)

この化学量論比に基づいてAl強脱酸実験とAl弱脱酸実験を実施し,Al2O3介在物の凝集・除去挙動に及ぼす溶鋼中O濃度の影響を評価した。Al強脱酸実験では0.018 mass%O濃度を目標に調整した溶鋼に0.04~0.06 mass%の過剰なAlを,またAl弱脱酸実験では0.022~0.044 mass%の高いO濃度に調整した溶鋼に0.02 mass%のAlを添加することにより,Al脱酸直後に生成するAl2O3介在物量を揃えた状態で,実験中のO濃度[O]を0.0006~0.0261 mass%の範囲で変化させた。本実験では,Al脱酸前の溶鋼中O濃度はFe2O3の添加により調整した。また,Al強脱酸実験においてS濃度[S]を0.018~0.073 mass%の範囲で変化させることにより,溶鋼中Al2O3介在物の凝集・除去挙動に与えるS濃度の影響も調べた。全てのAl脱酸実験では,Al添加から1分後に内径6mmの透明石英管を用いて溶鋼を採取し,この時点をAl脱酸実験の開始とした。実験時間は10分間とし,その間に適当な時間間隔で溶鋼試料を採取し,溶鋼中の全酸素濃度,Al濃度およびS濃度の分析に供した。Al脱酸直後のAl2O3介在物量を正確に把握するために,Al脱酸直前の溶鋼試料も採取し,全酸素濃度を分析した。

2・2 溶鋼中介在物の顕微鏡観察

成分分析を行った残試料から10mm長さの円柱状の介在物観察用試料を切り出し,その円形切断面が観察面となるように樹脂に埋め込み鏡面まで研磨した。介在物観察位置は棒状試料の中央付近である。光学顕微鏡を用いて,倍率100倍では最外周を除く直径5mmの断面全体に,倍率1000倍では面積1~4 mm2の部分に存在する介在物を観察した。100倍観察では直径10 μm以上のクラスター介在物を,1000倍観察ではクラスター介在物が含まれない視野を選択することで直径0.5 μm以上の単体介在物を検出できるため,各々の介在物の粒径分布を調べた。介在物の粒径分布測定は1つの溶鋼試料につき原則1断面としたが,クラスター介在物の検出個数が極端に少ない場合には,残りの溶鋼試料を用いて観察面をさらに1断面追加した。各溶鋼試料につき単体介在物の検出個数は52個以上,クラスター介在物のそれは5個以上であった。得られた単体介在物とクラスター介在物の粒径分布を基に,DeHoffの式4)により溶鋼試料中における各介在物の平均粒子直径と体積個数密度を計算した。また,光学顕微鏡写真から画像解析装置を用いて,クラスター介在物中の介在物充填率を評価した。一部の溶鋼試料についてはEPMA(電子線マイクロアナライザ)により介在物の組成分析も実施した。

3. 実験結果

3・1 溶鋼中介在物の観察結果

Fig.1にAl脱酸実験における介在物の光学顕微鏡写真の一例を示す。光学顕微鏡の100~1000倍観察によればAl脱酸溶鋼中の介在物は,単独で存在する直径数μm程度の単体介在物とそれらが凝集した10 μm以上の粗大なクラスター介在物に分類された。これらの介在物をEPMAで分析すると,溶鋼中O濃度が0.0261 mass%のAl弱脱酸実験でのみクラスターを構成する一部のAl2O3粒子の外周部にFeO・Al2O3(ハーシナイト)が観察されたが,それ以外は全てAl2O3であった。McLean and Ward5)によれば1600°Cで熱力学的に安定なFeO・Al2O3が生成するO濃度は0.058 mass%以上であることから,本研究のAl脱酸溶鋼(O≦0.0261 mass%)中に存在する介在物は主にAl2O3と考えてよい。また,光学顕微鏡写真から求めたクラスター介在物のAl2O3充填率は,OSの濃度によらず平均で24%であった。さらに,EPMAを用いて光学顕微鏡より高倍率の観察を行うと,Al弱脱酸実験の試料には直径0.5 μmより小さな球形のFeO粒子が,またS添加したAl強脱酸実験の試料には直径0.5 μmよりもかなり微細で地鉄との輝度差の小さいFeS粒子が存在したが,何れも固体鉄中におけるOとSの溶解度が非常に低いため,凝固時および凝固後の冷却過程で析出した二次生成介在物と考えられた。よって,溶鋼中のOSは0.5 μm未満の微細なFeOとFeSとして晶析出しており,顕微鏡観察で検出された0.5 μm以上のAl2O3介在物には二次生成介在物は含まれていないことが確認された。

Fig. 1.

Optical micrograph of inclusions in the Al deoxidation experiment.

