2021 Volume 107 Issue 3 Pages 257-267
Cyclic fatigue, dwell fatigue and crack growth properties were evaluated in the axial direction (L) and transversal direction (T) of Ti-6Al-4V forged round bar. In the SN curve where the stress is normalized by 0.2% proof stress, the cyclic fatigue life in the L/T direction is almost the same, whereas the dwell fatigue life in the T direction is as short as 1/5. In dwell fatigue, ductile fracture occurred when the maximum stress was higher than 95% of 0.2% proof stress. At stresses below 870 MPa, the inelastic strain range and the strain increase rate in the T direction gradually decreased with decreasing stress, and the fracture mode transitioned to that with fatigue crack growth. The gradual change must have been caused by the mixture of anisotropic microtexture regions. At stresses below 825 MPa, the fracture mode transitioned rapidly in the L direction, where the soft oriented microtexture regions were dominant. In the low ΔK region (≤15MPa
航空機エンジンのファンディスク等に使用されるチタン合金では,室温~200°C程度において,高応力状態が一定時間継続するDwell疲労によって,疲労寿命が大幅に低下することが知られている。Dwell疲労におけるき裂発生サイトや特徴的なファセット形成に及ぼすミクロ組織,集合組織,あるいはミクロ集合組織(領域)(Micro Texture Region;MTR)の影響について多くの研究が行われきた1,2)。Evans and Bacheは,応力再分配機構(Stress redistribution)や修正Strohモデルにより,ファセット形成機構を説明した3)。Hasijaらは,結晶塑性異方性と時間依存型塑性を考慮した解析を行い,方位が異なる結晶粒が隣接する場合に,Load shedding機構によって局所的な応力集中を生じることを示し,き裂発生の原因になり得るとした4)。Dunne and Ruggは,擬へき開破壊機構を組み込んだ結晶塑性有限要素モデルを用い,応力保持を伴う負荷方式の場合にLoad shedding機構によってファセットが形成されることを示した5)。また,Sinhaらは,Dwell疲労破面に観察されるファセット面が,α相の底面に対し10°程度傾斜していることを明らかにした6,7)。Pilchak and Williamsは特徴的なファセットについて起点ファセット(Initiation facet)と進展ファセット(Propagation facet)に分けて詳細に論じ8),ファセットを形成する場合にはき裂進展速度が速いこと9),き裂がミクロ集合組織領域内を高速で進展するため,そのの大きさがDwell疲労寿命に強く影響することを示した10)。また,Langは応力保持中の時間依存型のき裂進展について検討した11)。集合組織の影響に関しては,Everaertsらが,Hard方位のミクロ集合組織が含まれないTi-6Al-4V線材では,Dwell疲労においても内部ファセットが形成されないことを示した12)。Tympelらは,Soft方位とHard方位のミクロ集合組織が混在した一方向圧延板を用いて,Dwell疲労,低サイクル疲労および混合モードにおける破面形態やき裂進展速度について詳細に解析するとともに,Dwell疲労の進展ファセットがミクロ集合組織領域内に形成され,破壊形態の特徴は集合組織の影響を受けると報告した13)。また,Ti-6Al-4VのDwell疲労における局所的なひずみ挙動やき裂発生に関しては,Littlewood and Wilkinson14),Hémery ら15),Wangら16),Lavogiezら17)の報告がある。
Dwell疲労による損傷を工業的に管理するために,疲労き裂発生とき裂進展挙動の双方に関して,マクロ/ミクロ集合組織や応力条件などの諸因子の影響を把握し,素材や部材の組織制御のための指針を策定するとともに,定量的な寿命予測技術を確立することが重要である。Dwell疲労の寿命予測に関しては,Venkateshら18)やOtaら19)の報告がある。筆者らは,これまでに,集合組織が形成された微細等軸組織を有するTi-6Al-4V鍛造丸棒を対象に,丸棒の軸方向および径方向を負荷方向としCyclic疲労およびDwell疲労における応力と破断寿命や破面形態との対応20–22),室温クリープ挙動との対応23),について明らかにしてきた。本報では,Cyclic疲労とDwell疲労とのひずみ蓄積挙動の違いや,き裂進展挙動が寿命に及ぼす影響を調査し,Dwell疲労における寿命低下の機構および組織異方性の影響について考察した。
本研究には,Ti-6Al-4V(Ti-6.3Al-4.0V-0.17Fe-0.18O(mass%))の鍛造丸棒を用いた。丸棒は,α粒径約8 μmの等軸組織と,丸棒の軸方向に(1010)αの集積度が高く,丸棒の径方向に(0001)αおよび(1120)αの集積度が高い集合組織(Fig.1)を有する。丸棒の軸方向(L方向)および径方向(T方向)に,引張試験片および疲労試験片を採取した。平行部φ5×30 mm,GL=25 mmの引張試験片を用いて,0.2%耐力はひずみ速度8.3×10-5 s-1で,引張強さはひずみ速度2.5×10-3 s-1(L方向)または8.3×10-5 s-1(T方向)で測定した。各引張方向における引張特性をTable 1に示す。
(a) Inverse pole figure (IPF) map, (b) IPF for longitudinal orientation and (c) IPF for transverse orientation of the Ti-6Al-4V forged bar. (Online version in color.)
