2022 Volume 108 Issue 11 Pages 803-810
Steelmaking slags are reused for civil engineering and roadbed materials. When the slag containing Cr oxide is reused, there is a slight case of toxic Cr6+ elution from the mineral phase containing CrO3 into the environment. Therefore, in order to effectively utilize slag as resources, the development of a technology to suppress Cr elution is urgently required. Regarding the formation of Cr6+ at high temperature and the elution of Cr6+ and Cr3+, many researches have been carried out as functions of the synthesis conditions of mineral phases and slags and elution conditions. Furthermore, the Cr6+ dissolution from actual slags has been reported. In this paper, the studies on the synthesized Cr-containing mineral phase and slags are reviewed, and the research issues of the technology to suppress Cr6+ elution from slag are discussed.
日本国内においてクロム(Cr)はその大部分が特殊鋼原料として消費されている1)。Crは鉄鋼に耐食性や高温強度向上等の優れた特性を付与する2)ことから,ステンレス鋼をはじめとして工具鋼,高速度鋼,耐熱鋼などに添加されている2,3)。鉄鋼材料へのCrの添加は,溶融還元炉へのCr鉱石の装入4)や,転炉や電気炉へのFe-Cr合金の投入5)などの方法により行われる。一方,溶鋼中へのCrの溶解と同時に酸化物相であるスラグ相にもCr酸化物が分配される6)ため,実機スラグにはCr酸化物が存在している。
環境中でのCr酸化物のCr価数は二価から六価であると報告されている7)が,製鋼スラグ中でも複数の価数のCrが酸化物として混在する8,9)。スラグ中のCr酸化物が易溶性を示すCrO310)として存在すると,そのスラグが地下水や雨水と接した場合にCr6+が水に溶出することが懸念される。Cr3+は生体必須微量元素である11,12)のに対して,Cr6+は曝露や摂取により皮膚炎や鼻中隔穿孔,肺がんといった健康被害をもたらし11,13),さらには植物の生育を阻害する11,14)。そのため,日本国内においては環境省告示第46号の溶出試験における溶出液中のCr6+濃度が0.05 mg/L以下であることが,土壌環境基準として定められている15)。一方,「公共用水域の水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境基準」と「地下水の水質汚濁に係る環境基準」においてはCr6+濃度の基準値は0.05 mg/Lであったが,2022年4月1日から0.02 mg/Lに改正されている16)。
製鋼スラグは全体として年間約1300万トンと大量に発生しており17),強度や硬度が高く,耐摩耗性に優れていることから,路盤材やコンクリート骨材に多く利用されている17,18)。また,せん断抵抗角が大きく粒子密度と単位体積重量が大きいことから,土工用材・地盤改良材としても利用されている17,18)。しかし,製鋼スラグの中で年間270万トン排出される含Cr製鋼スラグ18)からはCr6+が溶出する懸念があるために,その再利用が制限され,管理型埋め立て処理が行われている。近年,管理型埋め立て処理スペースの逼迫が問題となっており,その処理費用も高騰してきている19)。この含Cr製鋼スラグからのCr溶出を抑制することができれば,スラグを土木材料としてさらに有効利用でき,スラグの埋め立て処理コストを低減できる。すなわち,Cr溶出抑制技術の開発は循環型社会の構築に貢献できるだけでなく,鉄鋼業の採算性の面からも急務である。
従来,スラグからのCr溶出とその抑制に関する研究は国内外で行われており,様々な知見が得られている。本報では,それらの中から,合成した含Cr鉱物相および合成スラグに関する研究についてまとめ,スラグからのCr溶出を抑制する技術の開発に向けた研究課題について論じる。なお,実機スラグからのCr溶出に関する研究は別報にまとめる。
Suzukiら20)は熱力学データベース21)を用いた計算により,純粋な各Cr酸化物の安定領域の温度および酸素分圧依存性を求めている。彼らの図をFig.1に示す。この図によれば,製鋼温度ではCr2O3(Cr3+)が,スラグ冷却過程ではCr2O3(Cr3+)およびCrO2(Cr4+)が安定であり,CrO3(Cr6+)は存在しないはずであるが,スラグの溶出試験では微量のCr6+がスラグから溶出することがある。現場で採取した電気炉スラグの断面を研磨して観察すると,Crを含む鉱物相は主にMgCr2O4(Spinel相)や(Mg,Fe,Ca,Mn)Cr2O4である22,23)。MgO-Cr2O3-CrO3系状態図24)ではMgCr2O4がMgCrO4と平衡している。Nisinoら25)は大気下での昇温に伴うMgCrO4・7H2O試薬の重量変化を熱天秤で測定し,式(1)を導出した。
| (1) |

Stability diagram of chromium oxides based on that shown by Suzuki et al19).
