2022 Volume 108 Issue 5 Pages 295-305
Novel oxide particles composed of Ti, rare-earth metal and Zr was found by the present authors to promote the formation of acicular ferrite (AF), but their effect on toughness has not yet been clarified. Therefore, influence of AF formation on toughness of low carbon steel has been investigated using Ti-Rare earth metal-Zr-killed (TRZ) steel and Al-killed (AL) steels in this study. Dominant microstructure of the AL steel is bainite forming block/packet structure elongated from prior austenite grain boundaries. In contrast, a large amount of AF which grows from intragranular inclusions is formed in the TRZ steel. Toughness of the TRZ steel is better than the AL steel. In addition, at higher austenitizing temperature, AF formation is promoted in the TRZ steel, leading to lowering ductile-brittle transition temperature. Cracks in Charpy impact specimens propagate along {001}α plane and deflect at Bain unit boundary across which {001}α planes are largely misoriented, which means the effective grain size for crack propagation is Bain unit size. Bain unit size is smaller in the TRZ steel than in the AL steel since bainite structure is subdivided by pre-formed AFs belonging to different Bain groups from bainite. Martensite-austenite constituent (MA) in AF is less-elongated in comparison to those in bainite and thus the amount of elongated MA in the TRZ steel is less than in the AL steel. These results clarify that AF formation in the TRZ steel improves toughness due to the refinement of Bain unit size and reduction of the amount of elongated MA.
近年の世界的な溶接士の減少により,高効率の大入熱溶接のニーズが高まっている。大入熱溶接は,溶接熱影響部(Heat Affected Zone: HAZ)でのじん性(HAZじん性)を低下させることが知られている。HAZでは,溶接時の高温加熱によりオーステナイト逆変態とオーステナイト粒の粗大化が進行し1,2),その後の冷却過程で粗大なベイナイトやMartensite-Austenite constituent(MA)に代表される硬質第二相が生成する。MAは,一般に母相に比べ硬いことから,応力集中によりMA自身が割れる,あるいはMA/母相界面が剥離することで,脆性破壊の起点となる3–5)。MA量の増加は,延性-脆性破面遷移温度を上昇させる6)ほか,伸長したMAはじん性への悪影響が大きいことが報告されている7)。粗大ベイナイトは,脆性き裂が平面的に伝播する組織単位である有効結晶粒径8)の増大によりじん性を低下させる。脆性き裂は結晶粒内のへき開面である(100)面9)に沿って進展するため,(100)面が不連続となる組織境界はき裂を屈曲させ,進展の抵抗となる。有効結晶粒の増大は,このような組織境界の減少により,脆性き裂の進展を容易化する。ベイナイトの有効結晶粒に対応する組織単位は,旧オーステナイト粒10),パケット11,12),ブロック13)とする説が並立していたが,近年,オーステナイトとのBain対応を同じくする14)Bainユニットが有効結晶粒であるとの報告が増えている15–17)。ベイナイトは,母相オーステナイトとKurdjumov-Sachs(K-S)の方位関係((111)γ//(‐110)α, [‐110]γ//[111]α)に近い方位を満たし,一つのオーステナイト粒から最大24通りの兄弟晶(Variant)が生成する。Takayamaら14)は,このV1からV24のvariantを,Bainグループ,CP(Close-Packed)グループの2つのグループに分類した。同じBainグループに属するvariantは,variant間の結晶方位差が約15°以内と小さく,一つの有効結晶粒を形成するが,異なるBainグループに属するvariant間の方位差は約50°以上であるためフェライトとしての(100)へき開面が不連続となり,Bainユニット境界でき裂が屈曲すると考えられている。
