Tetsu-to-Hagane
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Flow Stress of Duplex Stainless Steel by Inverse Analysis with Dynamic Recovery and Recrystallization Model
Kyunghyun Kim Hyung-Won ParkSheng DingHyeon-Woo ParkJun Yanagimoto
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2023 Volume 109 Issue 11 Pages 915-926

Details
Abstract

To obtain the flow stress in duplex stainless steel, a duplex flow model is proposed that applies a rule of mixtures with the relationship between the volume fractions of austenite and ferrite. The model includes the saturated stress ratio λ and the volume fractions of austenite and ferrite at various temperatures. It considers the mechanical deformation and microstructural evolution with dynamic recrystallization (DRX) and dynamic recovery (DRV) of the two phases during hot working. To confirm the validity of the proposed model and new inverse analysis method, hot compression experiments were performed at deformation temperatures of 1050, 1150, and 1250°C and strain rates of 0.1, 1, and 10 s−1 with SUS329J4L, which is an austenite-ferrite duplex stainless steel. According to the flow curves, the softening rate from the peak stress was steeper with decreasing temperature from 1250 to 1050°C, corresponding to estimated austenite volume fractions from 33% (1250°C) to 61% (1050°C). Microstructural heterogeneity between DRX in the austenite and DRV in the ferrite was observed at deformation temperatures from 1050 to 1250°C, confirming that a clearly different restoration mechanism occurred in the two phases.

1. 緒言

熱間加工において材料の流動応力は最も重要な特性の一つである。流動応力は一般的に圧縮実験によって求められるが,実験から取得した結果には,熱間加工の時に起こる内外部への熱伝達,摩擦拘束,加工発熱などの影響が含まれる。このことから流動応力を求めるため,これらを予め補正する手段としてComputer aided Engineering(CAE)を用いて熱間圧縮試験で得られる荷重~ストローク線図を逆解析することにより,流動応力を同定する試みがなされてきた1,2

二相鋼は,Cr,Niを多く含むことでオーステナイト相とフェライト相が共存することから優れた材料特性,すなわち,機械的強度と耐食性を持ち,海洋および石油化学工業,特に塩化物を伴う環境への用途に適している3。しかし,二相鋼の生産工程の解析に必要な流動応力は,熱間加工中に2つの相が共存し各相の微細組織が変化するため,予測が困難である。二相の積層欠陥エネルギー(Stacking Fault Energy, SFE)が異なるために組織変化の素過程が異なり,熱間加工領域での流動応力を支配する軟化の挙動には,異なる素過程の複合作用が影響する。一般的に,フェライトはSFEが高いため動的回復(DRV)が支配的に見られる。一方でSFEが相対的に低いオーステナイトには動的再結晶(DRX)が軟化の主なメカニズムである4,5,6,7 。二相合金の流動応力の予測については,相分率による混合測に基づいてFe–Cr–Ni鋼,フェライト–マルテンサイト鋼,2205Duplex鋼,バイメタルコンポジット等について研究が行なわれている 8,9,10,11,12。これらの先行研究は成功した研究ではあるが,流動応力の硬化と軟化が釣り合った平衡状態となる大きなひずみの領域では適用することが難しく,また,加工中の微細組織変化を十分に考慮していない。そこで本報では加工硬化,動的回復,動的再結晶の相互作用を考慮して,熱間加工が行われる大ひずみ領域までの流動応力を取得する方法を提案する。本研究の特徴は下記の通りである。

1)オーステナイトとフェライトの異なる加工硬化と軟化の挙動を反映させた新しい二相流動応力モデルを提案した。各相の流動応力を適切な関数とパラメータを用いて表現し,相分率や温度を変化させて,平均流動応力を各相の応力に複合則を用いて分配することにより,各相の流動応力挙動を表現することができた。

2)上記の分配を行うために,オーステナイトとフェライトの応力ひずみ関係を仮定し,応力分配比(λ)をシミュレーションと数学的手法により導出した。

3)大ひずみ域での流動応力を求めるためには圧縮試験を行う必要があるが,試験中の試験片の内部-外部熱伝達,摩擦拘束,加工発熱のため均一温度・均一変形を実現することができない。このことへの対策として,Thermo-mechanical CAEを利用して荷重ストローク線図を逆解析することにより,二相ステンレス鋼を求めた。

