2023 Volume 109 Issue 4 Pages 311-322
Effect of alloying elements on the composition distribution, morphology and volume fraction of eutectic carbides were investigated for high-speed tool steels with uniform hardness from 68 to 70HRC after hot working and quenching and tempering. The stability of eutectic carbides at high temperature was also evaluated. M2C, M6C and MC eutectic carbide are observed in as-cast samples similar to the general high-speed tool steels. M2C type carbide increases in volume with increasing Si and V contents, and M6C and MC carbides appear with increasing W and V contents. The amount of M2C eutectic carbide varies with the composition in liquid phase just prior to eutectic solidification. The morphology of the eutectic carbide changes from fine fiber or lamellar type to coarse lamellar or feather type, and the interlayer spacing of eutectic carbide tends to increase with increasing the area fraction of M2C eutectic carbide. Moreover, after heat treatment at 1140°C for 16 hours, some M2C carbides remain stabled but MC and M6C carbide appears.
高速度工具鋼1)はフォード式の大量生産を実現する不可欠な工具用の鋼材2)としてTaylorとWhiteにより開発された。この鋼材の製造工程は熱処理に特徴があり,溶体化温度をオーステナイト(γ)域の固相線直下まで高め,基地のオーステナイトに炭素や炭化物形成元素を多量に固溶させた後,焼入れしてマルテンサイト基地に炭化物を分散させ,焼戻しして最適な硬さとじん性を有する組織としている。この組織により硬さとじん性が両立でき,切削工具の使用条件に依存する刃先の摩耗と欠けを抑制することができ,工具としての価値が高くなる3)。これまでの高速度工具鋼の開発においては,γ化温度でのγ基地に未固溶の炭化物の寸法や分布によっては,刃先の欠けに影響を及ぼし,じん性に有害となることが指摘されたことから4),特に高いじん性が要求される冷間鍛造用の高速度工具鋼においては,この未固溶の炭化物量を低める設計が行われてきた5–7)。
しかしながら,近年の材料の高強度化に伴い,切削用工具鋼に要求される性能も高くなっており,じん性を維持しながら耐摩耗性を向上させるために,未固溶の炭化物生成を許容した開発設計も取り入れられている。例えば,航空機エンジン部品などの難削材切削用の部材としては,従来の65HRCの硬さを有するAISI T158)に対して,より高い68~70HRCの硬さと高いじん性を兼ねたAISI M429,10)が開発されているが,その組織設計指針は,γ化温度での未固溶炭化物を許容している。また,その未固溶炭化物は鋳放し材の組織に含まれる共晶炭化物に由来するものである。すなわち,高速度工具鋼のじん性と耐摩耗性の更なる向上のためには,まず鋳造過程に生ずる炭化物を理解し,続いて焼入れ焼戻し後の組織において未固溶の炭化物生成を許容する一連の組織形成プロセスの最適化が必要である。
凝固過程において生ずる共晶炭化物には,合金組成によって,M6C11),M2C12)およびMC12,13)等があり,このうちM2Cは不安定な炭化物,一方,M6CおよびMCは安定な炭化物として知られている。M2Cを安定化させる元素はC,V,MoおよびCoであり,逆にM2Cの分解を促進し,M6Cを安定化させる元素はSi,NおよびWである14–16)ことと,共晶炭化物の基本的な構成17)とその挙動について報告されている。また,炭化物の形態としては,M6Cは肋骨状,M2Cは層状や羽毛状,MCは塊状や層状の形態を示す。炭化物の形態によっては熱間加工によって均一に分散されにくいことが知られているが18),じん性向上と炭化物形態は関連性があると思われる。すなわち,凝固過程で生ずる共晶炭化物形態に及ぼす各合金元素の影響を理解する必要がある。この時,鋼材のγ化温度の目安となる溶融開始温度の経験式19)だけでなく,計算状態図などを援用して溶融開始温度や共晶晶出温度を予測して凝固過程全体を把握する必要もあると考えられる。
