Tetsu-to-Hagane
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Preface
Preface to the Special Issue on “Behaviour of Light Elements in Steels and Its Effects on Microstructure and Properties”
Hiroshi Numakura
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2020 Volume 106 Issue 6 Pages 291

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本特集号は,日本鉄鋼協会に2016年3月から2019年2月まで設置された研究会「鉄鋼中の軽元素と材料組織および特性」において行われた研究活動から,その成果のいくつかを報告するものである。

鉄鋼における炭素,窒素,ホウ素などの軽元素の挙動は鋼材の組織と特性を制御する最も重要な因子であり,これまで多くの研究がなされ今日も続けられているが,解明すべき課題,根源的・科学的理解が待たれる問題が少なくない。近年,電子顕微鏡やアトムプローブトモグラフィなどを用いた超微細構造解析法,微量元素の高感度な分析法などが一段と発展し,複雑な多元系材料である鉄鋼についても微量の軽元素の挙動が定量的に把握できるようになってきた。さらに,実験による解明が本質的に難しい問題を電子論にもとづくいわゆる「第一原理」計算によって理解あるいは解決しようという研究も鉄鋼材料に対して広くなされるようになってきている。このような状況の中で,鉄鋼中の軽元素を新しい手法で捉えなおすことを主眼とした上掲の研究会(軽元素研究会と略称)が協会の「材料の組織と特性」および「評価・分析・解析」の二つの部会の推薦により2016年に設置され,母体となったフォーラム「鉄鋼中の軽元素の挙動と力学特性の基礎」(2014-16年度)のメンバーを中心とする産官学の研究者約30名が参画して,3年間にわたって研究,討論,シンポジウム開催などの活動を行った。

軽元素研究会は,基礎研究で得られる科学的知見と実験事実を総合して鉄鋼材料における軽元素の機能を明らかにすることを目指して,原子レベルの微細組織解析,欠陥構造の第一原理計算,統計熱力学理論にもとづく解析やシミュレーションなどによって(1)鉄中のホウ素,炭素,窒素の存在状態と拡散,溶質原子クラスタの構造と形成,結晶欠陥との相互作用などの基礎的課題に取り組み,並行して(2)軽元素の存在・分布状態や動的挙動と組織形成および力学特性との関係を研究することを目標とした。実際の活動においては次の四つを研究課題として設定し,各課題を主に担当する数名の委員でグループを編成して研究を進めた:鉄鋼中のホウ素,鉄鋼中の炭素・窒素に関する基礎,炭素・窒素と合金元素の相互作用,軽元素と結晶欠陥との相互作用および力学特性との関係。本特集号には,これらの項目に関する研究の成果からそれぞれ4編,2編,2編,6編,合計14編の論文を掲載している。

14編の題目を一瞥すると,各論文の内容は個別的で焦点が明確でないように感じられるかもしれないが,このような基礎研究が蓄積されてゆくことによって,目標とする「定量的な材料設計」は実現に近づく。3年間という限られた期間ではあったが,研究者たちが産/官/学を横断して基礎的な視点から集中して研究に取り組み討論したことは有意義であった。加えて,研究の具体的な成果をここに論文集として報告できたことは研究会活動のもう一つの成果である。なお,この特集号には収録されなかった研究も内外の学術雑誌などに順次発表されることとなるであろうし,さらに,この研究会が目指したものは参画した委員やオブザーバとして参加した若手研究者に共有され引き継がれてゆくはずである。このような充実した活動を担った委員各位の尽力と,所属機関や関係者の協力および日本鉄鋼協会の支援に,研究会の主査としてここに謝意を表する。

 
© 2020 The Iron and Steel Institute of Japan

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