Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
Regular Article
Development of the Model for Estimating Coke Fine Ratio in Blast Furnace
Aya Hisatsune Koki TeruiToshiyuki HirosawaTakahide HiguchiKiyoshi Fukada
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2022 Volume 108 Issue 10 Pages 713-720

Details
Abstract

Improving operation performance of blast furnaces is necessary to reduce CO2 emissions and pig iron costs. One of the important factors for the operation is keeping gas permeability well in the blast furnace. Coke fines affect gas permeability and the operation condition become worse, therefore clarification and prediction of the generation behavior of coke fines in blast furnaces are desired.

In the present study, first of all, new evaluation method was developed to quantify coke abrasion behavior. And then, we proposed the prediction expression to estimate the amount of coke fines based on the results of abrasion experiments using new method. Finally, the distribution of coke fines in the blast furnace was numerically simulated by coupled 2D blast furnace model and Discrete Element Method (DEM) using proposed equation.

The results are summarized as follows:

1) The influential factors of coke abrasion were mechanical conditions like shear distance or compressive stress, and coke quality like strength (Drum Index, DI) or porosity. The amount of coke fines increased by rising shear distance, compressive stress and porosity or decreasing DI.

2) According to numerical simulation using these models, coke fines generated around peripheral area in lower shaft, belly and bosh. In addition, the total amount of coke fines increased with the decrease of DI. These results are in accordance with the conventional knowledge.

The distribution of coke fines in the blast furnace became predictable. This evaluation will lead optimum burden distribution and ideal coke quality to achieve highly efficient operation of blast furnaces.

1. 緒言

2019年度の日本全体のCO2排出量約11億tのうち,約14%に相当する1.55億tが鉄鋼業から排出されている。さらにその内訳の大部分は高炉法によるものであり,およそ70%を占めると言われる。そのため,製銑工程におけるCO2排出量低減の観点から,高炉の低還元材比操業が以前にも増して要求されている。とりわけ溶銑コスト低減にも繋がる低コークス比操業の達成は喫緊の課題であり,その達成には,高炉操業において重要な因子の一つである高炉内の通気性の維持・改善が不可欠である1)。高炉内の通気性を改善させる手段1,2)としては,装入物分布制御によるガス流路の確保,融着帯の通気抵抗の低減,炉内のコークスの劣化抑制が主に挙げられ,いずれの手段においてもコークスが大きな役割を果たしている。

コークスは体積のおよそ半分を気孔が占める炭素系の多孔質材料であり,高炉内におけるCO2との反応(ソリューションロス反応)およびH2Oとの反応によって消費されるため,炭素部分の消失を起因とした強度低下が生じる。更に,反応に伴う劣化に加えて,炉内を降下する際に生じるコークス粒子間およびコークス粒子-炉壁間の摩擦,レースウェイ領域における衝風あるいは旋回運動を受けることにより,コークス粒子が破壊されて微細な粉が発生する35)。発生した粉は充填層中の空隙率を低下させ,高炉の通気性を悪化させる。このように,コークスの劣化および粉発生は通気悪化を介して高炉操業の不安定化を招く6)ことから,高炉内におけるコークス粉化挙動の解明および粉発生抑制技術の開発が従来から進められている7,8)

高炉内のコークス粉化挙動を推定するためには高炉内のコークスの応力状態を把握する必要があり,シミュレーションを用いた解析が報告されている。例えばKatayamaらは連続体モデルを用いた炉内の応力状態の推定を試みている9)。しかしながら連続体モデルにより推定される応力値は領域ごとの平均値であり,粒状体である装入物間の接触点における応力を過小評価している可能性がある。また,粒状体特有の不均一・不連続な動的挙動の評価は連続体モデルでは困難であるため,高炉内の装入物の運動と応力状態を的確に表現しているとは言い難い。そこで近年では,装入物を個別粒子として扱うために離散モデルを用いた解析が進められている1013)。Nouchiらは離散要素法(Discrete Element Method,DEM)を用いて高炉内のコークス充填層の応力解析を行い,連続体モデルによる推定値と比較してはるかに大きな応力を受けた粒子群がネットワーク構造を形成し充填層を支持していることを明らかにしている11)

