Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
Special Issue on Friction Welding Technologies for Steel
Protectiveness of Rust Layers on Friction Stir Welded High Phosphorus Carbon Steels
Hiroaki TsuchiyaKazumasa HatsudaTakumi KawakuboKohsaku UshiodaHidetoshi FujiiMasato YamashitaShinji Fujimoto
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2022 Volume 108 Issue 12 Pages 937-944

Details
Abstract

In the present work, we examined the structure and protectiveness of rust layers formed on friction stir welded (FSWed) high phosphorus carbon steels, compared with those on SMA490AW and COR-TEN weathering steels. Rust layers were grown on base materials and FSWed materials under a wet/dry cyclic corrosion test. XRD revealed that the rust layers on all the materials consisted of Fe3O4 (magnetite), α-FeOOH (goethite), β-FeOOH (akaganeite), and γ-FeOOH (lepidocrocite), and main constituents of the rust layers were goethite and magnetite. On the base materials, the fraction of protective goethite increased with increasing P concentration in steel when the fraction was compared among SMA490AW, COR-TEN, and 0.1C-0.1P specimen, whereas for 0.1C-0.3P, 0.3C-0.1P, and 0.3C-0.3P specimens, the fraction decreased compared with that on 0.1C-0.1P specimen. The corrosion current of rusted base materials decreased with increasing P concentration when compared among SMA490AW, COR-TEN, and 0.1C-0.1P specimen. In contrast, the corrosion current of 0.1C-0.3P, 0.3C-0.1P, and 0.3C-0.3P specimens was comparable to that of 0.1C-0.1P specimen, indicating the improved protectiveness of rust layers formed on high phosphorus carbon steel. In addition, the protectiveness of rust layers on the FSWed materials was comparable to, or higher than that on the base materials, in particular, the protectiveness was apparently higher, independent of the fraction of goethite when the materials were subjected to the FSW below A1. The improved protectiveness for the FSWed specimens demonstrates that FSW does not deteriorate the corrosion resistance of rusted high phosphorus carbon steels.

1. 緒言

日本には約70万の道路橋(橋長2 m以上)が存在し1),そのほとんどが1950年代半ばからの高度成長期以降に建造されている。道路橋の寿命は一般に50年程度と考えられているため2),2000年頃以降には1950~1980年に建てられた橋の架替や大規模な補修が必要となっている。鋼橋に用いられる鋼は大気環境で腐食して,表面にさび層を形成するため,さび層の防食性が鋼の耐食性維持にとって重要とされる。中性大気環境下で炭素鋼に形成する鉄さびは,主にFe3O4(マグネタイト)とα-FeOOH(ゲーサイト),β-FeOOH(アカガネアイト)およびγ-FeOOH(レピドクロサイト)のオキシ水酸化物の3種類の異性体から構成される。アカガネアイトおよびレピドクロサイトは熱力学的に不安定であるため還元されやすく,鋼に対して酸化剤となり腐食を促進する3)。一方,マグネタイトはFe2+とFe3+の間での電子移動により高い電気伝導性を有しているため4),マグネタイトは酸素還元を促進させると考えられている5)。すなわち,さび層中のマグネタイト上で酸素還元反応が生じると,Feのアノード溶解が進行し腐食は加速される。従って,アカガネアイト,レピドクロサイトおよびマグネタイトは腐食を促進しうる。一方,ゲーサイトは熱力学的に安定で還元されにくいため腐食に対して抑制的に作用する。

Cu,Cr,Ni,Pなどの合金元素を少量含む耐候性鋼は,長期間の乾湿繰り返しをともなう大気腐食環境下で,その表面に緻密な保護性さび層を形成するため,耐食性に優れることが知られている6)。なかでもPは安価,かつ固溶強化により強度も向上するため,合金元素として盛んに検討され,腐食抑制作用を示すことが報告されている712)。特にCopsonやLarrabee and Coburnは,P濃度が0.1 wt%まではP濃度の増加とともに腐食速度が低減することを明らかにしている7,8)。一方で,Pは凝固割れを誘発して溶融溶接性を悪化させるため13),溶接構造物用SMA490AWではP濃度は0.035 wt%以下に制限されている。鋼に含まれるCも濃度増加とともに鋼中パーライト量を増加させ強度の向上に寄与するだけでなく,鋼の耐食性を向上させる14)元素として知られているが,Pと同様に凝固割れにより溶接性を低下させる15)

