Tetsu-to-Hagane
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Fundamentals of High Temperature Processes
Viscosity of Na–Si–O–N–F Melts: Mixing Effect of Oxygen, Nitrogen and Fluorine
Sohei Sukenaga Masayuki OgawaYutaka YanabaMariko AndoHiroyuki Shibata
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2022 Volume 108 Issue 3 Pages 175-190

Details
Abstract

Fluorine and nitrogen are important elements of metallurgical slags and fluxes. Studies on their viscosity have often focused on the additive effect of fluoride and nitride compounds (e.g., CaF2 and Si3N4), whereas the influence of anionic composition (i.e., oxygen, fluorine and nitrogen concentrations) with a fixed cationic composition remains unclear. The present study reports the scarcely quantified viscosity variations due to changes in the anionic composition of a simple sodium silicate system by rotating crucible method under a controlled atmosphere. 29Si magic-angle spinning nuclear magnetic resonance (MAS NMR) spectroscopy was used to characterize the structural changes against varying nitrogen and fluorine concentrations in the quenched glassy sample. The observed change in the local silicon structure was consistent with the expected variation from the conventional structural roles of nitrogen and fluorine in silicate glasses: nitrogen atoms tend to bond with silicon atoms, whereas fluorine atoms prefer to exist in surrounding sodium cations. Moreover, nitrogen tends to increase the viscosity, whereas fluorine strongly decreases the viscosity of the sodium silicate melts even with the enhancing effect of the latter on the polymerization of silicate anions. The viscosity of silicate melts has been commonly related to the overall polymerization degree of the liquid. However, the viscosity of fluorine-containing silicates cannot be explained by this conventional scenario. Fluorine ions tend to loosely bond with sodium cations. These sodium–fluorine complexes played a strong lubricant role in the network liquids.

1. 諸言

ケイ酸塩融体の物性は,高温下で行われる金属製精錬やガラス製造などの工業プロセスを制御する上で重要である。中でも鋼の連続鋳造プロセスでは,ケイ酸塩融体(モールドフラックス)が鋳型と鋳片の間の潤滑性確保や鋳片の冷却速度制御のための役割を担っている。そのため,ケイ酸塩融体の物性(例:粘度,表面張力,熱伝導度)が半製品の質や連続鋳造プロセスの安定性に直接的に影響する13)。例えば,ケイ酸塩融体による鋳型/鋳片間の潤滑性能は,融体の粘度に強く依存しており,モールドフラックスの機能性を設計する際に粘度の組成および温度依存性のデータは不可欠である。単成分や二成分系融体(例えば,アルカリまたはアルカリ土類ケイ酸塩)の粘度については,長く研究されてきた4,5)。しかしながら,実際のモールドフラックスは様々な成分を含む多成分系であり,最近では,三成分系以上の多成分系を対象とした測定が進められている68)。また,モールドフラックスには粘度や結晶化挙動の制御のため,多くの場合,酸化物成分(例:CaO,Na2O,K2O)だけでなく,フッ化物(例:CaF2,NaF)も添加されることが多い914)

融体の粘度や構造に及ぼすフッ化物成分添加の影響解明は,高温冶金学の研究分野において工業的にも学術的にも重要な課題であり,多数の報告がなされている15,16)。融体中でのフッ化物イオンの役割を融体の陽イオン組成変化の影響から独立して理解するため,CaOとCaF2のモル比を変化させた際の粘度変化を議論している報告がいくつか存在する1719)。最近では,モールドフラックスの粘度やレオロジー挙動を変化させる添加剤として窒化ケイ素(Si3N4)が検討されており,窒化ケイ素を添加したオキシナイトライド融体の一部では非ニュートン流体としての挙動が報告されている2022)。一方で,オキシナイトライド融体における非ニュートン性の発現機構は不明である。窒化ケイ素は,ガラス材料の特性改善のための添加剤としても用いられており23),ガラス科学分野では陽イオンの組成比を一定とした際の陰イオン組成(酸化物イオンおよび窒化物イオンの構成比)がガラスの特性に及ぼす影響が調査されている24)。この組成設計のコンセプトは,酸化物イオン,フッ化物イオンおよび窒化物イオンのそれぞれが粘度に与える影響を明らかにするのに有用である。Hanfiら25)は,室温におけるカルシウムアルミノケイ酸塩ガラスの物性に及ぼす酸化物イオン,フッ化物イオンおよび窒化物イオンの構成比の影響を明らかにしている。一方で,著者らの知る限り,ケイ酸塩融体中のフッ化物と窒化物イオンが粘度に与える影響の違いを定量的に比較した例はない。

ケイ酸塩融体の粘度に関する研究は,陽イオン組成の影響に関するものが多く,陽イオン組成を固定した条件下における融体の粘度やレオロジー特性に与える陰イオンの構成比の影響に関する知見は少ない。粘度の陰イオン組成依存性に関する知見は,モールドフラックスの組成設計やケイ酸塩融体の粘度推測モデルを構築する上で重要である。本研究では,ケイ酸塩融体の粘度やレオロジー挙動に対する陰イオン組成(すなわち,酸化物,窒化物およびフッ化物イオンの構成比)の影響を系統的に調査することを目的とする。実際のモールドフラックスや精錬スラグは,カルシウムアルミノケイ酸塩を基本組成とするのが一般的ではあるが,本研究ではアルミナを含む系よりも構造が単純なナトリウムケイ酸塩系を母組成とした。また,陰イオン組成を変化させた場合の融体構造の変化については,同ガラスを対象とした29Siおよび19F magic-angle spinning nuclear magnetic resonance(MAS–NMR)分光法により調査を行なった。

2. 実験方法

2・1 試料作製

ナトリウムダイシリケート(Na2O·2SiO2,以降NS2と呼称)を基本組成とした。NS2の陽イオン組成(すなわちナトリウムとケイ素の量比)を一定に保った状態で,酸化物,窒化物およびフッ化物イオンの構成比を変化させるため,化学組成をequivalent%(eq%,当量%)で表記した。この化学組成の考え方は,それぞれのイオンの原子分率と電荷数を考慮しており,陽イオンの組成から独立して陰イオンの組成を決定することができる26)。例えば,Na–Si–O–N–F系における酸素(O),窒素(N),およびフッ素(F)のeq%組成は,次式(1)(3)により求めることができる。

  
O(eq%)=2CO2CO+CF+3CN×100(1)
  
N(eq%)=3CN2CO+CF+3CN×100(2)
  
F(eq%)=CF2CO+CF+3CN×100(3)

