Tetsu-to-Hagane
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Initial Investigation of Reductive Gasification of Phosphorus Compounds
Hirokazu Konishi Shimpei FujiwaraYuichiro Koizumi
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2022 Volume 108 Issue 10 Pages 721-727

Details
Abstract

We investigated the reductive gasification of phosphorus compounds. As the first step, the partial P2 gas pressure (PP2) was calculated by using the data of FactSage7.2 for reductive gasification of Ca3(PO4)2, FePO4, P4O10. It was suggested that the reductive gasification of P4O10 was easiest. Moreover, CO reduction of P4O10 was more effective under 830°C and H2 reduction of P4O10 was more effective over 830°C. The weight change of phosphorus compound tablets were measured by using thermal balance furnace under 900°C in N2 or CO-N2 gas atmosphere. The gasification and reduction of Ca3(PO4)2 and Ca5(PO4)3OH tablets were not confirmed. On the other hand, the weight of red phosphorus tablets decreased from 400°C in N2 gas atmosphere. The gasification occurred. The weight of FePO4 tablets slightly decreased from 700°C in CO-N2 gas atmosphere. The gasification or reduction was suggested. The reduction of phosphorus compound in iron oxide tablets was carried out at 700°C, 900°C, 1000°C for 1 h in H2-CO2-N2 gas atmosphere. The removal ratio (Rp) was estimated by measuring concentration of Fe and P before and after reduction. The Rp of red phosphorus compound tablets, Ca5(PO4)3OH, Ca3(PO4)2 was 57%, 9%, 0%, respectively. In the red phosphorus tablets, P might be gasified.

1. 緒言

鉄鉱石はオーストラリアなどの海外からの輸入に依存している。近年,中国をはじめとした世界的な鉄鉱石の需要増加により1),高品位鉄鉱石の枯渇が進行している。高品位鉄鉱石が枯渇した場合,不純物(脈石)濃度が高い低品位鉄鉱石を使用する必要がある。その中でもリン(P)は鋼中に偏析し,割れを生じる原因となるため,0.005 mass%以下にP濃度を制御しなければ,自動車や高圧容器,LNG用タンクなどの一部の製品に利用されている高強度高級鋼を製造できなくなる。現在,高炉プロセスで使用される鉄鉱石中のP濃度は質量パーセント濃度で,0.1 mass%未満であるが,2030年には鉄鉱石中のP濃度が現在と比較して大幅に上昇することが予想されているため,今後,P濃度0.1 mass%以上含まれる鉄鉱石を使用する技術が必要となる2)

これまで脱リン処理については,製鋼プロセスで酸素吹き込みやCaOの添加によるPのスラグ相への取り込み,さらに真空脱ガス法が実用化されてきた。しかし,現在でも溶銑と溶鋼中に溶解したリンを完全には除去できず,最終的に固相で均一分散させている。今後,溶銑中のP濃度が増加した場合,現在の製鋼プロセスにおける脱リン能力だけでは限界に達する可能性がある。そのため,高炉装入前にリンを除去する必要がある。一方,排出されるスラグはセメントや道路のアスファルトなどに使用されるため付加価値が低く,副産物の付加価値を高めるという意味でも鉱石からの脱リンは非常に重要である。日本はリン鉱石としてリンを年間11万トン輸入している。リンは農業では肥料に使われる元素であるが,限られた資源でもあるため枯渇が心配されている3,4)。今後,全世界での人口増加に伴う食糧需要の増加へ対応するために,鉄鉱石からリンの回収によって資源化が期待される。また,輸入された鉄鉱石中に含まれるリンは年間7.7万トンである5)のでリンの自給率向上も期待できる。

これまでにリンの除去法として,Kuboらは鉱石中リンを還元中に2CaO・SiO二相へ濃化させ,電気パルスによって粉砕分離する手法を報告した6)。Chengらは炭材を用いた鉄鉱石の直接還元によるリンの除去を報告した7)。また,Fisher-Whiteらは350°Cの溶融NaOHを用いた鉄鉱石からのリンの分離抽出を報告している8)。しかし,このような固相・液相を利用する手法は,多量の廃液生成・工程の複雑化・高コスト化の問題が生じるため,実用化に際して改善の余地がある。一方,還元ガスを用いた処理法では,製鉄所内での副生ガスが利用できるため,コストの面から優位性があるとみられが,脱リン率の向上が必要である。Sasabeらは1000°C以上の水素-水蒸気ガス雰囲気で,13%まで脱リン率が到達すると報告した9)。また,鉄鉱石中に存在する金属鉄の割合が30%以上では脱リンが進行しないことを報告した。さらに,これまでの報告10)から金属鉄相中にリンが濃化したことが示唆された。

