Tetsu-to-Hagane
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Mechanical Properties
Creep Remaining-Life Assessment of 2.25Cr-1Mo Steel Hot Reheat Steam Piping by Small Punch Test
Kotaro Murakami Shin-ichi KomazakiToshiki Mitsueda
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2022 Volume 108 Issue 1 Pages 88-96

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Abstract

In order to investigate the adaptability of small punch (SP) creep testing technique to the remaining-life assessment, the SP creep test was carried out with 2.25Cr-1Mo steel hot rehear steam piping, which had been actually used in a fossil power plant for long periods of time. The SP load (F) was converted to the stress (σ) by three different equations, which were derived based on the displacement to maximum load in the SP test (um) and the deflection to minimum deflection rate in the SP creep test (umin) for correlating the SP creep rupture data with the uniaxial ones. The experimental results showed that the SP creep rupture time of specimen removed at around outer surface of piping tended to be slightly shorter than those taken at around inner surface and center. It was also found that the SP creep rupture data were relatively in good agreement with the uniaxial ones by converting F to σ with the equations, and the creep remaining-life was well predicted by the extrapolation of short-term SP creep rupture data. The highest prediction accuracy was obtained by using the equation derived from the SP test result, that is, um. Consequently, it was confirmed that the SP testing technique could be a strong tool for creep remaining-life assessment of boiler piping.

1. 緒言

東日本大震災後10年が経過し原子力発電プラントの再稼働が順次始まっているものの,石炭火力を始めとした火力発電の電源構成に占める割合は依然として大きい。他方,地球環境保全のための脱炭素化の流れが世界的に加速している中,我が国でも低効率な石炭火力発電プラントのフェードアウト(休廃止)の方針が打ち出され,高効率であっても新規プラントの設置が困難になることが今後予想されている。そのため,再生可能エネルギーが主力電源になるまでの間安定した電力の供給を実現するには,既設の火力発電プラントの安全性と健全性を高度に維持しながら長期にわたり運用することが不可欠となる。

一般に,火力発電プラント高温機器の劣化・損傷評価には,ボイド/微小き裂の形成やミクロ組織の変化あるいはそれらに起因した材料の物理的性質の変化に着目した非破壊評価法が用いられるが,その診断精度は必ずしも高いとはいえない。劣化・損傷の程度を厳密に評価するには,対象部位から小さなサンプルを採取し,クリープ試験などの破壊試験に供するのが望ましい。微小サンプルクリープ試験法1)のひとつにスモールパンチ(SP: Small Punch)クリープ試験25)があり,従来のミニチュアクリープ試験よりも試験片体積が小さく,試験片の加工や取扱いが非常に簡便であるという特徴を有している。また,近年のサンプリング技術の向上により,構造健全性を損なわない程度の薄いサンプルを稼働中のボイラ配管などから採取することが可能となった6)

このような中,著者らは,5種類の9Cr-1Mo鋼製ボイラ配管に対してSPクリープ試験を行い,配管固有の強度差がどのようにSPクリープ特性に反映されるかを調査した7)。さらに,SP試験結果と最小変位速度到達時の変位に基づいたSPクリープ破断データの単軸クリープ破断データへの変換についても検討した。その結果,硬さでは評価できないクリープ強度の違い(ヒート間差)がSPクリープ試験結果に適切に反映されることを明らかにした。さらには,顕著な差異ではないものの,SP試験結果に基づいた方法のほうがSPクリープ破断データを精度良く単軸クリープ破断データに変換することができた。

本研究では,SP試験による火力発電プラント高温機器のクリープ余寿命評価技術を確立するための研究の一環として,国内のプラントで長時間使用した2.25Cr-1Mo鋼製高温再熱蒸気管のSPクリープ試験データを新たに取得・解析した。クリープ余寿命を予測するにあたりSPクリープ荷重を応力に変換する必要があるため,9Cr-1Mo鋼で提案したSP試験結果に基づいた方法の本鋼への適用性についても検討した。

2. 実験方法

2・1 供試材

供試材として,国内の火力発電プラントで約16万時間使用したボイラ高温再熱蒸気管の廃却材を用いた。配管の外径および肉厚はそれぞれ762 mm,54 mmであり,使用条件は蒸気温度569°C,蒸気圧力4.17 MPaであった。本研究で対象としたのは2.25Cr-1Mo鋼(ASTM A387 Gr.22 Cl.1)製の配管母材部であり,その化学組成をTable 1に示す。

Table 1. Chemical composition of 2.25Cr-1Mo steel (mass%).
CSiMnPSCrMoAlN
0.090.270.480.0110.0052.110.960.270.0069

