Tetsu-to-Hagane
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Ironmaking
Influence of Heating Conditions on the Strength of Coke Produced from Slightly-Caking Coal Containing Chemically-Loaded Thermoplastic Components
Naoto Tsubouchi Ryo NaganumaYuuki MochizukiHideyuki HayashizakiTakahiro Shishido
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JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 107 Issue 1 Pages 24-34

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Abstract

In this work, we studies the production of higher-strength coke from chemically-loaded coal in which noncovalent-bonds between O-functional groups in coal are cleaved by pyridine and HPC-derived thermoplastic components are introduced into the pores produced by swelling. The effect of heating rate up to thermoplasticity temperatures of coal on coke strength is first investigated. To examine synergistic effects due to further fluidity enhancements caused by the increased proximity of coal to thermoplastic components during carbonization, the influence of heating rate on coke-strength prepared from pelleted-coal also examined, as described above, to clarify the optimal heating conditions for yielding high-strength coke from slightly-caking coal. An investigation of the use of a SUS-tube to produce high-strength coke from slightly-caking coal with chemically-loaded HPC pyridine-soluble components reveals that high-strength coke may be obtained by 20ºC/min to 400ºC and then continuing to heat at 3ºC/min to 1000ºC. On the other hand, when producing coke from formed specimens consisting of slightly-caking coal with chemically-loaded HPC pyridine-soluble components, we exhibit that, by heating first at 20ºC/min to 500-600ºC and then heating at 3ºC/min to 900ºC, it is possible to produce coke whose strength rivals that of coke produced by carbonization at 3ºC/min of strongly-caking coal. In addition, in producing high-strength coke from formed slightly-caking coal, an optimal amount of additive is present for all types of additive considered – HPC physical blend, chemically-loaded pyridine-soluble HPC and physical blend of pyridine-insoluble HPC components – and, with chemically-loaded pyridine-soluble HPC, it is possible to prepare particularly high-strength coke.

1. 緒言

近年のアジア諸国における鉄鋼需要の増加にともないコークス用原料炭の需要は著しく増大する傾向にあり,その価格も年々上昇の一途をたどっている。この傾向は一時的に緩和することがあっても長期的には増加傾向にあると予想される。そのため,コークス製造資源拡大のための技術開発,すなわち弱粘結炭,非粘結炭,亜れき青炭,褐炭等を主原料として現在使用されているコークスと遜色ないコークスを確実かつ容易に製造し得る技術の開発は非常に重要である。しかし,コークス原料中に占める劣質炭の割合が高くなると,コークス製造時の石炭の軟化溶融性能が阻害され,充分な強度を有するコークスを製造できない点が問題として挙げられる。そのため,ピッチなどの粘結材の添加によって劣質炭配合試料の流動性を補填し,コークス強度を改善する手法が採られている。この様な背景のもと,近年,コークス強度を増幅させるためにバインダーとして軟化溶融性能に富むハイパーコール(HPC)を加えた配合炭からのコークス製造技術の開発が行われている1)。HPCの流動性や浸透性の程度はHPC製造時の原料と成る石炭種に依存するものの,極めて高い軟化溶融性から配合炭系内の流動補填材として作用するとともに,低い温度から周囲の配合炭の粒子細孔内に浸透して溶融するため,粒子間隙を埋めて融着させる作用や溶融成分を増加させる作用があると考えられている2)。一方,よく知られているように劣質炭は多くの含酸素官能基を有していることから,乾留過程でこれらO種間の架橋形成反応が生じ,結果として軟化溶融性能を示さない3,4)。そのため,劣質炭利用のためには架橋形成反応の抑制も重要な課題となっている。このような報告に基づき,我々は劣質炭からの高強度コークス製造法の開発の一環として,乾留時の架橋形成抑制と軟化溶融成分の増幅のため,石炭に対してピリジンが有する溶媒膨潤と非共有結合の開裂作用を利用し,ピリジン処理で生成した石炭の空隙内にHPCピリジン可溶分を化学的に担持させた試料からコークスを製造した場合,その強度はもとの試料より大きくなることを明らかにした5)。これは,ピリジンによる石炭中の含O官能基同士の非共有結合開裂と膨潤により生成した間隙内にHPC由来の軟化溶融成分を導入した結果,乾留時の架橋反応抑制と軟化溶融成分-石炭間の近接化による流動性増幅の相乗効果が生じた結果であると考えられた。一方,劣質炭の配合割合を高めかつ高強度コークスを製造するための手法として,SCOPE21に代表される石炭軟化溶融温度域を急速処理する手法とその効果等が詳細に検討されており,流動域の昇温速度の大きくすることは劣質炭を原料したコークス製造に有効であることが明らかにされている68)。また,非微粘結炭のコークス化手法として成型化が有効であることが古くからよく知られており,成型コークスに関する多く研究がなされている914)。コークス化時に石炭粒子同士が結合するには粒子間の接触面積が大きいことが重要である。そのためには粒子の弾性が小さい,可塑性が大きい,塑性変形しやすいことが望まれ,石炭の有機溶剤浸漬や吸着により可塑性が変化することが報告されている1517)。その程度は使用する石炭炭化度や有機溶剤に依存するもののピリジンを用いた場合,非微粘結炭程度の炭化度(80 mass%-daf)で石炭のヌープ硬度が大きく低下する15)。つまり,可塑性の増大と成型能の上昇により結果として製造するコークス強度(ショアー硬度)が増加する15)。そのため,上記した石炭の非共有結合開裂と膨潤処理による間隙形成を意図したピリジン処理とHPCピリジン可溶分成分の近接化処理を介した試料の成型化からのコークス製造はより高強度なコークスを与えるものと期待される。

