Tetsu-to-Hagane
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Review
Grain Size Dependence of Secondary Creep Rate in Pure Metals and Single-phase Alloys
Satoru Kobayashi
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2023 Volume 109 Issue 3 Pages 150-157

Details
Abstract

Grain size dependence of secondary creep rate in pure metals and single-phase alloys and the mechanisms/models to interpret the dependence have been reviewed. Two types of the grain size dependence were reported, both of which show a negative dependence approximately below 100 μm. The model proposed by Garofalo in 1960s assumes that the density of dislocations generated at grain boundaries and sub-boundaries determines the secondary creep rate, which is not experimentally supported. Mclean’s model considers preferential subgrain growth near grain boundaries, which might be important in practical steels and alloys with sub-grains such as high Cr ferritic heat resistant steels. Grain boundary sliding (GBS) and its accommodation process in grain is considered as a source of the negative grain size dependence. A finite element modeling performed by Crossman and Ashby, which simulated a deformation process where GBS is accommodated by the power law creep process in the grain interior, indicates that the negative grain size dependence cannot be interpreted by the accommodation process. Based on substructure observation and internal stress measurements, Terada established a “core and mantle” model where the mantle region near grain boundary has no internal stress. This model reasonably interprets the negative grain size dependence.

1. 緒言

金属材料はその結晶粒を微細化すると,低温において強度が増加することが広く知られている。結晶粒微細化による金属材料の強化はホールペッチ則で整理され,様々な機構が提案されている15)。一方,融点の絶対温度の1/3以上の温度域においては金属材料の強度は結晶粒微細化により低下する。火力発電や航空機エンジン等の高温部材の寿命を決める上で重要なクリープ変形では,二次(最小)クリープ速度が負の結晶粒径依存性を示すことが報告されている613)。高温において結晶粒界が弱化因子となるのは,高温で活発に生じる拡散が関与することは容易に想像されるが,その機構については低温における強化の場合に比べてよく理解されていないように思われる。

高温クリープ変形における結晶粒径依存性に対して古くから考えられてきた機構は,拡散クリープ機構である。拡散クリープ機構は,Ashbyの高温変形機構図14)によると,転位クリープ機構に比べて低温・低応力条件側において発現するとされるクリープ機構であり,粒内拡散クリープ機構と粒界拡散クリープ機構に分類される。それらの機構は1940年代にNabarro15)によりまず提案され,Herring16)およびCoble17)によって拡張され,それぞれ報告者の名前が付けられている。いずれの機構においても,材料の引張変形軸に対して垂直な粒界(引張粒界)からそれに対して平行な粒界(圧縮粒界)への空孔の拡散がクリープ速度を律速する過程として考えられている。空孔の拡散は,Nabarro-Herringクリープ機構では粒内拡散を考え,Cobleクリープ機構では粒界拡散を考える。クリープ速度の構成式における粒径指数はそれぞれ-2および-3となる。しかし,拡散クリープ機構から予想されるクリープ速度は,現実的なクリープ温度・応力条件下で実際に測定される値に比べて6~7桁も低いものとなる18)

拡散クリープ以外の結晶粒径依存性発現機構については,転位の発生・消滅,粒界すべり(GBS)を考える機構や転位組織の発達・内部応力測定に基づくモデル等が考案され,拡散クリープ機構を含めた種々の変形機構や高温における結晶粒界の役割に関する解説記事19,20)や専門書21)がこれまでに執筆されている。これまで提案されてきた機構は,それぞれの機構の基となる転位下部組織やクリープ速度の応力依存性が異なるため,文献毎の知見の整合性が取りづらい。また,提案されている機構には,結晶粒内において単一の変形領域(機構)を考えるモデルの他,結晶粒を粒界近傍における“軟らかい”領域(マントル領域)と結晶粒中心部の“硬い”領域(コア領域)に分ける複合材料型のモデルが存在する。複合材料型のモデルでは,それぞれの領域においてクリープ変形の素過程を考えるものもあるため,提案された複数のモデルを包括的に理解することが非常に難しい。一般的には,クリープ速度が負の結晶粒径依存性を示すと,結晶粒の微細化に伴いGBSが起きやすくなるためと解釈されることが多いと思われるが,GBSに関する研究は古くより行われ,その理解は一義的ではなく,GBSがクリープ速度の結晶粒径依存性の発現においてどのように寄与するのかは必ずしも明らかではないようである。

