2021 Volume 107 Issue 12 Pages 1047-1056
Steels are widely used for structural material of bridges. Some of bridges have been used for more than half century, and degradation of bridges become severe problems, due to the atmospheric corrosion of metallic materials. Especially, atmospheric corrosion of steel is caused by cycles of wet and dry conditions, and accelerated by evaporation of raindrops containing Cl- ions. In this study, corrosion of pure iron and steels is investigated under wet-dry cycling condition with NaCl solution by scanning electron microscopy (SEM) and 3D-optical microscopy (3D-OM). Initially 20 mm3 of 0.02 M-NaCl solution was dropped on pure Fe, SM490Y, and SMA490AW specimens, and then, droplets of water were dropped at the same position of the specimens at 9 min intervals for 150 cycles.
All specimens were covered with white, black, and reddish corrosion products at the water-dropped position, and the reddish ones became major with increasing water-dropping cycles. SEM images after corrosion product removal showed pitting corrosion on all specimens, and the corrosion was more severe at the edge areas of water-dropped position than at the center areas. 3D-OM obtained after 150 cycles showed that the deepest pit produced at the edge areas were in the order of Fe >> SM490Y = SMA490AW, and that the total volume loss at the edge areas by corrosion were in the order of Fe > SMA490AW > SM490Y. The corrosion mechanism can be explained by higher rates of O2 supply at the edge areas and denser corrosion products on steel than on Fe.
現在,日本各地には70万基以上の鉄鋼材料を用いた道路橋が設置されており,これらが人,物,文化の流れを健全に維持する上で非常に重要な役割を担う社会インフラ基盤となっている1)。これら橋梁はその多くが1955年頃の高度成長期,もしくはそれ以後に建設されたものであり,老朽化に対する懸念が生じている。これら橋梁の寿命や更新時期については,橋梁の材質・形態および設置環境などにもよるため,一括りに判断することは困難であるが,1990年代には橋梁の約半数が建設から半世紀程度で更新されていた2)ことを目安とすると,2019年時点で現在設置されている橋梁の約3割が,2033年になると7割程度が更新対象となると試算されている3)。しかしながら,これらすべてを撤去,および再架橋するためには莫大な費用がかかる。このため,これからの道路橋の維持管理においては,これらの寿命と劣化具合を正確に予測して更新が必要な橋梁を選別し,優先的に再架橋するという新しい視点が必要となる。