そこで本研究では,ピリジンによる石炭中の含O官能基同士の非共有結合開裂と膨潤により生成した間隙内にHPC由来の軟化溶融成分を導入した試料から,更なる高強度なコークスを製造するため,まず通常のコークス焼成法により石炭の軟化溶融温度(軟化開始温度,最高流動度温度,再固化温度)までの昇温速度を変化させたときのコークス強度を調べた。次に,乾留時の軟化溶融成分-石炭間の近接化によるさらなる流動性増幅の相乗効果を図るため,成型炭を調製し,上記加熱条件を変化させた際のコークス強度を調べ,劣質炭からの高強度コークス製造のための最適加熱条件を明らかにすることを主な目的とした。

2. 実験

2・1 試料

新規コークス製造プロセス要素技術研究会から提供された異なる粒径(<250 μmと0.5~1.0 mm)の石炭試料(GA,TA,KP)とHPC(<250 μm)を主に使用した。使用した石炭の分析値とギーセラー流動特性をTable 1に示す。TAとGAの軟化溶融開始温度(IST:Initial softening temperature)は388と410°Cであり,前者は425°C前後,後者は460°C付近に最高流動度値(MF:Maximum fluidity)を与えた後,453-490°Cで固化した。KPは流動化しなかった。GA,TA,KPのMF値は各々2.1,1.1,0 log(ddpm)であった。

Table 1. Analyses of samples used in this study.
CoalElemental analysis
mass%-daf
Proximate analysis
mass%-dry
Gieseler fluidity property
Temperature, ºCMaximum fluidity
CHNSOaAshVMbFCa,cISTdMFTeRSTfFTRgddpmlog (ddpm)
KP73.65.51.50.718.75.842.951.3
TA83.55.12.00.46.06.237.556.338842645365141.1
GA88.15.01.80.64.511.323.465.3410460490801302.1
HPC88.04.91.60.75.11.646.551.9n.a.n.a.n.a.n.a.n.a.n.a.

a Estimated by difference. b Volatile matter. c Fixed carbon. d Initial softening temperature. e Maximum fluidity temperature. f Resolidification temperature. g Fluidity temperature range.