また,高速度工具鋼においては焼入れ・焼戻しを考慮した組織設計が必須である。熱処理においては,これまで,M6Cの凝固過程の解析とその制御を中心に研究が行われてきたが,近年,性能の向上を目的として,M6CよりM2Cの制御を目的とする傾向が強くなっている。しかし一方,M2Cは鋼材の熱間加工や焼入れのγ化温度での保持に対して分解されやすいとされ,例えば,AISI M2やM42を用いた高温保持後のM2C炭化物の分解挙動がEPMAで確認されている20,21)。より高い68~70HRCでの硬さを得るためには種々の合金組成の鋼材におけるM6C,M2C,およびMC共晶炭化物の高温での安定性について解析する必要がある。さらに,高温保持中の共晶炭化物の安定性は形態にも依存すると考えられる。例えば硬さが68HRCを超えるような組成を見出したとしても,鋳放し材の共晶炭化物の層間隔が大きく安定で,熱処理中に分解がほとんど進まないと,破砕が困難な粗大な棒状の炭化物が鋼材に残留してしまい22),鋼材のじん性を低めてしまう4,23,24)と考えられるが,68~70HRCの高い硬さでの高速度工具鋼の共晶炭化物の層間隔を解析した報告は見当たらない。
そこで本研究では,より高い硬さ68~70HRCを有する高速度工具鋼の最適な組織を得ることを目的として,まず鋳放し組織における種々の共晶炭化物組織の形態と炭化物に含まれるW,MoおよびV等の元素の分布を調査し,炭化物の晶出相や形態に及ぼす合金元素の影響を実験および熱力学計算から考察した。続いて,熱間加工や焼入れを模した熱処理における炭化物形態の変化を解析することにより,炭化物の高温における安定性や共晶炭化物の組織形態変化について評価した。なお,各試料の焼戻し後の硬さを揃えることにより,硬さに及ぼす合金組成および組織の影響を明確に評価できると考え,硬さが揃った試料について解析した。
本実験に用いた試料の組成をTable 1に示す。いずれも高速度工具鋼用に合金設計したものである。Standardは本研究で基準となる組成であり,JIS SKH59に相当し,Wを1.47 mass%(以下%と略する),Moを9.25%,Vを1.19%含む組成に調整した試料である。またMo10試料は,Moを9.64%まで上げたものである。さらに,SiとVの影響を調査するためにSiを0.51%まで高めたSi05試料も設計した。一方,WやVは高硬度のMC炭化物を生成するので,これらの元素の効果を調査するために,Wを6.17%まで高めたW7試料,およびWを7.04%,Vを1.67%,Coを7.97%添加したW7V2試料を作製した。
Sample type | Compositions (mass%) | Hardness (HRC) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
C | Si | Cr | W | Mo | V | Co | ||
Standard | 1.08 | 0.31 | 3.93 | 1.47 | 9.25 | 1.19 | 7.88 | 68.4 |
Mo10 | 1.07 | 0.31 | 3.87 | 2.50 | 9.64 | 1.09 | 7.88 | 68.5 |
Si05 | 1.26 | 0.51 | 3.95 | 2.44 | 9.01 | 1.75 | 7.98 | 68.8 |
W7 | 1.03 | 0.31 | 3.96 | 6.17 | 7.14 | 0.84 | 7.97 | 69.7 |
W7V2 | 1.22 | 0.31 | 4.05 | 7.04 | 7.62 | 1.67 | 7.97 | 68.7 |
実験は,まず,各成分に設計した試料について小型真空溶解炉を用いて真空雰囲気で溶製しておよそ100 mmの角型金型に鋳造した。得られた試料について組織観察を行ったが,本実験試料は硬く加工が困難である。そこで,切断加工で観察試料を採取するため角型インゴットを780°Cで焼なまして試料を得た。本研究ではこの組織を鋳放し試料とした。なお,高速度工具鋼として用いる際には,鋳放し試料を熱間鍛造し,さらに焼入れ・焼戻しの熱処理工程が必須である。この時,熱間鍛造や焼入れの高温保持における鋳放し試料の不安定な共晶炭化物の安定な炭化物への分解が進むことが予想される。そこで,炭化物の変化を調査するために,実際の熱処理工程をモデル化し,ステンレスパイプに大気封止し,大気雰囲気中,1140°Cで16 h保持後,大気中に取り出し放冷した高温保持試料も作製した。
なお,本実験では各試料の焼戻し後の硬さを揃えることにより,硬さに及ぼす合金組成および組織の影響を明確に評価できると考えた。そこで,本実験では鋳放し試料を大気雰囲気中1140°Cで熱間鍛造を行い,22 mm角の棒鋼試料とし,続いて1190°Cで30 minの減圧雰囲気で保持した後に 5×105 Paの窒素加圧冷却により焼入れし,さらに560°Cで1 hの焼戻しを3回繰り返し,得られた試料の硬さを測定した。硬さはロックウェル硬さ試験機(ミツトヨ製ATK-F1000)を用いて測定した。試行錯誤の末,Table 1に示す合金組成となったが,この時,ロックウェル硬さもTable 1に示すようにいずれの試料も68~70HRCの範囲に収めることができた。
鋳放し試料および高温保持試料は,エメリー紙およびダイヤモンドペーストで鏡面仕上げした後,酸化クロム(Cr2O3)のスラリー液で研摩後,再び村上試薬で腐食し,光学顕微鏡で観察した。初晶γ量の面積率は光学顕微鏡組織写真より画像解析ソフト(Image J)を用いて求めた。