4)熱間加工時にオーステナイト相とフェライト相では内部組織変化の素過程が異なることを,熱間圧縮試験とマイクロ組織変化の観察から検証し,流動応力モデルを検証した。

2. 実験方法

本研究での圧縮実験は,油圧サーボ式高速熱間成形シミュレーター(Thermecmaster-Z 15ton)試験機を使用して行った。試験片は円柱形で,寸法は高さ12 mm,直径8 mmである。試験片として用いられたSUS329J4Lの二相鋼の化学成分をTable 1に示す。Fig.1に実験条件と時間-温度プロファイルを示す。試験片は誘導コイルで加熱し,R型熱電対からのフィードバック信号によりPID(proportional–integral–derivative)コントローラにて,目的の温度プロファイルに制御した。金型と試験片の間にはマイカ(t 0.2 mm)を挟み,ダイとの摩擦と熱伝達を低減させた。高温での酸化を抑制するために窒素ガスを使用した。試験片を 10°C s-1の一定速度で目標温度(1050, 1150, 1250°C)まで加熱し,目標温度で3分間保持することで試験片の温度を安定化した。その後,ひずみ速度0.1, 1, 10 s-1,圧縮率75%まで圧縮した。圧縮直後に水冷することで内部組織を凍結した。各実験条件について,実験結果の再現性を確認するために実験を2回行った。

Table 1. Chemical composition of SUS329J4L steel (mass %).

Fe Cr Ni Mo Mn Si Co C N P
64.01 24.79 6.84 2.83 0.69 0.5 0.16 0.015 0.14 0.024
Fig. 1.

Experimental conditions and temperature profile in compression test. (Online version in color.)

実験前後の試験片は電子線後方散乱回折法(Electron Backscatter Diffraction Pattern,EBSD)により,内部組織変化を分析した。実験前の試験片の平均粒径は9.5 µmであり,各相の平均体積分率は,オーステナイト47.2%,フェライト52.8%であった。(Fig.2(a), (b)

Fig. 2.

(a) Phase map and volume fractions, and (b) inverse pole figure characterized by EBSD of as–received specimen over an area of 150 × 150 μm2 with a step size of 0.25 μm. (Online version in color.)

3. Themo-mechanical CAEと連動した逆解析による流動応力の同定

熱間加工中に熱伝導により,試験片には温度分布が生じる。結果をFig.3(a)に示す。熱間圧縮試験で得られた実験データを用いて流動応力を同定するためには,試験片内部の温度分布を考慮することと,Fig.3(b)に示すようにひずみ分布つまり変形の不均一性も考慮する必要がある。そのため,誘導加熱から熱間圧縮に至る過程をThermo-mechanical CAEにより再現し,荷重~ストローク線図を実験結果とThermo-mechanical CAEを用いた計算結果を比較して逆解析することで,流動応力曲線に含まれるパラメータを同定する。二相鋼では組織変化の素過程が異なるために,γ相とδ相の流動応力曲線はそれぞれ動的再結晶型,動的回復型の異なる表示式となる。二相鋼の逆解析を行うためにYanagidaら2により開発されたFortranプログラムを改造して利用した。Thermo-mechanical CAEに利用した要素分割はFig.3の示す通りである。荷重~ストローク線図を1%刻みで最終圧下率である75%まで逆解析し,各相の流動応力曲線に含まれるパラメータを同定した。

Fig. 3.

Uneven distributions of (a) temperature and (b) strain in SUS329J4L during hot deformation, which were analyzed by thermomechanical CAE at a temperature of 1150°C and a strain rate of 1 s−1. (Online version in color.)

3・1 二相鋼のオーステナイトとフェライトにおける異なる変形メカニズム

二相を持つ合金の塑性挙動は相の化学組成,微細組織,相間の構成と相互作用によって異なる影響を受ける14。ひずみが発生すると,比較的強いオーステナイトは応力を負担する一方で,比較的弱いフェライトはひずみを負担する傾向がある。Fig.4(a), (b)は,圧縮前後における各相の変形および組織変化の素過程の概略図を示す。オーステナイト相ではSFEが低いことから熱間加工中にDRXが起こりやすくなる。そのため,DRXが主な軟化の原因であり,臨界ひずみを超えるとオーステナイト中のγ/γおよびγ/δ粒界でDRXが発生しこの部分が軟化する。γ/γおよびγ/δの粒界は不連続なDRX核の優先サイトとして機能する13。流動応力は,臨界ひずみに達するとDRXによる軟化の影響が発現し,最大応力を経た後,加工硬化と軟化が釣り合う平衡状態に達し,Fig.5(a)の緑の破線で示すように応力が一定値に収束する19,20

Fig. 4.

