2021 Volume 107 Issue 4 Pages 290-300
As an innovative route to mitigating CO2 emissions in ironmaking, increasing the hydrogen reduction in a blast furnace is promising. One possible method is the shaft injection or blast tuyere injection of coke oven gas (COG) with its hydrogen concentration enhanced by steam-reforming methane and tar. Therefore, the reduction behavior of sintered ores in a blast furnace by injecting reformed COG was investigated using a softening-melting tester and counter-current reaction simulator (BIS). The shaft injection of reformed COG promoted the reduction and improved the permeability of the ore layer, particularly in the wall area of the blast furnace. An injection rate larger than 200 Nm3/t-HM was required for reformed COG for a limiting intermediate distribution ratio of injection gas lower than 20% in a large blast furnace. Unchanged shaft temperature and increased hydrogen reduction were observed during the shaft injection of hot reformed COG in the BIS test. The water-gas shift reaction below the temperature of the thermal reserve zone was insignificant even for the shaft injection of reformed COG. As for tuyere injection, direct reduction was decreased by increasing the injection rate of reformed COG from tuyere. The injection of COG with or without reforming from tuyere reduced the carbon consumption of the blast furnace by 10 kg/t-HM. The influence of the composition of COG on carbon consumption was insignificant. Direct observation of hydrogen reduction revealed a decrease in flooding molten slag in the upper coke layer during reduction, thus explaining the improved permeability of the ore layers.
地球温暖化抑制のために,CO2排出量の削減が求められている。日本は,世界の3.5%のCO2を排出しており,その中で製鉄業が14%を占める1)。さらに,石炭を原料とする製銑工程は,その過半を占めている。日本鉄鋼業は,第1次石油危機以降に省エネルギー技術開発を進め,そのエネルギー効率は世界でトップクラスであるが,世界的なCO2削減へ貢献するためには,さらに革新的な技術開発が必要である。
COURSE50(CO2 Ultimate Reduction System for cool Earth 50)は,2008年から開始した国家プロジェクトであり,製鉄所からのCO2発生量を削減するために,多岐に渡る技術開発を推進している2)。その手段のひとつとして検討されているのは,コークス炉ガス(以降COG)中のメタンやタール分を水蒸気改質し水素含有量を増幅させ,その水素主体の改質COGを高炉で使用するプロセスである。鉄鉱石を水素還元する事で,コークス使用量を削減して,CO2発生量を削減することを目標としている。
水素還元は吸熱反応であり,高炉への水素還元の導入によって,熱量不足や低温熱保存帯の形成による焼結鉱の還元粉化の助長などの懸念点はあるものの,還元に必要なカーボン量は確実に削減できる。さらに,水素還元はCO還元に比べて速く3),高い間接還元率が得られて直接還元が低減することも期待される。水素は,炉下部では還元材としての機能は低いため,一般的な羽口からの吹込みよりも,間接還元域での効果を最大限活用するために,シャフト下部からの吹込みが有効な手段と考えられる。
