2022 Volume 108 Issue 12 Pages 926-936
Weathering steels with the increased concentration of carbon (C) and phosphorus (P) that tend to be difficult to join without defects by fusion welding were fabricated by friction stir welding (FSW), and the effects of C and P contents on the microstructure and mechanical properties of FSWed joints were investigated. P segregation formed during solidification was present in the base material (BM) of the steels. In the stir zone (SZ) of FSWed joints, P segregation was reduced under the condition of higher welding temperature (above A3). In the tensile test, both the addition of C and P increased tensile strength. On the other hand, the increase in C content impaired the uniform elongation, while the increase in P content did not deteriorate it. It is because the work hardening rate was improved by the P addition presumably due to the suppression of cross slip of dislocations. In the Charpy impact test, the increase in C and P contents shifted the DBTT to the higher temperatures and simultaneously decreased the upper shelf energy. EPMA analysis performed on the cross-section of the ductile fracture surface of BM of 0.3 wt%P steel revealed that voids were formed at the boundary between P segregated area and the non-segregated area. Therefore, P segregation was inferred to be the main factor determining the upper shelf energy. Since the P segregation of the joint FSWed above A3 was improved, the upper shelf energy of the SZ was the highest among BM and SZ FSWed below A1.
近年,持続可能な社会の実現に向けて,橋梁等のインフラ構造物の長寿命化が求められており,その中で耐候性鋼が注目されている。耐候性鋼は,Cu,P,Cr,Ni等の元素が添加された低合金鋼で,添加元素の影響により材料表面に緻密な錆層を形成し,無塗装で優れた耐食性を示す。耐候性鋼の耐食性を向上させることは,インフラ構造物の維持管理費の低減や寿命を高める上で非常に重要となる。一方では,鉄鋼材料には希少元素が多用されており,希少元素の使用を減少することや豊富に存在する元素に代替することが求められている1)。
例えば,Pは耐候性を向上させる有望な元素である2–4)。我が国の鉄鉱石資源の主要な輸入先である豪州産の鉄鉱石は,Pの濃度上昇(+0.051%の上昇,上昇率42%)が予測されており,脱P工程の負荷増加が懸念されている5)。このような状況で鉄鋼材料にPを活用することは有用である。しかしながら,Pは溶融溶接において溶接割れを誘発させるため6),これまで添加が制限されてきた。例えば,既存の溶接構造用の耐候性鋼であるSMA490(JIS G 3114)では,P量は0.035 wt%以下と規格化されている。
この他,Cも溶接性が問題となり添加量が制限されている。0.3 wt%C以上では,高温割れ感受性が高くなるとともに,冷却時に脆いマルテンサイトが形成されるため,満足な機械的特性を有する溶接部を得ることが困難となる7)。しがしながら,Cは組織制御と組み合わせることにより高強度かつ高延性を達成できる有用な元素であり,Pと同様に豊富に存在するため,希少元素の代替に適した元素であるといえる。
近年,溶融溶接に代わる新たな接合法として,摩擦攪拌接合(FSW: friction stir welding)8–11),線形摩擦接合(LFW: linear friction welding)12,13)等の固相接合の研究開発が活発に行われている。固相接合では溶融凝固を伴わないため,C,Pの添加量を増加しても接合可能となることが期待される。著者らは,Pを0.3 wt%含有した耐候性鋼に対してFSWを行い,欠陥のない健全な継手が得られることを報告した10)。
