Tetsu-to-Hagane
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Special Issue on Friction Welding Technologies for Steel
A Simple Numerical Simulation Model for Liner Friction Welding by Particle Method
Fumikazu Miyasaka Toya Kitamura
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2022 Volume 108 Issue 12 Pages 1021-1026

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Abstract

The purpose of this study is to develop a numerical model for the LFW process. In this paper, the numerical calculation model for the FSW process developed by the authors is applied to the LFW process. A small workpiece model was chosen as an initial model. The target materials are aluminum and SUS304, and it is assumed that the material softens due to heat generated by plastic strain at the sliding interface of the material.

As a result, it was possible to express the appearance of burrs being discharged to the end in the sliding direction due to the softening of the sliding system surface. It was also confirmed that the difference in the material property such as thermal conductivity had a great effect on the temperature rise characteristics inside the work. Furthermore, it was confirmed that the temperature of the interface fluctuates under the influence of the sliding frequency.

1. 緒言

摩擦攪拌接合(FSW)1,2)は非溶融接合プロセスとして近年実用化され様々な用途で使用されるようになった。しかしそのメカニズムに関しては未知の部分が多く最適なプロセスパラメータの同定だけではなくツール材料や対象材料の特性に関しても試行錯誤による選定が必要となっているのが現状である。

一方Aokiら3)は線形摩擦接合(LFW)に注目し従来の方法では良好な接合が困難であった中高炭素鋼の接合を可能にしている。LFWはFSWと同様に非溶融溶接としてよく知られているが,FSWと違ってツールを利用せずに直接材料どうしをこすり合わせて接合しており,FSWのプロセス設計に必要であったツール材料の設計・選定といった問題が無いという特徴がある。また印加圧力を制御することにより接合界面の温度上昇をA1変態点以下に抑え良好な接合を可能にしている。本接合技術は,鉄鋼材料だけでなくアルミニウム合金やマグネシウム合金等への応用が期待されており,さらにこの印加圧力を制御することにより接合界面の温度制御が可能になり様々な材料に対する異材接合への展開も進んでいる。

しかし,LFWプロセスは従来の接合プロセス(アーク溶接,レーザ溶接等)同様に接合部付近の材料の挙動や接合界面の温度履歴等の計測が非常に困難4)であり,その詳細なメカニズムの理解に関しては事後の組織観察や表面温度の計測からの推測に頼っている。

近年,計算機の高性能化にともないこれまでに計算できなかったような大規模・高精度な解析が試みられるようになってきた。溶接・接合現象は複数の現象(流体現象・熱伝導現象・相変態現象等)が複雑に絡み合った現象でありそれらの数値解析は容易なものではなかったが実験室レベルではなく実用レベルの数値シミュレーションソフトも開発されつつある。またさらなる要求として新材料開発や新接合技術の開発にあわせたプロセスの理解への適用も期待されている。そこで数値シミュレーション技術はこれらの現象の理解に必要不可欠なものになってきている。筆者らはこれまでにFSWプロセスの数値計算モデルの開発を進めてきている5,6)。具体的には粒子法7)と呼ばれる離散化手法を用いることにより,FSW現象における接合界面付近の材料の発熱・流動現象を模擬することが出来ている。上述の通りLFWはFSWと同様に非溶融溶接であり,接合界面付近では材料が塑性流動することによって発熱し接合が達成されていることが分かっている。そこで本研究ではFSWプロセスで開発したモデルをLFWに応用し接合外面近傍での材料の流動現象や温度履歴等を計算・予測することにより本プロセスをより詳細に理解することを目的とする。今回はその第一歩として,簡易的な形状の基礎モデルに対して本計算手法を適用した結果について報告する。

2. 数値計算モデル

本計算モデルは,軟化した材料を非圧縮高粘性流体として取り扱う。したがって,流体の運動方程式は,以下に示す非圧縮性流れに関するNavier-Stokes方程式を用いる。

  
DuDt=1ρP+(νu)+g+fρ(1)

ただし,u:流体の速度,ρ:流体の密度,P:圧力,ν:動粘性係数,g:重力加速度,f:流体に加わる単位体積あたりの外力

D/Dtはラグランジュ微分を示しており,流体とともに移動する計算点の視点での時間微分である。固定された計算点の視点での時間微分であるオイラー的記述に比して,流体の移流項の計算が必要なく,流体の時間微分を容易に扱うことができる。また,ラグランジュ微分は実用的には通常の時間微分と同様に扱って差し支えない。また,式(1)は解析空間内で流体の質量保存則である下式の条件の下,離散化される。

  
u=0(2)