Nath and Douglas26)は高温融体におけるCr3+/Cr6+間の平衡を式(2)で表したが,Lee and Nassaralla27)はMagnesite chromite耐火物の塩基度(CaO/SiO2質量比)が高いほどCr6+溶出量が多い(耐火物中のCr6+含有量が高い)ことから,式(3)を示している。
| (2) |
| (3) |
Mullerら28)はMgO-Cr2O3-O2系相安定図を実験的に求め,MgCrOxについてはFig.2(a),MgCr2OxについてはFig.2(b)を報告しているが,いずれも低温域でMgCrO4が存在している。Hatakedaら29)によれば,Crを含む製鋼スラグからのCr6+の溶出量は,スラグを還元雰囲気で800°Cに加熱した場合に比べ,大気中で800°Cに加熱した場合の方が高くなり,さらに1000°Cでの加熱より800°Cの方が増加している。Lee and Nassaralla27)はCaO-Cr2O3系状態図における相安定領域から9CaO・4CrO3・Cr2O3,3CaO・2CrO3・2Cr2O3,CaO・CrO3がそれぞれ1228-800°C,1022-900°C,900°C未満で安定に存在すると述べている。彼らはMagnesite chromite耐火物を大気中で500-1500°Cに8-120 h加熱し,700°Cの加熱でCr6+溶出量が最大になることを示した。Mizuharaら30,31)による研究では,Cr2O3とCaOを等モル比で混合し,室温から500-1500°Cまで10°C/minで昇温して2h保持後水中急冷した試料についてX線回折法を用いて分析を行ったところ,900°Cまで昇温して保持した場合にCaCrO4回折ピーク強度が最も高くなっている。また,Cr2O3,CaOおよびAl2O3を等モル比で混合し同様の熱処理を行った場合も,900°Cまで昇温して保持した場合にCa4Al6CrO16回折ピーク強度が最も高くなっている。

Equilibrium phase assemblages for the bulk compositions: (a) MgCrOx and (b) MgCr2Ox27).
以上の報告から,スラグ中でのCr3+からCr6+への変化は,鋼の精錬中よりもスラグヤードにおける冷却過程で進行すると考えられる。
Crを含む鉱物相からの元素溶出に関する研究を紹介する前に,Crを含まない鉱物相からのそれ32–36)についてTable 1にまとめる。Engströmら32,33)は,pH=4,7,10においてCrを含まない純粋なCa12Al14O33,Ca3MgSi2O8,Ca2MgSi2O7,Ca2Al2SiO7,γ-Ca2SiO4,Ca3Al2O6の溶出試験を行った。彼らは溶出試験の際のpH調整にかかる硝酸の消費量を各鉱物相間で比較することで各鉱物相の溶出特性を整理し,いずれの鉱物相においてもpHが低いほど溶出速度が大きくなることを示した。これと同様の溶出試験と評価方法を用いて,Strandkvistら34,35)はCrを含まない純粋なCaSiO3,CaMgSiO4,β-Ca2SiO4の各単独鉱物相の溶出について報告している。上述のEngströmらの結果と併せて,彼らはH+による鉱物相の溶解反応をまず検討し,実際の溶出実験において消費した酸のH+のモル量と溶解反応式を比較することで鉱物相の溶出率を計算して,Fig.3を導いている。pH=4では溶出速度に差があるものの各鉱物相はほぼ完全に溶解し,pH=10ではDicalcium silicate相のみが完全に溶解している。pH=7の場合は,各鉱物相のSi含有率やMg含有率が高いほど溶出速度が小さくなり,Ca含有率が高い鉱物相ほど溶出速度が大きくなっている。さらに,Strandkvistら35,36)は,FeO/MgO濃度比を変化させたFeO-MgO固溶体(Magnesiowüstite)についてpH=7,10の一定pH下における溶出挙動を調べ,FeO含有率が高いほど固溶体の溶出が抑制されることを示した。
| Mineralogical phase | Synthesis | Leaching condition | Ref. | ||
| Heating | Cooling | Sample size | 1: Solution 2: Liquid/solid 3: Mixing 4: pH control | ||