実際に,試験高炉(EBF)を用いたCOGの羽口吹込みおよび,改質COGあるいは還元ガス(CO+H2)のシャフト下部からの吹込みによる,焼結鉱の還元形態変化と高炉の炭素消費量の低下が確認されている4,5)。さらに,炉頂ガスの羽口とシャフト下部からの同時吹込みによる,高炉の炭素消費量の削減効果6)や,水素含有ガスのシャフト吹込みによるコークス比低減効果7,8)が報告されている。しかし,水素含有ガスの吹込みに伴う焼結鉱の還元挙動,特にシャフトからの改質COGの吹込みに伴う焼結鉱の還元挙動については,未だ不明点が多い9)。水素含有ガスの羽口吹込みは既に実用化されているものの10),最適な吹込みガス組成に関する知見が不足している11,12)。
そこで本研究では,荷重軟化装置と向流反応模擬装置を用いて,改質COGのシャフト吹込み条件と焼結鉱の還元挙動の関係の明確化を目的とした検討を行った。さらに,改質および非改質COGの羽口吹込み時の効果定量化と,その場観察による焼結鉱の還元過程の検討も行った。
本研究では,4種の改質COGの組成を想定した。Table 1に改質前後のCOGの組成を示す。改質COGは,粗COG中のタールの水蒸気改質(式(1))と,CH4の部分酸化(式(2))によってH2濃度が増幅したものと仮定し13),その改質度に応じて(a)~(c)の3段階の組成を想定した。さらに,最もCH4の部分酸化を進めた,近似的な組成(d)でも検討を実施した。
(1) |
(2) |
CH4 % |
H2 % |
CO % |
N2 % |
||
---|---|---|---|---|---|
Raw COG | 31.6 | 57.0 | 1.3 | 10.1 | |
Reformed COG |
a | 18.0 | 66.0 | 8.0 | 8.0 |
b | 9.1 | 71.9 | 12.4 | 6.6 | |
c | 0.0 | 77.9 | 16.9 | 5.2 | |
d | 0.0 | 60.0 | 30.0 | 10.0 |
シャフト吹込みでは,吹込み口から高炉内部へのガスの拡散性を考慮する必要がある。著者ら14)は既に,1/10スケールの2次元冷間模型実験にて,シャフト吹込みガスの炉内への浸透度合いが,吹込みガス量に依存する事を明らかにした。他の多くの報告でも,同様の結果が示されている15)。
本研究では,シャフト吹込みガスの高炉内での拡散を,高炉の径方向の中間部分(中心から0.33~0.67の相対半径)への吹込みガスの分配率DRI(式(3))で表した(Fig.1)。
(3) |
Schematic diagram defining the location and injected gas distribution in a blast furnace. (A) to (C) denote locations in Table 3.
ここで,vI(Nm3/h)は高炉径方向の中間部分へのガス量,vW(Nm3/h)は周辺部分(中心から0.33~0.67の相対半径)へのガス量,Vsはシャフト吹込み量(Nm3/t-HM),Pは銑鉄の生産量(t-HM/h)である。
本研究では5,000 m3級の大型高炉を想定し,Pとして540(t-HM/h)を与えた。
Table 2にシャフト吹込みのガス浸透に関する既往の結果の比較を示す。全吹込みガス量に対してシャフト吹込み量(VS/(VS+VGB))が高い条件では,高いDRIが得られている。大型の試験高炉(炉床径1.4 m)では,シャフト吹込み量が高い時条件では,中間部,中心部の装入物の還元率が十分に高く,炉内への拡散は十分であったと推定される6)。一方,吹込み量が低い条件では,低いDRIが観察されている4)。以上から本研究では,VS/(VS+VBG)で0.2(VSで300 Nm3/t-HMに相当)までのシャフト吹込み量における,焼結鉱の還元挙動を主に検討した。
大型荷重軟化試験装置17)を用いて,改質COGのシャフト吹込みを模擬した還元試験を実施した。温度条件は,実炉を模擬して,900°Cまで10°C/minで昇温後,30分温度を900°Cに保持し,再度1600°Cまで5°C/minで昇温した。ベース条件の還元ガスは,CO, CO2, N2(55%)を用いた。各昇温段階のCO利用率(CO2/(CO+CO2)・100)を,53%, 30%, 0%とした。800°Cから試料に荷重を 98 kPa付加した。試料は,10~15 mmの実機焼結鉱(T.Fe;57.7, FeO; 7.58, CaO; 10.03, SiO2; 5.08, MgO; 1.03, Al2O3; 1.74 mass%)であり,黒鉛坩堝内に上下にコークス層を配置した上で,層厚80 mm一定となるように装入した。ガス流量を33.8 Nl/min(空塔速度9.9 cm/s)一定として,シャフト吹込みによるガス組成の変化のみを模擬した。改質COGの組成を,近似組成である(d)とし,吹込み量とDRIをそれぞれ300 Nm3/t-HM,50%まで変化させた。試料温度が1200°Cとなった時点を,高炉での吹込み位置と想定した。中間部,周辺部の1200°C以下の還元ガス組成は,それぞれに分配される吹込みガスとベース条件のガスの合計から算出した。炉頂ガスの水素利用率(H2O/(H2+H2O)・100)を40%一定と仮定し,吹込みガスの水素濃度を温度の上昇に応じて変化させた。
