Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
Regular Article
Development of a Method for Evaluating Heat Transfer Characteristics of a Circular Water Jet Impinging on a Moving Flat Plate
Katsutoshi Tatebe Yuta ShioiriShunsuke FujitaHitoshi Fujimoto
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2022 Volume 108 Issue 11 Pages 823-834

Details
Abstract

In metal hot-rolling processes, water jet cooling of a moving hot solid is commonly used for run-out table (ROT) cooling. High-accuracy evaluation of the surface heat flux at jet-impinging areas is important for accurate temperature control to produce high-quality steel plates. Most previous studies on the heat transfer characteristics of jet impingement areas have considered water jet impingement on stationary hot solids; however, the flow conditions are different in ROT cooling because the water jet impinges on moving hot solids. Thus, the estimation of the heat flux at the jet impact zone of a water jet on a moving hot solid is essential. Therefore, we developed a method for evaluating the surface heat flux in the impinging areas of water jet cooling of a moving hot solid. The method was based on the inverse solution of the heat conduction equation, using the measured temperature profile as a boundary condition, such that the heat removal in the jet impinging area was obtained numerically. To demonstrate the validity of our model, we performed cooling experiments on a circular water jet impinging obliquely on a moving hot solid. The experiments were conducted under the following conditions: temperature of the solid made of stainless steel was 300-550 °C, moving velocity of the solid was 0.5-1.0 m/s, jet diameter was approximately 0.31 mm, and water flow rate was 10 ml/min. We confirmed that the model was useful for evaluating the heat flux in the jet impact region.

1. はじめに

1・1 産業的な背景と研究目的

近年,高強度かつ高靭性の鋼板が,造船,エネルギー,建築などの様々な分野で求められている。そのような優れた機械的特性を持つ鋼材を製造する技術として,制御圧延と制御冷却の組み合わせに基づいているTMCP(Thermo - Mechanical Control Process)技術が開発されている1,2)。その制御冷却の役割としては,急冷と緩冷を組み合わせて,所望の金属組織を得るための冷却履歴を達成することである。金属組織やその結果として得られる機械的特性は冷却履歴によって大きく変化する3,4)ため,精密な冷却制御が重要となる。

熱間圧延後の鋼板は,移動しながら冷却装置を通過し,冷却される。冷却装置進入時の鋼板温度は約900 °Cである。冷却媒体には,安全で,安価な水がよく使われる。鋼板は,その水を上下面に配置された円形ノズルから噴射し,衝突させることで,所定の温度まで急速に冷却される。この冷却の物理現象は,移動固体と水噴流の衝突時の相互作用に加え,液体の相変態も関与するため非常に複雑である。そのため,この冷却現象の流動特性や熱伝達特性には未解明な部分が多い。

上記の冷却設備の基本要素は,Fig.1に示す移動する高温固体へ衝突する単一液体噴流である。その伝熱特性は古くから研究されており,液体噴流の衝突領域で大きな熱量を奪うことができると報告されている512)。それらの研究成果は,精密な冷却制御を達成するために非常に有用であるため,技術者にとって非常に興味深いものである。しかしながら,それらの多くは静止固体へ衝突する液体噴流に関するもので,移動固体への衝突を扱ったものは少ない。

Fig. 1.

Schematic of single liquid jet impinging on a moving hot solid. (Online version in color.)

ここで,液体噴流の熱伝達量を評価する方法は大きく分けて2つある。一つは, 冷媒に関する方程式系と固体内部の熱伝導方程式を解析的に,もしくは数値計算で解くこと方法であるが,これは非常に難しい。この理由としては,非定常な3次元乱流のナビエ・ストークス方程式の解が不明なためである。また,近年のスーパーコンピュータを用いたとしても,高精度な数値計算は困難である。もう一つのアプローチとしては,実験に基づく手法である。詳細は1・2で述べるが,これまでの手法では鉄鋼業で扱われるような厚みのある移動する高温鋼材へ衝突する水噴流の衝突領域の熱伝達特性を詳細に把握することは難しい。したがって,上述の精緻な温度制御を実現するためには,新たな評価手法が産業的な観点からは必要と考えられる。

本研究の目的としては,既存の実験手法と比べ,高分解能で噴流衝突点周辺の熱伝達量を評価する手法を新たに開発することである。なお,実際の熱間圧延工程の冷却における現象である移動する厚みのある高温の固体へ衝突する水噴流に適用できる手法を構築することを想定した。