これら橋梁の老朽化要因としては,橋梁の構造材料として用いられている鉄鋼の長期間にわたる屋外曝露環境下における大気腐食が挙げられる。日本各地の平均湿度はTable 1に示す通り,おおよそ60~70%RH程度であることから,これら材料は主に乾燥状態に晒されていると考えられる。ここに雨や結露による水分が金属表面に液滴として付着することに加え,特に沿岸地域などでは海水由来のNaCl等が液滴に溶解しており,水分の蒸発による析出と,液滴の再付着による溶解を繰り返すと考えられる。このような乾湿繰り返し環境においては,水分蒸発にともなう液膜薄化による酸素供給速度の上昇,あるいはCl-イオン濃度の増加などの影響により,単純な浸漬環境における腐食5–9)とはまったく異なる機構で腐食が進行すると推察される10–17)が,これについては未だ不明な点が多い。
| Month | Sapporo | Tokyo | Osaka | Fukuoka | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Ave. of temp. (°C) | Ave. of hum. (%RT) | Ave. of temp. (°C) | Ave. of hum. (%RT) | Ave. of temp. (°C) | Ave. of hum. (%RT) | Ave. of temp. (°C) | Ave. of hum. (%RT) | |
| Jan. 20 | -2.3 | 71 | 7.1 | 65 | 8.6 | 64 | 9.5 | 71 |
| Feb. | -2.1 | 73 | 8.3 | 55 | 8 | 61 | 9.7 | 66 |
| Mar. | 3.3 | 67 | 10.7 | 65 | 11.4 | 61 | 12.4 | 64 |
| Apr. | 6.8 | 65 | 12.8 | 66 | 13.7 | 55 | 14.1 | 59 |
| May | 13.7 | 66 | 19.5 | 75 | 20.8 | 63 | 20.4 | 71 |
| Jun. | 18.3 | 73 | 23.2 | 82 | 24.9 | 69 | 24.9 | 76 |
| Jul. | 21.2 | 77 | 24.3 | 89 | 26 | 80 | 25.5 | 82 |
| Aug. | 23.3 | 76 | 29.1 | 76 | 30.7 | 66 | 30.2 | 70 |
| Sep. | 20.1 | 76 | 24.2 | 83 | 25.8 | 69 | 24.5 | 74 |
| Oct. | 13.1 | 69 | 17.5 | 75 | 18.7 | 67 | 19.4 | 67 |
| Nov. | 6.3 | 69 | 14 | 65 | 14.7 | 66 | 15.3 | 66 |
| Dec. | -1.6 | 65 | 7.7 | 61 | 8.7 | 61 | 8.5 | 61 |
| Ave. of year | 10 | 70.6 | 16.5 | 71.4 | 17.7 | 65.2 | 17.9 | 68.9 |
そこで,本研究では海浜地域かつ日照部における大気腐食を模擬するため,ペルチェ素子を用いた温度一定の試料台装置上に置かれた試料にマイクロシリンジを用いて間欠的に液滴を滴下し,乾湿繰り返し環境における純鉄および鉄鋼材料の大気腐食挙動を追跡した(Fig.1)。まず,試料の表面にNaCl水溶液を一滴滴下すると,試料表面に半球形の液滴が形成される(Fig.2(a))。このまま放置すると,時間の経過とともに水分の蒸発に伴って液滴は小さくなり,液滴の端からNaClの析出が始まる(Fig.2(b))。さらに乾燥時間を増加させると,液滴はほぼ完全に蒸発・消失し,おおよそリング状のNaCl析出物が液滴のあった場所に観察されるようになる(Fig.2(c))。その後,同量の純水を試料の同一箇所に滴下すると,析出したNaClは速やかに溶解し,再び半球形のNaCl含有液滴となる(Fig.2(a)参照)。このまましばらく放置すると,水分がほぼ完全に乾燥し,1サイクル目と同様にほぼリング状のNaCl析出物が観察される(Fig.2(c)参照)。このような純水の滴下により試料表面に水溶液が付着している状態(湿潤状態),ならびに水分が乾燥し,表面にNaCl析出物が付着している状態(乾燥状態)を最大百数十回繰り返すことで大気環境における純鉄および鉄鋼材料の腐食を模擬した。本研究ではこのような乾湿繰り返しによる,NaClの濃縮/析出/溶解環境における純鉄および鉄鋼材料の腐食形態を三次元的に観察した結果について報告する。

