Tetsu-to-Hagane
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Fatigue Behavior in an Fe-N Binary Ferritic Steel: Similarity and Difference between Carbon and Nitrogen
Kishan HabibMotomichi Koyama Eisaku SakuradaNobuyuki YoshimuraTatsuo YokoiKohsaku UshiodaKaneaki TsuzakiHiroshi Noguchi
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2020 Volume 106 Issue 6 Pages 413-419

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Abstract

Fatigue crack initiation and propagation behavior of a water-quenched fully ferritic nitrogen steel were investigated by means of tension-compression fatigue tests. The Fe-0.011 mass% N steel showed no serrated flow associated with dynamic strain aging, and showed a fatigue limit of 150 MPa alongside a non-propagating fatigue crack. The major mode of crack initiation was at the grain boundaries, and the cracks propagated along the grain boundaries and interiors at and above the fatigue limit. The Fe-N steel did not exhibit a significant level of coaxing effect. The results were compared with our previous findings in Fe-0.006 and 0.017C steels, and the similarity and difference were discussed.

1. 緒言

侵入型固溶原子は,鉄鋼材料の疲労抵抗の向上および劣化の両面において重要な役割を担う。例えば,水素はき裂先端の塑性変形局所化により,疲労き裂進展を加速させる1)。対して,固溶炭素は粒内疲労き裂の進展抵抗を向上させ,鋼の疲労限を改善する2,3)。これら侵入型原子の効果は次世代耐疲労材料の開発・設計を実現する鍵であると考える。

炭素の効果については,動的ひずみ時効硬化(DSA)の発現が耐疲労特性に対して重要とされる。つまり,炭素の速度論的効果を理解することが,耐疲労特性の改善指針を確立するための鍵となる。類似の観点から,鉄鋼材料で同じく侵入型原子である窒素もひずみ時効硬化を引き起こす4)ので,固溶窒素も耐疲労特性を改善する可能性がある。しかし,炭素の効果と比較して,疲労き裂進展抵抗に対する固溶窒素の効果についての研究は少ない。このため,固溶窒素と疲労の関係に関する基礎研究として,Fe-N二元フェライト合金の耐疲労特性に着目することとした。

具体的には,疲労損傷発達をき裂発生と進展に分割して観察,議論を行う。さらに疲労き裂進展に対しては,微小き裂と大きなき裂に分けて考える。一般的に,疲労現象における“微小き裂”は様々な観点から定義される。例えば,微視組織的に微小なき裂5),力学的に微小なき裂6),物理的に微小なき裂7),化学的に短いき裂8)などがある。前研究によると2,3),固溶原子の速度論的効果は,疲労き裂発生および力学的・微視組織的に微小なき裂進展に対して有効に現れる。本研究では,鉄鋼材料の疲労寿命の70%を占める9)き裂発生から力学的・微視組織的に微小なき裂の進展までの疲労損傷発達に焦点をあてる。

我々は前研究2,3,10,11)にて,過飽和炭素Fe-C二元合金における疲労き裂発生および微小き裂進展について,以下の知見を得ている。

(1)固溶炭素はDSAを引き起こし,疲労き裂停留を助長する3,10,11)

(2)平滑材の疲労破壊は粒界き裂発生および粒界き裂進展を経て起こった。この粒界き裂問題は,粒界近傍の低炭素領域の存在が原因となっている可能性がある3,11)

(3)疲労限を超える応力振幅においては,き裂の合体が頻繁に観察される。このき裂の合体は,疲労寿命および疲労強度を低下させる2,3)

(4)Fe-C二元合金において炭素量を0.006 mass%から0.017 mass%まで増加させると,粒界き裂発生の抑制および停留き裂先端領域の硬化により,大きなコーキシング効果が表れる2)

これら固溶炭素に関する知見は,Fe-N合金の疲労挙動を理解する上で重要と考える。本研究ではフェライト単相のFe-N二元合金を用いて,固溶窒素の疲労特性に対する影響と関連するき裂進展挙動を明らかとし,上述固溶炭素の効果と比較検討することで,窒素の特殊性を明らかにすることを目的とする。