本研究では,1000°C以下の還元ガス雰囲気でリンのガス化除去の条件を見出すことを目的とし,リン化合物の還元反応の熱力学的考察と,模擬高リン鉱石の還元反応の挙動を検討したので報告する。

2. 実験

2・1 リン化合物の還元反応式

高リン鉱石中にリン化合物は複数存在する。本報告ではリン化合物であるCa3(PO4)2,FePO4,P4O10のCO又はH2ガスの還元反応によってP2ガスが生成すると仮定し,その還元反応のギブズの自由エネルギー(∆G°)を計算した。各化合物の(∆G°)はFactSage7.2から引用した。固体のリン化合物(P compound(s))がCOガスによって還元されP2ガスと固体の酸化物(Oxide(s))に分解する反応式は

  
Pcompound(s)+xCO(g)=yOxide(s)+P2(g)+xCO2(g)(1)

と表される。

  
ΔG°=RTlnaOxideyPP2PCO2xaPcompoundPCOx(2)

リン化合物と酸化物の活量は1として整理すると

  
exp(ΔG°RT)=PP2(PCO2PCO)x(3)

logPP2を左辺に置くと

  
logPP2=ΔG°RTlog(PCO2PCO)x(4)

また,下記のH2ガスによるリン化合物の還元反応についても同様の式を導いた。

  
Pcompound(s)+xH2(g)=yOxide(s)+P2(g)+xH2O(g)(5)

logPP2を左辺に置くと

  
logPP2=ΔG°RTlog(PH2OPH2)x(6)

上記した式を利用してlogPP2Tグラフを作成し,各リン化合物の還元ガス化の可能性を検討した。

2・2 リン化合物の昇温ガス化・還元ガス化実験

熱天秤炉を用いてリン化合物の昇温ガス化・還元ガス化実験を行った。実験装置図をFig.1に示す。リン化合物としてCa3(PO4)2((株)高純度化学研究所,純度:99%),Ca5(PO4)3OH(富士フィルム和光純薬(株),純度:99%),赤リン(旧和光純薬工業(株),純度:98%),FePO4・nH2O(富士フィルム和光純薬(株),純度:90%)の各試薬を約3 g用いた。各試薬を顕微鏡で観察すると,その粒径は1~10 μm程度で数十~数百µmの集合体を形成していた。試料はステンレス製のダイスで40 MPaで3 min一軸加圧することでタブレット状に成型した。ムライト製の反応管(内径52 mm)が垂直となるように還元炉に設置し,反応管内に導入するガスを予め予熱・整流するため,反応管底部にはアルミナボールを充填した。反応管上部に設置した熱天秤は,初期荷重を天秤で釣り合わせることにより,ひずみゲージ型荷重変換器(Type LVS-10GA:共和電業(株))で試料の質量変化を測定した。質量変化による動歪計の出力を,データロガー(midi LOGGER GL220:(株)GRAPHTEC)により記録した。天秤に取り付けたチェーン先端に試料を吊るし,反応管内の均熱帯まで下ろした。チェーンの材質はPtを使用した。その後,動歪計のゼロ点調整および検定用おもりを用いて,動歪計の出力検定を行った。炉内をN2ガス(1.25 L/min(s.t.p.))で置換した後,そのままN2ガス,又はCO 30% - N2 70%混合ガス(1.25 L/min(s.t.p.))で900°Cまで5°C/minで室温から昇温した。熱天秤炉内には冷却および還元ガスの流入を防止するため,常にN2ガス(0.5 L/min(s.t.p.))を流し続けた。リン化合物が全量ガス化,または900°Cに達した時点で実験を終了し炉内にN2ガス(0.5 L/min(s.t.p.))を流しながら降温した。

Fig. 1.

Schematic diagram of the thermal balance furnace for the reductive gasification of phosphorus compounds. (Online version in color.)

