Tetsu-to-Hagane
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Ironmaking
Effective Utilization Technique for Coal Having High Maximum Fluidity and Long Maximum Permeation Distance by Weathering Processing
Yusuke Dohi Kiyoshi FukadaTakashi MatsuiHiroyuki SumiIzumi Shimoyama
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2021 Volume 107 Issue 1 Pages 44-52

Details
Abstract

In our previous study, it was revealed that high MF coal having longer “maximum permeation distance”, which was developed as a unique thermoplasticity index, forms lower roundness pores and thinner pore-wall structures in coke and that coke strength deteriorated when the coal blend included the longer maximum permeation distance coal. Therefore, techniques for reducing the adverse effects of long maximum permeation distance coal on coke strength are essential so as to utilize the coal more efficiently. Some practical techniques of design and control regarding coal grain size were developed for ameliorating coking property of long maximum permeation distance coal in our previous paper. The techniques are based on the facts that the coke strength deterioration caused by long maximum permeation distance coal in coal blend was suppressed with decreasing the coal size.

In this paper, influence of weathering, which is mild oxidation with air atmosphere, on permeation distance and coke strength were researched in order to clarify possibilities of controlling maximum permeation distance in another way of the techniques of coal size adjustment. As a result, it was found that the measured maximum permeation distance and coke strength deterioration caused by long permeation distance coal was reduced by weathering processing although the fluidity was impaired. Accordingly, some control techniques of maximum permeation distance by weathering were proposed for more effective utilization of long maximum permeation distance coal.

1. 緒言

近年,地球温暖化への対策として,事業活動に関わるCO2排出量の削減に対する社会からの要請が,益々強まっている。多量のCO2を排出する高炉メーカーにとって,CO2排出量の削減は,事業の継続性に関わる極めて重大な課題となっている。高炉プロセスにおいては,コークスや微粉炭などの炭素に由来する還元材の原単位(還元材比)を低減することが,最も重要かつ効率的な排出CO2の削減方法の一つである。しかし,コークスの原単位(コークス比)が減少すると,炉内の通気性の維持が困難となり,操業不良の原因となる。そのため,低コークス比でも銑鉄の安定生産を達成するためには,より高い強度を有し,かつより劣化しがたいコークスを使用し,高炉内の通気を維持する必要がある1)。したがって,高強度コークスの製造を可能とする高度な技術を開発し,高強度コークスを高炉に安定的に供給することが不可欠である。

前報において,著者らは,石炭の軟化溶融特性の新しい測定法「浸透距離(Permeation distance)評価法」を開発した2)。この開発した方法で測定した新しい粘結性指標「最大浸透距離」は,コークス強度の支配因子であり,コークス強度を効果的に制御するのに寄与するため,重要である。前報の概要を,以下に述べる。一般的なコークス製造において,コークス強度は,原料となる配合炭の石炭銘柄の構成を変更し,配合炭の平均品位を調整して制御される。コークス強度の最重要の支配因子の一つが,軟化溶融特性,すなわち粘結性である。ギーセラー流動性試験方法(従来法,JIS M88013))で測定される最高流動度(MF: Maximum Fluidity)が,コークス製造業における粘結性指標として広く用いられている4)。しかし,従来法にはいくつかの測定上の問題点があること5)や,MFとコークス強度との間に明確な関係を示さない場合があることが指摘されている6)。著者らは,従来法の問題点を克服し,石炭軟化溶融特性の従来評価を補完可能な,「浸透距離評価法」を新たに開発した2)。この評価法では,重りで一定の圧力をかけながら,軟化溶融した試料石炭が隣接配置されたガラスビーズの充填層に浸透する距離の最大値(以下,「最大浸透距離」)を測定し,新しい評価指標とした。高MF(MFの常用対数が3.0超)かつ,長い最大浸透距離を有する石炭(以下,「長浸透距離炭」。便宜的に最大浸透距離が15 mm以上で定義)は,コークス中に低円形度の気孔と薄い気孔壁構造を特徴とする欠陥を形成するため,配合炭に長浸透距離炭を配合するとコークス強度が低下することを明らかにした。したがって,配合炭中の長浸透距離炭の配合割合を低減することが,コークス強度の向上に有効である。

