Tetsu-to-Hagane
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Special Issue on Friction Welding Technologies for Steel
Effect of Underwater Operation and Surface Rust Layer on Friction Stir Weldability of Carbon Steel
Yutaka S. Sato Tomoko MiyamoriShun TokitaHiroyuki Kokawa
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2022 Volume 108 Issue 12 Pages 902-910

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Abstract

To secure the safety during decommissioning of Fukushima nuclear power plant, temporary repair of rusted steel structures with cracks, possibly located in water, is needed. Friction stir welding (FSW) could be used to repair these structures in water without the elimination process of rust layers, but availability of underwater FSW to rusted steels has hardly been examined. To clarify effect of underwater operation and rust layer on weldability of 0.45%C steel, rusted steel was welded by conventional and underwater FSW at the various rotational speeds, and then the thermal histories, FSW machine outputs, and microstructure and mechanical properties of the stir zone were examined. Underwater FSW could produce the sound welds with no welding defects on 0.45%C steel, but the range of the rotational speed for the sound welds was slightly narrow during underwater FSW. Underwater FSW exhibited the lower maximum temperature and the much higher cooling rate than conventional FSW, resulting in the higher hardness and tensile strength of the stir zone through formation of the microstructure including bainite. Moreover, the rusted steel could be successfully welded by conventional and underwater FSW. The rust layer, about 50 μm in thickness, hardly affected the weldability, and microstructure and hardness distributions of the weld. However, the fragmented rust was trapped and left near the top surface of the stir zone at the higher rotational speed, resulting in a decrease in strength of the stir zone.

1. 緒言

福島第一原子力発電所の廃止措置では,燃料棒や燃料デブリの取り出し,原子炉や建屋の解体などさまざまな作業が必要であり,これらを30~40年かけて行う計画が示されている。廃炉作業は長期に及ぶため,地震や水素爆発によって損傷した発電所内の構造物の安全性確保が不可欠となる。発電所内には,主に炭素鋼や低合金鋼で製造された建屋や,圧力容器や配管などのステンレス鋼溶接構造物が存在し,燃料の冷却や放射線の遮へいのため,水中に設置されている場合がある。これら建屋・構造物には割れや錆などが発生している可能性があるため,安全に廃炉作業を進めるには,これらを一時的に補修する必要がある。

鋼構造物の補修技術の一つに溶接・接合技術が挙げられ,主にアーク溶接が広く用いられている。一般的には,補修部の錆や不完全部を除去した後,アーク溶接による補修が行われる。アーク溶接による補修は,水中環境でも行われており,補修部周りをガスや大気で覆った状態で実施される乾式水中溶接法と補修対象箇所が水中に露出された状態で行われる湿式水中溶接法がある1)。発電所内では強い放射線が発生しているため,廃止措置における構造物の補修においては,水や錆を除去することなく,遠隔でも作業可能な技術の確立が求められる。

本研究では,割れや錆などを有する鋼構造物の水中補修技術としての摩擦攪拌接合(FSW)の適用可能性を検討した。FSWは,非消耗接合ツールを用いた固相接合技術であり,近年,鋼などの比較的融点が高い材料への適用研究が進められている。例えば,ステンレス鋼や炭素鋼,高張力鋼などのFSWが可能であり,接合条件と接合ツールを適切に選定することで,接合欠陥のない継手が得られることが示されている29)

さらにFSWは水中施工が可能である10)。FSWの水中施工(以後,水中FSWと呼び,図中ではUnderwater FSWを略してUFSWと表記する)に関しては,アルミニウム合金への適用研究が多く,熱影響を低減させることで,継手の機械的特性の向上が達成されている11,12)。鉄鋼は海上設備や海底パイプラインなどの海洋構造物に広く利用されていることから,鋼の水中FSWに関する研究も報告されている。Baillieら13)は,板厚6 mmのS275鋼に対して,大気および水中にてFSWを実施し,攪拌部の機械的特性を調べた。鋼の水中FSWにおいても,接合欠陥のない継手が作製可能であり,水中施工による攪拌部の引張強さ,硬さ,疲労寿命の低下はほとんどないことが報告されている。その一方で攪拌部のシャルピー衝撃吸収エネルギーは水中施工により低下することが示されているが,これら機械的特性とミクロ組織に及ぼす水中施工の影響は明らかにされていない。

加えて,FSWは欠陥補修技術として有用である。ひけ巣やブローホールなどの鋳造欠陥を有する鋳造合金に対してFSWを行うことで,鋳造欠陥を除去することが可能であり,鋳物の疲労強度の向上法の1つとして摩擦攪拌処理が用いられることがある14,15)。さらにステンレス鋼の応力腐食割れに対して摩擦攪拌処理を適用し,割れを効果的に封止できることが報告されている16,17)