2・2 HPCピリジン可溶分化学的担持炭の調製

HPC可溶分の化学的担持炭の調製では既往の報告に従い行なった。その詳細は既報に示す通りである5)。室温にてHPCをピリジン抽出して得たHPCピリジン可溶分溶液中に石炭を添加し,室温で24 h撹拌することで石炭の膨潤と可溶分の担持を行なった。その後,減圧加熱によりピリジンを除去し,HPCピリジン可溶分を化学的に担持させた試料を調製した。尚,既報においてHPCピリジン可溶分担持試料中のピリジン残存量は約10~15 wt%であることを確認している5)。また,ピリジン処理炭による流動性の増加は0.5 log(ddpm)から0.75 log(ddpm)程度と小さいことをも確認している5)。可溶分担持量は石炭に対し0~50 mass%の範囲である。HPCピリジン可溶分が溶媒膨潤で生成した細孔内に導入されたならば,化学担持試料のピリジン抽出時に担持した成分は溶出しないはずだが抽出試験の結果,溶出が認められた。これは,ピリジン膨潤で生成した空隙のほかに,石炭中に元々存在する細孔や石炭粒子表面上にもHPCピリジン可溶分が析出しているためと考えられた。そのため,本手法ではHCPピリジン可溶分が石炭構造中に導入されているかの直接的かつ化学的証明は困難であった。よく知られているように,HPCは数百~数千の分子量をもつ成分から構成されており18),HPCピリジン可溶分のDTG曲線は250と450°C付近に主ピークを与える(HPCも同じ温度でピークを与えるが,前者はHCPピリジン不溶分では確認されない)ため,HPCピリジン可溶分は元のHPCと比較して低分子成分が多いと言え,本手法ではHPCピリジン可溶分と石炭の相互作用は化学担持炭の熱処理時に生じる5)。溶媒膨潤時に生じた石炭空隙内へのHPCピリジン可溶分導入の有無に関する検討を行ったものの5),現在その直接的証拠は得られていない。しかし,上記既往の結果5)から調製したHPCピリジン可溶分中の低分子成分は石炭構造内に担持されているものと考えられる。

2・3 乾留

コークスの製造はSUS製焼成管で行なった18)。粒径0.5~1.0 mmの試料を焼成管(φ20 mm×高さ50 mm)内に充填した後,200 gの荷重を掛けながらマッフル炉内でN2気流中1000°Cで30 min保持して乾留した。Table 2に,焼成管を用いた際の昇温条件を示す。Table 2中のCase 1~4に示すように,加熱速度は3もしくは20°C/minで,後者では400~600°Cまで昇温した後,3°C/minにて1000°Cまで加熱した。なお20°C/minの昇温速度は日本鉄鋼連盟における連続式成型コークス製造プロセスでのヒートパターンを参考した9)。また,加熱区間(400~600°C)は多くの原料炭の流動域が400~600°Cであることから選択した19)

Table 2. Heat conditions used in this study for coke production.
Heat conditionHeat condition at first stepHeat condition at second stepHolding time, min
Heating rate, ºC/minTemperature range, ºCHeating rate, ºC/minTemperature range, ºC
Case 1a320-100030
Case 2a2020-4003400-100030
Case 3a2020-5003500-100030
Case 4a2020-6003600-100030
Case 5b320-90030
Case 6b2020-4003400-90030
Case 7b2020-5003500-90030
Case 8b2020-6003600-90030

a Coke preparation with a SUS tube. b Formed coke preparation.

既往の報告に依れば,機械的加圧下での石炭乾留時には石炭粒子からの揮発分の拡散制御と架橋反応抑制のため,微粘結炭のコークス特性を増大することができる20)。また,Section 2・2で述べたように本手法では石炭粒子表面上にもHPCピリジン可溶分が析出しているため粒子間の溶融性が向上する可能性がある。そこで,成型処理を高強度コークス調製のために行った。成型処理の効果として,HPCピリジン可溶分と微粘結炭の近接化ならびに前者からの後者へのmobile成分の供与による連続自己溶解モデル21)に基づく軟化溶融成分の増加”,並びに既往の報告20)に基づく乾留時の架橋反応の抑制による流動性の向上も狙いとしている。成型炭からの成型コークスの調製には,粒径が<250 μmの石炭ならびに調製した試料を用いた。試料を30 MPaで一軸加圧してペレット化した後,上記と同様の加熱パターン下900°Cで30 min乾留した。成型コークス調製時の加熱条件はTable 2に示すCase 5~8を用いた。尚,本研究では便宜上,昇温速度20°C/minと3°C/minをそれぞれ急速加熱と低速加熱と定義する。また,焼成管で調製したコークスを焼成コークス,成型炭から調製したコークスを成型コークスと表記した。