一方で,石炭資源の有効利用の観点からは,コークス製造の原料として長浸透距離炭も使用できることが好ましい。すなわち,長浸透距離炭のコークス強度への悪影響を抑制する技術の開発が不可欠である。既報7)では,石炭粒度の調整に基づく長浸透距離炭の有効利用技術について報告した。最大浸透距離は,石炭の細粒化に伴い減少した。その原因は,浸透挙動の影響因子である流動性と駆動力たる膨張圧の低下によると推察された。さらに,長浸透距離炭のコークス強度に対する悪影響が緩和されるメカニズムとして,長浸透距離炭の細粒化により,長浸透距離炭自身が生成するコークス中の欠陥が低減する可能性を指摘した。これらの研究結果に基づいて,長浸透距離炭を有効利用するための,実用的な石炭粒度の調整技術を提案した。すなわち,最大浸透距離を短くする操作を通して,長浸透距離炭の利用を拡大することが可能である。

本論文では,物理的アプローチである石炭粒度の調整技術とは別に,化学的アプローチにより最大浸透距離を制御する技術を開発することを目的とした。すなわち,長浸透距離炭の有効利用のために,最大浸透距離を積極的に制御する技術として,風化処理(すなわち,大気雰囲気下での温和な酸化)の有効性を研究した。一般に,石炭の風化は,石炭と大気中の酸素の相互作用による石炭の特性の変化であり,粘結性およびコークス化性に負の影響を与える。したがって,コークス製造業において石炭の品位と経済的価値を維持するためには,石炭を取り扱うプロセス全体を通して,風化を防止することが非常に重要であると考えられてきた8)。一方で,過剰な粘結性を有する石炭は,多孔質構造を有する脆弱なコークスとなる傾向があるため,適切に風化されて粘結性が低下すると,コークス化性が向上する場合があることが明らかにされている912)。例えば,Vegaら12)は,風化処理後の石炭,および処理された石炭を乾留して得たコークスの特性の変化を調査した結果を報告している。4種の高MF炭を乾燥機で40または50°C,空気雰囲気で,40日以内で処理した石炭を乾留して得たコークスを,JISドラム試験(JIS K215113))とCSR(ISO18894-200614))試験に供した。その結果,幾つかの高MF炭に最適な風化処理をすることで,原炭よりもドラム強度とCSRが高くなった。したがって,長浸透距離炭も高MF炭であることから,適切な風化によって長浸透距離炭のコークス化性を改善する可能性があると推察された。本論文では,特に長浸透距離炭について,最大浸透距離とコークス強度に及ぼす風化の影響を研究した。さらに,長浸透距離炭の有効利用を実現するための効果的な風化法を探求した。

2. 風化による長浸透距離炭のコークス化挙動の変化に関する予備検討

Fig.1(a)に,乾留時の最大浸透距離の長い石炭の気孔形成の推定挙動を示す。石炭は,400°Cから500°C付近で軟化溶融状態となり,自らが発生する熱分解ガスにより気泡を形成する。軟化溶融状態の長浸透距離炭は,石炭粒子間の空隙に過剰に浸透する。その結果,薄い気孔壁構造と低円形度の連結気孔が,長浸透距離炭の粒子が存在していた元の場所に形成され,欠陥として残留する。これらの欠陥はコークス強度の低下の原因となる。

Fig. 1.

Presumed suppression mechanisms of negative effect caused by long maximum permeation distance coal on coke strength by weathering and reducing grain size. ((a) mechanism of negative effect of long maximum permeation distance coal, (b) suppression mechanism of negative effect by reducing grain size of coal with long maximum permeation distance, (c) suppression mechanism of negative effect by weathering, (d) mechanism of negative effect of long maximum permeation distance coal with grains size distribution, (e) suppression mechanism of negative effect by weathering only for portion of large grains of long maximum permeation distance coal.) (Online version in color.)

