2023 Volume 109 Issue 4 Pages 245-256
The effect of Al2O3 addition on the reaction between 2CaO·SiO2 (C2S) and iron ore has been elucidated from the perspective of silico-ferrite of calcium and aluminum (SFCA) formation. Hematite iron ore, synthesized C2S, and reagent grade CaO, Al2O3, and SiO2 were mixed so that the Fe2O3/SiO2 (mass%) ratio was 14.43. The mixed powders were uniaxially pressed into the shape of a tablet, which was sintered in air at 1250°C for 5 min. The constituent phases were investigated using XRD and EPMA for the samples where CaO/SiO2 (mass%) ratio was varied from 0.22 to 2.60 and for the samples where Al2O3 concentration was varied from 1.44 mass% (T1) to 3.98 mass% (T2). (i) The constituent phases are mainly Fe2O3 and SiO2 for the samples with a CaO/SiO2 (mass%) ratio of 0.22, and Fe2O3, SiO2, and SFCA for the samples with ratios above 1.97. (ii) The compositions of the SFCA phases are all on the plane connecting CaFe6O10, CaAl6O10 and Ca4Si3O10. The Al2O3 concentrations of SFCA in the T1 and T2 samples are in the range of 1-5 mass% and 2-8 mass%, respectively, and the Fe2O3 concentration tends to decrease with increasing Al2O3 concentration. (iii) The Rietveld analyses of XRD profiles have revealed that adding CaO and Al2O3 increases the fraction of the SFCA phase in the sintered sample. Hence, it is suggested that the placement of CaO and Al2O3 near C2S would promote SFCA formation, which leads to mitigating the decrease in strength relevant to C2S-added iron ore sinters.
高炉の主原料である焼結鉱は,鉄鉱石,石灰石粉などの副原料,粉コークスを混合・造粒して焼成することにより,Fe-Ca-O系融液を生成して鉄鉱石造粒粒子同士を融着・塊成化させたものである1–3)。冷却時に融液から多成分系カルシウムフェライト(Silico-Ferrite of Calcium and Aluminum, SFCA)などの鉄酸化物が晶出し,スラグとともに鉄鉱石造粒粒子同士を接着する結合相を形成している。焼結プロセスでは製鉄所内で発生するダスト,スラジ,スラグの一部が鉄源としてリサイクル利用されており,環境負荷低減の観点で有効かつ効率的な使用が求められている。製鋼工程で発生するスラグの焼結利用に関しても様々な試みがなされている4,5)。製鋼スラグにはCaO,CaCO3,Ca(OH)2,2CaO・SiO2(C2S)などのカルシウム化合物が含まれているため6,7),石灰石粉の代替の役割も果たし得る。一方で,製鋼スラグの添加は石灰石由来のCaO源の低下により焼結鉱の強度低下を招くことが指摘されており,著者らは強度低下のメカニズムについて基礎検討を行ってきた8)。
