Tetsu-to-Hagane
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Ironmaking
Production of High-Strength Coke from Low-Quality Coals Chemically Modified with Thermoplastic Components
Naoto Tsubouchi Ryo NaganumaYuuki MochizukiHideyuki HayashizakiTakahiro ShishidoAtul Sharma
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2021 Volume 107 Issue 1 Pages 15-23

Details
Abstract

In order to produce high-strength coke from low-quality coals, noncovalent bonds between O-functional groups in coal were cleaved by pyridine containing HPC pyridine soluble and HPC-derived thermoplastic components were introduced into the pores formed by swelling; thus, the synergistic effect during carbonization of the suppression of cross-linking reactions and the fluidity amplification due to close placement of coal and thermoplastic components was investigated. When HPC was extracted with pyridine, a decrease in O-functional groups was observed in the pyridine-soluble and pyridine-insoluble components. When HPC was extracted with MeOH, on the other hand, O-functional groups in HPC selectively moved into the soluble components. When non- or slightly-caking coal was chemically-modified with the prepared HPC pyridine-soluble components by utilizing the solvent-swelling effect of pyridine, the fluidity improved compared with the coals physically mixed with the soluble components or HPC. On the other hand, the fluidity of the chemically-modified sample with the MeOH-soluble components hardly changed from that of the original sample, and no effect of the modification with the thermoplastic component was observed. Furthermore, it was clarified that higher-strength coke can be produced from the chemically-modified sample with the HPC pyridine-soluble components than from the original coal or the physically mixed coal with the soluble components. The contraction behavior during carbonization of the chemically-modified sample with the soluble components and that of the original coal was investigated; as a result, a large difference was not observed between these two. Thus, it was found that high-strength coke can be produced from low-quality coals by the present method.

1. 緒言

製鉄用コークスには,高炉の低還元剤比操業によるCO2排出量削減を実現するため更なる強度増大が望まれている。しかし,その原料となる良質な粘結炭は,近年のアジア諸国における鉄鋼需要の増加にともない使用量が増している。そのため,良質な粘結炭の価格高騰と枯渇が懸念されている。従って,コークス製造用石炭資源拡大の観点から,安価で埋蔵量が豊富な劣質炭(非微粘結炭や非粘結炭(亜れき青炭など))からのコークス製造技術の開発が重要である。

近年,軟化溶融特性を有する石炭溶剤抽出成分(HPC:Hyper Coal)を劣質炭に添加し,粘結炭の使用量を低減可能なコークス製造法の開発が進められている1)。一方で,劣質炭中に非共有結合を介して多く含まれる含酸素官能基は,乾留時に容易に分解し,流動性低下の主原因となる架橋を形成する。そのため,溶融性向上のためには加熱時の架橋反応を抑制する必要がある2,3)。よく知られているように,非共有結合はピリジン等の高極性溶媒により容易に切断され,その結果生じる石炭/チャーの膨潤現象の程度から,非共有結合の相対的存在量と加熱時の架橋進行を見積もることが出来る4,5)。既往の研究に従えば,石炭中の炭素含有量と溶媒抽出率ならびに溶媒膨潤率の間には相関関係が存在し,後者2つは使用する溶媒に依存する68)。また,炭素含有量と架橋点間分子量プロットでは,炭素含有量が86-87 mass%-dafで最大値が認められている9,10)。さらに,Illinois No.6炭のピリジン抽出残渣を種々の有機溶媒に浸したときの膨潤値と溶媒の溶解度パラメーターを調べた報告に従えば,ペンタン,ベンゼン,CS2などの非極性溶媒と比較し,DMSO,THF,ピリジンなどの極性溶媒は高い膨潤値を示し,試験した溶媒のなかで最も高い値を示すのはピリジンである7)。このような溶剤による石炭の膨潤作用を利用し,溶剤を石炭中に導入した試料を迅速熱分解することで有用成分収率を増大させる試みがなされている11,12)。これは溶剤処理により溶剤分子程度のミクロ細孔を押し広げて石炭を膨潤させ,溶剤と石炭の近接化により石炭・溶剤の分解速度を合致させることで溶剤由来のラジカルと石炭フラグメントの反応を促進させるものである。また,膨潤作用により石炭内の非共有結合(水素結合)が解放され,その後の熱分解で架橋形成反応が抑制されることが明らかになっている13)。さらに,ピリジンを用いると低温から架橋反応を抑制して石炭抽出率を向上できることも報告されている14)。このような既往の報告に基づき,溶媒膨潤により石炭中の非共有結合を解放し,さらにコークス製造に重要と考えられている軟化溶融成分を膨潤作用により生成した石炭の空隙内に充填させることができれば,その後の乾留過程での架橋形成の抑制と石炭と軟化溶融成分の近接化により,高強度コークスが製造できる可能性がある。