溶鋼中Al2O3クラスター介在物の平均粒子直径dCIと体積個数密度NV,Cの経時変化をFig.2に,溶鋼中Al2O3単体介在物の平均粒子直径dSIと体積個数密度NV,Sの経時変化をFig.3に示す。Fig.2よりdCIは20~50 μmの間にあり,実験開始から徐々に大きくなり4分程度で最大直径に達した後に小さくなっている。NV,Cは8~100 mm-3の範囲に分布し,実験開始から4分程度までは急激に,その後は緩やかに低下している。一方,Fig.3よりdSIは1.8~3.0 μmの間で殆ど増大しないことが分かる。NV,Sは5000~100000 mm-3の範囲にあり,NV,Cと同様に実験前半で比較的大きく低下してからゆっくり低下する傾向を示す。

Fig. 2.

Changes in the average diameter dCI and the volume number density NV,C of Al2O3 cluster inclusions in molten steel with time.

Fig. 3.

Changes in the average diameter dSI and the volume number density NV,S of Al2O3 single inclusions in molten steel with time.

Al2O3介在物の凝集性を評価するため,各実験におけるAl2O3クラスター介在物の平均粒子直径の最大値dCI,Maxと溶鋼中O濃度およびS濃度との関係を整理し,Fig.4に示す。dCI,Maxは溶鋼中O濃度およびS濃度の上昇に伴い減少するが,O濃度に対するdCI,Maxの減少割合が大きいことから,SよりもOの方がAl2O3介在物の凝集性を大きく低下させることが分かる。

Fig. 4.

Relation between the O and S concentrations in molten steel and the maximum average diameter dCI,Max of Al2O3 cluster inclusions.

3・2 溶鋼中での全Al2O3介在物,Al2O3クラスター介在物およびAl2O3単体介在物の減少速度

Al強脱酸溶鋼中のAl濃度[Al]の経時変化の一例をFig.5に示す。実験中のAl濃度がほぼ一定であることから,Al強脱酸実験だけでなく雰囲気とるつぼの条件が同じAl弱脱酸実験においても溶鋼の再酸化反応は生じていないと考えられる。

Fig. 5.

Typical changes in the Al concentration [Al] in molten steel with time in the strong Al deoxidation experiment.

Al強脱酸実験では溶鋼中Al濃度の分析値からItohらのAl脱酸平衡の熱力学的再評価値6)を用いて,またAl濃度が分析限界以下のAl弱脱酸実験ではAl添加前のO濃度とAl添加量を基にAl脱酸平衡の熱力学的再評価値とマスバランスの両方を用いて,実験中のO濃度を算出した。全Al2O3介在物酸素濃度[I.O]Tは,全てのAl2O3介在物に含まれる酸素量の溶鋼中濃度であり,各時間における全酸素濃度の分析値から実験中のO濃度を差し引いた値として求めた。一方,溶鋼中のAl2O3クラスター介在物の酸素濃度[I.O]CとAl2O3単体介在物の酸素濃度[I.O]Sは,鋼中介在物の顕微鏡観察で得られたdCI,dSI,NV,CおよびNV,Sを用いて各々式(2)と式(3)から計算した。

  
[I.O]C=100(4π/3)(dCI/2)3NV,Cε3MOρAl2O3/(MAl2O3ρFe)(2)
  
[I.O]S=100(4π/3)(dSI/2)3NV,S3MOρAl2O3/(MAl2O3ρFe)(3)

MOはOの原子量,MAl2O3はAl2O3の分子量,ρAl2O3はAl2O3介在物の密度で3970 kg・m-3ρFeは鋼の密度で常温では7880 kg・m-3ɛはAl2O3クラスター介在物のAl2O3充填率である。

[I.O]Tと[I.O]C+[I.O]Sとの関係をFig.6に示す。なお,図中ではS添加の有無により実験結果を区別して表示した。全Al2O3介在物酸素濃度が低い領域では,後述のように実験後半で粗大なAl2O3クラスター介在物の検出個数が少なくなったため,[I.O]Tが[I.O]C+[I.O]Sより若干大きい側に偏る傾向を示すが,全てのAl脱酸実験で概ね[I.O]T=[I.O]C+[I.O]Sの関係が成立している。

Fig. 6.

Relation between the oxygen concentration [I.O]T of total Al2O3 inclusions and the summations [I.O]C+[I.O]S of the oxygen concentrations of Al2O3 cluster and single inclusions.