HayashiらはC2S添加が焼結鉱組織に及ぼす影響を調査し,組成一定の条件で焼結原料中にC2Sを添加した試料とCaOとSiO2試薬を添加した試料の焼結鉱組織を比較検討した8)。その結果,C2Sを用いない場合には焼結原料中のSiO2の一部が未滓化のまま溶融同化せずに残留しており,試料組成の見かけのCaO/SiO2比が高くなるためSFCA晶出量が増加することを明らかにした。すなわち,C2S添加の場合には局所的に低塩基度の領域が形成され,焼結鉱中のSFCA晶出量が減少する。
一方,製鋼工程では脱酸および成分調整を目的にアルミニウム添加剤が用いられており,スラグ中のCaOの一部はAl2O3との複合酸化物として存在する。焼結過程におけるAl2O3の影響については,これまで焼結生産性や還元性状など種々の知見が報告されており9),一般的に高Al2O3原料使用時には強度低下や焼結生産性の低下が問題となる。しかし,微細組織の観点ではAl2O3添加はSFCA生成に寄与することも明らかになってきており,近年では鉱物組織の観点でより詳細な検討がなされている。Hayashiらは10),空隙を有するSFCA組織形成に及ぼすAl2O3濃度の影響を検討し,Al2O3濃度が高いほど針状SFCAがより低温で生成し,より高温までその組織を維持することを報告しており,Pownceby and Clout11)およびWebsterら12)も,Al2O3濃度を1 mass%から5 mass%ないし10 mass%に増加させるとSFCAがFe3O4とスラグに加熱分解する温度が1300°C近傍まで上昇することを明らかにし,Al2O3濃度の増加はSFCAの安定温度域を拡大させると結論付けている。Patrick and Powncebyが報告したSFCAの状態図からも,SFCA中のAl2O3濃度が高いほど,より高温まで固相として存在することを示している13)。これらの検討では鉱石由来のSiO2,Al2O3と石灰石由来のCaOを出発原料として形成されたSFCA相に関するものであり,実プロセスで想定される製鋼スラグ由来のC2S存在下におけるAl2O3の影響については十分な検討がなされていない。
そこで本研究では,C2S添加で作製した焼結鉱中のSFCA晶出挙動に対し,Al2O3添加量の影響を明らかにすることを目的とした。
試料の作製には,鉄鉱石および試薬のCaCO3,SiO2およびAl2O3を用いた。Table 1およびTable 2に鉄鉱石の組成および粒度分布を示す。鉱石にはブラジル産の高品位ヘマタイト鉱石を粉砕し整粒したものを用いた。CaCO3は大気中1050°C,12 h焼成してCaOとし,SiO2およびAl2O3は恒温槽にて140°Cで24 h以上保持し十分に乾燥させた。これらを篩で38 µm以下に分級したものを使用した。C2SはCaOとSiO2から合成した。CaOとSiO2を2:1のモル比で混合し,40 MPa,3 min一軸加圧しタブレット状に圧粉成型した。白金るつぼ中にタブレットを入れ,大気中1300°C,48 h焼成した。その後,粉砕,圧粉,焼成を2 回繰り返した後,試料がC2SであることをX線回折(XRD)により確認した。Table 3に各水準の鉄鉱石,C2S,CaO,Al2O3およびSiO2試薬の混合割合を,Table 4に組成の設定値を示す。試料名は,Al2O3濃度を1.44 mass%および3.98 mass%としたものをT1およびT2とし,試料名の記号D,SはC2Sを含有する水準または含有しない水準を示す。C2Sのみを含むT1D1に対して,CaO試薬を添加してCaO/SiO2(mass%)比(塩基度)1.97(T1D2)および2.60(T1D3)の試料を作製し,Fe2O3/SiO2(mass%)比14.43,Al2O3濃度1.44 mass%で一定とするために,鉄鉱石配合量とC2S量を調整した。T2試料についても同様の方法で調整した。
T.Fe | FeO | SiO2 | CaO | Al2O3 | MgO |
---|---|---|---|---|---|
64.45 | 1.25 | 5.59 | 0.07 | 1.41 | 0.07 |
Particle size | < 38 μm | 38−75 μm | 75−90 μm | 90 μm < |
mass% | 38.61 | 40.66 | 17.53 | 3.20 |
Samples | Iron ore | C2S | CaO | Al2O3 | SiO2 |
---|---|---|---|---|---|
T1D1 | 97.97 | 2.00 | − | 0.03 | − |
T1D2 | 88.11 | 1.80 | 9.92 | 0.17 | − |
T1D3 | 85.02 | 1.74 | 13.03 | 0.22 | − |
T1S2 | 88.11 | − | 11.09 | 0.17 | 0.63 |
T1S3 | 85.02 | − | 14.16 | 0.22 | 0.61 |
T2D1 | 95.43 | 1.95 | − | 2.61 | − |