そこで本研究では,ピリジンによる石炭中の含O官能基同士の非共有結合開裂と膨潤により生成した間隙内にHPC由来の軟化溶融成分を導入し,乾留時の架橋反応抑制と軟化溶融成分-石炭間の近接化による流動性増幅の相乗効果を図り,高強度コークス製造法を検討することを主な目的とした。

2. 実験

2・1 試料

新規コークス製造プロセス要素技術研究会から提供された異なる粒径(<250 μmと0.5~1.0 mm)の石炭試料(GA,TA,KP)とHPC(<250 μm)を主に使用した。使用した石炭の分析値をTable 1に示す。そのCとOの量は各々74~88と5~19 mass%-dafであった。粒径が0.5-1.0 mmの石炭はコークス製造用に用いた。

Table 1. Analyses of samples used in this study.
Sample Elemental analysis
mass%-daf
Proximate analysis mass%-dry
C H N S Oa Ash VMb FCb,c
KP 73.6 5.5 1.5 0.7 18.7 5.8 42.9 51.3
TA 83.5 5.1 2.0 0.4 9.0 6.2 37.5 56.3
GA 88.1 5.0 1.8 0.6 4.5 11.3 23.4 65.3
HPC 87.8 4.9 1.6 0.7 5.0 1.6 46.5 51.9

a Estimated difference. b Volatile matter. c Fixed carbon.

2・2 化学的担持炭の調製

HPC可溶分の化学的担持炭の調製では,先ずHPC 1 gに40 mLのピリジンを添加し,室温にて30 min超音波照射した。その後,3500 rpmで10 min遠心分離し,混合物をピリジン不溶分(沈降した固体)とピリジン可溶分(上澄み液)とに分離回収した。回収した不溶分に再度ピリジンを添加し,上記抽出操作をピリジン溶液が透明になるまで繰り返し行なった。回収した不溶分残渣は,上述した超音波と遠心分離によるアセトン洗浄を行なった後に抽出率を算出するために重量測定した。ピリジン不溶分から推算した可溶分収率は15 mass%であった。次に,得られたピリジン可溶分溶液中にTA,KPを添加し,室温で24 h 撹拌することで石炭の膨潤と可溶分の担持を行なった。その後,減圧下,60°Cでピリジンを除去してHPCピリジン可溶分を化学的に担持させた試料を得た。可溶分担持量は石炭に対し15~30 mass%の範囲であり,可溶分溶液と石炭の添加量の比を変化させることにより制御した。さらに,ピリジン可溶分のキャラクタリゼーションのため,石炭を添加せず,可溶分溶液中のピリジンを減圧除去して,固体の可溶分を得た。また,比較のため,石炭に対して膨潤作用のあるメタノール(MeOH)を用いて,上記と同様の操作を行ない実験に供した。MeOH 可溶分の収率は10 mass%である。尚,MeOH可溶分担持量は10 mass% とした。

既往の報告に従い15),使用した石炭の溶媒膨潤率を求めようとしたが,膨潤過程で石炭の溶媒可溶分成分の溶出により膨潤率を求めることは不可能であった。そこで,既往の報告に基づき,使用した有機溶媒による各石炭試料の膨潤率の推算を行なった。炭素含有量の異なる石炭と種々の溶媒を用いた時の溶媒膨潤率との関係を調べた先の研究に従えば,TA炭のC%-daf(83.5 mass%-daf)でのメタノールによる膨潤率は1.05と推算される16)。一方,KPならびにTA炭と同程度の炭素含有量(79.8-83.1 mass%-daf)の石炭のピリジン抽出残渣の膨潤率はそれぞれ約2.4と2.35と見積もられるため,KPとTA炭も同程度の膨潤率を有するものと考えられる7)