[I.O]T,[I.O]T-[I.O]Sおよび[I.O]Sの対数の経時変化をFig.7に示す。ここでは,Al2O3クラスター介在物の酸素濃度変化として,[I.O]Cに比べてばらつきの少ない[I.O]T-[I.O]S(=[I.O]C)を採用した。[I.O]T,[I.O]T-[I.O]Sおよび[I.O]Sの対数は時間の経過とともに直線的に低下している。そこで,[I.O]T,[I.O]T-[I.O]Sおよび[I.O]Sの経時変化に各々式(4)から式(6)の一次速度式を適用して,各々の減少速度定数を求めた。

  
d[I.O]T/dt=kT[I.O]T(4)
  
d[I.O]C/dt=kC[I.O]C(5)
  
d[I.O]S/dt=kS[I.O]S(6)
Fig. 7.

Changes in the logarithms of (a) [I.O]T of total Al2O3 inclusions, (b) [I.O]T-[I.O]S of Al2O3 cluster inclusions, and (c) [I.O]S of Al2O3 single inclusions with time.

ここで,kTは全Al2O3介在物の減少速度定数(s-1),kCはAl2O3クラスター介在物の減少速度定数(s-1),kSはAl2O3単体介在物の減少速度定数(s-1)である。

kT,kCおよびkSの各々に及ぼす溶鋼中O濃度とS濃度の影響をFig.8に示す。kT,kCおよびkSはほぼ一致すること,これらの速度定数は溶鋼中O濃度およびS濃度の上昇に伴い減少するが,O濃度に対する各速度定数の減少が顕著であることが分かる。

Fig. 8.

Effect of O and S concentrations in molten steel on the decrease rate constant kT for total Al2O3 inclusions, the decrease rate constant kC for Al2O3 cluster inclusions, and the decrease rate constant kS for Al2O3 single inclusions.

4. 考察

4・1 溶鋼中Al2O3介在物の凝集・除去に関するモデル実験としての妥当性

全ての実験において,脱酸前の全酸素濃度から実験中のO濃度を差し引くことにより脱酸直後の[I.O]Tを求めると0.0161~0.0177 mass%であり,その平均値は0.017 mass%であった。Okumuraら7,8)は,初期の全介在物酸素濃度が高くなるにつれて介在物の凝集合体が促進され,その結果介在物の減少速度も速くなることを,機械攪拌下における溶銅中SiO2介在物のスラグへの除去実験により明らかにした。しかし,本実験では脱酸直後の[I.O]Tは概ね0.017 mass%に揃えているため,Al2O3介在物の凝集・除去に対する初期[I.O]Tの影響を考慮する必要はない。

Al脱酸実験は,抵抗加熱炉を用いた非常に緩やかな攪拌条件の下で行われているため,一旦溶鋼表面に浮上分離したAl2O3介在物が再び溶鋼中に巻き込まれる可能性は低い。Fig.5では実験中にAl濃度の低下が見られないことから,溶鋼の再酸化による新たなAl2O3介在物の生成反応も進行していない。また,Fig.6に示したように溶鋼中O濃度またはS濃度を所定の値に制御した全てのAl脱酸実験で全酸素濃度の分析値から得られた[I.O]Tと介在物の粒径分布から求めた[I.O]C+[I.O]Sが一致するため,溶鋼中における一次脱酸介在物の形態別粒径分布は妥当な精度で評価されており,[I.O]Cと[I.O]Sは各々クラスター形状と単体形状のAl2O3介在物量に,[I.O]Tは全Al2O3介在物量に対応させてよいと考えられる。

以上の検討から,溶鋼のAl脱酸条件がよく制御された本実験によれば,一次脱酸起因のAl2O3介在物だけに着目し,その凝集と除去の挙動を界面活性元素のOS濃度と関連付けて全介在物量と形態別介在物量の時間変化から捉えることが可能である。

4・2 溶鋼中Al2O3介在物の除去機構

Al脱酸実験では,静止溶鋼に近い弱攪拌浴中でAl2O3介在物同士の凝集合体と浮上分離が生じている。Al2O3クラスター介在物の粒子直径を最小20 μm,Al2O3単体介在物の粒子直径を最大3 μmとして静止溶鋼中での介在物浮上に適用できるStokes則9)(後述の式(14))から実験時間10分間の浮上距離を求めると,溶鋼深さ56.8 mmに対して各々19.3 mmと1.8 mmとなり,本Al脱酸実験ではAl2O3単体介在物は殆ど浮上できないことが分かる。このことを考慮すると,Fig.2Fig.3の実験結果は概略以下のように説明できる。実験初期において,溶鋼中に生成したAl2O3クラスター介在物は浮上途中で微細なまま懸濁しているAl2O3単体介在物と凝集合体することによりdCIが大きくなると共に,NV,Sが低下する。同時にAl2O3クラスター介在物は浮上分離されるため,NV,Cも低下する。その後,浮上速度が速い比較的粒子直径の大きいAl2O3クラスター介在物が優先的に除去されるため,dCIは最大粒子直径に達してから減少傾向に変わるが,NV,CとNV,Sはそのまま緩やかに低下し続ける。一方,Al2O3単体介在物は溶鋼中に微細分散しているため,dSIは実験時間内では殆ど増大しない。