ここで,CO,CNおよびCFはそれぞれ酸素,窒素およびフッ素の原子分率(at%)を示している。同様に陽イオン成分のeq%濃度もナトリウムおよびケイ素のat%濃度から計算可能である。Table 1(a)に粘度測定に用いた試料の化学組成を示した。試料名はNS2–xN–yFと表記し,xとy はそれぞれ窒素とフッ素の濃度(eq%)を示している。フッ化物や窒化物成分との対応をわかりやすくするためTable 1(b)にそれぞれの化合物成分の配合組成(mol%)を示した。また,Fig.1では,それぞれの組成をNa2O·2SiO2–Na2O·2SiN4/3–Na2F2·2SiO2 擬三元系状態図上に示した。溶融過程において試料からの窒素やフッ素の揮発を最小化するために,二元系ナトリウムケイ酸塩系の母ガラスを予め作製した。試薬粉末のSiO2およびNa2CO3を所定の割合で混合した。この混合粉末を白金るつぼに入れ,1673 Kの大気中にて10 min溶融し,溶融後の試料融液を銅板上で急冷した。得られた二成分系ガラスを粉砕し,配合組成となるように試薬粉末のNaFおよびSi3N4を混合した。さらに,いずれの組成においてもケイ素-29(29Si)MAS NMR測定におけるスピン-格子緩和を促進するため,Fe2O3を0.1 mass%添加した27)。混合粉末の溶融条件をTable 2に示した。酸化物や酸フッ化物系試料の溶融では,白金るつぼを使用した。窒素を含有する試料の溶融には,窒化ホウ素(BN)で被覆した黒鉛るつぼを使用した。溶融後の試料は,電気炉から取り出し,銅板状で急冷した。得られた急冷試料を粘度測定およびMAS NMR測定に使用した。

Table 1. (a) Nominal and analyzed compositions of the samples for viscosity measurements. The concentrations of each element are displayed in eq%. (b) Nominal composition of the samples in mol%.
(a)
ElementSiNaONF
NS2Nominal80.219.8100
Before Measurement80.219.8100
After Measurement80.319.7100
NS2–6NNominal80.219.8946
Before Measurement82.317.796.43.6
After Measurement84.115.998.31.7
NS2–12NNominal80.219.88812
Before Measurement83.017.093.56.5
After Measurement85.514.595.14.9
NS2–6FNominal80.219.8946
Before Measurement81.518.596.63.4
After Measurement81.118.996.23.8
NS2–12FNominal80.219.88812
Before Measurement81.218.891.98.1
After Measurement81.618.495.74.3
NS2–3N–3FNominal80.219.89433
Before Measurement81.618.494.43.52.1
After Measurement84.215.897.51.31.2
NS2–6N–6FNominal80.219.88866
Before Measurement81.618.490.35.74.0
After Measurement83.516.592.74.82.5
NS2–12N–12FNominal80.219.8761212
Before Measurement82.717.382.19.98.0
After Measurement86.413.689.47.82.8
(b)
Na2OSiO2SiN4/3Na2F2
NS233.067.0
NS2–6N33.062.14.9
NS2–12N33.056.910.1
NS2–6F23.266.99.9
NS2–12F12.867.020.2
NS2–3N–3F28.064.52.55.0
NS2–6N–6F23.261.85.010.0
NS2–12N–12F13.056.910.120.0
Fig. 1.

Nominal compositions of the samples in Na2O·2SiO2– Na2O·2SiN4/3–Na2F2·2SiO2 pseudo ternary diagram. The compositions of fluoroxynitrides are located on the line at the Na2O·2SiN4/3/(Na2F2·2SiO2+ Na2O·2SiN4/3) molar ratio of 0.2.

Table 2. Melting conditions of the samples.
SampleNS2NS2–6N
NS2–12N
NS2–6F
NS2–12F
NS2–3N–3F
NS2–6N–6F
NS2–12N–12F
AtmosphereAirN2ArN2
Melting temperature1673 K1673 K1473 K1673 K
Melting time10 min60 min10 min60 min
CruciblePtBN-coated graphitePtBN-coated graphite

2・2 粘度測定装置

試料の粘度は,るつぼ回転法により決定した。Fig.2に本研究で新たに導入した雰囲気制御可能なるつぼ回転式粘度測定装置の模式図を示した。この装置は,主に加熱システム,トルクメーターおよび(るつぼの)回転系の3つの部分で構成されている。試料の加熱には,U字型二ケイ化モリブデン(MoSi2)発熱体を6本使用し,炉内中心部の最高到達温度は1823 Kである。るつぼ全長(27 mm)における温度のばらつきは±1 K以内であった。試料近傍の温度計測には,るつぼ底面に設置した校正済みのR-type熱電対を使用して計測した(see Fig.2(b))。電気炉上部に設置したトルクメータ(ONO SOKKI CO. LTD, Japan, MD-201C)により,るつぼを回転させた際に内筒端面にかかるトルクを計測した。電気炉内部を炉外雰囲気から隔てるため,トルクメーターをステンレス製の風防で覆った。るつぼは,アルミナ管を介してモータに接続されたモーターにより回転させた(Fig.2(a))。ゴム製のリングを用いることにより,アルミナ管が回転する際も気密性を保つことが可能となっている。

Fig. 2.

Schematic illustrations of (a) the viscometer and (b) the dimensions of crucible and bob. (Online version in color.)

回転円筒法では,内筒端面にかかるトルクと粘度(η)は,式(4)により関連付けることができる4)

  
η=M8π2Vd(1ri21rO2)(4)

ここで,Mは検出されるトルクの値,Vは1秒間あたりのるつぼの回転数,dおよびriはそれぞれ内筒の浸漬深さと半径,rOはるつぼの内径である。式(4)は,無限に長い円筒を仮定した式であり,実際には,るつぼ底面が検出トルクに及ぼす影響を最小化するため,dの値の最適化が必要となる。Fig.3(a)は,dを変化させた場合の検出トルクを示している。dが内筒(bob)の高さである8 mmを超えるとおおよそ一定となることがわかる。本研究では,dの値として10 mmを選択した。高温での測定開始前に,粘度計を室温のシリコーンオイルを用いて検定した。Fig.3(b)に検出されたトルクとシリコーンオイルの粘度の相関関係を一例として示す。この直線関係を用いることにより試料融体の見かけの粘度(η')を求めることができる。本研究では,各試料の粘度測定前に4種類のシリコーンオイルを使用し,0.5から30 Pa·sの粘度範囲の検量線を作成した。なお,検量線作成時のるつぼの回転速度は,40,50および60 rpmとした。昇温時には,るつぼと内筒(bob)の熱膨張の影響を考慮する必要がある。そのため,式(5)28)によりコンタクトマテリアル(るつぼと内筒(bob))の熱膨張の影響を補正し,試料の粘度を決定した。

  
η=η(1+αT)3(5)
Fig. 3.