Schematic diagram of equipment for repeated wet-dry cycling test. (Online version in color.)

Schematic diagram of sample surface during repeated wet-dry cycling test. (Online version in color.)
試料として純鉄(厚さ:0.8 mm),一般的な汎用鋼であるSM490Y(厚さ:12 mm)ならびに耐候性綱SMA490AW(厚さ:9 mm)を用いた。用いた試料の組成をTable 2に示す。これらを20×20 mmに切り出し,耐水研磨紙(#2000)およびバフにより表面を鏡面まで研磨して試料とした。乾湿繰り返し試験では日照環境での大気腐食を再現するため,ペルチェ素子を内蔵した試料台に前処理試料を設置し,温度を323 Kに保持した。この表面にマイクロシリンジからを0.02 M-NaCl水溶液1滴約20 mm3を滴下したところ,直径5 mm程度の半球形の液滴が形成された。約6 min後,水分はほぼ完全に蒸発・消失し,NaCl粒子からなる,おおよそ直径5 mmのリングが試料表面に生じた。このまま3 minの乾燥時間を経たのち,マイクロシリンジにて同量の純水を試料の同一箇所に滴下すると,析出したNaClは速やかに溶解し,直径約7 mm程度と,1サイクル目よりも一回り大きな潰れた半球形の液滴が生成した。このまましばらく放置すると,水分がほぼ完全に蒸発し,1サイクル目と同様にほぼリング状のNaCl析出物が観察された。この乾燥・湿潤プロセスを最大150回繰り返した。なお,液滴の直径は,繰り返し回数ともに少しずつ大きくなり,150回では,約10 mmとなった。なお,9 min間隔で150回の滴下を行ない,滴下に要する時間は無視できるので,トータルの実験時間は,最大22.5 hとなる。
| Specimen | C | Si | Mn | P | S | Cu | Ni | Cr | Fe |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Pure Iron | - | - | - | - | - | - | - | - | 99.99 |
| SM490Y | 0.16 | 0.28 | 1.41 | 0.014 | 0.002 | - | - | - | Bal. |
| SMA490AW | 0.12 | 0.29 | 1.14 | 0.015 | 0.006 | 0.34 | 0.19 | 0.50 | Bal. |
上述の乾燥,湿潤を20,50,100および150回繰り返した試料の表面を写真撮影し,試料表面に生成する腐食生成物の色および形態を観察した。乾湿繰り返し20,50,100および150回の試料を純水およびアセトンで洗浄後,酸洗用インヒビターを添加した30%-H2SO4に30 min浸漬することにより腐食生成物を溶解除去し,その後アセトン中で超音波洗浄した。腐食生成物除去試料の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)および,三次元光学マイクロスコープ(3D-OM)により観察した。3D-OM観察により,腐食による最大減肉厚さおよび総体積ロスを算出した。
Fig.3に,上述の0.02 M-NaCl水溶液での乾湿繰り返し試験を0~150サイクル行った後の純鉄表面の光学写真を示す。Fig.3(a)に示した0サイクルの試料,すなわち前処理後試料の表面にはほとんど凹凸が見られず,鏡面を示した。20サイクル後,純水およびアセトンで洗浄した試料表面においては,NaClは溶解除去されており,滴下部の大部分に白色の腐食生成物と,滴下端部の一部に赤褐色および黒色の腐食生成物が観察される(Fig.3(b))。また,滴下部中心部に比べ,液滴端部の方が腐食生成物はより明確に観察され,より激しい腐食が進行しているように見える。なお,液滴滴下部以外の表面は,一切の変化が見られず,金属光沢が維持されていた。50サイクル後においては,液滴中心部の大部分に黒色の腐食生成物が生成するとともに,液滴端部には赤褐色の腐食生成物が観察される(Fig.3(c))。さらにサイクル数を100,150サイクルと増加させると,液滴端部に見られた赤褐色の腐食生成物が,中心部にも観察されるようになり,赤褐色腐食生成物の占める面積割合が増加することがわかる。なお,腐食生成物が観察される総面積が,サイクル数とともに増大するのは,上述のように,液滴の直径がサイクル数とともに増大するためである。

Photographs of pure Fe after wet-dry cycling test in 0.02 M-NaCl solution and washing in acetone. (a) 0 cycle (after pretreatment), (b) 20 cycles, (c) 50 cycles, (d) 100 cycles, (e) 150 cycles.
続いて汎用鋼材であるSM490YにNaCl水溶液での乾湿繰り返し試験を0~150サイクル行った後の試料表面光学写真をFig.4に示す。0サイクル後の前処理後試料の表面は,純鉄材料と同様に凹凸がなく,鏡面を示すが,20サイクル後においては,滴下部全体に赤褐色および黒色の腐食生成物が観察され,純鉄とは異なり,白色の腐食生成物は観察されない(Fig.4(b))。さらにサイクル数を50(Fig.4(c)),100(Fig.4(d)),150サイクル(Fig.4(e))と増加させると,さらに腐食は進行し,滴下部全体に,主に赤褐色の腐食生成物が観察されるようになる。