Schematic illustration of different deformation behaviors and microstructural evolutions in austenite and ferrite of duplex stainless steel: microstructural evolution between (a) undeformed grains and (b) deformed grains in the two phases. (Online version in color.)

Fig. 5.

Different types of flow stress and work hardening and softening ratios in DRV and DRX: types of flow stress (a) and changes in work hardening rate in DRV (b) and DRX (c). (Online version in color.)

一方,フェライト相ではSFEが高いことから加工中に蓄積した転位がDRVと連続動的再結晶(cDRX)によって軟化すると知られている。転位の発生に伴いサブグレインが形成され,DRVによる転位の消滅,さらに強変形を受けるとcDRXの形成につながることにより転位の生成と消滅が平衡状態となり,流動応力は最大応力を経ることなく,定常状態に至る15,16,17,18

これらの異なる軟化機構によりFig.5(a)に示すように,流動応力曲線は加工硬化(WH)型,動的回復(DRV)型,動的再結晶(DRX)型の3種類の形で表現される。Fig.5(b) に示したDRV型は,軟化が始まるとσ/∂εが減少しつつゼロに近づき最後には硬化と軟化のバランスでゼロに飽和する。一方,DRX型は,軟化がより支配的であることで∂σ/∂εはゼロ以下となってからゼロに収束して定常状態応力となる(Fig.5(c))。

3・2 二相鋼の流動応力の構成方程式

流動応力の構成式は,ひずみ,ひずみ速度,温度の関数として,式(1)-(3)の形で表現できる。ここで,mAT0はそれぞれひずみ速度感受性指数,温度感受性,基準温度である。この流動応力の構成式は,金属の熱間加工において重要な物理現象である臨界ひずみ(εc),最大ひずみ(εp),および定常応力係数(F3)をパラメータに含んでおり,DRXが現れる合金の流動応力を表現するのに適している2

  
σ ¯ = σ ¯ ( C , ε ¯ , ε ¯ ˙ , T ) (1)
  
σ ¯ * = σ ¯ ε ¯ ˙ m exp ( A T ) exp ( A T 0 ) (2)
  
σ ¯ = { F 1 ε ¯ n ( ε ¯ < ε ¯ c ) F 2 exp [ a ( ε ¯ ε ¯ p ) 2 ] + F 3 ( ε ¯ ε ¯ c ) (3)

しかし,二相鋼のフェライト相ではDRXが起こらず,最大応力を経ずに流動応力が飽和するDRV型の流動応力であるため,式(3)の適用は困難である。そのため,DRVが表現できる新たな流動応力の式として,フェライト相の飽和応力(σsat)を表現するモデルを追加する。DRVの式を導き出すには加工硬化と転位密度の関係を考える必要がある。これを式(4)で表す。ρaはそれぞれ転位密度,材料定数である。

  
σ ¯   =   a ρ (4)
  
ρ t = b D ρ (5)

また,時間tに対する転位密度の変化(∂ρ/∂t)は,式(5)で表されるように転位密度に比例する27。ここで,bDは動的回復率,aは材料定数である。転位密度(ρ)はひずみ(ε)と時間(t)に依存するため,式(6)が導出できる21

  
d ρ = ρ ε ¯ d ε ¯ + ρ t d t (6)
  
ρ = c b D ε ¯ ˙ [ 1 exp ( b D t ) ] + ρ 0 exp ( b D t ) (7)
  
σ ¯ = a { c b D ε ¯ ˙ [ 1 exp ( b D ε ¯ ˙ ε ¯ ) ] + ρ 0 exp ( b D ε ¯ ˙ ε ¯ ) } 1 2 (8)

式(5)(6)の解は,式(7)に示すようにひずみ速度と時間(t=ε/ε¯˙)で表すことができる。最後に,式(7)式(4)に代入すると式(8)が得られる。ρ0は初期転位密度,cは材料定数である。境界条件としてεが0あるいは∞の時,対応する流動応力σは0またはσδ,satとなる。結果的に二相鋼のフェライト相の動的回復モデルは,式(9)で求められる。

  
σ ¯ = σ ¯ δ , s a t { 1 exp ( b D ε ¯ ˙ ε ¯ ) } 1 2 (9)