上記の検討から,Al2O3介在物の除去モデルとして溶鋼のAl脱酸により生成した粗大なAl2O3クラスター介在物が,主に懸濁している微細なAl2O3単体介在物との凝集合体を繰り返しながら浮上分離する機構を仮定する。溶鋼中の微細なAl2O3単体介在物がAl2O3クラスター介在物と凝集合体して新たにAl2O3クラスター介在物を生成する速度は,Al2O3単体介在物濃度に比例すると考えkSC・[I.O]Sで表す。ここで,kSCはAl2O3単体介在物からのAl2O3クラスター介在物の生成速度定数であるとともに,Al2O3単体介在物がAl2O3クラスター介在物と凝集する速度定数でもある。一方,溶鋼中におけるAl2O3クラスター介在物の浮上分離速度は,その介在物量に比例するから浮上分離速度定数kCFを用いてkCF・[I.O]Cで与える。上記のAl2O3介在物の除去モデルによれば,溶鋼中のAl2O3クラスター介在物の減少速度は①Al2O3クラスター介在物の浮上分離速度と②Al2O3単体介在物からのAl2O3クラスター介在物の生成速度との差であり,式(7)で表される。

  
d[I.O]C/dt=kCF[I.O]CkSC[I.O]S(7)

本研究では,この式(7)で表されるAl2O3介在物の除去モデルに基づいて実験結果を解析することにより,溶鋼中Al2O3介在物の除去機構を定量的に議論する。

4・2・1 Al2O3介在物の除去モデルに基づく実験結果の整理

Fig.6で示したように溶鋼中の全Al2O3介在物量はAl2O3クラスター介在物量とAl2O3単体介在物量の和に等しいことから,式(8)が成り立つ。

  
[I.O]C=[I.O]T[I.O]S(8)

溶鋼中Al2O3クラスター介在物の減少速度については,式(8)の両辺を時間微分した上で,その右辺のd[I.O]T/dtおよびd[I.O]S/dtを各々式(4)と式(6)を用いて書き直すと式(9)が得られる。αは全Al2O3介在物酸素濃度に占めるAl2O3クラスター介在物酸素濃度の割合で式(10)となる。

  
d[I.O]C/dt=kT[I.O]TkS[I.O]S=kT/α[I.O]CkS[I.O]S(9)
  
α=[I.O]C/[I.O]T=1[I.O]S/[I.O]T(10)

Al脱酸実験中のαが時間に依存せずほぼ一定であると見なせれば,式(7)と式(9)の比較からkCFとkSCは各々式(11)と式(12)となる。

  
kCF=kT/α(11)
  
kSC=kS(12)

溶鋼中のAl2O3単体介在物は式(6)にしたがって減少するが,式(12)によればその減少量kS・[I.O]Sは新たに生成するAl2O3クラスター介在物量kSC・[I.O]Sに等しいことが理解できる。さらに,式(10)の定数αを用いて式(5)と式(6)を[I.O]Tに関する一次速度式の形に整理し,各々を式(4)と比較することにより式(13)の関係が得られる。

  
kT=kC=kS(13)

Fig.8では式(13)の関係が成立していることから,Al脱酸実験中のαを近似的に定数として扱うことは可能と思われる。全ての実験データについて式(10)より時間毎の平均αを調べると時間の経過によらず0.53であった。

したがって,Fig.8の実験結果からαを0.53とした式(11)と式(12)を用いて,溶鋼中Al2O3介在物の除去モデルにおけるkCFとkSCを求めることができる。

4・2・2 溶鋼中Al2O3クラスター介在物の浮上分離速度定数

溶鋼中におけるAl2O3クラスター介在物の浮上分離速度定数を,以下に述べる凝集合体のない簡単な介在物浮上機構に基づいて評価する。溶鋼中には代表粒子直径dCI,Rを持つAl2O3クラスター介在物のみが存在し,溶鋼は完全に混合されているが,攪拌は非常に緩やかでAl2O3クラスター介在物同士の凝集合体もないと仮定する。dCI,Rは実験中一定に維持されているから,溶鋼中でのAl2O3クラスター介在物の浮上速度vC(m・s-1)がStokes則の式(14)に従うとすれば,Al2O3クラスター介在物の浮上分離速度は式(15)で表される。

  
vC=2(ρFeρC)(dCI,R/2)2g/(9μ)(14)
  
dNV,C/dt=(A/V)vCNV,C(15)

ここで,ρFeは溶鋼の場合7000 kg・m-3,gは重力の加速度(m・s-2),μは溶鋼の粘性係数で0.005 Pa・s,Aは溶鋼表面積(m2),Vは溶鋼体積(m3),ρCはAl2O3クラスター介在物の密度(kg・m-3)でAl2O3クラスター介在物のAl2O3充填率を用いて式(16)で表される。

