Tetsu-to-Hagane
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Transformations and Microstructures
Recrystallization Behavior and Formation of {411}<148> Grain from α-fiber Grains in Heavily Cold-rolled Fe-3%Si Alloy
Masato Yasuda Kenichi MurakamiKohsaku Ushioda
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2020 Volume 106 Issue 3 Pages 143-153

Details
Abstract

Recrystallization texture is essential to control the mechanical and magnetic properties of steels. Both γ-fiber (ND//<111>) and α-fiber (RD//<011>) textures are known to develop during the rolling process of bcc iron. Recrystallization behavior from γ-fiber has been extensively studied. On the other hand, recrystallization behavior from α-fiber, in particular after heavy cold rolling reduction, has not been sufficiently clarified. In this study, recrystallization behavior from α-fiber, focusing on the formation of {411}<148> recrystallized grain, was investigated by means of EBSD and TEM. {411}<148> region already existed in the vicinity of deformed grains having upper α-fiber orientation ({100}<011> ~ {211}<011>). TEM observation revealed the existence of the lamellar structure with {411}<148> relatively fine dislocation cells in the {211}<011> deformed grains. With the progress of the recovery, {411}<148> subgrains (dislocation cells) are postulated to easily form and are surrounded by the deformed matrix grains with high angle interface. Thus, it is easy to form the recrystallization nuclei having the potential to grow with the sake of both high driving force and high interface mobility. At the early stage of recrystallization, {411}<148> recrystallized grains developed in {211}<011> deformed grains. At the later stage, {411}<148> recrystallized grains from {211}<011> deformed grains encroach {100}<011> deformed grains and new {411}<148> recrystallized grains developed in {100}<011> deformed grains.

1. 緒言

圧延プロセスを経て製造される鉄鋼材料の集合組織はα-fiber(RD//〈011〉)およびγ-fiber(ND//〈111〉)と呼ばれる二つの繊維集合組織のグループで特徴づけられる。ここで,RD(Rolling Direction)は圧延方向,ND(Normal Direction)は板面法線方向である。γ-fiber集合組織(γ-fiberと略称)は自動車パネルや容器等の深絞り成形性に優れた特性を示す1,2)。一方,α-fiberは,成形性の観点では抑制を求められるが,圧延再結晶プロセスでは必然的に形成されるため,その理解は重要である。再結晶集合組織の形成については,古くから配向核形成説(ON:Oriented Nucleation)と配向成長説(OG:Oriented Growth)とで説明されてきたが,未だ統一見解は出ていない。例えば,γ-fiber方位の再結晶について,配向核形成説の見地37)から,IF(Interstitial Free)鋼の場合には,冷間圧延時に粒界近傍において局所的に不均一な変形が生じ,優先的にND//〈111〉再結晶粒が形成され{111}再結晶集合組織が発達すると考える報告がある3)。一方,配向成長説の見地8,9)からは,再結晶核に優先方位はないが{554}〈225〉({111}〈112〉近傍方位)方位は冷延集合組織である{211}〈011〉方位と〈110〉軸廻りに27°の回転関係を有しており,両者の界面は移動度が高いため,{111}再結晶集合組織として発達することが報告されている8)

α-fiberからの再結晶については,{h, 1, 1}〈1/h, 1, 2〉方位粒が再結晶するとされ,その中でも,{411}〈148〉(Bungeのオイラー角表記においてφ1=~19.5°,Φ=~19.5°,φ2=45°)については,近年,研究が盛んである。例えば,Hommaら10)は高圧下のbcc 鉄において,α-fiber中の{100}〈011〉~{211}〈011〉加工粒の粒界近傍から{411}〈148〉方位粒が再結晶することを配向核形成説の観点から報告している。同様に,Gobernadoら11)はクロス圧延したIF鋼において,{100}〈011〉の粒界や変形帯から{311}〈136〉(φ1=~20°,Φ=~25°,φ2=45°,{411}〈148〉とのズレ角5.6°)再結晶集合組織の発達を報告している。またQuadir and Duggan12)は,{411}〈148〉方位粒が{100}〈011〉加工粒内の変形帯に再結晶することを95%圧下のIF鋼にて報告している。一方,配向成長説の見地からは,{411}〈148〉再結晶集合組織の発達機構について,次のような報告がある。Verbekenら13)は95%圧延したIF鋼において冷延集合組織の{211}〈011〉と{311}〈147〉(φ1=~17°,Φ=~26°,φ2=45°,{411}〈148〉とのズレ角7.0°)は〈110〉軸廻りに26.5°の回転関係にあることから{211}〈011〉加工粒に{411}〈148〉粒が優先成長することを報告している。上述した報告におけるα-fiberからの再結晶挙動や{411}〈148〉再結晶粒の起源に関しては,その成分系や冷延圧下率などは種々の条件であることから,未だ十分に明らかにはされているとは言えない。