2・3 乾留

コークスの製造はSUS製焼成管で行なった17)。粒径0.5~1.0 mmの試料を焼成管(φ20 mm×高さ50 mm)内に充填した後,200 gの荷重を掛けながらマッフル炉内でN2気流中3°C/min,1000°Cまで加熱し,その後30 min保持して焼成した。

2・4 キャラクタリゼーション

入手した石炭と調製した試料の官能基分析は,フーリエ変換赤外分光光度(FT-IR)計(Jasco)で行なった。まずKBrと混合した試料を錠剤成型プレートに充填後,ミニプレスで一軸加圧してペレットを調製した。その後,試料は5200~400 cm-1,分解能0.1 cm-1,積算回数200回の条件で分析した。得られた1800~1500 cm-1のスペクトルに対して,既往の報告に従い波形分離を行なった18)。熱重量分析は熱天秤(Advance riko)を使用した。試料をPtパンに充填した後,超高純度He(99.9995%)中,3°C/minで1000°Cまで加熱した。入手した試料ならびに調製した試料の乾留時の軟化溶融性を調べるために,加熱顕微鏡を用いて石炭粒子を50°C/minで加熱しながら一定時間間隔で撮影を行なった。また,乾留時の試料の流動性と収縮挙動はギーセラー流動度計(Yoshida seisakusyo)と高温ディラトメーターで調べた。それら分析手法の詳細は既報に示し通りである19,20)。コークスの強度は圧潰強度試験装置(Minebea)を用いて破断時の最大荷重を測定し,次式により間接引っ張り強度を算出した。

  
f t = 2 P / π dl

ここで,ft:引っ張り強度(MPa),P:最大荷重(N),d:試料の直径(mm),l:試料の高さ(mm)を示す。

3. 結果と考察

3・1 使用した石炭の流動性

Fig.1に,使用したGA,TAならびにKP炭のギーセラー流動プロファイルを示す。TAは380°C以上から軟化溶融し,425°C前後に最高流動度値(MF)を与えた後,460°Cまでに固化した。GAの軟化溶融は410°Cを超えると認められ,その流動プロファイルは460°CにMFを示した。固化温度は490°Cであった。一方,KPは軟化溶融性能を全く示さなかった。GA,TA,KPのMF値は各々2.1,1.1,0 log(ddpm)であり,O濃度の高い石炭で低い傾向にあった。

Fig. 1.

Gieseler fluidity profile of coals used in this study.

3・2 HPC可溶分と不溶分のFT-IR分析

石炭への膨潤作用が報告されているメタノールを用いてHPCの抽出を行なった時に得られたMeOH可溶分と不溶分のFT-IR測定を行ない,観測された1800~1500 cm-1のスペクトルに対して波形分離を行なった結果,HPCで認められた1700と1675 cm-1付近のCOOHとConjugated C=Oに帰属する吸収帯は,可溶分中で大きくなった。また,1750 cm-1付近にピークを有するester,anhydrideに帰属する吸収帯が認められた。このピークはHPCでは観測されなかったことから,抽出によりHPC中に少量で存在した上記種が可溶分中に濃縮したものと考えられる。一方,不溶分では可溶分で認められた含酸素官能基(COOH,Conjugated C=O)は観測されなかった。これらの結果は,HPCをMeOHで抽出するとHPC中の含酸素官能基が可溶分中に選択的に移行することを示している。