一方で,固相接合を前提としてPの添加量を増加すると,鋳造時に形成されるPの凝固偏析が母材および攪拌部の延性や靭性などの機械的特性を低下させることが懸念される。Hirataらは,Pを含有する(0.014-0.197 wt%P)0.1 wt%C鋼のストリップ鋳造材における微視組織と機械的特性に及ぼすP量の影響を調査し,P量の増加に伴い強度,延性ともに向上することを報告した14)。LiらはC,P量の異なる鋼材(0.045-0.440 wt%C,0.008-0.680 wt%P)の微視組織と機械的特性を評価し,P量の増加に伴い強度は増加し,延性は低下することを報告した15)。しかし,これらの報告は結晶粒径やPの分布等の微視組織の変化を主なターゲットとしており,Pの凝固偏析と機械的特性の関連性についてはほとんど言及されていない。加えて,FSWされた接合部におけるPの凝固偏析について調査された例はなく,Pの凝固偏析の形態がFSWによりどのように変化するかについては不明である。
著者らは,インフラ構造物への固相接合の適用を前提として,溶融溶接における問題から制限されてきたC,Pを積極的に活用した新たな耐候性鋼の開発を検討している。前報10)では,C量が0.1 wt%と一定でPの添加量のみを増加した耐候性鋼を作製し,その接合性,接合部の微視組織および靭性について調査したが,Pの凝固偏析の靭性への影響については未検討であった。本研究では,CとPの添加量を系統的に変化させ,これらの元素が微視組織および機械的特性に及ぼす効果,およびPの凝固偏析の靭性への影響をより詳細に明らかにすることを目的とした。
Table 1に示すような組成範囲で変化させた試料のインゴットを真空溶解により作製した。作製したインゴットに対して,1000°Cで厚さ5 mmまで熱間圧延を行い室温まで空冷した。その鋼板を再加熱し,1000°Cで15 min保持した後,空冷の熱処理を施した。その後,試料表面を厚さ3 mmまで両面研削した。
Steels | C | Si | Mn | P | S | Cu | Al |
---|---|---|---|---|---|---|---|
0.1C-0.1P | 0.098 | 0.01 | 0.20 | 0.10 | 0.005 | 0.50 | 0.011 |
0.1C-0.2P | 0.097 | 0.01 | 0.20 | 0.19 | 0.005 | 0.50 | 0.010 |
0.1C-0.3P | 0.095 | 0.01 | 0.20 | 0.28 | 0.005 | 0.51 | 0.010 |
0.3C-0.1P | 0.28 | 0.01 | 0.20 | 0.10 | 0.004 | 0.51 | 0.013 |
0.3C-0.2P | 0.30 | 0.01 | 0.20 | 0.21 | 0.004 | 0.51 | 0.016 |
0.3C-0.3P | 0.30 | 0.01 | 0.20 | 0.31 | 0.004 | 0.50 | 0.015 |
0.5C-0.3P | 0.49 | 0.01 | 0.20 | 0.27 | 0.005 | 0.49 | 0.011 |
各試料のプレートに対してFSWを行った。ツールには,ネジ加工なしの円柱状の形状で,タングステンカーバイド(WC)を主体とする超硬合金製のツールを使用した。ツール寸法は,ショルダー直径15 mm,プローブ直径6 mm,プローブ長さ2.9 mmとした。前報10)と同様に,接合条件は接合温度がそれぞれA3点以上(回転速度: 300 rpm,接合速度: 150 mm/min)とA1点以下(回転速度: 80 rpm,接合速度: 150 mm/min)となるように2種類の条件を用いた。また,接合方向は試料の圧延方向と平行とした。
接合部の微視組織を評価するために,Fig.1に示すように,接合方向に対して垂直な断面を放電加工により切り出した。その断面に対して,機械研磨,バフ研磨を起こった後,1.5%ナイタール液を用いてエッチングした。エッチングした断面に対して,SEM(scanning electron microscopy)を用いて微視組織を評価し,EPMA(electron probe micro analyzer)を用いてPの分布を評価した。母材(BM: base material),攪拌部(SZ: stir zone)の機械的特性を評価するために,引張試験とシャルピー衝撃試験を行った。引張試験は,平行部長さ5 mm,幅1.5 mm,厚さ1.5 mmの小型試験片を,平行部の方向が圧延方向(接合方向)と垂直となるように採取して行った。ひずみ速度は1.0×10-3 s-1とした。ひずみ測定にはDIC (Digital Image Correlation)法を用いて,初期の評点間距離4.5 mmの引張変形中の変化から公称ひずみを評価した。シャルピー衝撃試験は,Vノッチ(接合方向に平行)の厚さ2.5 mmのサブサイズ試験片(JIS Z 2242)を用いて,-120~160°Cの試験温度で,各温度について3本の試験を行った。攪拌部を評価するための試験片は,Fig.1に示すように,ノッチが接合部の中心となるように採取した。
Schematic of FSW joint, and sampling position of the Charpy impact test and the microstructure observation specimen.