これまでに著者らは,強冷延されたFe-3wt%Si(以降は%と略称)合金において,{411}〈148〉に着目し,再結晶から粒成長までの集合組織変化を一貫して調査してきた14)。その結果,再結晶途中において{411}〈148〉粒は加工粒の粒界近傍から多く再結晶し,これらは隣接する加工粒を蚕食することで,再結晶完了時には大きな再結晶粒を有していることを明らかとした。さらに,その後の正常粒成長の過程で{411}〈148〉が他方位をサイズ効果で蚕食し,主方位として発達することを報告した。本報では,強冷延されたFe-3%Si合金における{411}〈148〉再結晶粒の起源を明らかにすべく,α-fiberからの再結晶挙動を詳細に調査することを目的とした。すなわち,まずマトリクスとなるα-fiber方位を有する冷延加工粒の起源を探るべく,冷延前集合組織を調査し,α-fiber加工粒の起源を明らかとする。次にα-fiber方位中からの再結晶,特に{411}〈148〉再結晶挙動を明らかにすべく,冷延組織,回復組織,部分再結晶組織の集合組織変化をXRDおよびEBSDを用いてマクロ的に調査した。同時にミクロ的な評価として,それら組織における転位下部組織を透過電子顕微鏡を用いて観察し,セル組織,サブグレインや再結晶粒の観察に基づき再結晶挙動を検討した。

2. 実験方法

Fe-3.25%Si-0.06%C成分を有する板厚2.8 mmの熱延焼鈍板を出発材料とした。熱延焼鈍板は圧下率89%にて板厚0.3 mmまで冷間圧延し,冷延板を得た。冷延板を湿水雰囲気で昇温速度15°C/sにて580°C,620°C,640°C,680°C,690°C,700°C,720°C,750°Cまで加熱後に空冷し,回復あるいは部分再結晶した試料を得た。

熱延焼鈍板のTD(Transverse Direction)断面をナイタール腐食し光学顕微鏡で観察した。また,電解研磨仕上げし,SEM(Scanning Electron Microscopy)-EBSD(Electron Back Scattering Diffraction)(JEOL社JSM-7800,EDAX OIM DATE COLLECTION)にて結晶方位測定を行い,表層から1/10層までの結晶方位測定結果をもとに,ODF(Orientation Distribution Function)を得た。本報では,集合組織はφ2=0,45°断面のODFで示した。

冷延板を含む種々の部分再結晶板は,圧延面を機械研磨で1/10層まで減厚しX線回折による集合組織の測定に供した。{200},{220},{222}面の極点図をXRD(X-ray Diffraction)(RIGAKU社RINT2500HF)にて測定し,ODFを得た。また,試料のTD断面を電解研磨仕上げし,SEM-EBSDにて測定し,ミクロ解析を行った。SEM-EBSDの解析条件については,Table 1に示した。

Table 1. Measurement condition of EBSD for each sample.
SampleStep sizeFigureNo.
Hot annealed band4 μmFig.2
Cold rolled sheet0.15 μmFig.3
0.015 μmFig.4
0.15 μmFig.15
Recovered specimen annealed at 580°C0.15 μmFig.6
0.015 μmFig.7
Partially recrystallized specimen annealed at 580-750°C0.015 μmFig.18