しかし,コークスの粉発生と種々の物理量およびコークスの物理性状との関係を融合させ,高炉内のコークス粉化挙動を定量的に予測可能なモデルはこれまでに報告されていない。コークスの物理性状を表す指標としてドラム強度指数(Drum Index,以下DIと記載)が主に挙げられるが,実際の高炉内部ではコークス粒子の体積破壊と表面破壊が複雑に発生している14)ことから,本指標のみを用いて高炉内の粉化挙動を統一的に評価することは困難である。また,コークス充填層にせん断力を与えて粉化挙動を定量評価した報告例もあるが15,16),粉化挙動とコークス性状の関係の定式化がされておらず,コークス性状を元に高炉内の粉化挙動を推定するまでには至っていない。

そこで,本研究においては,コークス粒子に与えられる力学的条件およびコークス粒子の物理性状が粉発生に及ぼす影響を定式化した。次に,この結果をもとに高炉内の応力分布に応じてコークス粉率の分布を推定可能なモデルを構築し,コークス強度が高炉内の粉率分布に及ぼす影響について検討した。

2. 実験方法

2・1 粉発生量評価試験

高炉内においてコークス粒子が受ける力学的作用のうち,粉発生の主な要因と考えられているのは,a)コークス粒子間およびコークス粒子-炉壁間の摩擦とb)レースウェイ領域における衝風・旋回運動の2種類である。後者の衝風・旋回運動により受けるエネルギーと比較して,前者の摩擦により受けるエネルギーはおよそ3~4倍大きい17)。そこで本検討においては,コークス粒子間およびコークス粒子-炉壁間の摩擦を模擬した実験系を構築し,コークス粉の発生量を評価した。コークス粒子間の摩擦挙動の模式図をFig.1に示す。一般に材料の摩耗量は,材料に印加される荷重,材料と摩耗面の接触面積および材料と摩耗面間の摩擦が生じた距離の積として表される18)。そこで,摩擦に伴うコークス粉の発生量はコークスの摩耗量と等価であると仮定し,単位摩擦距離当たりのコークス粉発生量に及ぼす荷重,接触面積およびコークスの物理性状の影響を評価した。

Fig. 1.

Schematic diagram of abrasion between two coke particles.

試験装置の概略図をFig.2に示す。本装置は,試験片の固定部と可動部より構成される。円柱状に加工した試験片をパイプ状の固定部に挿入し,試験片上面におもりを乗せて荷重を調節した。水平方向の往復機構を有するアクチュエータ上面に研磨紙(カーボマック・ペーパー,粗さ: P220,型番: 33-650-220,コバックス製)を貼付して摩擦面とし,試験片下面と接触させて,アクチュエータを任意の速度で往復運動させ試験片に摩擦を加えた。

Fig. 2.

Schematic diagram of experimental apparatus.

荷重条件が粉発生に及ぼす影響の評価について記す。ラボで同一原料・同一乾留条件で作製したコークスを直径10 mm×高さ10 mmの円柱状に成型し試験片とした。コークス性状を一定として評価するため,気孔率が0.45±0.01の試験片を選別し試験に供した。なお,気孔率は,試験片の重量と寸法より求めた見かけ密度を真密度で除することで求めた。試験条件をTable 1に示す。試験片に印加する荷重を9.8 N,39.2 N,78.5 Nの3水準とし,所定の摩擦距離に到達するまで試験片に摩擦を加え,試験前後の試験片重量を測定した。試験片の重量減少量を粉発生量と定義し,単位摩擦距離あたりの粉発生量を求めた。

Table 1. Conditions of abrasion experiments.
Load[N]9.8, 39.2, 78.5
Shear velocity[mm/sec]1.0
Shear amplitude[mm]50
Total shear distance[mm]300