高温クリープ強度に対して結晶粒界が負の影響を及ぼすことは明確であり,航空機エンジンタービンの第一段動翼では単結晶のNi基超合金が実際に使用されている。しかし,多くの実用合金は,製造性や機械的性質(靭性,疲労特性,耐酸化性等)等との兼ね合いから,10~100 μm程度の細粒材としてしばしば使用されている。そのため,細粒側でのクリープ弱化の影響とその因子について理解することは,その改善につながり実用的な意義がある。また,結晶粒界を析出相で被覆するとクリープ特性が改善されることが報告され,その機構が長年研究されているが20,2224),その機構を明らかにするには析出物の存在しない結晶粒界そのものの役割を理解する必要がある。

本報では,純金属および単相組織を有する合金に焦点を絞り,まず,二次(最小)クリープ速度の結晶粒径依存性に関する文献を概説し,その傾向を示す。最近では,ナノサイズを含む超微細粒に関する結果も報告されているが,本報では概ね10 μm以上の結晶粒径を有する材料を対象とする。次に,クリープ速度の結晶粒径依存性を説明する機構と変形モデルを,主にその機構の基となる転位下部組織および結晶粒の変形領域(単一の領域を考えるか,コアとマントルに分けるか)で分類しながら説明する。

2. 純金属・単相合金における二次(最小)クリープ速度の結晶粒径依存性

二次(最小)クリープ速度に及ぼす結晶粒径の影響を調べた研究は,古くは1930年代の文献が確認され,結晶粒径依存性の傾向は大きく二種類のタイプに分類できる(Fig.1)。一つ目のタイプは,細粒側で負,粗粒側で正の結晶粒径依存性を示すものである(Fig.1(a))。このタイプはSUS304系ステンレス鋼8)やNi基合金7,12)において認められている。Sharhinian and Lane7)の研究では,比較的広い温度範囲で調べられ,高温・低応力程,細粒側の負の結晶粒径依存性がより支配的になり,低温・高応力側では粗粒側の正の結晶粒径依存性がより支配的となる傾向が示されている。二つ目のタイプは,細粒側で負の結晶粒径依存性を示し,粗粒側では結晶粒径に依存しないものである(Fig.1(b))。このタイプは鉛6),純銅10),SUS30411)やNi基合金13)において報告されている。

Fig. 1.

Two types of grain size dependence of secondary (minimum) creep rate: (a) type 1, (b) type 2.

二次クリープ速度(ε˙s)は,経験的に次の構成式で示されることが知られている。

  
ε˙s=Admσnexp(Qc/RT)(1)

ここで,Aは材料定数,dは結晶粒径,mは粒径指数,σ は応力,nは応力指数,Qcはクリープの見かけの活性化エネルギー,Rは気体定数,Tは絶対温度である。m値は,細粒側では両タイプにおいて概ね-1の値が報告されている。タイプ1での粗粒側でのmは低温度域では2という値が報告されている。応力指数は,Garofaloら8)の研究では4程度,Terada13)の結果においては,細粒側では4,粗粒側では6の値が報告されている。各研究におけるクリープ条件,粒径指数,応力指数などの値をまとめてTable 1に示す。

Table 1. Parameters obtained from the research focusing on the grain size dependence of secondary creep rate. n: stress exponent, m: grain size exponent, −: not identified.
TypeMaterialGrain size (μm)Temp. (K) / T/TmStress (MPa)nm (fine side)Ref.
2Pb10~840300 / ~0.53.56)
1, 2Monel20~800644-977 / 0.41~0.62448~65−17)
2Fe-17Cr-14Ni9~190977 / 0.58125~65~4−18)
2Cu30~480683~899 / 0.50~0.6634.5~207−110)
2Fe-20Cr-35Ni35~800873~973 / 0.55~0.61200~85−111)
1, 2Fe-17Cr-14Ni20~4001123~1173 / 0.67~0.70350~300−1.312)
2Ni-20Cr20~2001173 / 0.6929.4~98.04−113)