Fig.1(b)は,長浸透距離炭の粒径を小さくした場合の,コークス強度に対する長浸透距離炭の負の効果の抑制機構を示している。前報7)で記述したように,長浸透距離炭を配合した際のコークス強度への悪影響は,石炭粒度に依存する。すなわち,長浸透距離炭の比較的粗大な粒子は,コークス中に欠陥を生成し,コークス強度に悪影響を及ぼすが,その悪影響の度合いは,長浸透距離炭のサイズが減少するにつれて抑制された。Fig.1(b)に示すように,石炭の粒度が小さくなると,最大浸透距離が短縮し,長浸透距離炭に起因する欠陥の形成が抑制されるため,コークス強度に及ぼす悪影響も緩和されると推察された。また,欠陥サイズの縮小に加えて,石炭の分散による均質化の効果も,コークス強度に正の影響を与えたと考えられる。一方で,長浸透距離炭の細粒化は,コークス強度の改善に有効ではあるものの,微粉の増加による発塵の問題等を引き起こすため,注意を要する。

Fig.1(c)に,風化による長浸透距離炭のコークス化挙動の変化を示す。一般的に,風化は石炭の粘結性に悪影響を及ぼす。一方で,風化によって浸透距離が減少すれば,過剰な浸透現象による欠陥の形成が抑制されることが期待される。すなわち,風化処理によるMF等の粘結性の低下よりも,浸透距離の短縮の影響が大きい場合,長浸透距離炭のコークス化性が改善される可能性がある。なお,風化処理は,前述の細粒化操作とは異なり,微粉の増加を伴わないため,微粉による問題を回避しつつ,長浸透距離炭のコークス化性を改善しうる。

さらに,風化する石炭のサイズの違いにより,コークス化性が変化する可能性が示唆される。Fig.1(d)に,粒度分布を有する長浸透距離炭がコークス化性に負の影響を及ぼすメカニズムを示す。実際のコークス製造で使用される石炭は,粒度分布を有する。前述したように,石炭サイズが大きいほど,長浸透距離炭がコークス強度に及ぼす負の効果が大きい。すなわち,特に長浸透距離炭の粗粒が,コークス強度の低下の主要因である。したがって,Fig.1(e)に示すように,長浸透距離炭のコークス化性の向上は,粗粒部のみを風化した場合に,効果的に最大化することが示唆される。すなわち,この場合,コークス強度に特に負の影響を及ぼす粗粒部分の最大浸透距離のみを効果的に減少できるうえ,コークス強度への負の影響が比較的小さい細粒部分の,風化によるMF劣化を回避できる。その結果,配合炭全体のMFの低下を最小化できると推察される。

3. 風化が最大浸透距離とコークス化性に及ぼす影響に関する調査

3・1 実験

風化処理による長浸透距離炭の改質の可能性を明らかにし,最適条件を探索するために,いくつかの調査を行った。全部で3つの試験(Test1-3)を行い,MF,最大浸透距離およびコークス強度に及ぼす風化処理の影響を調べた。Test1では,MFと最大浸透距離に及ぼす風化条件の影響を調査した。Test2と3では,風化後の長浸透距離炭から製造したコークスの強度を評価した。これらの試験で試料として使用した石炭銘柄の特性データをTable 1に示す。試料石炭のビトリニットの平均最大反射率(Ro),全イナート量(TI)15),ギーセラー最高流動度(MF)および工業分析値をそれぞれJIS M881616),M88013),M881217)にしたがって測定した。最大浸透距離の測定は,前報2)の標準測定条件で行った。すなわち,風乾した試料石炭を,全粒度が2.0 mm以下100 wt%になるように粉砕し,最大浸透距離の値を前報と同じ測定条件(試料量:2.5 g,ガラスビーズ径:直径2.0 mm,重り:1.6 kg)で測定した。

Table 1. Single coal properties and measurement results.
Test No.Coal brandRo*1
(%)
logMF*2
(log ddpm)
TI*3
(%)
Ash
(wt% d.b.)
VM*4
(wt% d.b.)
Maximum permeation
distance (mm)
Test1CoalA0.793.9714.09.536.222.3
CoalB0.714.788.00.443.632.4
CoalC0.913.3917.17.933.020.0
CoalD0.663.7418.35.843.28.2
CoalE0.714.568.00.443.646.5
Test2CoalB0.714.788.00.443.632.4
Weathered CoalB3.4416.0
CoalF1.501.3228.110.319.15.4
CoalG1.012.3332.98.228.16.3
CoalH1.001.3439.710.226.12.5
CoalI0.932.7630.28.828.97.5
CoalJ0.782.1014.69.036.64.0
CoalK0.943.5225.69.830.211.5
Test3CoalE0.714.568.00.443.646.5
Whole weathered CoalE4.0735.9
Partly weathered CoalE4.2640.6
CoalL1.581.5425.310.517.86.6
CoalM1.370.9546.87.619.50.9
CoalN1.143.0530.19.124.511.5
CoalO0.992.5232.58.528.48.4
CoalP0.943.1431.19.329.015.2
CoalQ0.771.7221.29.635.37.2