(a) Evolution of the detected torque with different bob immersion depth in a silicon oil with a viscosity of approximately 3 Pa·s and crucible rotating speed of 60 rpm. (b) Typical relationship between the detected torque and viscosity of silicone oil.

ここで,ηは粘度,αはコンタクトマテリアルの熱膨張係数(すなわち,Pt–20mass% RhまたはMo),T絶対温度である。酸化物および酸フッ化物融体の測定にはPt–20mass% Rh製のコンタクトマテリアルを使用し,窒素を含む試料にはMo製のコンタクトマテリアルを使用した。αの報告値29,30)を粘度の算出に使用した。回転円筒法では,測定可能な試料の粘度範囲がトルクメータの計測感度やコンタクトマテリアルの形状,るつぼの回転速度に大きく依存する。Fig.2に示した実験のセットアップで計測可能な粘度範囲は,るつぼの回転速度を40–60 rpmとしたときに0.1–50 Pa·sである。本測定法の高温における計測への適用性を検証するため,高温用粘度標準物質(SRM2)31)の粘度計測を実施した。SRM2の化学組成をTable 3に示す。SRM2組成のガラスを溶融法により作製し,1673 Kから1373 Kの温度範囲において降温過程での粘度測定を行なった31)

Table 3. The composition of the SRM2 in mass%.
SiO2Al2O3Li2OK2ONa2OCaOMgOTiO2P2O5
63.714.420.60.130.400.40< 0.1<0.1<0.1

2・3 粘度測定

Table 4に粘度測定の条件を示した。Na–Si–O–N–F系試料を粉砕し,Pt–20mass% RhまたはMo製のるつぼに入れた。試料を炉内にセットし,加熱開始前に試料の組成応じて炉内雰囲気を所定のガスで置換した。その後,試料を最高測定温度まで昇温し,Pt–20 mass% RhまたはMo製の内筒(bob)を試料液面から10 mm浸漬した。るつぼを40,50および60 rpmにて回転させ,内筒にかかるトルクを計測した。それぞれの回転速度において4回の計測を行い,その平均値を粘度の算出に使用した。トルクの繰り返し測定におけるばらつきは±1%以内であった。粘度測定は,25または50 K間隔にて,降温過程において実施した。なお,粘度測定の下限温度は1373 Kとした。得られた各試料の粘度データをTable 5にまとめて示した。粘度測定終了後に,試料を粘度測定の最高温度まで再加熱し,10分間溶融した。その後,るつぼを電気炉下部より取り出し,試料融体を銅板上に流し出し,急冷した。得られた急冷試料の化学組成を分析し,粘度測定前の試料組成と比較した。試料中のケイ素,ナトリウム,フッ素およびモリブデン濃度を化学分析により決定した。ケイ素およびモリブデン濃度は誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES),ナトリウム濃度は原子吸光分光法,フッ素濃度は吸光光度法によりそれぞれ決定した。加えて,窒素濃度は燃焼法により評価した32)。これらの分析により得られた化学組成をTable 1(a)に示した。

Table 4. Experimental condition for viscosity measurements.
SampleNS2NS2–6N
NS2–12N
NS2–6F
NS2–12F
NS2–3N–3F
NS2–6N–6F
NS2–12N–12F
AtmosphereAirN2ArN2
Maximum temperature for measurements1673 K1773 K1673 K1773 K
Contact materialPt-20RhMoPt-20RhMo
Sample weight50 g
Immersion depth of inner cylinder10 mm
Revolution speed of crucible40, 50, and 60 rpm
Table 5. Measured viscosity data in the present study at a crucible rotating speed of 60 rpm.
NS2NS2–6NNS2–12NNS2–6F
T/Kη/Pa·sT/Kη/Pa·sT/Kη/Pa·sT/Kη/Pa·s
16733.6817732.9617735.6716730.964
16235.3617234.2017487.1416231.53
15737.7016736.3417238.5615732.23
152311.6162311.1169811.315233.15
147317.8159812.6167313.814734.55
142328.6157315.1164819.614237.07
137346.7154818.3137310.7
152323.1
NS2–12FNS2C3N–3FNS2–6N–6FNS2–12N–12F
T/Kη/Pa·sT/Kη/Pa·sT/Kη/Pa·sT/Kη/Pa·s
16730.34517730.94617731.0417731.13
16230.56517231.3117231.6217231.63
15730.81316731.8216732.5216732.78
15231.1216232.6416233.8416233.83
15733.9915736.1315736.37
15237.3615239.76152313.4
147310.7147316.5147327.3
142327.1

2・4 ガラス試料の構造解析

ケイ酸イオンの重合度は融体の粘度に影響する重要な因子である。今回対象とした試料では,ケイ素イオンのみが骨格構造を構成する陽イオンである。本研究では,29Si MAS NMR分光法を使用して,試料中のケイ素イオン近傍の局所構造を分析し,ケイ酸イオンの重合度を評価した。29Si MAS NMRスペクトルの測定には,JEOL ECA–500分光器(静磁場強度:11.7 T,29Siの共鳴周波数:99.4 MHz)を使用した。JEOL 4 mm MAS プローブを使用し,試料を10 KHzで回転させた。同スペクトルの測定は,シングルパルス法で行い,測定に使用したフリップ角,積算回数,パルスの繰り返し時間はそれぞれ30°,2600回,30 sとした。29Siの化学シフトは,2,2,3,3,-d(4)-3-(トリメチルシリル)プロピオン酸ナトリウム塩(TSPA-d4,一次標準試料であるテトラメチルシランを基準に+1.445 ppm)を用いて補正した。また,NMR測定前にX線回折により,試料の結晶化度を確認し,試料のガラス化が確認された試料(NS2,NS2–6F,NS2–6N,NS2–12NおよびNS2–3N–3F)について,29Si MAS NMR測定を行った。

試料中のフッ素イオン近傍の局所構造を評価するために,NS2–6FおよびNS2–3N–3Fガラス試料を対象に19F MAS NMR測定を行った。19F MAS NMRスペクトルの測定には,JEOL ECA–600分光器(静磁場強度:14.1 T,19F核の共鳴周波数:564.7 MHz)を用いた。JEOL製フッ素レス1 mm MASプローブを使用し,スピニングサイドバンド(spinning side band, ssb)と信号の重なりを防ぐため,試料を65 kHzの超高速で回転させた。19F MAS NMRスペクトルはシングルパルス法により測定し(フリップ角:30°,積算回数:2000回,パルスの繰り返し時間:75 s),19F信号の化学シフトの補正にはトリフルオロ酢酸(CF3COOH,一次標準試料であるトリクロロフルオロメタン(CFCl3)を基準に-78.5 ppm)を使用した。

3. 結果

3・1 SRM2の粘度

Fig.4では,本研究で得られたSRM2の対数粘度を温度の逆数(10000/T)に対してプロットし,SRM2の粘度推奨値と比較した。図より,本研究の実験温度範囲(1373–1673 K)において,粘度測定値は推奨値よりもおおよそ10%程度高いことがわかるが,これは一般的な粘度測定における相違(±20%)31)の範囲内である。また,対数粘度は温度低下とともに直線的に上昇しており,その温度依存性は推奨値と同程度であった。以上の結果から,今回導入した粘度測定装置を用いることにより,ケイ酸塩融体の粘度を精度良く測定可能であると判断した。

Fig. 4.