調製したコークスの強度は圧潰強度試験装置(Minebea)を用いて破断時の最大荷重を測定し,次式により間接引っ張り強度を算出した。

  
ft=2P/πdl

ここで,ft:引張強度(MPa),P:最大荷重(N),d:試料の直径(mm),l:試料の高さ(mm)を示す。

3. 結果と考察

3・1 焼成コークス強度に及ぼす加熱条件の影響

Fig.1と2は,異なる加熱条件でGAならびにTA試料から調製したコークス強度と圧潰試験後の試料の断面写真を示す。Case 1での1000°Cまで3°C/minした時,GAとTAから調製したコークスの強度はそれぞれ,3.3と1.2 MPaであった。TAのピリジン処理炭から調製したコークスの強度は0.4 MPaとTAと比較し減少した。物理混合試料の強度は1.1 MPaとTAとほぼ同じであった。一方,化学担持炭では強度がもっとも大きく(4.5 MPa),破断面も密であった(Fig.2)。それに対して,20°C/min,400~600°Cまで加熱を行ない,その後3°C/minで1000°Cまで加熱した試料(Case 2-4)では,1ステップ目までの加熱温度の増加にともない,いずれの試料も強度は低下する傾向にあった。Fig.2の写真からわかるように,GAでは膨張負けが生じ,化学担持炭では破断面に膨張過多に基因する発泡組織が多数認められた。

Fig. 1.

Effect of heating conditions on coke strength of GA and TA samples: (a) Case 1, (b) Case 2, (c) Case 3 and (d) Case 4.

Fig. 2.

Cross-sectional images after the tensile and compression tests of coke prepared from GA and TA samples under the conditions of Cases 1-4.

Fig.3は,Fig.1に対応するGA,TA試料から調製したコークスの収率,かさ密度に及ぼす加熱条件の影響(Fig.3(a))とかさ密度と強度の関係(Fig.3(a))を示している。ここで,Fig.3(a)の左軸はかさ密度,右軸はコークス収率,横軸は20°C/minで加熱した温度をとった密度と収率の変化を示す。尚,0付近のプロットは3°C/min,1000°Cまで加熱した時(Case 1)の結果であり,それ以外の結果はすべて各温度(400~600°C)まで20°C/minで加熱した後,各温度から3°C/minで1000°Cまで加熱(Case 2~4)して得たコークスでの結果である。収率はいずれの条件でもほぼ一定であったのに対し,密度は昇温速度と加熱温度の増加に伴い低下する傾向にあった。また,その減少の程度は20°C/minで500~600°Cまで加熱するCase 3, 4で大きかった。さらに,Fig.3(b)に示す様に,バラつきはあるもののかさ密度と強度の間には相関が存在した。よく知られているように,石炭の軟化溶融温度域の昇温速度を大きくすると流動性が増大する68,20)。そのため,Case 2~4の強度低下は,流動性過多によるかさ密度低下(発砲組織の生成)に基因すると言える。つまり,昇温速度と加熱温度の増加に伴う強度低下は主に膨張に基因することを示しており,Fig.1で調製したコークスの正味の強度を検討するためには,膨張を抑制させた強度評価を行なう必要がある。

Fig. 3.

Change in bulk density and coke yield under different heating conditions (a) and relationship between bulk density and indirect tensile strength (b). (Data points plotted at the far left (intermediate temperature 0ºC) indicate results for Case 1, in which samples were heated to 1000ºC at a constant rate of 3ºC/min.)

そこで,非粘結炭であるKPに化学的に可溶分を担持したTAを配合した時のコークスの強度を調べた結果をFig.4(a)に示す。比較のため,GAの結果も併載した。GA/KPではGAをKPに対して30 mass%添加した時に最も高いコークス強度(1.0 MPa)が認められ,それは50 mass%配合で大きく低下(<0.2 MPa)した。TA化学担持炭/KPをCase 2の条件で調製したコークスでは配合率80 mass%までに強度は増加する傾向にあり,2.8 MPaに達した。一方,同試料からCase 3と4の条件で調製したコークスの強度は配合率70 mass%で極大値を与えたが,その値は0.5~0.75 MPaとCase 2の場合と比較して小さいものであった。Fig.4(b)Fig.4(a)に対応する収率とかさ密度の結果を示す。GAではKP配合率の増加にともない収率は増加傾向にあったが,TA化学担持炭ではいずれの加熱条件においても収率はほぼ一定であった。かさ密度の変化はいずれの試料ならびに加熱条件においても強度とほぼ類似の傾向を示した。つまり,強度が極大値を示す配合率以上のKPへのTA化学担持炭の添加は,生成するコークスの発泡組織を増加させ,その結果,強度が低下すると言える。これらの結果から,焼成管を用いたTA化学担持炭からの高強度コークス製造には,主に使用する石炭の軟化溶融域以前の温度域をCase 2の400°Cまで急速(20°C/min)で加熱し,その後400~1000°Cまでを低速(3°C/min)加熱することが有効であることが見出された。Case 3と4では,コークスは化学担持炭と非粘結炭の配合によって調製したが,発砲組織の生成により強度は小さくなった。現在,この溶融過多を抑制するための方法(Case 3と4の条件下での化学的担持炭から調製したコークス強度を明らかにするための手法)は不明である。Case 3と4の条件では,化学的担持炭から調製したコークスの強度は変化しないのかもしれないため,上記条件で調製したコークス強度の評価は重要であり,その詳細は今後の検討課題である。