1・2 既存の衝突噴流の熱伝達評価手法のレビューと提案手法の考え方

今回提案する新たな評価手法の新規性を説明するため,既往の研究をレビューする。

衝突噴流の熱伝達量を評価するための典型的な実験方法の一つとして,鋼材内部に熱電対を挿入して内部温度を測る方法がある1317)。熱電対は,耐熱性,耐久性,信頼性に優れているため,温度測定機器としてよく用いられる。熱が厚み方向の1次元方向のみ伝達されると仮定し,静止した固体内部の厚み方向に挿入された1つ,または複数の熱電対の過渡的な温度変化を測定する。固体表面温度は,境界条件として内部の測定温度を用いて,数値解析または解析的な手法を用いて逆解析によって評価される。その固体表面温度を計算する過程で得られる熱流束から熱伝達係数が評価される。しかしながら,固体内部の熱伝導に関し,1次元方向のみに仮定することは非常に理想的であり,実際には成立せず,誤差が発生する。さらに,実際の熱間圧延工程を再現するために固体の移動を考慮すると,一次元の仮定は困難であり,誤差が拡大する。

上記の問題を解決するため,固体表面に平行な方向の固体内部の温度を複数測定し,多次元の熱伝導方程式を解くことが行われる1829)。この方法では,予測精度は測定点の数に大きく依存し,測定点が多いほど高精度な予測が可能となる。ただし,この方法にはいくつか欠点が存在する。1つの熱電対で1つの局所の温度を測定できるため,衝突領域周辺の小さな領域に多くの熱電対を設置する必要がある。そのためには,多数の熱電対挿入用の孔の深さや位置を精度よく機械加工することが求められる。また,熱電対挿入用の孔同士の間隔を小さくすると,固体内部の熱伝導影響により冷却面での温度変化を正確に測定できない。そのため,孔同士の間隔を小さくすることにも限界があり,高い空間分解能を得られない。

そこで,熱電対による測定に代わり,サーモグラフィーが利用される3134)。サーモグラフィーは非接触の測定器であるため,高い空間分解能で固体表面の温度分布を得ることができる。逆に,固体内部の温度を測定することはできない。水は赤外線波長の範囲の電磁波を吸収するため,水で覆われた表面温度を正確に測定することも不可能である。したがって,温度は水で覆われた冷却面ではなく,裏側で測定される。この裏側の温度を境界条件とした3次元の熱伝導方程式を逆解析することで,冷却面の温度を数値的に予測する30,31,33)。この手法は,高分解能で冷却された面の熱伝達量を評価可能であるが,温度変化の情報が裏面に十分に反映された薄い板にのみにしか適用できない点が課題であった。

本研究で提案する手法では,厚い板にも適用可能である。高温固体が水噴流により冷却される場合,水噴流が衝突する領域では高い抜熱量を示すが,熱伝導率が低い蒸気膜で覆われる領域では抜熱量は小さい。そのため,産業上,噴流衝突領域周辺の抜熱量の測定が重要である。そこで,著者らはFig.1に楕円で示す噴流衝突部よりも下流の水膜を除去すれば,冷却された表面をサーモグラフィーで測定できると考えた。なお,その水膜を除去しても上流側の水噴流衝突部周辺の流動特性や伝熱特性には影響しないため,全体の抜熱量に影響は与えない。この温度測定結果を熱伝導方程式の逆解析に使用することで,水噴流衝突部周辺の抜熱量を推定可能となる。このような方法は,著者らが知る限りこれまで提案されていない。

2. 提案手法の概要

実験装置に関しては3・1で詳細に説明するが,Fig.2(a)に示す本研究で検討した移動する高温固体への単一衝突水噴流冷却の模式図を用いて提案手法の概要を述べる。ステンレス鋼製の直方体形状の固体を,液体の飽和温度よりも十分に高い温度Tsまで加熱した後,これを所定の移動速度Vsx方向に移動させた。その際,水噴流を垂直に衝突させず,移動方向に対して垂直な方向から斜めに衝突させた。このようにすることで,Fig.2(b)に示すように水噴流が跳ね返り,固体面上から離脱する条件が存在するため,水噴流衝突後の水膜をエアーワイピングなどで除去しなくても,乾き面を容易に得ることできる。その乾き面を赤外線サーモグラフィーで測定すれば,Fig.2(c)のように高解像度の冷却後の温度分布を測定可能となる。その温度分布から水噴流が衝突している領域の温度と抜熱量を推定する。その推定方法として,3次元数値解析モデルを構築した。この方法に関して,詳細に述べ,その妥当性を検証した結果を示す。

Fig. 2.