  
ρC=ερAl2O3+(1ε)ρFe(16)

式(2)の関係を用いて式(15)のNV,Cを消去して整理すると式(17)が得られる。

  
d[I.O]C/dt=(A/V)vC[I.O]C(17)

溶鋼中Al2O3クラスター介在物の実質的な浮上分離速度は,式(7)からAl2O3クラスター介在物の生成項kSC・[I.O]Sを除いた式(18)で与えられる。

  
d[I.O]C/dt=kCF[I.O]C(18)

式(17)と式(18)の比較から求めたkCFに式(14)を適用して整理すると,式(19)が得られる。

  
kCF=(A/V)vC=(A/V)(ρFeρC)gdCI,R2/(18μ)(19)

したがって,溶鋼中から実質的に浮上分離されるAl2O3クラスター介在物のdCI,Rを見積もり実験条件とともに式(19)に代入すると,おおよそのkCFを評価できる。また,溶鋼中でのAl2O3クラスター介在物の減少速度は式(5)で表されるので,式(17)との比較からkCについても式(19)と同様の式が得られる。kCは溶鋼中でAl2O3クラスター介在物の浮上分離と凝集合体による生成が同時に起こる場合の見掛けの浮上分離速度定数であるから,両者の影響が反映された溶鋼中Al2O3クラスター介在物の平均粒子直径に相当するdCI,Rを用いれば,式(19)は妥当なkCを与えるものと考えられる。

4・2・3 溶鋼中Al2O3単体介在物の凝集速度定数

溶鋼中に懸濁するAl2O3単体介在物が浮上中のAl2O3クラスター介在物に付着する凝集速度を,溶鋼中のAl2O3単体介在物の濃度変化として定式化する。ある時間に平均粒子直径dCIのAl2O3クラスター介在物が,Al2O3単体介在物酸素濃度[I.O]Sの溶鋼中に体積個数密度NV,Cで均一に分布しているとして,溶鋼を1個の大きなAl2O3クラスター介在物を中心に配置し,その周囲に微細なAl2O3単体介在物が懸濁した小多面体要素に分割する。この小多面体要素を体積の等しい球要素で近似すると,その半径RE(m)は式(20)で与えられる。

  
RE={3/(4πNV,C)}1/3(20)

1個のAl2O3クラスター介在物へのAl2O3単体介在物の凝集速度は,溶鋼中Oの物質移動と同じ機構を仮定すると,Al2O3単体介在物酸素濃度を用いて式(21)のように表される10)

  
dnO/dt=ACkm{ρFe/(100MO)}[I.O]S(21)

ここで,nOは1個のAl2O3クラスター介在物に付着するAl2O3単体介在物中の酸素原子のモル数(mol),kmは溶鋼中を浮上するAl2O3クラスター介在物へのAl2O3単体介在物の溶鋼側物質移動係数(m・s-1),ACはAl2O3クラスター介在物の表面積(m2)で4π・(dCI/2)2である。一方,1個のAl2O3クラスター介在物へのAl2O3単体介在物の凝集速度は球要素の溶鋼中におけるAl2O3単体介在物の減少速度に等しいため,その凝集速度は式(22)でも与えられる。

  
dnO/dt=VE{ρFe/(100MO)}(d[I.O]S/dt)(22)

VEは球要素の体積(m3)で4/3π・RE3である。式(21)と式(22)の右辺が等しいことから,溶鋼中Al2O3単体介在物の減少速度として式(23)が得られる。

  
d[I.O]S/dt=(AC/VE)km[I.O]S(23)

式の導出過程から分かるように,式(23)からはACとVEの両方がほぼ一定と見なせる短時間での[I.O]Sの変化だけしか予測できない。しかし,比表面積AC・VE-1は式(24)で与えられるため,Al2O3クラスター介在物の粗大化と浮上分離が同時に進行することにより実験時間内でのAC・VE-1の変化が比較的小さく定数と見なせれば,本実験に式(23)を適用できる。

  
AC/VE=πNV,CdCI2(24)

その場合,式(12)を考慮して式(6)と式(23)を比較すると,Al2O3単体介在物の凝集速度定数は式(25)のように表される。

  
kSC=(AC/VE)km(25)

溶鋼中Al2O3単体介在物の物質移動に浸透説を適用すると,kmは式(26)で表される。

  
km=2π1/2(DEqvC/dCI,Max)1/2(26)