*1 Mean maximum reflectance of vitrinite in oil *2 Maximum Fluidity *3 Total Inert *4 Volatile Matter

Test1では,高MFで最大浸透距離が異なる5つの試料石炭(CoalA, B, C, D, E)を用いた。MFと最大浸透距離に対する風化条件の影響を調べるために,CoalAを風乾後,2 mm以下100 wt%になるように粉砕した。次いで,あらかじめ100,150および200°Cに加熱した乾燥機に石炭を配置し,空気雰囲気で10-120 min間処理した。その後,得られた石炭のギーセラー流動度と最大浸透距離を測定した。石炭銘柄の違いの影響を検討するため,CoalAと同様の手順でCoalB,C,Dを調製し,150°Cで60 min間乾燥した。次に,石炭をギーセラー流動性試験と浸透距離測定に供した。また,Fig.1(e)の推察に基づき,風化処理時の石炭粒度の影響を調査した。1 mm以下の長浸透距離炭は,コークス強度に対して,大きな負の影響を与えないことが報告されている7)。したがって,1 mm以下の石炭は改質の必要性がなく,1 mm以上の長浸透距離炭のみを風化する方が効率的と考えられる。そこで,到着炭の粒度分布を有するCoalEを風乾後,2つの部分に分離した。すなわち,篩分け法により,石炭の大きさが1 mm以上のものを「粗粒分」,石炭の大きさが1 mm以下のものを「細粒分」とした。詳細な実験手順をFig.2に示す。粗粒分のみを,200°Cの乾燥機内で30 min間,空気雰囲気下で風化処理した。そして,風化した粗粒分と風化していない細粒分を混合した。以下,この石炭を「一部風化炭」と呼ぶ。一方,全粒度の石炭を同じ比較条件(以下「全風化炭」と呼ぶ)で風化した。次に,風化炭のMFと最大浸透距離を測定した。

Fig. 2.

Experimental procedures of whole and partly weathering. (Online version in color.)

Test2では,Fig.1(c)に示す改善効果を期待して,風化処理がコークス強度に及ぼす影響を調べた。配合炭の性状と配合条件をTable 2に示す。本実験では,長浸透距離炭としてCoalBを選定した。石炭を風乾し,粒度が3 mm以下100 wt%になるように調製した。次に,石炭を大気中で200°C,60 min間乾燥機で処理した。風化CoalBの一部をギーセラー流動性試験と浸透距離距離測定に供した。CoalBを除く配合炭の構成炭も,風乾し,3 mm以下100 wt%になるように粉砕した。Table 2に示すように,石炭銘柄を所定の配合割合で配合し,3種類の配合炭(Blend1: Ro=1.05およびlog MF=2.2を有するベース配合炭,Blend2: 95 wt%のBlend1および5 wt%のCoalB,Blend3: 95 wt%のBlend1および5 wt%の風化CoalB)を調製した。これら配合炭を,Table 3に示す条件で電気炉で乾留した後,窒素で冷却した。得られたコークスのコークス強度(ドラム強度指数)をJIS K215113)に基づいて決定した。

Table 2. Coal blending conditions (Test2, 3).
Coal brandTest2Test3
Blend1Blend2Blend3Blend4Blend5Blend6Blend7
CoalB0.05.00.0
Weathered CoalB0.00.05.0
CoalF18.017.117.1
CoalG18.017.117.1
CoalH20.019.019.0
CoalI19.018.118.1
CoalJ9.08.68.6
CoalK16.015.215.2
CoalE0.05.00.00.0
Whole weathered CoalE0.00.05.00.0
Partly weathered CoalE0.00.00.05.0
CoalL7.97.57.57.5
CoalM11.110.510.510.5
CoalN22.121.021.021.0
CoalO17.016.216.216.2
CoalP17.716.816.816.8
CoalQ24.223.023.023.0
Ro(%)1.051.031.031.051.031.031.03
logMF (log/ddpm)2.202.332.262.302.412.392.40
Table 3. Carbonization test conditions (Test2, 3).
Test2, 3
Moisture content (wt%)8
Bulk density (kg-dry/m3)750
Dimensions (mm)W270xH220xL263
Wall temperature (°C)1050
Coking time (min)360