コークスの物理性状が粉発生に及ぼす影響の評価について記す。ドラム強度指数としては,所定の試験装置で150回転動を加えた後のコークス試料の粒径15 mm以上の重量割合DI15150を使用した。本検討に用いたコークスの性状をTable 2に示す。9水準のDI値を有するコークスを用い,試験片に印加する荷重を9.8 N,他の試験条件はTable 1に記載の条件とした。

Table 2. Coke properties of abrasion experiments.
Drum index, DI15150[−]79.9, 80.2, 80.7, 80.8, 81.0, 81.6, 82.1, 85.2, 85.9
Porosity ofcoke specimens[−]0.38 - 0.67

2・2 接触面積測定

コークス粒子と摩擦面の接触面積に関して,コークスの表面には無数の凹凸が存在することから,試験片の下面の面積に比べて実際の接触面積は小さくなる。さらに,印加される荷重の増加に伴いコークス粒子が変形し,接触面積が増加する影響を考慮する必要がある。摩耗は接触箇所を起点に発生することから,各荷重におけるコークスと摩擦面の実際の接触面積を測定した。実験方法の概略図をFig.3に示す。コークスの物理性状を一定として評価するため,気孔率が0.50±0.01の試験片を選別し試験に供した。感圧紙(プレスケール微圧用,型番: 4LW,富士フイルム製)上に試験片を設置し,卓上形精密万能試験機(オートグラフ,型番: AGS-10kNX,島津製作所製)を用いて所定の荷重を印加し2 min保持して圧痕を得た。荷重は0.25–490 Nの範囲とした。感圧紙上の圧痕に画像処理を施し,二値化した圧痕のドット数および圧痕画像のドット密度(dpi)から接触面積を算出した。

Fig. 3.

Schematic drawings of image processing.

2・3 断面観察および画像解析

コークス中の気孔の状態が粉発生に及ぼす影響を調査するため,コークス試験片の断面観察および画像解析を実施した。2・1節で粉発生量を測定した後の試験片を樹脂埋めし,円柱高さ方向に切断した後,研磨を施して観察用試料とし,倍率50倍で光学顕微鏡観察を行った。断面観察画像を二値化処理し,気孔の円形度分布を算出した。各断面画像における全気孔面積合計のうち95%以上が評価対象となるようノイズ除去の閾値を設定した。

3. 結果と考察

3・1 粉発生量に及ぼす荷重,接触面積の影響

円柱状に成型したコークスの側面に印加された荷重と接触面積の関係をFig.4に示す。荷重の増加に伴い,接触面積は非線形的に増加した。弾性体間の接触現象に関してHertzは,平面に円柱側面を接地させ荷重を加えた際の接触面積は荷重の0.5乗に比例する事を報告している19)。接触面積Aが荷重Nのべき乗に比例する(ANx)と仮定して,Fig.4の結果を最小二乗法でフィッティングし,以下の関係式(1)を得た。c1は定数である。

  
A=c1N0.48(1)
Fig. 4.

Relationship between load and contact area.

Hertzの接触理論と比較して,べき指数の値がほぼ等しいことから,コークスの圧縮に伴う接触面積の変化は本理論に従うと考えられる。

次に,荷重と単位摩擦距離あたりのコークス粉発生量の関係をFig.5に示す。荷重の増加に伴い,粉発生量は直線的に増加した。これは,材料の摩耗量は荷重に比例するという既往知見と一致する18)。一方で,前述のように荷重の増加に伴って接触面積が増加することから,本結果は荷重と接触面積双方の影響を受けたものと考えられる。

Fig. 5.

Relationship between load and coke fine weight per shear distance.

そこで,荷重を接触面積で除算した値である圧縮応力P(=N/A)[N/m2]で粉発生量との関係を整理した。粉発生量については,荷重9.8 Nにおいて1となるよう正規化した。圧縮応力と粉発生量の関係をFig.6に示す。荷重と接触面積がべき乗の関係かつ荷重と粉発生量が線形の関係であることから,圧縮応力と粉発生量の関係はべき乗の形で整理できる。

Fig. 6.

