Tetsu-to-Hagane
Online ISSN : 1883-2954
Print ISSN : 0021-1575
ISSN-L : 0021-1575
Special Issue on Friction Welding Technologies for Steel
Friction Stir Welding of 1.4 GPa-grade Tempered Martensitic Steel
Yasuyuki Miyano Hiroki WashiyaHiromu SatoYoshihiro AokiMitsuhiko KimuraKohsaku UshiodaHidetoshi Fujii
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2022 Volume 108 Issue 12 Pages 945-957

Details
Abstract

The thermal hysteresis in fusion welding causes serious deterioration of welds of medium to high-carbon steels, so the development of an effective alternative welding process are expected. Friction Stir Welding (FSW) is considered to be an effective alternative. FSW is a solid-state joining process in atmosphere, which reduces the risks associated with melting and solidification of metals. Another advantage is the in-process flexible controllability of heat input by controlling welding parameters. From this perspective, the authors are engaged in a series of studies to elucidate the characteristics of friction stir welded joints for medium- to high-carbon steels, including high-strength tempered steel.

This report describes the results of applying friction stir welding to 1.4 GPa-grade tempered JIS-S55C steel plates. Five types of joints with different welding parameters were obtained by varying the joining parameters e.g. tool rotation speed or welding speed. The temperature of the FSW tool and material interface during friction stir welding was measured using a thermal imaging camera. The microstructure of the friction stir welded butt joint was evaluated by optical microscopy and FE-SEM / EBSD. The mechanical properties of the welds were evaluated by Vickers hardness test and tensile test, and DIC analysis was applied to analyze the details of local deformation during the tensile test. The effects of joining parameters on microstructure, microstructure of welds and mechanical properties of welds were examined in detail by properly conducting FE-SEM micro-observations, EBSD measurements.

1. 緒言

近年,二酸化炭素排出量削減を目的に,輸送機器構造材料の薄肉軽量化が求められている。このような観点から合金元素添加に頼らずに,調質により中・高炭素鋼に強度-延性を付与した革新構造材料の開発が推進されている14)。しかし,中・高炭素鋼は溶接時の熱履歴により機械的特性の劣化が惹起されることが知られており58),有効な代替接合プロセスの策定が課題となっている3,9,10)

有効性が期待される代替接合プロセスの一つに摩擦攪拌接合(FSW:Friction Stir Welding)がある。摩擦攪拌接合は,大気中で適用可能な固相接合プロセスの一つであり継手自由度が高い。また,接合ツールの回転速度と接合速度という2つの接合パラメータを制御することで入熱量の制御をインプロセスで実現できる利点も有する12,13)

摩擦攪拌接合の鉄鋼材料への適用についてはツールの耐久性などが課題となっていた14)。しかし,鉄鋼材料の接合に十分な強度・耐久性を有するツール材質・形状の開発に伴いそういった課題は解消にむかっている1518)。摩擦攪拌接合は,溶融溶接と比べて接合温度が低く,温度制御性が高いという特徴を有する。鉄鋼材料の摩擦攪拌接合においては,変態点を利用した継手接合組織制御の知見が充実しており1925),機械的特性に優れる継手作製という観点で期待が高まっている。様々な炭素鋼の接合パラメータと摩擦攪拌接合継手組織/特性に関する検討は,Fujiiらによる報告12,13,2630)に代表されるように,国際的にも関心が集まる研究領域になっている。しかし,合金元素をあまり含まない中炭素鋼材をベースに高強度・高延性を付与した鉄鋼材料を対象に摩擦攪拌接合を適用した検討は依然新規性の高い領域と考えられる。

このような観点から,著者らはJIS-S35C~S55Cに類型される中高炭素鋼(受入材/調質材)を対象とした摩擦攪拌接合継手特性の解明に関わる一連の研究に取り組んでいる31)。本報告ではJIS-S55Cを1.4 GPa相当に調質した鋼板に対し摩擦攪拌接合を適用した結果について報告する。接合パラメータ(回転速度 - 接合速度)を,100 rpm - 100 mm/min,200 rpm - 100 mm/min,300 rpm - 100 mm/min,400 rpm - 100 mm/minおよび400 rpm - 400 mm/minに変化させ,接合温度 / 熱履歴の異なる5種類の継手を対象に調査を行った。摩擦攪拌接合中の接合ツールと材料界面の温度を高機能型熱画像カメラにより測定した。摩擦攪拌接合継手接合部組織を,光学顕微鏡およびFE-SEM / EBSD(Electron Back Scattering Diffraction)により評価した。継手機械的特性についてはビッカース硬さ試験と継手引張試験により評価した。DIC(Digital Image Correlation)解析を適用することで引張試験中の局所変形の詳細についても解析した。なお,本報で解析対象とした継手を作製した接合条件をTable 2に示す。