Fig.2は,FT-IRで測定したHPC,HPCピリジン可溶分,ピリジン不溶分の1800~1500 cm-1のスペクトルに対して波形分離を行なった結果を示す。HPCで認められた1700と1675 cm-1付近のCOOHとConjugated C=Oに帰属する吸収帯がピリジン可溶分と不溶分では消失していた。またHPCにおいて1650 cm-1付近に観測されたHighly conjugated C=Oに基因する吸収帯の面積も可溶分と不溶分では小さくなった。このようなHPCで測定された1700 cm-1前後のCOOHやC=Oに帰属される吸収ピークの消失は,抽出時の石炭中の含酸素官能基同士の非共有結合の開裂に加え,含酸素官能基と含N官能基の置換が進行したことを示唆しているのかもしれない。既往の報告に従えば,褐炭をピリジンで処理した際にピリジンは石炭中の水素結合の開裂に寄与し,含酸素官能基と新たにN-OH水素結合等を形成する19)。本研究でも同様にピリジンと含O種の相互作用が生じているものと考えられ,その結果,HPC中の含酸素官能基は可溶分と不溶分中において消失もしくは低減したものと推測される。また,MeOHとピリジン抽出でられた生成物のFT-IRスペクトルは大きく異なったことから,これら2種の溶媒のHPCからの可溶分成分は異なると言える。

Fig. 2.

FT-IR spectrum deconvoluted at 1800-1500 cm–1 of HPC, HPC pyridine-soluble components and HPC pyridine-insoluble components.

3・3 HPC可溶分,不溶分の熱重量減少挙動

Fig.3は,HPC,ピリジン可溶分,不溶分のTG分析の結果を示す。HPCをTG分析に供したところ,250,380,450°C付近に重量減少速度のピークが観測された。ピリジン可溶分単独での分析では100°C前後にピークが観測され,これは可溶分表面上に吸着したピリジンの脱離に基因する。また,HPCで認められた380°Cのピークは消失し,450°Cのピーク強度が僅かに減少した。一方,不溶分では約250°Cと380°C前後のピークが消失し,HPCで認められた450°C前後のピークは僅かに高温にシフトした。これらの結果は,HPC中の低分子成分は主に可溶分に移行したことを指摘する。

Fig. 3.

Thermogravimetric curves of HPC, HPC pyridine-soluble components and HPC pyridine-insoluble components.

MeOH可溶分は,200°C前後から大幅な重量減少が生じ,300°Cに重量減少の速度ピークを与えるプロファイルを示した。一方MeOH不溶分ではHPCで認められた250°C前後のピーク強度が減少するとともに,380°C付近のピークも消失したものの,HPCで認められた450°Cのピーク強度は維持された。つまり,MeOH処理においてもHPC中の低分子成分が可溶分に移行したと言える。MeOH可溶分の重量減少は200~500°Cの温度範囲でほぼワンステップにて進行したことから,HPCピリジン可溶分よりもより低分子成分に富んでいるものと考えられる。

Fig.4は,ピリジン可溶分を化学的に担持した試料ならびに物理的に混合した試料をTG分析を示している。いずれも可溶分単独で観測された250°C付近ピークはほぼ完全に消失し,また,約450°Cのピーク強度も小さくなり,その程度は化学担持炭で大きかった。この結果は,化学的な担持処理の方がTA炭と可溶分の相互作用を促進していることを示唆している。類似の結果は,MeOH可溶分の物理混合ならびに化学担持炭でも認められ,可溶分で観測された300°C前後の重量減少挙動のピークはほぼ消失していた。

Fig. 4.

Thermogravimetric curves of TA, HPC pyridine-soluble components, chemically modified and physically mixed samples.

3・4 化学担持炭の流動性

TA試料の流動性を調べるために,ギーセラー試験に供したところ,ピリジン可溶分担持炭単独のギーセラー試験では試料充填時に固まらなかった。そのため,加熱顕微鏡による測定を実施した。Fig.5は,TAとTAにピリジン可溶分を15 mass%化学担持した試料の加熱顕微鏡の結果を示す。実験の都合上,低速加熱での観察が困難であったために50°C/minで行なった。TAや調製した化学担持炭は室温では角ばった形状をしているのがわかる。TA炭を加熱すると450°C付近から粒子の一部が溶融し始め,495°Cでは若干の膨張が認められた。一方,化学担持炭では300°C付近で一部の粒子が動き,400°C前後から粒子の溶融が認められ,495°Cにおける粒子形状は外郭が丸みを帯びた溶融した状態となった。また,その程度はTA炭と比較し大きなものであった。

Fig. 5.

Microscopic pictures of TA and chemically modified sample during heat treatment of 50ºC/min.