2. 実験方法

2・1 試料作製および引張試験

本研究では,セメンタイトおよびパーライトを含まない二元Fe-Nフェライト合金を用いた。本鋼の化学組成をTable 1に示す。試料は700°C,3.6 ksで溶体化処理後,セメンタイト形成や粒界への窒素偏析などを防ぐために水焼入れを施した。熱処理後,試料は試験片加工時を除き,冷凍機中-87°Cで保管した。 引張試験は長さ30 mm,幅4 mm,厚さ1 mmの平行部形状を有する試験片を用いて,各条件3回行った。試験条件は室温,初期ひずみ速度10-3 s-1,10-4 s-1,10-5 s-1とした。疲労試験片はFig.1に示す形状に旋盤にて加工し,その後機械研磨を行った。研磨表面を3%硝酸と97%エタノールの混合液 (vol%)でエッチングすることで金属組織を現出させ,以下の疲労試験を行った。

Table 1. Chemical compositions of materials used in this study (mass%).
SteelN%C%Si%Mn%P%S%Ni%Ti%Al%O*
Fe-0.0113N0.01130.0011< 0.003< 0.003< 0.002< 0.0003< 0.003< 0.002< 0.00229
Fe-0.017C [2]0.00090.017< 0.003< 0.003< 0.002< 0.0003< 0.003< 0.0020.05215
Fe-0.0063C [2]0.00070.00630.005< 0.0040.00030.00110.048< 10
IF steel [2]0.00080.00190.009< 0.003< 0.002< 0.00030.0290.02815

* indicates mass ppm

Fig. 1.

Fatigue test specimen geometry in millimeters (mm).

2・2 疲労試験

引張-圧縮疲労試験を室温,周波数30 Hzで行った。応力比(R)は-1,波形は正弦波とした。疲労限は1×107サイクルまで破断しない最大応力振幅と定義する。コーキシング効果も測定対象とし,疲労限で107サイクルまで試験した後,5 MPaずつ107サイクル毎に応力振幅を増大させた。段階的に応力振幅を増大させることで疲労強度が上昇することが知られており,これをコーキシング効果と呼ぶ12,13)。コーキシング効果はひずみ時効硬化が起こる材料で起こり易い14)。疲労き裂の観察のため,各試験段階における試料表面のレプリカを採取した。レプリカを酢酸メチルに浸漬し,試料表面に貼り付けることで表面凹凸を転写し,その表面凹凸を試験後に光学顕微鏡で観察した。破面は走査型電子顕微鏡(Scanning electron microscope:SEM)で観察した。加速電圧は15 kVに設定した。

3. 結果

3・1 初期組織,引張特性,ならびにセレーションの観察

Fig.2にFe-0.011N合金の初期組織を示す。初期組織はフェライト単相であり,平均結晶粒径は180 µmであった。Fig.3(a)に初期ひずみ速度10-4 s-1で測定されたFe-0.011N合金の工学応力-ひずみ(SS)曲線を示す。炭素との比較のため,既報論文11)で得られたFe-0.017C合金,Fe-0.006C合金,IF鋼のSS曲線も示す。0.2%耐力,引張強度,伸びをTable 2にまとめている。Fig.3(b)に異なるひずみ速度で得られたFe-0.011N合金のSS曲線を示す。本結果におけるFe-C合金との重要な差異は,いずれのひずみ速度においてもFe-N合金ではセレーションがSS曲線上に現れていないことである。つまり,固溶窒素は炭素と異なり,室温ではフェライト合金のDSAを誘起しない。

Fig. 2.

Optical micrograph showing the initial microstructure of the Fe-0.011N steel.

Fig. 3.

Engineering stress-engineering strain (SS) curves. (a) SS curve of the Fe-0.011N steel in comparison to the Fe-0.017C, Fe-0.006C, and IF steel curves. The initial strain rate was 10–3 s–1. (b) SS curves of the Fe-0.011N steel at different strain rates. The SS curves of the Fe-0.017C, Fe-0.006C, and IF steels are reproduced from our previous paper2).