よって,DRX型の式(3)とDRV型の式(9)を用いることで,オーステナイトとフェライトを有する二相鋼の流動応力を表現することができる。

3・3 応力分配比(λ)の決定

DRX型のオーステナイト系金属の構成式は式(3)で,DRV型のフェライト系金属の構成式は式(9)で定義することが可能である。そこで,式(3)(9)の間の応力分配比を導入すると,二相ステンレス鋼において各相の流動応力の変化を考慮した流動応力構成式が導入できる。流動応力曲線は,先に述べた通り熱間圧縮試験の荷重ストローク線図を逆解析することにより得ることができるが,これは二相鋼の平均流動応力であってオーステナイトとフェライトの各相の流動応力を直接求めることはできない。そこで応力分配比λを導入し,二相の流動応力の関係を式(10)のように決定した。

  
σ ¯ γ , s a t =   λ σ ¯ δ , s a t (10)

本研究ではσγ,satσδ,satをオーステナイトとフェライトの加工硬化とDRVによる軟化の平衡領域における飽和応力と定義し,λを各相の飽和応力の比として導入した。オーステナイトはDRXにより軟化が発生するため,σγ,satは実験データから求めることはできない。しかし,Fig.5(c)のように接線外挿法によって計算することができる。λはひずみに依存し連続的に変化するが,平衡状態に達した時には一定となる(Fig.6)。

Fig. 6.

Conceptual illustration showing the determination of λ. (Online version in color.)

相分率を用いた混合則は,式(11)により飽和応力について適用することができる。Iγ/δは二相間の相互作用効果である。Ankemら14によると,局所的に生じる相互作用は全体的にプラスとマイナスの関係でゼロと考えることができることからIγ/δをゼロと仮定した。これを式(11)に適用すると式(12)となる。

  
σ ¯ s a t = σ ¯ γ , s a t × V f γ + σ ¯ δ , s a t × V f δ + I γ / δ (11)
  
σ ¯ s a t = σ ¯ γ , s a t × V f γ + σ ¯ δ , s a t × V f δ (12)

λは,式(12)を用いて様々な体積分率における飽和応力(σsat)を比較することによって求められる。Fig.7に示すように飽和応力率(σsat/σδ,sat)は体積分率(VfγVfδ)によって変化する。Crはフェライト,Niはオーステナイトの安定化元素として作用するため,CrとNiの量を0.5 mass%ずつ変化させてシミュレーションを行った結果をFig.8に示す。1050–1250°C範囲の温度において,CrとNiの添加量による相分率は線形的に変化することがわかる。そのため,λは,Fig.78から回帰法により得られた式(13)(14)から求められる。

  
σ ¯ s a t / σ ¯ δ , s a t = σ ¯ γ , s a t / σ ¯ δ , s a t × V f γ + V f δ (13)
  
σ ¯ s a t / σ ¯ δ , s a t = ( λ 1 ) × V f γ + 1 (14)
Fig. 7.

Determination of relative saturated stress (λ) and linear relationship for similar chemical compositions. (Online version in color.)

Fig. 8.

Changes in volume fraction with Ni and Cr contents: (a) increasing δ phase (increasing Cr and decreasing Ni contents) and (b) increasing γ phase (decreasing Cr and increasing Ni contents). (Online version in color.)

Fig.9は,合金の化学組成によるVfγVfδを変化させた際の,各温度におけるJMatProによるシミュレーションの結果で最大応力とそれらの接線を示す。計算に適用した流動応力は式(15)である。

  
σ ¯ = K ε n ε ˙ m (15)
Fig. 9.

Calculated changes in relative saturated stress at each chemical composition. (Online version in color.)

ここでKは材料係数,nは加工硬化指数,mはひずみ速度感受性指数である。飽和応力率(σsat/σδ,sat)は体積分率(Vfγ)の変化に対し線形的関係であり,Fig.7に示したように傾きがλ-1となる。飽和応力率(σsat/σδ,sat)値は最大応力を経たない区間内でソフトウェアシミュレーションを行い(Fig.9),得られたデータから飽和応力率(σsat/σδ,sat)とVfγの関係は回帰法によって計算して結果をFig.10に示す。λは温度が減少することにつれて増加する傾向となる。計算されたR2は1050,1150,1250°C温度でそれぞれ0.959,0.976,0.991として妥当である。

Fig. 10.

Determination of λ value for 25Cr7Ni duplex stainless steel. (Online version in color.)

