Tetsu-to-Hagane
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High Temperature Mechanical Properties and Microstructure in 9Cr or 12Cr Oxide Dispersion Strengthened Steels
Masatoshi Mitsuhara Koichi KurinoYasuhide YanoSatoshi OhtsukaTakeshi ToyamaMasato OhnumaHideharu Nakashima
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2023 Volume 109 Issue 3 Pages 189-200

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Abstract

Oxide Dispersion Strengthened (ODS) ferritic steel, a candidate material for fast reactor fuel cladding, has low thermal expansion, good thermal conductivity, and excellent resistance to irradiation damage and high temperature strength. The origin of the excellent high-temperature strength lies in the dispersion of fine oxides. In this study, creep tests at 700°C or 750°C, which are close to the operating temperatures of fast reactors, and high-temperature tensile tests at 900°C to 1350°C, which simulate accident conditions, were conducted on 9Cr ODS ferritic steels, M11 and MP23, and 12Cr ODS ferritic steel, F14, to confirm the growth behavior of oxides. In the M11 and F14 creep test samples, there was little oxide growth or decrease in number density from the initial state, indicating that dispersion strengthening by oxides was effective during deformation. After creep deformation of F14, the development of dislocation substructures such as dislocation walls and subgrain boundaries was hardly observed, and mobile dislocations were homogeneously distributed in the grains. The dislocation density increased with increasing stress during the creep test. In the high-temperature ring tensile tests of MP23 and F14, the strength of both steels decreased at higher temperatures. In MP23, elongation decreased with increasing test temperature from 900°C to 1100°C, but increased at 1200°C, decreased drastically at 1250°C, and increased again at 1300°C. In F14, elongation decreased with increasing temperature. It was inferred that the formation of the δ-ferrite phase was responsible for this complex change in mechanical properties of MP23 from 1200 to 1300°C.

1. 緒言

酸化物分散強化型(Oxide Dispersion Strengthened: ODS)フェライト鋼は,低熱膨張率・良熱伝導率であり,かつ,耐照射損傷性と高温強度に優れ,高速炉の燃料被覆管の候補材料として世界中で広く研究がなされている17)。既存の耐熱フェライト鋼も耐照射損傷性に優れるが,使用は600°C以下に限定される。一方で,ODSフェライト鋼は,既存の耐熱フェライト鋼よりも数倍の高温強度を有し8,9),特に,マルテンサイト相と残留フェライト相から成る9Cr系ODS鋼は,高速炉の燃料被覆管で想定される通常運転時の最高使用温度(700°C)において,極めて優れた高温強度を示す10,11)。また,母相をフェライト相のみとした12Cr系ODS鋼は,高速炉運転温度での強度は9Cr系ODS鋼に劣るものの,事故時を想定した1200°C以上の温度ではより優れた高温強度を示すことが報告されている12)。両鋼とも,1000°C以上の高温領域での引張強度は炉心用候補材料の中でも特に優れており,シビアアクシデントの起因事象となる事故時超高温環境での燃料破損の抑止または破損までの時間的な裕度確保に有効であることから,プラントの安全性向上をもたらす重要な材料として位置付けられている12)

ODS鋼被覆管の製造工程では,狙いの化学組成になるように秤量した元素粉末とY2O3粉末をメカニカルアロイング処理し13),母相である鉄中にYとOを強制的に固溶させる。メカニカルアロイング後,素管製造のため熱間押出しを行い,冷間圧延と中間熱処理を4回繰り返して,目的の形状の被覆管とする。熱間押し出しの際,過飽和に固溶したYがTiを生成核として極めて微細なY-Ti-O酸化物を形成する1417)。この酸化物がODS鋼の高温強度の根源である。

鉄鋼材料は,母相より硬質あるいは軟質な粒子を微細に分散させることによって転位の運動を抑制し,高温強度を増大させることができる。ODS鋼では,母相中に微細に析出した硬質な酸化物が運動転位をピニングすることによって強化が起きる18)。この分散強化の大きさは,粒子の分布やサイズに依存し,一般には,粒子表面間距離が小さいほど材料は強化される19)。分散される酸化物の体積が一定である場合,粒子表面間距離を短くするためには,酸化物の粒径は小さいほどよい。すなわち,外的な要因,例えば,クリープ試験中の温度や応力の影響によって,変形中に酸化物が成長すると,粒子表面間距離は大きくなり分散強化の効果が徐々に失われていくことになる。