晶出した共晶組織に含まれる各種合金元素の分布を調査するため,電界放射型電子線マイクロアナライザー(Field Emission Electron Microprobe Analyzer: FE-EPMA,JEOL製, JXA-8530F)を用いて解析した。さらに,X線回折装置(リガク製RINT2500PC)を用いて,X線管球:Co,2θ=40~120°の条件で共晶炭化物の結晶構造について同定を行った。元素濃度の解析においてはFE-EPMAにより得た元素のX線強度を,組成の似た濃度の明らかな標準試料のX線強度で規格化し,at%濃度に補正した。また,共晶領域に存在するM2C炭化物の面積率は,FE-EPMAの分析プローブ径を0.30 μm,90 μm×90 μmの共晶領域の走査像解像度を300×300としたC組成像を抽出し,二値化し求めた。共晶領域の層間隔も同様にこの二値化像を用いて求めた。一方,平衡状態計算とScheil-Gulliver法による凝固計算をThermo-Calc(バージョン:2017a,2022a,データベース:TCFE9,TCFE12)を用いて計算し,炭化物の晶出過程を評価した。
Fig.1に各鋳放し試料の組織を示す。いずれの試料でも得られた組織は初晶セルと最終凝固部に共晶組織で構成されており,共晶を構成する炭化物は様々な形態を有していた。基準試料であるStandardおよびMoを高めたMo10試料の炭化物は,主にノンファセット共晶の形態を呈していた。これらの共晶形態は,Crokerら25)およびKurz and Fisherの分類26)に当てはめると,層状(lamellar)と繊維状(fiber,rod)が混在する組織と考えられた。一方,Si05,W7およびW7V2試料の炭化物は主に層状のファセット共晶形態を示した。Si05試料の共晶組織の形態は羽毛状(irregular flake)であり,W7およびW7V2試料は肋骨状(anomalous complex regular structure)と呼ばれる特徴を示した。Fig.2に各鋳放し試料を1140°Cで16 h熱処理した後の組織を示す。Standard試料では,高温保持中に炭化物が粗大化する傾向があった。さらに,軽微ではあるが初晶デンドライト相に粒状の析出物が観察された。Mo10試料も同様に,保持中に炭化物が粗大化すると共に,デンドライト相内に粒状の析出が確認された。Si05,W7およびW7V2試料は高温保持にも関わらず,光学顕微鏡による組織の大きな変化は確認されなかったが,W7試料はStandardおよびMo10試料と同様,初晶デンドライト相内に粒状の析出物が本実験条件で最も顕著に析出していた。
Microstructure and distribution of carbides for as-cast samples.
Microstructure and distribution of carbides for heat-treated samples at 1140°C for 16 h.
上述した共晶組織に晶出した炭化物を確認するため,鋳放し試料および1140°C,16 h保持試料を用いて,FE-EPMAにより各元素の組成像を解析し,さらにX線回折を行った。その結果を供試材毎にFig.3からFig.12に示す。
(1)基準試料鋳放し試料の共晶炭化物はFig.1に示したように繊維状と層状の共晶が混在したノンファセット共晶の形態を示している。Standard試料の共晶部分を拡大するとFig.3のBSE像に示されるように,中央部の繊維状・層状の組織に加え,周囲にやや粗大な組織が観察された。やや粗大な組織はMoやVの面分析(組成像)に示されるようにMoやVを多く含んでいた。そこでXRD解析し,同図に示した。なお,X線回折は40~120°で行ったが,全データを記述すると表示が小さくなるので,代表的な範囲として40~55°の回折ピークを示している。回折ピークの解析よりM2C,M6CおよびFe3Cの3種類の炭化物が同定された。M2CはSiを含有しにくいことが報告されている27)。そこで,さらにFE-EPMAを用いて各炭化物内部を1 μm程度の微小領域で面分析し,各元素の原子濃度(at%)を解析して,棒グラフとして同図に示した。晶出した共晶炭化物では,中央部の繊維状・層状の組織および周囲の粗大な組織はいずれもSiが少なく,高いMoおよびV濃度を示した。すなわち,デンドライト間隙の共晶炭化物はすべてM2Cと考えられた。なお,C濃度はM2Cから推定できる理論C濃度より低めの値が得られているが,これは,FE-EPMA分析中のC濃度の補正の影響と考えられる。一方,Si組成像に示されるように,鋳放し組織ではデンドライト相内部にSiの強度が高い微細組織が観察された。このことよりM6Cは共晶として晶出したものではなく,冷却過程または焼なまし過程で析出した炭化物と考えられた。さらに,Fig.3のC組成像から,添加元素をほとんど含まず,FeとCのみで構成されている微細組織もデンドライト相内部に観察された。そこで,その領域をCの組成像内に四角の破線で示し,その下に拡大して示した。1 μm以下の極めて小さい点が分布しており,その点状組織を解析したところ,Fig.3の元素濃度棒グラフに示すようにFe3Cと考えられる相であった。わずかではあるがXRD解析結果でも示されており,そのため,Fe3Cと考えられるこの微細組織も同様に冷却過程または焼なまし過程で析出したと考えられた。すなわち,Standard試料については,鋳放し組織の炭化物の構成はM2C,M6C およびFe3Cを主体とするものであった。また,初晶デンドライトはα相であったが,この試料は鋳放し後に焼きなました処理を経たことを考慮すると,後述するように初晶相はγ相であり,その後の鋳放し後の冷却過程,焼きなまし処理によってγ相がα相に変態したと考えられた。これらの炭化物記号をFE-EPMA組成像に改めて記した。
Identification of carbides by distribution of alloying elements and x-ray diffraction for the as-cast Standard sample.