T2D2 | 85.83 | 1.75 | 9.67 | 2.74 | − |
T2D3 | 82.82 | 1.69 | 12.69 | 2.79 | − |
T2S2 | 85.83 | − | 10.81 | 2.74 | 0.61 |
T2S3 | 82.83 | − | 13.79 | 2.79 | 0.59 |
Samples | Fe2O3 | CaO | SiO2 | Al2O3 | C/S | F/S |
---|---|---|---|---|---|---|
T1D1 | 90.89 | 1.37 | 6.30 | 1.44 | 0.22 | 14.43 |
T1D2, T1S2 | 81.73 | 11.16 | 5.66 | 1.44 | 1.97 | 14.43 |
T1D3, T1S3 | 78.87 | 14.23 | 5.47 | 1.44 | 2.60 | 14.43 |
T2D1 | 88.54 | 1.34 | 6.14 | 3.98 | 0.22 | 14.43 |
T2D2, T2S2 | 79.62 | 10.87 | 5.52 | 3.98 | 1.97 | 14.43 |
T2D3, T2S3 | 76.83 | 13.86 | 5.33 | 3.98 | 2.60 | 14.43 |
混合粉末0.45 gを35 MPaで30 s圧粉成型し,直径10 mmのタブレットを作製した。そのタブレットを,電気炉に装入して,大気中,100°C/minで1250°Cまで昇温し,5 min保持後,電気炉から取り出し空冷した。
Al2O3濃度を3.98 mass%とした鉄鉱石とC2Sの拡散対実験も行った。Table 1およびTable 2に示した鉄鉱石にAl2O3試薬を添加してAl2O3濃度を3.98 mass%とした粉末を一軸加圧し直径10 mm,厚さ2 mmのタブレット状に圧粉成型した(T2タブレット)。白金るつぼに内径13 mm,高さ6 mmのムライト管を置き,その中にC2S粉体を充填しC2S粉体層とした。C2S粉体層の上にT2タブレットを置き(T2/C2S拡散対),白金るつぼごと赤外線イメージ加熱炉に装入して100°C/minで1300°Cまで昇温し5 min保持した後炉冷した。焼成したT2/C2S拡散対の構成相を同定するために,XRDとEPMAを併用した。
2・2 構成相の同定焼成試料の構成相を同定するために,XRDと電子線マイクロアナライザ(EPMA)を併用した。XRDの線源にはCuKα線,集中光学系を採用し,管電圧は40 kV,管電流は250 mAとし,走査角度2θ=5~80°において,0.02°/step,1.7°/minの走査速度で行った。また,SFCA系の低角度ピークを確認するために,2θ=5~15°,0.02°/step,5°/minの連続測定を行った。SFCA系の低角度側のピークは弱いためノイズが大きい。そのため,同条件で4回測定し平均化したデータを用いた。各相の同定には,Fe2O3(ICDD No. 01-079-1741, Quality I)14),SFCA(ICDD No. 01-080-0850, Quality S)15),SFCA-I(ICDD No. 00-052-1258, Quality I)16),SFCA-II(ICDD No. 00-056-0929, Quality S)17),γ-C2S(ICDD No: 04-010-9508, Quality: S)18),β-C2S(ICDD No: 01-086-3092, Quality: S)19),SiO2(ICDD No:00-033-1161, Quality: S)20),Ca2Al2SiO7(ICDD No: 04-014-4683, Quality: S)21)を使用した。また,組織観察のために,EPMAによる背面散乱電子像(BE像)を用いた。電子ビーム径は1 µm,電子線加速電圧は15 kVとし,試料電流は1 nAとした。また,構成元素のマッピング像を得る際には,試料電流は40~50 nAの条件に調節した。
2・3 構成相の相分率の定量CaOとAl2O3を添加した場合におけるC2Sと鉄鉱石間の反応により生じる構成相の相分率を求めるため,各相の結晶構造の精密化と質量比を求めることが可能なリートベルト解析を用いた。画像解析も組織定量評価方法として一般によく採用されているが10,22,23),SFCA相は幅が数~数十µm程度の柱状であり8),正確な評価には高倍率で撮影した狭範囲の画像を相当数準備する必要がある。一方,リートベルト解析では焼結鉱1粒子を粉砕,混合,縮分し,XRD測定に供するため,全量的な解析が可能であり,解析者によるばらつきや恣意性が少ないという利点がある24)。