Fig. 4.

Indirect tensile strength (a), bulk density (b) or yield (c) of coke prepared from different blend ratios of GA or chemically-loaded TA to KP.

3・2 成型コークス強度に及ぼす加熱条件の影響

Fig.5は異なる加熱条件下でTA試料から調製した成型コークスの間接引っ張り強度の比較を示す。また,Fig.6Fig.5の結果を試料別に整理した加熱条件の比較を示している。GAから調製した成型コークスの強度は20°C/minでの加熱温度が増加するにともない減少(13→1.5 MPa)したのに対し,TAでは増加する傾向(0.5→4.5 MPa)にあった。昇温速度と加熱温度の増加にともなう強度の増加は,ピリジン処理,15 mass%可溶分物理混合炭,15 mass%化学担持炭においても観測され,3°C/minで得られた各成型コークスの強度(1.0, 2.5, 2.0 MPa)はCase 8の条件下ではそれぞれ2.0, 11, 12 MPaに達した。一方,30 mass%可溶分物理混合炭ではCase 7条件下で最大強度8.5 MPaが得られたが,Case 8条件下では強度は7.5 MPaに僅かに減少した。同様に,30 mass%化学担持炭ではCase 6でもっとも大きな強度(10 MPa)が認められたものの,Case 7~8では強度は5.5~6.5 MPaの範囲にあった。成型炭から調製したコークスの強度はSUS焼成管を使用したものよりも大きく,HPCピリジン可溶分担持炭で高い強度が観測された。既往の報告に依れば20),機械的加圧下での石炭乾留時の荷重によって石炭粒子が圧密され,石炭粒子の融着/溶融が進行する。その結果,揮発性成分の石炭粒子外への拡散が抑制される。粒子内に留まった揮発性成分は石炭の軟化溶融を促進させると同時にさらに揮発性成分の拡散抵抗を大きくし,粒子外への拡散を抑制する働きを持つ。その結果,石炭内に滞留した揮発性成分(タール)が水素供与を受けて低分子で安定化する可能性が高くなるため,350~450°Cで起こる架橋形成反応が抑制され,低分子で安定化した成分は軟化溶融を促進すると考えられている20)。事前加圧とin-situ加圧の違いはあるものの,本研究においても類似の現象が生じているものと考えられる。さらに他の試料と比較し,担持されたHPCピリジン可溶分はより低分子成分が多い。それゆえ,成型処理によりHPCピリジン可溶分と石炭粒子が近接化されることによる上記現象が促進されたものと推測される。同時に,昇温速度が効果的に作用し,結果として高強度コークスが製造可能できたのかもしれない。

Fig. 5.

Indirect tensile strength of formed coke prepared from TA samples under the conditions of Case 5 (a), Case 6 (b), Case 7 (c) and Case 8 (d).

Fig. 6.

Indirect tensile strength of formed coke prepared from GA (a), TA (b), pyridine treated (c), physical mixture (15 mass%) (d), physical mixture (30 mass%) (e), chemically-loaded (15 mass%) (f) and chemically-loaded (30 mass%) (g).