Table 2. Friction stir welding conditions under which the welds investigated in this study were fabricated.
Welding parameters
Tool rotation speed (rpm)Welding speeed (mm/min)
(A)100100
(B)200
(C)300
(D)400
(E)400

2. 実験方法

2・1 供試鋼と摩擦攪拌接合条件

供試鋼にはJIS-S55Cを調質し引張強度を1.4 GPa相当とした薄鋼板を使用した。化学組成をTable 1に示す。Fig.1に示すように,本研究で用いた供試鋼は針状の焼戻しマルテンサイトを主体とする組織を有する。

Table 1. Chemical compositions of the test steel (mass%).
CSiMnPSCrCuNiFe
0.580.250.810.0170.0110.050.010.01bal.
Fig. 1.

Microstructure of the base metal (1.4 GPa-grade tempered JIS-S55C). (a) SEM micrograph image. (b) IPF image. (Online version in color.)

板材寸法を150L×28W×1.6t mmとしたこの材料に対し,摩擦攪拌接合を位置制御下で1パスの突合せ条件で実施した。接合温度の制御を目的にツール回転速度27)を100 rpm~400 rpmの範囲,冷却速度の制御を目的に接合速度13)を100 mm/min~400 mm/minの範囲で設定し,接合パラメータと継手組織および継手機械的特性の相関を調査した。接合ツールにはタングステンカーバイト(WC)製,プローブ付き円筒型・溝なし(ショルダ径12 mm,プローブ径4 mm,プローブ長1.4 mm)のものを使用した。ツール前進角を3°とし,接合中の高温酸化を抑制するためArシールドガスを使用した。摩擦攪拌接合中の接合ツールと材料界面の温度を高機能型熱画像解析カメラ(CHINO:CPA-T640)で監視し,接合パラメータと接合温度の相関を評価した。

2・2 継手組織評価

摩擦攪拌接合継手の接合部組織について,接合方向に対し垂直な断面から観察用試験片を採取し,光学顕微鏡(デジタルマイクロスコープ)によるマクロ観察,FE-SEM によるミクロ組織観察を実施した。組織評価に用いた試料表面は,マクロ観察の場合,湿式研磨後,常温の3% ナイタール液で7~10 s間のエッチング処理により準備した。ミクロ観察の場合,乾式研磨後,常温の過塩素酸-酢酸混合溶液電解液(HClO4:CH3COOH=1:9)中で,直流安定化電源装置により電圧を35 Vに設定し,10~30 s間の電解研磨処理により準備した。

2・3 機械的特性評価

ビッカース硬さ試験と継手引張試験により継手の機械的特性を評価した。ビッカース硬さ試験は,接合方向に垂直な断面を対象に,接合中心から両端にそれぞれ10 mmを測定範囲(隣接打点間隔0.5 mm×41打点)とし,継手表面から0.3 mm,継手板厚中心,継手裏面から0.3 mmの3つの測定区間を設定した。印加荷重は2.94 N,荷重保持時間は10 sとした。

引張試験は,Fig.2に示すように攪拌部を標点区間に設定した試験片(長手方向は接合線に対し垂直)を対象に試験を行った。試験時の温度は常温,クロスヘッドスピードは1.0 mm/minとした。試験中の変形挙動を高速度カメラ(Photron: FASTCAM SA-X)で撮影し,デジタル画像相関法(DIC: Digital Image Correlation)を適用し,応力-ひずみの相関,局所変形の分布を評価した。

Fig. 2.

Configuration of the transverse tensile test specimen used in this study.