本研究のリートベルト解析(正しくは,全回折パターンフィッティングであるが,本論文ではリートベルト解析と記載)では,XRDにより計測された測定プロファイルに対して,式(1)で与えられる計算プロファイルを最小二乗フィッティングした。パラメータを精密化することにより,式(2)で定義される残差二乗和Rを最小化した。
(1) |
(2) |
ここで,yicalは計算プロファイル,yiは測定プロファイル,A(2θi)は吸収と照射面積の強度補正,2θiは回折角度,sはスケール因子,Pn,hは配向補正,In,hは積分強度,Φnはプロファイル関数,2θhはブラック角,T(2θi)は角度補正,yb(2θi)はバックグラウンド補正である。添え字のiはステップ番号,nは結晶相,hはミラー指数を表す。強度誤差σ(yi)2は検出器に応じて適切に与えられる。
j番目の相の質量比Wjは式(3)で表される。上記の計算により精密化後のスケール因子sから構成相の質量比を求めることができる。
(3) |
ここで,Zjは成分jの単位格子中の分子数,Mjは成分jの分子の質量数,Vjは成分jの単位格子の体積である。
解析結果は,信頼度因子RwpとGOF値(goodness-of-fit indicator)であるSによって良否判断を行った。RwpとSはそれぞれ式(4)と式(5)にて求めた。
(4) |
(5) |
ここで,wiは統計的重み,Nは測定点数,Mは精密化するパラメータ数である。
リートベルト解析にはRigaku製の粉末X線解析ソフトウェアPDXL ver2.0を用いた。吸収,照射面積の強度補正(A(2θi))はLobanov & alte de Veiga関数を,配向補正(Pn,h)はMarch-Dollase関数を,プロファイル関数(Φn)は分割型擬Voigt関数を用いた。バックグラウンド補正(yb(2θi))はB-スプライン法で行った。精密化を行ったパラメータは,スケール因子s,バックグラウンド補正yb(2θi),格子定数,角度補正関数T(2θi),プロファイル関数(Φn)である。
2・4 SFCA相の組成分析リートベルト解析結果の信頼性を検証する方法の一つに,リートベルト解析で求めた構成相の相分率と各相の組成の積から計算した組成が,試料組成とどの程度の差を生じるかを求める方法がある24)。しかし,SFCAには広い固溶領域があり13),試料によって組成が異なるため定量しておく必要がある。そこで,EPMAを用いて全試料におけるSFCA相の定量分析を行った。電子ビーム径は1 µm,電子線加速電圧は15 kVとし,試料電流は50 nAとした。EPMAの標準試料には,24.46(mass%)Fe2O3-35.71SiO2-32.83CaO-5.00Al2O3-2.00Mgのガラス試料を用いた。各試料のSFCA相を10点ずつ定量分析し,平均値と標準偏差を求めた。T2D2とT2D3に関しては20点ずつ定量分析を行った。
Fig.1に(a)T1D1およびT1D1にCaOを添加した試料である(b)T1D2のXRDプロファイルを示す。T1D1ではFe2O3,SiO2および不明ピークが検出された。T2D1においてもT1D1と同様のピークが検出された。T1D2ではFe2O3,SiO2およびSFCAのピークが検出された。T1D3,T2D2,T2D3,T1S2,T1S3,T2S2およびT2S3においても,試料間でピーク比は異なるもののT1D2と同様のピークが検出された。全試料における2θ=5~15°のXRDプロファイルを確認したところ,SFCA-IとSFCA-IIのピークは検出されなかった。
XRD profiles of samples T1D1 (a) and T1D2 (b).
Fig.2に(a)T1D1,(b)T1D2および(c)T2D2のBE像を示す。T1D1およびT1D2のBE像に示すとおり,基本的にはXRDプロファイルで検出された化合物がBE像においても観察されたが,全試料において微量のスラグ相が観察された。また,Al2O3濃度の高いT2D2試料では微量のGehlenite相が観察された。Fig.3に別視野のT2D2の元素マッピングを示す。Al2O3濃度はFe2O3<スラグ相<SFCAの順に増加しており,Al2O3は試料の構成相の中でSFCA中に優先的に分布することが分かる。他の試料においても同様の結果を得た。ここで,Chenら25)により報告されたCaO-SiO2-Fe2O3系状態図にもとづくと,Fe2O3とSFCAの量比の関係からFe2O3の多くは1次ヘマタイトであると考えられるが8),冷却過程で液相から晶出した2次ヘマタイトが粗粒化し残存する可能性は否定できない。1次および2次ヘマタイトではAl2O3の固溶量が若干異なると考えられるが,その差異は本研究では検知できなかった。
BE images of samples T1D1 (a), T1D2 (b) and T2D3 (c).
Element mapping images of T2D2. (Online version in color.)