冷延板および580°C熱処理した回復板においてはSEM-EBSDでの観察視野と同じ視野をFIB(日立ハイテクノロジーズ社 NB5000)にてFIB-μサンプリング法にて薄膜試料として切り出し,200 kV-電界放出型透過電子顕微鏡(JEOL社JEM-2100F)にて明視野像を撮影し,必要に応じて電子線回折にて結晶方位の同定を行った。

3. 結果

Fig.1には熱延焼鈍板をTDから光学顕微鏡にて観察した組織写真を示す。表層から中心まで再結晶組織であった。本報では冷延,再結晶板における表層1/10層に着目した集合組織の形成を主題とするため,熱延焼鈍板の集合組織も表層1/10層(表層280 μm)に着目して評価した。最表層は脱炭していたのに対して,それより内部では粒界に沿って炭化物が析出していた。熱延焼鈍板の表層1/10層はGoss方位{110}〈001〉が発達し,微弱なα-fiber方位も確認された (Fig.2)。結晶組織はRDに延伸したブロック状であり,その平均サイズはRDに約50 μm,NDに約30 μmであった。

Fig. 1.

Optical micrograph of hot annealed band observed from TD cross section.

Fig. 2.

(a) ND IPF map, (b) TD IPF map and (c) ODFs in φ2=0, 45° section in surface layer of hot annealed band.

Fig.3には冷延板の表層1/10層近傍をTDからEBSDにて観察し,α-fiber方位を有する典型的な視野を示す。α-fiber方位のラメラ構造を有しており,一部はγ-fiber方位を有する加工粒も存在した。Fig.3におけるα-fiber方位は主に{211}〈011〉であったが,{100}〈011〉を有する視野も多く観察された。加工粒の厚みは種々ばらつきがあるものの3-5 μm程度であった。圧延変形による幅伸びはなく,圧下率89%であることを考慮すると,熱延焼鈍板における結晶粒のNDの厚み30 μmから想定される厚さとよく一致し,冷延組織の個々の加工粒は熱延焼鈍板での個々の結晶粒に由来することがわかる。Goss方位を有する単結晶1519)の圧延では,{111}〈112〉に結晶回転することがよく知られている。一方,Goss方位を主方位とする多結晶においては圧下率30~50%の範囲では{111}〈112〉に近い{554}〈225〉へ結晶回転し,圧下率を高めると{211}〈011〉まで回転し,その後は{100}〈011〉および{111}〈011〉まで結晶回転することにより,いわゆるα-fiber方位が発達することが報告20)されている。本結果においても同様の結晶回転で,冷延板の圧延集合組織形成を説明できる。

Fig. 3.

Typical area of α-fiber orientation (a) ND IPF map, (b) orientation map of {411}<148>, {100}<011> and {211}<011> and (c) ODFs in φ2=0, 45° section in surface layer of cold rolled sheet.

Fig.3に示す枠内を拡大して解析した結果,{211}〈011〉加工粒の粒界近傍および粒内に{411}〈148〉領域が先在していることが明らかとなった (Fig.4)。{211}〈011〉加工粒と{411}〈148〉領域の境界にはEBSDによる結晶方位の同定が困難なセル壁が存在した。セル壁に沿って{411}〈148〉領域が存在していた。同一箇所をFIBにてTD断面の薄膜試料を切り出し,TEMにより{211}〈011〉加工粒内の{411}〈148〉領域に注目して転位下部組織の観察を行った (Fig.5)。電子線回折により{211}〈011〉および{411}〈148〉を確認し,またSEM-EBSDで観察した組織との位置関係の整合をとった。冷間圧延した{211}〈011〉加工粒は,圧延方向と約18°の角度を持つセル壁で囲まれた板状の厚さが300 nm程度の転位セルからなるラメラ構造を有していた。そのうち,{411}〈148〉領域は,厚み100 nm程度のいくつかの微細な転位セルで構成されていた。転位セルの境界はTEM内で試料を傾けて視野を撮影し描写し,転位セルごとに電子線回折で結晶方位を確認した。{211}〈011〉加工粒内の粒界近傍で{411}〈148〉方位((411)[184])を有した転位セルは,{211}〈011〉方位((211)[011])の転位セルと隣接し,その方位差は24.2°であり,大角粒界であった。他方,別の方位を有したうねりのある厚み30 nm程度の転位セルとも隣接していた。その方位は{221}〈122〉((122)[212])に近く,{411}〈148〉との方位差は58.1°存在し,大角粒界を有していることが確認された。この大角粒界は冷延前の結晶粒由来の粒界であることが推察される。尚,方位差角導出に当たり,オイラー角はEBSD測定結果を用いた。別の視野の観察においても,{411}〈148〉領域は厚み100 nm程度の転位セルで構成されたラメラ構造となっていた。

Fig. 4.