3・4 逆解析による二相鋼の流動応力の同定

DRXを主たる組織変化の素過程とするオーステナイトとDRVを素過程とするフェライトからなる,すなわち異なる軟化機構からなる二相鋼の流動応力を,混合則により式(16)により表す。二相のひずみについては,Fig.11(a)の通り流動応力値が異なるため異なる値となりひずみ分配を行うべきだが,ここではFig.11(b)の通り同一と考えるTaylor仮定(1938)22を適用し,式(17)を得た。

  
σ ¯ ( ε ¯ ) = σ ¯ γ ( ε ¯ ) × V f γ + σ ¯ δ ( ε ¯ ) ×   V f δ (16)
  
ε ¯ = ε ¯ γ =   ε ¯ δ (17)
Fig. 11.

Illustrations of equal–strain assumption of duplex flow curve. (Online version in color.)

Fig.11に示すようにひずみ分配が単純化されているため,流動応力の計算において各相の流動応力は同じひずみ(ε)の関数として使用することができる。構成応力σγε)とσδε)はそれぞれ式(18),(19)で与えられる。

  
σ ¯ γ ( ε ¯ ) = { F 1 ε ¯ n ( ε ¯ < ε ¯ c ) F 2 exp [ a ( ε ¯ ε ¯ p ) 2 ] + F 3 ( ε ¯ ε ¯ c ) (18)
  
σ ¯ δ ( ε ¯ ) = σ ¯ γ , s a t λ { 1 exp ( b D ε ¯ ˙ ε ¯ ) } 1 2 (19)

式(18)γ相のDRX軟化を,式(19)δ相のDRV軟化を表現することができる。ここで,F1nεcF3のおよびbDのは5つの独立変数であり,F2aεp式(18)の数学的1次と2次の微分連続性で決まる従属変数である。計算に適用されたλは1050,1150,1250°C温度でそれぞれ4.85,2.66,2.05とした。逆解析の手順をFig.12に示す。上記の5つの独立変数のパラメータセットとしてCを設定し,Cは反復処理により値を変化させながら計算を行い,k回目の流動応力曲線のパラメータであるC<k>k回目のF1nεcF3のおよびbD)が終了条件を満たすまで計算を繰り返し,最適解を求める2

Fig. 12.

Inverse analysis procedure for the duplex stainless steel.

4. 結果と考察

4・1 熱間圧縮試験による二相鋼の流動曲線

圧縮試験で得られた軸方向応力の結果をFig.13(a)に示す。この実験では,温度の上昇およびひずみ速度の低下と共に応力が減少しており,より高い温度とより低いひずみ速度によって軟化挙動が起きやすいことが示されている。高い温度と低いひずみ速度は,加工中に粒界に沿って高速で変形できること,転位によるエネルギー蓄積の時間が確保できること,またDRX結晶粒の核生成と粒成長を促進する23。DRXによる軟化は,DRXがオーステナイト粒界付近で起き易いため,温度の上昇に伴うオーステナイト相分率の減少につれて減少する24Fig.13(a)の緑矢印で示した最大応力からの軟化速度は,変形温度が 1250°Cから1050°Cに下がるにつれて急峻になる。最大応力からの低下率は,Fig.13(b)のようにVfγ[61%(1050°C),49%(1150°C),33%(1250°C)]との相関関係があった。

Fig. 13.

(a) Experimental results of compression test at strain rates of 0.1, 1, and 10 s−1 and temperatures of 1050, 1150, and 1250°C (green arrows indicate the decrease after the peak stress). (Online version in color.)

4・2 逆解析による二相鋼の流動曲線

逆解析により得られた流動曲線をFig.14に,5つのパラメータ(F1nεcF3のおよびbD)と誤差の値をTable 2に示す。二相の流動応力は温度が高いほどその差が小さい。各温度に対応するλの適用により,温度が増加による各相の応力の差が小さいとの結果になった。また,ひずみ速度が大きくなると軟化時間が減少するため,それに対応した応力の分配が計算された。σγσδの差は,温度が低く,ひずみ速度が大きいほど大きくなることが確認できた。

Fig. 14.

Results of inverse analysis under various conditions with calculated λ values of 4.85 (1050°C), 2.66 (1150°C), and 2.05 (1250°C). (Online version in color.)

Table 2. Values of five parameters.