3. 結晶粒径依存性を説明する機構とモデル

緒言で述べたように,二次クリープ速度の結晶粒径依存性を説明する機構とモデルは,提案された機構の基となる(または,それが想定している)転位下部組織や応力指数が異なる。その上,変形を考える領域や変形の素過程がモデル毎で異なる。二次(最小)クリープ速度を発現する転位下部組織としては,独立に存在する転位,サブグレインがあり,後者では均一なサイズ分布を有する場合と,粒界近傍で優先的に成長が起こる場合が考えられている(Fig.2(a~c))。また,変形を考える際に,結晶粒を単一の変形領域として扱うモデルと粒界近傍の“軟らかい”領域(マントル領域)と結晶粒中心の“硬い”領域(コア領域)に分けて考える複合材料型のモデルが存在し,後者では両領域での歪み速度の違いを考えるものと応力の違いを考えるものが存在する(Fig.2(d~f))。各モデルの特徴をTable 2において分類し,それらを以降で概説する。

Fig. 2.

Classification of creep deformation models in terms of dislocation substructure (a~c) and deformation region (d~f) considered. (a) independently aligned dislocations, (b) subgrains with a uniform size distribution, (c) subgrains with larger sizes near grain boundaries, (d) single deformation region, (e) core and mantle regions where strain rate distribution is considered, (f) core and mantle regions where internal stress distribution is considered. GB: grain boundary, GI grain interior.

Table 2. Models to interpret the grain size dependence of secondary creep rate. −: not identified, *: substructure in the core otherwise specified, **: in the Region III defined in the field of superplastic deformation. n: stress exponent, m: grain size exponent, Dl: Lattice diffusion coefficient. GB: Grain boundary, GI: Grain interior
ModelMechanismDeformation regionSubstructure*nDm (finer side)Ref.
GarofaloGB dislocation sourceSingleSubgrain4Dl−18)
McleanGB enhanced recoverySingleSubgrainDl−125)
BarrettGBS & dislocation creepCore & mantleSubgrainDl−110)
GifkinsGBS & dislocation creepCore & mantleSubgrain (core) / Fold (mantle)**4.5Dl−232)
LangdonGBSSingleDiscrete dislocation2Dl−133)
LangdonGBSSingleSubgrain3Dl−134, 35)
TeradaInternal stress distributionCore & mantleDiscrete dislocation4Dl−113)

3・1 結晶粒界を転位の発生源とするモデル(転位組織:サブグレイン,変形領域:単一;Fig.2(b, d))

Garofaloら8)は,オーステナイト系ステンレス鋼およびNi基合金7)において認められた結晶粒径依存性とクリープ変形後の組織観察の結果に基づき,結晶粒界および亜粒界が転位の発生源となると考え,一定応力・温度条件での二次クリープ速度式を導出した。

  
ε˙s=k/d+Kd2(2)

ここで,kおよびKはそれぞれ結晶粒界および亜粒界での転位の発生頻度と正の相関を持つ定数,dは結晶粒径である。Garofaloらによれば,高温側ではGBSや粒界移動により粒界レッジが絶えず生じ,結晶粒界において転位が十分な速度で発生するとし,その発生密度は結晶粒径に反比例する(右辺第一項で表される)。一方,低温側では粒界レッジの発生が十分ではなく,主な転位の発生サイトは亜粒界となり,その発生量はサブグレイン径が結晶粒径に依存しない観察結果を受けて,結晶粒径の二乗に比例するとした(右辺第二項)。このモデルにより,タイプ1の結晶粒径依存性とその温度依存性を説明した。しかし,Barrettら10)は,可動転位密度に結晶粒径依存性があるとする実験的な確証はこれまで得られておらず,実際にFe-Si合金25)においてはサブグレイン内の転位密度に結晶粒径依存性が認められないことを示し,このモデルを疑問視している。