| With Cr | |||||
| Cr2O3, Cr ore | — | — | < 54 μm | 1: Seawater 2: 500 mL/0.1 g 3: Shaking (80 r.p.m), 30 d 4: pH 8 with HCl | 37 |
| MgCr2O4 MgCr2O4−1 mass%Ca2SiO4 Ca2SiO4−1 mass%MgCr2O4 | 1400ºC, Ar, 48 h | — | |||
| FeCr2O4 | 1300ºC, Ar, 6 h | — | |||
| Steel slag | 1550ºC, Ar, 0.5 h | Slow cooling (1ºC/min) or He blowing | |||
| Cr6+-doped Ca3Al2O6 Cr6+-doped Ca3SiO5 | 1500ºC, air, 6 d | He blowing | < 0.1 mm | 1: 1000 ppm Cr6+ soln. 2: 100 mL/1 g 3: Shaking (200 r.p.m.), 24 h 4: With NaOH or HNO3 | 39 |
| MgCr2O4 | 1600ºC, air, 2 h | He blowing | < 105 μm | 1: Distilled water 2: 500 mL/5 g 3: Shaking (200 r.p.m.), 48 h 4: No control or pH 12 | 23 |
| 1400ºC, air | Slow cooling (2ºC/min) | ||||
| CaCr2O4 | 1600ºC, air, 2 h | He blowing | |||
| Magnesiowüstite‒4 mass%Cr2O3 with various FeO/MnO ratio | 1600 or 1500ºC N2, 1 h | Furnace cooling | 0‒4 mm | 1: NaOH soln.(pH 10) 2: 10 3: Rotating (10 r.p.m.), 24 h 4: No control | 35 36 |
| CaCrO4 | 900ºC, air, 2 h | He blowing | < 2 mm | 1: Deionized water 2: 10 mL/1 g × 6 times 3: Shaking (200 r.p.m.), 6 h 4: No control | 30 31 |
| Ca4Al6CrO16 | 1300ºC, air, 2 h | Water quenching | |||
| Without Cr | |||||
| Ca12Al14O33 | 1400ºC, air, 24 h | Slow cooling | 20‒38 µm | 1: Deionized water 2: 100 mL/0.05 g 3: Stirring, 40 h 4: pH 4, 7, 10 with HNO3 | 32 33 |
| Ca3MgSi2O8 | 1500ºC, air, 48 h | ||||
| Ca2MgSi2O7 | 1400ºC, air, 24 h | ||||
| Ca2Al2SiO7 | 1410ºC, air, 72 h | ||||
| γ-Ca2SiO4 | 1400ºC, air, 48 h | ||||
| Ca3Al2O6 | 1250ºC, air, 48 h | Fast cooling | |||
| CaSiO3 | 1300ºC, air, 48 h | Slow cooling | 20‒38 µm | 1: Deionized water 3: Stirring, 40 h 4: pH 4, 7, 10 with HNO3 | 34 35 |
| CaMgSiO4 | 1300ºC, air, 50 h | ||||
| β-Ca2SiO4 | 1400ºC, air, 24 h | ||||
| Magnesiowüstite with various FeO/MgO ratio | 1600 or 1500ºC N2, 1 h | Furnace cooling | 20‒38 µm | 1: Deionized water 3: Stirring (320 r.p.m.), 40 h 4: pH 7, 10 with HNO3 or NaOH | 35 36 |