Fig.7Figs.5と6に対応する異なる加熱条件下でTA試料から調製した成型コークスのかさ密度と収率の変化を示している。Fig.7(a)からわかるように,Figs.5~6でのCase 8で大きな強度低下が認められたGAと30 mass%化学担持炭では大きく密度が減少している。そのため,これら2種の強度低下の原因は膨張性過多による発泡組織の形成に基因するものと考えられる。一方,昇温速度や加熱温度の増加に伴い強度が増加した試料においてはかさ密度は殆ど変化しないかあるいは増加する傾向にあった。一方,収率(Fig.8(b))は試料と加熱条件に依らずほぼ一定であった。これらの結果は,使用する石炭の軟化溶融域の昇温速度を大きくすることで高強度コークスを製造可能であることを示している。本研究において,可溶分を化学的に担持した試料から高強度コークスを製造するには,20°C/minで500~600°Cまで加熱後,その後3°C/minで低速加熱するのが最適条件であることが明らかになった。

Fig. 7.

Bulk density (a) and coke yield of formed coke prepared from TA sample under different heating conditions. (Data points plotted at the far left (intermediate temperature 0ºC) indicate results for Case 5, in which samples were heated to 1000ºC at a constant rate of 3ºC/min.)

Fig. 8.

Relationship between indirect tensile strength and bulk density: (a) comparison among samples, (b) comparison among heating conditions.

Fig.8は,Figs.6と7(a)に対応する強度とかさ密度の関係を示す。試料別に示したFig.8(a)では,GAを除いて強度の増加にともない密度は増加する傾向にある。また,加熱条件別で示したFig.8(b)では強度は密度の増加に伴い増加する傾向にあった。これらの結果は,HPCピリジン可溶分を化学的に担持することで可溶分成分がバインダーとして作用し,乾留時のコークス組織が緻密になり強度が増加することを示唆している。

Fig.4(a)に示した様に,化学的担持TAとKPの混合比が80 mass%の時,Case 2の条件下ではもっとも高いコークス強度が認められた。このようなコークス強度の増加は,(i)HPCピリジン可溶分担持工程での石炭中の非共有結合の開裂による炭化時の架橋形成反応の抑制,(ii)急速加熱による非共有結合の緩和による石炭凝集構造の緩和,(iii)可溶分担持による流動性増大に基因する可能性がある。よく知られているように,石炭熱分解時の架橋形成反応の抑制には数千度/minの昇温速度での加熱が有効であると報告されている21)。そのため,本実験条件下での20°C/min程度の昇温速度では,(ii)の加熱時の非共有結合緩和の程度は小さいものと考えられるが,石炭の流動性増加は生じている可能性がある。一方,ギーセラー流動度や粘弾性試験において,昇温速度を3から8, 10, 30, 50, 80, 100, 1000°C/minに増加させると流動性が増大することが報告されている2224)。また,3°C/minでのギーセラー流動度試験で低軟化溶融性を示さない石炭を8°C/minで試験すると流動性を測定可能となる22)。これは,昇温速度の増加により石炭分子の凝集構造が緩和され,分子の運動性が増加すること,ならびに架橋形成反応が抑制されることにより移動性の高い低分子成分が生成することで軟化溶融現象が促進するためと考えられている25,26)。また上記報告では,昇温速度を大きくすることで最高流動度温度は高温側にシフトする。そのため,Case 2でのコークス強度増加は,400°Cまでの昇温速度増加による架橋生成抑制と400°C以上での可溶分担持による流動性増幅効果により生じている可能性が示唆される。一方,Case 3~4の加熱条件は,低速加熱時のTA炭の軟化溶融温度域(400~600°C)をカバーしているため,上記の架橋形成抑制/担持可溶分の流動性に加え,TA,KP炭と担持可溶分成分の急激な軟化溶融とその量の増大により溶融性過多となり,発砲組織が形成していまいコークス強度が低下したものと考えられる。

3・3 成型コークス強度に及ぼす添加量の影響

成型コークスの強度に及ぼす粘結材添加量と加熱条件の影響を明らかにするために,加熱条件と粘結材添加量を変化させた際のコークス特性を調べた。Fig.9(a)は,HPCをTAに対して物理的に混合した試料から調製したコークスの強度に及ぼす加熱条件の影響を示す。尚,本試験で用いたTAはFigs.5~8で使用したTAとは別ロットのものであり,HPC添加なしのTAから調製したコークス強度の比較からわかるように,風化が認められた。しかしながら,成型コークスの強度に及ぼす粘結材添加量と加熱条件の影響を検討するためには,風化していてもよいとの考えのもと検討を行なった。Case 5では,コークス強度はHPC添加量の増加にともない増加する傾向にあり,添加量30~40 mass%の時に最大強度5.0~5.5 MPaが認められ,その後3.0 MPaに減少した。一方,Case 6では20~30 mass%添加で極大強度5.0 MPaが観測され,40 mass%添加では1.0 MPaに低下した。Case 7, 8の添加量に伴う強度変化の挙動はほぼ類似しており,10 mass%添加で極大強度(5.5 MPa)を与え,その後添加量の増加に伴い減少する傾向にあった。Fig.9(b)に示した添加率にともなうかさ密度の変化から,添加量増加に伴う強度低下は溶融性の増大による発泡組織の過多によるものであることが推測された。また,収率は添加量に依らず殆ど変化しなかった。この結果はHPCがTAと相互作用し,固相内に保持されたことを意味する。昇温速度と昇温速度域を大きくするとHPC添加量が少なくても高強度コークスを製造可能であることが見いだされた。