(a) IQ map and (b) superimposed orientation map of {411}<148> and {211}<011> in IQ map in surface layer in cold-rolled sheet.

Fig. 5.

(a) TEM bright-field image showing the embedded {411}<148> region in the vicinity of {211}<011> grain boundary of cold-rolled sheet specimen, (b) sketch of (a) and (c) electron diffraction pattern in TEM image (a). (The diffraction patterns were taken with the incident electron beam parallel to the [111]α-Fe or [113]α-Fe.)

Fig.6には580°Cにて焼鈍した回復板をTDからEBSDにて観察し,α-fiber方位を有する典型的な視野を示す。α-fiber方位とγ-fiber方位のラメラ構造を有していた。Fig.6に示す枠内を拡大して解析した結果,冷延板と同じくα-fiber方位を有する加工粒の粒界近傍に{411}〈148〉が先在していることが明らかとなった (Fig.7)。FIBにて薄膜試料を切り出し,下部組織のTEM観察を行った (Fig.8)。{211}〈011〉加工粒の粒界に{411}〈148〉を有する転位セル,もしくは回復によりサブグレイン化した組織が,いくつか隣接し存在し,厚みは冷延板で観察された転位セルとほぼ同じであり,100 nm程度であった。{211}〈011〉加工粒内の粒界近傍で{411}〈148〉方位((411)[184])を有した転位セル(サブグレイン)は,相対的に大きな{211}〈011〉方位((211)[011])の転位セルと接し,その方位差は28.5°であり,大角粒界であった。他方,別の方位を有した転位セルとも隣接しており,その方位は{211}〈120〉((211)[120])に近く,{411}〈148〉との方位差は42.4°存在し,大角粒界を有していることが確認された。この大角粒界は冷延前の結晶粒の旧粒界であることが示唆される。

Fig. 6.

Typical area of α-fiber orientation (a) ND IPF map, (b) orientation map, and (c) ODFs at φ2=0°, 45° section in surface layer of the specimens annealed at 580°C.

Fig. 7.

(a) IQ map and (b) superimposed orientation map of {411}<148> and {211}<011> in IQ map in surface layer of the specimen annealed at 580°C.

Fig. 8.

(a) TEM bright-field image showing the embedded region of {411}<148> in the vicinity of grain boundary of {211}<011> deformed matrix in the specimen recovery annealed at 580°C, (b) sketch of (a) and (c) electron diffraction patterns in TEM image (a). (The diffraction patterns were taken with the incident electron beam parallel to the [111]α-Fe or [113]α-Fe.)

「転位セル」や「サブグレイン」の術語の区別は転位壁の厚みやセル内の転位量から精緻に行うべきであるため,本報では,小角粒界に囲まれ,転位を多く有する組織単位を転位セルもしくはサブグレインと定義し,TEM観察上は両者を明瞭には区別していない。ただし,回復過程での転位セルの成長に伴うサブグレインへの遷移を考慮し,580°C熱処理により回復が進んだ転位セルをサブグレインと称することとした。