Loading direction | 0.2%proof stress* (MPa) | Tensile Strength (MPa) | Elongation (%) | Reduction of area (%) | Young's modulus (GPa) |
---|---|---|---|---|---|
L | 867 | 954 | 18.0 | 43.1 | 113 |
T | 913 | 971 | 17.9 | 39.2 | 121 |
* Strain rate 8.3×10-5s-1
疲労試験には,平行部φ5.08×15.24 mm,GL=12 mmの試験片を用いた。疲労試験は,L方向には805~870 MPa,T方向には850~915 MPa(ともに0.2%耐力の約93~100%)を最大応力とし,応力比0.05の応力制御で実施した。応力波形は,Cyclic疲労は1s負荷/1s除荷の三角波,Dwell疲労は1s負荷/120s保持/1s除荷の台形波を使用した。き裂進展試験は,B=4.5 mm,W=18.0 mm,a=4.5 mmの小型CT試験片を,C-L,C-R,L-R方向に採取した。ここで,-の前は負荷方向,-の後はき裂進展方向,Lは軸方向,Rは径方向,Cは周方向を示す。疲労予き裂(K値減少試験は約1.0 mm,K値増大試験は約1.6 mm)を導入した後,応力比0.1,正弦波,20 Hzの荷重漸減法でK値減少試験を行い,また,正弦波,3~10 Hzの荷重範囲一定法でK値増大試験を行った。き裂長さは除荷弾性コンプライアンス法で測定した。すべての試験は室温で実施した。試験片の破面観察にはSEM(日本電子株式会社製IT-300)を用い,破面および試験片断面をSEM-EBSD(日本電子株式会社製JSM-7001F,EDAX社製 EBSD検出器)で測定して,OIM-Analysis(株式会社TSLソリューションズ製)で解析した。
Cyclic疲労およびDwell疲労における最大応力σmaxと破断寿命の関係をFig.2に,最大応力を0.2%耐力で規格化した値σmax/σ0.2(以下,規格化応力とし,百分率(%)で記載する)と破断寿命の関係をFig.3に示す。Dwell疲労では,Cyclic疲労よりも大幅に疲労寿命が低下し,850 MPaにおけるDwell疲労とCyclic疲労の寿命比(Dwell debit)は,L方向で4.7,T方向で9.3と,T方向の方が大きかった。また,同じ規格化応力で比較した場合,Cyclic疲労の疲労寿命はL/T方向で同程度であるのに対し,Dwell疲労ではT方向の疲労寿命が1/5程度であり寿命比が大きかった。
Relationship between the maximum stress and the number of cycles to failure. (Online version in color.)
Relationship between the maximum stress normalized by 0.2% proof stress and the number of cycles to failure 22). (Online version in color.)
また,疲労試験中の各サイクルにおける最大ひずみの推移をFig.4に示す。Cyclic疲労の場合,ひずみ推移は,応力によってひずみ増加時期とピーク値は異なるもののL/Tの挙動はほぼ同様であり,高応力域ではひずみは200 cycle付近から増加し,破断時には3~4%であった。Dwell疲労ではラチェットひずみの影響が大きくなり,規格化応力98%以上の高応力域(L方向850 MPa以上およびT方向895 MPa以上)では,破断時のひずみはL方向で15%超,T方向で10%超であった。これらの挙動の相違については,次節以降,ひずみ変化挙動(3・2節),き裂進展(3・3節),組織異方性(3・4節)の視点から検討する。
Strain behaviors during fatigue tests for (a) L-direction and (b) T-direction. The numbers in the legend represent the maximum stress(MPa) / the ratio of maximum stress to 0.2% proof stress(%). (Online version in color.)