Table 1で示した0.1C-0.1P,0.1C-0.3P,0.5C-0.3Pの各接合条件における断面マクロ写真を,Fig.2に示す。各試料,各条件ともに,マクロ写真から判断する限り欠陥は認められない。溶融溶接では,拘束が厳しい場合には0.7 wt%CではP量が0.095 wt%を超えると割れが生じ,0.34 wt%Cでは0.01 wt%Pでも割れが生じることが報告されており7),今回の試験において,FSWでは割れを生じる成分およびひずみは生じなかったものと推察される。
Photographs showing the cross section of FSWed joints of 0.1C-0.1P, 0.1C-0.3P and 0.5C-0.3P steels under the two different FSW conditions.
Fig.3に0.1C-0.1P,0.1C-0.3P,0.5C-0.3Pの母材と攪拌部の中心における微視組織を示す。母材は,いずれの試料もフェライトとパーライトからなる組織が形成された。A3以上の攪拌部では,0.1C-0.1Pと0.1C-0.3Pにおいてはフェライトとベイナイトからなる組織が形成された。ベイナイト量およびそのサイズはP量の増加に伴い減少しており,これはPがフェライト生成元素であることと,FSW中のオーステナイト粒径をソリュート・ドラッグ効果により微細化することに起因すると考える10)。0.5C-0.3PのA3以上の攪拌部においては,フェライトとパーライトとマルテンサイトからなる組織が形成された。パーライトが大部分を占めており,フェライト量は母材に比べて減少した。A1以下の攪拌部では,いずれの試料においても微細なフェライトとセメンタイトから成る組織が形成された。
SEM images showing the microstructures of (a)-(c) BMs and (d)-(i) SZs under above A3 and below A1 conditions of 0.1C-0.1P, 0.1C-0.3P and 0.5C-0.3P steels. α: ferrite. θ: cementite.
Fig.4に0.1C-0.1P,0.1C-0.3P,0.5C-0.3Pの母材と攪拌部の中心における,Pの分布をEPMAマップで示す。各試料の母材(Fig.4(a)-(c))では,P濃度の分布が板面法線方向(ND: normal direction)と垂直に層状に変化していることがみてとれる。Fig.4(a), (b)から,P添加量の増加に伴い,偏析部および未偏析部のP濃度がともに高くなったことがわかる。また,Fig.4(b), (c)からC量の増加に伴い,偏析部と未偏析部の濃度差がさらに増加し,Pの偏析は顕著になったことがわかる。一方で,Fig.4(d), (e)に0.1C-0.3Pの攪拌部のP分布を示すが,A1以下の攪拌部では母材と同程度の偏析が残っているのに対し,A3以上の攪拌部ではP分布が比較的均質化したことが認められる。Fig.5にP量が0.3 wt%でC量の異なる試料(0.1C-0.3P,0.3C-0.3P,0.5C-0.3P)の母材および攪拌部のP偏析部におけるP濃度を示す。母材,攪拌部ともにC量の増加に伴いP偏析部の濃度は増加した。また,A3以上の攪拌部におけるP偏析部の濃度は,いずれの試料においても母材,A1以下の攪拌部に比べて低くなった。これらの点については4・1節で考察する。
EPMA mappings showing P distribution of (a) BM of 0.1C-0.1P steel, (b) BM of 0.1C-0.3P steel, (c) BM of 0.5C-0.3P steel, (d) SZ FSWed above A3 of 0.1C-0.3P steel and (e) SZ FSWed below A1 of 0.1C-0.3P steel. (Online version in color.)
P concentration in segregated area of BM and SZs of the steels with P content of 0.3 wt% and different C content (0.1C-0.3P, 0.3C-0.3P and 0.5C-0.3P steels). (Online version in color.)