620,640,680°Cにて焼鈍した部分再結晶板の再結晶率は,それぞれ17,27,53%であった。各再結晶段階において{411}〈148〉再結晶粒を観察した。観察した{411}〈148〉再結晶粒の数は再結晶率17,27,53%の試料において,それぞれ190,214,254個であった。これら{411}〈148〉再結晶粒の存在サイトを大きく次の3つのタイプに大別して整理した。すなわち,(i)加工組織と加工組織の間,(ii)再結晶組織と加工組織の間,(iii)再結晶組織内に存在する{411}〈148〉再結晶粒に整理した(Fig.9a-c)。このうち,加工組織の多くは,上部α-fiber(ここで,{100}〈011〉~{211}〈011〉を上部α-fiberと呼ぶ)であったので,加工組織については{100}〈011〉および{211}〈011〉に大別した。いずれのタイプにも属さないものは母数から除去し,それぞれの存在頻度を分類した(Table 2)。Table 2から明らかなように,いずれの再結晶段階においても,(ii)に属するものが多く,{411}〈148〉再結晶粒がα-fiber加工組織と接し,もう一方側では再結晶粒と接した箇所に存在する場合が多い。特に,再結晶の初期においては,α-fiber加工組織の中でも{211}〈011〉の頻度が高いように思われる。すなわち,{411}〈148〉再結晶粒は再結晶初期においては{211}〈011〉加工粒と接しており,後期には{100}〈011〉加工粒と接する頻度が増えた(Table 2Fig.10)。また,Table 2から明らかなように,(i)のケースにおいても,再結晶初期は加工組織の一方が{211}〈011〉の場合の頻度は高い。再結晶の進行に伴い,おそらく上記した(i)の場合から(ii)の状態に進展するものと推察される。

Fig. 9.

Classification of {411}<148> recrystallized grain and {100} pole figures in partially recrystallized specimens: (a) between deformed grains, (b) between deformed grains and recrystallized grains and (c) between recrystallized grains.

Table 2. Classification of {411}<148> recrystallized grains and change in their types with fraction recrystallized.
Fraction recrystallized17%27%53%
Annealing temperature620°C640°C680°C
(i) Between deformed grains{100}<011>/{100}<011>123
{211}<011>/{100}<011>1059
{211}<011>/{211<011>844
(ii) Between deformed grain and recrystallized grains{100}<011> / recrystallized grains131719
{211}<011> / recrystallized grains474126
(iii) Between recrystallized grains213139
Inside deformed grain{100}<011>000
{211}<011>000
total100100100

(%)

Fig. 10.

Change in frequency of {411}<148> recrystallized grains formed along {100}<011> and {211}<011> deformed grains with fraction recrystallized.

同じ試料について,XRDによる集合組織評価を行った。Fig.11には種々の再結晶率におけるNDから観察した金属組織と集合組織を示す。併せてODF強度の差分を示し,再結晶に伴う集合組織の変化を示した。尚,集合組織は測定した結晶方位の存在頻度を球面調和関数法にてODFに展開した結果(展開次数:16)をφ2=45°断面で示す。580°C試料では全面が加工組織であり再結晶しておらず,620°C試料から再結晶が開始していることが確認された。加工組織はα-fiberが発達しており,わずかにγ-fiber,特に{111}〈011〉方位が発達した。まず,γ-fiberについては再結晶の進行に伴い{111}〈011〉が減少し,{111}〈112〉が発達した。一方,α-fiberにおいては,再結晶の初期である580°Cから620°Cにかけては{111}〈011〉~{211}〈011〉が減少し,再結晶の後期である680°Cから720°Cにかけては{211}〈011〉~{100}〈011〉が減少した。種々の再結晶率に対して,注目するα-fiber方位である{100}〈011〉および{211}〈011〉,ならびに{411}〈148〉のODF強度の増減をプロットしたのがFig.12である。再結晶の初期において,{211}〈011〉の減少に伴い{411}〈148〉が増加していることが認められる。ここでは{211}〈011〉加工粒からの{411}〈148〉再結晶粒の核生成が示唆される。また,再結晶の後期にかけては{211}〈011〉に加えて{100}〈011〉が大きく減少し,併せて{411}〈148〉がさらに増加したことがわかる。再結晶後期における{211}〈011〉および{100}〈011〉の減少は,{411}〈148〉再結晶粒の核生成に加えて,粒成長も同時に起こっていると考えるのが,妥当である。注目方位の変化挙動が,局所解析であるEBSD結果(Fig.10Table 2)と広範囲を測定したXRD結果とで同じ傾向であることからも,その代表性を支持する結果であった。

Fig. 11.

(a) IQ maps in ND section, (b) ODFs at φ2=45°. (c) difference ODFs at φ2=45° showing texture change with increase in fraction recrystallized in surface layer of partially recrystallized specimens.

Fig. 12.