Outline of the proposed method. (Online version in color.)

3. 実験および解析

3・1 実験装置および実験方法

Fig.3に実験装置の模式図を示す。実験装置は,円形水噴流生成装置,リニアアクチュエータ上に設置された高温移動固体で構成される。表面温度分布を測定する際は赤外線サーモグラフィーカメラを設置し,固体面上での水の流れを観察する際は高速度カメラを設置する。

Fig. 3.

Schematic of experimental apparatus. (Online version in color.)

円形水噴流生成装置は,脈動の小さい定量ポンプ,ケミカルチューブ,内径0.31 mmの円形ノズルから構成される。円形水噴流は,定量ポンプより輸送される純水を,ノズル先端からの延長線と固体面からの法線がなす角40°で噴射して生成した。この噴射角度は,衝突後の水噴流が反発し,瞬時に固体面から離脱する条件を予備試験で探索して決定した。水の体積流量は,5分間回収し,その質量を測定した。本実験では,10 ml/minとした。

高温固体は,カートリッジヒータを内蔵した加熱金属体 および温度コントローラで構成される。加熱金属体の形状は長さ150 mm×幅15 mm×高さ30 mmの直方体で,材料はSUS303である。その加熱金属体表面の算術平均粗さは,0.3 µmであった。加熱金属体の温度は,加熱金属体に埋め込んだフランジ付きカートリッジヒータをPID制御コントローラおよび温度制御用熱電対(素線径0.3 mmのK型熱電対)で管理した。赤外線サーモグラフィーカメラで正確な温度を測定するために,高放射率のAlTiN層を成膜した。そのAlTiN膜の放射率が不明なため,放射率0.94の黒体塗料を固体表面に部分的に塗布した。そのAlTiN膜と黒体塗料の領域の固体表面の温度を合わせ,AlTiN膜の放射率を各初期温度で同定した。本研究では,温度範囲は250 °C~550 °Cとし,放射率は0.66~0.73であった。550 °C以下とした理由は,AlTiN膜の耐酸化温度が600 °Cであるためである。

その加熱金属体は,リニアアクチュエータ上に設置される。加熱金属体は,初期状態においてはアクチュエータの端に静置されており,実験開始信号により静止状態から加速し,一定速度に保持されて試験区間を通過し,減速して停止する。本実験では,移動速度0.5 m/s~1.0 m/sとした。

試験区間における表面温度分布は,マクロレンズを装着した赤外線カメラ(フレームレート40 Hz,解像度480×360ピクセル)で撮影した。なお,フレームレートが40 Hzであるため,本実験での最高速度の移動速度1.0 m/sでは1/40秒で25 mm移動する。したがって,得られる表面温度分布は時間平均化された温度である。今回使用した実験装置で温度が均一である領域は,試験材長手中央から±20 mm程度であったため,その領域での測定結果のみを使用することに留意した。赤外線サーモグラフィーの撮像素子は,有効波長8.0~14 µmのマイクロボロメータである。1画素が52 µmに相当するため,非常に高い空間分解能で温度分布を得ることができた。また,水噴流の衝突状況の可視化を目的に,高速度カメラ(解像度1600×1200ピクセル,シャッタースピード 1/10000秒,500 fps)で撮影した。

なお,各実験は再現性を確認しながら,複数回行った。

3・2 解析モデルおよび解析方法

固体内部の輸送方程式として,

  
t(ρh)+(Vρh)=(λT)+Sh(1)

を用いた。ここで,ρは密度[kg/m3],hは顕エンタルピー[J/kg/K],Vは固体の移動ベクトル[m/s],λは熱伝導率[W/m/K],Tは温度[K],Shは発熱量[W/m3]である。本研究では,固体はx方向にのみ速度Vsで移動し,かつ,発熱量はない。加えて,本実験では,移動方向上流側から一定の温度で固体が供給され,水噴流衝突部で冷却するという状況であり,準定常状態とみなすことができる。その結果,式(1)は,

  
x(Vsρh)=(λT)(2)