また,温度解析の支配方程式は,以下に示す熱伝導方程式を用いて,流体解析同様,粒子法で離散化を行う。

  
ρCpDTDt=k2T+w(3)

ここでCp: 定圧比熱,T: 計算点の温度,k: 熱伝導率,w: 単位体積当たりの発熱量

また,式(1)におけるνは,材料の温度の関数として求める。そのために塑性流動による発熱量を計算する必要がある。粒子法モデルでは,構造解析によく用いられる有限要素法のように,空間を少区間に分けるメッシュが存在しないため,周囲の計算点との速度差によって材料の相当塑性ひずみを計算する。相当塑性ひずみε˙は次式で与えられる。

  
ε˙=23εijεij(4)

ここで,εijはひずみ速度テンソルであり,次式で与えられる。

  
εij=12(duidxj+dujdxi)(5)

uixiはそれぞれ注目している計算点とその周囲の計算点との相対速度の軸iの成分および軸iの変位を示す。以上から,材料の相当流動応力は,次式によって計算できる8)

  
σ=1αln{(ZA)1n+(ZA)2n+1}(6)

αAnは材料固有の値であり,実験的に求められたものである。また,ZはZener-Hollomonパラメータであり,相当塑性ひずみを用いて,次式で計算できる。

  
Z=ε˙exp(QRT)(7)

ただしQ: 活性化エネルギー,R: 気体定数,T: 温度

以上より,体積Vを持つ粒子微小時間dt間における塑性発熱量qは,相当塑性ひずみε˙と相当流動応力σをもちいて,次式で計算できる。

  
q=γσε˙(8)

γは熱変換係数であり,塑性エネルギーが熱に変わる比率を示す。今回は経験的に0.9を使用するので,本モデルにおいて,塑性エネルギーはその90%が熱に変換される。任意の位置における材料計算点が持つ粘性係数は次式で求められる9)

  
ρν=η=σ3ε˙(9)

ただしν: 式(1)の動粘性係数

Table 1に本計算で用いるアルミニウム合金とSUS304材料物性値を示す。

Table 1. Material property.
AluminumSUS304
Density [kg/m3]27007930
Specific heat [J/(kg·K)]880500
Thermal conductivity [W/(K·m)]23772
Activation energy Q [kJ/mol]142282
N5.664.6
A (Exp(x))24.6724.2
α [MPa‒1]0.0120.012

3. 計算結果

本計算モデルの初期検証モデルとしてFig.1に示すようなサイズのワークを対象とした。本計算における仮定としてワークの界面において材料は密着しており,その摺動により材料が塑性変形するとみなしている。その他計算条件はTable 2に示すとおりである。Fig.2Fig.3にアルミニウムおよびSUS304に対する材料外観の温度変化および接合界面の流動状態の計算結果を示す。両計算結果ともLFWプロセスにおいて摺動界面において材料が塑性流動によって発熱している状況を再現できていることが確認できる。特に両図の0.075[s]を見ると摺動により軟化した材料が材料端部からはみ出た状態で取り残されていることが確認できる。これらの計算点に関しては粘性の低い流体であれば,その表面張力によって速やかに材料側に吸収されるはずのものである。しかし本プロセスでは軟化している材料の粘性が非常に高いので摺動端部付近で摺動についていけずに取り残される形になっている。これらの計算点は一見すると計算に寄与していないように見えるが,伝熱計算に薄いフィンとして作用しているだけでなく,次の摺動周期で流動計算にも再参加し再度取り残されたり逆に材料に吸収されたりすることを考えるとバリが表現されていると考えられる。また材料の熱伝導率の違いによって材料の温度分布が大きく異なり,軟化域の形成現象(バリの排出現象)に大きな影響を与えることが示唆された。

Fig. 1.

Size of workpiece. (Online version in color.)

Table 2. Calculation condition.
Particle size [mm]0.2
Number of particles75,000 (=50×50×30)
Frequency of vibration [Hz]10
Amplitude [mm]1
Fig. 2.

Calculated result of Aluminum LFW.

Fig. 3.

Calculated result of SUS304 LFW.