破面観察の結果,規格化応力98%以上の高応力域において,Cyclic疲労では表層を起点とする一般的な疲労破面を呈していたが,Dwell疲労破面はほぼ全面がディンプル破面であった。規格化応力95%(L方向:825 MPa,T方向:870 MPa)では,Cyclic疲労およびDwell疲労とも表層近傍を起点とする疲労破面を呈した(Fig.5)。Cyclic疲労では,L方向(Fig.5(a))とT方向(Fig.5(b))ともに,表層直下の100 μm程度の範囲にα粒径程度(約8 μm)の大きさの複数のファセットが観察された。一方,Dwell疲労では,起点箇所がやや不明瞭で,Cyclic疲労よりも広い範囲に起点部が形成された。L方向(Fig.5(c))で表層起点となることは,EveraertsらがTi-6Al-4V線材において行った結果12)と同様に,粗大な内部ファセットが形成されにくい集合組織に起因すると考えられる。T方向(Fig.5(d))では,表面に模様の見られないα粒1個程度(約8 μm)の大きさの起点ファセットと,リバーパターン状の模様(ridge)がある進展ファセットが認められ,複数の起点ファセットから形成された進展ファセットが観察された22)。表面から200 μm程度の位置に形成された進展ファセット をEBSDで詳細に調べると,ファセット面は,α粒の底面(0001)にほぼ平行であることがわかった(Fig.6)。
SEM images of fracture surface for (a) cyclic fatigue for L-direction at σmax=825 MPa, 95% of σ0.2, (b) cyclic fatigue for T-direction at σmax=870 MPa, 95% of σ0.2, (c) dwell fatigue for L-direction at σmax=825 MPa, 95% of σ0.2, (d) dwell fatigue for L-direction at σmax=870 MPa, 95% of σ0.2.
(a) SEM image of the fracture surface for dwell fatigue for T-direction at σmax=870 MPa, 95% of σ0.2 and (b) IPF maps for facet area marked by red rectangle in (a), analyzed parallel to loading axis22).
Fig.6の進展ファセットの一部を別方向から解析した結果をFig.7に示す。ここで結晶方位解析の方向は,α粒の延伸方向を基準にした。この方向は概ね<1010>に平行であり,丸棒の軸方向の集合組織方位に対応する。き裂の進展方向は,α粒が延伸した方向に対応するだけでなく,隣接するα粒に進展する場合も含めて,概ね<1010>に対応していることがわかった。
IPF and IQ maps of the fracture surface for dwell fatigue for T-direction at σmax=870 MPa, 95% of σ0.222). Arrows indicate the crack growth direction.
BowenはT-textureが形成された圧延Bar材を用いて,(0001)<1010>は,他の方位と比較して静的な破壊靭性が低く24),き裂進展の際に破面にストライエーションが観察されにくい方位である25)と報告している。本結果にそのまま適用することはできないが,(0001)<1010>方位にき裂が進展しやすいことと関係がある可能性がある。
3・2 ひずみ変化挙動疲労試験の結果を,ひずみ制御低サイクル疲労試験の解析で用いられる非弾性ひずみと破断寿命の関係を用いて整理し,Cyclic疲労とDwell疲労の応力条件や素材材質異方性がひずみ蓄積挙動に及ぼす影響について検討する。ここで,非弾性ひずみ範囲Δεinは,応力-ひずみヒステリシスにおいて,最大応力と最小応力の平均値σmean(本試験は応力比0.05のため,最大応力の52.5%に相当)における負荷時と除荷時のひずみの差から求めた(Fig.8)。また,ひずみは各サイクルにおける最大ひずみとして除荷直前の値を用い,サイクル間のひずみ増分をラチェットひずみεrとした。非弾性ひずみについて見ると,Cyclic疲労においては高速度の応力変化に伴う塑性ひずみが主体であり,Dwell疲労においてはさらに高応力での保持時間中にいわゆるクリープひずみが重畳する。寿命中期の非弾性ひずみ範囲で整理した場合,Fig.9に示すように,Cyclic疲労とDwell疲労は,それぞれ異なる傾きの非弾性ひずみ範囲Δεin-疲労寿命Nf関係を示した。また,同じ最大応力では,非弾性ひずみ範囲は,Cyclic疲労よりもDwell疲労の方が大きく,T方向よりもL方向の方が大きかった(Fig.10(a))。一方で,寿命中期における非弾性ひずみ範囲は,応力条件に依らず,当該サイクルにおける最大ひずみとの相関がみられた(Fig.10(b))。そこで,寿命中期以前のひずみ変化挙動に注目して解析を行った。
Schematic diagram of stress-strain hysteresis loop showing the inelastic strain range (Δεin), strain range (Δεload) and ratchet strain (εr).