Temperature dependence of the viscosity of SRM2. The gray bar represents the range of recommended viscosity ±10%.

3・2 NS2融体の粘度

Fig.5では,NS2融体の粘度測定値を様々な測定者による報告値3337)と比較した。ナトリウムダイシリケート組成の粘度は,測定者による報告値の相違がおおよそ±15%であり,比較的データのばらつきが小さい。今回使用したNS2試料融体には少量のFe2O3(0.1 mass%)が含まれているものの本研究での測定値は,既往論文におけるデータのばらつきの範囲内であった。特に今回の測定値は,Lillie35)およびNeuville37)の報告値と良好な一致を示しており,本研究で試料に添加した0.1mass%Fe2O3の粘度への影響は無視できる程度に小さいことが見出された。

Fig. 5.

Viscosity of the NS2 melt in the present study at a crucible rotating speed of 60 rpm compared with those previously reported3337) for the sodium disilicate composition. The dashed line represents the linear least squares regression line for the measured data of the present study.

3・3 Na–Si–O–N–F系の粘度とレオロジー挙動

Fig.6(a)に酸窒化物融体における粘度の温度依存性を示す。NS2融体の粘度は,融体中の酸素の一部を窒素で置換することにより上昇している。ケイ酸塩やアルミノケイ酸塩融体の粘度は,Si3N4を添加することにより上昇することが知られており20,24,38),単純に窒素濃度のみを上昇させた本研究でも同様の傾向が観られた。また,Fig.6(b)には粘度に及ぼすフッ素濃度の影響を示した。図に示したように,NS2融体の粘度はフッ素濃度の上昇により低下した。これは,ナトリウムケイ酸塩融体にNaFを添加した場合の粘度変化と同様の傾向である12)Fig.6(c)に示すように,フッ素と窒素を同時にNS2融体に添加した場合にも粘度は低下するが ,フッ素による粘度低下が窒素の共存により抑制されている。

Fig. 6.

Temperature dependences of the viscosity of the sample melts, obtained at a crucible rotating speed of 60 rpm: (a) Na–Si–O–N system, (b) Na–Si–O–F system, (c) Na–Si–O–N–F system.

流体は,ニュートン流体と非ニュートン流体の2種類に大きく分類できる。ニュートン流体の粘度は剪断速度(γ˙)に依存しないが,非ニュートン流体の場合は粘度測定時の剪断速度によって,粘度測定値が変化することになる。本研究では,測定に用いたるつぼの回転速度から式(6)により,剪断速度(γ˙)を見積もった:

  
γ˙=2ω1(rirO)2(6)

ここで,ω,roおよびriはそれぞれ角速度,るつぼの内半径および内筒の半径である39)Fig.7にNa–Si–O–N–F系融体の粘度に及ぼす剪断速度の影響を示した。図に示したように基本組成である酸化物(すなわちNS2)や酸窒化物(NS2–6N,NS2–12N),酸フッ化物(NS2–6F,NS2–12F)融体において粘度の剪断速度依存性は小さい(<2.4%)。この結果は,これらの試料が今回の剪断速度の範囲(11–17 s-1)においてニュートン流体であることを示している。酸素,フッ素および窒素を含む複合アニオン融体を対象とした場合,NS2–3N–3FおよびNS2–6N–6F融体では剪断速度変化に伴う粘度の変化が比較的大きいことがわかった(NS2–3N–3F:8.1%,NS2–6N–6F:3.8%)。しかしながら,NS2–12N–12F組成では剪断速度依存性は小さい(1%)ことが見出された。フッ素や窒素を含む複合アニオン融体の一部では,非ニュートン性が報告されている2022,40)。しかしながら,本研究ではNa–Si–O–N–F系融体の明確な非ニュートン性は観測できていない。より正確に複合アニオン融体のレオロジー特性を調査するには,本研究よりも広い剪断速度範囲(例えば1–40 s-1)を対象とした粘度測定が必要である。

Fig. 7.

Viscosity of the Na–Si–O–N–F melts as a function of shear rate at 1673 K.

3・4 急冷試料の化学組成

融体中の窒素やフッ素は容易に揮発することが知られている41,42)。そのため,粘度測定前後におけるこれらの成分濃度は分析することが望ましい。Fig.8およびTable 1(a)に粘度測定前後における試料中の窒素およびフッ素濃度の変化を示した。図および表に示したとおり,試料の溶製や粘度測定の間に窒素やフッ素の一部が減少していることがわかる。Na–Si–O–N系では,おおよそ40%の窒素が試料溶製時に失われており,さらに約20%の窒素が粘度測定中に揮発している(Fig.8(a))。同様に,Na–Si–O–F系でも試料の溶製時に40%のフッ素が揮発した。また,NS2-6F組成においては粘度測定中のフッ素量減少は小さかったが,NS2-12F組成においてはさらに20%程度のフッ素が粘度測定中に失われていた(Fig.8(c))。Na–Si–O–N–F複合アニオン系では,試料溶製時の窒素濃度減少は小さい傾向があったが,粘度測定中に同融体のフッ素および窒素の濃度が低下していた(Fig.8(b)and(d))。窒素を含む試料の粘度測定では,モリブデンをコンタクトマテリアルとして使用したが,試料中に溶解したモリブデン濃度は低く(NS2–6N:0.16 mass%,NS2–12N:1.38 mass%,NS2–3N–3F:<0.01 mass%,NS2–6N–6F:0.47 mass%,NS2–12N–12F:0.01 mass%),粘度測定値への影響は小さいと考えられる。また,試料中のケイ素とナトリウムの濃度比(Si/Na)も粘度測定中に変化することが確認された。粘度測定中における試料の化学組成の時間変化は不明であるため,本研究において粘度の温度依存性を議論することは難しい。そのため,4・2では,一定温度における粘度の陰イオン組成依存性について,Si/Na比の影響を考慮して,抽出した。

Fig. 8.

Relationship between the nominal and analyzed concentrations of nitrogen and fluorine before and after viscosity measurements, plotted as filled and open symbols, respectively.