ODSフェライト鋼の強化が,母相に緻密に分散される酸化物によってもたらされていることは,これまでの研究により明らかであるが,実機使用条件または事故時を想定した超高温での酸化物の成長挙動については不明な点が残されている。それは,酸化物が極めて小さく,そのサイズや分布状態の評価の多くが,高性能な透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope: TEM)または走査透過型電子顕微鏡(Scanning TEM: STEM)を用いた局所的な組織観察に基づくことに一因がある。そこで,本研究では,比較的広範囲な組織観察が可能な走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope: SEM)を用いてODS鋼の酸化物分散状態を評価し,高速炉通常運転時におけるODS鋼被覆管の使用環境に近い700°Cまたは750°Cのクリープ試験と,事故時を模擬した900°Cから1350°Cでの時効処理または高温引張試験での酸化物の成長挙動を確認した。それに加えて,変形後の微細組織観察を行い,クリープ試験と高温引張試験でそれぞれ評価される高温力学特性発現の材料学的背景について考察を行った。

2. 実験方法

本研究で用いた供試材は,2種類の9Cr系ODSフェライト鋼と,1種類の12Cr系ODSフェライト鋼である。それぞれの試料名称(M11,MP23およびF14)と化学組成を,Table 1に示す。緒言で述べた製造工程により各試料を被覆管形状に成形した後,M11とMP23には,1050°Cで1 hの焼きならしと800°Cで1 hの焼き戻しを施した。いずれの熱処理後も不活性ガス吹付けによる冷却を行った。F14には,1150°Cで1 hの均質化熱処理(再結晶熱処理)を施した後,不活性ガス吹付けによる冷却を行った。これら熱処理を実施した後の試料を,本研究では初期材と表記する。

Table 1. Chemical composition of the sample steels. (mass%)
CSiMnPSNiCrWTiYONArY2O3Ex.O
M110.130.050.040.0020.0020.029.001.950.200.290.140.0130.00250.370.06
MP230.130.080.05<0.0020.001<0.209.161.940.210.280.150.0100.00400.360.08
F140.040.050.090.0050.0040.0811.391.870.260.180.100.0100.00450.230.05

MP23初期材を1000°C,1100°C,1200°C,1250°C,1300°Cおよび1350°Cで1 hの条件で時効し,その後に炉冷した。また,F14初期材に対して,1000°C,1250°Cおよび1350°Cで1 h,ならびに,1300°Cと1350°Cで5 hの時効を施し,その後に炉冷した。これらの試料を本研究では高温時効材と表記する。

本研究では,高温力学特性の評価に内圧クリープ試験とリング引張試験11,12)を用いた。内圧クリープ試験では,高速炉での通常運転時における長期間使用下での材料の力学特性を評価し,リング引張試験では,事故時における材料の短時間的な力学応答を評価した。各高温力学試験に用いた試料と試験条件を,Table 2に示す。内圧クリープ試験では,その条件における破断時間も付記する。ただし,内圧クリープ試験における相当応力(Von Mises応力)σeは,周方向応力σθ,軸方向応力σZおよび径方向応力σrを用いて,以下の式で求められる。

  
σθ=(Dt)2tP(1)
  
σz=(Dt)4tP(2)
  
σr=0(3)
  
σe=(σθσz)2+(σzσr)2+(σrσθ)22=32σθ=3(Dt)4tP(4)
Table 2.

Mechanical tests conditions.