3・2 サブグレインの粒界近傍での優先成長を考えるモデル(転位組織:サブグレイン,変形領域:単一;Fig.2(c, d))

Mclean26)は,Fig.2(c)に示すように,サブグレインの成長が粒界近傍において粒中心部よりも速く生じると想定し,結晶粒全体の平均回復速度は初期結晶粒径が細かい程速くなると考えた。そして,二次クリープ速度(ε˙s)が回復速度(r)と加工硬化率(h)のバランスで表される(ε˙s=r/h)とする考え方に基づき,二次クリープ速度は回復による負の粒径依存性と加工硬化による正の粒径依存性の積で表されるとするモデルを提案し,タイプ1の結晶粒径依存性を説明した。結晶粒界近傍でのサブグレインの優先回復は高Crフェライト系耐熱鋼においても観察されており27),同機構は実用合金でも注目すべき機構であると考えられる。

3・3 GBSによる寄与を考えるモデルと検討

3・3・1 GBS

GBSは1913年にRosenhain and Ewen28)によりその発生が初めて指摘されたとGarofalo9)が報告している。それ以来,GBSの発生機構ならびにクリープ変形や超塑性変形におけるGBSの寄与が長年研究・議論されてきた。GBSの発生は,試料表面につけられたマーカーの観察により評価されることが多く,表面上のみで生じている現象ではないかと懸念する意見もあるが,内部マーカー法29,30)等の手法から材料内部でも生じることが報告されている。GBSの定量評価によれば,GBSによる歪み量はクリープ変形全体による歪み量と直線関係にあることが示され,GBSは粒内変形と相互に補完し合いながら生じると理解されている9,31)。また,β黄銅32)および析出硬化型のCu-Be合金33)における測定により,GBSによる歪み速度がそれぞれ結晶粒内で生じる原子の規則化および時効析出に応答して変化する結果が示され,GBSの律速過程は,GBSにより生じる結晶粒界での歪みを緩和する粒内変形であると考えられている。二次クリープ速度の負の結晶粒径依存性をGBSの寄与で説明しようとする試みでは,マーカー法で評価された歪みをGBSの緩和過程により生じる変形と捉え,その緩和変形を担う領域を粒界近傍のマントル領域とするモデルと結晶粒全体とするモデルが提案されている。

3・3・2 GBSの寄与を考えるモデル

Barrettら10)は,純銅においてタイプ2の結晶粒径依存性を見出した際,全体のクリープ変形量(ε)に対するGBSによる変形量(εgbs)の寄与率を実験的に求め,それが細粒程大きくなる結果を得た。また,結晶粒内にはサブグレインが形成され,そのサイズが結晶粒径に依存しないことを確認し,GBSの緩和変形と結晶粒内の転位クリープ変形が独立・加算的に生じるとする複合材料型のモデルを提案した(転位組織:サブグレイン,変形領域:コアマントル;Fig.2(b, e))。このモデルでは,GBSの緩和変形が粒界からサブグレインサイズ程度の幅の領域(マントル領域)で生じ,この領域では結晶粒中心部(コア領域)よりも変形が速く生じると考え,全体のクリープ速度を式(3)のような式で表現した。

  
ε˙=(αdsg/d)ε˙gb+(1αdsg/d)ε˙g(3)

ここで,αは粒内と粒界変形の相対的な寄与率を与える因子,dsgはサブグレイン径,dは結晶粒径,ε˙gbは粒界近傍のマントル領域での変形速度,ε˙gは結晶粒内コア領域での変形速度である。同著者らは,このモデルにより細粒側で認められる粒径指数-1を説明でき,細粒程GBSの寄与が高くなることを主張している。一方,粗粒側ではGBSの寄与率は低く,サブグレイン径は結晶粒径に依存しないため,二次クリープ速度が一定となると説明した。

Gifkins34)は,Barretらと同様に,GBSの緩和過程により変形が比較的容易に生じる粒界近傍(マントル領域)と変形がより生じにくい結晶粒中心部(コア領域)から成るコアマントルモデルを考案し(転位組織:サブグレイン,変形領域:コアマントル;Fig.2(b, e)),結晶粒径や応力・温度条件によりそれぞれの領域における変形様式が変化するとした。特に,GBSが生じやすく,マントルでの変形が容易になる温度・応力条件では,GBSの緩和は粒界三重点で生じるFoldと呼ばれる局所変形に支配されるとし,全体のクリープ速度は式(4)で表現されることを導き出している。