Fig.6にC,P量の異なる各試料の母材と攪拌部における公称応力―公称ひずみ曲線を示す。Fig.6(a)に示す母材については,いずれの試料も不連続降伏を示した。Fig.6(b)に示すA3以上の攪拌部については,0.1C材は母材と同様に不連続降伏を示したが,C量の増加により,降伏点伸びが減少し,連続的な降伏にシフトした。これはC量の増加により,ベイナイトやマルテンサイト等の低温変態生成物の量が増加し,可動転位が増加したことによると推察される。Fig.6(c)に示すA1以下の攪拌部については,共通して降伏点降下をした後降伏点伸びを示し,その後はほとんど加工硬化せずに破断した。これは,細粒材の特徴を反映していると考える10,16)。
Nominal stress – nominal strain curves of (a) BM, (b) SZ FSWed above A3 and (c) SZ FSWed below A1 of 0.1C-0.1P, 0.1C-0.2P, 0.1C-0.3P, 0.3C-0.3P and 0.5C-0.3P steels. (Online version in color.)
強度と伸びのバランスに及ぼすC量,P量の影響について述べる。0.1C-0.3P,0.3C-0.3P,0.5C-0.3Pを比較すると,母材,攪拌部材(A3以上,A1以下)に関わらず,C量の増加に伴い高強度化し,伸びが低下する(Fig.7(a))。これは,よく知られている傾向である。一方,0.1C-0.1P,0.1C-0.2P,0.1C-0.3Pを比較すると,母材,攪拌部材(A3以上,A1以下)を問わず,P量の増加は強度を上昇させるが,伸びの大きな低下はなく,ほぼ伸びを維持したり向上させる場合もあり,強度と伸びを両立させることは特筆される(Fig.7(b))。これについては,4・2節で考察する。
Effects of (a), (c) C and (b), (d) P on ultimate tensile strength (UTS), uniform elongation (UEl) and total elongation (TEl) of BMs and SZs. (Online version in color.)
Fig.8(a)にC,P量の異なる3試料の母材の衝撃吸収エネルギーの温度依存性を示す。C,P量の増加に伴いDBTTは高温側にシフトし,上部棚エネルギーは低下した。一般的に,材料の降伏応力が脆性破壊応力よりも低い場合に延性破壊,高い場合に脆性破壊が起こり,その交点がDBTTであると考えられている。したがって,C,Pの添加によりDBTTが高温側にシフトした主な要因は降伏応力の増加であると推察される。C量の増加により上部棚エネルギーが低下したことについては,パーライト量の増加に伴い材料の延性が低下したことが原因と考えられる17)。一方で,Pの添加が上部棚エネルギーに及ぼす影響については,Pの凝固偏析を考慮して4・3節で議論する。
Temperature dependence of the absorbed impact energies of (a) BMs of 0.1C-0.1P, 0.1C-0.3P and 0.5C-0.3P steels, and that of (b) BM and SZs of 0.1C-0.3P steel. (Online version in color.)
Fig.8(b)に0.1C-0.3Pの母材と攪拌部の衝撃吸収エネルギーの温度依存性を示す。攪拌部ではDBTTは低温側にシフトした。また,A3以上の攪拌部の上部棚エネルギーは,A1以下の攪拌部に比べて高くなった。
Fig.9に,C,P量の異なる試料の0°Cでの衝撃試験における破壊形態を,母材および攪拌部それぞれにおいてC,P量で整理したグラフを示す。延性破壊と脆性破壊が混合した試料については脆性破面率を図中に挿入した。母材(Fig.9(a))においては,0.1C-0.1Pは全面的に延性破壊し,0.1C-0.2P,0.1C-0.3P,0.3C-0.1Pは延性破壊と脆性破壊が混合し,0.3C-0.2P,0.3C-0.3P,0.5C-0.3Pでは全面的に脆性破壊した。一方で,攪拌部(Fig.9(b), (c))においては,母材に比べて延性破壊する範囲が増加し,特にA1以下の攪拌部では0.5C-0.3P以外の試料は全て全面的に延性破壊した。Fig.8(b)に示されているように,攪拌部のDBTTは母材よりも低温側にシフトし,A1以下の方がA3以上よりもより低温である。これは前報10)の結果とも一致しており,結晶粒の微細化に起因すると推察される。したがって,結晶粒を微細化することにより,0°Cで延性破壊するC,Pの組成範囲は拡大されるといえる。
Effects of C and P contents on the fracture mode of the impact tests at 0°C of (a) BMs, (b) SZs FSWed above A3 and (c) SZs FSWed below A1. DF: ductile fracture. BF: brittle fracture. (Online version in color.)