3. 実験結果

3・1 摩擦攪拌接合試験

Fig.3に300 rpm - 100 mm/minの温度測定結果を一例として示す。縦軸は温度,横軸は時間に対応し,摩擦攪拌接合が実施された実時間を矢印区間で示している。温度測定は定点観察で実施しているため,接合ステージ稼働時に,ステージに付設された拘束治具が視界に回り込む等の影響で計測ができない区間が一部に存在する。しかし,接合開始から接合中の温度はやや上昇傾向を示すもののほぼ定常であることが示されている。このような計測結果をもとに接合時間中の計測最高温度を赤▽で特定した。同様の解析を他の接合条件の結果についても実施し,接合最高温度としてFe-Fe3C状態図上に整理したものをFig.4に示す。熱画像解析の対象情報はツールショルダ外縁の赤熱部に由来するが,400 rpm-100 mm/minの条件で1175°Cと最も高く,300 rpm - 100 mm/minで1108°C,400 rpm - 400 mm/minで1051°C,200 rpm - 100 mm/minで991°C,100 rpm - 100 mm/minで769°Cとなり,総じて回転速度の増加に接合温度の大きさが良く反映される傾向が確認された。

Fig. 3.

An example of temperature measurement results during FSW conducted with a thermal image analysis camera. (Thermal profiles was analyzed at the heated reddish area at the outer edge of the rotating tool shoulder.) (Online version in color.)

Fig. 4.

Super imposed plots of measured peak welding temperatures under various welding conditions superimposed on the Fe-Fe3C thermal equilibrium diagram. (Online version in color.)

3・2 断面マクロ観察

接合断面の光学顕微鏡(デジタルマイクロスコープ)によるマクロ組織観察結果をFig.5に示す。観察はナイタールによるエッチング後に実施した。攪拌部は全ての条件で裏面に到達し外観観察でも裏波が形成されている様子が確認された。いずれの断面もキッシングボンド,あるいはボイドなどの欠陥がない健全な組織が形成されている。回転速度が小さい100 rpm - 100 mm/min,接合速度が大きい400 rpm - 400 mm/minの各条件では,裏面側の攪拌領域が狭くなる傾向が顕著であり,それぞれ入熱が抑制気味であったこと,接合プロセス中の表面側と裏面側の温度勾配が大きくなったことを示唆している。本検討で設定した接合条件においては,攪拌部内には組織の変遷を示唆する色調の遷移の現出や,ツール摩耗を示唆するバンド組織32,33)の形成は見られなかった。

Fig. 5.

Digital microscopic images of a transverse section of the friction stir butt welds at various welding conditions. (A.S. is placed on the right side.) (Online version in color.)

3・3 ビッカース硬さ試験

Fig.6に各接合条件で得られたFSW継手断面のビッカース硬さの分布を示す。硬さ分布は260 HV~450 HVの領域を10階調の色調で区分したカラー二次元マップとしている。接合界面を中央に配置し右側が前進側(Advancing Side: A.S.),左側が後退側(Retreating Side: R.S.)に対応している。攪拌部から十分に遠い位置に存在する領域を母材領域と捉えると,母材の硬さは約400 HV程度であることが確認できる。400 rpm - 400 mm/minの条件では,攪拌部中心では母材に対して250 HV程度の硬化が確認されたが,他の条件では,むしろ攪拌部の方に母材よりも約50~100 HV程度軟化する傾向が確認された。また,全ての接合条件で攪拌部外縁付近に硬さが最小値を示すHAZ軟化を示唆する領域が形成されていた。ただし,300 rpm - 100 mm/minの条件では,このような軟化域の分布が,他の条件に比べてやや狭くなる傾向を示した。

Fig. 6.

Vickers hardness distribution around the friction stir butt welds of the test steel at various welding conditions. (Online version in color.)

3・4 継手引張試験

引張試験中に高速度カメラで取得した画像データを基にくびれ開始時のひずみ分布をDIC解析した結果をFig.7に,DIC解析情報を基に作成した応力ひずみ線図をFig.8に示す。なお,ひずみ分布の解析のためのソフトウエアにはMSYS: GOM correlateを使用した。

Fig. 7.

DIC observation images in the tensile tests of the each specimens obtained from the friction butt welds at various conditions (Color difference show strain distribution at the start point in time when necking started.) (Online version in color.)

Fig. 8.

Nominal stress–strain curves of the friction stir butt welds of the test steel at various welding conditions and base metal in static tensile tests. (Online version in color.)