Relationship between the inelastic stress range at the middle of fatigue life and the number of cycles to failure22). (Online version in color.)
(a) Relationship between the maximum stress and the inelastic stress range (Δεin) at the middle of fatigue life. (b) Relationship between the nominal strain (ε) and Δεin at the middle of fatigue life. (Online version in color.)
疲労試験中の非弾性ひずみ範囲の推移をFig.11に示す。Cyclic疲労の場合,初期はその値が小さくばらつきがあるが,約100 cycle以降で繰返し加工軟化を生じて1×10-3%超に増加した。非弾性ひずみ範囲は,応力が大きいほど増加開始時期が早く,ピーク値も高かった。また,同応力では,T方向の方がL方向よりも増加開始時期が遅く,ピーク値も低かった。一方,Dwell疲労の場合,規格化応力98%以上の高応力域では非弾性ひずみ範囲は初期から5×10-3%以上と高く,低応力域でもCyclic疲労よりも早期に増加を開始(繰返し加工軟化が進展)した。また,Cyclic疲労と同様に,同応力では,T方向の方がL方向よりも非弾性ひずみ範囲は小さく推移した。
Inelastic strain range behaviors during fatigue tests for (a) L-direction and (b) T-direction. The numbers in the legend represent the maximum stress(MPa) / the ratio of maximum stress to 0.2% proof stress(%). (Online version in color.)
次に,ラチェットひずみεrの推移をFig.12に示す。Cyclic疲労の場合,ラチェットひずみは,10 cycle以降ではL/T方向とも2×10-3%以下で推移し,若干の増加あるいは安定域の後,減少した。一方,Dwell疲労では規格化応力98%以上の高応力域において,ラチェットひずみは初期に1×10-1%以上と高く,最小値を示した後に再び増加しており,クリープ変形と同様の加工硬化や試験片断面積減少による影響が認められた。これは,規格化応力98%以上では,L/T方向ともディンプル破面を呈する延性破壊であったことに対応する。低応力域のDwell疲労では,応力低下に従い,初期のラチェットひずみが低下するとともに,最終破断時を除いて単調に減少した。
Ratchet strain behaviors during fatigue tests for (a) L-direction and (b) T-direction. The numbers in the legend represent the maximum stress(MPa) / the ratio of maximum stress to 0.2% proof stress(%). (Online version in color.)
Dwell疲労では,L方向とT方向で,応力の低下に伴う非弾性ひずみ範囲およびラチェットひずみの挙動に違いがみられた。L方向では,規格化応力98~95%にかけて急速に変化し,95%ではCyclic疲労のひずみ挙動に近づいた。一方,T方向では,規格化応力98~93%にかけて非弾性ひずみ範囲およびラチェットひずみの挙動は緩やかに変化した。これは,T方向では,0.2%耐力の95%以下であっても850 MPa以上の応力によって局所的に塑性変形が生じるためと考えられる。
また,ひずみ蓄積に対応する微小き裂の状態を調べるため,寿命中期で途中止めした試験片の内部を調査した(Fig.13)。最大応力850 MPaで実施したDwell疲労試験のL/T方向のいずれにおいても,試験片内部に5~30 μm程度,α粒1~3個分の大きさの複数のき裂が観察された。このようなサイズの微小き裂は,最大応力850 MPa,T方向のDwell疲労試験において,破断寿命の約25%の時点で既に発生していることを確認した。一方で,Cyclic疲労の場合には,最大応力850 MPaで寿命中期(約50%)の途中止め試験片において,微小き裂は確認されなかった。
IPF mars of the longitudinal cross section of the specimens interrupted at the middle of fatigue life during fatigue tests for (a) T-direction at σmax=850 MPa, 93% of σ0.2 and (b) L-direction at σmax=850 MPa, 98% of σ0.2. Internal cracks are indicated by circles. (Online version in color.)