これまで,HAZじん性改善に向けた様々なMAおよび母相組織の制御が提案されてきた。MAに対しては,制御圧延・加速冷却による鋼材炭素当量の低減18),Si低減によるMA分解の促進19)が有効である。また,粗大ベイナイトに対しては,TiN,酸化物といったピン止め粒子のオーステナイト粒粗大化抑制20–22),オーステナイト粒界への合金元素偏析による微細化23,24)が広く実用化されている。
アシキュラーフェライト(Acicular Ferrite: AF)の形成は,有力なHAZじん性改善手法の一つである。AFは,オーステナイト粒内に存在する酸化物粒子を起点に生成するフェライト組織であり,ベイナイトと同様,母相オーステナイトとK-S関係を満たしつつ25),一つの酸化物粒子よりvariantの異なるAF結晶が複数生成する26)。ベイナイトに比べ微細なAFの生成は,有効結晶粒径の減少によりじん性向上に寄与すると理解されている27–29)。AFの起点となる酸化物としては,TiO30),TiO231),Ti2O331,32),Ti2O3+MnS+TiN33),REM(O,S)+BN34)等が知られているほか,著者ら35)は,優れたAF生成能を有する新しい酸化物として,Ti-REM(Rare Earth Metal)-Zr複合酸化物を見出しているものの,じん性への影響は明らかになっていない。そこで本研究では,Ti-REM-Zr系複合酸化物(TRZ酸化物)を分散させた鋼を用い,AF組織がじん性に及ぼす影響とその作用機構を明らかにすることを目的として検討を行った。
20 kg真空溶解炉を用い,Ti,REM,Zr脱酸鋼(TRZ材)と,比較のためのAl脱酸鋼(AL材)を溶製した。成分をTable 1に示す。得られたインゴットは,1200°Cで2 hr加熱した後,熱間鍛造により板厚80 mm,幅110 mm,長さ約155 mmの形状とした。次いで,1100°Cで2 hr加熱後,熱間圧延と空冷により板厚24 mmの厚鋼板を作製した。
C | Mn | Ti | Ce | La | Zr | Al | Ni | Ca | B | O | N | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
AL | 0.052 | 1.54 | − | − | − | − | 0.027 | 0.34 | 0.0014 | 0.0014 | 0.0022 | 0.0022 |
TRZ | 0.051 | 1.52 | 0.011 | 0.003 | 0.002 | 0.003 | 0.003 | 0.34 | 0.0012 | 0.0013 | 0.0029 | 0.0017 |
厚鋼板のt/4(t:板厚)位置から,厚さ12.5 mm,幅32 mm,長さ55 mmの熱処理用試験片を切出し,誘導加熱により Fig.1の熱処理を施した。AFと競合する粒界から発達するベイナイト組織の割合を変えるため,最高加熱温度は1200,1300,1400°Cの3水準としてオーステナイト粒径を変化させた。
Thermal cycle for Charpy impact test.
熱処理後の試験片から,JISの標準Vノッチシャルピー試験片(10×10×55 mm)を採取し,-40°C,-80°Cで各3本のシャルピー衝撃試験を行った。各試験片について,衝撃吸収エネルギー,脆性破面率を測定するとともに,脆性破面率が50%となる温度を内挿により求め,延性脆性遷移温度vTrsとした。
破断したシャルピー衝撃試験片をノッチ中央部で縦に切断し,破面直下組織の断面観察ができるように樹脂埋め後,鏡面研磨を行った。次いで,ビッカース硬度を荷重5 kgで5点計測し,平均値を算出した。その後,ナイタール腐食組織を光学顕微鏡で観察し,400倍で9.66×104 μm2の視野から点算法で組織分率を算出するとともに,レペラ腐食液((ピクリン酸3 g+エタノール100 ml):(二亜硫酸ナトリウム1 g+蒸留水100 ml):エタノール=5:6:1)によりMAを現出させ,1000倍で3.20×104 μm2の視野に写りこんだMAの分率,円相当径,楕円長短軸比を画像解析により求めた。また,フェライト結晶方位とき裂進展挙動との相関を調べるため,加速電圧20 kV,ステップサイズ=1 μmで電子線後方散乱回折法(EBSD)の測定を行った。考慮した相はFCC,BCCである。得られたデータから,CI(Confidence Index)値が0.1未満の点を除去した後解析を行った。
冷却時の変態温度を調べるため,富士電波工機製 サーメックマスターZを用いた熱サイクル試験を行った。φ8 mm×高さ12 mmの円柱試験片を厚鋼板から切り出し,Fig.1の熱サイクルを施すことで,冷却時の温度-膨張曲線から,変態開始,終了温度を求めた。また,試料の一部は冷却途中に等温保持を行い,粒界フェライトを生成させることで,旧オーステナイト粒径をJIS G 0551の比較法により調べた。
旧オーステナイト粒径と加熱温度との関係をFig.2に示す。AL材,TRZ材とも加熱温度の上昇とともに旧オーステナイト粒径が増加するが,AL材の方が全般に粒径は細かい。Fig.3は,加熱温度と変態温度,およびビッカース硬度の関係である。AL材の変態開始温度は加熱温度の上昇につれ単調に低下する。一方,TRZ材の変態開始温度は1200°C加熱から1400°C加熱にかけてやや低下するものの,ほぼ一定を保った。変態終了温度は,AL材,TRZ材とも加熱温度の上昇に伴い低下の傾向を示している。AL材,TRZ材とも加熱温度上昇により硬度は上昇するが,AL材に比べTRZ材の硬度は全般にやや低い。
Relationship between heating temperature and prior-austenite grain size of the AL and TRZ steels.