摩擦攪拌接合(Friction Stir Welding,FSW)は,回転するツールと接合材との相対移動によって生じた摩擦熱と塑性流動により,金属の融点以下の温度で接合する固相接合プロセスである16)。そのためPやCに起因する溶接性低下を克服できる可能性がある。Kawakuboらは,溶融溶接が不可能な,P濃度を0.1-0.3 wt%とした0.1 wt.%Cの高リン炭素鋼に対してFSWによる接合性を検証し,A3点以上およびA1点以下のFSWともに無欠陥な接合が可能であることを示した17)。しかしながら,高リン炭素鋼を橋梁に適用する際に不可欠な耐食性はまだ報告されていない。

鋼橋は,表面にさび層が形成した状態で使用されることが多いため,本研究では乾湿繰り返し試験により表面にさび層を形成した高リン炭素鋼の耐食性を評価した。

2. 実験方法

供試材として4種の高リン炭素鋼(0.1C-0.1P,0.1C-0.3P,0.3C-0.1P,0.3C-0.3P),比較としてSMA490AWおよびCOR-TENを使用した。高リン炭素鋼は目標組成の供試鋼を溶製したのち,圧延して準備した。各鋼板の合金組成をTable 1に示す。なお高リン炭素鋼には1273 Kで900 s保持後に空冷するノルマライジング処理を施した。各鋼板から320 mm×150 mmの寸法に切り出した板材に対してFSWを行った。FSWは,ショルダー直径が15 mm,プローブ直径が6 mm,プローブ長さが2.9 mmであるWC超硬合金製ツールを用いて実施した。接合温度がA3点以上またはA1点以下となるように,回転速度,接合速度および荷重を調節して,各高リン炭素鋼板に対してFSWを行った。FSW接合中に生じたバリをフライス加工にて除去し,表面を平滑にした。その後,マイクロカッターを用いて,各鋼板からFSW接合部のみを含むように30 mm×20 mmの試料を切り出した(以降,FSW接合部と呼称する)。但し,本研究ではFSWにより生じた加工熱により表面が酸化した領域をFSW接合部と定義し,A1点およびA3点はThermo-Calcを用いて導出した状態図より各鋼種に対して算出した。またFSWを行っていない箇所のみを含む試料も同様に準備した(母材部と呼称する)。

Table 1. Chemical composition of base materials used in the present work(mass%).
CSiMnPSCuAlNiCrFe
SMA4900.120.21.140.010.0020.320.100.48bal.
COR-TEN0.080.430.380.0940.0030.310.180.67bal.
0.1C-0.1P0.0980.0120.200.100.0050.500.011bal.
0.1C-0.3P0.0950.0120.200.280.0050.510.010bal.
0.3C-0.1P0.280.010.200.100.0040.510.016bal.
0.3C-0.3P0.300.010.200.310.0040.500.015bal.

各試料に対して,SAE J2334に準拠した乾湿繰り返し試験を実施し,さび層を形成した。すなわち湿潤環境(100% R.H.,50°C)に試料を6時間置き,その後0.5% NaCl+0.1% CaCl2+0.075% NaHCO3の混合水溶液中に15分間浸漬し,最後に乾燥環境(50% R.H.,60°C)で17時間45分間保持した。これら3工程を1サイクルとし,30サイクル実施した。

乾湿繰り返し試験により形成したさび層の相同定を,XRDにより行った。測定はさび層を形成した鋼板に対して,Cu Kα線を使用して,管電圧45 kV,電流40 mAで行った。また,さび層を育成した試料の電気化学特性を評価した。試験溶液と接する測定部の面積が20 mm×15 mmになるように試料表面を被覆した。乾湿繰り返し試験で用いた0.5% NaCl+0.1% CaCl2+0.075% NaHCO3の混合水溶液を電解液とし,参照電極にはAg/AgCl(3.3M KCl)を用いて電気化学測定を行った。298 Kの大気開放下で自然電位を1時間測定したのち,自然電位から±100 mVの電位範囲にて掃引速度0.5 mV/sで動電位分極を行った。