Test3では,長浸透距離炭の粗粒への風化処理がコークス強度に及ぼす影響を調査し,Fig.1(e)に示す改善効果の検証を行った。本実験では,Test1のCoalEの一部風化炭と全風化炭を用いた。配合炭の性状と配合割合をTable 2に示す。配合炭の構成炭を風乾し,3 mm以下100 wt%になるように粒度調整した。Table 2に示すように,構成炭を所定の配合割合で配合し,4つの配合炭(Blend4: Ro=1.05およびlog MF=2.3を有するベース配合炭,Blend5: 95 wt%のBlend4および5 wt%のCoalE,Blend6: 95 wt%のBlend4および5 wt%のCoalEの全風化炭,Blend7: 95 wt%のBlend4および5 wt%のCoalEの一部風化炭)を調製した。これら配合炭をTable 3に示す条件で電気炉で乾留した後,窒素雰囲気下で冷却した。得られたコークスのドラム強度を測定した。

3・2 結果と考察

Test1の結果として,風化条件とCoalAのMFと最大浸透距離の関係をFig.3に示す。いずれの条件においてもMFと最大浸透距離は風化時間の経過とともに減少した。また,変動幅は時間とともに小さくなった。さらに,減少速度は温度上昇とともに大きくなった。Fig.4に150°Cで風化処理した4銘柄(CoalA,B,CおよびD)のMFと最大浸透距離の推移を示す。MFと最大浸透距離が他の銘柄より大きいCoalBを含め,全銘柄でMFと最大浸透距離が減少した。但し,各々の指標の減少速度は石炭銘柄によって異なった。これらの結果から,MFは損なわれるものの,最大浸透距離は風化により減少できることが明らかになった。したがって,これらの変化がコークス化性に影響することが示唆された。Fig.5に異なる粒度区分に対する,風化処理によるCoalEの MFと最大浸透距離の変化を示す。CoalEの全風化炭のMFと最大浸透距離は一部風化炭よりも低かった。この測定値の差は,風化した石炭の割合の差異によると考えられる。

Fig. 3.

Relationship among weathering conditions, MF and maximum permeation distance of CoalA. (Online version in color.)

Fig. 4.

Changes of MF and maximum permeation distance of CoalA, B, C and D with weathering processing at 150°C. (Online version in color.)

Fig. 5.

Changes of MF and maximum permeation distance of CoalE with weathering processing of different coal size conditions. (Online version in color.)

Fig.6–8に,風化処理前後の石炭のMFと最大浸透距離の関係を示す。参考までに前回の研究2)で得られた単味炭銘柄のデータを併せて示した。ここで,それぞれの風化条件の「風化方向」を以下のように定義する。風化方向とは,風化していない石炭の点を原点として,そこから風化後の石炭の点までの,測定したMFと最大浸透距離からなる座標面上の方向とする(Fig.6参照)。長浸透距離炭のより良い改質のための望ましい風化方向は,グラフのy軸に平行で,かつマイナス方向であると考えられる。なぜなら,MF値が高いほど,基本的には粘結性が高くなる4)ためである。さらに,同じMFレベルであれば,より短い最大浸透距離ほど高いコークス強度を与えることを前報2)で報告した。したがって,MFの維持と石炭の最大浸透距離の低減は,風化処理による最も理想的な改質と言える。

Fig. 6.

Relationship between MF and maximum permeation distance of CoalA weathered under different temperature and time conditions. (Online version in color.)

Fig. 7.

Relationship between MF and maximum permeation distance of different coal brands (CoalA, B, C, D) after or before weathered. (Online version in color.)

Fig. 8.

Relationship between MF and maximum permeation distance of CoalE weathered under different coal size condition. (Online version in color.)