Relationship between heating temperature and a) transformation start and finish temperatures, b) Vickers hardness of the AL and TRZ steels.
Fig.4に,1200°Cおよび1400°C加熱材の光学顕微鏡(光顕)像および組織分率を示す。本研究で観察される母相組織は,ベイナイト,グラニュラーベイニティックフェライト(αB),AFの3種である。ベイナイトは長軸方向が平行なラスの集団から成る組織であり,光顕像では,平行に伸長したフェライト粒が集まった領域をベイナイトと判定している。αBは,内部に薄いラス境界らしきコントラストが認められる白い不定形の領域である。AFは酸化物から放射状に生成したフェライトであるが,観察面深さ方向に存在する酸化物から生成したものも考慮し,平行ではない方向に伸長したフェライト粒から成る領域をAFとみなしている。参考として,各組織の二次電子像をFig.S1(Supporting information)に示す。AL材(Fig.4(a)(b))では加熱温度に関わらずほぼ全面がオーステナイト粒界から生成したベイナイト(B)組織を呈し,部分的にαBが存在する。点線矢印で示したような黒い粒子は酸化物であり,殆どは周囲の組織と無関係にベイナイト,あるいはαB中に存在する。AFの生成起点としてはたらく粒子も少量観察されるが,これはAl系の酸化物である(Fig.S2(Supporting information))。AF分率は加熱温度に関わらず低値を示す。一方TRZ材(Fig.4(d)(e))の組織の主体はAFであり,ベイナイト,αBも観察されるがその量は少ない。TRZ材のAF分率は,いずれの加熱温度でも50%以上の高い値を示し,1200°C加熱から1400°C加熱にかけて増加する。
Optical micrographs of the AL steel heated at a) 1200°C, b) 1400°C and the TRZ steel heated at d) 1200°C, e) 1400°C etched by nital solution. Dash arrows indicate oxide particle. Amount of AF, bainite (B) and granular bainitic ferrite (αB) in c) the AL and f) TRZ steels.
AL材およびTRZ材の1400°C加熱材のα方位マップおよび境界マップをFig.5に示す。図中の黒線は方位差15°以上の大角境界,赤線は5~15°の小角境界である。AL材(Fig.5(a)(b))の大角粒界で囲まれた領域は,内部が小角粒界で分割されたもの(図中の“→”)と,分割されていないもの(図中の“⇒”)に分けられる。光学顕微鏡組織との比較から,小角粒界で分割された粗大かつ不定形な領域はベイナイト,分割されていない粗大領域はαBに相当する。一方TRZ材(Fig.5(c)(d))には,アスペクト比(長軸長さ/短軸長さ)の大きい微細なAFが全面に存在し,オーステナイト粒を分断しているため,少量観察されるベイナイト,αBのサイズはAL材に比べ小さい。
α orientation map and boundary map of (a), (b) the AL steel, (c), (d) the TRZ steel heated at 1400°C. Black and red lines represent high angle boundary with misorientation above 15 degrees and low angle boundary with misorientation of 5-15 degrees, respectively.