Fig. 9.

Indirect tensile strength (a), and bulk density and yield (b) of coke prepared under different heating conditions against physically mixed amount of HPC to weathered TA.

Fig.10は,風化したTAにHPCピリジン可溶分化学担持量を変化させて,異なる加熱条件で調製したコークスの強度,かさ密度,収率を示す。尚,本検討で使用したTAはHPC添加実験で使用したものとは別ロットであり,同様に風化が認められた。低速加熱のCase 5では添加量50 mass%でのコークス強度は9.5 MPaであり(Fig.10(a)),Case 6では40 mass%担持において最大強度9.5 MPaが認められた。一方20°C/minで500~600°Cまで加熱した場合(Case 7~8),最大コークス強度(約9.0 MPa)は30 mass%担持において観測され,前者2種の条件と比較し少量の担持量でもっとも高い値が得られた。このような挙動はHPC添加時と類似したものの,担持量はHPCよりも多く必要であった。Fig.10(b)に示したかさ密度の担持量変化から,HPC添加時と同様にコークス最大強度が認められた後の強度低下は発泡組織の発達によるものであると言える。収率は50~55 mass%の範囲にあり,TA単独と比較して10 mass%程度の低下が認められた。これはHPCピリジン可溶分化学担持成分の一部が乾留時に揮発したことに由来するものと考えられるが,担持量を増加させても収率はほぼ一定であったことは可溶分成分がTAに相互作用していることを示す。

Fig. 10.

Changes in indirect tensile strength (a), and bulk density and coke yield (b) of coke prepared under different heating conditions against chemically loaded amount of HPC pyridine-soluble components to weathered TA.

Fig.10に示したように,Case 5と6で観測された強度の変化曲線はCase 7と8とは異なった。昇温速度が3°C/minのCase 5では,TAを流動化させるためには,乾留時にTA内に架橋が生成するため,多量のHPC可溶分が必要と考えられる。一方,400°Cまでの加熱条件が20°C/minのCase 6(TAのギーセラー流動試験でISTが観測される以前の温度)では,急速加熱処理により400°C以下での架橋形成反応が抑制された可能性がある2126)。さらに,HPC担持したピリジン可溶分からの流動成分により軟化溶融性能もまた増加する。それゆえ,Case 6でのTAへのピリジン可溶分担持量はCase 5と比較して少量で済む。TAを3°C/minで加熱するギーセラー流動試験でFTRが観測される500~600°Cまでを20°C/minで昇温加熱するCase 7と8では,急速昇温によるTAの熱構造緩和と架橋抑制ならびにHPCピリジン可溶分担持の効果によって軟化溶融性能が増幅する。言い換えれば,3°C/minのギーセラー流動試験で観測される流動温度域を急速加熱処理することが高強度コークスを調製するためには重要である。そのため,Fig.10でのCase 7と8は類似し,もっとも高い強度は少量のHPCピリジン可溶分担持量でも観測される。