含Cr製鋼スラグを構成する各鉱物相からのCr溶出についての研究報告例23,30,31,35–37,39)もTable 1にまとめる。Strandkvistら35,36)はMagnesiowüstiteにCr2O3を4 mass%固溶させた試料についてpHを制御しない溶出試験を行い,固溶体中のFeO含有率が70 mass%以上であれば全Crの溶出量を0.005 mg/kg(溶出重量/試料重量)以下に抑制できると報告している。Samadaら37)はpH=8に制御した人工海水中でCr2O3,MgO・Cr2O3,MgO・Cr2O3-1 mass% 2CaO・SiO2,2CaO・SiO2-1 mass% MgO∙Cr2O3,FeO・Cr2O3,Cr鉱石の溶出試験を行い,これら単独鉱物相のCr溶出挙動を調べた。彼らの溶出試験中の全CrおよびCr6+濃度の経時変化をFig.4に示すが,Crの溶出しやすさは2CaO・SiO2-1 mass%MgO・Cr2O3≫MgO・Cr2O3-1 mass%2CaO・SiO2≫MgO・Cr2O3>FeO・Cr2O3, Cr2O3, Cr鉱石となっている。純粋なMgO・Cr2O3と比較して,2CaO・SiO2を固溶したMgO・Cr2O3からCrが溶出しやすい理由は準安定な2CaO・SiO2の易溶性38)にあると考えているが,安定な2CaO・SiO2の水和反応性からは論じられていない。He and Suito39)は予めCr6+溶液中でCr6+を含有させた3CaO・SiO2からのCr6+溶出のpH依存性を調べ,溶液中Cr6+濃度がpH=12では2 mg/Lとなる一方で,pH=6では19 mg/Lになることを示している。これはCr6+を取り込んだ二次生成物であるCaO-SiO2-H2Oゲルの安定性がアルカリ性溶液中で高いことに対応すると述べている。Inoueら23)はCaO・Cr2O3,MgO・Cr2O3の溶出試験を行い,MgO・Cr2O3と比較してCaO・Cr2O3からCr3+およびCr6+が溶出しやすい理由はMgOとCaOの水和反応性の違いにあると推測している。さらに,MgO∙Cr2O3からのCr6+溶出におよぼすpHの影響はほとんどないと述べている。Mizuharaら30,31)によれば,CaCrO4からのCr6+溶出量はCa4Al6CrO16からより著しく大きい。

Dissolution behavior of total Cr and Cr6+ from Cr-containing mineral phases into artificial seawater36).
製鋼スラグ中に含まれる各鉱物相単独の溶出挙動に関するこれらの研究では特にCaを固溶しないSpinel相が溶解しにくいことが示されていることから,このSpinel相をスラグ中で生成・成長させることが重要であると言える。
上記の研究は,第三成分を固溶させた鉱物相からのCrの溶出挙動を中性~アルカリ性水溶液を用いて調べているものと,第三成分を固溶させていない鉱物相の酸性水溶液での溶出挙動を調べているものに大別される。実機スラグ中の含Cr鉱物相は第三成分を固溶する場合がほとんどであり,我が国における雨水曝露環境は弱酸性領域にあることから,含Cr製鋼スラグを土木用資材として活用するためには,第三成分が固溶した単独鉱物相からのCrの溶出挙動を弱酸性領域で調べることが望まれる。
実機スラグを模擬した成分系の合成スラグについて,Crの溶出挙動を調べた結果40–47)をTable 2にまとめる。Eguchi and Uchida40)は600-1300°Cの温度範囲においてCO2,N2-1.8%O2,大気のそれぞれの雰囲気のもとで合成したCaO-SiO2-FeOx-Cr2O3系スラグについて溶出試験を行い,同じスラグ組成では低温であるほど,一定温度下ではCaO比率および酸素分圧が高いほどCr6+が溶出しやすいという知見を得ている。Shinodaら41)は51 mass%CaO-34 mass%SiO2-5 mass%MgO-5 mass%Al2O3-5 mass%Cr2O3の組成に試薬を混合したものに1 mass%のCaF2を加えて大気下1800 K(1527°C)で溶融した後に,種々の条件で再加熱処理を行い,Cr6+の生成と溶出挙動におよぼす再加熱処理時の温度および酸素分圧の影響を調べた。