2・3 模擬高リン鉄鉱石の還元ガス化実験

リン化合物として2・2で使用したCa3(PO4)2,Ca5(PO4)3OH,赤リン試薬を用いた。各試薬と粒径1 μm以下のFe2O3(富士フィルム和光純薬(株),純度:95%)をP濃度が0.3 mass%になるように乳鉢で十分混合した。混合した試料2 gを,ステンレス製のダイスを用いて40 MPaで3 min一軸加圧することでタブレット状に成型し,模擬高リン鉄鉱石とした。還元実験をFig.2に示す横型管状電気炉を用いて行った。反応管は石英製で内径26 mm,長さ300 mmである。雰囲気制御用のガスが均一に流れるように,反応管内のガス供給口付近に円柱状の多孔質材料を設置した。反応管から排出されたガスは,水分吸収用のソーダライムを充填した洗浄瓶,逆流防止用の洗浄瓶,シリコーンオイルを入れた洗浄瓶を順次通過して大気に放出される。実験はすべて,1 atmで行った。試料は反応管の中央部に設置した。最初,反応管内をN2ガス(0.5 L/min(s.t.p.))で十分置換した後,所定の温度まで10°C/minで等速昇温し,所定の温度に到達後,1 hの還元ガス化実験を行った。還元温度は700°C,900°C,1000°Cに設定した。還元ガスは,H2 25% - CO2 25% - N2 50%混合ガス(合計1 L/min(s.t.p.))とした。還元後,N2ガス(0.5 L/min(s.t.p.))で室温まで冷却した後,試料を取り出した。還元前後の試料の表面をXRF(X線蛍光分析:supermini200(株)リガク)によってFe,P,Si,Al,Ca,Oの濃度を測定し,Fe濃度に対するP濃度を求めた。試料の場所によってP濃度が異なるためタブレットの位置を変えながら複数箇所分析した。還元ガス化処理前後のP濃度から下記の式を用いて脱リン率Rpを求めた。

  
Rp=(WP,initialWFeinitial)(WP,finalWFe,final)(WP,initialWFe,initial)(7)
Fig. 2.

Schematic diagram of the electric furnace for the reductive gasification of phosphorus compounds. (Online version in color.)

Feは還元前後で減少しないため,試料中のFe濃度に対するP濃度の値で脱リン率Rpを評価した。また,WPWFeはPとFeのmass%であり,initialは還元実験前,finalは還元実験後の値を示している。

3. 結果と考察

3・1 リン化合物の還元反応の熱力学的考察

リン化合物のCa3(PO4)2,FePO4,P4O10のCO又はH2ガスの還元反応式を下記の式(8)~(13)に示す。また,各反応式のギブズエネルギーΔGはFactSage 7.2を用いて求めた。ここで,Ca3(PO4)2とFePO4は全温度領域で固相のΔGの値,P4O10は100°Cから融点340°Cまでは固相,昇華点360°Cから1000°Cまでは気相のΔGの値を使用した。P4O10の液相のΔGの値はFactSage 7.2のデータに含まれていなかったため,340~360°Cは計算から除外した。例として,本論文の最高還元温度である1000°Cで,CO/CO2=1,又はH2/H2O=1の雰囲気で反応させた場合,(8)-(11)の平衡定数Kが1よりもかなり小さく,Ca3(PO4)2,FePO4の還元反応がほとんど進行しないことがわかる。一方,(12)(13)Kは比較的大きく,P4O10の場合,還元ガス化除去できることが示唆される。

  
Ca3(PO4)2(s)+5CO(g)=3CaO(s)+P2(g)+5CO2(g)K(1000°C)=1.5×1030(8)
  
Ca3(PO4)2(s)+5H2(g)=3CaO(s)+P2(g)+5H2O(g)K(1000°C)=1.7×1029(9)
  
2FePO4(s)+6CO(g)=2FeO(s)+P2(g)+6CO2(g)K(1000°C)=1.2×1010(10)
  
2FePO4(s)+6H2(g)=2FeO(s)+P2(g)+6H2O(g)K(1000°C)=2.2×109(11)
  
1/2P4O10(s,g)+5CO(g)=P2(g)+5CO2(g)K(1000°C)=1.1×103(12)
  
1/2P4O10(s,g)+5H2(g)=P2(g)+5H2O(g)K(1000°C)=1.3×102(13)