Fig.4から,本研究で作製したP量が0.1 wt%以上の高P鋼では,母材,攪拌部ともにPのミクロ偏析が存在することがわかった。Fig.10に0.5C-0.3Pの母材における微視組織とP分布の関係を示す。Fig.10(a)に示すSEM像においては,フェライトとパーライトが存在するが,これらの組織とは無関係にPが偏析している様子がわかる。Pは強力なフェライト安定化元素であるので,Pの偏析が熱間圧延やその後の熱処理における組織形成の過程で形成されたとすると,フェライトに優先的に存在するはずである。したがって,このPの偏析はインゴット作製時の凝固において生じた凝固偏析と推察される。
(a) SEM image, (b) EPMA map of P distribution of the same area of (a), and (c) SEM image superimposed with P segregated area defined as green in the BM of 0.5C-0.3P steel. (Online version in color.)
次に,3・1節で述べたように,C量の増加によりPの偏析が顕著となった理由について考察する。Ueshimaら18)は,炭素鋼の凝固偏析に及ぼす合金元素の影響を調査し,0.05~0.25 wt%Cにおいて,C量を増加するとδ→γ変態開始温度が上昇し,Pの偏析濃度が増加することを報告した。本項では,凝固偏析に及ぼすC量の影響についてより広い成分範囲について明らかにするため,Thermo-calc.により平衡状態図を作成して検討した。Fig.11にThermo-calc.により作成したFe(0.01Si-0.2Mn-0.3P-0.005S-0.5Cu-0.01Al)-Cの平衡状態図を示す。この状態図から,限りなく長い時間をかけて凝固した場合には,C量が0.07~0.17 wt%と0.17~0.51 wt%の鋼では凝固モードが異なることがわかる。すなわち,0.07~0.17 wt%C鋼では,液相の状態から温度が低下すると,まずはフェライトが晶出し,その後フェライトと液相の界面でオーステナイトが形成され,その後フェライト+オーステナイトの二相状態となり凝固が完了する。0.17~0.51 wt%C鋼では,フェライトが晶出後,フェライトと液相の界面で形成されたオーステナイトがフェライトが存在しなくなるまで成長し,最終的にオーステナイトと液相の二相状態で凝固する。凝固時のPのミクロ偏析は,固相に固溶しにくいPが残存した液相に濃化することにより形成される。Pはオーステナイトよりフェライトへの方が固溶しやすいため,凝固の最終段階でフェライトが存在する0.07~0.17 wt%C鋼の方が0.17~0.51 wt%C鋼と比べてPの偏析が小さくなる。また,凝固時の固相がフェライトであるかオーステナイトであるかの問題とは別に,C量が増加すると凝固温度が低下することもPの分配を促進すると考えられる。以上の理由から,Fig.4, 5において,0.1C-0.3PにおけるPの偏析濃度は0.5C-0.3Pに比べて小さくなったと考えられる。
Fe(0.01Si-0.2Mn-0.3P-0.005S-0.5Cu-0.01Al)-C pseudo-binary calculated phase diagram, using the Thermo-Calc. TCFE9.