となる。式(2)を汎用有限体積法ソフトウェア「ANSYS Fluent 2020 R1」35)を用いて解いた。

計算領域は,Fig.4に示すように直方体形状(長さ30 mm×幅15 mm×厚さZs)とした。噴流衝突点は(x,y,z)=(10 mm,0 mm,0 mm)の位置とした。長さに関しては,Fig.5(a)のy=0の線上の測定温度の結果例(移動速度Vs=0.5 m/s,初期温度Ts=450 °C,水温Tl=10.2 °C)が示すように,噴流衝突点から1 mm程度で急激に温度上昇し,それ以降は緩やかに温度上昇していることと,実験装置の都合上で長手方向に温度が一定に保たれる範囲が20 mmであったことから,上記のように設定した。なお,このような温度上昇を「復熱」と呼び,次のようなメカニズムで発生する。噴流衝突領域では,固体表面の温度は急激に低下するが,そこから離れた固体内部の温度は初期温度に保たれる。そのような状況では,熱伝導によって熱が低温部に運ばれる。その結果,温度が上昇する。高さZsに関しては,後述する格子サイズの検討結果とともに示す。冷却面はz=0 mm面に対応し,y方向の境界面は固体の側面に対応する。その他の面は仮想的なものである。本研究では,冷却面(z=0 mm)における噴流衝突部は平均熱流束qmeanの楕円形の冷却領域を設定した。冷却領域以外では,熱損失qlossを与えた。qlossは,輻射および自然対流と固体移動に伴う対流熱伝達であり,qmeanに比べて,非常に小さな値である。楕円形の冷却領域のx方向長さDxとy方向長さDyの設定方法に関しては,次のようにした。x方向長さDxFig.5(a)に示すように,水噴流衝突中心と上流側の冷却開始位置間の距離の2倍とした。なお,Fig.5(a)は赤外線サーモグラフィーカメラの出力温度そのままであるので,水噴流が存在する領域において水噴流の表面と水噴流直下の固体面からの放射エネルギーの相互作用の影響で,固体表面の温度ではない大きな温度降下部が観察される。ここで,その温度降下領域において最も温度が低下している位置(x=0.01 m)は,水の厚みが最も大きい位置,つまり噴流中心と考えられる。そこで,その位置を噴流衝突中心と定義した。一方,冷却開始位置は,やや主観的になるが,図中に示したようにその噴流中心より移動方向上流側における比較的温度一定な領域から延ばした線と,温度降下部を線形近似した線との交点とした。次に,y方向長さDyは後述する繰り返し計算の中で決定した。y=±7.5 mm位置の面には,冷却面(z=0 mm)における冷却領域以外と同様にqlossを与えた。冷却面からz方向に十分離れた境界面(z=Zs)とx方向下流側の噴流衝突部から十分離れた境界面(x=30 mm)に関しては,境界面に対して垂直方向の温度勾配が0と仮定し,

  
Tz=0(3)
  
Tx=0(4)
Fig. 4.

Schematic diagram of the three-dimensional model and boundary conditions. (Online version in color.)

Fig. 5.

Length of cooling region in x-direction, Dx and width of temperature drop, W at x = 0.012 m. (Online version in color.)

とした。x方向上流側の境界面(x=0 mm)に関しては,測定した水噴流衝突前の表面温度Tsで一定とした。

本解析モデルでは,実験で得られた噴流衝突後の温度分布と一致するための楕円形冷却領域における平均熱流束qmeanを求める。本研究では,Fig.4中に記載の4 mm×2 mmの範囲において次のような操作を行った。まず,qmeanを仮の値で固定し,Fig.5(b)に示すx=0.012 m位置の幅方向温度分布の温度降下幅Wを再現するy方向長さDyを繰り返し計算により探索し,同定する。ここで,x=0.012 m位置での温度降下幅Wを選択した理由は,次の通りである。復熱を呈する長さが実験条件によって変化するため,評価位置を変化させることが考えられるが,本研究では,計算時間の短縮,煩雑さの解消を目的に,評価位置を固定することにした。その上で適切な評価位置としては,復熱過程の幅方向の温度分布が明瞭に現れる,水噴流の衝突点に可能な限り近い位置が好ましい。実験結果を分析したところ,x=0.012 m未満の位置では,一部の条件で幅方向温度分布に飛散した水の存在による温度降下が見られることがあったため,幅方向の温度変化が比較的安定して得られたx=0.012 m位置の温度分布を用いて,y方向長さDyを同定することにした。その後,x軸上の温度に関して,最小二乗関数

  
ΔTerror=1mi=1m(Tsurface,predictionTsurface,experiment)2(5)

を計算し,これが最小となる平均熱流束qmeanを,繰り返し計算を行うことで探索した。ここで,添え字のpredictionとexperimentはモデルと実験で得られた値を示し,m式(5)を計算するための測定点の数である。