加熱保持後の組織をFig.4に示す。共晶炭化物のBSE像のコントラストに大きな変化は認められないが,共晶炭化物は分断され,C組成像では濃淡が発生し,WおよびVを多く含みやすいM2Cの特徴27)を示した。すなわち,M2Cは塊状として加熱保持後でも残留していた。一方,Si組成像からは粒状に成長した領域が観察された。W組成像と共に拡大した組織も示したが,M2C炭化物の一部が分解したと考えられる。XRD結果よりM6Cは残存していることと,この領域の濃度分布(棒グラフ)が鋳放し組織のM6Cと同様にSiを多く含みやすいM6Cの特徴27)を示していることから,この領域はM6Cと判断した。なお,XRD解析ではFe3Cの回折ピークは無くなっており,1140°C保持によってFe3Cは消滅していた。なお,一方ではγ相のピークが検出された。
Decomposition of carbides in the as-cast Standard sample caused by heat-treatment at 1140°C for 16 h.
Moを増加させた試料(Mo10と記述)の鋳放し組織をFig.5に示した。BSE像から,Fig.3のStandard試料と似た組織になっていたが,Standard試料よりも微細な繊維状と層状の共晶が混在したノンファセット共晶の形態を示している。XRD解析を行った結果も同図に示したが,Mo10試料においてもStandard試料と同様の炭化物(M2C,M6CおよびFe3C)が同定された。さらに,各炭化物相の元素濃度もStandard試料と同様の傾向がみられ,凝固においてはM2Cが,また,冷却過程や焼なまし過程で生ずるデンドライト相内にはM6CおよびFe3Cが析出したものと考えられた。
Identification of carbides by distribution of alloying elements and x-ray diffraction for the as-cast Mo10 sample.
加熱保持後の組織をFig.6に示す。Fig.3と同様に共晶炭化物のBSE像のコントラストに大きな変化は認められないが,M2Cは加熱保持によって粗大化した。さらにSiを多く含みやすいM6Cも熱処理により生成しており,Standard試料と同様の傾向が確認された。しかしながら,V組成像には,緑色の粒状組織に混ざって,赤色で示されるVが極めて高い組織が点在している。そこで元素濃度を解析したところ,多量のVおよびCを含んでいた。XRD解析と照合させると,この炭化物は熱処理により生成したMCと考えられた。なお,Mo10試料においてもStandard試料と同様に,熱処理によってFe3Cが消滅し,γ相のピークを検出した。なお,Standard試料の加熱後の組織に析出しなかったMCがMo10試料に析出している。Fig.6のMo10試料のM2Cに含まれるW量はFig.4のStandard試料よりわずかに多く,逆にVの含有量がわずかに少ない。そのためMo10試料のM2C以外の組織にVが分配されたと考えられ,MCの析出を助長したと思われた。
Decomposition of carbides in the as-cast Mo10 sample caused by the heat-treatment at 1140°C for 16 h.
Siを増加させた試料(Si05と記述)の鋳放し組織は,Fig.7に示したように層状のファセット共晶形態の共晶炭化物であった。この形態についてはAISI M2の羽毛状(feather状)と報告されたM2C共晶形態28)と同じであり,Si組成像に示すように,Si濃度は低く,Siを含有しにくいM2Cの組成の特徴を示した。XRD解析からM2Cの他に,M6CおよびFe3Cも検出されており,それぞれの組成割合が上述のM6CおよびFe3Cに類似していることから,M6CおよびFe3Cはデンドライト相内に析出したと考えられた。さらに,XRD解析からM23C6のピークが確認された。組成割合からCrに富む相であることから,Cr組成像に示した点状M23C6が晶出または析出したと考えられた。
Identification of carbides by distribution of alloying elements and x-ray diffraction for the as-cast Si05 sample.
加熱保持後の組織をFig.8に示す。BSE像における白い像を示す層状の共晶組織はFig.7と同様に大きな変化が認められないが,Si組成像に示すようにSiを多く含みやすいM6Cが析出し,また,V組成像に示すようにVを多く含みやすいMCがM2C近傍に生成していた。なお,鋳放し組織に検出されたM23C6は,高温保持後はXRD解析と,Cr組成像からも消滅していた。以上のように,Si05試料の加熱保持後は,StandardおよびMo10試料と同様に,M2CがMCやM6Cへ分解していたと思われた。この分解のし易さについては,凝固の冷却速度に依存する報告例29)があるが,本報告の試料は冷却速度が同じとなるように鋼塊から採取しており,試料間の炭化物の分解し易さの差異は確認できなかった。
Decomposition of carbides in the as-cast Si05 sample caused by the heat-treatment at 1140°C for 16 h.