次にFig.4に示す様に摺動界面の中心線上の温度履歴をFig.5およびFig.6に示す。下右軸が時間,左軸が摺動方向の位置,高さ軸が温度を表している。両図を見るとまず階段状に温度が上昇していることがわかる。これは振幅の両端で一旦速度が0になるため塑性変形による発熱がゼロになるため振動周波数と同じ周期で温度が変動している。またSUS304の結果を見ると材料端部の温度が若干低くなっていることがわかる。これは端部では発熱・軟化した材料がバリとして排出されてしまうためであると考えられる。一方アルミニウムの場合には熱伝導率が高いためその影響が少なくなっていると考えられる。また上昇温度に関してもアルミニウムの方がプロセス時間を長く設定しているにもかかわらずSUS304に比べて低くなっていることがわかる。これはFSWでも見られる現象であり材料の発熱特性の違いによるものである。

Fig. 4.

Temperature measurement line at interface.

Fig. 5.

Temperature history at interface (Aluminum). (Online version in color.)

Fig. 6.

Temperature history at interface (SUS304). (Online version in color.)

続いてFig.7に示す摺動面に垂直なワーク中心線上の温度履歴をFig.8およびFig.9に示す。下右軸が時間,左軸が位置,高さ軸が温度を表しており左軸の中点が摺動界面である。Fig.9のSUS304に対する結果を見ると中心部分(摺動界面)の温度が高く,Fig.6で説明した通り振動周波数に合わせて温度が上下していることがわかる。またFig.10Fig.11にワーク中心位置とワーク下面中心の温度の上昇履歴を切り出して示す。Fig.8およびFig.10のアルミニウムに対する結果を見ると摺動界面では若干温度が高くなっているものの界面から離れた位置でも界面温度にほぼ追従していることがわかる。一方SUS304の場合(Fig.9Fig.11),摺動面で発生した熱は縦方向にはアルミニウムほど伝達されておらず界面付近に温度上昇が集中している。今回の計算では熱変換係数を経験的に90%(式(8)参照)としているためSUS304とアルミニウムを単純に比較することはできない。しかし絶対的な発熱量はSUS304の方が多いにもかからわず界面から離れた位置の温度上昇が低くなっていることから,熱伝導率がプロセスに大きな影響を与えることを示唆している。また両端の温度推移を見るとアルミニウムの場合は若干波打っている。これは界面で発生した熱が高い熱伝導率の影響で速やかに端部まで拡散していることを示している。つまりこの波打ちは摺動速度の履歴を表しているともいえる。一方SUS304の場合にはそのような波打ちは見られない。このことからも熱伝導率の影響を確認することが出来る。

Fig. 7.

Temperature measurement line on center of workpiece.

Fig. 8.

Temperature history on the center line of workpiece (Aluminum). (Online version in color.)

Fig. 9.

Temperature history on the center line of workpiece (SUS304). (Online version in color.)

Fig. 10.

Temperature history at the center and bottom of workpiece (Aluminum). (Online version in color.)

Fig. 11.

TTemperature history at the center and bottom of workpiece (SUS304). (Online version in color.)

4. 結言

本研究では筆者らが開発したFSWプロセスモデルをLFWプロセスに適用し,実験だけでは困難であった現象の解明を目的としている。今回はその第一歩として,比較的小さな簡易的なモデルを作成し,材料物性がプロセスに与える影響に関して検討した。その結果,本計算モデルはFSWプロセスだけでなくLWFプロセスにも適用することが可能であることが示された。また,振動周波数に合わせて材料の塑性変形による発熱量が変動し界面の温度が上昇・降下していることが計算から推測された。これはプロセスの温度制御において振幅と周波数どちらで投入エネルギーを制御するかが材料特性に影響を与えることを示唆している。

今回は振幅と周波数をパラメータとしてシミュレーションを行ったが,今後は加圧力や押し込み速度等の重要なパラメータが界面における発熱特性への影響を評価する必要がある。また対象とする材料の拡大や異材LFWプロセスへの展開をし,本計算モデルの適用可能性を拡大していくことも今後の目標とする。

謝辞

本研究は経済産業省 革新的新構造材料の当技術開発・ISMA(委託事業)「テーマ46中炭素鋼の摩擦接合共通基盤研究」の一環として実施されたものである。

文献
 
© 2022 The Iron and Steel Institute of Japan

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
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