ここで,事前検討として,まず,z=Zsの位置,および冷却面近傍の格子の大きさを決定する計算を行った。計算条件としては,初期温度が550 °Cの鋼材を移動速度0.5 m/sで冷却する場合を想定した。その際の楕円形の冷却領域に関しては,多くの実験でDxは1.3 mm前後であったため,Dx=1.3 mmと設定した。Dyに関しては,静止系への斜め衝突では,幾何学的にDx<Dyとなるが,ほとんどの実験条件でx=0.012 m位置での幅方向温度分布を再現するにはDx>Dyとする必要があったことからDy=1.0 mmと設定して検討した。これは,4・1の流動特性で述べるが,移動系では板との粘性摩擦により伝熱に寄与する接触領域が板の移動方向に延びるためと考えられる。また,得られる熱流束の大きさが定かではなかったため,その代わりに最も厳しい条件として,物性が異なる2つの半無限固体の1次元非定常接触熱伝導問題の厳密解35)を用いて表面温度一定とした。具体的には,温度および熱物性値の異なる半無限固体1,2が時間t=0 sで接触した場合の界面温度

  
Tb=Tinit,1ρ1c1λ1+Tinit,2ρ2c2λ2ρ1c1λ1+ρ2c2λ2(6)

で一定であるとした。ここで,Tbは界面温度[°C],Tinitは接触前の初期温度[°C],ρは密度[kg/m3],cは比熱[J/kg/K],λは熱伝導率[W/m/K]であり,添え字1,2は物質の種類を表し,本論文では前者を水,後者をSUS303とした。水の物性は大気圧下の20 °Cの値として,ρ1=998.2 kg/m3c1=4187.4 J/kg/K,λ1=0.598 W/m/K,SUS303の物性は,伝熱工学資料37)より成分系の近いSUS304の物性を用いた。SUS304の物性は,実験結果の解析にも使用した。

固体の厚み(Zs)に関しては,一次元の非定常熱伝導の厳密解より温度変化が0.1%生じる深さで決定される温度浸透深さ

  
δ=3.6αΔt(7)

を,移動速度0.5 m/s,解析範囲である噴流衝突部から20 mmを通過した条件で計算すると,約1.5 mmとなるため,それ以上の深さが必要となる。しかしながら,計算負荷の観点からは可能な限り小さいほうが好ましいので,Fig.6(a)に示すように冷却面近傍の第一格子高さdzを0.01 mmとして,固体の厚み(Zs)を2.0 mmから小さくした計算を行った。水噴流衝突前の領域1では,初期温度とほぼ同様の値で一定である。噴流衝突部である領域2では,固液界面温度で一定となる。水噴流衝突後の領域3では,温度が上昇し,初期温度に近づいている。Zs=0.3 mm~1.0 mmまで増加させると復熱後の温度が増加した。一方,Zs=1.0 mm,2.0 mmでは,復熱後の温度は変化しなかった。この結果から,温度浸透深さより小さいZs=1.0 mmでも,温度浸透深さよりも大きいZs=2.0 mmとほぼ同様の結果になったため,本研究ではZs=1.0 mmとした。次に,Fig.6(b)に上記で決定したZs=1.0 mmで冷却面近傍の第一格子高さdz=0.04 mmから0.0001 mmまで変化させた計算結果を示す。その結果,dz=0.04 mm~0.0004 mmまで小さくすると,温度分布は変化したが,dz=0.0004 mm,0.0001 mmの結果はほぼ同様の温度分布となった。そこで,本研究ではdz=0.0004 mmとした。この条件における総格子数は709,164となった。

Fig. 6.

Numerical results for varying the thickness Zs of the analysis domain and for varying the spatial tick dz in the thickness direction. (Online version in color.)

次に,提案する手法で平均熱流束qmean,およびy方向長さDyを推定できるか検証した。具体的には,上記の計算モデルにおいて,境界条件を平均熱流束qmean=10 MW/m2に変更した条件で順計算し,その計算結果に対して提案する手法を適用した。その結果をFig.7に示す。計算結果は順解析の結果を良好に再現し,得られた平均熱流束qmeanとy方向長さDyはそれぞれ,9.99 MW/m2(誤差約0.1%),1.006 mm(誤差約0.6%)であった。以上より,本手法で平均熱流束qmean,およびy方向長さDyを良好に推定できることを確認できた。

Fig. 7.

Validation results on the prediction accuracy of the proposed method.