Change in intensities of orientations in ODF with annealing temperature: (a) upper α-fiber textures such as {100}<011> and {211}<011>, (b) {411}<148>.

4. 考察

4・1 {100}〈011〉~{211}〈011〉加工粒の再結晶

再結晶板における{411}〈148〉再結晶粒の起源は,熱延焼鈍板表層に存在したゴス方位が圧延により結晶回転した上部α-fiber({100}〈011〉~{211}〈011〉)方位を有する加工粒にあると推定された。また,種々の再結晶段階における部分再結晶板での観察結果(Table 2Fig.10)や主要方位の変化挙動(Fig.12)から,再結晶初期には{211}〈011〉加工組織,中期から後期にかけては{100}〈011〉加工組織が{411}〈148〉再結晶粒の形成に深く関与することが推定される結果であった。ここでは,{100}〈011〉~{211}〈011〉加工粒の再結晶挙動について考察する。再結晶の進行度すなわち再結晶しやすさは,最終安定方位に依存すると考えられる。これは,圧延変形により蓄積された歪エネルギーが,圧延方位により異なるためである。ところで,圧延集合組織の形成機構は,単純な一軸性の引張変形や圧縮変形に比べて非常に煩雑であるが,圧延変形では幅伸びがほとんどないことから圧延面法線方向と圧延方向との歪から成る平面歪と近似することができる。また,多結晶体を構成する個々の結晶粒が塑性変形中に受ける歪もしくは応力についても,厳密には非常に複雑であり,いくつかのモデルが提唱されている2123)。ここでは,Taylorモデルを前提とすると,再結晶のしやすさを決める歪エネルギーは式(1)のM値で表される。

  
M=στ=Σdγdε(1)

ここで,σ:主応力,:主歪の変化,τ:剪断応力,Σ:活動するすべり系での剪断歪の総和とする。したがって,M値の大小は与えられた主歪を担うのに必要な剪断歪の和を意味する。

M値が大きい方位は動く転位の数が多いため,変形組織として残留する転位密度も大きくなる。すなわち,歪エネルギーが高く,高エネルギーブロック説に立脚すると再結晶しやすいことが考えられる。Dillamoreら24)は圧延変形を平面歪と仮定してM値を計算した。その結果,代表的なRD//〈011〉方位においては,次の関係が成立することを報告している。

  
M{111}011>M{211}011>M{100}011(2)

この結果からも{100}〈011〉に対して,{211}〈011〉は歪エネルギーが高く再結晶しやすく,本試験での{100}〈011〉~{211}〈011〉加工粒における再結晶挙動,すなわち前期から中期では{211}〈011〉加工粒が,後期では{100}〈011〉加工粒が再結晶粒の核生成と成長により侵食されることを説明できる。一方,前報14)で述べたようにND//〈111〉粒も歪エネルギーが高く,初期に再結晶することが予想される。

4・2 {411}〈148〉方位の形成

次に{411}〈148〉方位の形成について考察する。立方晶では結晶学的に等価な結晶方位が24通りあり,対称性に応じてバリアントが減る。{411}〈148〉方位は4つのバリアントを持ち,{211}〈011〉は2つのバリアントをもつ(Fig.13)。Fig.14aFig.13で示すバリアントの色分けを用いた方位マップであり,{211}〈011〉粒とその粒内に存在する{411}〈148〉の{100}極点図をFig.14bに示す。Fig.13に示したように{411}〈148〉および{211}〈011〉は,それぞれ4つおよび2つの異なるバリアントをもつが,実際に観察したFig.14においては,種々のバリアントのうち,それぞれ1つだけが現れていることがわかる。この組み合わせは,他のバリアントの組み合わせに対して,小さい角度差を有する特徴がある。すべり系を考慮しなければ,少ない結晶回転で到達できる方位にもみえる。Bcc鉄の場合は,すべり系として{110}〈111〉型と{211}〈111〉型に24通り({123}〈111〉型を含めると48通り)のすべり系が用いられる。単一すべりを仮定すると,回転軸はすべり面に平行ですべり方向には垂直である。Fig.14bに示した{110}極点図から,{211}〈011〉と{411}〈148〉は共通の〈110〉軸を回転軸として有しており,すべり面は{211}であることが定性的に示唆される。また,{411}〈148〉が粒界近傍で多く存在することについては,粒界近傍では粒界や隣接粒の拘束により不均一変形が入りやすく,圧延安定方位である{211}〈011〉が局所的に結晶回転しやすいためと推察される。Gobernadoらも11),圧延安定方位のひとつである{100}〈011〉はその加工粒の粒界近傍では,不均一変形による局所的な結晶回転が生じ,{311}〈136〉へ結晶回転すると主張している。また,Takenakaら25)は90%圧下したFe-3%Siにおいて,C添加により炭化物もしくは固溶Cが増加し,冷延時に不均一変形が導入され, {110}〈111〉,{112}〈111〉,{123}〈111〉の複数のすべり系が活動することを報告している。