Fig.7に示すDIC解析結果は,後退側(R.S.)を上側になるように配置し,ひずみの大小を12階調の色調で表現している。ひずみが大きい領域ほどは暖色で示されている。回転速度が300 rpm以下の条件では8%を超える明確な局所ひずみを示す領域の分布が確認できるが,回転速度が400 rpm以上の条件では局所ひずみを示す領域はほぼ形成されていない状況が確かめられた。この傾向はFig.8の応力ひずみ線図において,延性破壊的な挙動を示す300 rpm以下の接合条件と,脆性破壊的な挙動を示す400 rpm以上の接合条件との違いとしても明確に示される。継手効率が母材引張強度比70%を超えた300 rpm - 100 mm/minと400 rpm - 100 mm/minの条件は,いずれも接合温度が高い値を示した条件であった。低温を志向した接合パラメータ:100 rpm - 100 mm/minの条件や,大きめの冷却速度を志向した400 rpm - 400 mm/minの条件は,継手効率の確保には優位にならなかった。

3・5 断面ミクロ観察

Fig.9に各接合条件で得られた継手攪拌部中央(接合界面における攪拌部深さ中央)の断面SEM観察像を示す。観察は過塩素酸-酢酸混合溶液電解液による電解研磨後に実施した。接合温度が低い方の条件から言及すると,100 rpm - 100 mm/minの条件では暗い色調で示されるフェライトと,明るい色調で示されるベイナイトの二相組織の存在している様子が観察できる(4・1で考察)。200 rpm - 100 mm/minの条件では,やや白みを帯びたマルテンサイトと,黒みを帯びたフェライト,そして一部にはパーライトが観察できる。300 rpm - 100 mm/minの条件では,マルテンサイトとベイナイトの2つの組織で表面が覆われている様子が捉えられている。400 rpm - 100 mm/minの条件では,300 rpm - 100 mm/minの条件と同様にマルテンサイトとベイナイトからなる組織が観察されたが,分率としてはマルテンサイト量が多くなる印象を示した。冷却速度が大きくなることを志向した400 rpm - 400 mm/minの条件では,マルテンサイト分率が圧倒的に大きくなる傾向が確認された。以上を総合すると,200 rpm以上の条件ではマルテンサイトが出現すること,200 rpmの条件ではラメラ状の形態を示すパーライトが生成されている傾向が顕著であるが,300 rpm以上の条件ではこのような傾向は弱まりベイナイトが生成されている傾向が確かめられた。

Fig. 9.

Cross-sectional SEM images of the center zone of the friction stir butt welds obtained at various welding conditions. (F: ferrite, P: pearlite, B: bainite, M: martensite)

4. 考察

4・1 攪拌部組織に及ぼす接合パラメータの影響

Fig.10にEBSD(Electron Backscatter Diffraction)測定で取得した攪拌部中央断面のIPF像を示す。測定は,加速電圧20 kV,照射電流35 nA,ステップサイズ0.1 μm,1視野あたりの測定範囲を20 μm×20 μmとして実施した。隣接測定間の結晶方位が3~15°の小角粒界を赤線,15°以上の大角粒界を黒線で示した。また,図中の上下方向がND,左右方向がTDとそれぞれ平行になるように配置した。100 rpm - 100 mm/minでは観察視野内に広く微細で等軸な組織が分布している様子が観察された。この条件は,本検討において接合温度がA3変態点近傍に測定された唯一の条件である。摩擦攪拌接合時の被接合材の温度測定においては,最表層と裏面との間には薄板の場合でも凡そ100°C程度の温度勾配があるとする報告もある28)。以上示したように,この条件は比較的低温領域で接合が実施されていたため,攪拌部組織には動的再結晶による微細な等軸組織が形成されている様子が顕著に見られる。ただし,Fig.9(a)に示される二つのコントラストは,暗い色調で示されるフェライトと明るい色調で示されるベイナイトの二相組織の存在を印象付ける。その理由として,これらの組織は摩擦攪拌中,二相領域となった条件下で変態し,微細なフェライト粒と微細なオーステナイト粒を生成していたと想定されること。このとき,鋼中の固溶炭素が,オーステナイト粒への濃化34)が促されると推定されること。炭素のオーステナイト粒への濃化は,焼入れ性を向上35)させるため,変態生成物がベイナイトとして形成されやすくなると推定されること。などを考察している。一方,200 rpm - 100 mm/min,300 rpm - 100 mm/min,400 rpm - 100 mm/minの各接合条件は,A3変態点よりも十分に高い接合温度として測定された。これらのIPF像には粒内方位差の変遷を示す再結晶粒が捉えられている。これらは,接合過程で母材中のマルテンサイトはオーステナイト変態し,動的再結晶オーステナイト粒が形成され,オーステナイトは冷却過程で再びマルテンサイト変態した組織と判断される。これらの組織の粒径は,回転速度の大きい条件ほど粗大化傾向を示しており,入熱量が増加した影響を反映した結果と考えられる。また,攪拌部下部では結晶粒が粗大化する傾向が示されるが,これについてはバックプレートにより冷却が抑制気味になった影響であると考察される。Fig.9で示したように,これらの継手組織はパーライトまたはベイナイトといった組織がマルテンサイト組織中に分散する共通の特徴を呈していたが,パーライトの出現は200 rpmの条件で顕著であるが,300 rpm以上の条件からはベイナイトが顕著となる。これら観察組織の特徴は,200 rpmの条件の攪拌部の硬さが300 rpm以上の条件における攪拌部の硬さよりもやや軟化を示す傾向(Fig.6)とも一致する。これらの接合条件はA3変態点よりも十分に高い接合温度で接合されたため,この時,焼戻しマルテンサイト組織を基本とする母材組織が,接合時には完全にオーステナイト化したと予想されることに関しては前述したとおりであるが,この接合プロセスを経た組織の形成には接合最高温度と冷却速度が影響したと考えられる。すなわち,これらの条件は接合速度が同じであるため,以下に示す冷却に関するNewtonの法則(1)に従い,接合最高温度の違いは冷却速度の違いとして組織形成に影響を及ぼしたと予想される。