Relationship between compressive stress and normalized value of coke fine weight per shear distance.

3・2 粉発生量に及ぼすコークス性状の影響

コークスのDIおよび気孔率と単位摩擦距離当たりの粉発生量の関係をFig.7に示す。気孔率に関しては既往の報告15)と同様に,気孔率の増加に伴い粉発生量が増加する傾向が見られた。DIの低下に伴う粉発生量の増加に関しては,気孔形状による影響を評価するため,コークス試験片の断面観察および画像解析を実施した。コークス試験片の断面観察画像および二値化処理後の画像をFig.8に,画像解析より求めた気孔の円形度分布をFig.9に示す。円形度Circ.[-]は式(2)により算出した。

  
Circ.=4πSl2(2)
Fig. 7.

Relationship between porosity and coke fine weight per shear distance.

Fig. 8.

Cross-sectional image of coke (a)before and (b)after binarization.

Fig. 9.

Circularity distribution of coke pore.

ここで,S[m2]は気孔の面積,l[m]は気孔の周囲長を表す。

Fig.9より,DIが低いほど平均の円形度が低下する傾向となった。特に円形度0.8以上の真円に近い形状の気孔の比率が低下し,0.4以下の不定形の気孔の比率が高い傾向となった。円形度が0.4以下の気孔は非接着粒界と呼ばれる欠陥や連結気孔と推測される。非接着粒界および連結気孔の増加に伴い真円に近い形状の気孔は減少すると考えられることから,DIの低下に伴って円形度0.4以下の気孔の比率の上昇と円形度0.8以上の気孔の比率の低下が同時に生じたと推測される。気孔の円形度が低く気孔形状が複雑であるほど気孔端部の応力集中が大きくなり容易に破壊が生じると考えられる20)。このことから,気孔率が同程度の場合においても不定形気孔が多い場合には粉化量が増加すると考えられる。

3・3 粉発生量の定式化

以上の結果から,圧縮応力およびコークス性状とコークス粉の発生量の関係を定式化した。2・1節で述べた通り,摩擦に伴うコークス粉の発生量はコークスの摩耗量と等価であり,コークスに印加される荷重,コークスと摩擦面の接触面積およびコークスと摩擦面間の摩擦距離の積として表されると仮定した。さらに3・1節より,荷重N[N]を接触面積A[m2]で除算した値である圧縮応力P[N/m2]を用いて粉発生量を表した。これらの仮定のもと,コークス1粒子が他のコークス粒子あるいは炉壁と接触し圧縮応力P[N/m2]が加わった際の,摩擦距離をL[m],摩擦に伴うコークス粉発生量をw[kg]とした場合における,単位摩擦距離あたりの粉発生量W=w/L[kg/m]を式(3)の形で表した。

  
W=wL=f1(P)f2(DI,ε)(3)

ここで,f1(P)は圧縮応力の影響を表した項,f2(DI,ε)はコークス性状による粉発生のしやすさを表した項である。

f1(P)項については,3・1節で述べた通り,コークスの圧縮に伴う接触面積の変化はHertzの接触理論に従うと考えられることから,コークス粒子を球状弾性体と仮定し,球状弾性体を接触させた場合の2粒子間の接触面積を表すHertzの理論式(4)を用いた。

  
A=KN23(4)

Kは,接触する2粒子のPoisson比λi[-],弾性係数Ei[N/m2]および粒子半径ri[m]から式(5)により表される。

  
K=π[34{1λ12E1+1λ22E2}r1r2r1+r2]23(5)

さらに,Fig.6の結果より,f1(P)項を以下の式(6)のように整理できる。

  
f1(P)=f1(NA)=c2P1.46(6)

c2は定数を表す。

次に,式(3)f2(DI,ε)項を定式化した。一般的に,多孔質材料の引張強度σ[Pa]は式(7)のように気孔率の指数関数で表される。

  
σ=σ0exp(c3ε)(7)