また,Fig.4, 5に示すように,Pのミクロ偏析が存在する母材をFSWした場合,A3以上の温度では攪拌部におけるPのミクロ偏析が軽減するが,A1以下ではPの偏析濃度がほとんど変化しないことがわかった。接合温度がA3以上の場合,接合中に材料流動を伴いながら,オーステナイト単相の約950°Cまで温度が上昇する。最高到達温度付近において,高温であることにより拡散速度が増加し,その上材料流動により導入されるひずみによりさらに拡散が促進されてPの分布が均質化したと考えられる。一方で,A1以下では,最高到達温度は約700°Cである。フェライト中の拡散係数19)およびオーステナイト中の拡散係数20)から,700°C(フェライト)と950°C(オーステナイト)の拡散速度
Figs.6,7において,Pの添加量を増加すると強度が増加する一方で,均一伸びはほぼ維持される傾向にあることが示された。均一伸びについて,母材とA3以上の攪拌部では,P量が増加してもほとんど変化せず維持されたが,A1以下の攪拌部では0.3 wt%Pのみ,0.1,0.2 wt%と比較して3倍以上に増加した。A1以下の攪拌部の0.3 wt%Pでは塑性変形初期に非常に大きな降伏点伸びが起こっており,このことが均一伸びの増加の主要因と考えられが,これはA1以下のFSWにおける強加工により形成された微細粒組織特有の現象であると推察される。0.3 wt%の高濃度のPを含有したときのみ大きな伸びを示す点は興味深いが,この特異な現象は本論文の主旨と外れるため議論の対象外とし,今後の課題としたい。したがって,以降は母材・A3以上の攪拌部の結果について議論する。
Fig.12に0.1C-0.1Pおよび0.1C-0.3Pの母材とA3以上の攪拌部の真応力―真ひずみ曲線と加工硬化率を示す。図から明らかなように,母材,A3以上の攪拌部ともに,0.1C-0.3Pの方が0.1C-0.1Pよりも高い加工硬化を示し,加工硬化率も実際に高い値を示した。特に変形後期において,0.1C-0.3Pの高い加工硬化率が維持されたことが,P量を増加しても延性が維持されたことに大きく寄与したと考えられる。
True stress – true strain curves and work hardening rates of (a) BM, (b) SZ FSWed above A3 of 0.1C-0.1P and 0.1C-0.3P steels. (Online version in color.)
以上の結果から,P量の増加により均一伸びが向上することが示唆される。Pの添加量が延性に及ぼす影響については,いくつか報告されている21–23)。Katohら21)はTi添加極低炭素鋼において,0.1 wt%Pの添加により全伸びが約10%低下することを報告しており,P量の増加により全伸びが低下することについては他にも報告されている22,23)。一方で,Kimら24)は,P量を変化させた(0,0.05,0.1 wt%)低放射化フェライト鋼の引張試験における強度,伸びの各データを整理し,P量の増加により強度は上昇するが全伸びは低下し,均一伸びは増加することを示した。したがって,全伸びに関してはP量の増加により低下することがよく知られているが,均一伸びに関する議論はほとんどなく,本研究とKimらの結果からは,P量の増加により均一伸びが向上すると推察される。
本研究において,P量の増加により均一伸びが向上した理由について考察する。Pは周期表で隣に位置するSiと同様に,フェライト鋼の加工硬化を増加する効果を有すると予想する。一般に,均一伸びは加工硬化率の増加により向上すると考えられており,加工硬化の支配因子の一つとして積層欠陥エネルギーが挙げられる。積層欠陥エネルギーが低いと加工硬化が大きくなることから,鉄鋼材料においては積層欠陥エネルギーの小さいオーステナイト系ステンレス鋼においてよく議論される。一方で,フェライト鋼は積層欠陥エネルギーが高いため,積層欠陥エネルギーに基づいた定量的な検討例は少ないが,Siの影響についてはいくつか報告されており25,26),Siを添加すると交差すべりが抑制され,加工硬化が増加すると考えられている。Takeuchiら25)は,Fe-Si単結晶を用いた精密な引張試験から,本合金では純Feと異なりすべり系が固執されることを報告した。また,Ushiodaら26)は,Fe-Si鋼に対して繰り返し曲げ試験を行い,Siを1 wt%添加すると,転位構造がセル構造からベイン構造に変化し,疲労特性が向上することを報告した。すなわち,Siの添加によりらせん転位の交差すべりが抑制され,転位の回復が妨げられたと考察された。実際に,引張試験においてもSi添加による加工硬化の上昇が認められている。本研究で用いたP量の多い0.1C-0.3Pが変形後期まで高い加工硬化率を維持した傾向は,上述したSi添加の加工硬化を増す効果と類似しているように見える。周期表でSiの隣に位置するPは,Siと同様に交差すべりを抑制し,加工硬化を増加させた可能性を推察したが,詳細は今後の課題としたい。