Photographs of SM490Y after wet-dry cycling test in 0.02 M-NaCl solution and washing in acetone (a) 0 cycle (after pretreatment), (b) 20 cycles, (c) 50 cycles, (d) 100 cycles, (e) 150 cycles.
Fig.5は,耐候性綱材であるSMA490AWの乾湿繰り返し試験0 – 150サイクル後の表面光学写真である。この試料においても汎用鋼材SM490Yと同様に20サイクル後では,液滴下部全体に赤褐色および黒色の腐食生成物が観察され(Fig.5(b)),さらにサイクル数の増加とともに液滴滴下部位の全体に,主に赤褐色の腐食生成物が観察されるようになる(Fig.5(c),(d),(e))。なお,150サイクル(Fig.5(e))における腐食面積が100サイクル(Fig.5(d))におけるそれに比べて若干小さいのは,それぞれ異なった試料を用いたためのバラツキとによる考えられる。

Photographs of SMA490AW after wet-dry cycling test in 0.02 M-NaCl solution and washing acetone. (a) 0 cycle (after pretreatment), (b) 20 cycles, (c) 50 cycles, (d) 100 cycles, (e) 150 cycles.
上述の乾湿繰り返し実験において生成した腐食生成物はこれまでのMisawaらによる研究18,19)から,白色の腐食生成物についてはFe(OH)2,黒色のものについてはFe3O4(Magnetite),赤褐色のものはγ-FeOOH(lepdocrosite)とα-Fe2O3(hematite)の混合物であると予想される。すなわち,いずれの試料においても,サイクル数の増大により,γ-FeOOHおよびα-Fe2O3が,滴下部全体を厚く覆うようになると推察される。また,この変化は鉄鋼材料の方が純鉄に比べて速いようにみえる。
3・2 腐食生成物除去後の表面形状のサイクル変化上述の滴下部における腐食生成物の成長挙動をより詳細に調べるため,乾湿繰り返し試験20,50,100および150サイクル後の試料を酸洗処理することで,腐食生成物を全て除去した後,試料の表面の微細構造をSEMにより観察した結果について示す,ここでは液滴中心部,端部に観察された腐食痕のうち最も大きいものとその周辺の構造をそれぞれ示している。
初めに純鉄試料について得られた結果をFig.6に示す。Fig.6(a)は前処理試料に酸洗処理のみを行った表面SEM像であるが,表面は極めて平坦であり,酸洗処理により試料の局部溶解がないことがわかる。20サイクル以上の試料表面形状は,液滴中心部(Fig.6(b),(c),(d),(e))と端部(Fig.6(f),(g),(h),(i))とでは大きく異なる。中心部(Fig.6(b))では,直径が20 – 80 μmの,少数のピットと数μmの多数の腐食痕が観察されるのに対し,液滴端部(Fig.6(f))では,サイズが100 μm以上の不規則な形のピットが観察される。サイクル数50,100,150回においては,中心部では,ピットの大きさはあまり変化しないが,その数はサイクル数とともに若干増大するように見える(Fig.6(c),(d),(e))。これに対し,液滴端部ではピットの数およびサイズの両者ともサイクル数とともに大きく増加する (Fig.6(g),(h),(i))。

SEM images of pure Fe at the center of water droplet (Figs. 6 (a), (b), (c), (d) and (e) and at the edge of water droplet (Figs. 6 (f), (g), (h), and (i) after 0 (Fig. 6 (a), 20 cycles (Figs. 6 (b) and (f), 50 cycles (Figs. 6 (c), and (g), 100 cycles (Figs.6 (d) and (j)), and 150 cycles (Fig. 6 (e) and (i) of wet-dry cycling test. Images show the most severely corroded areas both at the center and edge of water droplet. Specimens were washed in H2SO4 with inhibitor to remove corrosion products before SEM observation.
SM490YおよびSMA490AW鋼材試料についての結果をそれぞれFig.7およびFig.8に示す。いずれの試料においても,端部の腐食速度は,中心部に比べて大きい。鋼材材料においては,サイクル数とともに端部のピット数の増大が純鉄に比べて顕著であることがわかる。