ここで,Pは内圧,Dは試験に供したチューブ型試験片の外径,tは管の肉厚である。

各試料の微細組織観察には,SEM(Carl Zeiss社製 Ultra55)とSTEM(Thermo Fisher Scientific社製 Titan Cubed G2)を用いた。SEM観察用試料には,耐水研磨紙による湿式研磨,ダイヤモンド研磨剤(粒径3 μmと1 μm)を用いたバフ研磨およびコロイダルシリカ懸濁液(粒径50 nm)を使用した化学機械研磨を施した。SEM観察条件は,加速電圧1 kV(2次電子(Secondary Electron: SE)像取得時)または15 kV(反射電子(Back Scattered Electron: BSE)像取得時),作動距離 3 mm~15 mmとした。STEM観察用試料は,集束イオンビーム装置(Focused Ion Beam: FIB, Thermo Fisher Scientific社製 Scios)を用いて作製した。STEM観察中の加速電圧は300 kVとし,明視野(Bright-field: BF)モードにおいて像を取得した。

MP23初期材の相変態温度を調査するため,示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry: DSC,NETZSCH社製DSC 404 F3)を行った。DSC測定用試料として,MP23初期材から約40 mgの小片を切り出し,試料パンに接触する面を湿式研磨により平滑にした。参照試料には,測定温度の範囲内で状態変化のないアルミナを用いた。昇温速度10°C/minで30°Cから1400°Cまで測定し,その後,降温速度20°C/minで室温まで降温した。

3. 結果と考察

3・1 クリープ試験における酸化物と転位組織の変化

本節では,ODSフェライト鋼をクリープ試験に供した際の酸化物の分散状態の変化と転位組織の発達挙動について調査した結果を述べる。Fig.1に,(a)M11と(b)F14の内圧クリープ試験結果を示す。本研究で実施した内圧クリープ試験では,約2000 hごとに相当ひずみを測定している。(b)のF14では,3種類の応力条件での結果をまとめて示している。いずれのクリープ試験においても,時間が増すごとに相当ひずみが増加するものの,1%に到達することなく破断に至っている。一般的な金属材料におけるクリープ変形は,ひずみ速度が徐々に減少する1次(遷移)クリープ,ひずみ速度がほとんど変化しなくなる2次(定常)クリープ,ひずみ速度が徐々に増加する3次(加速)クリープに区分される。M11では,4000 h程度で1次(遷移)クリープが終了し,そこから30000 h程度までひずみ速度はほとんど変化せず,30000 h以降,ひずみ速度がわずかに増加する傾向を示すものの,加速の程度は大きくはない。F14は,どの応力においても,10000 h程度まで1次(遷移)クリープを示す。その一方で,113 MPaと108 MPaでは,明瞭な3次(加速)クリープを示すことなく破断に至っている。94 MPaでは,34000 hほどからわずかな加速を示すものの,M11と同様に,加速の程度は大きくない。

Fig. 1.

Creep curves of (a) M11 at 750°C and (b) F14 at 700°C.

Fig.2に,(a)M11と(b)F14の初期材のSEM-BSE像を示す。これらの像では,電子線チャネリングコントラストにより結晶粒の形状が可視化されており,Fig.2(a)から,M11の母相は細かな板状結晶粒で構成されていることがわかる。これらはマルテンサイトにおけるラスやブロックの形態に対応している。ただし,これまでの研究報告2022)により,M11は組織の一部に残留フェライトを含むことが知られている。また,Fig.2(b)から,F14の母相は鋼管押し出し方向に伸長したフェライトであることがわかる。このような母相の違いから,Fig.1に示したクリープ試験結果における1次(遷移)クリープの挙動の違いを説明できる。1次(遷移)クリープは,変形開始後の転位密度の増加や転位下部組織の発達に伴う内部応力の上昇により,ひずみ速度が徐々に減少する変形領域である。母相がマルテンサイトであるM11の場合には,変形前にすでに多くの転位が組織中に含まれている。そのため,フェライトであるF14に比べて1次(遷移)クリープの期間が短くなったと推察される。次に,3次(加速)クリープについて考察する。ASME Gr.91に代表されるようなマルテンサイトを母相とする既存の実用耐熱鋼では,クリープ変形の早期からマルテンサイトの組織変化が生じ始め,強化因子である析出物の粗大化も相まって,3次(加速)クリープが全変形の7割以上を占めることが報告されている23)。これに対して,同じくマルテンサイトを母相とするM11では,Fig.1に示したとおり,3次(加速)クリープにおける加速の程度は大きくなく,また,その期間も短い。フェライトを母相とするF14でも,M11と同様に,3次(加速)クリープでの加速の程度は大きくない。これらのことは,ODS鋼が,既存の実用耐熱鋼に比べて,強化因子として作用する微細組織の熱的安定性が高いことを示唆している。その一方で,ほとんど加速を示すことなく相当ひずみ1%未満で破壊している様子から明らかなように,ODS鋼では,変形中にクリープ損傷が発生して局所に応力が集中した場合に,それを緩和するための塑性ひずみを生み出しにくく,延性に乏しい特徴も持ち合わせている。このようなODS鋼のクリープ変形の特徴は,酸化物の分散状態とそのクリープ変形中の変化,ならびに,その組織の中での転位の運動と転位下部組織の発達に基づくものであると考えられ,それらを定量的に評価することが望ましい。