3. 実験結果および考察

3・1 さび層の構造・耐食性に及ぼすPおよびCの影響

Fig.1は乾湿繰り返し試験中の各試料母材部の表面外観を表している。10サイクル後のSMA490AWおよびCOR-TEN表面には黄色系褐色のさび層が形成し,サイクル数の増加とともにさび層が黒色へと変化していることが分かる。P濃度が高い0.1C-0.3P試料および0.3C-0.3P試料も同様に,10サイクル後に試料表面に黄色系褐色さび層が形成した。0.1C-0.3P試料ではサイクル数の増加とともに黒色に変化したが,0.3C-0.3P試料ではさび層の外観に大きな変化は見られなかった。一方,P濃度が低い0.1C-0.1P試料および0.3C-0.1P試料では,10サイクル後には黒色のさび層が形成し,サイクル数の増加とともに褐色のさび層も確認できるようになった。

Fig. 1.

Appearance of the base materials after 30 cycles of the wet/dry cyclic corrosion test. (Online version in color.)

乾湿繰り返し試験を30サイクル実施してさび層を形成した各試料母材部のXRDパターンをFig.2に示す。いずれの試料においてもゲーサイト,アカガネアイト,レピドクロサイトおよびマグネタイトのピークが認められる。アカガネアイトは2つのFeO3(OH)3八面体が結合し,その結合体が隣の八面体と点で接するトンネル状構造を有することが知られている18)。トンネル状構造の中心にCl-があると構造が安定化するため,塩化物を含む環境でアカガネアイトが形成すると考えられている19,20)。KimらがSAE J2334に準拠した乾湿繰り返し試験をSS400炭素鋼に行い測定したXRDパターンには明確なアカガネアイトのピークが認められるが21),本研究で用いた試料ではFig.2に示すようにアカガネアイトの回折はゲーサイト,レピドクロサイトおよびマグネタイトと比較して,非常に小さい。またゲーサイト,レピドクロサイトおよびマグネタイトのピーク強度が試料によって異なっており,さび層に含まれる各さび相成分の割合が試料によって異なることが示唆される。そこでさび層に含まれるゲーサイト,アカガネアイト,レピドクロサイトおよびマグネタイトの質量割合(それぞれMαMβMγMSと表記)を,Fig.2に示したXRDパターンで得た各さび相の回折ピークの強度(それぞれIαIβIγIs)を用いて,Haraらが提案した式(1)22)に基づいて評価した。

  
Mi=MiA(Ii/IiA)/(MjAIj/IjA)(i,j=α,β,γ,S)(1)
Fig. 2.

XRD pattern obtained for the base materials after 30 cycles of the wet/dry cyclic corrosion test.

ここでIiAIjAおよびMiAMjAはそれぞれ参照試料の回折強度および質量割合を表している。式(1)を用いて算出した,各試料に形成したさび層に含まれるさび相成分の質量割合をFig.3に示す。図から,いずれの試料に形成したさび層もゲーサイトおよびマグネタイトが主体で,レピドクロサイトの割合は非常に小さく,アカガネアイトはさび層にほとんど含まれないことが分かる。ゲーサイトは黄色系褐色,マグネタイトは黒色のさびであることから,XRDより算出したさび層成分の質量割合はFig.1に示したさび層外観の傾向と一致する。保護性の高いさびとして知られるゲーサイトの質量割合はSMA490AW,COR-TENおよび0.1C-0.1P試料で比較すると,P含有量の増加とともに増加していることが分かる。同様の傾向は0.3C-0.1P試料と0.3C-0.3P試料との間にも確認できる。一方,0.1C-0.3P試料ではゲーサイトの割合は0.1C-0.1P試料と比較すると,P含有量が増加しているにもかかわらず減少した。

Fig. 3.

Mass fraction of each constituent of the rusts obtained for the base materials after 30 cycles of the wet/dry cyclic corrosion test. (Online version in color.)