次に,式(4)(6)を用いてlogPP2Tグラフを作成し,CO又はH2ガスによるCa3(PO4)2,FePO4,P4O10の還元ガス化の可能性を検討した。それぞれのガス濃度はCO:CO2,H2:H2O=99%:1%,90%:10%,50%:50%,10%:90%とした。CO還元およびH2還元でのlogPP2TグラフをそれぞれFig.3Fig.4に示す。Fig.3から各化合物の還元温度の上昇と共に,P2ガス分圧が増加することがわかる。また,いずれの温度においてもP4O10のP2ガス分圧が最も高く,Ca3(PO4)2のP2ガス分圧が最も低いことがわかった。Fig.4においても同様に,各化合物の還元温度の上昇と共に,P2ガス分圧が増加し,P4O10のP2ガス分圧が最も高く,Ca3(PO4)2のP2ガス分圧が最も低いことがわかった。以上の結果から,Ca3(PO4)2,FePO4,P4O10の中ではP4O10が最も還元ガス化しやすいことがわかった。また,還元ガスの濃度の比較では,CO又はH2ガス濃度が99%の場合,P2ガス分圧が最も高く,還元雰囲気が強いほどリン化合物は還元ガス化することがわかった。さらに,COとH2ガスによるP4O10の還元ガス化効果を比較するために,P4O10logPP2TのグラフをFig.5で示した。Fig.5では,約830°Cを境にCOとH2ガスのP2ガス分圧の大きさが異なっている。約830°Cより低温ではCOガス,高温ではH2ガスの方がP2ガス分圧が高いことがわかる。一方,P4O10の還元ガス化に対するCOとH2ガスの濃度依存性を詳細に検討するため,横軸をガス濃度,縦軸をP2のガス分圧として,500°C,700°C,900°CのグラフをFig.6に示し,比較した。500°C,700°CではCOガス還元のP2ガス分圧が高く,900°CではH2ガス還元のP2ガス分圧が高いことがわかる。以上の結果を踏まえると,Fig.5で示した約830°Cより低温ではCOガス還元,高温ではH2ガス還元が,P4O10の還元ガス化に対して有効であることが明らかになった。

Fig. 3.

Temperature dependence of phosphorus partial pressure (PP2) of Ca3(PO4)2, FePO4, and P4O10: Ca3(PO4)2+5CO=3CaO+P2+5CO2, 2FePO4+6CO=2FeO+P2+6CO2 and 1/2P4O10+5CO=P2+5CO2 (Online version in color.)

Fig. 4.

Temperature dependence of phosphorus partial pressure (PP2) of Ca3(PO4)2, FePO4, and P4O10: Ca3(PO4)2+5H2=3CaO+P2+5H2O, 2FePO4+6H2=2FeO+P2+6H2O and 1/2P4O10+5H2=P2+5H2O (Online version in color.)

Fig. 5.

Comparison of phosphorus partial pressure (PP2) of P4O10 in CO and H2 reduction: 1/2P4O10+5CO=P2+5CO2(solid line), 1/2P4O10+5H2=P2+5H2O(dot line) (Online version in color.)

Fig. 6.

Reductive gas composition dependence of Phosphorus partial pressure (PP2) of P4O10: 1/2P4O10+5CO=P2+5CO2 (solid line), 1/2P4O10+5H2=P2+ 5H2O (dot line) (Online version in color.)

3・2 リン化合物の昇温ガス化・還元ガス化の挙動

リン化合物のCa3(PO4)2,Ca5(PO4)3OH,および赤リンのペレット試料を用いて,熱天秤炉内を不活性N2ガス(1.25 L/min(s.t.p.))で十分置換した後,常温から900°Cまで5°C/minで昇温した。試料の質量変化をFig.7に示す。Ca3(PO4)2の質量はまったく減少しなかったので記載していない。Ca5(PO4)3OHは100°C以下から少量減少,赤リンは400°C付近から急激に減少した。この結果は,Ca5(PO4)3OHは水分の蒸発,赤リンはガス化が進行したことが示唆された。次に,リン化合物の還元ガス化を検討するために,CO 30% - N2 70%混合ガス(1.25 L/min(s.t.p.))雰囲気で,Ca3(PO4)2,Ca5(PO4)3OH,FePO4試料を900°Cまで5°C/minで昇温還元した。試料の質量変化をFig.8に示す。Ca3(PO4)2試料の質量変化については,不活性N2ガス雰囲気と同様な傾向を示し,まったく減少せず,還元ガス化は確認できなかった。Ca5(PO4)3OHは,低温で少量水分の蒸発が確認できた。一方,FePO4試料は,700°C以上で少し質量減少している。3・2の熱力学的考察を踏まえると,CO2を含まない還元性のCOガス雰囲気の場合,700°C以上の高温ではP2ガス分圧は大きくなるので少し還元が進行した,或いはFePO4試料が少量揮発した可能性が示唆された。

Fig. 7.