Fig.6,7に示すように,風化方向は,風化処理の際の温度と石炭銘柄で変化した。一方,Fig.7の通り,全風化炭の風化方向は,一部風化炭の風化方向とほぼ同じであった。これらの結果から,望ましい風化条件が石炭ごとに異なることが示唆される。また,酸化反応は化学反応であるため,風化方向は,粒度変更のような物理的な操作には大きく影響されず,化学反応に影響する化学的操作により変化することが示唆された。すなわち,風化温度や,石炭銘柄固有の化学組成,分子構造などの特性に依存して,反応を変化させ,風化方向が変わると考えられる。

IshiharaguchiらによるMFへの風化温度の影響に関する報告18)によれば,60-160°Cの範囲においては,温度が高くなるほどMFが低下することが報告されている。また,風化温度の変化により,酸素を含む官能基の生成と風化の反応速度が変化することが報告されている19)。一方,石炭固有の含酸素官能基がMFに及ぼす影響は,官能基の種類によって変化することも報告されている20)。石炭固有の含酸素官能基と,風化により付加された含酸素官能基の間には違いはあるものの,官能基がMFに影響を与えると推察される。また,MFが最大浸透距離に影響を与える可能性のある因子である2)ことから,これらの化学変化が最大浸透距離にも影響を与えると考えられる。しかし,化学変化,MFおよび最大浸透距離の間の関係は,未だ明らかではない。風化によりMFと最大浸透距離が変化する原因を明らかにし,各石炭銘柄の好ましい風化条件を探索するための,化学的な分析に基づく更なる検討が今後の研究課題である。

次に,Test2の結果を示す。Table 1に示すように,CoalBのlog MFは,風化によって4.78 log ddpmから3.44 log ddpmに減少した。また,CoalBの最大浸透距離は32.4 mmから16.0 mmに短縮された。Fig.9にドラム試験の結果を示す。長浸透距離のCoalBを含むBlend2から得られたコークスの強度は,CoalBを含まないBlend1よりも低く,Blend2のMFはBlend3より少し高かった。対照的に,Blend3のMFはBlend2より低いものの,風化したCoalBを含むBlend3から得られたコークスの強度は,Blend1と同じレベルを示した。

Fig. 9.

Results of drum strength test for coal blends including CoalI with long maximum permeation or weathered CoalB(Test2). (Online version in color.)

Test3の結果を以下に述べる。図に示すように,長浸透距離炭CoalEのlog MFの値は,全風化後には4.56 log ddpmから4.07 log ddpmに,一部風化後には4.26 log ddpmに減少した。一方で,最大浸透距離の値も46.5 mmから全風化後には35.9 mmに,一部風化後には40.6 mmに減少した。Fig.10にドラム試験の結果を示す。最大浸透距離の長いCoalEを含むBlend5由来のコークスの強度は,Blend5のMFがBlend4のMFよりも若干高いにも関わらず,CoalEを含まないBlend4よりも低かった。一方で,全風化CoalEを含むBlend6は,MFがBlend5より若干低いにも関わらず,作製されたコークスの強度が改善された。興味深いことに,一部風化CoalEを含むBlend7由来のコークス強度は,Blend4や6よりも若干高くなった。したがって,全部または特に部分的な風化は,長浸透距離炭のコークス強度に対する負の影響を低減するのに効果的である。さらに,想定していた通り,その低減効果は,風化処理を行う石炭粒度の範囲に応じて変化することが示唆された。

Fig. 10.

Results of drum strength test for coal blends including CoalE with long maximum permeation or weathered CoalE(Test3). (Online version in color.)