Wを増加させた試料(W7と記述)の鋳放し組織をFig.9に示す。BSE像より,共晶炭化物は層状というよりむしろ,肋骨状(anomalous complex regular structure)のファセット共晶形態を示した。肋骨状の共晶炭化物はWおよびMoを多く含む相であり,一方では上述の試料同様,XRD解析からM2C,M6CおよびFe3Cが検出されている。Si組成像および濃度分布(棒グラフ)から,肋骨状の組織はSiも多く含むM6Cであると考えられる。この肋骨状の炭化物はAISI T1に相当するW系高速度工具鋼の鋳放し組織として報告された炭化物30,31)と同様の形態であり,W7でもSiを多く含みやすいM6Cと判断した。このときM2CはV濃度割合が比較的高いことから,V組成像に示すように微小組織として晶出していると考えられた。また,Fe3Cはデンドライト相内部に析出していた。
Identification of carbides by distribution of alloying elements and x-ray diffraction for the as-cast W7 sample.
加熱保持後の組織をFig.10に示す。肋骨状のM6C共晶炭化物の大きな形態の変化は無いが,熱処理によりやや丸みを帯びて粗大に成長していた。しかしながら,M6Cの組成割合は,鋳放し組織とほとんど変化がなく,熱処理後も安定して存在していた。XRD解析より,Fe3Cは消滅し,M2Cは僅かに残存し,新たにMCが生成した。CおよびV組成像において,M6Cと基地の境界にCの著しく高い相が生成しており,その組成割合もVを多く含有するMCの特徴に極めて類似していることからMCが析出したと判断した。すなわち,加熱保持によってM2Cが分解し,微小なMCと未分解のM2Cが残留していた。
Decomposition of carbides in the as-cast W7 sample caused by the heat-treatment at 1140°C for 16 h.
WおよびVを同時に高めた試料(W7V2と記述)の鋳放し組織をFig.11に示す。共晶組織はファセット共晶特有の肋骨状の共晶炭化物であった。肋骨状の炭化物はW7同様,Siを多く含みやすいM6Cの特徴を示した。XRD解析からM2C,MCおよびFe3Cが同定されたが,組成割合のグラフからM2CにはCrやVが,MCには多量のVがそれぞれ多く含まれる。すなわち,SiおよびV組成像において,Si濃度は低く,Vが濃化しているところがM2Cと考えられ,CおよびV組成像で著しく高い濃度を示した相がMCと考えられる。なお,BSE像からM6Cが先に晶出し,その後MCが晶出したことが考えられる。W7V2試料の鋳放し組織にもMCが生成された理由としては,他の試料と比較してVが多く含まれていたためと考えられる。
Identification of carbides by distribution of alloying elements and x-ray diffraction for the as-cast W7V2 sample.
加熱保持後の組織をFig.12に示す。加熱によって鋳放し組織の共晶組織の層間隔が広がり成長している。M6C共晶炭化物についての大きな濃度変化は無かった。XRD解析ではM2CおよびMCのピークが検出されたが,M2CはSi濃度が低く,V組成像の高い領域に残存し,MCは初晶で晶出した場所以外に,V組成像で明確に示されるように,M6Cと基地の境界に析出していた。
Decomposition of carbides in the as-cast W7V2 sample caused by the heat-treatment at 1140°C for 16 h.