長時間使用後の配管母材部の状態を調べるため,ミクロ組織観察および硬さ測定を行った。ミクロ組織は,バフ研磨後にナイタールでエッチングし,走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。また,硬さ測定は,マイクロビッカース硬度計を用い,バフ研磨後,荷重19.6 N,測定ピッチ0.1 mmの条件のもと行った。

2・2 SPクリープ試験およびSP試験

配管母材部より肉厚方向(円周方向と垂直)に直径8 mmの小型丸棒試料をワイヤー放電加工により切り出した。その後,低速精密切断機を用いて厚さ1 mm程度ずつにスライスした。湿式研磨とバフ研磨(最終仕上げ:0.3 μm Al2O3)によって板厚を0.5±0.005 mmに調整し,SPクリープ試験に用いた。SPクリープ特性の肉厚方向依存性を検討するため,外表面からの距離が0~10 mm,22~32 mm,44~54 mmの位置で採取したものをそれぞれ外表面近傍,肉厚中央,内表面近傍と呼ぶこととした。

本研究で用いたSPクリープ試験機の外観と試験治具に試験片を装着した際の模式図をFig.1に示す。SPクリープ試験片を上・下部ダイにて均一にクランプし,Si3N4製ボール(直径2.38 mm)とパンチャーを介して試験片中央部に一定荷重を負荷した。試験片の張り出し変形量(変位)は,パンチャーに荷重を負荷するための圧縮ロッドの移動量を炉外にてLVDTで測定することによって計測した。SPクリープ試験条件は,温度580°C,650°C,荷重150~400 Nとした。また,試験片の過度の酸化を防ぐため,純度99.99%の高純度Arガス雰囲気中(流量:150 ml/min)にて試験を行った。

Fig. 1.

Small punch creep testing apparatus.

SPクリープ荷重を応力に変換するため,一定荷重のSPクリープ試験とは異なり,押込速度一定(0.2 mm/min)のもと破壊までボールを少しずつ押込むSP試験も併せて実施した。試験片はSPクリープ試験のそれと同じであり,上・下部ダイやボール,パンチャーなどの試験治具もSPクリープ試験と同一のものを用いた。試験は,SPクリープ試験と同様,温度580°C,650°C,高純度Arガス雰囲気中にて行った。

加えて,比較のための単軸クリープ試験を実施するため,平行部直径10 mmの標準試験片を軸方向が配管の周方向と一致するように肉厚中央部から採取した。試験は,580°C/100 MPa,580°C/80 MPa,620°C/60 MPa,620°C/45 MPa,650°C/40 MPaおよび620°C/27.3 MPaの6条件にて行った。

3. 結果および考察

3・1 SPクリープ試験特性の肉厚方向依存性

外表面近傍および内表面近傍のミクロ組織のSEM像を示したものがFig.2である。本鋼は典型的なフェライト・ベイナイト組織を呈しており,外表面近傍と内表面近傍の間には顕著な違いは認められなかった。供用前のミクロ組織は確認できていないものの,使用中に析出粗大化したと思われる比較的大きなMo,Cr富化の炭化物が粒内および粒界に観察された(Fig.2中のブロック状あるいは棒状の白い析出物)。マイクロビッカース硬さ試験の結果をFig.3に示す。同図は3つの異なる測定ラインでの結果である。全体としては130前後と比較的均一な硬さ分布を呈しているが,肉厚中央付近で幾分硬さが低下する傾向が認められた。

Fig. 2.

SEM micrographs of (a) inner and (b) outer surfaces.

Fig. 3.

Hardness distribution of thickness direction.

SPクリープ試験結果の例として,内表面近傍を対象に580°C/230 N,580°C/300 Nの試験条件下で計測されたSPクリープ曲線(変位-時間曲線,変位速度-時間曲線)をFig.4に示す。荷重が230 Nから300 Nに増えると最小変位速度が上昇し,破断時間が570 hから100 hに1/6程度減少している。負荷後に変位速度が減少する遷移域では両荷重条件での変位速度に差異はなく,同様な変形機構にて変形が進行しているものと思われる。

Fig. 4.

Examples of small punch creep curves measured on inner surface.