DEqは溶鋼中のAl2O3単体介在物の相当拡散係数(m2・s-1)であり,kmを算出するための代表粒子直径には各実験におけるAl2O3介在物の凝集性を最もよく表すdCI,Maxを用いた。よって,式(25)に式(26)と式(14)を適用して整理すると,kSCは最終的に式(27)となる。

  
kSC=2(AC/VE){DEq(ρFeρC)gdCI,Max/(18πμ)}1/2(27)

以上の検討により,式(27)に適切なAC・VE-1とDEqを与えることによりkSCを概略評価することが可能である。

4・2・4 溶鋼中Al2O3介在物の除去機構検討

実験から得られたkCFとkCに及ぼすdCI,Rの影響をFig.9に示す。△,○と□は各々dCI,Maxの粒径分布において直径15 μm以上,20 μm以上と25 μm以上のクラスター介在物を対象にDeHoffの式4)から再計算した平均粒子直径dCI,Max15,dCI,Max20およびdCI,Max25をdCI,RとしてプロットしたkCFの実験値である。◇はdCI,MaxをdCI,RとしてプロットしたkCの実験値を,実線は式(19)の計算値を示す。kCに関して実験値と計算値がよく一致することから,適正なdCI,Rを代入すれば式(19)により対象とするAl2O3クラスター介在物の浮上分離速度定数を評価できることが分かる。この式(19)によるkCFの計算値はdCI,Max15をdCI,Rとした場合に実験値より過小に,dCI,Max25をdCI,Rとした場合に実験値より過大に評価することになるが,それらの中間値であるdCI,Max20をdCI,Rとした場合には実験値を最もよく再現する。したがって,実質的に溶鋼中から浮上分離されるAl2O3クラスター介在物の粒子直径は20 μm以上と考えられ,実験から得られたkCFはその直径以上の粒径分布から評価した平均粒子直径に基づいて式(19)から理論的に予測される妥当な値であることが明らかである。

Fig. 9.

Effect of the representative average diameter dCI,R of Al2O3 cluster inclusions on the flotation and separation rate constant kCF and the decrease rate constant kC for Al2O3 cluster inclusions.

光学顕微鏡観察によるdCIとNV,Cを用いて式(24)から求めたAC・VE-1と検出したAl2O3クラスター介在物個数との関係を実験開始からの時間で区別してFig.10に示す。実験開始から4分までのAC・VE-1(○)は,Al2O3クラスター介在物の検出個数に依存せず195 m-1を平均値として一定の範囲に分布するが,実験開始から6分以降のAC・VE-1(△,□)は,Al2O3クラスター介在物の検出個数が概ね25個未満になると,その検出個数の減少につれて低下する(一点鎖線)。これは,実験開始から6分以上経過した溶鋼中ではAl2O3クラスター介在物の個数密度が大きく低下しているので,その検出個数が少なくなると粒子直径の大きなクラスター介在物が検出されにくくなり実際よりもAC・VE-1を小さく評価してしまうためだと考えられる。よって,本研究では実験後半でもAC・VE-1の低下は比較的小さいと見なし,実験中のAC・VE-1として実験開始から4分までの平均値195 m-1を採用する。なお,本実験では,式(24)から分かるようにAl2O3クラスター介在物の粗大化と浮上分離が同時に起こるため,AC・VE-1の変化が比較的小さくなったと考えられる。

Fig. 10.

Relation between the specific surface area AC·VE–1, obtained by optical microscopic observation of Al2O3 inclusions, and the detected number of Al2O3 cluster inclusions.

Fig.11に実験から得られたkSCとdCI,Maxとの関係を示す。溶鋼中に懸濁する微細なAl2O3粒子の相当拡散係数は不明であるため,2つの極端な場合として溶鋼中Oの拡散係数2.3×10-9 m2・s-1 11)とStokes-Einsteinの式(28)で示される微細粒子のBrown拡散係数2.3×10-13 m2・s-1を仮定して式(27)よりkSCを求め,各々点線と一点鎖線でFig.11に示した。

  
DEq=kBT/(3πμdSI)(28)
Fig. 11.

Relation between the agglomeration rate constant kSC of Al2O3 single inclusions and the maximum average diameter dCI,Max of Al2O3 cluster inclusions.

kBはBoltzmann定数,Tは絶対温度である。なお,Al2O3単体介在物の平均粒子直径は1.8~3.0 μmの範囲にあったので,その中間値の2.4 μmを式(28)によるBrown拡散係数推定のdSIとした。kSCの実験値は,溶質Oの拡散と微細粒子のBrown拡散を想定して計算した2つの凝集速度定数の間にあり,両拡散係数の中間値3.3×10-11 m2・s-1をDEqとして式(27)から求めた計算値(実線)と概ね一致した。よって,実験から得られたkSCは,Al2O3クラスター介在物へのAl2O3単体介在物の凝集に対して溶質元素の物質移動と類似の機構を仮定して導出した式(27)により予測できる妥当な結果であると考えられる。