このように,FSWは鋼の水中施工による欠陥補修を,遠隔操作で行える可能性を有している。また,固相接合技術であるため,錆の混入に伴うブローホール等の溶接欠陥の発生は生じにくいと考えられることから,表面錆を除去せずに適用できる可能性がある。すなわち,FSWは発電所の建屋・構造物の安全性確保のための新たな補修技術として高い可能性を有しているが,鋼の水中施工性,ミクロ組織や機械的特性に及ぼす水中施工と表面錆の影響に関する知見は少ない。そこで本研究では,表面錆を有する炭素鋼に対して,大気中でのアルゴンによるシールドガスを用いたFSW(以後,通常FSWと呼び,図中ではFSWと表記する)と水中FSWを適用し,得られた継手のミクロ組織や機械的特性を調べ,炭素鋼のFSWによる接合性に及ぼす水中施工および表面錆の影響を調べることを目的とした。

2. 実験方法

2・1 供試材

本研究では,厚さ5.5 mmの中炭素鋼(S45C)を用いた。原子力発電所の鋼構造物へS45Cが用いられることは少ないが,低炭素鋼や構造用鋼に比べ焼入れ硬化性が高く,水中施工に伴うミクロ組織や機械的特性に及ぼす冷却速度の影響が分かりやすいこと,鋼の耐食性は炭素量の増加とともに低下するため,表面錆の形成が容易であること18)などの理由でS45Cを供試材として選択した。

表面錆の影響は,厚さ50 μm程度の表面錆を有するS45C板を用いて調べた。表面錆は,供試材を塩化ナトリウム水溶液に24時間浸漬した後,大気に3か月間放置することで形成させた。表面錆の組成は走査型電子顕微鏡(SEM)に取り付けられたエネルギー分散型X線分光器(EDS)により調べ,錆の構成相はX線回折法(XRD)により同定した。

2・2 FSW試験

FSW試験には日東制機製自動FSW装置を用いた。水中FSWは,鋼裏当て板とアクリル板にて製作した治具(Fig.1)を用いて実施した。250×110×5.5 mmのサイズに切断したS45C供試材を治具にボルトで固定し,治具ごとFSW装置に設置してFSWを行った。表面錆を有する供試材の場合には,表面錆が剥がれないように注意しながら,治具に固定した。水中FSWでは,治具内に水深が約40 mmとなるように水を入れ,ホースで水を供給しつつ,ポンプで排出することで,水槽内の水温を一定にするように試みた。

Fig. 1.

Schematic illustration of jig for underwater FSW.

FSWには,米国メガスター社により製造されたcBN/W-Re合金複合材料製の接合ツールを用いた。接合ツールの形状をFig.2に示す。接合ツールは,CS4(Concave Scrolled Shoulder Step Spiral)プローブ形状を有しており,プローブ長は3.99 mmであった。FSW時のツール回転速度を150,200,250,300 rpmと変化させた。接合速度は60 mm/min,ツール挿入深さは4.0 mm,ツール傾斜角は0°で一定とした。通常FSWでは,アルゴンによるシールドガスを用いて表面酸化を防止したが,水中FSWではシールドガスを利用しなかった。

Fig. 2.

Appearance and dimension of welding tool used.

FSW施工中のツール回転軸方向の荷重(主軸方向荷重)とトルクを計測した。また,S45C供試材に溝加工を行い,R型熱電対を設置して,FSW中の攪拌部下部の熱履歴を測定した。

2・3 拡散性水素量の測定

攪拌部の拡散性水素の捕集および水素量の定量は,JIS Z 3118: 200719)に基づいて行った。供試材は80×25×5.5 mmのS45C供試材とした。873 K(600°C)で3.6 ks(1 h)の熱処理を行って水素除去した後,FSW後に直ちに供試材を取り外すことが可能な補助治具へセットし,ツール回転速度250 rpm,接合速度60 mm/min,接合長50 mmの条件下で通常および水中FSWを4回ずつ行った。それぞれのFSW後,直ちに補助治具から試験片を取り外して氷水へ入れた後,液体窒素に浸漬して拡散性水素の移動を凍結した。その後,水素捕集容器に入れて,318 K(45°C)で259.2 ks(72 h)保持することで拡散性水素を抽出し,ガスクロマトグラフ法を用いて拡散性水素量を測定した。攪拌部の重量当たりの水素量(mL/100 g)は,ガスクロマトグラフ法で定量化された水素量と攪拌部の重量から求めた。攪拌部の重量は,断面マクロ上の攪拌部面積と接合長から概算した攪拌部の体積および鋼の密度を用いて求めた。