次に,Takayamaら14)が報告した手法に従い,バリアントの隣接傾向を定量評価した。この手法では,各合金における方位関係をフィッティングにより求め,そこから予想されるバリアント間の回転角,回転軸を満たす境界を方位マップ中で検出して,その長さを比較している。
Table 2は,AL材,TRZ材の1400°C加熱材の結晶方位関係と,α,γの最密面同士,最密方向同士のずれである。最密面が平行かつ最密方向が平行であるK-S方位関係に対し,ベイナイトの最密面,最密方向はわずかにずれることが報告されている36)が,本サンプルも同様である。本方位関係に基づき,variant境界割合を算出した結果をFig.6に示す。なお,算出に際し許容角は3°とした。AL材,TRZ材とも同一Bainグループに属するvariant境界の割合が高く,なかでも方位差が小さいV1/V8,V1/V4境界が多い。本解析では,回転角の小さい境界は,たとえ回転軸が大きく異なっていてもvariant領域内に含まれる小角粒界と区別するのが困難37)であるため,V1/V8境界,V1/V4境界の割合は実態よりも過大に評価されていると考えられるが,相対的には,AL材に比べると,TRZ材のV1/V4,V1/V8境界の割合は低く,異なるBainグループに属するvariantの境界が増えている。
Euler angle (φ1, Φ, φ2) | ΔθCPP | ΔθCPD | |
---|---|---|---|
AL | (114.8, 8.5, 201.4) | 2.1 | 2.4 |
TRZ | (113.3, 7.9, 202.9) | 2.7 | 2.7 |
Length fractions of inter-variant boundaries in the AL and TRZ steels heated at 1400°C.
次にこれらのバリアントの分布をBainマップならびにCPマップより解析した。AL材,TRZ材の1400°C加熱材のBainマップ,CPマップをFig.7に示す。マップの領域は一つのオーステナイト粒から成るが,AL材では,高温加熱時に生成したと推定される双晶領域(領域B)が観察される。Bain対応が共通するバリアントが集団で生成した領域をBainユニット,最密面平行関係を共通するバリアントからなる領域をCPユニットと呼ぶことにすると,領域B中では紫,オレンジ色で表した2種類のBainユニットから成る。右上の領域A,左下の領域Cのオーステナイト方位はほぼ同じであり,Bainユニットは赤,青,緑色で表示している。Bainユニットは比較的粗大なものが揃っているが,CPユニットは,粗大なもの(領域B中の青色部)と,微細なものが集まって形成されている領域にわかれる。領域B中の紫色のBainユニットは,大部分が一つCPユニット(青色部)と重なっており,この領域は,同一BainユニットかつCPユニットに属するvariant(V1,V4)のラスが隣接していることが分かる。一方,CPユニットが微細な領域では,同一BainグループだがCPグループが異なるvariantが混在していると言える。TRZ材のBainユニットは,AL材に比べ全般に微細であり,かつ高アスペクト比のものが組み合わさった複雑な形状を示している。また,CPユニットのサイズは比較的揃っており,CPユニット境界,あるいは同一のCPユニット中に大角粒界が観察される。
a) Bain, b) CP maps of the AL and c) Bain, d) CP maps of the TRZ steels heated at 1400°C. Black line represents high angle boundary with misorientation above 15 degree. Yellow arrows in (c) and (d) indicate sub-cracks.
BainユニットのサイズをFig.8示す。Bainユニットは結晶方位差が概ね15°未満のvariantから成る集団である14)ことから,方位差が15°以上の境界に囲まれた領域を一つのBainユニットと考えた。また,後述するき裂進展への影響の観点から,400×400 μmの視野に縦,横,斜めに直線を引き,15°以上の組織境界との交点数で直線の長さを割った値をBainユニットサイズと定義している。すべての加熱温度で,TRZ材のBainユニットサイズはAL材に比べ小さい。また,加熱温度上昇によりTRZ材ではBainユニットサイズはやや減少する一方,AL材では増加する傾向を示す。
Relationship between heating temperature and Bain unit size.
次に各試料におけるMA分布を調査した。Fig.9(a)および(b)は,それぞれAL材,TRZ材の1400°C加熱材のレペラ腐食像である。図中の白いコントラストの粒子がMAに相当する。1400°Cで加熱したAL材では全面がベイナイト,TRZ材では視野中央より左下にかけてベイナイト,右上にかけてAF組織が広がっている。AL材,TRZ材ともベイナイト組織中のMAは,方向の揃ったベイナイトラス間に存在しており,いわゆるB-I型ベイナイトの特徴38)を示している。矢印で示すように,これらベイナイト中のMAはアスペクト比(長軸長さ/短軸長さ)の高いものが多い。一方,TRZ材のAF組織中のMAは,異なる方向に伸びたAF結晶に囲まれるように存在しており,アスペクト比は比較的低い。Fig.9(c)は,各試料で測定したMAの面積分率である。ベイナイト,AF中のMA量には大きな違いは認められない。AL材,TRZ材ともMA量に大きな差はなく,1200°Cから1400°Cへと加熱温度が上昇するにつれ減少の傾向を示した。Fig.10は,アスペクト比に対するMAの合計面積割合を表したヒストグラムである。TRZ材は,AL材に比べ,いずれの加熱温度でもアスペクト比2未満の比較的塊状に近いMAの割合が高い。
Optical micrographs of the a) AL, b) TRZ steels heated at 1400°C etched by LePera solution. Arrows represent typical MA with high aspect ratio. c) Area fraction of MA.