Fig. 13.

{100} pole figures showing (a) two symmetrically equivalent {211}<011> orientations (b) four symmetrically equivalent {411}<148> orientations.

Fig. 14.

(a) Orientation map of {211}<011> and {411}<148> in TD cross sectional surface layer in cold-rolled sheet, where the color coding corresponds to that in Fig.13, and (b) pole figures showing (211)[011] in blue color and (411)[184] in red color. A green circle indicates the common rotational axis.

4・3 {411}〈148〉再結晶粒の形成

本節では,{211}〈011〉加工粒の粒界近傍に先在した{411}〈148〉領域からの再結晶過程について考察する。Fig.15にはNDから観察した部分再結晶組織の中で,{211}〈011〉方位に近い加工粒の結晶方位マップと{100}極点図を併せて示す。Fig.14と同様に,{211}〈011〉加工粒に隣接する{411}〈148〉再結晶粒は角度差の小さいバリアントのみが現れている。{411}〈148〉,{211}〈011〉はそれぞれ4つおよび2つのバリアントの中で角度差の小さいバリアント同士が同一加工粒内に転位セルとして先在し,回復に伴うサブグレイン化を経て,大角粒界に囲まれた再結晶粒を獲得することが示唆される。

Fig. 15.

(a) Orientation map of {211}<011> deformed grains and {411}<148> recrystallized grains which was color-coded by each variants in partially recrystallized specimen annealed at 650°C. (b) {100} pole figure corresponding to color map in (a).

{211}〈011〉加工粒内の{411}〈148〉領域が再結晶粒を有する機構を考えるにあたり,まず,{211}〈011〉と{411}〈148〉の方位分布について考察する。圧延での安定方位である{211}〈011〉は,転位セルもしくはサブグレイン間での方位の揺らぎはあるものの{211}〈011〉加工粒全体においてはわずかな方位変化が交互に生じ,短範囲では打ち消し合うことが考えられる。一方,{211}〈011〉加工粒の粒界では,隣接粒による拘束を受け局所的に不均一な結晶回転が生じて{411}〈148〉領域が形成され,短範囲において大きな方位差を有するものと考えられる。Fig.16a,bには,その概念図を示す。また,Fig.16c,dには,Fig.4に示した冷延組織における矢印の方向の場所による方位差変化の実測値を,隣接点との方位差(Line A),および原点との方位差(Line B)として表した。圧延安定方位で均一性の高いと推定される{211}〈011〉加工粒と不均一性の高い{411}〈148〉領域とを比較した。{211}〈011〉加工粒と比較して,{411}〈148〉領域は同じ範囲において角度差は実際に大きかった。

Fig. 16.

Schematic diagrams showing change in misorientation with distance in (a) stable orientation area, and (b) inhomogeneous orientation area. Experimetally determined change in misorientation with distance in (c) {211}<011> orientation area and (d) {411}<148> orientation area.