水素還元速度(RHR)とカーボン消費速度(RCR)は,それぞれ式(4),(5)から求めた。
(4) |
(5) |
ここで,H2Iは投入H2 速度(Nm3/min),H2Oは排出H2速度(Nm3/min),WOIは被還元酸素量(g),COOはCO排出速度(Nm3/min),CO2OはCO2排出速度(Nm3/min),COIは投入CO速度(Nm3/min),CO2Iは投入CO2速度(Nm3/min)である。
2・4 シャフト吹込みの擬似向流移動層評価水素を多量に高炉内に吹込む操業では,還元生成物であるH2Oの炉内挙動も考慮に入れる必要があるが,固定層でガス条件を与える試験では,その再現に限界がある。そこで,改質COGのシャフト吹込みにおける焼結鉱の還元挙動とプロセス評価をより精緻に評価するため,断熱制御型の1次元向流反応シミュレータであるBIS炉(Blast furnace inner-reaction simulator)18)(Fig.2)を用いた。BIS炉は,固気熱交換,反応熱,および還元生成ガス(H2, CO2)の影響を含んだ高炉シャフト部の評価が可能である。Table 3に改質COGのシャフト吹込みを模したBIS試験条件を示す。シャフト吹込み前のガス量と組成の設定に際して,以下の現象を考慮した。羽口から吹込まれたガスや熱風は,レースウェイでの燃焼(Fig.1中A),融着・滴下帯での直接還元や間接還元(B)を経て変化しながらシャフト部(C)へ上昇する。本研究では,改質COG組成をTable 1中(d)とし,吹込み量を0~300 Nm3/t-HMとした。改質COGのシャフト吹込み時の,炉頂から1100°Cまでの高炉シャフト部をBIS炉で模擬するため,以下の条件設定をした。1)炉内温度が1100°Cの部位に1100°Cの改質COGを吹込む,2)径方向の吹込みガスの分配は無視する(1次元近似評価),3)改質COGはCOを含有するので,吹込み後の1100°Cでの(CO+CO2)量が一定となるように,ボッシュガス量を吹込み量に応じて減少させる,4)吹込み前の1100°C部のガス組成と量は,直接還元率を30%,CO利用率を10%,H2利用率を20%として算出する。
Schematic diagram of the blast furnace inner-reaction simulator. (Online version in color.)
Injection rate of reformed COG, VS | 0 | 200 | 300 | |
(A) Bosh gas | CO+CO2 | 523 | 463 | 433 |
H2+H2O | 128 | 119 | 115 | |
(B) Before injection | CO+CO2 | 692 | 632 | 602 |
H2+H2O | 128 | 119 | 115 | |
(C) After injection | CO+CO2 | 692 | 692 | 692 |
H2+H2O | 128 | 239 | 295 |
9~13 mmの実機コークスを用い,実炉のアルカリ循環を模擬するために試薬KOHを3 g/チャージ(コークスに対してK; 1.8 wt%)添加した。試験中の排ガス(実炉の炉頂ガスに相当)中の水分凝縮防止のため反応管にヒーターを巻き付け,電気炉降下に合わせてヒーターを取り外した。プロセス評価のための還元率は,定常到達後の排ガス分析値から算出した。試験後にN2で急冷して焼結鉱を採取し,化学分析による還元率の測定,顕微鏡による組織観察,高温での通気性評価(焼結鉱充填層の圧力損失測定)を行った。高温通気性評価では,N2急冷した焼結鉱(5~15 mm,700 g,冷却前温度986~1086°C)を,大型荷重軟化装置を用いて1050°CまでN2中で昇温し,その後1050°C以上では還元ガス(CO; 29.4%, H2; 3.5%, N2; 67.1%)で還元した。
2・5 羽口吹込みでの焼結鉱の還元挙動BIS炉を用いて,羽口からの改質COG吹込みを模擬した試験を実施した。Table 4に試験条件を示す。Table 1中(a)の組成の改質COGを羽口から200, 300 Nm3/t-HM吹込む試験(Test 1)と,吹込み量を150 Nm3/t-HMと一定にして,COG改質度合いの異なる4種のCOGを吹込む試験(Test 2)を検討した。シャフト効率(95.0%)と熱保存帯温度(980°C)を一定として熱物質収支を取り,操業諸元を与えた。この時,理論燃焼温度が一定となるように羽口先条件(湿分,酸素富化)を調整した。吹込み量300 Nm3/t-HM の場合は,熱流比を0.8以上に保つことが困難であったので微粉炭吹込み比を低下させた。
Test 1 | Test 2 | |||||||||
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Without injection |