彼らの結果によれば,大気下800°Cで再加熱処理を行うと少量のCaCrO4相が直ちに生成し,Fig.5(a)のように全CrおよびCr6+が再加熱時間に関係なくほぼ一定量溶出するが,再加熱処理が900°C以上では高温になるほどこれらの溶出は減少している。この理由として彼らは,試料のX線吸収端近傍スペクトルの再加熱温度による変化を基に,高温ほどCr6+が還元されるためと述べている。一方,Ar-10%H2雰囲気中で再加熱した場合をFig.5(b)に示す。Cr6+濃度が全Cr濃度より高いという奇異な実験点はあるものの,Fig.5(a)と比べて全CrおよびCr6+の溶出が著しく抑えられている。García-Ramosら42)とCabrera-Realら43)は酸性溶液中におけるCaO-SiO2-MgO-FeO-Al2O3-Cr2O3-CaF2系合成スラグからのCr溶出におよぼす塩基度,Al2O3濃度,MgO濃度,Cr2O3濃度の影響を調べた。彼らの結果をFig.6に示すが,塩基度が高いスラグではCr6+を含む鉱物相が生成し,全Cr溶出量が高くなっている。また,スラグにAl2O3やMgOが存在すると,CaCr2O4やCaCrO4などと比較して溶出に対する耐性が高いGehlenite相(Ca2Al2SiO7)やSpinel相が生成するために全Crの溶出が抑えられることを示している。Liaoら44)はCr2O3濃度を変化させたCaMgSi2O6-CaAl2Si2O8擬二元系共晶組成スラグを合成し,CrがGlass相(高温における液相)とSpinel相に分配されることによって,酸性溶液への全Crの溶出が抑えられると述べている。Zhaoら45)はMoるつぼを用いてCaO-SiO2-MgO-FeO-Al2O3-Cr2O3-CaF2系スラグをAr雰囲気下,1600°Cで30 min保持して溶融した後に,るつぼごと水中急冷した。また,1600°Cから1500,1400および1300°Cまで5°C/minで徐冷してから水中急冷した。得られたスラグからの全Cr溶出量におよぼす急冷温度の影響を調べた結果,スラグの急冷温度が低いほど全Cr溶出が抑制されることを見出している。彼らは熱力学計算ソフトFactSage7.0を用いて各鉱物相の存在量を推定した結果,スラグの急冷温度が低いほど水に溶解しにくいSpinel相の存在量が増加し,水に溶解しやすいGlass相(高温における液相)の量が低下するために,結果的にCr溶出量が減少すると説明している。特に1300°Cにおいて急冷したスラグの場合は,スラグ中Crの99.9%以上がSpinel相に含まれ,全Cr溶出量も検出下限値の0.01 mg/Lであった。溶出試験後のスラグの表面観察から,2CaO∙SiO2,Ca3MgSi2O8,Glass相は酸性溶液中で溶出しやすいことを確認している。また,Zhaoら46)は同じ成分系のスラグをAr雰囲気下,1600°Cで30 min保持した後に急冷したスラグ,あるいは1300°Cまで3°C/minで徐冷してから1300°Cで0 min保持した後に急冷したスラグの溶出試験を,酸性溶液を用いて行った。その結果,塩基度を1.0から1.5に変化させると溶出に対する耐性が高いSpinel相へのCr分配が大きくなるため,全Crの溶出が抑制されたが,塩基度を1.5から2.0にすると,Crを含有した易溶性の鉱物相であるPericlase相(MgO)が生成し,全Cr溶出濃度が高くなったことから,Cr溶出抑制のための最適塩基度は1.5であるとしている。さらに,Fig.7に示すように,塊状CaOが存在する場合には,CaOの周囲に易溶性であるCaCr2O4が生成することを見出している。Zengら47)は,N2雰囲気中1550°CでFeO濃度を変化させたCaO-SiO2-MgO-Al2O3-Cr2O3-FeO系スラグを溶融した後に大気下で放冷した試料を用いて,酸性溶液中でのCr6+の溶出におよぼすFeO濃度の影響を調べている。Cr6+の溶出濃度はスラグ中FeO濃度が高くなるほど低減し,0 mass%FeOのスラグからは0.143 mg/LのCr6+が溶出するが,20 mass%FeOのスラグからのCr6+溶出量は0.0021 mg/Lまで減少することを示している。この理由は,冷却中に結晶化しなかったAmorphous中のCr含有率がスラグ中FeO濃度の上昇に伴って減少するためであると述べている。さらに20 mass%FeOのスラグ断面を観察し,彼らの合成条件で得られたスラグ中のSpinel相はFig.8のような多層構造となっており,Spinel相の外縁部ほどFe濃度が高くてCr濃度が低い層になっていることを明らかにした。