3・5 試料のX線回折パターン

Fig.9に粘度測定前の試料のX線回折パターンを示した。NS2,NS2–6N,NS2–12N,NS2–6FおよびNS2–3N–3Fでは,結晶相の存在は確認されなかった(Fig.9(a))。一方で,NS2–12F,NS2–6N–6FおよびNS2–12N–12Fでは試料の一部が結晶化していることが明らかになった(Fig.9(b))。この時の主な晶出相はフッ化ナトリウムであった。非晶質であることが確認された試料に対して29Si MAS NMR測定を行った。

Fig. 9.

(a) XRD patterns of the samples used for 29Si MAS NMR experiments. (b) XRD patterns of the partially crystalized samples.

3・6 ガラス試料の29Si MAS NMRスペクトル

ケイ酸塩材料中のケイ素原子の分類は,慣例的にQn(n=0–4)で表記され,nはSiO4四面体周囲の架橋酸素の数を示している。29Si MAS NMRは,ケイ酸塩ガラス中のQn分布を評価可能な手法である。Fig.10に静磁場強度11.7 Tにおいて測定したNa–Si–O–N–F系ガラスの29Si MAS NMRスペクトルをガウス関数によるフィッティング結果とともに示した。NS2ガラスのスペクトルは,おおよそ-90 ppmにメインピークが観測され,これはNS2ガラスにおいてQ3が主なケイ素イオンの局所構造であることを示している43,44)。また,同スペクトルではおおよそ-100 ppmおよび-77 ppmに肩があり,これらはそれぞれQ4およびQ2に帰属される43,45)。NS2ガラスに窒素またはフッ素を添加すると-100 ppm付近の信号強度が上昇しており,これはガラス中のQ4が窒素またはフッ素の添加により増加することを示している。

Fig. 10.

29Si MAS NMR spectra of the sample glasses at 11.7 T. The black solid lines represent the experimental data. The blue dashed lines represent the fitted peaks for each Qn components. Sum of the fitting peaks are drawn by the red dashed lines. (Online version in color.)

各Qnユニットの割合を定量するために,29Si MAS NMRスペクトルを3または4 つのガウス関数でフィットした。フィッティングに用いたパラメータをTable 6に示した。Fig.10にNS2 glassの主な信号のフィッティング結果を示しており,Q4,Q3およびQ2に帰属できる3つの成分でスペクトルを良好に再現できている。広いケミカルシフト範囲における29Si MAS NMRスペクトルの一例として,NS2ガラスのスペクトルをFig.11に示した。Q3の信号位置から回転周波数(10 kHz=101 ppm)に対応する分だけ離れた位置に2つのスピニングサイドバンド(SSB)が観測された。SSBは,試料の回転速度が化学シフト異方性に対して十分に大きくない場合に出現する信号の一部であり,Qn分布を評価する際にはSSBの信号も合わせて積分する必要がある。本研究では,SSBがQ3に起因すると仮定し,SSB信号をガウス関数でフィッティングし,その面積分離をQ3の割合として扱った。その結果,NS2ガラスのQ4,Q3,およびQ2の割合はそれぞれ9.7%,83.8%,および6.5%と決定できた。全ての試料について同様の方法でSSBのQn分布への影響について評価しており,本研究で得られたQn分布(すなわち各Qnに帰属する信号の面積分率)は,Maekawaら27)による報告値と同程度であった。ケイ酸イオンの重合度は,四面体構造を形成する陽イオン(T)に対する非架橋酸素(NBO)の原子比(NBO/T)で表すことが一般である。本研究で対象としたナトリウムケイ酸塩ガラスにおけるNBO/Tの理論値46,47)は,化学組成から次式(7)を用いて算出できる。

  
NBOT=2O(at%)4Si(at%)Si(at%) (7)
Table 6. Parameters obtained by the Gaussian fit to the 29Si MAS NMR spectra. Area fraction of SSB is included in area % of Q3(Q3’) species.
Q4(Q4’)Q3(Q3’)Q2(Q2’)Q1
SamplePosition
(FWHM)
Area %Position
(FWHM)
Area %Position
(FWHM)
Area %Position
(FWHM)
Area %
NS2−99.7
(6.0*)
9.7−88.5
(4.9)
83.8−77.0
(3.2)
6.5
NS2–6N−100.4
(6.0*)
13.2−88.9
(5.1)
76.3−77.3
(4.7)
10.5
NS2–12N−103.2
(6.0*)
11.3−89.2
(6.1)
70.7−76.5
(6.0*)
14.8−61.2
(6.0*)
3.2
NS2–6F−102.4
(6.0*)
24.0−90.1
(5.1)
74.5−77.9
(3.0*)
1.5
NS2–3N–3F−102.0
(6.0*)
18.3−89.7
(5.2)
73.0−76.2
(6.0*)
8.7

*Fixed parameters for the Gaussian fit

Fig. 11.

An example of the fitting results of the 29Si MAS NMR spectra of NS2 glass over a wide chemical shift range. The spinning side bands (SSBs) are fitted using Gaussian curves and considered as a part of Q3 components. The black solid lines represent the experimental data. The blue dashed lines represent the fitted peaks for each Qn components. Sum of the fitting peaks are drawn by the red dashed lines. (Online version in color.)

ここで,Si(at%)およびO(at%)はそれぞれケイ素と酸素の原子分率である。NMR測定から得られたQn分布を元に見積もったNBO/Tの実測値(0.97)は,式(7)から算出した理論値(0.99)と同程度であった。これにより,本研究で用いたフィッティング方法により29Si MAS NMRスペクトルの解析が可能であることが確認された。

NS2–6Nガラスの29Si MAS NMRスペクトルもNS2ガラスのスペクトルと同様に-100,-90および-77 ppm付近の三つのガウス関数の和として,良好に再現することができた。一方で,-77 ppm付近に頂点を持つガウス関数成分の半値幅は,NS2ガラスに窒素を添加することにより大きくなっていた(Table 6)。NS2–12Nガラスのスペクトルは,-100,-90,-77および-61 ppm付近を頂点とする4つのガウス関数により良好にフィッティングすることができた。また,NS2ガラスに比較して,-90および-77 ppmのガウス関数成分の半値幅が増大していることが見出された。ここで,SiO4-xNx四面体を形成するケイ素核のMAS NMR信号は,酸素原子一つが窒素原子に置換されることにより,+10~15 ppmシフトすることが知られている48)。この試料の窒化に伴うシフトは,SiO2–Na2O系ガラスにおいて非架橋酸素が増加した場合のシフトと類似しており,容易に判別できない。窒素を含むガラスでは,-100,-90,-77,および-61 ppmに頂点を持つガウス関数成分をそれぞれQ4’,Q3’,Q2’,およびQ1’と表現した。Q4’の信号は,窒素と直接結合していないQ4のみで構成される。Q3’の信号は,窒化物イオンを一つ配位したQ4(以後,Q4(1N)と呼称)およびQ3(0N)で構成されると考えられる。同様に,Q2’信号にはQ4(2N),Q3(1N),およびQ2(0N)が含まれる可能性がある。また,Q4(3N),Q3(2N),Q2(1N)およびQ1(0N)のサイトはQ1’の信号に含まれる。したがって,各Qn’サイトの割合は,窒素を含むガラスにおける見かけのQn分布を表していると考えることができる。本研究で対象としたNS2ガラスの29Si MAS NMRスペクトルにおいて,窒素の添加により-90および-77 ppm付近の信号が広幅化していたが,さまざまなQn(kN)サイト(kはQnユニットに含まれる窒素原子の数を示す)の信号が重なり合ったためと考えられる。この結果は,ガラス試料中の窒素原子がケイ素原子と結合していることを示している。