With injection | Without injection |
With injection | |||||||
Reformed COG | Raw COG |
Reformed COG | ||||||||
(a) | (a) | (b) | (c) | |||||||
Injection rate, VT | Nm3/t-HM | 0 | 100 | 200 | 300 | 0 | 150 | |||
Calorific value of partial combustion | Kcal/Nm3 | - | 46 | 91 | 137 | - | 120 | 68 | 35 | 0 |
Injection rate (kmol/t-HM) |
H2 | 0 | 4.6 | 9.1 | 13.7 | 0 | 8.0 | 6.8 | 6.0 | 5.2 |
C | 0 | 1.2 | 2.3 | 3.5 | 0 | 2.2 | 1.7 | 1.4 | 1.1 | |
Coke rate | kg/t-HM | 345 | 323 | 312 | 324 | 325 | 291 | 299 | 304 | 309 |
Pulverized coal rate | kg/t-HM | 155 | 155 | 150 | 115 | 155 | 155 | 155 | 155 | 155 |
Theoretical flame temperature | °C | 2207 | 2206 | 2206 | 2187 | 2234 | 2234 | 2234 | 2234 | 2234 |
Blast moisture | g/Nm3 | 26 | 6 | 6 | 6 | 26 | 6 | 6 | 6 | 6 |
Blast volume | Nm3/t-HM | 916 | 753 | 488 | 318 | 879 | 514 | 577 | 617 | 659 |
Blast temperature | °C | 1220 | 1220 | 1220 | 1220 | 1220 | 1220 | 1220 | 1220 | 1220 |
Oxygen enrichment | Nm3/t-HM | 41 | 84 | 152 | 195 | 41 | 149 | 128 | 115 | 101 |
X線透過機能付きの小型荷重軟化試験装置(Fig.3)を用いて,水素還元時の焼結鉱の高温還元挙動を直接観察した。X線は最大150 kW, 5 mAであり,焦点は0.5×0.5 mmである(Toshiba製EX-150HC)。実機焼結鉱(T.Fe; 58.5, FeO; 6.79, CaO; 9.22, SiO2; 4.92, MgO; 0.82, Al2O3; 1.62 mass%)を粒度10~12.5 mm,重量を120 gとし,内径50 mmの黒鉛坩堝内に層厚 40 mmとなるように充填した。その後,900°Cまで70分間,50% CO-50% CO2ガスでウスタイトまで予備還元した後,30% CO,15% CO+15% H2,30% H2,の3水準(N2バランス,全流量10 NL/min)で1550°Cまで昇温還元(10°C/min)を実施した。98 kPaの荷重を900°Cから試料に付加した。所定温度に到達後,N2流通下で急冷した焼結鉱の化学分析から,還元率を求めた。
Schematic diagram of the softening-meting tester with X-ray fluoroscopy for in-situ observation during H2 reduction. (Online version in color.)
Fig.4に,中間部へのシャフト吹込みガスの分配率17%における,改質COGのシャフト吹込み量による,周辺部の焼結鉱の高温性状の変化を示す。100 Nm3/t-HMの吹込み量において,明瞭な還元率の向上と鉱石層圧力損失の低減が見られた。300 Nm3/t-HMの吹込みでは,還元率が著しく向上し,圧力損失が大幅に低減した。水素還元は,1000°C以下において全体の還元率の向上に寄与していた。
Result of the softening-melting test under simulated wall area with different injected gas volumes in a constant gas distribution (DRI; 17%). (Online version in color.)
Fig.5に,中間分配率17%における,1200°C還元率および鉱石層の最大圧損値と,改質COGのシャフト吹込み量の関係を示す。吹込み量の増加に伴って,1200°C還元率が向上し,最大圧損が低下した。これらの変化は,周辺部の方が顕著であった。
Changes in reduction degree and maximum pressure drop of ore layer with the injection rate of reformed COG from shaft (DRI;17%).