  
dTdt=k(TT0)(1)
Fig. 10.

IPF images of the of the center zone of the friction stir butt welds obtained by EBSD measurement. (Online version in color.)

式中のkは定数係数であるため,環境温度:T0に対する物体表面温度:Tが大きいほど単位時間当たりの温度変化 dT⁄dt(ここでは冷却速度)が大きくなる。これより,接合温度が高い条件では冷却速度が大きくなるため硬質相(ベイナイト-マルテンサイト)の形成が促されやすい状況となり,逆に,溶接温度が低い条件では冷却速度が小さくなるためパーライトの形成が促されやすい状況になると考えられる36)。さらに,本検討ではベイナイト-マルテンサイトの組織を示した400 rpm-100 mm/minと300 rpm-100 mm/minの二条件において,400 rpm-100 mm/minの方で結晶粒径が粗大化している傾向(Fig.10(c),(d))が示されており,接合最高温度が高い影響を示唆する結果が示されている。この特徴は,オーステナイト化温度が高いほど,オーステナイト粒が粗大化するため粒界面積が小さくなり,フェライトやベイニティックフェライトの核生成が低減されるとする指摘37)とも合致している。このような検証に従うと,各条件の生成組織の特徴は,温度測定の実測値の高低に良く整合している。これより,本供試鋼を対象とした摩擦攪拌接合においては,ツール回転速度(接合パラメータ)の制御が,オーステナイトの結晶粒径や冷却速度を通して,攪拌組織内の低温変態生成物の制御に有効に機能したことを示している。これまでに言及した4つの接合条件に対し,大きめの冷却速度を志向した400 rpm - 400 mm/minの条件のIPF像は,針状マルテンサイト組織を主体に粒内方位差を有する等軸的なベイナイト組織が混在する特徴を示している。攪拌部において母材よりも硬さが増加する傾向は,硬質のマルテンサイトが攪拌領域内に広範に形成されていたことを示唆する。一方で,他の4つの接合条件で形成された攪拌部の組織は,母材の焼戻しマルテンサイト組織と比較し,硬さが低位となることも理解できる。また,400 rpm - 400 mm/minの条件で得られた継手は,後述する継手引張試験で,唯一接合界面近傍での破断となり,継手効率・伸びのいずれにおいても優位な傾向は示されなかった。これについては,次節で考察する。