Standard,Mo10およびSi05試料の鋳放し組織で主に晶出している炭化物はM2Cであった。M2C共晶炭化物の形態に関して,Fig.1の光学顕微鏡,またはFig.3,5および7のBSE像に示すように,形態がStandardとMo10試料は繊維状と層状が混在するノンファセット共晶,Si05試料は羽毛状のファセット共晶であった。さらにMo10,StandardおよびSi05試料の順で共晶の炭化物の層間隔は広がっているように観察された。共晶の層間隔は凝固の冷却速度に依存することが報告29)されているが,本研究では冷却速度が同じとなるように試料を採取したので,試料毎の冷却速度の差による影響は小さいと考えられる。一方,共晶組織の成長において,第二相がノンファセット共晶の金属間化合物では曲率半径や溶質拡散に依存すること,ファセット共晶では比較的離れて共晶が成長することが示されている25,26)。M2Cを構成するWやMoの濃度はMo10試料よりStandard試料がやや多く,層間隔がやや大きくなったと考えられる。また,Si05試料の炭化物はファセット共晶であるので,さらに共晶の層間隔が広がったと考えられる。このような形態を示す炭化物は1140°Cで加熱保持することによって,一部の未分解のM2Cを残してMCおよびM6Cに分解していた。この分解についての詳細な解析13,15,16)が報告されており,本研究のMo10およびSi05試料にも同様な傾向が見られている。また,高速度工具鋼AISI M2の室温から1000~1150°Cで加熱保持し,基地をα相からγ相に変態させた後のM2C共晶炭化物の分解挙動として以下の反応式が示されている32)。
(1) |
Standard試料に相当するAISI M42の組織解析事例では,1100°C,1150°Cで1 h保持後の焼なまし組織にMCが存在したという報告例21)があるが,本報告のStandard試料にMC炭化物は確認されなかった。FE-EPMAによるV組成像ではMo10試料にわずかにMCが点在していたものの,Si05試料のMCよりは軽微な量であった。したがって,デンドライト相の形態はStandardやMo10試料に比べやや異なるものの,M2C共晶炭化物は式(1)と同様な分解が生じたものと考えられる。さらに,Fig.4,6および8のBSE像に示すように,分解で生ずるM6Cは微細なものが生成している。高速度工具鋼としては,熱間加工・熱処理を経て使用されるが,その際の硬質炭化物は経験的に微細分散状態が良好とされている4)。本研究で用いた試料はいずれも硬さを68~70HRCの範囲に収めているが,Moはやや多めにしたMo10試料が製品として微細分散状態が良好とされることを考慮すると高速度工具鋼に適していると思われる。
また,W7およびW7V2試料に観察された肋骨状M6Cについては11.02~18.58%Wの高速度工具鋼の炭化物組織の解析で安定な炭化物である33,34)と報告されているが,本研究での6.17~7.04%Wの組成で,1140°Cに加熱保持しても安定であった。また比較的硬いMC炭化物も分散した。特にW7V2試料では共晶MCと熱処理により分解したMCが分散している。高速度工具鋼の製造工程における熱間加工において肋骨状M6Cが粉砕し分散することがあれば,MCを含めて硬い高速度工具鋼が設計できると思われる。
3・3 液相面状態図による共晶反応解析FE-EPMAおよびX線回折による炭化物の解析によって5種類の鋳放し試料の晶出炭化物が確認されたので,Table 1に示す合金組成を用いて熱力学計算を行った。Fig.13にScheil-Gulliverの式によって求めた各試料の温度と固相率の関係を示す。Fig.13(a)にStandard,Mo10およびSi05試料の計算結果を示し,Fig.13(b)にW7およびW7V2試料の結果を示した。Fig.13(a)より,Standard試料は,1385°Cにおいて初晶γ相を晶出し,およそ0.65の固相率まで上昇した後,1240°C近傍でγ+M2C共晶組織を晶出した。またMo10およびSi05も同様に,γ相を初晶とし,共晶組織としてM2Cが得られた。Fig.3のXRD結果における鋳放し組織のデンドライト相はα相であったが,Thermo-Calcの計算では初晶相はγ相であり,その後の鋳放し後の冷却過程,焼きなまし処理によってγ相がα相に変態したと考えられた。一方,Fig.13(b)に示すように,Wを増量したW7試料は初晶相がγ相,次いでγ+M6C共晶,γ+MC共晶およびγ+M2C共晶の順で晶出する結果が得られた。Fig.9より,MC共晶は観察されなかったが,Scheil-Gulliverの式では計算されており,凝固過程にやや違いが見られた。また,WおよびVを同時に高めたW7V2試料についても,上述のようにW7V2試料はγ+M6Cおよびγ+MC共晶組織が,凝固過程で晶出しているが,Scheil-Gulliverの式では,初晶にγ相,共晶組織としてγ+M6C,次いでγ+MC,γ+M2C組織の晶出が予測された。
Estimation of the solidification sequence using Scheil- Gulliver’s equation of the Fe-C-Cr-W-Mo-V-Co alloy system; figure (a) is for as-cast Standard, Mo10 and Si05 samples and figure (b) is for as-cast W7 and W7V2 samples.