Table 2. The 0.2% proof strength, tensile strength, elongation, and Vickers hardness values of the Fe-0.011N, Fe-0.017C, Fe-0.006C, and IF steels. The unit of the Vickers hardness values was converted from kgf/mm2 to MPa to obtain non-dimensional values in Fig.4(b).
Steel0.2% Proof Stress (MPa)Tensile Strength (MPa)Elongation (%)Vickers hardness (MPa)
Fe-0.011N22026529941
Fe-0.017C11)300400311235
Fe-0.006C11)18530028823
IF steel11)11523562598

3・2 応力振幅-疲労寿命線図とコーキシング効果

Fig.4(a)にFe-0.011N合金の応力振幅-疲労寿命(SN)線図を示す。比較として,Fe-0.017C合金,Fe-0.006C合金,IF鋼の結果も示す2)。Fe-N合金の疲労限は150 MPaであった。通常,疲労限および疲労寿命は引張強度または硬さで整理される。しかし,DSAが起こる合金における引張強度には有意なひずみ速度依存性があり,どのひずみ速度における結果を用いるべきか判断できない。このため,今回はビッカース硬さで疲労強度を規格化する。応力振幅をビッカース硬さ(MPa)で除して疲労寿命に対してプロットした結果をFig.4(b)に示す。Fe-0.011N合金の疲労限/硬さ比はFe-0.017C合金,Fe-0.006C合金ならびにIF鋼よりも低いことがわかる。ここで,階段状の線は107サイクル以降のコーキシング効果試験の結果を示している。Fe-0.011N合金のコーキシング効果はIF鋼よりは大きいものの,Fe-0.017C合金よりも小さく,Fe-0.006C合金と同等程度である。

Fig. 4.

(a) Stress amplitude vs. number of cycles curves (SN). The open marks show the fatigue lives of broken specimens and the solid marks show that of the unbroken specimens. (b) Number of cycles to failure plotted against stress amplitude (MPa) normalized by Vickers hardness (MPa). SN curve data of the Fe-0.017C, Fe-0.006C, and IF steels are adopted from our previous paper2). (Online version in color.)

3・3 疲労き裂発生と伝ぱ挙動

Fig.5はFe-0.011N合金の疲労限(150 MPa)における試料表面のレプリカ画像である。疲労き裂は粒界で発生し(Fig.5(b)),上下の粒内を進展した((Fig.5(c))。Fig.5(c)中青矢印で示されるように,粒界に沿った二次き裂も観察された。この二次き裂は伝ぱし(Fig.5(d)),その後主き裂と合体した(Fig.5(e))。しかし,き裂は,7×106から1×107サイクルの間停留した(Figs.5(e-f))。つまり,Fe-0.011N合金ではFe-C合金と同様に3),疲労限においてき裂停留が起こることが確認された。

Fig. 5.

Replica images showing non-propagating fatigue cracks of Fe-0.011N steel at the fatigue limit (150 MPa): (a) 0, (b) 1.9×106, (c) 2.7×106, (d) 5.5×106, (e) 7.8×106, and (f) 1×107 cycles. The red arrows and dashed lines indicate the positions of the crack tips. (Online version in color.)

Fig.6(a-b)は,疲労限よりも70 MPa高い220 MPaの応力振幅で試験をしたときのFe-0.011N合金の試料表面のレプリカ画像である。Fig.6(a)中に赤および青矢印で示されるように,3×104サイクルで二つの粒界き裂が観察された。Fig.6(b)中青矢印で示すように,これらき裂は6×104サイクルまで主に粒界に沿って進展した。また,Fig.7(a)中赤矢印で示すように,その他の領域においても粒界に沿った微小き裂の発生および伝ぱが観察された。しかし,き裂が長くなると,き裂進展経路は粒内となる(Fig.7(b-d))。すべり線はFig.7(b)の挿入図で示されるように,粒界き裂近傍で発達している。また,Fig.7(d)で示されるように,き裂進展がき裂合体により加速することも注目すべき事実である。

Fig. 6.

Replica images of the Fe-0.011N steel showing (a) intergranular crack initiation (N=2×104 cycles) and (b) propagation (N=3×104) at a stress amplitude of 220 MPa. The red and blue arrows indicate positions of tips of the two cracks. (Online version in color.)

Fig. 7.