  
ε˙=ε˙w+(2Fya/d2)ε˙w(4)

ここで,ε˙wは上昇運動支配の転位クリープ速度,dは結晶粒径,aはマントル領域のサブグレイン径,Fはサブグレイン内のFold変形による応力集中係数,yはFold変形の幅であり,右辺第2項がGBSに起因する緩和変形を示している。

Langdon35)は,透過型電子顕微鏡を用いた転位組織観察に関する先行研究に基づき,粒内で発生した転位が粒界で吸収され,その転位が粒界に沿ってすべり運動と上昇運動を起こしてGBSが生じると考えた(転位組織:均一分布,変形領域:単一;Fig.(a, d))。また,GBSの活性化エネルギーが体積拡散の活性化エネルギーと等しいとする先行研究結果に基づき,GBSのクリープ速度を式(5)で表現した。

  
ε˙gbs=(βb2σ2/dGkT)Dl(5)

ここで,βは1に近い定数,bはバーガースベクトル,σは応力,dは結晶粒径,Gは剛性率,kはボルツマン定数,Tは絶対温度,Dlは体拡散係数である。また,この過程が他のクリープ変形機構と並列律速型の関係で扱えるとし,クリープ機構が応力の低下に伴い,転位クリープ機構からGBS機構を経て拡散クリープ機構に変化すると説明している。

一方,同著者36,37)は,後年,超塑性とクリープを記述する統一変形モデルを提案した論文において,クリープ変形が支配的となる粗粒材では,GBSの緩和機構が粒界近傍に形成される亜粒界上での転位の上昇運動であるとし(転位組織:サブグレイン,変形領域:単一;Fig.2(b, d)),クリープ速度が式(6)で表されるとしている。

  
ε˙gbs(d>λ)=(ADlGb/kT)(b/d)(σ/G)3(6)

ここで,λはサブグレインサイズ,Aは定数であり,その他の表記は式(5)のものと同じである。

3・3・3 GBSによる寄与の有限要素解析

Crossman and Ashby38)は,GBS(純粋な粒界のせん断)により結晶粒内に導入される応力と歪みの不均一性によって全体の変形速度がどのように変化するかを有限要素法解析した。GBSは粘性すべり,粒内変形はべき乗型の転位クリープにより生じるとし,種々の応力,転位クリープの応力指数および結晶粒径の条件においてGBSの寄与を見積もった。その結果,いずれの応力・応力指数および結晶粒径の条件においても全体の変形を律速するのは粒内転位クリープ変形であり,応力(結晶粒径)がある値以下になるとGBSの寄与により粒内転位クリープ速度が増加することが示されている。Fig.3は応力指数が4.4の条件で計算された結果であり,せん断応力の値が約0.8 MN/m2付近でGBSの寄与が現れ,その低応力側ではクリープ速度がGBSの寄与がない場合の約2倍となることが示されている。同図は同一の結晶粒径において応力を変化させた際のクリープ速度を示しているが,同文献では,一定の応力で結晶粒径を変化させた場合においても同様の傾向を示すことが説明されている。実際には二次クリープ速度が結晶粒径により10倍以上変化することを考慮すると,Crossman and Ashbyによる計算結果は,GBSにより生ずる結晶粒内の歪みと応力の不均一性を転位クリープが緩和する機構では,二次クリープ速度の負の結晶粒径依存性を説明し得ないことを示している。

Fig. 3.

Change in the creep rate due to an increase in the contribution of GBS calculated at the stress exponent of 4.4 using finite element model. Solid line (calculated creep rate) shows a transition at a certain shear stress level below which the creep rate is enhanced due to GBS by a factor of ~2. This figure is reprinted from Acta Metallurgica, 23, F.W. Crossman, M.F. Ashby: The non-uniform flow of polycrystals by grain-boundary sliding accommodated by power-law creep, 425, 1975, with permission from Elsevier.