2・4 組織解析と機械的特性試験

FSW後,接合方向に垂直な断面を切り出した後,エメリー紙による湿式研磨とダイヤモンドペーストを用いたバフ研磨を行うことで,鏡面に仕上げた。その後,3%ナイタールを用いてエッチングを行い,光学顕微鏡およびSEMを用いてミクロ組織を観察した。

室温での機械的特性は硬さ試験および引張試験により調べた。硬さ試験には,ビッカース硬さ計を用い,荷重9.8 N,保持時間10 sの条件で行った。接合方向に垂直な断面上で,攪拌部を横切る硬さ分布を測定した。引張試験片は,平行部が全て攪拌部から成るように,接合方向に対して垂直に切り出した。島津製作所製引張試験機を用いて,クロスヘッド速度0.2 mm/minで引張試験を行い,攪拌部の引張強さを調べた。各攪拌部において3つの引張試験片を作製し,得られた引張強さの平均値を求めた。

3. 実験結果

3・1 水中施工の影響

回転速度200 rpmの通常および水中FSW過程での攪拌部下部における熱履歴をFig.3に示す。測定点に接合ツールに近づくにつれて温度は上昇し,最高到達温度に達した後,急激に低下した。水中施工することで,最高到達温度は若干減少し,冷却速度は著しく増加した。Table 1に通常および水中FSW過程での最高到達温度と回転速度の関係を示す。回転速度とともに最高到達温度は増加しており,FSWにおける一般的な傾向と一致しているが,いずれの回転速度においても水中施工により最高到達温度は減少した。水中FSWにおける熱履歴に関するこれまでの研究でも,水中施工に伴う抜熱により最高到達温度は減少することが報告されており10,20),本研究結果はこれらの報告と一致した。

Fig. 3.

Thermal hysteresis during FSW and UFSW (underwater FSW) at 200 rpm.

Table 1. Maximum temperatures (K) during FSW and UFSW at different rotational speeds.
Rotational speed (rpm)200250300
FSW100010901100
UFSW96010101090

通常および水中FSW過程で計測された主軸方向荷重とトルクに及ぼす回転速度の影響をFig.4に示す。回転速度の増加とともに,主軸方向荷重,トルクはともに減少した。回転速度が同じ場合,通常FSWよりも水中FSWのほうが,主軸方向荷重,トルクともに増加することが示された。これは,水中施工により攪拌部の最高到達温度が低下し,攪拌部の変形抵抗が高かったためと推察される。

Fig. 4.

Effect of rotational speed on axial load and torque during FSW and UFSW.

通常および水中FSWで得られた継手の外観写真と断面マクロ写真をFig.5に示す。通常FSWでは,150 rpmから300 rpmのツール回転速度で接合可能であり,いずれの回転速度でも接合欠陥のない攪拌部が得られた。一方,水中FSWでは,150 rpmでツール折損が生じた。200 rpm以上では,ツールは折損することなく,接合可能だった。攪拌部表面の軽微な酸化が見られたが,綺麗で安定したリップル模様が観察でき,接合欠陥のない攪拌部を得ることができた。水中施工することで,接合可能条件範囲が狭くなったが,200 rpm以上の回転速度を用いれば,無欠陥継手が得られることが示された。

Fig. 5.

Appearances and cross sections of the welds produced by FSW and UFSW at the different rotational speeds.

通常および水中FSWで得られた継手の硬さ分布をFig.6に示す。いずれの継手においても,攪拌部において硬さは増加した。通常FSWでは,回転速度によらず攪拌部の硬さは300 HV程度であったが,水中FSWでは,攪拌部の硬さは350 HV以上となり,回転速度の増加とともに増加した。

Fig. 6.

Hardness profiles of the welds produced by FSW and UFSW.

攪拌部から引張試験片を切り出し,攪拌部の引張強さを調べた結果,全ての攪拌部において,母材よりも高い引張強さを示した。通常FSWと水中FSWで得られた攪拌部の引張強さを比較した結果,水中FSWのほうが高く,ツール回転速度の増大とともに増加することが示された。この傾向は攪拌部の硬さと定性的に一致していた。

母材と回転速度250 rpmで得られた攪拌部のSEM写真をFig.7に示す。母材はフェライト(F)とパーライト(P)から成る混合組織を呈していた。通常FSWで得られた攪拌部においては,微細なフェライト(F)とパーライト(P)から成る混合組織であったが,水中FSWで得られた攪拌部では,微細なフェライトとパーライトから成る領域に加え,硬化相から成る領域も観察された。通常FSWの場合,ミクロ組織に及ぼす回転速度の影響はほとんどなかったが,水中FSWでは,回転速度の増加とともに硬化相から成る領域の面積率が増加していた。

Fig. 7.