SEM images of SM490Y at the center of water droplet (Figs. 7 (a), (b), (c), (d) and (e) and at the edge of water droplet (Figs. 7 (f), (g), (h), and (i) after 0 (Fig. 6(a), 20 cycles (Figs. 7 (b) and (f), 50 cycles (Figs. 7 (c), and (g), 100 cycles (Figs. 7 (d) and (j)), and 150 cycles (Fig. 7 (e) and (i) of wet-dry cycling test. Images show the most severely corroded areas both at the center and edge of water droplet. Specimens were washed in H2SO4 with inhibitor to remove corrosion products before SEM observation.

SEM images of SMA490AW at the center of water droplet (Figs. 8 (a), (b), (c), (d) and (e) and at the edge of water droplet (Figs. 8 (f), (g), (h), and (i) after 0 (Fig. 6 (a), 20 cycles (Figs. 8 (b) and (f), 50 cycles (Figs. 8 (c), and (g), 100 cycles (Figs. 8 (d) and (j)), and 150 cycles (Fig. 8 (e) and (i) of wet-dry cycling test. Images show the most severely corroded areas both at the center and edge of water droplet. Specimens were washed in H2SO4 with inhibitor to remove corrosion products before SEM observation.
上述のように,サイクル数とともに腐食が進行し,その様子は滴下中心部と端部とで大きく異なるが,腐食深さはどのように変化するのであろうか。以下に3D-OM観察により,腐食ピットが乾湿繰り返しサイクルとともに深さ方向にどのように進行するかを示す。
Figs.9,10および11は,それぞれ純鉄試料,SM490YおよびSMA490AWについて得られた縦断面像を示している。いずれの像もXY方向(水平)をわずかに傾けている。なお,中心部と端部では形成する腐食痕サイズが大きく異なるため,X方向の縮尺は中心部を撮影した像(Figs.9,10,11(a),(b),(c),(d),(e))と端部のもの(Figs.9,10,11(f),(g),(h),(i))で異なり,X方向とZ方向(深さ)の縮尺は,中心部ではおおよそ3:1,端部ではおおよそ6:1で表されている。また,本研究においては,試料の腐食部全面を観察しているが,最も激しく腐食が進行している場所を選択し,示している。乾湿繰り返し試験前の純鉄試料に酸洗処理を行っても,試料表面には,SEM像(Fig.6(a)参照)と同様,凹凸がほとんど観察されず,酸洗処理により試料の局部溶解は起きないことがわかる(Fig.9(a))。20サイクル後では,滴下中心部においては最大深さ5 μm程度の円錐状のピットが観察されるのに対し(Fig.9(b)),端部においては,複数のピットが連続しており,最大深さが26 μmに達している(Fig.9(f))。さらにサイクル数を50,100,150回と増加させると,腐食痕は成長し続け,ピットの最大深さは中心部においては,それぞれ11,15および17 μmと徐々に増大するのに対し(Figs.9(c),(d),(e)),端部においては33,52および60 μmとなり,深さ方向へのピットの成長が著しい(Figs.9(g),(h),(i))。