4. 結果と考察

4・1 高温移動固体へ傾斜衝突する水噴流の流動特性

Fig.8は,移動速度Vs=0.5 m/sで移動する高温固体へ水温Tl=13.4 °Cの水噴流を衝突させた際に初期温度Tsを変化させた場合の結果である。図中に,噴流の流動方向は矢印で示している。どの温度条件でも,水噴流は高温固体面に衝突し,楕円形の濡れ領域を形成後,収縮して反発し,固体面から離脱した。Fig.8(a)~(f)より,初期温度が高い条件では水噴流はあまり移動方向に傾かずに固体面から離脱したが,初期温度Tsの低下に伴い,離脱する際の水噴流の移動方向への傾きが大きくなった。さらにFig.8(a)の初期温度Ts=300 °Cの条件では,水噴流衝突後に激しい沸騰現象が発生し,微細な液滴の飛散が生じた。また,移動方向に薄い水膜が形成された。このような結果は,他の移動速度でも同様であった。Fig.8(d),(g),(h)より,移動する初期温度Ts=450 °Cの高温固体へ水噴流を衝突させた際,移動速度Vsの増加に伴い,水噴流が固体面から反発して離脱する際の移動方向への傾きが大きくなった。

Fig. 8.

Flow characteristics at varying initial solid temperatures and moving velocities. (Online version in color.)

初期温度Tsや移動速度Vsによって,水噴流衝突後の流動に違いが表れたため,反発して離脱する際の角度である反発角αを,各条件で測定した結果をFig.9に示す。反発角αの定義は図中に示すとおりである。なお,測定値は,1つの動画から10フレーム選択して測定した値の平均値であり,エラーバーは標準偏差である。初期温度Ts=300 °Cでは,水噴流の衝突時に激しい沸騰が発生し,反発挙動が不安定になり,うまく測定できなかった。この反発する際の噴流の傾斜が発生する要因としては,水噴流衝突時の固体移動方向の力積Ixによるものと推定される。この力積Ixは,移動する固体と流体間の速度差に伴う摩擦抵抗Dfと水噴流と固体の接触時間∆tの積であるため,

  
Ix=DfΔt(8)
Fig. 9.

Measured rebound angles for different moving velocities and initial solid temperatures. (Online version in color.)

と表現される。ここで,この力積Ixと反発角αの間に比例関係が成立すると仮定する。例えば,鋼材表面温度が水の過熱限界温度である約300 °C37)より十分高く,噴流衝突領域で安定した蒸気膜が形成されていると考えられる初期温度Ts=450 °C以上では,Fig.9より移動速度Vs=1.0 m/sの反発角度αは移動速度Vs=0.5 m/sの反発角度αの概ね2倍である。一方,本実験範囲では,噴流の移動方向の接触幅は大きく変化しなかったため,移動速度Vs=1.0 m/sの接触時間Δtは,移動速度Vs=0.5 m/sの概ね0.5倍である。したがって,摩擦抵抗Dfの大きさは約4倍となる。その他の温度でもほぼ同様の関係が成立した。ここで,一般的な固体面移動方向の摩擦抵抗Dfの大きさは,

  
Df=12CfρV2S(9)

と表される。ここで,Cfは摩擦抗力係数,Vは固体移動方向の流体と固体の相対速度差の固体移動方向の成分,Sは見かけの接触面積である。したがって,本実験結果は,式(9)と同様の関係が成立しており,水噴流が衝突領域で受ける力は移動速度の2乗に概ね比例することが分かった。

次に,反発角度αは固体表面温度が大きいほど小さくなる。これは,水噴流衝突部における接触状況の変化によると推定される。今回,水の飽和温度以上の固体面温度で実験しているため,沸騰が発生する。初期温度Ts=350 °C以上では,蒸気膜が形成すると推定される条件である。しかしながら,実際は水噴流が高温固体に接触直後に高温固体から水噴流へ熱が移動し,水噴流の固液界面が温度増加して蒸気が生成する。したがって,蒸気が発生するまでの微小な時間は,固液が接触していると推定される。それに関して,例えばMikic and Rohsenow38)は,プール沸騰における蒸気泡の発生時間twとして,

  
tw=14αl{rcerfc1[TsatTlTsTl+2σTsat(ν'ν'')(TsTl)hlvrc]}(10)