SEM images of the base material, and stir zones produced by FSW and UFSW at 250 rpm.

S45Cの連続冷却変態図(CCT図)21)によれば,1073 K(800°C)から773 K(500°C)へ冷却されるときの冷却速度が23 K/s以上でベイナイトが形成されることが示されている。本研究では,250 rpmでの通常FSWと水中FSWにおける1073 K(最高到達温度が1073 K以下の場合には最高到達温度)から773 Kの冷却速度は,それぞれ17 K/sと39 K/sであったことから,通常FSWではフェライトとパーライトから成る組織が生成し,水中FSWではフェライトとパーライトから成る組織に加え,硬化相としてベイナイト(B)も生成したものと考えられる。水中FSWでは攪拌部にベイナイトが生成するため,通常FSWよりも攪拌部の硬さは増加したものと考えられる。

回転速度250 rpmの通常および水中FSWで得られた攪拌部の拡散性水素量をTable 2に示す。通常FSWの攪拌部では,非常に低い拡散性水素量であったが,水中施工することで拡散性水素量は6倍以上に増加した。FSWで得られた攪拌部の拡散性水素量を調べた結果は少ないが,Hoyosら22)はX80M鋼の攪拌部において調べており,水中施工することで,拡散性水素量が増加したと報告している。その原因については詳しく調べられていないが,本研究結果と一致している。水中施工により拡散性水素量は増加するため,低温割れの危険性が増加する可能性があるが,MIL規格23)において許容される拡散性水素量は2.0~5.5 mL/100 gであることから,水中FSWによる拡散性水素量の増加量は非常に少なく,低温割れに対して無視できる範囲と判断できる。

Table 2. Average diffusible hydrogen contents of stir zones.
ProcessDiffusible hydrogen content (mL/100g)
FSW0.30
UFSW1.92

3・2 表面錆の影響

FSW前の表面錆の断面SEM写真とOおよびFe組成マップをFig.8(a)に示す。表面錆はち密ではない構造をしており,その厚さは約50 μmであった。EDSによる定性組成解析の結果,表面錆はOを多く含んでいることが示された。表面錆から得られたXRDスペクトルをFig.8(b)に示す。表面錆は主にオキシ水酸化鉄および酸化鉄により構成されており,これらは一般的な鋼の表面錆の構成相と一致していた24)。本研究では,厚さが130 μmの表面錆においても接合性などを調べたが,厚さ50 μmでの結果と同じであったため,結果の詳細は省略する。

Fig. 8.

(a) SEM image, and O and Fe qualitative maps of rust layer and (b) XRD spectrum obtained from rust formed on the carbon steel.

通常および水中FSW過程での熱履歴を測定した結果,最高到達温度および冷却速度に及ぼす表面錆の影響はほとんど見らなかった。通常および水中FSW過程での主軸方向荷重およびトルクに及ぼす回転速度および表面錆の影響をFig.9に示す。水中施工により主軸方向荷重およびトルクは増加する傾向を示したが,熱履歴と同様,主軸方向荷重およびトルクに及ぼす表面錆の影響はほとんど見られなかった。

Fig. 9.

Effect of rotational speed and rust layer on axial load and torque during FSW and UFSW.

通常および水中FSW過程において,表面錆の多くはツール回転により外部に排出される様子が見られた。通常および水中FSWで得られた継手の外観と断面マクロ写真をFig.10に示す。母材部は表面錆に覆われているが,FSW後には表面錆はなくなり,金属的な光沢を有する継手外観が得られた。水中施工においても同様であるが,回転速度が低いほど表面が酸化している様子が観察された。本研究で用いた接合条件の範囲では,通常および水中FSWのいずれでも,接合欠陥のない攪拌部が得られた。

Fig. 10.

Appearances and cross sections of the welds produced on rusted steel by FSW and UFSW.