Fig. 2.

SEM-BSE images of initial microstructure in (a) M11 and (d) F14.

Fig.3は,(a)M11と(b)F14でそれぞれ観察した高倍率のSEM-SE像である。電位コントラストにより,母相と酸化物の境界に白色のリングが形成され,これにより酸化物を明瞭に観察することができる。両鋼とも任意に3視野を選択し,酸化物の分散状態を定量的に調査した。また,同様の観察を,Fig.1に示したクリープ試験における破断材にも実施した。ただし,破断材の観察では,クリープ試験で発生した主亀裂の箇所から十分に離れた領域において3視野を選択した。各試料から得られた酸化物の平均粒子径と平均数密度を,Table 3に示す。また,表には,それらの酸化物パラメータから計算される平均粒子表面間距離と,Orowan機構を想定した際のしきい応力19)を算出した結果も併せて示す。両鋼とも,数万時間以上に及ぶクリープ試験後にもかかわらず,酸化物の成長や数密度の低下はわずかである。このことから,本研究のクリープ試験条件においては,酸化物による分散強化は,変形中に有効に作用し続けているものと推察される。また,Orowan機構を想定した場合の酸化物の乗り越えに必要なしきい応力は,いずれの条件でもクリープ変形における外力より高い。したがって,結晶粒界近傍などの応力集中が生じやすい局所的な領域を除き,転位の酸化物乗り越えには,Orowan機構のような非熱的なものではなく,例えば転位の上昇運動が関与するような,熱活性化過程を含む乗り越え機構が関与していると推察される。

Fig. 3.

High-magnification SEM-SE images of initial microstructure in (a) M11 and (d) F14.

Table 3. Quantitative evaluation of oxide parameters in M11 and F14.
M11F14
InitialCrept at 750°C
74 MPa
InitialCrept at 700°C
94 MPa
Crept at 700°C
108 MPa
Crept at 700°C
113 MPa
Average particle diameter / nm6.46.96.46.87.86.6
Average number density / m−35.3×10224.5×10223.9×10221.4×10227.2×10211.1×1022
Average interparticle surface distance / nm626475125160142
Average threshold stress / MPa402409326199163174