σ0は基質の引張強度[Pa],c3は定数,εは気孔率[-]を表す。

σ0はコークスの基質強度に相当する値であるが,DIおよび気孔率の影響と比較して基質強度の影響度は小さいと仮定し,定数項とした。さらに,Fig.9の結果で示された気孔形状の影響を式(7)に反映させるために,c3は破壊力学における応力集中係数を表す式(8)で表現できると仮定した。

  
c3=1+2ab(8)

ここでabはクラック形状を楕円とした時の長半径,短半径をそれぞれ表す。

コークス中の気孔形状を楕円で近似できると仮定すると,気孔円形度が高いほどa/bは1に近く,円形度が低くなるほどa/bは1よりも大きな値を取る。Fig.9に示されるように,平均円形度はDIの増加にともない増加することからDIの一次関数で近似できる。そこで,a/b項をDIの分数関数で置き換え,式(7)および式(8)を組み合わせて式(9)の形に整理した。

  
f2(DI,ε)=c4exp{(1+21c5DI15150+c6)ε}(9)

c4,c5,c6はそれぞれ定数を表す。

Fig.7の実験結果を用いてコークス性状と粉発生の関係を式(7)の形でDIごとに整理し,σ0項の平均値をc4と設定した。σ0をc4に置き換えて式(7)を再計算し得られた各DIのc3の値について,最小二乗法にてフィッティングを行いc5,c6の値を求めた。

以上の式(3)式(6)および式(9)から,単位摩擦距離当たりのコークス粉の発生量W[kg/m]を以下の式(10)のように定式化した。

  
W=2.86P1.46exp{(1+210.040DI151502.58)ε}(10)

式(10)から求めた各DIにおけるWの計算値の線をFig.7に示す。コークスのPoisson比λおよび弾性係数ETable 3に記載の値を使用した。

Table 3.

Material properties of calculations.

4. 高炉内のコークス粉率分布推定モデルの構築

4・1 モデル構成

高炉二次元軸対称モデル,DEMモデルおよび式(10)を用いて,高炉内のコークスの粉化挙動を推定可能なモデルを構築した。高炉二次元軸対称モデル21)は,炉内の諸現象に対応した複数のサブモデルより構成され,ガス流れ,温度および反応率等の定常状態における高炉内分布を評価可能である。装入物に関連する反応として,鉱石のガス還元・直接還元,コークスのソリューションロス反応およびH2Oとの反応を考慮した。DEMモデルは,計算対象の全粒子について粒子間の力学的相互作用を計算し,ニュートンの運動方程式を適用して時間積分することで粒子の軌跡を算出するモデルである。粒子間の力学的相互作用を求める上では,粒子同士の接触のモデルとしてVoigtモデルを用いた。

本検討では,まず高炉二次元軸対称モデルを用いて高炉内のソリューションロス反応によるガス化率分布を算出した。次に,得られた高炉内のガス化率分布を元にDEMモデルの計算対象粒子の気孔率を変化させた。その後,DEMモデルで各コークス粒子の移動軌跡および各粒子が受ける圧縮応力を計算し,式(10)を用いて各コークス粒子の粉発生量を推定した。発生した粉は発生元のコークス粒子に付随して高炉内を移動することとし,粉単体での移動や粉の反応による消失はしないものとした。

4・2 モデル計算条件および計算結果

本検討における計算領域をFig.10に示す。計算領域寸法は実高炉を対象とした11)。DEMモデルは,計算負荷を軽減させるため,水平方向断面が中心角10˚の扇形となる領域に限定して計算した。計算条件11,22)Table 3に示す。実炉操業におけるコークス品位の変動の範囲を考慮して装入コークスのDIを2ケース変化させ,発生粉率分布を比較した。

Fig. 10.

Dimensions of calculation area for DEM simulation.