以上より,Dwell疲労では,応力保持による応力-塑性ひずみ応答の時間依存効果およびクリープひずみによって疲労初期段階から総転位移動量が大きく,さらにラチェットひずみが重畳してひずみ増加速度が上昇し,ひずみの蓄積が促進されるため,き裂発生の早期化や発生個所の増加が生じることが寿命低下の要因であることがわかった。非弾性ひずみ範囲と疲労寿命の関係(Fig.9)は,ラチェットひずみの影響が高応力になるほど大きくなるため,Cyclic疲労とDwell疲労とで傾きの違いが生じる。L/T方向の差異に関しては,Dwell疲労ではCyclic疲労と同様に,T方向の方が短寿命であった。このことは,Dwell疲労の高応力域(規格化応力98%以上)については,引張試験における絞り値はL方向43%,T方向39%と差はわずかであるのに対し,Dwell疲労における破断時のひずみはT方向の方が小さく(Fig.4),破断延性の低下がT方向の方が大きいことに対応する。一方,Dwell疲労の低応力側とCyclic疲労ではき裂進展型の破壊を生じることから,き裂進展挙動について調査した。その結果を3・3節に示す。
3・3 き裂進展挙動き裂進展試験の結果をFig.14およびTable 2に示す。子番1は荷重漸減法,子番2は荷重範囲一定法で行った結果である。C-R-1はき裂角度が±20°を超えたため参考値である。
Relationship between the crack propagation rate (da/dN) and the stress intensity factor range (ΔK). The letters in the legend represent the direction normal to the crack plane - the direction of crack extension. Here, L: axis direction, C: circumferential direction and R: radial direction of the bar. (Online version in color.)
Constant force amplitude tests | K decreasing tests | |||
---|---|---|---|---|
C | m | ΔK range for Paris law (MPa | ΔKth (MPa | |
C-L | 5.95×10−13 | 4.31 | 8~32 | 3.85 |
C-R | 2.05×10−13 | 4.59 | 8~33 | 5.40*l |
L-R | 3.31×10−13 | 4.39 | 8~39 | 1.02 |
*1 ΔK value when the test was cancelled because of large crack deflection.
ΔK>15 MPa
ΔK≦15 MPa
SEM images of fracture surface after crack propagation tests for (a) C-L-2, (b) C-R-2 and (c) L-R-2.
SEM images of fracture surface after crack propagation tests for (a) C-L-2, (b) C-R-2 and (c) L-R-2 in the region of ΔK between 10 and 12 MPa
ΔK=8~10 MPa
Facets observed in the fracture surfaces after crack propagation tests for (a) C-L-2, (b) C-R-2 and (c) L-R-2 in the region of ΔK between 8 and 10 MPa
これらの結果を,C-LおよびC-Rの負荷方向は疲労試験のT方向,L-Rの負荷方向は疲労試験のL方向に相当するとして,また,R方向とC方向のき裂進展挙動は同等として,疲労試験結果と対応させて考察する。応力が850 MPaの場合,き裂サイズが20 μmの場合K=4.8 MPa