ピリジン可溶分担持処理により実際にどの程度の流動性の改善が生じているのかを数値的に検討するために,弱粘結炭であるBW(C, 86.6; H, 5.0; N, 2.0; S, 0.60; Odiff. 5.8 mass%-daf, ash, 9.6; VM, 57.4 mass%-dry, MF, 0.30 log(ddpm))とTA試料を重量比7:3で混合して測定を行なった。Fig.6は,HPCピリジン可溶分を化学担持,ならびに物理混合した試料のギーセラー流動プロファイルを示す。また,得られた流動特性の値をTable 2に示す。BW-TAでは420~460°Cで流動し,440°C前後にMF値を与えたが,その値は0.60 log(ddpm)と非常に小さかった。ピリジン処理炭の軟化溶融は410°Cから認められ,450°CにMF値(0.78 log(ddpm))を示した後に475°Cで再固化した。ピリジン処理炭では未処理炭と比較し,若干の流動性の向上が認められたが,これは上述したように,ピリジン処理により石炭の化学的な構造変化(含酸素官能基とピリジンの反応)により水素結合の開裂が生じたことに基因するのかもしれない21)。可溶分物理混合炭の流動特性はピリジン処理炭とほぼ類似したものの,MF値(0.95 log(ddpm))は僅かに増加した。一方,化学担持炭では試験した試料の中で最も低い軟化開始温度(IST:Initial softening temperature)(400°C)を示し,450°CでMFを与えた後に470~480°Cで再固化した。また,MF値は担持量15 mass%で1.3 log(ddpm)であったのに対し,担持量を2倍(30 mass%)とすると1.7 log(ddpm)とBW-TAの2倍以上に達した。この結果は,化学担持炭では,加熱時に可溶成分が石炭と強く相互作用すると言う熱重量分析での考察を支持する。また,物理混合炭と比較し,化学担持炭で流動性が大きく向上したのは,石炭と可溶分成分の接触性が影響を与えているのかもしれない。

Fig. 6.

Gieseler fluidity profiles of BW-TA, pyridine treated, chemically modified and physically mixed samples.

Table 2. Summary of Gieseler fluidity profiles of TA samples prepared using pyridine.
Sample Temperature, ºC MFa
ISTb MFTc RSTd FTRe ddpm log (ddpm)
70 mass% BW-30 mass% TA 420 440 460 40 4 0.60
Pyridine treated 410 450 475 65 6 0.78
Physically mixed
(15 mass%-soluble)
410 445 475 65 9 0.95
Chemically modified
(15 mass%-soluble)
400 450 470 70 19 1.3
Chemically modified
(30 mass%-soluble)
400 450 480 80 46 1.7

a Maximum fluidity. b Initial softening temperature. c Maximum fluidity temperature. d Resolidification temperature. e Fluidity temperature range.

一方,MeOH可溶分を化学的に担持した試料ならびに物理混合したTA試料では,ギーセラー試験の試料充填時に固まったことから,調製した試料を単独で測定に供した。そのギーセラー試験の結果をTable 3に示す。いずれの試料も390~400°Cで軟化溶融し始め,430°CでMF値を与えた後に450°Cで再固化した。MeOH可溶分を化学担持ならびに物理混合した試料のMFは0.90 log(ddpm)であり,TA(0.78 log(ddpm))と比較し若干の増加が認められたが,その程度は非常に小さいものであった。これまでに我々は,粘結炭に種々の含酸素官能基を含む化合物を添加した時のギーセラー流動プロファイルを調べており,粘結炭のISTよりも低い沸点を有する含酸素化合物の添加でさえも流動性が低下することを明らかにしている20,22)。この既往の研究では,含酸素官能基は石炭のISTまでに石炭粒子と相互作用し,後の流動性に悪影響を及ぼしている可能性が示唆されている20)。上述した様に,HPC MeOH可溶分はHPC中の含酸素官能基を濃縮した状態で多く含んでおり,その熱重量減少はTAの軟化溶融が始まる約400°Cまでにほぼ終了する。一方,TG測定の結果からMeOH可溶分もピリジン可溶分と同様にTAのISTまでに石炭と相互作用していることは明白である。そのため,低分子成分を多く含むMeOH可溶分においてもTAのISTまでにMeOH可溶分中の含酸素官能基が石炭に作用することで流動性に悪影響を与えたものと推測される。つまり,低分子成分による流動性の向上効果と含酸素官能基による流動性へのネガティブな効果により,TAの流動性は殆ど変化しなかったものと考えられる。