Weight loss of samples in N2 gas atmosphere: Red phosphorus (solid line), Ca5(PO4)3OH (dash line) (Online version in color.)

Fig. 8.

Weight loss of samples in CO 30% - N2 gas atmosphere: FePO4(solid line), Ca5(PO4)3OH (dash line) (Online version in color.)

3・3 模擬高リン鉄鉱石の還元ガス化の挙動

試料はリン化合物のCa3(PO4)2,Ca5(PO4)3OH,および赤リン試薬とFe2O3をリン濃度が0.3 mass%になるように混合したタブレット状の模擬高リン鉄鉱石を用いた。還元温度は700°C,900°C,1000°Cで1 hに設定した。還元ガスは,H2 25% - CO2 25% - N2 50%混合ガス(合計1 L/min(s.t.p.))である。還元前後のタブレット表面のXRF分析結果から各試料の脱リン率Rpを求めた。結果をFig.9に示す。Ca3(PO4)2内装タブレットでは脱リン率Rp=0%であったため,グラフに記載していない。Ca5(PO4)3OH内装タブレットでは900°Cで脱リン率Rp=9.4%,1000°Cで脱リン率Rp=7.4%を示したが,∆G°のデータが存在しなかったため,熱力学的考察はできなかった。また,1000°Cより900°Cの脱リン率Rpが2%高くなったが,今回,各条件で一個の試料しか使用しなかったため,作製したタブレット試料中のFe2O3とCa5(PO4)3OHとの密着性によって差が出た可能性がある。一方,赤リン内装タブレットでは1000°Cで最大脱リン率Rp=57%であった。以上の結果から,今回使用したCa3(PO4)2,Ca5(PO4)3OHは還元反応が進みにくいことが明らかになった。Ca3(PO4)2の結果は3・1の熱力学的考察で得られた結果と一致している。赤リンについては,3・2の結果から400°C付近でガス化することがわかっており,そのため試料中のリン濃度が減少し,脱リン率Rpが高くなったことが示唆された。

Fig. 9.

Removal ratio of P from red phosphorus composite iron oxide tablets and Ca5(PO4)3OH composite iron oxide tablets in H2-CO2-N2 gas atmosphere. (Online version in color.)

4. 結論

本研究では,1000°C以下の還元ガス雰囲気でリンのガス化除去の条件を見出すことを目的とし,リン化合物の還元反応の熱力学的考察と,模擬高リン鉱石の還元反応の挙動から以下の知見が得られた。

(1)FactSage7.2の熱力学データからリン化合物の還元ガス化の際のP2ガス分圧を計算し,還元ガス化の可能性を評価したところ,Ca3(PO4)2,FePO4,P4O10の中ではP4O10が最も還元ガス化しやすいことがわかった。また,P4O10還元ガス化に対して,830°C付近より低温ではCOガス,高温ではH2ガスの方が効果的であることがわかった。

(2)N2雰囲気で900°Cまで昇温ガス化実験を行ったところ,赤リンは400°C付近でガス化を開始したが,Ca3(PO4)2,Ca5(PO4)3OHはガス化しなかった。

(3)H2-CO2(1:1)雰囲気下(700°C,900°C,1000°C)で模擬高リン鉱石タブレットの還元ガス化実験を1 h行ったところ,脱リン率Rpの最高値は赤リン内装タブレットでは57%,Ca5(PO4)3OH内装タブレットで9%,Ca3(PO4)2内装タブレットでは0%であった。この結果から,高リン鉱石中のリンの形態が付着・吸着リンであった場合,還元ガス化によってリン濃度を50%以上低減できることが示された。

謝辞

本研究は,一般社団法人日本鉄鋼協会「第28回鉄鋼研究振興助成」によって行われた。ここに感謝の意を表す。

文献
 
© 2022 The Iron and Steel Institute of Japan

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