NS2–6Fガラスのスペクトルは,Q4,Q3およびQ2に帰属される3つのガウス関数成分で再現することが可能であった。これらのガウス関数成分の半値幅は,NS2ガラスの値と同程度であり,各Qnユニット近傍の化学環境は,フッ素の添加により大きく変化しないことを示している。この結論は,Na2Oを含有するケイ酸塩ガラスを対象とした19F NMR4951)やRaman52)分光法による既往研究と一致している。また,同様の傾向は,カルシウムケイ酸塩ガラスを対象としたO1s XPS53,54)やRaman分光法17)による傾向においても報告されていたが,本研究ではケイ酸塩ガラスの構造に対するフッ素添加の影響を29Si MAS NMRスペクトルから定量的に分析することができた。NS2ガラス中のQ4信号の面積はフッ素の添加により増加しており,この結果はNS2ガラスにフッ素を添加することにより,ケイ酸イオンの重合度が上昇することを示している。

NS2–3N–3Fガラスのスペクトルは,Q4’,Q3’およびQ2’に帰属する三つのガウス関数で再現することができた。同ガラスにおけるQ4’信号の面積分率は,NS2ガラスの場合よりも大きいことが見出された(Table 6)。これは,NS2ガラスに窒素およびフッ素を同時添加することにより,ケイ酸イオンの重合度が上昇することを示している。

4. 考察

4・1 レオロジー挙動

非ニュートン性は,一般にサスペンション(固液共存体)55)やエマルション(2液相または気液共存体)56)で観測されるレオロジー挙動であり,融体の結晶化を含む分相挙動を観測するために,剪断速度と粘度の相関関係が利用されている39)。また,剪断応力によって液体構造が大きく変化する場合には,単一の液相も非ニュートン流体として挙動する場合がある57)。Shiraishi and Harada20)は,Ca–Si–Al–O–N系酸窒化物融体(c.a., 15 eq%N)が非ニュートン性を示すことを報告している。また,Shinら22,40)は,Ca–Na–Mg–Si–Al–O–F系酸フッ化物融体(c.a., 6–7 eq% F)が非ニュートン流体として挙動することを見出している。しかしながら,本研究で対象とした酸フッ化物および酸窒化物融体のいずれにおいても,11–17 s-1の剪断速度範囲において非ニュートン性は確認されなかった。今回の結論は,Ca–Mg–Si–O–F系酸フッ化物融体(0–13 eq% F)を対象としたDingwellの報告と一致している58)。Watanabeら21)およびShinら22)は,酸素,窒素,フッ素を含む融体[Ca–Li–Na–Mg–Si–Al–O–F–N系(3.8 eq% F,0.9 eq% N)21),Ca–Na–Mg–Si–Al–O–F–N系(6 eq% F,0–23 eq% N22))]において,非ニュートン性の発現を報告している。これらの複合アニオン系では,剪断速度が50 s-1以下の範囲において,剪断速度の上昇に伴い粘度が低下することが報告されていたが,本研究で対象としたNa–Si–O–N–F系融体の粘度に対する剪断速度の影響は小さいことが見出された。複合アニオン融体における非ニュートン性の発現機構の詳細は不明であるが,これまでの知見からカルシウムおよびアルミニウムイオンを含む系で非ニュートン性の発現が報告されている。フッ素や窒素を含むアルミノケイ酸塩ガラスにおいては,Al–F結合の存在が確認されており59-61),Al–NまたはCa–N結合の存在は明確には実証されていない62)。しかしながら,Al–F,Al–NまたはCa–N結合が融体中に存在すると仮定すると,これらの化学結合が剪断応力により切断されることにより非ニュートン性が発現している可能性がある。複合アニオン融体の非ニュートン性発現機構解明のためには,今後,カルシウムやアルミニウムイオンを含む酸フッ化物や酸窒化物融体を対象に幅広い剪断速度範囲における粘度測定が期待される。

4・2 粘度に及ぼす陰イオン組成の影響

試料の陰イオン組成だけでなく陽イオンの構成比(すなわち,Si/Na比)も粘度測定や試料溶製過程で変化していたことが見出された。これは,ナトリウム成分の揮発によると考えられる63,64)。陰イオン組成比が粘度に及ぼす影響を抽出するため,試料と同等のSi/Na比(分析値)を有する Na2O–SiO2二元系融体の粘度報告値35)に対するNa–Si–O–N–F融体の粘度実測値の比を表す相対粘度(ηr)を算出した。Na2O–SiO2二元系融体の粘度報告値として,Lillieの値を採用した。Fig.5に示したように,同じ組成の試料を対象とした場合,Lillieの測定値は本研究の実測値と近い値を示すことが確認できている。Fig.12に1673 KにおけるNa–Si–O–N–F融体のηrに及ぼす陰イオン組成の影響を示した。NS2–6N融体のηrはNS2融体と近い値を示したが,さらに窒素濃度が高くなることによりηrが上昇した(NS2–12N)。

Fig. 12.

Relative viscosities of the Na–Si–O–N–F melts as a function of (a) nitrogen concentration and (b) fluorine concentration at 1673 K. The horizontal error bars represent the variations of nitrogen and fluorine concentration during the viscosity measurements. The vertical errors were estimated base on the variations of the Si/Na ratio during the viscosity measurements (shown in Table 1).