Table 5にXRDおよびEPMAにより求めた各試料の構成相を示す。全試料において,無作為に選択した7か所で撮影したBE像を画像処理ソフトウェアImage Jに適用した結果,Gehleniteおよびスラグ相の面積率が1~5%と微量のため,これらを括弧で示した。Al2O3濃度に関わらず,CaO/SiO2(mass%)比が1.97以上の試料でSFCA相が晶出していることが分かる。
Samples | Constituent phases | C/S |
---|---|---|
T1D1 | Fe2O3, SiO2, (slag) | 0.22 |
T1D2 | Fe2O3, SiO2, SFCA, (slag) | 1.97 |
T1D3 | Fe2O3, SiO2, SFCA, (slag) | 2.60 |
T1S2 | Fe2O3, SiO2, SFCA, (slag) | 1.97 |
T1S3 | Fe2O3, SiO2, SFCA, (slag) | 2.60 |
T2D1 | Fe2O3, SiO2, (Gehlenite), (slag) | 0.22 |
T2D2 | Fe2O3, SiO2, SFCA, (Gehlenite), (slag) | 1.97 |
T2D3 | Fe2O3, SiO2, SFCA, (Gehlenite), (slag) | 2.60 |
T2S2 | Fe2O3, SiO2, SFCA, (slag) | 1.97 |
T2S3 | Fe2O3, SiO2, SFCA, (slag) | 2.60 |
構成相の相分率を比較する上で,存在量が微量のGehleniteおよびスラグ相を解析対象から外し,Fe2O3,SFCAおよびSiO2のみで解析を行った。
Fig.4に,CaO濃度の異なるT1D1,T1D2におけるリートベルト解析結果を示す。上段は測定およびリートベルト解析の結果から得たXRDプロファイルであり,下段は両者の残差である。T1D1ではピーク強度の高いFe2O3で残差が大きくなっているが,T1D2ではそれに加え,ピーク強度がそれほど高くないSFCAにおいても残差が大きくなっている。Table 6にリートベルト解析で求めた各試料中の相分率,および,式(4)と式(5)から求めたRwpとSを示す。Rwp値は4%程度,S値は1.5~2.2%と一般的な推奨値26)に比べてやや大きいが,これは,微量成分を除外してFe2O3,SFCAおよびSiO2のみが存在するとし,また,SFCAの組成が同一試料で均一であるとして解析を行っているためである。実際には,3・3節で記すようにSFCAの組成は同一試料においても大きく異なっている。CaO影響に関しては,T1D1→T1D2→T1D3,T2D1→T2D2→T2D3,T1S2→T1S3およびT2S2→T2S3の変化で示されるようにCaOの増加に従いSFCA相分率が増加した。また,Al2O3影響に関しては,T1S3→T2S3の場合を除き,T1D2→T2D2,T1D3→T2D3およびT1S2→T2S2の変化で示されるようにAl2O3の増加にともないSFCA相分率が増加した。T1S3→T2S3の変化については不明である。さらに,C2S添加の影響に関してはT2S3→T2D3の場合を除き,T1S2→T1D2,T1S3→T1D3およびT2S2→T2D2の変化で示されるようにSFCA相分率が減少しており,これはHayashiらの報告8)とも一致する。T2S3→T2D3の変化からは,塩基度,Al2O3濃度ともに高い場合には,C2Sを添加してもSFCA量がそれほど大きくは減少しないことが示唆される。
Comparison between the experimental data (green line), the calculation data obtained by Rietveld analysis (total: yellow line, each phase: gray line) and back ground data (purple line) of XRD profiles on the samples of (a)T1D1 and (b)T1D2 including residual data. (Online version in color.)