Histogram of aspect ratio of MA in the AL and TRZ steels heated at a) 1200, b) 1300 and c) 1400°C.
各試料で測定したシャルピー衝撃吸収エネルギーおよび脆性破面率をTable 3に示す。-40°Cでは,AL材に比べTRZ材のシャルピー衝撃吸収エネルギーは全般に高い値を示す。-80°Cでは,1200°Cおよび1300°C加熱時の値はほぼ同等であるが,1400°C加熱の値はTRZの方が顕著に高い。延性脆性遷移温度(vTrs)の変化および1400°C加熱時のAL材,TRZ材の破面をFig.11に示す。1200°Cから1300°Cへの加熱温度上昇によりAL材,TRZ材のvTrsはほぼ同程度で低下するが,1400°C加熱にかけTRZ材のvTrsが単調に低下するのに対し,AL材のvTrsは上昇し,その差は大きく開く。なお,1400°C加熱材では,-40°Cと-80°Cにおける脆性破面率がいずれも50%以上,もしくは50%以下でありvTrsを求めることができなかったため,矢印をつけてvTrsの下限値もしくは上限値を示している。1400°C加熱時の破面を比較すると,AL材に比べ,TRZ材のリバーパターンは短く,かつ流れが不明瞭である。これらの結果は, TRZ材の破面単位はAL材よりも小さいことを示唆する。
Charpy impact energy [J] | Fraction of brittle fracture surface [%] | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Test temp. | −40°C | −80°C | −40°C | −80°C | |||||
Specimen | AL | TRZ | AL | TRZ | AL | TRZ | AL | TRZ | |
Heating temp. | 1400°C | 153 | 342 | 60 | 165 | 60 | 0 | 87 | 47 |
1300°C | 275 | 330 | 74 | 70 | 15 | 5 | 78 | 80 | |
1200°C | 213 | 270 | 16 | 13 | 37 | 23 | 93 | 93 |
a) Relationship between heating temperature and ductile-brittle transition temperature (vTrs). Two arrows at the specimens heated at 1400°C indicate the lower or upper limits of vTrs. Secondary electron image of fracture surface of Charpy impact test of the b) AL and c) TRZ steels heated at 1400°C. Test temperature is −80°C. Arrows indicate initiation site of brittle fracture.
Fig.12は,AL材,TRZ材の1400°C加熱材シャルピー衝撃試験片の縦断面の二次電子像である。(a)のAL材にはベイナイト,αBを通る長く伸びた脆性き裂が形成されている一方で,(b)のTRZ材の脆性き裂は細かく屈曲しており,破面単位はAL材よりもTRZ材の方が小さいと言える。TRZ材には,AFを通過する微細な破面単位(図中の矢印部)と,ラスの揃ったベイナイトから成る比較的大きな破面単位とが存在するが,Fig.5で示されたとおりAL材に比べTRZ材のベイナイト領域のサイズが小さいため,ベイナイトを通る破面単位はAL材よりも小さい。
Secondary electron image of cross section of fracture surface after Charpy impact test of the a) AL and b) TRZ steels heated at 1400°C. Test temperature is −80°C.
TRZ材の1400°C加熱材の破面き裂の進展挙動と結晶方位との対応を調べた。Fig.13(a)は,結晶方位差15°以上の大角境界マップであり,図中の赤線は{001}面トレースを示す。概ね破面と{001}トレースとは平行に近いことから,ベイナイト鋼と同様9),TRZ材のへき開面は(001)面であると考えられる。Fig.13(b),(c)は,それぞれ(a)の領域のBainマップおよびCPマップである。図中の矢印はき裂の屈曲点を表す。一部の屈曲点は,Bainユニットの内部に存在するものの,Bainユニット境界と屈曲点とはほぼ一致している。CPユニット境界にも屈曲点と一致するものがあるが,それらは同時にBainユニット境界と一致しているものが多い。一方で,Fig.13(c)中の黄色線で囲った部位のように,小角の方位差からなるCPユニット境界で屈曲することなく通過するき裂は,破面単位の内部にあり,き裂を屈曲させていない。すなわち,同一Bainユニット内にあるCPユニット境界はき裂進展の抵抗となり難いことを示す。以上より,AF組織の有効結晶粒はBainユニットに対応すると考えられる。
a) Boundary, b) Bain and c) CP maps of cross section of fracture surface after Charpy impact test of the TRZ steel heated at 1400°C. Test temperature is ‐80°C. Black and red lines represent high angle grain boundary with misorientation of over 15 degrees and {100} trace, respectively. White arrows represent deflection points of crack.