3D-OM images of pure Fe at the center of water droplet (Figs. 9 (a), (b), (c), (d) and (e) and at the edge of water droplet (Figs. 9 (f), (g), (h), and (i) after 0 (Fig. 9 (a), 20 cycles (Figs. 9 (b) and (f), 50 cycles (Figs. 9 (c), and (g), 100 cycles (Figs. 9 (d) and (j)), and 150 cycles (Fig. 9 (e) and (i) of wet-dry cycling test. Images show the most severely corroded areas both at the center and edge of water droplet. Specimens were washed in H2SO4 with inhibitor to remove corrosion products before 3D-OM observation.
汎用鋼材SM490Yにおいても,乾湿繰り返し試験前の試料表面は平滑であり,酸洗処理による局部溶解は無視できる(Fig.10(a))。乾湿繰り返し20,50,100,150サイクル後におけるピットの最大深さは,液滴中心部でそれぞれ約11,15,20および21 μmであり(Figs.10(b),(c),(d),(e)),液滴端部で15,20,27,34 μmを示す(Fig.10(f),(g),(h),(i))。ピットの最大深さを純鉄とSM490Yとで比較すると,液滴中心部では両者に大きな違いは見られないが,端部においてはSM490Yは純鉄に比べて浅いことが明らかである。耐候性綱SMA490AW(Fig.11)においても,乾湿繰り返し試験において生成した腐食ピットはサイクル数にともなって増大し,液滴中心部で最大深さは24,25,26および29 μm(Fig.11(e))となり,液滴端部では7,23,29,32 μmとなる(Fig.11(i))。

3D-OM images of SM490Y at the center of water droplet (Figs. 10 (a), (b), (c), (d) and (e) and at the edge of water droplet (Figs. 10 (f), (g), (h), and (i) after 0 (Fig. 10 (a), 20 cycles (Figs. 10 (b) and (f), 50 cycles (Figs. 10 (c), and (g), 100 cycles (Figs. 10 (d) and (j)), and 150 cycles (Fig. 10 (e) and (i) of wet-dry cycling test. Images show the most severely corroded areas both at the center and edge of water droplet. Specimens were washed in H2SO4 with inhibitor to remove corrosion products before 3D-OM observation.observation.

3D-OM images of SMA490AW at the center of water droplet (Figs. 11 (a), (b), (c), (d) and (e) and at the edge of water droplet (Figs. 11 (f), (g), (h), and (i) after 0 (Fig. 11 (a), 20 cycles (Figs. 11 (b) and (f), 50 cycles (Figs. 11 (c), and (g), 100 cycles (Figs. 11 (d) and (j)), and 150 cycles (Fig. 11 (e) and (i) of wet-dry cycling test. Images show the most severely corroded areas both at the center and edge of water droplet. Specimens were washed in H2SO4 with inhibitor to remove corrosion products before 3D-OM observation.
Figs.9,10および11で得られた最大ピット深さをを最大減肉厚さと定義し,これをサイクル数に対しプロットしたものをFig.12に示す。最大減肉厚さのサイクル変化は,純鉄,SM490YおよびSMA490AWにおいて類似の傾向を示し,液滴中心部および端部においてもその増加速度は初期に大きく,サイクル数とともに減少する。また,サイクル数150回における最大減肉厚さは,液滴中心部においては純鉄<SM490Y<SMA490AWであるが,端部においては純鉄≫SM490Y=SMA490AWの順となる。

Change in the largest depth of pits with cycle during wet-dry cycling test in 0.02-M NaCl solution.
これら液滴中心部,および端部での最大減肉厚さの試料による序列の違いについての明瞭な説明は困難である。中心部と端部では,酸素供給速度,濡れ時間等が異なり,これらが腐食速度に直接影響する。また表面を覆っている腐食生成物の厚さおよび構造が変化することにより,腐食の形態が間接的に影響を受けると考えられる。これらがピットの生成速度と成長速度との速度を変化させ,最大減肉厚さを決定するのであろう。
乾湿繰り返し各サイクル後の酸洗試料の表面全体を3D-OM観察し,得られた3次元像中の凹凸を積算することにより腐食による総体積減少量を算出したのち,液滴中心部と端部における体積とに分割した。なお,分割にあたっては,滴下部に生成した腐食部位の中心5 mmの円内を中心部,その外側の部位を端部とした。腐食部位はサイクル数とともに若干増大するので,中心部/端部の面積比は,サイクル数とともに減少することになる。Fig.13は,液滴中心部および端部の腐食による総体積減少量をサイクル数に対しプロットしたものである。いずれの試料においても,液滴中心部における体積減少量は,端部に比べて無視できるほど小さく,サイクル数による増大は極めて小さい。液滴端部における体積減少量は,サイクル数とともに増大するが,いずれの試料においても100回以後で定常となり,その値は,純鉄>SMA490AW>SM490Yの順である。