Replica images of the Fe-0.011N steel showing intergranular and transgranular fatigue crack propagation at a stress amplitude of 220 MPa: (a) 5×104, (b) 6.5×104, (c) 9×104, and (d) 1.1×105 cycles. The red arrows indicate crack tips. The inset in (b) indicates a magnified image of the region outlined by the black dashed lines. The intergranular crack in the inset was traced by the dotted red line. (Online version in color.)

Fig.8に220 MPaで破断させたFe-0.011N合金試料の破面SEM像を示す。Fig.8(a-b)は破面の全体像である。Fig.8(c)は試料上部からのき裂発生サイトを示しており,粒界破面が観察された。破面中央部近くではストライエーション状の模様が観察されている(Fig.8(d))。ここで観察された粒界破面とストライエーション状模様と類似の特徴はFe-0.017C合金でも観察されている3)

Fig. 8.

SEM fracture surface images of the Fe-0.011N steel tested at 220 MPa. (a) Upper and (b) lower parts of an overview of the fracture surface. (c, d) magnified images of the regions outlined by dashed lines in (a). (c) exhibits the region where the crack intergranular initiation and growth occurred. (d) indicates striations-like feature. (Online version in color.)

4. 考察:疲労における炭素と窒素の効果の比較

Table 3に示すように,本項ではFe-CとFe-N合金の疲労に関する諸現象・挙動を比較して議論する。次節より,まずは疲労き裂発生について議論する。

Table 3. Similarity and difference in fatigue-related behaviors between the Fe-0.017C and Fe-0.011N steels.
BehaviorCarbon steelNitrogen steel
DSA at RTYes11,15)No
Coaxing effectHigh2,3)Low
Preferential intergranular crack initiationYes3)Yes
Crack coalescence at fatigue limitNo2)Yes
Crack coalescence at high stress amplitudesYes2)Yes
Crack non-propagation at grain interiorYes2,11)Yes

4・1 疲労き裂発生

疲労限および高応力振幅におけるFe-0.011N合金の疲労き裂発生は粒界で起こった(Fig.6(a))。Fig.8(c)に示す破面は,粒界き裂発生を支持している。Fe-0.017C合金でも同様の粒界き裂発生が観察されている3)。一般的に,粒界はひずみ不適合や転位蓄積,表面起伏形成に由来して,優先的な疲労き裂発生サイトとなる16)。さらにFe-0.017C合金では,固溶元素欠乏領域の存在が粒界におけるひずみ集中を助長すると考えられ11,17),特に粒界き裂発生が容易だと想定される。これに関連して,Fe-0.011N合金で類似の粒界き裂発生が観察された事実(Fig.5(b,c)Fig.6(a))は,窒素も固溶元素欠乏領域を形成し,粒界近傍の塑性ひずみ集中を助長している可能性を示唆している。まとめると,30 Hzで107サイクル繰り返し荷重を与える条件では,固溶炭素も窒素も焼入れフェライト合金における粒界疲労き裂発生を抑制する効果がある。Fig.3(a)に示すように,固溶炭素と窒素は引張強度を上昇させる働きがあり,これに伴って疲労強度も上昇したと考える(Fig.4(a))。しかし,粒内強度と比較した場合の,相対的な粒界近傍の強度は上昇しない。

4・2 疲労き裂伝ぱと停留

き裂進展の観点では,き裂進展経路がき裂長さに依存する様子が観察された。き裂が短いとき,繰り返し数増加にともないき裂は粒界に沿って進展する(Fig.7(a))。すべり線が粒界き裂近傍に観察され(Fig.7(b)),粒界微小き裂進展は粒界近傍におけるすべり集中とき裂の成長の繰り返しによって起こっている。き裂が長くなると,粒内き裂進展が起こり(Fig.7(b)および(c)),ストライエーション状の破面模様を形成していた(Fig.8(d))。ストライエーションの形成は,観察された粒内き裂進展がき裂の鈍化・再鋭化機構によって起こっていることを示している18,19)。これらき裂進展挙動はFe-0.017C合金と同じである3)。Fe-C合金における粒界微小き裂進展の容易さは,固溶炭素添加による疲労限/硬さ比の向上を妨げていると報告されている3,10,11)。これと同じく,Fe-N合金における疲労限/硬さ比はFig.4(b)に示されている他の鋼よりも低い値となっている。