水素含有ガスの吹込み時には還元反応(式(6),(7))の他,カーボン消費反応(式(8)~(10)),水性ガスシフト反応(式(11))を考慮する必要がある。ここで,式(7)~(10)が吸熱反応である19)。
(6) |
(7) |
(8) |
(9) |
(10) |
(11) |
Fig.6に,周辺部の水素還元速度(式(7))とカーボン消費反応速度(式(8)~(10)の合計)の変化を示す。900°Cで見られた変動は,温度を30分間保持した影響である。改質COGの吹込みによって,700~1100°Cでのカーボン消費反応が増加しており,水性ガス反応(式(9))の影響と推定された。反対に,1200°C以上のカーボン消費反応は低下傾向であり,溶融還元(式(10))の低下に対応すると推定される。水素還元は,800~1000°Cの温度域で活発であった。1000°C以上での還元速度の低下は,融液生成による気孔閉塞が関与したと推定される。これらの変化は,過去の知見3)と一致した。
Changes in reaction rates with the injection rate of reformed COG from shaft (DRI; 17%). (Online version in color.)
Fig.7に,中間部(a),周辺部(b)それぞれの,1200°C還元率とDRIの関係を示す。DRIが高く,かつ吹込み量が高いほど,中間部の還元率が向上した。この結果から,中間部,周辺部,それぞれの1200°C還元率(RI, RW)が分配率DRIと吹込み量VSで表された(式(12),(13))。なお本式は,高炉径方向の装入物分布による還元条件の差異が小さい場合にのみ成り立つ。
(12) |
(13) |
Relationship between reduction degree at 1200°C and DRI in the intermediate area (a) and in the wall area (b).
大型高炉のように,吹込みガスの高い中間分配率が期待できない場合16)は,炉内径方向の焼結鉱の還元率の差異を小さくするために,高い吹込み量が必要である。実験結果から,DRIが20%以下では,200 Nm3/t-HM(VS/(VS+VBG)で0.13)以上の吹込み量が望ましい。この条件でも,径方向の焼結鉱の還元率差が5%程度生じるので,径方向のOre/Coke条件の調整なども必要である。
3・2 向流反応模擬装置でのシャフト吹込み評価Fig.8に,BIS炉試験における,反応管内部の固定点の温度とCO利用率の無次元降下距離による変化を示す。改質COGのシャフト吹込みによる水素還元の増加によっても,熱保存帯温度の低下や,シャフト部の昇温遅れは観察されなかった。シャフト部の熱・還元条件は水素吹込み影響の他,熱流比の影響も大きい。本試験では特に,試験装置制約上1100°Cのガス吹込みを模しており,吹込みガス温度の影響が大きかったものと推定される。Fig.9にガス量の温度変化を示す。シャフト吹込み時に,熱保存帯(900°C)から1100°Cの温度域でCO+CO2ガス量の顕著な増加が観察された。これは,CO還元よりも早い水素還元(式(7))によって生成したH2Oが,水性ガス反応(式(9))によってコークスと反応したため,と推定される。Fig.10に,ガス組成の温度変化を示す。図中(a)のシフト平衡線は,式(11)の標準生成自由エネルギー変化20)から算出した。900~1100°Cでの水素利用率は,シャフト吹込みによって低下するが,熱保存帯までの上昇の間に,800°C以下での吹込みなしの条件と同等まで回復していた(Fig.10(b))。CO利用率も同様に,900~1100°Cではシャフト吹込みによって一旦低下した後に,それ以下の温度域では,吹込みなしの条件とほぼ同等で推移した(Fig.10(c))。高温域で見られたCO利用率の低下は,シャフト吹込みに伴う水性ガス反応の影響と推定される。ガス組成比(H2・CO2)/(H2O・CO)は,熱保存帯付近では水性ガスシフト平衡に近い組成を示すが,800°C以下の温度域では,平衡から乖離し,他の報告21)と同様に,低温域での水性ガスシフト反応の進行は観察されなかった(Fig.10(a))。一方,高炉の低温域での,マグネタイト触媒による水性ガスシフト反応の進行22)や,羽口からの水素吹込み時の水性ガスシフト反応によるCO2生成12)が報告されている。この不一致の原因として,シャフト部の昇温条件の差異が考えられる。本試験結果は,1100°Cガスのシャフト吹込みに伴う熱流比上昇による,シャフト部の昇温速度の上昇の影響も含まれていると考えられる。よって今後は,シャフト部の昇温条件の差異を考慮した水性ガスシフト反応の解析が必要である。Table 5 に,BIS試験での1100°Cまでの到達還元率の,改質COGシャフト吹込みによる変化を示す。改質COGのシャフト吹込みにより,還元率が向上した。還元率の上昇要因は,大きい順に直接還元,水素還元,CO還元の順であった。ガス利用率は,ほぼ一定に維持されていた。
Changes in temperature profile and gas composition with the injection rate of reformed COG from shaft. (Online version in color.)