次に,クリープ変形によって形成される転位組織に着目する。マルテンサイトを母相とするM11では,相変態によって導入された高密度な転位が存在するため,クリープ変形中に増殖し運動した転位を観察するのに不向きである。そこでFig.4には,F14のクリープ破断材をSTEM観察した結果の一例を示す。(a)は94 MPa,(b)は113 MPaでのそれぞれのクリープ試験材において,結晶粒内に観察された転位のSTEM-BF像である。これらの観察も,酸化物の分散状態を観察した際と同様に,主亀裂の発生箇所から十分に離れた領域で実施した。Fig.4より,いずれの応力においても,クリープ変形後にもかかわらず,結晶粒内において,転位壁や亜粒界のような転位下部組織の発達はほとんど認められず,それぞれの運動転位が孤立して存在していることがわかる。一般的な金属材料の高温変形では,活発な転位運動の中で生じる転位-転位間相互作用により亜粒界が形成され,結晶粒はポリゴン化する。その亜結晶粒サイズは応力の大きさに反比例することが知られている24,25)。分散物間隔がそれほど密でない場合の分散強化材料では,分散物の近傍における運動転位の存在確率が母相に比べて高くなることから,分散物近傍が転位-転位間相互作用の場として振る舞い,転位下部組織の発達を促す。例えば,NbCで強化されたSUS347HTBやNi3Alで強化されたNi基耐熱合金のクリープ変形材では,高密度に発達した転位下部組織が引き起こす結晶方位回転を容易に測定することができる26)。それに対して,Fig.4に示したODS鋼の変形後の転位組織は特徴的であり,それは固溶強化型合金において,転位が固溶元素と強く相互作用を起こしながら粘性的に運動した場合に形成される均一分散した転位組織27,28)に類似している。すなわち,酸化物が極めて密に分散しているODS鋼では,1本の運動転位に数多くの酸化物が同時に作用することで,転位の運動は自由飛行的挙動を失い,その結果として転位-転位間相互作用が生じにくく,転位壁や亜粒界などの,クリープ変形後に一般に観察されるような転位下部組織が形成されにくいという特徴を持つと考えられる。続いて,応力の効果に着目する。Fig.4の(a)と(b)を比べると,応力が増加すると転位密度が高くなるようにみえる。そこで,転位密度を定量評価した。しかし,透過型電子顕微鏡観察における二波励起条件下では,選択された回折波と転位のバーガースベクトルの内積が零となる場合に,転位のコントラストが不可視になる。その一方で,体心立方構造であるFe相において,上述の転位の消滅条件を満足させず,領域内の全転位を可視化させることのできる回折波は高次に限定されるため,それを利用した像では転位のコントラストが弱く定量評価に不向きである。そこで,本研究では,Fig.4に示した観察結果も含め,転位の観察が容易ないくつかの低次の回折波を使用して同視野を複数回撮影し,それらから算出された平均値を,転位密度を代表する値として取り扱うこととした。転位密度の算出には,Hamの方法29)を採用し,以下の式を用いた。この式では,電子顕微鏡像の上に描いた格子線と,そこに存在する転位線との交点の数を計測し,転位密度ρを算出することができる。

  
ρ=2NLt(5)
Fig. 4.

STEM-BF images of dislocations in F14 crept under (a) 94 MPa and (b) 113 MPa.

ここで,Nは格子線と転位線の交点の数,Lは格子線の総長さである。tは観察視野の厚さであるが,これは,試料を傾斜させた際の,視野内の結晶粒界の幅の変化から算出した。Table 4は,F14の700°Cクリープ破断材において算出した転位密度である。Fig.1(b)に示したクリープ曲線の形状と,主亀裂の発生箇所から十分に離れた領域を観察視野として選択したことを合わせて考慮すると,Table 4に示した転位密度には,破断の際の局所的な塑性変形は影響しておらず,2次(定常)クリープまでの変形状態を強く反映したものであると考えることができる。表に示したとおり,転位密度はクリープ変形中の応力が増すほど大きくなる。2次(定常)クリープにおける転位密度は,転位の増殖と消滅の釣り合いで決定されるため,応力が増すほどに密度が増加するのは合理的である。そこで,Fig.5に,F14の各クリープ試験における定常ひずみ速度を,転位密度と応力の積で整理した結果を示す。図からわかるように,2次(定常)クリープにおけるひずみ速度は,転位密度と応力の積に対して良い線形関係を示す。これもまた,固溶体合金の傾向30)に類似したものである。このように,分散強化を非常に高めたODS鋼における転位組織やひずみ速度が,結果として固溶体合金に似た力学的特徴を示すのは大変興味深い。一般に,短距離障害物に分類される固溶原子と長距離障害物である第二相粒子に対するそれぞれの転位の乗り越え過程は,熱活性化運動として本質的に異なるわけであるが,ODS鋼における極めて緻密な酸化物分散状態は,ここで論じた転位組織の評価からも,先に論じたしきい応力の観点からも,まるで短距離障害物のように議論すべきであることを意味している。

Table 4. Dislocation density of F14 crept at 700°C.
Applied stress94 MPa108 MPa113 MPa
Dislocation density / m−21.0×10134.5×10135.5×1013
Fig. 5.