4・3 上部棚エネルギーに及ぼすPの影響Fig.8(a)において,P量の増加により上部棚エネルギーが低下したが,その原因については不明である。P量の増加が上部棚エネルギーに及ぼす影響についてより詳細に調査するために,0.1C-0.3P母材を用いて20°Cで衝撃試験を行い,試験片の破面を観察をした。Fig.13(a)に観察した破面の全体図を示す。破面は,初期に破断したノッチに近い部分は延性破面を示し,後期に破断した部分はへき開破面を示す。延性破壊を示した部分の断面に対してSEMとEPMAを用いて,破面とPの分布を観察した。Fig.13(b), (d), (f)にはFig.4と同様にNDと垂直の層状に形成されたPの偏析部が認められる。Fig.13(d)-(g)には破面付近の試料内部にボイドが形成されていることが認められ,ボイドは全てPの偏析部付近に存在した。ボイドの発生個所をより厳密に観察すると,ボイドはP偏析部の内部ではなく,P偏析部と未偏析部の境界に形成されたことがわかる。Pはフェライトへの高い固溶強化能を有するので,P偏析部は未偏析部に比べて硬く転位の運動が阻害されるため,偏析部と未偏析部の境界で転位が蓄積されボイドが形成されたと推察される。以上より,Pの偏析部が,延性破壊を支配するボイドの起点となっていることが明らかとなった。また,Fig.13(e), (g)では,破面の大部分は延性破面であるが,一部へき開破面も存在しており,その破面の内部にはPが偏析していることが見て取れる。したがって,Pの偏析部は延性破壊のボイドの起点となるだけでなく,部分的にへき開破壊を生じさせることがわかった。また,結晶粒界破壊は認めらていないので,Fig.8(a)において,P量の増加により上部棚エネルギーが低下した主要因は,Pのミクロ偏析であると推察される。上部棚エネルギーに及ぼす他の影響因子としてセメンタイトやマルテンサイト等の硬質第二相が考えられるが,P量の増加によるセメンタイトの形態の変化は認められず,マルテンサイトは特に0.1C鋼では極少量しか存在しないことから,その影響は小さいと考える。また,Fig.8(b)においては,A3以上の攪拌部が,A1以下の攪拌部に比べて高い上部棚エネルギーを示した。A3以上の高温でのFSWではA1以下の低温のFSWに比べてPの分布が均質化されることは4・1節で議論しており,A3以上のFSWによるPの均質化が上部棚エネルギーを向上させたと推察される。
(a) Photograph showing the fracture surface of the impact tested specimen at 20°C for the BM of 0.1C-0.3P steel. (b) EPMA mapping showing P distribution and (c) SEM image showing the cross-section of the specimen shown in (a). (d), (f) EPMA mappings showing P distribution and(e), (g) SEM images including the fracture surfaces of the parts shown in (b) and (c). CF: cleavage fracture. DF: ductile fracture. (Online version in color.)
C,P量を変化させた耐候性鋼に対して最高到達温度がA3以上またはA1以下となる条件でFSWを行い,その母材と継手の微視組織や機械的特性に及ぼすCおよびP量の影響を調査し,以下の知見を得た。
(1)0.1 wt%P以上の高P鋼では,母材において鋳造時の凝固偏析に起因するPの偏析部が存在し,その偏析部の濃度はP量の増加に伴い増加し,C量の増加によっても増加した。また,Pの偏析部を有する鋼材をA3以上の温度でFSWすると,Pの偏析が軽減された。
(2)母材と攪拌部(A3以上)の引張試験において,P量の増加により強度は増加するが均一伸びは低下せず維持されることがわかった。P量増加により加工硬化率が増加しており,これはPがフェライトにおける交差すべりを抑制させたことによると推察した。
(3)母材のシャルピー衝撃試験において,P量の増加により上部棚エネルギーが低下した。破面の断面観察により,Pの偏析部と未偏析部の境界でボイドが形成されることが明らかとなり,Pの偏析が上部棚エネルギーの低下の主要因と推察した。一方で,A3以上の温度でFSWされた攪拌部ではPの偏析が軽減されており,その結果上部棚エネルギーが向上したと推察した。
この成果の一部は,国立研究開発法人科学技術振興機構の未来社会創造事業,および一般社団法人鉄鋼協会の研究会IIにおいて得られたものです。