ところで,き裂進展試験で観察されたファセットの多くはα粒単位であり,Dwell疲労破面に観察されたような複数のα粒に伝播して形成されたファセットはわずかであった。これは,き裂進展試験ではき裂が進展する領域が限定されるため,粗大なミクロ集合組織領域を通過する機会が少ないためと考えられる。Dwell疲労では,Pilchakが報告しているように,ファセットを形成してき裂が進展する速度はストライエーションを形成する場合よりも2桁大きく9),き裂がミクロ集合組織領域を高速で進展する10)。従って,Dwell疲労では,応力保持による非弾性ひずみ応答の時間依存効果および応力制御に伴いラチェットひずみを生じることで,試験片全体に渡って非弾性ひずみが蓄積して多数の微小き裂を生じるため,き裂が最も伝播しやすい最弱部,すなわち応力軸に垂直な底面を有するミクロ集合組織領域のうち,その面積が特に大きい領域が破面上に現れやすい。また,他の要因として,き裂進展に及ぼす応力保持の影響によってファセットが成長した可能性もある11)。
3・4 組織異方性の影響本節では,き裂発生およびき裂成長に及ぼすミクロ集合組織の異方性の影響に関して考察する。ここで,き裂発生は,破面の起点部の観察結果および途中止め試験片の断面観察結果から,α粒径(約8 μm)程度の大きさの微小き裂が発生することとする。本研究で用いたTi-6Al-4V丸棒素材のミクロ集合組織は丸棒軸方向に延伸しており,丸棒の軸方向(L方向)に沿って比較的大きなミクロ集合組織領域が存在する。したがって,L方向に負荷される場合は,応力軸方向とα相の底面(0001)が平行で柱面<a>すべりが容易ないわゆるSoft-oriented grain4)(またはWeak grain1))によって構成されるミクロ集合組織領域(以下,Soft領域)の比率が高く,かつ,Soft領域は試験片軸方向に平行に延伸している。これに対して,T方向に負荷される場合は,応力軸方向とα相の底面(0001)が垂直で柱面<a>すべりが生じにくいHard-oriented grain(またはStrong grain)によって構成されるミクロ集合組織領域(以下,Hard領域)の比率がL方向よりも高く,かつ,Hard領域とSoft領域とが試験片軸方向に対し垂直方向に交互に並んでいる。
Cyclic疲労において,T方向は,L方向と比較して,同じ応力では非弾性ひずみ範囲が小さく(Fig.10(a)),長寿命であり(Fig.3),同じ非弾性ひずみ範囲では短寿命であり(Fig.9),また,同じΔKでは寿命初期のき裂成長段階におけるき裂進展速度が大きい(Fig.14)。これらのことから,疲労寿命に対しき裂発生が支配的であるCyclic疲労において,T方向では,塑性変形に使われるエネルギーが小さくき裂発生時期が遅いため,同応力で比較した場合の疲労寿命はL方向より長くなる。また,同じ非弾性ひずみ範囲で比較した場合,き裂進展速度が大きいT方向の疲労寿命が短くなる。
一方,Dwell疲労において,規格化応力98%以上の高応力域では,L/T方向ともに延性破壊であり,その破断寿命は,応力保持時間と各サイクル毎の応力保持終了時のひずみ増分から求めたひずみ速度を用いて,クリープ破断寿命と同様にMonkman-Grantの関係式で説明できる21,22)。Fig.12のラチェットひずみ推移からも,同じ応力では組織異方性の影響が認められ,T方向の方がひずみ速度が小さいことがわかる。これは,T方向ではHard領域の比率が高いために内部応力が高く,有効応力が低いためと考えられる。Fig.12において,L方向の870 MPaとT方向の895 MPaのひずみ挙動がほぼ重なることから,内部応力の差は25 MPa程度と推定される。この値は,静的引張試験で求めた0.2%耐力の差(46 MPa)の1/2程度である。また,ラチェットひずみの影響は低応力になるほど小さくなり,その限界の応力は,Soft領域主体のL方向のひずみ変化挙動から825 MPa付近と推定される。
Dwell疲労のT方向では,870 MPa以下への応力低下によりき裂進展を伴う破壊形態へと遷移し,疲労寿命の初期段階において微小き裂(起点ファセット)が丸棒軸方向のミクロ集合組織に沿って平滑なファセット破面(進展ファセット)を形成しながら高速で成長する。L方向では,さらに低応力の825 MPa付近で,応力保持によるひずみ蓄積の影響が減少して,Cyclic疲労と同様の挙動に遷移する。損傷機構は,Hard領域の比率が高いT方向では,局部的な非弾性変形により850 MPa(規格化応力93%)未満まで緩やかに変化するのに対し,Hard領域の比率が低いL方向では,825 MPa(規格化応力95%)付近で非弾性変形が全体的に抑制されることで急激に変化する。