4・2 継手組織と力学的特性

Fig.7のDIC解析画像中に示した赤◁は,試験終盤に試験片に破断が発生した位置に対応している。同試験終了後に試験片を回収し,接合中心,つかみ部などの基礎情報および高速度カメラ撮影画像を参考に破断位置を調査した。これより,100 rpm - 100 mm/minの条件では接合中心から2 mm,200 rpm - 100 mm/min,300 rpm - 100 mm/minの各条件では中心から2.5 mm,400 rpm - 100 mm/minの条件では中心から4 mm,さらに400 rpm - 400 mm/minの条件では中心から1 mmの位置を破断位置として特定した。特定情報を参考に,引張試験片を採取したものと同一の継手部材から新たに観察用試験片を準備し,破断位置とほぼ同じ座標と推定される領域を対象にSEM観察した結果をFig.11に示す。観察は過塩素酸-酢酸混合溶液電解液による電解研磨後に実施した。接合温度がA3変態点以下と推定された100 rpm - 100 mm/minの条件では,Fig.11(a)に示すように微細な等軸フェライト組織とセメンタイトから成る組織が全観察視野を支配している様子が確認できる。ここで,球状セメンタイトと推定される微粒子が粒界上に分散している様子が攪拌中心との違いとしてはっきりと示されている。硬さ試験では,接合中心から1 mm程度離れたこの領域を起点に,軟化域が攪拌領域外縁に向かって進展する様子が確かめられている。したがって,ここでの軟化域の形成は,動的再結晶フェライトと球状セメンタイトの析出に起因したものと考察される。100 rpm - 100 mm/minの条件で得られた継手は,軟質なフェライト相の生成により母材を上回る延性は確保できている。しかし,微細化は起きているとはいえ,組織そのものの強度は母材性能をかなり劣化させており,継手効率も低い結果を示した。一方で,継手組織の硬化は,実施条件の中で回転速度および接合速度が共に最大の400 rpm - 400 mm/minでのみ確認された。この原因が,攪拌部に広範なマルテンサイトを主体とする組織に由来することは,Fig.11(e)に示した組織観察の結果からも明らかである。母材のマルテンサイトは,摩擦攪拌接合中に昇温しオーステナイト域で攪拌され動的再結晶オーステナイトを形成するが,その後の比較的速い冷却過程で再びマルテンサイトへ変態したものと考察される。攪拌領域は硬いマルテンサイトによって支配されており,母相の焼戻しマルテンサイト組織が有した特徴は完全に失われている。この組織形態の違いは,Fig.8に示したように本供試鋼板の高強度で比較的延性に優れるという機械的特性を大きく損失させる点に明確に反映されている。すなわち,400 rpm - 400 mm/min の条件の継手は,延性破壊的な挙動を一切示さずに,引張強度も本実験中で最小の値を示したこれらに対し,Fig.11(b), (c), (d)に示すように200 rpm - 100 mm/min,300 rpm - 100 mm/min,および400 rpm - 100 mm/minの条件では破断位置に対応した組織はパーライトが主体でベイナイトが混合した複合組織としての特徴が明確に示されていた。ここで,引張試験後の破面の調査結果をFig.12に示す。継手の破断位置は,100 rpm - 100 mm/minの条件を除いては,継手最軟化部に対応していない。これには,試験片の評点区間の設定上,最軟化部を評点区間に設定できないことも一因である。しかし,Fig.12に示すように300 rpm - 100 mm/minおよび400 rpm - 100 mm/minの二つの条件において,両者の破面形態に大きな違いが確認されたことに注目したい。300 rpm - 100 mm/minの条件で作製された継手の破面の巨視的形態にはシャーリップ,微視的形態にはディンプルといった延性破壊の特徴が示されているのに対し,400 rpm - 100 mm/minの条件では巨視的形態にはへき開破面,微視的形態にはリバーパターンを示す明確な脆性破壊の特徴が示された。これらの破断位置に対応した継手組織はFig.11(c), (d)に示したように,いずれもパーライトが主体でベイナイトが混合した複合組織としての特徴が明確に示されていた。しかし,延性破壊を示した300 rpm - 100 mm/minで得られた継手の組織においてパーライト,ベイナイトの緻密さが大きくまさる特徴が確かめられる。この条件の接合最高温度は1108°Cで,400 rpm - 100 mm/minの条件(1175°C)よりも60°C程度低く制御されており,この僅かな温度の違いが両者の硬さ分布の違いにも影響を与えたと考えられる。すなわち400 rpm - 100 mm/minの条件において最軟化の度合い,軟化部の規模の双方において300 rpm - 100 mm/minの条件を上回る傾向が示された。一方,継手破断位置に注目すると300 rpm - 100 mm/minの条件の破断位置(中心から2.5 mm)は攪拌部内の均一な硬さを示す領域に特定できるが,400 rpm - 100 mm/minの条件の破断位置(中心から4 mm)は攪拌部からHAZへの遷移域近傍に特定される。両者の接合中心から破断位置までの距離の違いを考慮すると,400 rpm - 100 mm/minの条件の破断位置では300 rpm - 100 mm/minの破断位置よりも,接合中の温度が相対的に低く,冷却速度も相対的に小さくなることが予想される。したがって,相対的に冷却速度が大きい300 rpm - 100 mm/minの破断位置では,攪拌部組織中には緻密なセメンタイト相/フェライト相による複合組織(ラメラパーライト組織)が形成され,引張試験における強度・延性ともに優位な結果へと結びついたものと考える。この特性は,セメンタイト相/フェライト相の間隔の緻密さが鋼の高強度化に寄与するとする従来報告38,39)とも良く一致している。しかしながら,これら二つの条件で,何故,破断位置が大きく異なったのかについては現在不明であるため今後の検討の中で明らかにしていきたいと考えている。