650°C/200 Nの試験条件下で計測された外表面近傍,肉厚中央,内表面近傍のSPクリープ曲線(変位-時間曲線,変位速度-時間曲線)をFig.5に示す。100 h未満の高荷重短時間試験の結果ではあるが,外表面近傍の破断時間がもっとも短いのに対して肉厚中央のものが一番長く,前者は後者のおよそ1/2程度となっている。なお,遷移域における変位速度には違いは認められない。本試験条件に加え580°C/350 Nでの3領域の破断時間の平均値をエラーバーとともに棒グラフで示したものがFig.6である。データ数が必ずしも十分ではなく未だ明確なことはいえないが,外表面近傍での破断時間が他の領域に比べわずかに短い。本研究で得られたすべてのSPクリープ破断データを示したものがFig.7である。同図からも,多少ばらつきはあるものの,外表面近傍(図中〇△印)は他の領域(図中●▲印)に比べ破断時間がわずかに短い傾向にあるのがわかる。なお,他の領域には肉厚中央や内表面近傍に加え,定義した領域以外の箇所(例えば,外表面近傍と肉厚中央の間,肉厚中央と内表面近傍の間)より採取した試験片の結果も含まれている。

Fig. 5.

Effect of sampling portion on small punch creep curve.

Fig. 6.

SP creep rupture times measured at 580°C/350 N and 650°C/200 N.

Fig. 7.

SP creep rupture test results measured on outer surface and other regions.

580°C/350 Nの試験後の外表面近傍および内表面近傍の試験片外観と破断面のSEM像をFig.8に示す。局部収縮とその後の巨視的破壊はボールと試験片の接触境界に沿って円周上に生じており,延性材料で観察される典型的な破壊形態を示していた。また,いずれの破断面もディンプルを伴う粒内延性破壊を呈しており,本試験条件においては採取位置や試験条件による顕著な相違は認められなかった。

Fig. 8.

SEM micrographs of creep ruptured specimens (580 °C/350 N). (a) Outer surface, (b) Inner surface.

このように,高荷重短時間側の試験結果のみではあるが,外表面側のほうがわずかにSPクリープ強度が低い傾向が見受けられた。現時点ではこの理由を考察するだけの十分な情報やデータは持ち合わせていないが,肉厚円筒の内圧クリープ下では応力の静水圧成分や円周方向の応力(最大主応力)が外表面側の方が大きくなることが報告されている8)。そのため,外表面側で劣化あるいは損傷が先行して生じていた可能性も考えられるが,その詳細な検討は今後の課題である。

3・2 SP試験結果に基づいた荷重/応力換算

SPクリープ破断データを単軸クリープ破断データと比較するには,両試験における破断時間が一致するようなSPクリープ荷重(F)と単軸クリープ応力(σ)の関係(荷重/応力換算係数(F/σ))をあらかじめ求めておく必要がある。著者らの9Cr-1Mo鋼を用いた検討では,SP試験結果と最小変位速度到達時の変位に基づいた荷重/応力換算方法について調査した7)。前者は,著者らが提案している方法であり,式(1)に示す“SP試験の荷重/応力換算係数(FmB)= SPクリープ試験の荷重/応力換算係数(F/σ)”という関係9)に基づいている。FmBは,SP試験における最大荷重(Fm)を引張強さ(σB)で除したものである。

  
Fσ=FmσB(1)

また,Garciaら10)σBとSP強度パラメータ(Fm/(umh0))の間に材料に依存しない式(2)のような関係があることを報告している。

  
σB=0.277Fmumh0(2)

ここで, umはSP試験における最大荷重時の変位,h0は試験片の初期板厚(0.5 mm)である。式(2)は,Fmumの測定からσBが予測でき,FmBすなわちSPクリープ試験の荷重/応力換算係数(F/σ)が求まることを意味している。9Cr-1Mo鋼では,室温と650°CでSP試験を実施し,σBとSP強度パラメータ(Fm/(umh0))の間に良好な関係が認められ,SP試験によって同鋼の引張強さの予測が可能であることを明らかにした7)。なお,治具形状や試験方法がGarciaらのものとは完全に同じではなかったため,式(3)に示すように,得られた関係の傾きはGarciaらのものより幾分大きくなった。

  
σB=0.320Fmumh0(3)

式(1)式(3)から式(4)が得られる。

  
Fσ(=FmσB)=umh00.320(4)

本式は,umを測定すればFmBがわかり,結果的にSPクリープ試験におけるF/σを予想できることを意味している。つまり,わざわざ引張試験を行わずとも,SP試験結果のみからF/σの推定が可能となる。そこで,本研究でもumを測定するためSP試験を実施した。

得られたSP試験結果の例として,内表面近傍の試験片で計測された荷重-変位曲線をFig.9に示す。最大荷重は580°Cのほうが高いが,最大荷重時の変位に大きな違いは認められない。また,試験片採取位置の影響についても同様で,最大荷重は幾分異なるものの,その際の変位には明瞭な差異はなくすべて1.7 mm程度であった。

Fig. 9.