Table 3. Summary of Gieseler fluidity profiles of TA samples prepared using methanol.
Sample Temperature, ºC MFa
ISTb MFTc RSTd FTRe ddpm log (ddpm)
TA 400 430 450 50 4 0.78
Physically mixed
(10 mass%-soluble)
395 430 445 50 8 0.90
Chemically modified
(10 mass%-soluble)
390 430 450 60 8 0.90

a Maximum fluidity. b Initial softening temperature. c Maximum fluidity temperature. d Resolidification temperature. e Fluidity temperature range.

3・5 化学担持炭から調製したコークス強度

Fig.7にピリジン可溶分を担持したTA試料(BWとの物理混合なし)を3°C/minで1000°Cまで加熱して得たコークスの強度を示す。GAの強度は3.0 MPaで,破断面には高気孔率部分が認められたので,膨張性過多による強度低下の可能性がある。TA,ピリジン処理炭,可溶分物理混合,HPC物理混合炭では,その強度は1.5~3.5 MPaの範囲で,一方,可溶分化学担持炭では5.2 MPaに達し,原炭の2倍以上となった。しかし,担持量を2倍に増やすと著しい強度減少(1.2 MPa)が生じた。上記のように,可溶分導入量を増やすとMFが大きく増したことから,強度の低下は膨張性過多に依ると言える。これは,担持量を30 mass%とした際に,15 mass%担持と比較し,かさ密度の僅かな減少が認められたことからも支持される。TAや物理混合炭と比較し,可溶分化学担持炭では収率やかさ密度が小さくなったが,これは試料調製時に付着したピリジンの脱離によるものと考えられる。一方で,15 mass%担持の場合と比較し,30 mass%担持試料から調製したコークスの収率が同程度であったことは,可溶分成分が乾留過程で石炭と相互作用し,固相内に取り込まれたことを強く指摘する。HPCを物理的に混合した際の強度は3.5 MPaであり,その値は可溶分物理混合炭とほぼ同じであった。HPCピリジン抽出物の熱重量分析の結果からピリジン可溶分は不溶分と比較し,分子量が小さいと考えられるためTAへHPCを添加した場合,HPC中の比較的低分子な成分がコークス強度の増加に寄与していることを示唆しているのかもしれない。一方,化学担持炭の強度は物理混合炭と比較し大きくなったが,これは可溶分成分の初期の石炭への分散性の違いに基因するものと考えられる。つまり,ピリジン溶媒中での石炭膨潤により生成した空隙内に可溶分成分を担持させることで,石炭と可溶分の接触性と加熱時の相互作用の程度が向上し,流動性が増加する結果,コークス強度が増大したと推測される。よく知られているように,アスファルトピッチ(ASP)は高強度コークス製造時の粘結材として使用されている。ASP添加によるコークス品質向上機構については,高流動性による粘結成分の補填や相溶性の向上,コークス組織の光学異方性組織の発達などによる基因すると受け止められている23)。また,ASP添加炭から製造したコークスでは気孔形状および気孔壁厚みが変化し,微細気泡の割合が減少するため,コークス強度が増大することが報告されている24)。さらに,ASPの微細化により製造するコークスの強度が向上する24)。つまり,粘結材の分散性は,コークス強度に影響を与える因子の一つであると言える。本研究で調製したHPCピリジン可溶分の化学担持炭では,担持法としてピリジンに溶解している溶融成分を含浸担持しており,さらにピリジンの膨潤作用により生じた空隙内に可溶分が導入され,可溶分と石炭が近接化した状態である。そのため,ASPと同様の作用(流動性向上による気孔形状および気孔壁厚みの変化)が生じ流動性とコークス強度の改善が生じたものと推測される。以上の結果から,本手法によりHPCピリジン可溶分をTA炭に化学的に担持することで,得られるコークスの強度も改善可能であることが見出された。

Fig. 7.