Fig.11は,風化したTAにHPCピリジン不溶分の物理混合量を変化させて,異なる加熱条件で調製したコークスの強度,かさ密度,収率を示す。本検討で使用したTAはFig.10で使用したTAと別ロッドである。Case 5での50 mass%添加におけるコークス強度は3.0 MPaと小さい値であった。一方,Case 6条件下,50 mass%添加での強度は8.0 MPaに増加し,Case 7~8では30 mass%添加で最大強度7.0 MPaが認められ,その後発泡組織の発達により低下した(Fig.11(b))。Fig.10(a)ではCase 6,担持量40 mass%で最大強度が認められたものの,Fig.11(a)での同条件下では50 mass%添加でさえも最大強度が観測されていないこと,Fig.11(a)の添加量なしのコークス強度がFig.10(a)と比較し大きいことを考慮すると,ロッドが異なるものの,このような不溶分添加でのコークス強度は可溶分化学担持と比較し小さいと考えられる。Fig.11(a)に示したように,HPCピリジン不溶分添加によるコークス強度の増加の程度はHPCピリジン可溶分添加の場合と比較して小さい。この違いは,HPCピリジン可溶分と不溶分の高分子フラクション,流動性,分子量分布に基因するものと推測される。自己連続溶解モデルに依れば27),TAは400°Cで軟化溶融し始めるものの,初期に生成するmobile成分の質と量が不足しているために,その後の連続的なimmobile成分の溶解が抑制されるものと考えられる。熱重量分析結果から,HPCピリジン可溶分は不溶分よりも低分子性に富んでおり,軟化溶融も低温から生じると推測される5)。このような低分子成分が多い可溶分成分を化学的に担持したことで,TAでの初期のmobile成分が増幅されるとともに後段でのimmobile成分溶解に寄与し,結果として流動性が向上,コークス強度が増加したのかもしれない。一方,不溶分はHPC中の重質成分に富み,流動性域が高温であることから連続自己溶解モデルのような連続的な溶解が生じているのではないため,トータルの流動性が低く(初期に軟化溶融する成分の不足(極端に言えば,不溶分が軟化溶融する温度域でしか流動化せず,連続体ではない))なり,結果としてコークス強度が可溶分担持炭よりも小さくなったと考えられる。一方,HPCを用いた場合では可溶分担持量よりも少量の添加で最大強度が認められている。これはHPCが軟化溶融性に富む一連の流動成分から構成されていることに由来し,TAの軟化溶融に必要な初期のmobile成分と後段のimmobile成分をも溶解できる両方の組成を含有していることに基因のであろう。しかし,試験に使用した石炭が同一ロッドではないため単純に強度値の比較はできないが,Figs.9-11におけるTAのみの初期コークス強度と各粘結材を担持/添加した時の強度増加の割合の比較から,ピリジン可溶分を科学的に担持した試料においてその程度がもっとも多いことから,高強度の成型コークスを製造するためには本手法で調製したような溶媒膨潤による間隙生成(非共有結合開裂を含む)とその間隙内への軟化溶融成分の充填が有用な方法であると言える。

Fig. 11.

Indirect tensile strength (a), and bulk density and yield (b) of coke prepared under different heating conditions against physically mixed amount of HPC pyridine-insoluble components to weathered TA.

4. 結論

本研究では,ピリジンによる石炭中の含O官能基同士の非共有結合開裂と膨潤により生成した間隙内にHPC由来の軟化溶融成分を導入した試料から,更なる高強度なコークスを製造するため,まず通常のコークス焼成法により石炭の軟化溶融温度(軟化開始温度,最高流動度温度,再固化温度)までの昇温速度を変化させたときのコークス強度を調べた。次に,乾留時の軟化溶融成分-石炭間の近接化によるさらなる流動性増幅の相乗効果を図るため,成型炭を調製し,上記加熱条件を変化させた際のコークス強度を調べ,劣質炭からの高強度コークス製造のための最適加熱条件を明らかにすることを主な目的とした。その結果,以下の知見が得られた。

(1)焼成管を用いたTA化学担持炭からの高強度コークス製造には,主に使用する石炭の軟化溶融域以前の温度域400°Cまで急速(20°C/min)で加熱し,その後400~1000°Cまでを低速(3°C/min)加熱することが有効であることが見出された。

(2)HPCピリジン可溶分を化学的に担持した成型試料から高強度な成型コークスを製造するには,20°C/minで500~600°Cまで加熱後,その後3°C/minで低速加熱するのが最適条件であることが明らかになった。

(3)昇温速度と昇温温度域が大きい程,TAへのHPC物理混合,HPCピリジン可溶分化学担持,不溶分物理混合量が少量で高強度成型コークスが調製可能であった。

(4)TAからの高強度成型コークス製造のためには,HPC物理混合,HPCピリジン可溶分化学担持,不溶分物理混合量の最適値が存在し,またHPCピリジン可溶分化学担持で高強度のコークスが製造可能であった。

文献
 
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