を提案している。ここで,αlは液体の温度伝導率,rcはキャビティ径,ν'ν''はそれぞれ気液の比体積,σは表面張力,hlvは蒸発潜熱,Tsatは飽和温度である。式(10)と本論文での流動形態は異なるものの,αl=5.16×10-7 m2/s,ν'=0.00104 m3/kg,ν''=1.673 m3/kg,hlv=2257 kJ/kg,σ=0.05878 N/m,Tsat=100 °Cの大気圧の水で,キャビティ径がrc=2 µmと仮定して,固体面温度の違いによる時間差を推算した。その結果,初期温度Ts=350 °Cではtw=3.69 µs,初期温度Ts=550 °Cではtw=2.27 µsとなり,高温ほど短時間で蒸気泡が発生することが分かる。ゆえに,高温ほど蒸気膜が形成されるまでの時間が短くなり,見かけの接触面積Sの低下に伴う摩擦抵抗Dfが低下することで,反発角度αが低下したと考えられる。

流動観察の結果から,本実験によって水噴流衝突部で移動速度Vsや初期温度Tsによって,固液の接触状況が変化しており,それが熱伝達特性にも影響することが示唆される。その影響を定量的に評価した結果を4・2で述べる。

4・2 高温移動固体へ傾斜衝突する水噴流の熱伝達特性

Fig.10は,移動速度Vs=0.5 m/sで移動する高温固体へ水温Tl=10.2 °Cの水噴流を衝突角度40°で衝突させた際における表面温度分布の測定結果である。温度降下量を把握するため,温度表示幅は100 °Cで統一した。なお,移動速度Vs=0.75 m/s,1.0 m/sでも同様の温度分布が測定された。ここで,熱画像下部から上部に向かって形成されている低温部が水噴流である。Fig.8の流動観察同様に,衝突後の水噴流は移動方向に傾斜して離脱していることが分かる。水噴流の上流側で円錐形の分布となっているのは,噴流衝突部に焦点を設定しているためである。まず,Fig.10(a)~(f)の初期温度Tsを変化させた結果より,初期温度Tsが大きいほど,流動観察同様,反発角が小さくなった。また,噴流衝突点から移動方向(x方向)下流に形成される低温部に着目すると,初期温度Tsが大きいほど温度降下量が小さく,温度降下範囲が狭くなった。一方,Fig.10(d),(g),(h)の初期温度Ts=450 °Cで移動速度Vsを変化させた結果より,移動速度Vsが大きいほど,流動観察同様に反発角が小さくなり,温度降下量は小さく,温度降下範囲は狭くなった。このように,移動速度Vsや初期温度Tsによって,熱伝達特性が変化する結果が得られた。ここで,Ts=300 °C以下は熱画像右上の領域での温度が全体的に低い結果が得られた。これは,4・1で述べたように激しい沸騰が発生し,微細な水滴の影響で,放射エネルギーの減衰によると考えられる。したがって,Ts=300 °C以下における衝突点から下流の温度測定は蒸気の影響により正確な温度か不明なため,解析は行わなかった。

Fig. 10.

Surface temperature distribution at varying initial solid temperatures and moving velocities.

Fig.11に,提案する解析手法を適用した結果の一例とし,移動速度Vs=0.5 m/s,初期温度Ts=450 °C,水温Tl=10.2 °Cにおける結果を示す。この実験結果では,噴流衝突部の平均熱流束を8.0 MW/m2Dx=1.3 mm,Dy=0.93 mmとすることで,(a)噴流直下を通過する長手方向温度分布,(b)噴流衝突中心から1 mm下流位置の幅方向温度分布,(c)噴流衝突中心から4 mm下流位置の幅方向温度分布を良好に再現できていることが分かる。その他の実験条件でも解析を行ったところ,同様の結果が得られ,式(5)から得られる誤差温度の全条件の平均は約1.18 °Cで,その誤差の標準偏差は約0.25 °Cであった。

Fig. 11.

Comparison of experimental and numerical results (Vs = 0.5 m/s, Ts = 450 °C, Tl = 10.2 °C).

Fig.12に移動速度をVs=0.5 m/s~1.0 m/sの間で変化させた際の平均熱流束と噴流衝突部内の平均温度の関係を示す。水温はTl=10.2 °Cである。縦軸は,各実験結果を逆解析して得られた平均熱流束の平均値であり,エラーバーは標準偏差を表す。横軸は,各実験結果を解析して得られた噴流衝突部内の最大温度と最低温度の中間値を平均処理したものである。この値の標準偏差は最大約5 °Cと小さかったので,図示していない。図中には,本実験は移動体への水噴流衝突であり,固体面近傍の流れ構造が異なるが,得られた平均熱流束の大きさの妥当性を検討するため,Liu and Wangが提案した静止した固体への垂直衝突水噴流のよどみ点膜沸騰熱伝達の半理論式7)

  
Nu=qwdΔTsatλl2Rel1/2Prl1/6((λv/λl)(ΔTsub/ΔTsat))2(11)
Fig. 12.