さらに5種類の試料の組成の変化と凝固過程を理解するために,Table 1に示す合金組成による液相面状態図を作成し,CとMoの関係としてFig.14に示した。Fig.14(a)にStandard,Mo10およびSi05試料の液相面状態図を示した。なお,Standard試料の計算結果はMo10試料とほとんど一致したので,Mo10試料の表記を優先して,わずかにずらして表記した。δとγの境界線はL+δ→γの包晶線である。また,γとM2Cの境界線はL→γ+M2Cの共晶線であり,同様にγとM6Cの境界線はL→γ+M6Cの共晶線,γとMCの境界線はL→γ+MCの共晶線である。いずれの試料も初期組成はδとγの境界線に近い位置のγ側に位置している。初晶γ相の凝固中に液相側に残留する元素濃度が共晶組織の生成に寄与するので,Mo10試料の凝固過程を例に述べると,残液に含まれるCおよびMo濃度は太い点線に示すように初晶γの生成に伴い上昇し,γ+M2C共晶線に到達して共晶組織を晶出する経路をたどることが考えられる。なお,液相面状態図にはγ+MC共晶線やγ+Fe3C共晶線が計算されたが,Fig.5から実際の凝固過程ではγ+M2C共晶組織のみが晶出した。また,Fig.14(b)にW7およびW7V2試料の計算結果を示した。Fig.14(b)においてW7V2試料の凝固過程に伴う液相中のCおよびMo濃度の濃度を点線で示したが,凝固が進むにつれて両者の濃度が上昇し,γ+M6C共晶線の濃度に到達して共晶組織を生じ,その後液相内のCおよびMo濃度はγ+M6C共晶線に沿って変化し,γ+MC共晶線でγ+MC共晶組織を形成するものと考えられる。Fig.11からγ+M2C共晶組織が生ずると考えられるが,Fig.14(b)に示すように本計算条件ではγ+M2Cの共晶線を算出できなかった。また,W7試料においても,γ+M2Cの共晶線を算出できず,γ+Fe3Cの共晶線が算出された。おおよその凝固過程は予測ができるが,より正確に予測するためにはデータベースや計算方法を詳細に見直す必要があると思われる。本研究試料に組成が近い圧延ロール用高炭素ハイス系合金のような鋳造材料においては,液相面状態図を用いてFig.14の液相内の合金組成の変化の点線から晶出する相の量を見積もる報告がなされている35)。本実験において,初期組成から共晶組成までの濃度の変化は,Fig.14(b)の共晶M6Cまでよりも,Fig.14(a)の共晶M2Cまでの組成の変化が大きいので,Fig.14(a)の合金の方が初晶γ量が多いことが考えられる。そこで,StandardおよびW7V2試料のFig.1の光学顕微鏡組織写真より初晶γ量を測定したところ,それぞれ82.5 area%および70.0 area%であり,Fig.14(a)に示す初期組成の合金の初晶γ量が多いことが確認された。このことから,熱間加工を前提とする高速度工具鋼においても圧延ロール用高炭素ハイス系合金などの鋳造材と同様にFig.14に示す液相面状態図は共晶を伴う凝固過程の推定に有用であると考えられた。
Liquidus projection surface of the Fe-C-Cr-W-Mo-V-Co alloy; figure (a) is for as-cast Standard, Mo10 and Si05 samples and figure (b) is for as-cast W7 and W7V2 samples.
共晶組織の第二相の体積率は最終製品の性能を左右することから,その体積率を求める必要がある。また,第二相の体積率は共晶反応直上の液相組成と相関関係があるので,共晶領域のFE-EPMAによって得られた元素の組成像を利用して液相組成を求めた。M2Cに着目し,共晶反応直上の液相領域に相当する枠線で囲った共晶領域の例をFig.15に,共晶領域の強度から組成に換算した液相組成をTable 2に示す。C濃度はSi05試料が高い値を,またMo10試料が低い値を示した。同様に,WはSi05試料が高く,一方Standard試料が低く,また,MoはSi05試料が高く,Mo10試料が低い値を示した。共晶炭化物量と共晶組成の関係を評価するため,共晶領域に存在するM2C炭化物の面積率を画像解析ソフトにより求めたところ,炭化物量はSi05試料の次に,Standard試料,Mo10試料の順に少なくなった。さらに共晶領域の液相組成を用いてFig.13(a)の計算例と同じScheil-Gulliver法により求めたモル固相率99%におけるM2C晶出量をTable 3に示す。SiやV量を増加させたSi05試料の炭化物晶出量が最も多く,Mo10試料が最も少ない計算結果が得られ,この傾向はFE-EPMAより求めた実測のM2C量の順列とも一致した。前節で,共晶組織の層間隔はMo10,StandardおよびSi05試料の順に大きくなっていることが観察されたが,Fig.15に示すようにM2Cの形態は微細な繊維状,層状の組織から粗大な層状や羽毛状へ変化していた。2元系合金の共晶組織の解析では共晶形態に関して繊維状(fiber,rod)や層状(lamellar)は共晶の第二相の体積率によって変化することが示されているので25,36),M2C炭化物の層間隔と晶出量の関係を調査した。なお,共晶組織の層間隔の計量手法として, インターセプト法によるパーライト組織の層間隔の評価方法37,38)が知られている。Fig.15の白線で示した共晶領域内のγ相と炭化物相の層状組織の厚さ(Apparent depth)を測定し39),見かけ上の層間隔(Apparent spacing)として評価した。Fig.16にこの層間隔と測定したM2C炭化物の面積率(Area %)の関係を示す。▲印および◆印は,γ相およびM2C相各々の相の厚さを示し,●印は両者を合わせた間隔を示している。炭化物量が増加するに従い,いずれの値も2倍弱大きくなっている。すなわち68~70HRCで使用されることを想定した鋼材の共晶反応直上の液相組成が,繊維状および層状のM2C炭化物共晶の間隔および形態に影響を及ぼした。なお,この関係から共晶炭化物の層間隔が大きく,大きな棒状の炭化物として熱間加工後の鋼材に残留すると疲労強度やじん性を低めてしまうので,実際の製品には共晶炭化物量を低めた設計を行い,試料硬さを保ったまま機械的特性を向上させる必要があると思われる。
Eutectic microstructure region used for analyzing the fraction of carbides of as-cast (a) Standard, (b) Mo10 and (c) Si05 samples.