シミュレーションで推定した高炉内の垂直方向断面の粉率分布をFig.11に示す。粉率[%]は発生粉重量を装入初期のコークス重量で除することで求めた。DI=82.0のケースにおいて半径方向の粉率分布を見ると,炉壁付近の粉率が最も高い値を示した。コークス粒子-炉壁間の相対速度差がコークス粒子間の相対速度差と比較して大きいため,高炉内を降下するに伴って摩擦距離の合計が大きくなり,粉の発生が多く生じたと考えられる。粉率の分布については過去の高炉解体調査4)と同様の傾向を示した一方,粉率の絶対値については本計算結果が高位となった。これは,本モデルでは粉の移動および消失を考慮しておらず,発生粉の蓄積量分だけ高い値となったことが原因である。

Fig. 11.

Simulation results of coke fine ratio in the blast furnace.

垂直方向の粉率分布を見ると,シャフト下部からボッシュ部において粉率が上昇した。コークスのガス化率はシャフト下部からボッシュ部に相当する融着帯下部から滴下帯の領域において最大となる3)ことから,気孔率の増大に伴う粉の発生が著しく進行したことが要因の一つと考えられる。加えて,高炉炉体の水平方向の断面積が炉頂からシャフト部にかけては拡大する一方,ベリー部からボッシュ部にかけては縮小するため,装入物粒子が受ける圧縮応力が急激に増大したことも要因の一つと推測される。

次に,粉率分布に及ぼすDIの影響を比較すると,DIの上昇により高炉内全体の粉率が低下した。特にシャフト下部の炉壁近傍,ベリー部およびボッシュ部において顕著な粉率の低下が見られた。前述の通りコークスの気孔率はシャフト下部からボッシュ部に位置する融着帯下部から滴下帯において最大となる一方,Fig.11(b)においてはコークスのDIが高いことが気孔率の増大に伴う強度の低下を補い,粉の発生が抑制されたと考えられる。一般的に,高炉下部の粉率を低下させることで高炉内のガス流れの不均一化を抑制することができ,安定した高炉操業が可能となるため,還元材比を低減できる6)。高DIのコークスの使用が還元材比の低減に繋がるという実炉操業知見を裏付ける計算結果となった。

以上のことから,本シミュレーションを用いる事によりコークスの物理性状および高炉内の力学的条件を考慮して粉化挙動の傾向を予測できることが分かった。実際の高炉内では発生粉の移動および消失が起こることから,更なる精度向上のためには,炉内ガスの流通に伴う発生粉の移動量の推定方法およびガス化・燃焼・浸炭等に伴う発生粉の消費量の推定方法を本シミュレーションと組み合わせることが必要であると考えられる。

5. 結言

コークス強度が高炉内の粉率分布に及ぼす影響について検討するため,コークス粒子に与えられる力学的条件およびコークス粒子の物理性状が粉発生に及ぼす影響を定式化し,高炉内の応力分布に応じてコークス粉率の分布を推定可能なモデルの構築を行った。その結果,以下の知見が得られた。

(1)摩擦に伴うコークス粉の発生を模擬したラボ評価装置を開発し,荷重,接触面積およびコークス性状が粉発生に及ぼす影響を評価した。その結果,コークス粉の発生量はコークス粒子が受ける圧縮応力のべき乗に比例し,気孔率の増大およびDIの低下に伴う気孔円形度の低下によって増大することが分かった。

(2)コークス粉の発生に対する力学的条件の影響を圧縮応力のべき乗式,コークス性状の影響を気孔率とDIの指数関数式の形でそれぞれ整理し,コークス粉発生量の推定式を構築した。

(3)高炉二次元軸対称モデル,DEMモデルおよびコークス粉発生量の推定式からなる高炉内コークス粉率分布推定モデルを構築し,高炉内の粉率分布および粉率分布に対するDIの影響を検証した。計算結果は実炉操業知見と傾向が一致し,本モデルは実炉内部におけるコークス粉の発生状態を予測できることが分かった。

文献
 
© 2022 The Iron and Steel Institute of Japan

This is an open access article under the terms of the Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivs license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top