Changes in gas volume during the shaft injection of reformed COG. (Online version in color.)
Changes in gas composition during the shaft injection of reformed COG. (a); (H2·CO2)/(H2O·CO), (b); H2 utilization, (c); CO utilization. (Online version in color.)
Injection rate of reformed COG, VS | Nm3/t-HM | 0 | 200 | 300 |
Reduction degree | % | 47.2 | 61.4 | 70.2 |
Direct reduction | % | 15.9 | 20.4 | 24.3 |
CO indirect reduction | % | 29.5 | 34.0 | 36.2 |
H2 reduction | % | 1.8 | 6.9 | 9.7 |
CO2/(CO+CO2)·100 | % | 47.2 | 45.6 | 45.8 |
H2O/(H2+H2O)·100 | % | 34.5 | 41.8 | 38.6 |
Temperature of thermal reserve zone | °C | 900 | 917 | 903 |
Fig.11に,BIS炉中断焼結鉱の組織を示す。改質COG吹込みなしの焼結鉱は,冷却前は1046°C,還元率は66.0%であった。改質COG吹込み(300 Nm3/t-HM)の焼結鉱は,冷却前に1036°C,還元率は89.8%であった。吹込みなしでは,還元生成メタルが焼結鉱外周にのみ多く,内部はウスタイト相で留まる,トポケミカルな還元進行が観察された。一方で,吹込み時には,内部まで均一にメタルが生成しており,COに対する水素のガス拡散性の高さを示しているものと推定される。さらに,BIS炉の還元履歴を経た焼結鉱の高温性状測定結果(Fig.12)から,改質COGのシャフト吹込みによる焼結鉱の融着温度(圧損が2 kPa以上に到達した温度),1200°C還元率の上昇(a)と,鉱石層の最大圧損の低下(b)が確認された。
Microstructure of sintered ores quenched after BIS tests with and without shaft injection of reformed COG. M; metal, W; wustite and calciowustite, P; pore. White lines represent the surface of sintered ores. (Online version in color.)
Changes in reduction behavior of sintered ores quenched after BIS test with increasing the injection rate of reformed COG from the shaft.
以上から,改質COGのシャフト吹込みによる,シャフト部の焼結鉱還元挙動の改善と通気性改善の可能性が示された。ただし,本試験は1次元向流移動層を模擬する装置による,シャフト部分の還元状態を評価した結果であり,測定原理上の制約から多くの仮定に基づく。特に,シャフト部の還元変化による炉下部条件の変化が考慮されていない。今後は,シャフト吹込み高炉全体を模擬する試験装置の構築と,プロセス評価が必要である。
3・3 羽口吹込みでの焼結鉱の還元挙動 3・3・1 吹込み量の影響Fig.13に,直接還元への改質COGの吹込み量の影響についてのBIS炉試験結果を,多段反応を仮想した2次元数学モデル23)による試算結果とともに示す(Table 4中Test 1)。数学モデルによる結果と同様に,BIS炉でも改質COGの羽口吹込み量の増加に伴って,水素還元率が増加して,直接還元率が低下した。シャフト効率は,96.5~97.8%の範囲であり,シャフト部の顕著な温度低下も観察されなかった。この原因としては,水素還元起因の吸熱反応の増加量と,同時に減少するソルーションロス反応の吸熱反応量が相殺されたためと推定される。同様の現象は,試験高炉での改質COGの羽口吹き込みでも観察されている4)。
Changes in degrees of direct reduction and H2 reduction with injecting reformed COG from tuyere in the BIS test.