Relationship between mean heat flux and surface temperature at varying moving velocities. (Online version in color.)

と,Webb and Maが提案した静止した固体への傾斜衝突水噴流の衝突点の単相流熱伝達の実験式8)

  
Nud,max=CRedmPrln(12)

を記した。ここで,qwはよどみ点における熱流束,dは噴流径,λvおよびλlは水の気相と液相の熱伝導率,∆Tsubは過冷度,∆Tsatは過熱度,Relは水噴流のレイノルズ数,Prlは水噴流のプラントル数である。なお,式(12)のC,m,nは,Webb and Maによる検討での傾斜角度の定義が固体面と噴流がなす角度となっているため,本研究での傾斜角度40°の場合,Webb and Maによる検討での50°に対応する。そこで,その論文中で提示されているC=0.333,m=0.605,n=1/3を用いた。また,式(11)を計算する際,Relの代表速度は,本論文では傾斜して衝突させているため,鋼材に垂直な方向の速度成分とした。Redの代表速度は,噴流出口の断面平均流速とした。どの移動速度においても,噴流衝突部内温度が400 °C以上ではほぼ一定の熱流束を示し,膜沸騰と思われる平均熱流束が得られた。大きさとしては,式(11)式(12)の中間の値が得られ,定量的に妥当な結果が得られた。次に,噴流衝突部内温度が400 °C以下では,単相熱伝達の熱流束に漸近するように熱流束が増加した。これは,膜沸騰から核沸騰へ移行する遷移沸騰状態と考えられる。このように,本解析手法によって,移動系においても水噴流衝突部で膜沸騰から遷移沸騰へ移行する現象を捉えることができ,移動系の噴流衝突部の熱伝達特性を評価できる可能性を示すことができた。今後は,この手法を用いて,より詳細に移動体へ衝突する水噴流の熱伝達特性を評価していく予定である。

5. 結言

移動高温固体へ衝突する水噴流の衝突領域の熱伝達特性をより詳細に把握することを目的に,新たな熱伝達特性評価手法を考案した。その手法を移動高温固体の幅方向に傾斜衝突する水噴流の冷却実験に適用し,移動系の熱伝達特性の評価手法として有用か検討した。その結果,以下の知見が得られた。

移動する高温固体に幅方向に水噴流を傾斜衝突させると,衝突後に水噴流は移動方向に傾斜して反発し,離脱した。その反発した水噴流の移動方向の傾きである反発角αを測定した結果,移動速度の増加によって,反発角度は増加した。これは,移動固体と水噴流間の粘性摩擦抵抗によると考えられ,固液接触状況がそれほど変わらないと想定される初期温度が高い条件の反発角度の測定結果から移動速度の2乗に比例し,一般的な粘性摩擦抵抗と同様であることが分かった。次に,初期温度の増加に伴って,反発角αは低下した。これは,鋼材表面の初期温度と水噴流の初期温度の差が大きいほど,蒸気泡発生までの時間が短くなり,早期に蒸気膜が形成し,見かけの接触面積が低下するためと推定した。

本実験に提案する熱伝達評価手法を適用した結果,水噴流衝突後の復熱過程の温度分布を良好に再現することができ,噴流衝突部内の平均熱流束を得られることを確認した。そして,その熱伝達評価手法を用いて得られた噴流衝突部内の平均熱流束と表面温度の関係を整理した結果,噴流衝突部内温度が400 °C以上では,どの移動速度でもほぼ一定の熱流束を示し,膜沸騰と思われる結果が得られた。その大きさは,静止固体でのよどみ点での膜沸騰での熱流束と単相熱伝達の熱流束の中間値となり,定量的にも妥当な結果が得られた。次に,噴流衝突部内温度が400 °C以下では,単相熱伝達の熱流束に漸近するように増加し,膜沸騰から核沸騰へ遷移する現象を捉えることもできた。以上のように,移動する高温固体へ衝突する水噴流の噴流衝突部の熱伝達特性を調査する評価手法として,本論文で提案した手法の有用性を確認することができた。

文献
 
© 2022 The Iron and Steel Institute of Japan

This is an open access article under the terms of the Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivs license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top