次に,{411}〈148〉再結晶粒の形成を模式的にFig.17に示す。併せて,{411}〈148〉粒内の方位差変化をFig.16に倣って模式的に示す。粒界近傍で不均一な結晶回転で生じた{411}〈148〉方位を有する転位セルは,転位の合体消滅,再配列やポリゴン化によりサブグレイン化し(Fig.17a),亜粒界のわずかな移動(サブグレインのわずかな成長)により,隣接する{411}〈148〉サブグレインとの方位差が大きくなりやすい(Fig.17b)。成長したサブグレインのうち,方位差の大きくなったサブグレイン同士の亜粒界は比較的,移動しやすく,大きなサブグレインを形成しやすいと考えられる。一方,サブグレインと{211}〈011〉加工粒とは大角粒界を形成しているため,この界面は相対的に粒界移動が速い(Fig.17c)。結果として,大角粒界のみに囲まれた大きい再結晶粒が形成される(Fig.17d)。すなわち,{211}〈011〉加工粒や隣接する他の方位の加工粒と大角粒界で接する{411}〈148〉再結晶粒が,形成されると推察される。

Fig. 17.

Schematic diagrams showing {411}<148> recrystallization behavior together with misorientation change with distance in {411}<148> region. (a) Transition from cells to subgrains through annihilation and rearangement of dislocations. (b) Acquisition of large misorientation with adjacent subgrains through subgrain-growth. (c) Migration of low angle boundary of subgrains as well as high angle interface between recrystallized and deformed grains. (d) Acquisition of recrystallized grain surrounded by high angle grain boundaries.

{411}〈148〉および{211}〈011〉において互いに角度差の小さいバリアントのみが冷延組織で先在し,その後の再結晶においてもその関係にある方位のみが再結晶した実験結果(Fig.14Fig.15)から,{411}〈148〉再結晶粒の形成としては,一見,配向核成長を支持している結果が示唆される。しかしながら,Verbekenら13)が指摘するような,{311}〈147〉({411}〈148〉に近い方位)は{211}〈011〉加工粒と特定軸廻りの回転関係をもつことで,移動度が高く,優先成長している可能性もある。また,本報では,{411}〈148〉再結晶に関して,{211}〈011〉加工粒内の粒界近傍に先在した領域を中心に調査してきたが,Fig.12で示したように,再結晶後期では{100}〈011〉の強度減少に伴い,{411}〈148〉の強度増加も認められることや,{100}〈011〉加工粒の粒界からの再結晶11)や粒内の不均一変形帯からの再結晶を指摘する報告12,26)もあり,{100}〈011〉加工粒からの{411}〈148〉再結晶についても今後の検討課題としたい。

5. 結言

強冷延されたFe-3%Si合金における{411}〈148〉再結晶粒の起源を明らかにすべく表層1/10層のα-fiber,特に{211}〈011〉からの再結晶挙動を調査した。その結果,以下の結論が得られた。

(1)α-fiber方位に集積する冷延集合組織は,熱延焼鈍板の表層のゴス方位に由来した。

(2)冷延組織の上部α-fiber ({100}〈011〉~{211}〈011〉) を有する加工粒内,特に粒界近傍部に{411}〈148〉が先在した。

(3){411}〈148〉および{211}〈011〉はそれぞれ4つおよび2つのバリアントを持ち,角度差の小さいバリアント同士が同一加工粒内に先在した。さらに再結晶粒においても,それぞれの方位の再結晶粒近傍では角度差の小さいバリアント同士が再結晶した。

(4)冷延加工組織において{411}〈148〉が{211}〈011〉マトリクス粒内に先在し,それぞれのバリアントの組み合わせの特徴から,冷延安定方位に近い{211}〈011〉の結晶回転により{411}〈148〉が形成することが推察された。

(5)転位下部組織の観察から,{211}〈011〉加工粒における{411}〈148〉は相対的に微細な転位セルからなるラメラ構造を有した。また,このような{411}〈148〉領域においては,転位の消滅や再配列が生じサブグレインが形成され,またサブグレイン間の方位差も比較的大きい。一方では,{211}〈011〉マトリクスや隣接加工粒とは高角粒界を有しており,{411}〈148〉サブグレインは成長が容易であり,高角粒界に囲まれた再結晶核を形成することがわかった。

(6){411}〈148〉再結晶粒は,再結晶初期段階では{211}〈011〉加工粒から,また後期には{100}〈011〉加工粒からも形成され,このようにして核形成した再結晶粒は続いてこれらの加工粒に容易に成長することが示唆された。

文献
 
© 2020 The Iron and Steel Institute of Japan

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