さび相成分の割合は発錆鋼の腐食速度に影響することが報告されている2124)。各試料母材部に乾湿繰り返し試験を30サイクル実施してさび層を形成させたのち測定した分極曲線からターフェル外挿法を用いて求めた腐食電流密度をFig.4に示す。SMA490AW,COR-TEN,0.1C-0.1P試料および0.1C-0.3P試料で比較すると,腐食速度はSMA490AWで最も大きく,P含有量の増加とともに減少した。この傾向はCopsonやLarrabee and Coburnの報告と一致する7,8)。一方,0.1C-0.3P試料,0.3C-0.1P試料および0.3C-0.3P試料の腐食電流密度は0.1C-0.1P試料と同程度であった。保護性さびであるゲーサイトの割合と腐食速度の関係に注目すると,SMA490AW,COR-TEN,0.1C-0.1P試料ではP濃度の増加とともにゲーサイトの割合は大きくなり,腐食電流密度は小さくなるため,ゲーサイトはこれら試料の耐食性を向上させていることが分かる。一方,Fig.3に示したように,0.1C-0.3P試料,0.3C-0.1P試料および0.3C-0.3P試料に形成したさび層に含まれるゲーサイトの割合は0.1C-0.1P試料と比較して小さいにも関わらず,腐食電流密度は同程度であった。すわなち,これら3つの試料についてはゲーサイトの割合と腐食電流密度の相関は小さい。Pあるいはリン酸イオンはFe2+のFe3+への空気酸化反応を促進してさび粒子の微細化および非晶質化を促進することが報告されている。Kyunoら25)は耐候性の大気腐食過程においてFe2+が生じるとともにPが鋼/さび層界面に濃縮し,その際にPはPO43-としてFe2+の空気酸化を促進してX線的非晶質で微細なさびを鋼/さび層の界面に形成させることによって腐食を抑制すると説明している。本研究において,さび層中のゲーサイトの割合が小さいにもかかわらず0.1C-0.3P試料や0.3C-0.3P試料がゲーサイトの割合が大きい0.1C-0.1P試料と同程度の腐食電流密度を示したのはP濃度が高いため鋼/さび層界面での微細なさび形成がより促進され,腐食抑制効果が高くなったためであると説明できる。さび層の構造に及ぼすCの効果は明らかにされていないが,Pと同様の効果があったのではないかと考えている。

Fig. 4.

Corrosion current density estimated for the base materials after 30 cycles of the wet/dry cyclic corrosion test.

3・2 さび層の構造・耐食性に及ぼすFSWの影響

本研究では,接合温度がA3点以上またはA1点以下となるように条件を調整して,4種類の高リン炭素鋼にFSWを行った。FSW後,乾湿繰り返し試験に供した際に見られた試料外観変化をFig.5に示す。図から明らかなように,いずれの試料においても乾湿繰り返し10サイクル経過後に,黄色系褐色のさび層が形成していることが確認できる。10サイクル後のFSW接合部の外観をFig.1に示した母材部と比較すると,P濃度が低い試料では試料外観にFSWの影響はほとんど見られなかったが,P濃度が高い試料ではFSW接合部において黄色系褐色さび層の形成がより顕著である。さらに,さび層はサイクル数の増加とともに,黒色へと変化した。褐色さび層の形成はP濃度が高い試料で,より顕著であったことから,0.1C-0.3P試料および0.3C-0.3P試料ではそれぞれ0.1C-0.1P試料および0.3C-0.1P試料よりゲーサイトの割合が高いと考えられる。FSW接合温度は10サイクル経過後の試料ではさび層外観に影響しているが,30サイクル後にはFSW接合温度の影響はほとんど見られなかった。

Fig. 5.

Appearance of the FSWed high phosphorus carbon steels after 30 cycles of the wet/dry cyclic corrosion test; (a) 0.1C-0.1P, (b) 0.1C-0.3P, (c) 0.3C-0.1P, (d) 0.3C-0.3P. (Online version in color.)

XRD測定を,乾湿繰り返し試験を30サイクル実施した試料に対して実施した。XRD測定で得られた回折ピークを使って算出した,FSW接合部に形成したさび層に含まれるさび相成分の質量割合をFig.6に示す。比較のため,Fig.3に示した母材部の結果も併せて示している。さび相成分の質量割合に及ぼすFSWおよびその接合温度の影響はP濃度によって異なり,P濃度が高い0.3P試料ではC濃度によらずFSWを行った試料で保護性さびであるゲーサイトの割合は大きく,接合温度が高い場合にさらに大きくなった。一方,P濃度が低い0.1P試料では,C濃度が低いとA1点以下でFSWを行った場合にゲーサイトの割合が小さく,C濃度が高いとA1点以下でFSWを行った場合にゲーサイトの割合が大きいことが分かる。またA3点以上で接合した試料のゲーサイトの割合は母材部と同程度であった。

Fig. 6.