(mass%) | |||||||
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Sample type | C | Cr | W | Mo | V | Co | Fe |
Standard | 1.71 | 4.33 | 2.57 | 18.7 | 2.16 | 6.22 | Bal. |
Mo10 | 1.47 | 4.48 | 3.60 | 15.5 | 1.85 | 6.71 | Bal. |
Si05 | 1.94 | 4.30 | 5.29 | 17.6 | 3.41 | 6.00 | Bal. |
Sample type | Eutectic M2C | Calculated equilibrium carbide vol% at 1140°C | ||
---|---|---|---|---|
Measured area% by image analysis | Calculated vol% by Scheil-Gulliver | |||
M2C | M6C | |||
Standard | 41.0 | 15.4 | 8.14 | 22.3 |
Mo10 | 37.1 | 11.7 | 5.28 | 20.7 |
Si05 | 43.2 | 18.5 | 13.4 | 18.4 |
Influence of M2C area fraction on the depth of each austenite and carbide phases, and the total apparent lamellar spacing.
また,本報告では鋳放し組織を1140°Cで加熱保持した状態についても解析を行ったので,Table 2に示した共晶領域の液相組成を用いて1140°Cの平衡状態においても計算した。その結果をTable 3に示す。Standard試料には平衡状態のM2CとM6C炭化物が存在することが計算で確認された。またMo10試料はStandard試料より少ないM2C量が計算された。同様にSi05試料には3種の試料の中では最も多いM2C量が得られた。M6CはStandard試料が最も多く,Si05試料が最少と計算された。平衡計算によりいずれの試料でも1140°CではM2Cが安定して存在することが示された。これまでの報告では凝固過程で晶出したM2C炭化物の高温での不安定性,すなわち,1140°Cで16 h保持後に確認されたM2Cは不安定な状態で,分解に至る途中の過程の状態であると推定されるものが多かったが,本実験結果によればM2Cは1140°Cにおいて一部は分解するものの安定な炭化物であり,高温保持でもM2Cは残留することが示された。
上述したように,高速度工具鋼の鋳放し組織は共晶炭化物による網状組織で構成されており,熱間加工によって鍛造,圧延方向に展伸されて鋼材となる。この圧下率を85~86%に高めても網状組織は残留し易いこと18,40)が知られている。この残留した網状組織に大きな共晶炭化物が残留すると,用途によっては鋼材のじん性を低め破壊に繋がり,工具の耐久性を低めてしまう4)。したがって,M2C炭化物のうち繊維状のような形態を有する鋼材はじん性を損なわず,高い硬さを有すると考えられる。しかしながら逆に,安定な共晶炭化物として知られる粗大なMC炭化物が残留する鋼材は,アブレシブによる摩耗を抑制し工具の価値を高めること41)があることも報告されている。すなわち,M2C炭化物のうち羽毛状のものや肋骨状M6C炭化物は,さらなる摩耗性向上を目指すことができると考えられる。以上のことから,高速度工具鋼に求められる理想の炭化物組織は必ずしも微細である必要はなく,工具の使用条件や求められる性能に依存するものであり,その組織は炭化物の種類(M2C,M6CおよびMC)の選択,共晶反応直上の液相組成,および高温での分解特性を理解することにより制御できるものと考えられる。
高速度工具鋼を用いて,硬さ68~70HRCが得られる鋼材に相当する焼入れ・焼戻しまで考慮した鋳放し組織におけるM2C,M6CおよびMC共晶炭化物について,構成される元素の濃度分布や共晶炭化物の形態を解析し,また,1140°C16時間の熱処理を行って炭化物相の熱的安定性について評価し,以下の知見を得た。
(1)一般的な高速度工具鋼の凝固過程においてSiやV量を増加するとM2C炭化物が増加し,WやV量を増加するとM6CやMC炭化物が晶出した。
(2)凝固直後のM2C共晶炭化物の面積率は,共晶反応直上の液相組成に依存して変化した。
(3)高速度工具鋼のM2C共晶炭化物量が増加すると,共晶炭化物の形態が微細な繊維,層状の組織から粗大な層状や羽毛状へ変化し,炭化物の層間隔も大きくなる傾向があった。
(4)鋳放し試料を1140°C保持するとM2C炭化物は残留しつつ,M6Cが析出した。
(5)ほぼ同一硬さの試料でも,じん性や疲労強度等の目的に合わせて適切なM2C共晶の形態と晶出量を選択する必要があると考えられた。