以上のように,溶鋼中Al2O3クラスター介在物の減少速度は,妥当性が検証されたkCFとkSCを用いて式(7)により適切に表現できることから,本研究の弱攪拌溶鋼中でのAl2O3介在物の除去は,Al脱酸により生成した粗大なAl2O3クラスター介在物が溶鋼中に懸濁している微細なAl2O3単体介在物と凝集合体を繰り返しながら浮上分離する機構により合理的に説明できることが明らかである。

4・3 溶鋼中Al2O3介在物の凝集機構

4・3・1 溶鋼中Al2O3介在物間の空隙架橋力による凝集力

溶鋼中Al2O3介在物の凝集性と凝集力の関係を整理するために,溶鋼中でAl2O3単体介在物間に働く空隙架橋力による凝集力を評価する13)。溶鋼中で空隙架橋を形成して接触している二等球Al2O3介在物間に働く凝集力FA,S(N)は,空隙架橋と溶鋼間の圧力差ΔPFe(Pa)および溶鋼の表面張力σFe(N・m-1)に起因する力の和として式(29)のように表される。

  
FA,S=πR42ΔPFe+2πR4σFe(29)

R4は空隙架橋頸部の半径(m)で式(30)から計算することができる。

  
R4={3σFe+(9σFe28σFeΔPFercosθAl2O3Fe)0.5}/(2ΔPFe)(30)

ΔPFeは3.86×103 Pa,rはAl2O3介在物の半径(m)で単体介在物を想定して1 μmを用いた。θAl2O3-Feは溶鋼とAl2O3間の接触角を示し,式(31)で表される。

  
θAl2O3Fe=cos1((4σFe2FA2)/(8σFeΔPFerCY))(31)

FAは前報3)で測定したAl2O3円柱間に働く凝集力(N・m-1),rCYは凝集力測定実験におけるAl2O3円柱の半径(m)で4 mmである。また,溶鋼の表面張力に及ぼす溶鋼中O濃度とS濃度の影響は,式(32)のように定式化している3)

  
σFe=1.940.291ln(1+237aO)0.235ln(1+185aS)(32)

ここで,aOは溶鋼中Oの活量,aSは溶鋼中Sの活量である。したがって,式(31)のθAl2O3-Feと式(32)のσFeを用いて式(30)からR4を求め,その値を式(29)に代入することにより溶鋼中で粒子半径1 μmのAl2O3介在物間に働く凝集力を実測のFAに基づいて見積もることができる。

4・3・2 溶鋼中Al2O3介在物の凝集に伴う自由エネルギー変化

溶鋼中Al2O3介在物の凝集機構を熱力学に基づいて議論する際に,溶鋼中でのAl2O3介在物同士の凝集に伴う自由エネルギー変化ΔGAgは凝集傾向の指標として利用できる。二枚の薄板状Al2O3介在物について,ΔGAg(J・m-2)を求めると式(33)となる12)

  
ΔGAg=σAl2O3Al2O32σAl2O3Fe(33)

σAl2O3-Feは溶鋼とAl2O3間の界面張力(N・m-1),σAl2O3-Al2O3はAl2O3同士の界面張力(N・m-1)でありAl2O3の表面張力σAl2O3(N・m-1)と二面角φ(°)を用いて式(34)のように与えられる。

  
σAl2O3Al2O3=2σAl2O3cos(ϕ/2)(34)

式(33)を式(34)とYoungの式(35)を用いて書き直すと,式(36)が得られる。

  
σAl2O3Fe=σAl2O3σFecosθAl2O3Fe(35)
  
ΔGAg=2σFecosθAl2O3Fe2σAl2O3(1cos(ϕ/2))(36)

σFeは式(32),θAl2O3-Feは式(31)により各々与えられる。σAl2O3は0.75 N・m-1 13),φは同種の酸化物同士では150°14)である。以上の値を式(36)に代入することにより,溶鋼中のO濃度とS濃度に応じてΔGAgを計算することができる。

4・3・3 溶鋼中Al2O3介在物の凝集機構検討

溶鋼中に微細なAl2O3単体介在物が分散している系では,Al2O3介在物と溶鋼との界面積が大きく,その界面張力も大きいため,系全体の自由エネルギーは非常に高い状態にある。熱力学によれば系全体は低い自由エネルギー状態に向かって変化しようとするため,溶鋼中に分散しているAl2O3単体介在物は強い凝集傾向をもつと考えられる。そこで,凝集性を表すdCI,MaxとkSCの両者に及ぼすΔGAgの影響を整理し,Fig.12に示す。界面活性元素であるOSの違いによらず,ΔGAgの低下とともにdCI,MaxとkSCは直線的に増加しており,凝集に伴って系の自由エネルギーが大きく低下するほど溶鋼中のAl2O3介在物は強い凝集傾向を示すことが分かる。よって,溶鋼中でのAl2O3介在物の凝集性は熱力学に基づいたマクロ的な見方でよく説明できることが明らかである。

Fig. 12.