Mass fraction of each constituent of the rusts obtained for the FSWed high phosphorus carbon steels after 30 cycles of the wet/dry cyclic corrosion test. The mass fraction of the corresponding base materials presented in Fig. 3 is included for comparison. (Online version in color.)

Fig.4に示した母材部の腐食電流密度とFSW接合部の腐食電流密度をFig.7にまとめて示す。図からFSW接合部の腐食電流密度は母材部と同程度もしくは母材部より小さいことが分かる。すわなちFSWによって高リン炭素鋼の耐食性は低下しないことが明らかとなった。特にA1点以下で接合した場合には耐食性が向上した。C濃度が同じ試料で比較すると,FSW接合部においてもP濃度が高い場合に腐食電流密度が小さく,母材部と同様の傾向を示した。従ってFSW接合部の腐食速度はゲーサイト割合だけで議論することは難しいことが分かる。本研究で検討した高リン炭素鋼はP濃度およびC濃度によらずフェライトおよびパーライトからなる組織であるが, A3点以上でFSWを施すと母材部はフェライト,パーライト,ベイナイトおよびマルテンサイトからなる組織へ変化する,一方A1点以下で接合した場合には接合部はフェライトおよびセメンタイトからなる組織となる。さび層中のゲーサイト割合だけでなく,これら金属組織の違いもさび層を有する高リン炭素鋼の耐食性に影響するのではないかと考えられる。

Fig. 7.

Corrosion current density estimated for the FSWed high phosphorus carbon steels after 30 cycles of the wet/dry cyclic corrosion test. The current density of the corresponding base materials presented in Fig. 4 is included for comparison. (Online version in color.)

3・3 高リン炭素鋼のさび層の構造と腐食電流密度の関係

Figs.3,6に示したように,耐候性鋼および高リン炭素鋼に形成するさび層の組成は鋼組成やFSWの影響により変化し,その結果,Figs.4,7に示した腐食速度も変化する。Kamimuraらは, SMA490AWを環境の異なる10箇所に15年間暴露して形成したさび層の組成と腐食速度の関係を調査し,さび層中のゲーサイトの質量,α,とアカガネアイト,レピドクロサイトおよびマグネタイトの質量の和,γ*,との比,α/γ*,をさび層の耐食性を評価するパラメータとして導入し,腐食速度に対して整理すると,α/γ*が1より大きい場合に腐食速度が小さくなることを見出した26)。耐候性鋼橋梁についても,腐食速度がα/γ*で整理できることをHaraらが報告している27)。一方,Kimらも乾湿繰り返し試験により形成したさび層が同様の傾向を示すことを明らかにしている21)。本研究のデータで得られた腐食速度とα/γ*の関係を,Kimらの結果と併せてFig.8に示す。本研究の結果はKimらの報告と同様にα/γ*が大きい場合に腐食速度が小さくなる傾向を示している。

Fig. 8.

Relation between corrosion current density and α/γ*. Data presented by Kim et al.21) are superimposed.

本研究よりFSWを施した高リン炭素鋼の耐食性はさび層中のゲーサイトの割合,さび層の構造といった鋼材組成に影響される因子および金属組織変化のようなFSWに影響される因子により変化することが示唆された。そのため,さび層を形成していない試料の耐食性評価も必要があり,今後の課題としたい。

4. 結言

FSWを施した高リン炭素鋼に乾湿繰り返し試験を行いさび層を形成し,さび層の構造と耐食性を評価した結果,以下の知見を得た。

(1)さび層を有する高リン炭素鋼の腐食電流密度はさび層を有するSMA490AWやCOR-TENより小さく,耐食性が高いことが明らかとなった。

(2)P濃度が0.1 wt%以上の鋼にFSWを施すと,安定なゲーサイトの割合が大きくなり腐食電流密度は減少する。

(3)A3点以上でFSW接合を行った鋼はA1点以下でFSWを行った鋼と比較してゲーサイトの割合は大きいが,耐食性は低い。

謝辞

本研究は一般社団法人日本鉄鋼協会の研究会II「摩擦接合技術の鋼橋等インフラへの適用性検討」において実施した。

文献
 
© 2022 The Iron and Steel Institute of Japan

This is an open access article under the terms of the Creative Commons Attribution-NonCommercial-NoDerivs license.
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
feedback
Top