Properties of cokes and products prepared from TA samples.

ピリジン可溶分担持炭でのコークス強度改善を理解するため,コークス圧潰試験後の破断面を研磨し,SEM観察を行なった結果をFig.8に示す。TA炭では一部軟化溶融したことに基因する組織が見られたが,拡大図で示すように溶融成分と非流動基質と界面の接触の程度は小さいものであった。それに対して,可溶分を化学的に担持(15 mass%)した試料から調製したコークスでは,多くの軟化溶融した組織が観察された。また,溶融した部分と非流動基質との界面の接触性が良好であった。このことから,可溶分の化学的担持により乾留時の軟化溶融性が向上するとともに,流動成分と不活性部との接触性が改善され,コークス強度が増加したものと考えられる。

Fig. 8.

SEM pictures of cross-section of TA and chemically modified TA sample with HPC pyridine-soluble components.

Fig.9にピリジン可溶分を担持したKP試料(BWとの物理混合なし)を3°C/minで1000°Cまで加熱して得たコークスの強度を示す。KP,ピリジン処理炭,可溶分化学担持15 mass%から得られた生成物はコークス化しておらず,収率は45~55 mass%-dryの範囲にあった。一方,可溶分化学担持量を30 mass%とした場合,コークスを調製することができ,その強度は0.5 MPaであった。可溶分物理混合炭とHPC物理混合炭でのコークス強度は2.0-3.2 MPaであり,TAと異なり物理混合炭で大きな強度が認められた。化学的担持よりも物理混合でコークス強度が増加した理由は現在不明であるが,流動性を示さないKPのような石炭には,低分子と高分子成分(低温で流動性を示す成分と高温で流動性を示す成分)の両方を持つHPCのような添加材の利用がコークス強度向上のために重要であることが示唆される。

Fig. 9.

Properties of cokes and products prepared from KP samples.

つぎに,TA試料の収縮挙動を分析した結果をFig.10に示す。TAならびに可溶分化学担持15 mass%の揮発分放出後の450°C以降の挙動は試料に関わらずほぼ同じあった。類似の結果は,ピリジン処理炭,可溶分物理混合炭でも認められている。Fig.11Fig.10に対応する収縮挙動から求めた各試料の収縮率のまとめを示す。比較ため,一般的な粘結炭と微粘結炭の収縮率も併載した。TA炭の収縮率は13.5%程度であり,ピリジン処理炭,可溶分化学担持炭,可溶分物理混合炭,HPC物理混合炭のいずれもほぼ類似の値を示した。そのため,本手法は収縮に殆んど影響を与えないことが判明した。

Fig. 10.

Contraction profiles of TA and chemically modified TA sample with HPC pyridine-soluble components.

Fig. 11.

Summary of contraction rate of TA samples.

4. 結論

本研究では,ピリジンによる石炭中の含O官能基同士の非共有結合開裂と膨潤により生成した間隙内にHPC由来の軟化溶融成分を導入し,乾留時の架橋反応抑制と軟化溶融成分-石炭間の近接化による流動性増幅の相乗効果を図り,高強度コークス製造法を検討した。その結果,以下の知見が得られた。

(1)HPCをピリジンで抽出することで得られたピリジン可溶分と不溶分中では,HPC中の含酸素官能基の減少が認められた。その結果,ピリジン抽出によりHPC中の含酸素官能基同士の水素結合を低減可能であると推論された。一方,MeOH抽出ではHPC中の含酸素官能基が選択的に可溶分中に移行した。

(2)HPCのピリジン可溶分をピリジンの溶媒膨潤効果を利用して微粘結炭に担持すると,可溶分やHPCを物理混合したものより流動性が向上した。MeOH可溶分を化学担持した試料では流動性は元の使用と殆ど変らず,軟化溶融成分担持の効果は認められなかった。

(3)HPCピリジン可溶分を化学的に担持した試料では元の石炭や可溶分物理混合炭と比較し,高い強度を持つコークスを製造できることが明らかとなった。

(4)可溶分を化学担持した試料ともとの石炭の乾留時の収縮挙動に大きな違いは認められなかった。

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