Relationship between steady-state strain rate and the product of dislocation density and stress in F14.

3・2 事故時を模擬した高温下における酸化物の変化と力学特性

Fig.6に,MP23初期材のSEM-BSE像を示す。MP23の初期材は,M11と同様に,主としてマルテンサイトを母相とすることが確認できる。ただし,過去の報告2022)により,一部に残留フェライトを含むことが知られている。次に,Fig.7に,(a)MP23と(b)F14の1000°C-1h時効材のSEM-BSE像を示す。Fig.7(a)では,等軸に近い形状の2 μm程度の微細なフェライトが確認できる。これは,時効中に1000°Cへ昇温したことにより,初期組織であるマルテンサイトがオーステナイトへと相変態し,続いて時効後の炉冷中に,オーステナイトからフェライトへと拡散型相変態が生じたことを示唆している。フェライトの平均粒径が約2 μmと細かいことは,母相に分散した酸化物が相変態中のフェライトの粒成長を効果的に抑制した結果であると推察される。一方で,Fig.7(b)では,Fig.2(b)に示したF14の初期材と比較して,フェライトが粗大化している傾向を示すものの,その異方的な結晶粒形状は維持されている。このことは,F14の高温時効材すべてで同様であった。したがって,F14では,本研究で実施したすべての高温時効条件において,母相の相変態を生じないことがわかる。

Fig. 6.

SEM-BSE image of initial microstructure in MP23.

Fig. 7.

SEM-BSE images of microstructure aged at 1000°C for 1 h in (a) MP23 and (b) F14.

MP23とF14の高温時効材について,Fig.3と同様のSEM観察を行い,酸化物の分散状態を評価した。両鋼の酸化物の平均粒子径と平均数密度を求めた結果を,Table 5にまとめる。MP23では,1350°C-1 h時効材において酸化物がわずかに成長しているが,1300°C以下の条件では酸化物の分散状態に有意な差は認められない。F14では,1350°C-5 h時効材でのみ酸化物の成長が確認でき,それ以外の条件では酸化物に変化はない。このように,本研究で用いたODS鋼中の酸化物は,少なくとも1300°Cで1hの条件までは熱的に極めて安定に存在し,有効な材料強化因子として作用すると結論される。ここで,前述したとおり,MP23では高温時効処理中に母相が相変態を起こすことに注意が必要である。すなわち,ここで評価された酸化物は,高温時効のみではなく,時効処理に付随する加熱・冷却過程における母相の相変態も経験していることになる。しかし,それでもなお酸化物の分散状態は,初期材から大きな変化を生じていない。この事実も,酸化物の優れた熱的安定性を示す一つの実験的証拠であるといえる。

Table 5. Quantitative evaluation of oxide parameters in MP23 and F14 aged at high temperature.
MP231000°C1100°C1200°C1250°C1300°C1350°C
1 h
Average particle diameter / nm7.57.27.07.57.28.3
Average number density / m−34.4×10223.0×10224.4×10223.6×10221.9×10222.0×1022
F141000°C1250°C1350°C1300°C1350°C
1 h5 h
Average particle diameter / nm6.76.06.56.18.0
Average number density / m−31.6×10222.7×10221.8×10223.2×10221.9×1022