Effect of the free energy change ΔGAg with agglomeration of Al2O3 inclusion on the maximum average diameter dCI,Max of Al2O3 cluster inclusions and the agglomeration rate constant kSC of Al2O3 single inclusions.

しかし,実際に凝集が起こるための機構を熱力学だけから解明することは難しく,さらに粒子間の相互作用に基づくミクロ的な視点での検討が重要である。著者は,これまで溶鋼中に生成したAl2O3介在物間には,溶鋼中のvan der Waals力や溶鋼表面上のCapillary力に比べて非常に強い空隙架橋力を起源とする凝集力が作用すること2),その凝集力はAl2O3介在物に働く浮力や抗力に比べて大きいため,一旦付着したAl2O3介在物同士は溶鋼流動下でも容易に分離されず付着状態を維持すること1)を明らかにしている。このことから,Al2O3介在物の凝集における粒子間の相互作用として空隙架橋力に着目し,dCI,MaxとkSCに与えるFA,Sの影響を整理しFig.13に示す。dCI,MaxとkSCは,何れも界面活性元素であるOSの種類によらず,FA,Sの増大に比例して大きくなる一つの直線関係で整理されることが分かる。これは,溶鋼中に懸濁しているAl2O3単体介在物と浮上するAl2O3クラスター介在物の構成粒子との間に働く空隙架橋力による凝集力が大きくなるにつれて凝集速度が速くなり,その結果Al2O3クラスター介在物の粒子直径も大きくなったと理解することができる。

Fig. 13.

Effect of the agglomeration force FA,S between two isospherical Al2O3 inclusions of 1 μm radius on the maximum average diameter dCI,Max of Al2O3 cluster inclusions and the agglomeration rate constant kSC of Al2O3 single inclusions.

以上のことから,本研究の弱攪拌浴におけるAl2O3介在物の凝集は,熱力学的に凝集傾向をもつAl2O3介在物が互いに接近すると粒子間に空隙架橋力を起源とする凝集力が作用するため,Al2O3介在物同士が強く引き合って接触する機構により,界面活性元素の影響まで含めて統一的に説明できることが明らかである。また,溶鋼中で接近する一対のAl2O3介在物が流体力学的な相互作用のみで粒子間溶鋼の粘性抵抗を超えて接触に至ることは難しく15),さらに空隙架橋力による凝集力が非常に強い長距離引力であることも考慮すると,強攪拌の溶鋼中であってもAl2O3介在物の凝集に対して空隙架橋力による凝集力は重要な役割を果たすと考えられる。

5. 結言

溶鋼中のO濃度とS濃度を制御した弱攪拌浴でのAl脱酸実験に基づいて溶鋼中Al2O3介在物の凝集・除去機構を検討し,以下の結論を得た。

(1)本研究の弱攪拌溶鋼のAl脱酸実験では,初期介在物量の一定制御,溶鋼再酸化の防止と二次生成介在物の分離により,一次脱酸起因のAl2O3介在物だけに着目して,その凝集と除去の挙動を界面活性元素のOSの影響を考慮して速度論的に取り扱うことができる。

(2)溶鋼中の全Al2O3介在物,Al2O3クラスター介在物とAl2O3単体介在物の各減少速度定数,およびAl2O3クラスター介在物の平均粒子直径の最大値は何れも溶鋼中O濃度およびS濃度の上昇に伴い減少するが,その影響はSよりもOの方が著しく大きい。

(3)溶鋼中でのAl2O3介在物の除去は,Al脱酸により生成した粗大なAl2O3クラスター介在物が溶鋼中に懸濁している微細なAl2O3単体介在物と凝集合体を繰り返しながら浮上分離する機構により合理的に説明できる。

(4)溶鋼中でのAl2O3介在物の凝集は,熱力学的に凝集傾向をもつAl2O3介在物が互いに接近すると粒子間に空隙架橋力を起源とする凝集力が作用するため,Al2O3介在物同士が強く引き合って接触する機構により,界面活性元素のOSの影響まで含めて統一的に説明できる。

(5)溶鋼中で接近する一対のAl2O3介在物が,流体力学的な相互作用のみで粒子間溶鋼の粘性抵抗を超えて接触に至ることは難しく,さらに空隙架橋力による凝集力が非常に強い長距離引力であることも考慮すると,強攪拌の溶鋼中であってもAl2O3介在物の凝集合体に対して空隙架橋力による凝集力は重要な役割を果たすと考えられる。

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© 2020 The Iron and Steel Institute of Japan

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