Change in the corroded volume with cycle during wet-dry cycling test in 0.02 M-NaCl solution.
液滴滴下法によるNaClの溶解・析出の繰り返しにより,純鉄,SM490YおよびSMA490AWの腐食挙動を調べた結果,以下のことが明らかになった。
(1)滴下中心部と端部とでは,端部の腐食が圧倒的に激しく,サイクルの増大とともに赤褐色の腐食生成物に覆われる。
(2)腐食生成物下では,素地金属の孔食が進行し,端部に生成するピットの数は,純鉄に比べてSM490YおよびSMA490AWが多いが,端部におけるピットの最大深さおよびピット総体積は,純鉄に比べてSM490YおよびSMA490AWが小さい。
(3)孔食ピットの生成・成長は,サイクル数100回以上でほぼ停止する。
上記結果をベースとし,純鉄,SM490YおよびSMA490AWの乾湿繰り返し試験における腐食メカニズムを議論するのに先立って,それぞれの試料の腐食速度のサイクル変化を以下に見積もる。Fig.14は,Fig.12に示した最大減肉厚さvs.乾湿繰り返しサイクル曲線をサイクル数で微分することにより得られた減肉厚さのサイクル変化量を示している。いずれの試料においても滴下端部においては,サイクル初期に観察される増加速度は,サイクルとともに急激に減少し,サイクル数50回以上では,極めて小さな値となる。それに対し,液滴中心部においては,いずれの試料においても端部に比べて初期の速度は小さく,サイクル数とともに減少し,サイクル数100回以上で,極めて小さな定常値となる。端部における初期の減肉厚さの増加速度は,中心部における速度に比べて大きく,純鉄=SMA490AW>SM490Yの順であることがわかる。なお,純鉄における端部およびSMA490AWにおける中心部の曲線における極大値は,実験誤差として考慮から除外したが,生成する表面皮膜の組成・構造の変化など,更なる研究が必要である。

Change in the rate of decrease in specimen thickness at the most severely corroded area with cycle during wet-dry cycling test in 0.02 M-NaCl solution.
Fig.15は,Fig.13に示した腐食による総体積減少量vs.サイクル数曲線をサイクル数で微分することで得られる体積減少量の増加速度のサイクル変化を示している。いずれの試料においても,液滴中心部においては,体積ロスの増加速度は,サイクル数に依存せずほとんどゼロであり,端部に比べて無視できる。液滴端部における体積ロスの増加速度は,試料により大きく異なる。純鉄においては体積ロスの増加速度は,0 – 20サイクルにおいては比較的小さい値を示したのち,その後急増し,50サイクルにおいて最大値を示した後減少し,150サイクルではほぼゼロとなる。腐食総体積の増加速度変化は,SM490Yにおいては,サイクル数とともに減少する単純な斬減曲線を示し,サイクル数150回でほぼゼロとなるのに対し,SMA490AWにおいては,サイクル数100回で極大を持つ曲線を示し,他の二つの試料と同様,サイクル数150回でゼロとなる。