一方で,NS2融体にフッ素を添加することにより,ηrが単調に低下することが明らかになった。また,NS2–3N–3F組成のηrはNS2の値より低く,Na–Si–O–N–F複合アニオン融体においてフッ素および窒素の添加量をさらに増やしても大きく変化しなかった。したがって,フッ素と窒素の濃度(eq.%)が同等の場合,フッ素の方が窒素よりもNa–Si–O–N–F融体の粘度に及ぼす影響が大きいことになる。

ケイ酸塩融体中の窒化物イオンは,結合しているケイ素イオンの数により3種類に分類できる65,66)。ここでは,ケイ素イオン3つと結合を持つ窒化物イオンをN[3]と呼称し,同様にN[2]およびN[1]はそれぞれケイ素イオン2つおよび1つと結合する窒化物イオンを表す。これらの3種類の窒化物イオンの局所構造の模式図をFig.13(a)に示した。ナトリウムケイ酸塩ガラス中の窒化物イオンの種類については,N 1s X線光電子分光法(XPS)67),中性子線回折68),分子動力学(MD)シミュレーション69),および29Si MAS NMR分光法48)により研究されている。Unumaら69)は,MDシミュレーションの結果からナトリウムケイ酸塩ガラス中の窒化物イオンに結合する平均ケイ素イオン数が2.4から2.1の範囲であり,この値はNa2O濃度が15 mol%から30 mol%に増加することにより減少する傾向があることを見出している。同様に,窒化物イオンを含有した20Na2O–80SiO2(mol%)ガラスの中性子線回折を解析することにより,窒化物イオンに結合する平均ケイ素イオン数が2.42であることが報告されている68)。これまでの研究結果から,Na2O濃度の低いナトリウムケイ酸塩ガラス(<30 mol%)においては,窒化物イオンが主にN[3]またはN[2]として存在すると考えられている。Haterら70)は,Na2O–SiO2–SiN4/3ガラスの29Si MAS NMRスペクトルの解析により窒化物イオンの局所構造を推測する方法を提案している。彼らの方法では,Na2O–SiO2二元系母組成におけるSiO4四面体一つあたりの平均架橋酸素数の理論値と見かけの値をそれぞれnnom.およびn’とすると,次式(8)より実験的にケイ素イオン1つあたりの平均Si–N結合数(mexp.)を求めることができる。また,nnom.およびn’は,それぞれ式(9)および(10)により決定できる。

  
m exp. = n nom. n (8)
  
nnom.=46xNa2O1xNa2O(9)
  
n=4X( Q 4 )+3X( Q 3 )+2X( Q 2 )+1X( Q 1 ) (10)
Fig. 13.

(a) Schematic illustrations of the local structures of N[3], N[2], and N[1] ions. (b) Average number of Si–N bonds per tetrahedral unit calculated from the analyzed SiN4/3 concentration (mnom.) and compared with that obtained from NMR data (mexp.). The thick solid line is generated with the assumption that all nitrogen ions behave as bridging nitrogen (N[3]). The least square line for the data is indicated by the dashed line. (Online version in color.)

ここで,xNa2OはNa2O成分のモル分率,X(Qn’)は29Si MAS NMRスペクトルにおける各Qn’成分の面積分率である。本研究では,xNa2Oとして粘度測定前の試料のNa2O濃度(分析値)を用いた(Table 1(a))。全ての窒化物イオンが3つのケイ素イオンと結合している(すなわちN[3])と仮定すると,ケイ素イオン1つ当たりのSi–N結合数の理論値は次式(11)により決定できる。

  
mnom.=4xSiN4/3xSiO2+xSiN4/3(11)

Fig.13(b)にNMRデータから求めたmexp.と試料のSiN4/3濃度(分析値)から算出したmnom.の相関関係を示した。図に示したように,今回対象としたNa–Si–O–N系ガラスにおいて,mnom.mexp.よりもおおよそ25%程度低い値を示している。これは窒化物イオン一つあたりのケイ素原子の数が平均すると2.3個であることを示しており,今回のナトリウムケイ酸塩ガラス中の窒化物イオンは主にN[3]またはN[2]の形態で存在していることになる。この結論は,MDシミュレーション69)や中性子線回折68)による解析結果と矛盾しない。

29Si MAS NMRスペクトルから得られる情報だけでは,窒素を含む系におけるケイ酸イオンの重合度を定量的に評価することは難しかった。しかしながら,同スペクトルは,Si–O結合よりも共有結合性が高いSi–N結合71)が試料中に含まれていることを示していた。今回対象としたナトリウムケイ酸塩融体の構造に及ぼす窒素添加の影響をFig.14(a)および(b)に模式的に示した。窒素添加による融体の粘度の上昇は,Si–N–Si結合がSi–O–Si結合よりも変形しにくいことによると考えることができる。酸窒化物融体の粘度についてさらに深い議論を行うためには,窒素添加によるケイ酸イオンの重合度を定量的に明らかにするため,17O NMR72)またはO 1s XPS73)測定により,試料中の架橋および非架橋酸素濃度を評価することが望まれる。

Fig. 14.

Schematic illustrations of the possible structural variations under different anionic compositions of (a) oxide, (b) oxynitride, (c) oxyfluoride, and (d) fluoroxynitride glasses in a plane. For simplicity, the coordination number of each atoms and Qn distribution of silicon atoms were not considered. (Online version in color.)

Na2O–SiO2–NaF系におけるフッ化物イオンの構造的役割については,いくつかの報告があり,「末端フッ素」と「自由フッ素」の2種類の役割を担うことが知られている74)。末端フッ素は,ケイ素原子1つと直接結合しSi–F結合を形成するため,ケイ酸イオンの重合度低下に寄与する。自由フッ素は,ナトリウム陽イオンとNa–F結合で構成される複合体を形成する。フッ化物イオンの役割は添加する系のSiO2濃度に大きく依存することが知られている。Mysen and Virgo75)は,SiO2–NaF二元系ガラスのラマンスペクトルを測定し,同ガラス中にこれらの2種類のフッ化物イオンが存在することを明らかにしている。同様に,Sakamakiら76)およびSusaら77)も,SiO2濃度が70 mol%以上のNa2O–SiO2–NaFにおいて末端フッ素および自由フッ素の2種類のフッ化物イオンが存在することをそれぞれ赤外分光測定および屈折率測定から明らかにしている。Zeng and Stebbins59)は,SiO2濃度の高いNa2O–SiO2–NaF系(>70 mol%)を対象に19F MAS NMRスペクトル測定を行った。その結果,フッ化物イオンは主にナトリウムイオンと結合した自由フッ素(Na–Fと表記)として存在するが,ケイ素イオンと結合している末端フッ素(Si–Fと表記)も存在することを見出している。Sasakiら52)は,比較的SiO2濃度が低いNa2O–SiO2–NaF系(<67 mol%)におけるフッ化物イオンの形態について,ラマン分光法および分子動力学シミュレーションに調査を行い,フッ化物イオンは主に自由フッ素として存在すると結論している。同様の傾向は,低SiO2濃度のNa2O–SiO2–NaF系融体を対象とした電気伝導度78)や表面張力79)といった融体物性からも推測されている。