Fig. 11.

SEM micrograph area image of a microstructure of friction stir butt welds fractured position newly sampled specimen from FSW joint with reference to information on tensile test specimen.

Fig. 12.

Optical macrograph and SEM micrograph images of the fracture surface confirmed in the test specimen at different tool rotating speeds and a constant welding speed. (Online version in color.)

本検討で調査対象とした5条件の接合パラメータにおいて,供試鋼の摩擦攪拌接合継手中の組織や相比(パーライト,ベイナイト,マルテンサイトの形態や分率)の大まかな傾向,および継手の機械的特性を把握することができた。同材の継手の機械的特性の維持・向上という観点において,接合温度をA3変態点よりもある程度高い領域に設定することで,継手中央にはベイナイトとマルテンサイト組織を共存させ,評点区間内には緻密なセメンタイト相/フェライト相による複合組織(ラメラパーライト組織)を形成させることで,継手効率と延性を高いレベルで維持できることを確認した。本検討では,特に,300 rpm - 100 mm/minの条件で得られた継手組織は,継手効率,延性の確保に有効に機能していた。これより,このような組織の形成は,調質した中高炭素鋼材における継手特性の向上に有効な組織を設計する上で,有効な組織制御の一形態であると結論付けられる。

5. 結言

JIS-S55Cを1.4 GPa相当に調質した鋼板に対し摩擦攪拌接合を適用し,以下の知見を得た。

(1)接合パラメータの異なる条件で摩擦攪拌接合継手を作製し,検討対象とした全ての摩擦各館接合条件で,1.4 GPa級の焼入れ焼戻しした0.55Cのマルテンサイト鋼の健全な突合せ継手を得ることができた。

(2)温度測定と組織解析の結果から,相対的に低い接合温度を志向した100 rpm - 100 mm/minの条件では,接合温度がA3変態点以下であったこと,それ以外の全ての条件はA3変態点以上の接合温度である事を確認した。また,相対的に大きな冷却速度を志向した400 rpm - 400 mm/minの条件では,継手組織中のマルテンサイトの分率が圧倒的に大きくなる様子が確認され,攪拌部の硬さも唯一増加傾向を示した。

(3)100 rpm - 100 mm/minの条件で得られた継手は,微細な等軸粒を主体とした組織になったが,微細化後の組織の硬さは母材よりも小さく,攪拌中心から2 mm離れた付近では粒界に微細なセメンタイトが析出し,軟化域の形成の原因となっている様子が確かめられた。

(4)200 rpm - 100 mm/min,300 rpm - 100 mm/min,および400 rpm - 100 mm/minの条件では,パーライトあるいはベイナイトの複合組織とマルテンサイトが共存する継手組織が形成されていることが確認された。これらの条件においてマルテンサイトの分率の増加,べイナイトの形成は,回転速度が300 rpm条件で顕著となった。

(5)調査対象とした5条件中で,引張強度・伸びの双方で300 rpm-100 mm/minは母材の性能を良く維持しており,破面もディンプル形状を示すとともに,継手効率も母材引張強度比70%以上を示した。この継手の破断位置に対応する組織は,緻密なセメンタイト相/フェライト相の複合化組織(ラメラパーライト組織)を形成していた。このことから,このような組織の形成は,調質した中高炭素鋼材における継手の機械的特性の改善・維持に,有効な組織制御の一形態であるとの指針を得た。

謝辞

この成果は,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合 開発機構(NEDO)の再委託業務の結果得られたものである。ここに謝意を表する。

文献
 
© 2022 The Iron and Steel Institute of Japan

This is an open access article under the terms of the Creative Commons Attribution license.
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
feedback
Top