Temperature °C Strain rate s−1 bD F 1 n εc F 3 error %
1050 0.1 11.73 159.7240 0.0072 0.0522 79.8886 2.35
1 29.70 189.4749 0.0100 0.0936 162.0758 1.35
10 88.74 235.0002 0.0189 0.1496 159.0479 0.48
1150 0.1 13.28 89.0364 0.0056 0.0559 46.4847 2.32
1 59.61 112.1247 0.0213 0.1070 88.4842 1.43
10 196.34 126.5685 0.0012 0.0333 116.8452 1.11
1250 0.1 26.79 44.8854 0.0546 0.0791 39.6778 2.20
1 135.00 50.8990 0.0104 0.0571 49.1969 1.09
10 385.26 73.3314 0.0150 0.0825 51.6419 1.90

Fig.15に示したように,逆解析中のThermo-mechanical CAEによる荷重~圧下率曲線は,実験の荷重–圧下率曲線とよく一致した。これは本研究で求めた二相鋼の流動応力モデルのパラメータ(Table 2)が,実験結果を反映し精度よく求まっていることを意味する。

Fig. 15.

Comparison of load-reduction results obtained by between experimental data and inverse analyzed data at temperatures of 1050, 1150, and 1250°C and strain rate of 0.1 s−1. (Online version in color.)

4・3 微細組織変化で軟化機構の検証

本研究では,支配的な軟化機構としてオーステナイトではDRX,フェライトではDRVと仮定した。このことの妥当性を確認するため,加工温度1050,1150,1250°C,ひずみ速度0.1 s-1,圧下率75%(相当ひずみ約1.386)で加工した試験片を用いてEBSD分析を行った。Fig.16は,圧縮後の二相鋼のオーステナイトとフェライトの方位差(Misorientation)マップ,逆極点図(Inverse pole figure map, IPF map),粒径分布である。熱間加工においてオーステナイト領域では,Misorientationマップを比較するとオーステナイト領域では,Misorientationマップを比較するとオーステナイト領域では高角粒界(High angle grain boundary, HAGB)を持つ等軸粒が明らかに存在し,粒界のトリプルジャンクションが観察され,これはDRXの発生を意味する23。一方,フェライト領域では主に低角粒界(Low angle grain boundary, LAGB)を含むサブグレインが観察されたため,DRVが支配的であることがわかる。圧縮応力を受けたフェライトはサブグレインを有しつつ,<001>//RDと<111>//NDの集合組織が強く発達すると知られており25,26,今回の実験結果とよく一致した。

Fig. 16.

Misorientation distribution maps, IPF maps, and grain size distributions of the duplex stainless steel after compression at temperatures of 1050, 1150, and 1250°C, a strain rate of 0.1 s−1, and a height reduction ratio of 75%. (Misorientation lines: red, green, and blue lines have misorientations of 2º<θ<5º, 5º<θ<15º, and θ>15º, respectively) (Online version in color.)

また,平均粒径を確認するとオーステナイト(1050, 1150, 1250°Cで1.91, 2.85, 5.67 µm)が,フェライト(1050, 1150, 1250°Cで6.72, 13.74, 22.97 µm)より小さくなっている。これは,オーステナイトがDRXにより微細化したことの証拠である。

以上の通り,各相の内部組織変化の特徴が確認できる。このことから,本報にて示した通り,各相での軟化を支配する主たる内部組織変化の素過程に対応した流動応力を利用すべきことが明らかとなった。

5. 結論

二相鋼の流動応力を取得するために,二相の応力分配比(λ)とオーステナイトおよびフェライトの体積分率の関係を考慮した新たな流動応力のモデルを提案した。このモデルを用いて逆解析により二相ステンレス鋼(SUS329J4L)の熱間加工時の流動応力を同定した。主な結果を以下に示す。

(1)加工中に各相のひずみ(ε)が同じである仮定し,熱間加工においてオーステナイトのDRXとフェライトのDRVといった異なる軟化メカニズムによる流動応力変化を定式化し,新たな二相の流動応力のモデルを提案した。

(2)各相への応力分配比(λ)は,各相の体積分率を変化させながらシミュレーションを実施し,二相の平衡状態での応力から,飽和応力率(σsat/σδ,sat)を求め,これとVfγの関係から求めた。

(3)二相ステンレス鋼(SUS329J4L)において,5つ(F1nεcF3bD)の独立変数を用いた逆解析を実施し,この結果,互いに異なるオーステナイトとフェライトの二相の流動応力を表現することができた。

(4)EBSD分析により,二相鋼において熱間加工中に異なる軟化メカニズムが発生すること,そのため,γ相とδ相で異なる流動応力モデルを適用することが必要であることを確認した。

文献
 
© 2023 The Iron and Steel Institute of Japan

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https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/
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