Fe2O3 | SFCA | SiO2 | Rwp / % | S / % | |
---|---|---|---|---|---|
ICDD | 01-079-1741 | 01-080-0850 | 00-033-1161 | ||
T1D1 | 95.1 ± 0.3 | − | 4.9 ± 0.3 | 3.68 | 1.506 |
T1D2 | 44.7 ± 0.3 | 53.4 ± 0.3 | 1.9 ± 0.3 | 3.65 | 1.644 |
T1D3 | 21.6 ± 0.5 | 77.0 ± 1.0 | 1.4 ± 1.1 | 4.09 | 1.905 |
T1S2 | 39.7 ± 0.4 | 59.0 ± 0.4 | 1.3 ± 0.4 | 3.99 | 1.890 |
T1S3 | 12.4 ± 0.4 | 86.0 ± 0.7 | 1.6 ± 0.6 | 4.72 | 2.165 |
T2D1 | 94.2 ± 0.3 | − | 5.8 ± 0.3 | 3.68 | 1.748 |
T2D2 | 34.3 ± 0.6 | 59.6 ± 0.9 | 6.1 ± 1.3 | 4.04 | 1.749 |
T2D3 | 11.0 ± 0.4 | 86.8 ± 0.4 | 2.2 ± 0.2 | 4.73 | 2.146 |
T2S2 | 35.5 ± 0.4 | 63.1 ± 0.4 | 1.34 ± 1.9 | 3.87 | 1.748 |
T2S3 | 11.8 ± 0.4 | 84.1 ± 0.5 | 4.2 ± 0.4 | 4.87 | 2.191 |
Table 7(a)に各試料におけるSFCA相組成の定量分析結果について,各試料10点の測定点から求めた平均組成と標準組成を,Table 7(b)にT2D2とT2D3のSFCA相を20点の測定点から求めた平均組成と標準偏差の比較を示す。10点の平均組成の標準偏差と比べて,20点の標準偏差は小さくならなかった。これは,標準偏差の原因が測定誤差に有るのではなく,同一試料中でのSFCA相の組成差に起因することを示しており,Table 6で示されるS値が若干高い要因の一つである。本実験では短時間の非平衡反応であるため,鉄鉱石と試薬界面で生成する融液の拡散が十分ではなく,形成される鉱物組織が焼成前の粒子や成分の賦存状態に依存するものと推定される。Fig.5に各試料におけるSFCA相組成の定量分析結果をCaO-SiO2-Fe2O3-Al2O3組成4面体中にプロットしたものを2方向から見た図を示す27)。Fig.5(b)より,定量結果がCaFe6O10(CF3),CaAl6O10(CA3)およびCa4Si3O10(C4S3)を結んだ面(CCC平面)上にあることが分かる。これはC2Sを含む系,含まない系に関わらずPatrick and Pownceby13)の報告と一致している。また,Fig.5(c)に示すとおり,T1試料およびT2試料のAl2O3濃度はそれぞれ約1~5 mass%および約2~8 mass%であるが,分析結果全体をとおしてAl2O3濃度が上がるに従いFe2O3濃度が下がる傾向にあること,CaO濃度はAl2O3濃度が等しい試料間で大きな差が無いことが分かる。これは,Patrick and Pownceby13)の報告にあるように,SFCA単相領域ではAl2O3の固溶幅が広く,CaOの固溶幅が狭いこと,またFe3+↔Al3+の置換が起こること15)と合致している。
(a) | |||||||||||
Average / mass% | Standard deviation / mass% | ||||||||||
Fe2O3 | CaO | SiO2 | Al2O3 | MgO | Total | Fe2O3 | CaO | SiO2 | Al2O3 | MgO | |
T1D2 | 75.76 | 15.71 | 5.76 | 2.66 | 0.12 | 100 | 2.56 | 1.19 | 1.24 | 1.14 | 0.01 |
T1D3 | 78.89 | 14.98 | 4.49 | 1.58 | 0.06 | 100 | 1.21 | 0.78 | 0.47 | 0.32 | 0.01 |
T1S2 | 78.09 | 15.40 | 5.15 | 1.26 | 0.09 | 100 | 1.41 | 0.82 | 0.65 | 0.30 | 0.01 |
T1S3 | 76.62 | 16.44 | 5.62 | 1.27 | 0.06 | 100 | 3.59 | 2.18 | 1.59 | 0.61 | 0.01 |
T2D2 | 74.51 | 15.77 | 5.63 | 4.02 | 0.07 | 100 | 1.55 | 0.71 | 0.73 | 0.73 | 0.01 |
T2D3 | 76.75 | 15.48 | 3.95 | 3.77 | 0.05 | 100 | 1.83 | 0.49 | 0.36 | 1.18 | 0.01 |
T2S2 | 74.63 | 15.77 | 5.07 | 4.44 | 0.09 | 100 | 3.32 | 1.12 | 0.63 | 1.93 | 0.07 |
T2S3 | 76.39 | 15.54 | 4.07 | 3.95 | 0.05 | 100 | 3.82 | 1.82 | 0.81 | 1.38 | 0.03 |
(b) | |||||||||||
Average / mass% | Standard deviation / mass% | ||||||||||
Fe2O3 | CaO | SiO2 | Al2O3 | MgO | Total | Fe2O3 | CaO | SiO2 | Al2O3 | MgO | |
T2D2 | 74.58 | 15.71 | 5.65 | 4.00 | 0.05 | 100 | 2.29 | 1.00 | 0.78 | 1.07 | 0.02 |
T2D3 | 75.60 | 15.46 | 4.51 | 4.38 | 0.05 | 100 | 2.61 | 0.70 | 0.83 | 1.51 | 0.02 |
(a) Schematic diagram of CaO-SiO2-Fe2O3-Al2O325) and (b)(c) compositions of SFCA measured by EPMA quantitative analyses plotted on the part of CaO-SiO2-Fe2O3-Al2O3 tetrahedron with the plane passing through three points, CaFe6O10 (CF3), CaAl6O10 (CA3) and Ca4Si3O10 (C4S3) (CCC Plane): (b) view from parallel to the plane, and (c) view perpendicular to the line connecting CaO and Fe2O3. (Online version in color.)