Change in the volume loss rate of specimens during cycle during wet-dry cycling test in 0.02 M-NaCl solution.
上述の腐食挙動は,酸素供給速度と試料表面に生成する酸化物皮膜の耐食性により説明することができる。乾湿繰り返し試験前の鉄表面には耐食性を持つ空気酸化皮膜層が存在することが知られているが,NaCl水溶液を滴下するとその一部に欠陥が生じる。この皮膜欠陥部で下式のような鉄の溶解反応(式(1))と溶存酸素の還元反応が対になることで腐食が進行すると考えられる。
| (1) |
| (2) |
欠陥部への酸素の供給を一軸拡散によると仮定すると,液滴中心部では水膜が厚いため,酸素の供給速度は小さいが,滴下端部ではその上部の水膜が薄く,供給速度が速くなるものと予想される。このため,滴下中心部では鉄の腐食速度が小さく,腐食はあまり進行しないが,液滴端部では激しい鉄の腐食が進行すると考えられる。なお,滴下端部の腐食が激しいのは,液滴の乾燥過程において水分の蒸発にともない液滴中心部より端部に向かう流れが表面張力により誘起された20,21)結果,滴下中心部が先に乾燥状態になるのに加え,端部では析出したNaClの吸水性により,乾燥時間が短いためとも考えられる。式(1)で生成するFe2+あるいはFe3+は,微量液滴中で式(2)で生成したOH-と反応して腐食生成物を形成する。代表的な反応を以下に示す。
| (3) |
| (4) |
| (5) |
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生成した腐食生成物は,試料表面を覆って更なる腐食を抑制することになるが,その抑制効果は,その組成,欠陥構造,厚さなどにより変化する。いずれの試料においてもサイクル数が150回以上でピットの成長がほぼゼロになるのは,試料表面を腐食生成物が厚く覆うためと考えられる。また,液滴中心部において抑制効果があまり効果的でないのは,腐食生成物からなる皮膜が薄いためであろう。
Feの他にC,Si,MnおよびPを含むSM490Yおよびそれらに加えてCu,Ni,Crを少量含むSMA490AWは,比較的緻密な皮膜を形成し,薄い皮膜でも腐食抑制効果が大きいと考えられ,初期の腐食速度は純鉄が最も大きく,SM490YおよびSMA490AWのそれが比較的小さいのは,皮膜の抑制効果の違いによると考えられる。
減肉増加速度と腐食による試料総体積減少量の変化挙動が一致しないのは,ピット発生速度とピット成長速度が試料により異なるためであり,例えば純鉄の液滴端部において,減肉増加速度がサイクル数とともに減少するのに対し,腐食総体積の増加速度がサイクル数100回で極大値を示すのは,サイクル数とともにピット生成速度が成長速度に比べて大きくなるためと考えられる。この理由は明らかではないが,表面を覆う皮膜の組成,厚さおよび欠陥構造の違いによるものと推察される。
本研究における液滴滴下法による乾湿繰り返し実験は,グローブボックス・液噴霧装置などの比較的大きな装置を必要とする通常の乾湿繰り返し実験に比べ,安価・簡便であり,温度,乾湿繰り返し間隔,溶液組成などの実験パラメーターを容易に変化させることができる特徴を有する。橋梁の構造材料としての鉄鋼の腐食劣化を予測するとともに,橋梁維持の最適化に大きく貢献することが期待される。
以上の結果より次の結論が得られた。
(1)純鉄,SM490YおよびSMA490AWに0.02 M NaCl水溶液で滴下乾湿繰り返し試験を行うと滴下中心部に比べ,滴下端部で激しい腐食が進行する。サイクル数の増大にともない,滴下部全体が,γ-FeOOHおよびα-Fe2O3の混合物と考えられる赤褐色の腐食生成物に覆われるようになる。
(2)乾湿繰り返し試験150回後の試料における腐食にともなう最大減肉厚さは,滴下端部の方が中心部に比べて大きく,中心部においては純鉄<SM490Y<SMA490AWであるが,端部においては純鉄≫SM490Y=SMA490AWの順となる。
(3)乾湿繰り返し試験150回後の試料体積ロスは,滴下中心部においては,端部に比べて無視できるほど小さい。一方で液滴端部における体積ロスは,サイクル数とともに増大するが,いずれの試料においても100回以後で定常となり,その値は,純鉄>SMA490AW>SM490Yの順である。
本研究は一般社団法人日本鉄鋼協会の研究会II“腐食劣化解析に基づく鋼構造物維持の最適化”の一環として行われたものである。