Examples of small punch test results of inner surface.

測定されたすべてのumの平均値である1.69 mmを式(4)に代入し,F/σ=2.64が得られた。この荷重/応力換算係数を用いてSPクリープ荷重を応力に変換し,すべてのSPクリープ破断データと単軸クリープ破断データを比較したものがFig.10である。同図では,横軸を応力とし,単軸クリープに対しては負荷応力,SPクリープについては変換後の応力をプロットしている。縦軸は式(5)に示すLarson-Millerパラメータ(LMP)11)であり,定数Cには単軸クリープ破断データをもっとも良好に整理することができた17.45を用いた。同図より,SPクリープ破断データには多少ばらつきがあるものの,両クリープ破断データが良く一致しているのがわかる。本研究では,同図中に示すような二次の多項式を用いて両クリープ破断データを良好に近似することができた。

  
LMP=(T+273.15)(logtr+C)(5)
Fig. 10.

Comparison between uniaxial creep data and converted SP ones. The SP load was converted to the stress with Eq. (4).

ここで,Tは試験温度,trはクリープ破断時間である。

3・3 最小変位速度到達時の変位に基づいた荷重/応力換算

欧州で提案された最小変位速度到達時の変位(umin)に基づいた荷重/応力換算は,様々な鉄鋼材料で得られたF/σ-umin関係(Fig.11)を定式化した式(6)12)を用いてF/σを予想する方法である。図中縦軸のF/σは,例えばFig.12に模式的に示すように,個々のSPクリープ試験の破断時におけるLarson-Miller パラメータ値と同一となる応力σ(例えば,図中のσ1σ2)を単軸クリープ破断データの近似線より決定し,SPクリープ荷重F(例えば,図中のF1F2)との比(F1/σ1F2/σ2)として実験的に求めたものである。Fig.11には,本研究で得られた結果(図中●印)も併せてプロットしている。さらに,式(6)をChakrabarty膜引張応力モデルに基づき改良したものが式(7)13)である。

  
Fσ=1.9162umin0.6579(6)
  
Fσ=0.6143+1.2954umin(7)
Fig. 11.

Relationship between F/σ and umin.

Fig. 12.

Schematic illustration of determination of F/σ.

また,式(6)の係数は式(8)のように試験治具の寸法に依存することが報告されている14)

  
Fσ=2.79776(R0.2r1.2h0)0.67015umin0.6579(8)

ここで,Rは下部ダイ穴半径,rはボール半径である。本研究で用いた試験治具の寸法を代入すると式(8)式(9)にようになる。

  
Fσ=1.8428umin0.6579(9)

式(9)式(7)を用いてSPクリープ荷重を応力に変換し,すべてのSPクリープ破断データと単軸クリープ破断データを比較したものがそれぞれFig.13およびFig.14である。Fig.10と同様,Larson-Millerパラメータと応力の関係は二次曲線で近似している。SPクリープ破断データと単軸クリープ破断データが比較的良く合っているものの,その一致性はFig.14のほうが優れている。

Fig. 13.

Comparison between uniaxial creep data and converted SP ones. The SP load was converted to the stress with Eq. (9).

Fig. 14.

Comparison between uniaxial creep data and converted SP ones. The SP load was converted to the stress with Eq. (7).

3・4 SPクリープ試験による余寿命評価の検討

本節では,上述の式(4)式(7)式(9)の3つの異なる荷重/応力換算式を用いたSPクリープ試験によるクリープ余寿命評価について検討した。具体的には,Fig.10Fig.13Fig.14中のSPクリープ破断データのみを二次の多項式で近似し,使用温度569°Cにおける応力27.3 MPa,34.1 MPaでの破断時間を外挿によって予想し,単軸クリープ破断データの二次近似曲線の内挿から求めた破断時間と比較した。なお,両応力は,用いた高温再熱蒸気管の蒸気圧力の実測値(4.17 MPa)と設計値(5.20 MPa)から式(10)の平均径の式8)を用いて算出した配管の円周方向(フープ)応力σθに相当する。

  
σθ=P(D2t0.5)(10)

ここで,Pは蒸気圧力,Dは配管外径,tは配管肉厚である。SPクリープ破断データの外挿と単軸クリープ破断データの内挿から予想した破断時間を比較したものをFig.15に示す。両者が比較的良く一致しているのがわかる。評価精度がもっとも優れているのは,式(4)のSP試験結果に基づいた荷重/応力換算式(図中●印)を用いた方法であり,両結果はほぼ完全に一致した。他方,評価精度が一番低いのは,式(9)の荷重/応力換算式(図中◆印)を用いた予測であった。このことは,Fig.11中において本研究の試験結果(図中●印)が文献のデータバンド内に収まってはいるものの,予測に用いた式(9)から大きく外れていることに起因している。

Fig. 15.