試料中のフッ素原子近傍の局所構造を明らかにするため,本研究では19F MAS NMR測定を行った。得られたスペクトルをFig.15に示す。NS2–6Fガラスの19F MAS NMR信号はおおよそ-220 ppmに位置しており,これはフッ化ナトリウム(結晶)の信号位置に近い51,59,80)。末端フッ素(すなわちSi–F)の信号は,-142~-147 ppm51,59)に観測されることが知られているが,今回対象としたガラスではSi–Fの信号は明確に検出できていない。末端フッ素は検出限界以下の濃度で存在する可能性はあるが,NS2ガラス中のフッ化物イオンは主にナトリウムイオンと結合した自由フッ素として存在していると考えることができる。フッ化物イオンの負電荷が全てナトリウム陽イオン近傍の電気的中性を保つことに消費されると仮定し,組成分析結果からNS2–6FガラスのNBO/Tの値を見積もるとおおよそ0.67である。同ガラスの29Si MAS NMRスペクトルから求めたNBO/Tの値はおおよそ0.78であり,この値は0.67に比較的近い。これらの二つの値の小さい差異はガラス中に含まれる少量のSi–F結合の存在による可能性がある。29Siおよび19F核を対象とした二重共鳴実験81)により,ガラス中のSi–F結合の存在を確認することが期待される。今回対象としたNS2–6Fガラス中のフッ化物イオンは主に自由フッ素として存在しており,この結論は低SiO2濃度(<67 mol%)の試料における過去の報告51,52)と一致している。本研究で確認されたフッ化物イオンの特徴的な挙動により,ナトリウムイオンの正電荷が消費され,ケイ酸イオンの重合度が上昇することになる。従来から,ケイ酸塩融体の粘度は,融体中のケイ酸イオンの重合度から議論されてきた。しかしながら,33 mol%Na2O–67 mol%SiO2(すなわちNS2)融体の粘度はフッ素の添加により低下しており,この傾向はケイ酸イオンの重合度の観点からは説明できない。1673 Kにおける二元系ナトリウムケイ酸塩融体(Na2O濃度範囲:20–40 mol%)の粘度は100–101 Pa·s35)であり,溶融NaFの粘度はナトリウムケイ酸塩融体の粘度よりも大幅に低い(<10-3 Pa·s12))。強度の低いNa–F結合で構成される複合体がケイ酸イオン重合体の間に存在し,潤滑剤の役割を担うと考えることにより,フッ素添加によるケイ酸塩融体の粘度低下を説明できる。この挙動をFig.14(c)および(d)に模式的に示した。また,フッ素および窒素を含む複合アニオン系試料(NS2–3N–3Fガラス)の19F MAS NMRスペクトルは,同系においてもフッ化物イオンが主に自由フッ素として挙動していることを示していた。複合アニオン系融体中で窒化物イオンとフッ化物イオンの構造的役割は互いに独立しており,前者は粘度上昇に寄与し,後者は粘度低下に寄与すると考えられる。

Fig. 15.

19F MAS NMR spectra of NS2–6F and NS2–3N–3F glasses obtained at 14.1 T with a sample spinning speed of 65 kHz. The chemical shift is quoted with respect to CFCl3. The black bar represents the chemical shift range of the Si–F species in Na–Si–O–F glasses by Zeng and Stebbins59). The reported peak position59) of crystalline NaF is drawn with a solid line.

5. 結論

本研究では,ナトリウムケイ酸塩融体の陽イオン組成(Si/Naの構成比)を一定とし,粘度およびレオロジー特性に及ぼすフッ素および窒素濃度の影響を明らかにすることを目指した。試料作製や粘度測定中にナトリウム成分が揮発したため,融体の陽イオン組成を一定に保つことは難しかった。しかしながら,母組成である二元系ナトリウムケイ酸塩融体(試料と同等のSi/Na比(分析値))の粘度に対するNa–Si–O–N–F系融体の粘度の比を表す相対粘度を求めることにより,粘度に及ぼすフッ素および窒素の影響を明らかにすることができた。その結果,今回対象としたナトリウムケイ酸塩融体の粘度は,窒素の添加により上昇し,フッ素の添加により低下することが見出された。Na–Si–O–N系ガラスの29Si MAS NMRスペクトルは,試料中の窒化物イオンが主にN[3]またはN[2]の形態で存在することを示しており,同融体中にもSi–O–Si結合よりも変形しにくいSi–N–Si結合が存在することになる。窒素濃度の上昇による粘度の上昇は,Si–N–Si結合の生成によると考えられる。また,Na–Si–O–F系ガラスの29Siおよび19F MAS NMRスペクトルより,試料中のフッ化物イオンはnetwork modifierとして挙動するナトリウムイオンの正電荷を消費し,ケイ酸イオンの重合を促進する働きがあることがわかった。一般に,ケイ酸塩融体の粘度はケイ酸イオンの重合により上昇するが,今回対象とした系ではフッ素の添加により逆の傾向が観測された。窒素とフッ素を同時添加した場合においてもケイ酸塩融体の重合度の上昇は確認されたが,粘度は低下した。これらの傾向は,ナトリウムとフッ素の複合体が網目構造で構成される融体中で潤滑剤の役割を担うためであると考えることができる。様々な陰イオンを含む複合アニオン融体の粘度は,ケイ酸イオンの重合度の観点からだけでは説明が困難である。

カルシウムやアルミニウムを含む多成分系複合アニオン融体においては,粘度が剪断速度の上昇とともに低下する非ニュートン流体としての挙動が報告されていた。しかしながら,この非ニュートン性は,今回対象としたNa–Si–O,Na–Si–O–NおよびNa–Si–O–F融体においては確認できなかった。非ニュートン性の発現には,カルシウムやアルミニウムイオンの存在が関与している可能性がある。Na–Si–O–N–F系においては,粘度の剪断速度依存性が比較的大きい場合(最大8.1%)もあったが,Na–Si–O–N–F系融体が非ニュートン流体であるかどうかは十分に検証できなかった。これらの融体のレオロジー特性をより詳細に解明するには,広い剪断速度範囲における粘度測定を実施する必要がある。

謝辞

本研究は,「日本鉄鋼協会第24回鉄鋼研究振興助成」,「東北発素材技術先導プロジェクト(希少元素高効率抽出技術領域)」および「 人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンス」の助成を受けた。粘度測定装置の開発に協力頂いたKyung-Ho Kim博士に謝意を表する。粘度測定装置のトルク検出機構や雰囲気制御方法については竹田修先生(東北大学),齊藤敬高先生(九州大学),中島邦彦先生(九州大学)に助言頂いた。また,NMR分光器の使用については,吉川健先生(東京大学),井上博之先生(東京大学)に協力頂いた。ここに感謝の意を表する。本原稿について,建設的な助言を頂いた査読者の先生に感謝する。

文献
 
© 2022 The Iron and Steel Institute of Japan

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
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