実験結果から,TRZ材は,AL材に比べAFが顕著に多く,かつ加熱温度が高いほどAF量が増加することが明らかになった。TRZ酸化物はAF生成を促進する35)が,AFの生成に対しては,オーステナイト粒界から生成するベイナイトとの競合を考慮する必要がある。また,加熱温度の上昇によるAF量の増加は,Barbaroら39)も報告しているが,これは加熱温度の高温化によりオーステナイト粒が粗大化し,AFと競合するベイナイトの生成サイトであるオーステナイト粒界が減少するためと考えられている。そこで,本検討で用いたものとほぼ等しい組成のAl添加材,TRZ添加材35)(Table S1(Supporting information))用い,低温加熱時の保持時間を長くとることでオーステナイト粒を成長させた状態で,酸化物のAF生成能を調べた。具体的には,鋳塊より採取した8φ×高さ12 Lの試験片に,富士電波工機製サーメックマスターZを用いたFig.14の熱処理を施し,高さ方向の中央位置で切断した断面の旧オーステナイト粒径と,次の式に基づく酸化物のAF生成能PAFを調べた。
PAF = NAF/Ntotal×100(%)Thermal cycle for the evaluation of AF formation fraction.
NAFはAF起点となった酸化物粒子数,Ntotalは全酸化物粒子数である。結果をFig.15に示す。TRZ脱酸鋼中の酸化物のAF生成能は旧オーステナイト粒径に関わらずAl脱酸鋼よりも高く,また,加熱温度の高温化とともに上昇する。よって,TRZ材のAF分率がAL材に比べ高く,かつ加熱温度の高温化とともに上昇したのは,TRZ酸化物のAF生成能が高く,かつ加熱温度高温化により上昇したためと考えられる。
Prior-austenite grain size and AF formation fraction of the Al-added and TRZ-added steels.
加熱温度の高温化とともにTRZ酸化物のAF生成能が増加した原因として,酸化物の溶融挙動が考えられる。Pandolfelliら41)は,TiO2-CeO2-ZrO2複合酸化物が1350°Cよりも高温で溶融すると報告している。このことを考慮すると,高温加熱時にTRZ酸化物が溶融した後オーステナイト中で再凝固することで,オーステナイトとTRZ酸化物間の方位関係が変化し,AFの核生成に対する能力が増加した可能性35)がある。現在,著者らは,主にレーザー顕微鏡を用いたその場観察試験により,TRZ酸化物がおよそ1350°Cで溶融し,その後の冷却過程で周囲のオーステナイトと特定の結晶方位関係を満たして凝固する傾向にあることを確かめている。詳細は別報にて報告の予定である。
4・2 MA形態に及ぼす相変態挙動の影響MA量は,AL材,TRZ材ともほぼ同程度であり,加熱温度上昇により減少した。Takayamaら42)は,連続冷却時のベイナイト未変態部にはT0組成に近いCが含まれると報告している。Fig.3に示すとおり,AL材,TRZ材ともに,加熱温度上昇に伴い変態終了温度が低下する。変態温度が低い場合,変態終了直前の未変態部のC濃度が高くなり,セメンタイト析出を伴って変態が進行すると考えられ,結果的にMA量が減少したと推測される。
MAの形状については,ベイナイトに比べ,AF組織中ではアスペクト比が小さかった(Fig.10)。晶癖面,成長方向を同じくするベイニティックフェライト(BF)に沿って生成するMAはアスペクト比が高く,成長方向の異なるBF間のMAは塊状となると報告されている42)。酸化物粒子から生成するAF粒は,酸化物を中心に放射状に成長することから,これらの間に生成するMAは塊状になりやすいと考えられる。Fig.16は,ベイナイト量とアスペクト比の高い(4以上7))のMAの割合の相関である。AL材,TRZ材とも,ベイナイトの増加とともに高アスペクト比のMAは増えるが,TRZ材はAFの生成によりベイナイトが減少するため,高アスペクトのMA量が少なくなるものと考えらえる。
Relationship between amount of bainite and fraction of MA with aspect ratio more than 4 in the AL and TRZ steels.