非弾性ひずみ範囲と疲労寿命の関係(Fig.9)において,疲労き裂進展を伴う破壊形態を示す応力条件ではき裂成長速度が大きいT方向が短寿命側にあり,延性破壊を示す応力条件では破断延性が小さいT方向が短寿命側にある。Fig.9では,ひずみ速度と非弾性ひずみ範囲には有効応力を介した相関関係があるため,見かけ上,同じ近似線で表されると考えられる。
以上より,規格化応力で整理した場合のDwell疲労寿命の異方性(Fig.3)について,T方向の疲労寿命が破壊形態の変化に依らずL方向の1/5程度と大きく低下する要因は,T方向における局所的な非弾性変形やき裂成長速度の増加あるいは破断延性の低下であることがわかった。また,Dwell疲労とCyclic疲労との寿命比(Dwell debit)の異方性については,以下のように説明できる。T方向では,Cyclic疲労におけるき裂発生寿命が長いため,Dwell疲労におけるき裂発生寿命低下の影響が大きくなり,さらに,Dwell疲労では微小き裂(起点ファセット)形成後に周囲のミクロ集合組織に沿って進展ファセットを形成しながら高速でき裂が成長することで,寿命比が増加する。また,T方向では,Soft領域とHard領域が混在していて,低い規格化応力でも局部的に非弾性変形を生じるために,寿命比が1となる規格化応力レベルが低下する。
今後,Dwell疲労寿命予測技術を構築していくために,内部応力に関する検討のほか,時間依存型のき裂成長の考慮も必要と考える。LangはTi-6Al-2Sn-4Zr-2Mo合金を用いて,き裂進展試験の途中で荷重を一定に保持した場合に,時間に依存してき裂が進展することを示している11)。これらの挙動に及ぼすミクロ集合組織の影響に関しては,さらなる検討が必要がある。
Ti-6Al-4Vの鍛造丸棒を対象に,軸方向(L)および径方向(T)のCyclic疲労およびDwell疲労特性を評価するとともに,き裂進展試験を行い,疲労損傷挙動の違いや組織異方性の影響について検討した。得られた知見を以下に示す。
(1)疲労寿命を規格化応力(0.2%耐力に対する最大応力の比率)で整理すると,Cyclic疲労ではL/T方向の疲労寿命がほぼ同程度であるのに対し,Dwell疲労ではT方向の疲労寿命が1/5程度と小さく,Dwell疲労に対するCyclic疲労の寿命比(Dwell debit)が大きい。
(2)Dwell疲労において,規格化応力98%以上の高応力域(L方向850 MPa以上,T方向895 MPa以上)ではL/T方向ともに延性破壊であり,疲労寿命はクリープ破断寿命と同様にひずみ速度と相関がある。規格化応力で整理した場合,0.2%耐力が高く負荷応力が高いT方向ではラチェットひずみが大きく,かつ,破断延性の低下代が大きいため,L方向よりも短寿命である。
(3)Dwell疲労において,T方向では,規格化応力95%(870 MPa)以下への応力低下に伴い,局部的な非弾性変形により非弾性ひずみ範囲やひずみ増加速度は緩やかに減少し,緩やかに疲労破壊に遷移する。L方向では,規格化応力95%(825 MPa)付近で非弾性変形が全体的に抑制され,初期の非弾性ひずみ範囲やひずみ増加速度が著しく減少してCyclic疲労における挙動に近づき,急激に疲労破壊に遷移する。
(4)き裂進展試験において,ミクロ組織の影響を受けやすい低ΔK領域(ΔK≦15 MPa
(5)Cyclic疲労とDwell疲労ともに,非弾性ひずみ範囲と疲労寿命の関係は,T方向の方が短寿命側である。この要因は,Dwell疲労により延性破壊する応力条件においては破断延性の低下がT方向の方が大きいためであり,き裂進展を伴う破壊形態を示す応力条件においては,L/T方向ともき裂が早期に発生するとともに,T方向において丸棒軸方向のミクロ集合組織に沿ったき裂成長により寿命初期のき裂進展速度が増加するためである。
(6)Dwell疲労による寿命低下は,Soft領域主体のL方向のひずみ変化挙動から825 MPa付近以上の応力で生じる。Hard領域の比率が高く0.2%耐力が高いT方向では,局部的な非弾性変形を生じるために,Dwell疲労により寿命低下を生じる限界の規格化応力が低下する。