回転速度250 rpmの通常および水中FSWで得られた継手の硬さ分布に及ぼす表面錆の影響をFig.11に示す。Fig.7と同様,いずれの継手においても,攪拌部で硬さは増加し,水中FSWのほうが通常FSWよりも攪拌部の硬さは増加したが,表面錆の有無による硬さ分布の差はほとんど見られなかった。攪拌部のミクロ組織を調べた結果,表面錆の有無にかかわらず,通常および水中FSWで得られた攪拌部のミクロ組織的特徴はFig.8に示したものと同じであった。しかし,表面錆がある場合には,攪拌部の上表面近傍に錆の混入が見られた。錆が混入した攪拌部上部(回転速度300 rpm)のSEM写真の一例をFig.12に示す。伸長した不規則形状を有する錆が攪拌部上部に多く混入した様子が観察された。回転速度が増加するほど錆の混入量が増加する傾向が見られたが,最も錆が混入した回転速度300 rpmにおいても,その面積分率は通常FSWで1.6%,水中FSWで1.9%であった。

Fig. 11.

Hardness profiles of the welds produced at 250 rpm.

Fig. 12.

SEM images of the stir zone produced at 300 rpm in the vicinity of the top surface. Dark gray phases were trapped rusts.

Mishraら25)は,Al合金表面にセラミックス粒子等を塗布した後,適切な条件下で摩擦攪拌処理を行うことで,表面上にAl合金とセラミックス粒子の複合層を得ることに成功している。この報告によれば,表面錆を有する鋼に対してFSWを行うと,多くの表面錆が巻き込まれる可能性が示唆されるが,本研究では表面錆は回転速度が高い場合に攪拌部表面に少量混入されるにとどまっており,多くの表面錆はFSW過程でショルダの回転により外部へ排出された。この差が生じた理由は不明であるが,接合ツール形状や接合条件の違いによるものと推察される。

錆の攪拌部への混入量はそれほど多くないが,回転速度とともに増加する傾向が示された。これは回転速度の増加とともに材料の上下移動が促進されるためと考えられる。Katayamaら26)は,本研究でも使用したCS4プローブ形状の接合ツールを用いて,クラッド鋼のFSWを行い,クラッド層と基材の混合状態を調べた。その結果,回転速度の増加とともに,材料の上下移動が顕著になり,クラッド層と基材の混合が促進されることを示した。この結果は,CS4プローブ形状の接合ツールの場合,回転速度の増加とともに材料の上下移動が顕著となるため,表面錆の攪拌部への混入量が増加することを示唆している。

母材と通常および水中FSWで得られた攪拌部の引張強さに及ぼす表面錆の影響をFig.13に示す。通常および水中FSWで得られた攪拌部は母材よりも高い引張強さを示した。水中FSWにおいては,回転速度の増大とともに攪拌部のベイナイト量が増加するため,引張強さが増加した。また,回転速度が200 rpmと250 rpmでは引張強さに及ぼす表面錆の影響はほぼなかったが,300 rpmでは引張強度は表面錆の存在により約15%低下することが示された。この理由は不明であるが,回転速度の増加とともに錆の混入量が増加するため,混入した錆が破壊の起点や進展に影響したものと推察される。

Fig. 13.

Effect of rust layer on tensile strengths of the base material, and the stir zones produced by FSW and UFSW.

4. 結言

本研究では,錆びた鋼構造物の水中補修技術としてのFSWの有用性を検証するため,中炭素鋼のFSWに及ぼす水中施工と表面錆の影響について調べた。得られた知見を以下に記す。

(1)水中施工では,健全な継手を得るための接合条件範囲は狭くなるものの,接合欠陥のない継手を得ることが可能である。

(2)水中施工により,攪拌部の最高到達温度は低下し,その結果として主軸方向荷重とトルクは増加する。また,冷却速度が増加するため,攪拌部にはベイナイトを含む組織が得られ,硬さは増加する。

(3)水中FSWでは,通常FSWよりも攪拌部の拡散性水素量は増加する。

(4)厚さ50 μmの表面錆がある場合でも接合性や熱履歴,主軸方向荷重,トルクに及ぼす表面錆の影響はほとんどなく,接合欠陥のない継手を得ることができる。

(5)回転速度の増加とともに,攪拌部への表面錆の混入量が増加するため,表面錆がない場合に比べて,引張強さは低下する。

謝辞

本研究の一部は文部科学省国家課題対応型研究開発推進事業廃止措置等基盤研究・人材育成プログラム委託費「廃止措置のための格納容器・建屋等信頼性維持と廃棄物処理・処分に関する基盤研究および中核人材育成プログラム(東北大学)」の助成を受けた。各種実験および解析において本田明氏(東北大学)および小林恒誠博士(東北大学)の協力を得た。拡散性水素量の測定においては,神鋼溶接サービス株式会社(現:コベルコ溶接テクノ株式会社)にサポートいただいた。ここに感謝の意を表する。

文献
 
© 2022 The Iron and Steel Institute of Japan

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