Fig.8に,(a)MP23と(b)F14において,900°Cから1300°Cの条件下でリング引張試験し,得られた強度と延性について試験温度で整理した結果12)を示す。Fig.8より,両鋼とも高温ほど強度が減少する傾向を示すことがわかる。しかし,その変化は一様ではない。MP23では,900°Cから1200°Cの範囲において,降伏応力と引張応力に明確な差がある。したがって,材料は降伏後に,ある程度の加工硬化を示すことがわかる。F14では,全温度範囲で降伏応力は引張応力とほぼ等しく,加工硬化をほとんど生じていない。このような傾向は均一伸びからも明らかで,MP23を1200°C以下で変形させた場合の均一伸びは,F14で測定される値よりも明らかに高い。一方で,MP23を1250°C以上で変形させると,強度が極端に低下し,また,加工硬化をほとんど示さなくなる。延性について着目すると,F14では,高温ほど伸びが減少する傾向を示す。MP23における延性の変化は複雑で,900°Cから1100°Cでは,試験温度が上昇するとともに伸びが減少する傾向を示すが,1200°Cの試験で一旦大きな値となり,1250°Cで急激に減少して,1300°Cで再度大きな値を示す。以上のような1200°C~1300°Cで認められるMP23の強度と延性における不連続な変化には,転位運動や破壊現象のみではなく,微細組織の変化が強く関与していると考えられる。そこで初めに,本鋼の主たる強化因子である酸化物に着目する。リング引張試験において,試験片が各試験温度に曝されている時間は1 h以下であった。したがって,先に示した高温時効材の観察結果を考慮すると,同範囲の温度で実施する本リング引張試験中で,酸化物の分散状態の変化はないはずである。しかし,酸化物の応力下での熱的安定性については改めて確認する必要がある。そこで,MP23の900°Cと1300°Cにおけるリング引張試験片を,Fig.3と同様の条件で観察した。その結果から算出した酸化物の平均粒子径と平均数密度を,Table 6に示す。それらは,初期材や高温時効材とほぼ同じ値を示しており,応力下においても酸化物の分散状態は大きく変化しないことが確認された。

Fig. 8.

Mechanical properties of (a) MP23 and (b) F14 obtained by the ring tensile tests. Left figures corresponds strength and right figures corresponds elongation.

Table 6. Quantitative evaluation of oxide parameters in MP23 tensile deformed at 900°C and 1300°C.
900°C1300°C
Average particle diameter / nm7.07.2
Average number density / m−35.9×10223.8×1022

そこで次に,昇温に伴う母相組織の変化に着目する。Table 7に,MP23初期材のDSC測定結果から見積もられた相変態温度をまとめる。この表から,リング試験温度である900°Cから1300°Cの間で,母相の状態は様々に変化することがわかる。すなわち,900°Cでは,元々の母相であるマルテンサイトにオーステナイトが析出した状態,1000°Cと1100°Cはオーステナイト単相状態,1200°Cから1300°Cの間では,オーステナイトとδフェライトの二相状態で引張変形を受けることになる。これらの相状態は,Yamamotoら21,22)やYanoら12)が報告している9Cr系ODS鋼の状態図とほぼ一致している。

Table 7. Phase transformation temperature in MP23 measured by DSC curve.
Magnetic
transformation
Austenitic
transformation
δ Ferritic transformation
startfinishstartfinishstart
Temperature / °C5907499009161200

Fig.9に,各温度で実施したMP23のリング引張試験片における破断部のSEM-SE像を示す。この図のSE像のみ加速電圧を5 kVとして撮影した。観察は,試験後の表面状態のままで実施した。観察方向は,リング引張試験片の平板面であり,各図の右端が主亀裂の破面の位置に相当する。Fig.8(a)に示したように,MP23は1250°Cでの試験において伸びが最小となる。それに対応して,1250°Cでの試験材の破断部では,直線的な主亀裂が荷重負荷方向に対してほぼ垂直に発生していることがわかる。

Fig. 9.

SEM-SE images of samples ruptured in MP23. (a) 900°C, (b) 1000°C, (c) 1100°C, (d) 1200°C, (e) 1250°C and (f) 1300°C.