AFが多量に生成したTRZ材のじん性はAL材に比べ同等以上であり,加熱温度が高いほど向上した。本節ではそのメカニズムを有効結晶粒径,MAの観点から考察する。
まず,有効結晶粒径について,TRZ材の破面単位はBainユニットであり,AL材に比べ著しく微細であった。ベイナイト組織主体のAL材に比べ,TRZ材ではBainグループの異なるvariantの隣接が増える傾向にあった。TRZ材ではAFがベイナイトを分断するように生成しており,かつBainユニットは高アスペクト比のものが組み合わさったような複雑な形状であったことから,TRZ材で増加したBainグループの異なるvariant境界は,AF/AF界面あるいはAF/ベイナイト界面と考えられる。よって,AFの生成は,それ自身が微細なBainユニットを形成するとともに,ベイナイトの成長を阻止することで,Bainユニットの微細化とじん性向上をもたらしたと推測される。
次に,じん性に及ぼすMAの影響を考える。MA量は加熱温度上昇とともに減少し,AL材,TRZ材で大きな違いはないものの,TRZ材ではAF生成によりベイナイトが減少した結果,高アスペクト比のMA粒子は少ない。Kawabataら7)は,アスペクト比が4以上のMAの量が増えるとじん性が低下することを報告しており,AF形成による高アスペクト比のMA減少が,TRZ材のじん性を向上させた可能性がある。
以上の検討を踏まえて,Bainユニットサイズとアスペクト比4以上のMA量の関係をプロットした結果をFig.17に示す。グラフ中には各プロットの延性脆性遷移温度(vTrs)を表示し,これらから推定される等vTrs線を点線で描いている。これより,Bainユニットの微細化,アスペクト比4以上のMAの減少によりじん性が改善することがわかる。なお,MAの総量,サイズではじん性の傾向を整理できない(Fig.S3(Supporting information))。以上より,AF組織を利用したじん性の向上には,微細なAF結晶の生成およびベイナイトの成長阻止によるBainユニットの微細化と,ベイナイトの減少に伴う高アスペクト比のMA減少が有効であると結論される。
The amount of MA with aspect ratio more than 4 and Bain unit size in the AL and TRZ steels. The value next to each plot represents ductile-brittle transition temperature (vTrs). Dash lines represent estimated iso-vTrs contour lines.
本研究では,Ti-REM-Zr脱酸鋼(TRZ材)を用い,Ti-REM-Zr系複合酸化物(TRZ酸化物)がAF組織およびじん性に及ぼす影響を調べた。得られた結果は次のとおりである。
(1)TRZ材ではAl脱酸鋼(AL材)に比べ,酸化物を起点とするAF生成が促進されることで,AFの増加とそれに伴うベイナイトの減少が観察された。また,オーステナイト化温度が上昇するほどTRZ材のAF量は増加した。
(2)TRZ材では,微細なAF結晶が生成することに加え,AF自身がベイナイトの成長を阻止することでBainユニットが微細化される。また,AF生成に伴うベイナイトの減少により,高アスペクト比のMAが減少する。
(3)TRZ材のじん性はオーステナイト化温度上昇とともに改善され,AL材に比べ同等以上の良好な値を示した。また,TRZ材の破面単位,すなわち破壊に関する有効結晶粒はBainユニットであった。
(4)TRZ材におけるAF生成によるじん性向上は,有効結晶粒であるBainユニットの微細化と,高アスペクト比のMA量の減少が寄与したためと考えられる。
Chemical composition of steels for the evaluation of AF formation fraction. Secondary electron images of bainite, granular bainitic ferrite, oxide acting as the nucleation site for AF in the AL steel and AF in the TRZ steel heated at 1400°C. Secondary electron image and energy dispersive spectroscopy histogram of an oxide acting as the nucleation site for AF in the AL steel heated at 1400°C. The amount, average size of MA and Bain unit size in the AL and TRZ steels. This material is available on the Website at https://doi.org/10.2355/tetsutohagane.TETSU-2021-127.