| Slag system | Slag synthesis | Leaching condition | Ref. | ||
| Heating | Cooling | Sample size | 1: Solution 2: Liquid/solid 3: Mixing | ||
| CaO-SiO2-FeOx-Cr2O3 | 600~1300ºC CO2, N2-1.8%O2 or air, 2 h | Water quench | 0.5‒5mm ≤ 88µm | 1: Deionized water 2: 10 wt% solid 3: Stirring, 6 h | 40 |
| CaO-SiO2-Cr2O3- MgO-Al2O3-CaF2 | 1527ºC, air | Annealing (1073-1273K, air or Ar-10%H2, 1‒24 h) | 150-350 µm | — | 41 |
| Melting pt.+50ºC, 0.5 h | Furnace cooling | < 75 µm | 1: Acetic acid soln.(pH 2.88) 2: 500 mL/25 g 3: Rotating (30 r.p.m.), 20 h | 42 | |
| CaO-SiO2-Cr2O3-MgO-CaF2 | 1600, 1650ºC | Furnace cooling (8ºC/min) | 43 | ||
| CaO-SiO2-Cr2O3-MgO-Al2O3 | 1450ºC, air 3 h | Cooling in air | — | 1: Acetic acid soln.(pH 2.88) 2: 5 mL/0.25g 3: Rotating (30 r.p.m.), 25 d [TCLP by U.S.] | 44 |
| CaO-SiO2-FeO-Cr2O3-MgO-Al2O3 | 1600ºC, Ar 30 min | 5ºC/min →water quench. | < 74 µm | 1: H2SO4 or HNO3 soln.(pH 3.2) 2: 100 mL/10g 3: Rotating (30 r.p.m.), 18 h [HJ/T 299-2007 by China] | 45 |
| ·Water quench ·3ºC/min to 1300ºC →keep for 30 min →water quench. | 46 | ||||
| CaO-SiO2-FeO-Cr2O3- MgO-Al2O3-CaF2 | 1550ºC, N2 30 min | Slow cooling in air | — | 1: H2SO4 or HNO3 soln.(pH 3.2) 2: 100 mL/10g 3: Rotating (30 r.p.m.), 20 h | 47 |

Variation of total chromium and Cr(VI) concentrations dissolved from slag annealed under (a) air and (b) Ar-10% H2 with annealing time39).


Schematic diagram of microstructure of interface zone between CaO lump and slag created based on the report by Zhao et al44).

Schematic diagram of spinel structure created based on the report by Zeng et al45).
以上の合成スラグからのCr溶出に関する研究から,Cr溶出を抑制できるスラグにするためには,次に挙げるパラメータの制御が重要であると考えられる。
(1)800°C以上での高温保持の際の酸素分圧を低減する
(2)急冷開始温度を1000°C以上にする
(3)スラグの塩基度は1.5が望ましい
(4)スラグ中のFeO濃度,MgO濃度,Al2O3濃度を高くする
これら(1)~(4)の中のどの因子がCr6+生成抑制およびCr6+溶出量低下に大きく作用するのかを調べることは今後の研究課題である。