Fe-0.017C合金およびFe-0.011N合金において,ともに疲労限でき裂が停留した事実から(Fig.5(e)Fig.5(f),ならびに既報3)),それらの疲労限は疲労き裂停留限界で支配されているといえる。つまり,これら合金間の疲労限/硬さ比の差異を理解するためには,疲労き裂進展挙動の違いを議論する必要がある。ここで,疲労き裂の停留挙動に影響する二つの因子について示す。第一の因子はFe-C合金と異なり,Fe-N合金がDSAを示さなかった点である。 これはFe-0.011N合金における窒素の室温での拡散能が低いためだと考えられる。例えば,Baird and Jamieson20)はFe-N合金におけるセレーション開始の活性化エネルギーが63-84 kJ mol-1であり,ひずみ時効発現の温度範囲は373 K以上であると報告している。DSA由来のき裂先端の硬化はき裂停留の主因であるので,Fe-0.011Nで室温DSAが起こらない事が,Fe-0.017C合金よりも疲労限/硬さ比が低い原因の一つであると考える。この他のFe-N合金とFe-C合金の差異は,き裂合体の頻度にある。Fe-0.017C合金におけるき裂合体は高応力振幅で観察される現象であり,疲労限では起こらない3)。一方,Fe-0.011N合金では疲労限においてもき裂の合体が観察されている(Fig.5(e))。Fe-0.011N合金の疲労き裂先端では,特に新たなき裂発生が起こり易い傾向がある(Fig.5(c)および6(a))。つまり,Fe-0.011N合金のき裂発生頻度の高さが疲労限低下の一因として挙げられる。

4・3 コーキシング効果

Fe-0.011N合金の試験片では大きなコーキシング効果が現れず,三回目の応力増加で破断した(Fig.4(a))。対照的に,Fe-0.017C合金は破断までに九回の応力増加を必要とし,大きなコーキシング効果を示した(Fig.4(a))。このような大きなコーキシング効果はひずみ時効硬化に起因しており14),Fe-0.017C合金では段階的な応力振幅増加を与えた場合に粒界き裂発生および伝ぱの両方が抑制される2)。107以上のサイクルに対応する試験時間は,炭素が転位をピン止めするために十分な時効時間であり,き裂の発生および伝ぱを有意に向上させると考える。この観点では,コーキシング効果における炭素と窒素の違いはひずみ時効硬化能の差にあると解釈される。つまり,窒素は室温ではDSAを引き起こさないので,Fe-0.011N合金ではFe-0.017Cと異なり,有意なコーキシング効果が発現しなかったと考える。また前節で議論された,粒界き裂発生の容易さとこれに続くき裂合体の影響も,Fe-0.011N合金でコーキシング効果が表れなかった一因として考えられる。

5. 結言

本研究では,水焼入れFe-0.011Nフェライト単相合金を用いて,疲労き裂発生と微小き裂進展における固溶窒素の効果を調査した。また,既報Fe-C合金の結果2,3)に基づき,疲労における固溶炭素と窒素の影響について比較検討を行った。得られた知見を以下に示す。

(1)Fe-0.011N合金における硬さで規格化した疲労限は,Fe-0.006CおよびFe-0.017C合金よりも低い。

(2)Fe-C合金の場合と同様に,Fe-N合金において粒界き裂発生および伝ぱが観察された。

(3)Fe-C合金の場合と同様に,Fe-N合金の疲労限において停留き裂が確認された。

(4)Fe-C合金の場合と異なり,Fe-0.011N合金では室温 DSAが確認されなかった。この事実は,Fe-N鋼がFe-C鋼よりも低い疲労き裂停留限界を示した原因の一つと考える。

(5)Fe-C合金の場合と異なり,室温DSAが発現しなかったため,有意なコーキシング効果が現れなかった。

謝辞

本研究は科研費基盤S (JP16H06365)の助成を受けて遂行された。

文献
 
© 2020 The Iron and Steel Institute of Japan

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