Comparison between creep rupture times predicted by uniaxial and SP tests.

ボイラ配管を対象として定期検査を行う場合,配管の外表面からサンプリングした試料を用い,比較的短時間の試験によって余寿命を評価する必要がある。そこで,外表面近傍のSPクリープ破断データのみを用いた余寿命評価についても検討した。もっとも,限られた外表面近傍のデータだけでは応力外挿に必要な近似曲線(マスターカーブ)を作成することができなかった。そのため,全SPクリープ破断データから得られたマスターカーブに対して,外表面近傍のデータがもっともフィットするように平行移動したものを目的のマスターカーブとした。Fig.16中の点線がFig.15の寿命予測の際に用いた全SPクリープ破断データから作成したマスターカーブであり,それをしかるべくシフトしたものが同図中の実線である。外表面近傍のみのSPクリープ破断データを外挿し,応力27.3 MPa,34.1 MPaでの破断時間を予想した結果がFig.17である。3・1節で述べたように,外表面近傍は肉厚中央や内表面近傍に比べわずかにクリープ破断時間が短い傾向にあった。そのため,当然の結果ではあるが,SPクリープ試験で予測した破断時間はいずれの荷重/応力換算式を用いた方法でもFig.15と比べ幾分減少し,式(4)のSP試験結果に基づいた方法はわずかに安全側の予測結果を与える結果となった。

Fig. 16.

Comparison between uniaxial creep data and converted SP ones. The SP load was converted to the stress with Eq. (4).

Fig. 17.

Comparison between creep rupture times predicted by uniaxial and SP tests. The SP creep test results of inner surface alone were used for the prediction.

このように,3つの異なる荷重/応力換算式(SP試験結果に基づいた換算式,最小変位速度到達時の変位に基づいた2種類の換算式)を用いたSPクリープ試験によるクリープ余寿命評価について検討した結果,いずれの方法でも比較的良好に余寿命を予測できることがわかった。ただし,顕著な差ではないが,9Cr-1Mo鋼と同様,評価精度がもっとも高いのはSP試験結果に基づいた換算式を用いる方法であった。また,本方法で配管外表面からサンプリングした試験片を用いて余寿命評価を行うと,幾分安全側の評価結果を与える可能性があることが示唆され,今後は肉厚方向のクリープ特性分布をさらに詳細かつ定量的に調査・解析する必要があると思われた。

4. 結言

SP試験による火力発電プラント高温機器のクリープ余寿命評価技術を確立するための研究の一環として,国内のプラントで長時間使用した2.25Cr-1Mo鋼製高温再熱蒸気管のSPクリープ試験データを新たに取得・解析した。クリープ余寿命を予測するにあたりSPクリープ荷重を応力に変換する必要があるため,9Cr-1Mo鋼で提案したSP試験結果に基づいた方法の本鋼への適用性についても検討した。得られた知見をまとめて以下に示す。

(1)配管の内表面側と外表面側ではミクロ組織や硬さには明瞭な違いは認められなかった。しかし,高荷重短時間側の試験結果のみではあるが,外表面側のほうが,わずかにSPクリープ強度が低い傾向が見受けられた。

(2)SP試験で計測された最大荷重時の変位に基づき式(4)から荷重/応力換算係数(F/σ)を求めた結果,F/σ=2.64が得られた。このF/σを用いてSPクリープ荷重を応力に変換し,SPクリープと単軸クリープの両破断データを比較したところ,両者は比較的良く一致した。

(3)SPクリープの最小変位速度到達時の変位に基づいた式(7)式(9)から算出したF/σを用いてSPクリープ荷重を応力に変換し,両破断データを比較した。その結果,両者は比較的良く合っていたものの,その一致性は式(7)の方が優れていた。

(4)上記3つの異なる荷重/応力換算式を用いたSPクリープ試験によるクリープ余寿命評価について検討した結果,いずれの方法でも比較的良好に余寿命を予測することができた。顕著な差ではないものの,評価精度がもっとも高いのはSP試験結果に基づく方法であった。

文献
 
© 2022 The Iron and Steel Institute of Japan

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