以上の酸化物分散状態,母相状態および破断部の観察結果から,Fig.8に示した力学特性と微細組織の関係性についてまとめる。先に述べたとおり,本研究で実施した高温リング引張試験中において,酸化物分散状態の大きな変化はない。したがって,MP23とF14において,高温ほど強度が低下するのは酸化物の成長や数密度の減少によるものではなく,弾性定数の温度依存性に起因したものであると考えられる。そのため,高温において相変態を生じないF14では,その強度の低下は単調である。また,同じくF14において,高温ほど延性が低下するのは,粒界すべりや粒界上でのボイドの発生が高温ほど優勢になるためと推察される。一方で,MP23の力学特性をみると,1200°Cと1250°Cの間に特徴的な変化が生じる。DSC測定の結果と合わせて考えると,この変化にはδフェライトの生成が関与すると推察される。1200°Cの強度は1100°Cまでと同様の傾向を示すことから,1200°Cの強度を担う主相は,1100°Cと同じくオーステナイトと考えるのが妥当である。その一方で,1200°Cでは1100°Cに比べて大きな伸びの増加が起こる。結晶粒内を酸化物で強化されたODS鋼において,結晶粒界近傍における変形能は延性と密接な関係がある。これらのことから,1200°Cでは,結晶粒界近傍でわずかに生成し始めたδフェライトが,応力またはひずみの集中を緩和する役割を果たすことで,伸びの増加をもたらしたと考えられる。1000°Cから1100°Cにおいて,F14はMP23よりも低強度である。しかし,F14とMP23の酸化物の分散状態に大差はなく,この強度差は母相状態に起因したものと推察される。すなわち,オーステナイトに比べてフェライトは軟質であると考えるのが妥当である。そのため,結晶粒界近傍のδフェライトが応力またはひずみ集中を緩和する相として作用すると考えて矛盾はない。さらに,1250°CでMP23の強度が大きく低下したのは,相比の変化により,オーステナイトの結晶粒界上で成長し連結したδフェライトが強度を担うようになったためであろう。また,そのような結晶粒界で連結し,かつ,低強度なδフェライトに変形が集中することで,ボイドや亀裂の生成が早まり,結果として,伸びの減少につながったものと考えられる。1300°Cでは,δフェライトの量が多くなり,変形の集中度合いが緩和されることによって伸びの回復がみられたと考えると矛盾がない。その一方で,1300°CでのMP23とF14を比較すると,どちらも変形の主たる相はフェライトであると思われるが,F14の方が高強度で延性が低い。Table 5に示すとおり,酸化物の分散状態に大きな違いはなく,この力学特性の違いは,フェライトの結晶粒径や結晶方位(集合性)に起因したものであろう。今後は,MP23の1300°Cでの母相状態の観察などを実施し,更に詳細な検討を実施する必要がある。

4. 結言

9Cr系ODSフェライト鋼であるM11,MP23と12Cr系ODSフェライト鋼であるF14において,高速炉通常運転時の燃料被覆管使用環境に近い700°Cまたは750°Cのクリープ試験と,事故時を模擬した900°Cから1350°Cでの時効処理または高温引張試験を実施し,酸化物の成長挙動を確認した。また,変形後の微細組織観察を行い,クリープ試験と高温引張試験でそれぞれ評価される高温力学特性と微細組織の関係について考察を行った。得られた成果を以下にまとめる。

(1)M11とF14のクリープ試験材において,初期材からの酸化物の成長や数密度の低下はほとんど生じておらず,酸化物による分散強化は変形中に有効に作用している。

(2)F14のクリープ変形後において,転位壁や亜粒界のような転位下部組織の発達はほとんど認められず,結晶粒内には運動転位が孤立して存在している。また,転位密度はクリープ試験中の応力が大きいほど増加する。

(3)F14の定常ひずみ速度は,転位密度と応力の積に対して良い線形関係を示す。

(4)MP23とF14の高温時効材において,少なくとも1300°Cで1hの条件までは,酸化物の分散状態には大きな変化はなく,酸化物は有効な材料強化因子として作用する。

(5)MP23とF14の高温リング引張試験において,両鋼とも高温ほど強度が減少する。また,F14では,高温ほど伸びが減少する。MP23では,900°Cから1100°Cでは試験温度が上昇するとともに伸びが減少するが,1200°Cで伸びが増加し,1250°Cで急激に減少して,1300°Cで再度増加する。

(6)MP23の1200°Cから1300°Cにおける強度と延性の不連続な変化には,δフェライト相の生成が関与しているものと推察される。

謝辞

本研究は,文部科学省原子力システム研究開発事業JPMXD0219214482の助成を受けたものであることを明記する。また,DSC測定に際して,九州大学大学院総合理工学研究院の大瀧倫卓教授と末國晃一郎准教授にご助力いただいた。ここに明記して謝意を表す。

文献
 
© 2023 The Iron and Steel Institute of Japan

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