羽口吹込みにおける,カーボン消費量へのCOG組成の影響についてのBIS炉試験結果をTable 6に示す(Table 4中Test 2)。いずれのガス組成でも,熱保存帯温度は大きく変化せず,シャフト効率は向上し,その結果,ガス利用率は上昇した。得られたシャフト効率で再度熱物質収支を取ると,いずれのガス組成でも150 Nm3/t-HMの羽口吹込みにより10 kg/t-HM程度の高炉のカーボン原単位の削減が見込まれた。この傾向は,既往の報告とも一致し11,12),削減効果は試験高炉での評価結果とも一致した24)。改質COG組成のカーボン原単位への依存性が小さかったのは,吹込むCOGの改質度の増加に伴って,1)吹込みCH4由来の炉内発生H2, C量が減少する,2)CH4分解熱補償分の酸素富化率が低下し,シャフト部温度低下の悪影響が軽減される,の2つの影響が相殺されたものと推定された。すなわち,CO2排出量削減の観点からは,羽口吹込みでは,非改質COGの使用が望ましい。
Without injection |
With injection | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
Raw COG |
Reformed COG | |||||
a | b | c | ||||
Result of BIS test | ||||||
Temperature of thermal reserve zone | °C | 1002 | 1001 | 1027 | 1013 | 1022 |
Shaft efficiency | % | 93 | 96.9 | 96.3 | 97.2 | 96.8 |
CO2/(CO+CO2)·100 | % | 48.2 | 52 | 50.3 | 51.2 | 50.7 |
H2O/(H2+H2O)·100 | % | 38.3 | 37.1 | 38.3 | 37.6 | 38.3 |
After estimation by heat -mass balance | ||||||
Coke and pulverized coal | kgC/t-HM | 406 | 369 | 374 | 376 | 382 |
Raw or reformed COG | kgC/t-HM | 0 | 26 | 21 | 17 | 14 |
Carbon consumption | kgC/t-HM | 406 | 396 | 395 | 394 | 396 |
Fig.14に,直接観察結果を示す。CO還元では,1200°C以上から鉱石層上部の未還元スラグの上層コークス層への浸み出しと流動が観察されたが(図中円部),水素還元では浸み出しが相対的に小さかった。さらに,50%収縮温度は,CO還元で1345°C,水素還元で1448°Cであり,水素還元の方が収縮速度も低かった。CO15%,H215%のガス組成では,CO還元と水素還元の中間的な挙動が観察された。これらのような水素還元による焼結鉱還元挙動の変化が,改質COG吹込による焼結鉱の高温での通気性改善(Fig.4, 5, 12)に繋がっているものと考えられる。試験高炉で実施された,改質COGのシャフト吹込み試験における解体調査の結果でも,融着帯の薄層化が示されており4),本知見と一致した。
Snapshots of observation of reduction behavior of sintered ores. Numerical values represent the reduction degree. (Online version in color.)
水素還元を活用した高炉のCO2排出量削減を目的に,荷重軟化装置や向流反応模擬装置(BIS)を用いて,改質COGのシャフト吹込みおよび羽口吹込みによる,焼結鉱の還元挙動の変化を検討し,以下の知見を得た。
(1)改質COGのシャフト吹込みでは,周辺部の還元率が向上し,鉱石層の圧力損失が低下した。高炉径方向の装入物分布による還元条件の差異が小さく,径方向の中間分配率が20%以下の場合は,シャフト吹込み量は200 Nm3/t-HM以上が望ましい。
(2)BIS炉での改質COGのシャフト吹込み試験では,熱保存帯温度低下やシャフト部の昇温遅れは観察されなかった。低温域での水性ガスシフト反応の進行も少なかった。これらの結果は,高い熱流比が原因と推定された。BIS炉中断焼結鉱でも,シャフト吹込みによる鉱石層の通気抵抗低減が確認された。
(3)BIS炉での改質COGの羽口吹込み試験では,吹込み量の増加によって,水素還元率が増加した。この時,水素還元起因の吸熱反応の増加量と,同時に減少するソルーションロス反応の吸熱反応量が相殺されて,シャフト効率やシャフト部の温度が維持されるものと考えられた。羽口吹込みでの,吹込みガス組成のCO2排出量への影響は小さく,改質度によらず,10 kg/t-HM程度の高炉カーボン原単位の削減が見込まれた。
(4)水素還元の直接観察では,水素濃度が高いほど,高温での鉱石上層部の未還元スラグのコークス層への浸み出しが小さく,これが鉱石層の通気改善の一因と推定された。
本研究は,NEDO事業「環境調和型プロセス技術の開発(COURSE 50)」の一環として行われた。関係諸氏に感謝の意を表します。