3・4 転位下部組織の観察と内部応力測定に基づく考え方とモデル

Terada13)は,タイプ2の結晶粒径依存性を示したNi-20Cr系単相合金において最小クリープ速度で中断した試験片における転位下部組織を詳細に観察した。その結果,粗粒・高応力側ではクリープ変形初期に導入された転位のサブグレイン化が活発に生じることや,最小クリープ速度が亜粒界を含めた粒界面積と比例関係にあることを見出した。そして,得られた事実から,粗粒側においてクリープ速度が結晶粒径に不敏感となるのは,最小クリープ速度の時点で粒界面積が初期結晶粒径に依存しないためであると考えた。一方,最少クリープ速度の粒径指数がm=-1程度を示す細粒・低応力側では,最小クリープ速度の時点において転位は均一に分布していることを確認した(Fig.4)。そこで,サブグレインの形成が抑制されるMo添加合金を用いて負の結晶粒径依存性の理由を検討し,粒内転位密度は初期結晶粒径に依存せず(Fig.4),応力漸減試験により測定した内部応力が初期結晶粒径の低下に伴い減少する結果を得た。以上の結果に基づいて,寺田は,結晶粒界近傍のマントル領域は内部応力を担わず,粒内のコア領域のみが内部応力を担うとするコアマントルモデル(転位組織:均一分布,変形領域:コアマントル;Fig.2(a, f))を提案した。このモデルによると,二次クリープ速度は応力指数が4の時,式(7)で示される:

  
ε˙=C{σaσi*(1d0/d)3}4(7)
Fig. 4.

Transmission electron micrographs of Ni-20Cr-Mo alloy specimens with initial grain sizes of (a) 200 μm and (b) 30 μm, which were creep tested and interrupted at the minimum creep rate at 1073 K and 29.4 MPa, showing similar densities of individually aligned dislocations in the specimens. This figure is reprinted from doctoral thesis of Tokyo institute of technology authored by Y. Terada, 1992, with permission from the author.

ここで,Cは材料定数,σaは負荷応力,σi*は粒内コア領域の内部応力,d0はマントル領域の幅,dは結晶粒径である。このモデルにおいては,マントル領域の幅d0が1.5 μm程度の時に実験事実と良く一致することが示されている。Teradaの論文では,粒界近傍にマントルが実際にあるのかについて言及はなされていないが,示された写真では粒界近傍に数μmの転位密度の低い領域が存在するようにも見える(Fig.4(b))。同モデルは最小クリープ速度の結晶粒径依存性を無理なく説明するモデルであり,今後その検証と発展が期待される。

4. まとめ

以上,二次(最小)クリープ速度の結晶粒径依存性とそれを説明する種々の機構とモデルに関する文献を調べ,その概要を以下に示す:

(1)二次クリープ速度の結晶粒径依存性には二つのタイプが認められるが,細粒側ではいずれも負の結晶粒径依存性を示す。

(2)結晶粒界または亜粒界で発生する転位密度を考えるGarofaloモデルが1960年代に提案され,クリープ速度の結晶粒径依存性を良く再現するが,転位密度の実験的な確証が得られていない。

(3)粒界近傍の優先回復を考えるMcleanモデルは,高Crフェライト系耐熱鋼においてその発生が示唆されており,サブグレインを含む実用合金に適用可能なモデルであると思われる。

(4)GBSの寄与を考えるモデルでは,GBSにより生じる結晶粒界での歪みの不一致を粒内変形が緩和する機構が提案されている。Crossman and Ashbyによる有限要素解析は,GBSにより生ずる粒界での歪みの不一致を粒内転位クリープで緩和する機構では,二次クリープ速度の負の結晶粒径依存性を説明し得ないことを示している。

(5)Teradaは,転位下部組織の詳細な観察と内部応力の測定に基づいて,粒界近傍を内部応力を担わないマントル領域と仮定したコアマントルモデルを考案し,最小クリープ速度の負の結晶粒径依存性を再現している。

文献
 
© 2023 The Iron and Steel Institute of Japan

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