Test2と3の結果から,風化処理による長浸透距離のコークス強度に及ぼす影響が変動するメカニズムを考察した。最大浸透距離が長い石炭のコークス化性が向上するのは,Fig.1(c),(e)に示すように最大浸透距離を短くすることで,長浸透距離炭に由来するコークス中の欠陥の生成が抑制されたためと考えられる。Test2と3の結果より,未風化の長浸透距離炭がコークス強度に負の影響を与えることを示した。これらの結果は,以前の結果と一致した2,7)。したがって,劣化の原因は,以前の研究で明らかにしたように,長浸透距離炭由来の気孔欠陥の形成であると考えられる。一方,MFと最大浸透距離は風化処理により減少した。一般的に,MFの減少と共にコークス強度が低下するので,風化炭はMFとコークス強度に悪影響を及ぼす4,11)。しかし,試験結果が示すように,風化した長浸透距離炭を含む配合炭から作られたコークスの強度は,風化によりMFが損なわれるものの,未風化の長浸透距離炭を含む配合炭から得られたコークスの強度よりも高くなった。以上のことから,風化処理によるMFの劣化によるコークス強度に対する負の影響よりも,浸透距離の短縮および欠陥の抑制によるコークス強度への正の影響の方が大きい場合があることが示唆された。Vegaら16)の報告によると,高MF炭の風化前後から製造したコークスの気孔構造に関する調査を通して,風化がコークス強度に対して正の効果が発現する推定原因として,著者らと同様の考察を行っている。すなわち,その報告によると,風化炭に由来するコークスは,風化によってMFが減少したが,風化していない石炭から製造されたコークスよりもマクロ細孔容積が少なく,細孔壁構造が厚かった。これらの結果は,本研究で推定されたメカニズムが妥当であることを裏付けている。

仮に推定したメカニズムが正しければ,最大浸透距離は,風化処理によりコークス強度が向上する高MF炭を検出できる可能性がある。最大浸透距離の長い石炭のコークス化挙動は,上記のように風化によって改善できる。他方,長浸透距離でない高MF炭のコークス強度は,風化によって低下すると推測される。なぜならば,浸透距離を短くすることによるコークス強度への石炭の正の効果は限定的な一方で,MFの劣化はコークス強度に負の影響を及ぼすからである。すなわち,最大浸透距離は,風化処理によるコークス化性の向上が可能な石炭を選定するための有用な指標として利用できる可能性が示唆される。

次に,風化した長浸透距離炭の粒度がコークス強度に及ぼす影響について,考察を行った。Test3の結果から,一部風化CoalEを含むBlend7が最も高いコークス強度を示した。したがって,全体の風化よりも部分的に風化することにより,石炭の粗粒からの欠陥形成を抑制し,1 mm以下の石炭のMFが劣化することを回避できるので,より効率的な改質が達成されることが分かった。実際,Table 2に示すように,一部風化CoalEのlog MFは全風化した場合よりも,0.19高かった。より高いMFがコークス強度の向上に寄与したと推察される。一方で,一部風化炭の最大浸透距離は,試料石炭の全粒度の平均値であるため,全風化炭よりも明らかに高かった。しかし,本研究に基づくと,粗粒の最大浸透距離がコークス強度の決定に重要である。考察の結果,長浸透距離炭のコークス化性を改善するには,粗粒の部分的な風化が全風化よりも効率的であることが示された。

結論として,長浸透距離炭のコークス強度への負の影響は,特定の条件の風化処理を通して抑制できることを明らかにした。本研究で得られた知見は,長浸透距離炭の利用可能性を拡大し,特に長浸透距離炭の有効利用に貢献できる。あるいは,長浸透距離炭を使用しつつ,高強度コークスを製造できることが期待される。したがって,本知見は,高炉における還元材比の低減と,製鉄プロセスにおける最終的なCO2排出量の削減に寄与すると期待される。

4. 結論

コークス強度の低下を誘因する長浸透距離炭の,より効果的な利用技術を開発するために,石炭の最大浸透距離とコークス化性に及ぼす大気雰囲気下での風化処理条件の影響を調べた。その結果,以下の知見を得た。

(1)風化処理により,最高流動度(MF)と最大浸透距離は減少した。処理温度が100°Cから200°Cの範囲内においては,処理温度が高くなるほどMFと最大浸透距離の減少速度が増加することが分かった。

(2)石炭の風化処理により,流動性は損なわれたが,配合炭への長浸透距離炭の配合によるコークス強度の低下影響は減少した。長浸透距離炭に由来する欠陥生成が,風化に伴う最大浸透距離の減少により抑制されることが示唆された。

(3)コークス中に粗大な欠陥を形成する1 mm以上の粗粒に対してのみ風化処理をすることで,長浸透距離炭のコークス強度に対する負の影響を効率的に低減することが可能である。粗粒に対する部分的な風化は,1 mm以下の石炭の流動性の劣化を回避することで,全体の流動性の劣化を最小限に抑制できる。

文献
 
© 2021 The Iron and Steel Institute of Japan

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