EPMAにより定量したSFCA相の平均組成を用いて,リートベルト解析から求めた相分率結果の検証を行った。Table 8にリートベルト解析より求めた相分率および各相の組成から計算したFe2O3,CaO,SiO2,Al2O3の質量分率とTable 2に示す試料組成との差分を試料組成で除し100を掛けたものを相対誤差として示す。Fe2O3については,SFCA相の組成差を考慮せず,Gehleniteおよびスラグ相を解析対象から外して評価したが相対誤差は全試料で5%未満であり,計算値と試料組成はよく一致した。一方,その他の成分の相対誤差はFe2O3と比較して増加した。この原因としては,Fe2O3濃度が約70~80 mass%であるのに対し,CaO,SiO2およびAl2O3濃度は最大で約15 mass%,約7 mass%,約4 mass%と少ないために誤差の影響が大きいこと,また,同一試料中におけるSFCA相の組成差の影響が大きいためと考えられる。
Fe2O3 | CaO | SiO2 | Al2O3 | |
---|---|---|---|---|
T1D2 | 4.25 | −24.74 | −12.13 | −1.49 |
T1D3 | 4.46 | −18.89 | −11.09 | −15.54 |
T1S2 | 4.94 | −18.36 | −22.54 | −49.26 |
T1S3 | −0.68 | −0.57 | 17.75 | −24.47 |
T2D2 | −1.11 | −13.52 | 71.37 | −39.85 |
T2D3 | 1.07 | −3.01 | 5.67 | −17.82 |
T2S2 | 3.78 | −8.43 | −17.75 | −29.54 |
T2S3 | −0.98 | −5.67 | 43.12 | −16.52 |
次に,EPMAで測定されたSFCA相の組成と結晶構造の対応関係を確認した。Fig.5(c)に示すとおり,SFCA相中のAl2O3濃度が上昇するに従いFe2O3濃度が下がる傾向にあり,Fe3+↔Al3+の置換が起こっていることを示しているが,Al3+のイオン半径がFe3+より小さいことから,SFCA相中のAl2O3濃度の上昇にともないSFCAの格子定数および単位格子体積は小さくなると考えられる。そこで,Fig.6に,EPMAから求めたSFCA相のAl2O3濃度とリートベルト解析により精密化されたSFCAの格子定数a, bおよび単位格子体積Vを比較した。SFCA相のAl2O3濃度が高くなるに従いSFCAの格子定数と単位格子体積は小さくなっており,リートベルト解析で示されるFe3+↔Al3+の置換にともなう結晶構造変化は,EPMAで測定されたSFCA組成変化を反映していることが示された。
Lattice constant (Å) and unit cell volume (Å3) refined by Rietveld analysis and Al2O3 concentrations in SFCA measured by EPMA quantitative analyses, where 1 Å = 0.1 nm.
CaO添加量の影響については,Table 6に示すとおり,C2Sの添加有無にかかわらず,CaO添加量が増加するに従いSFCA相分率が増加した。Fig.7にChenら25)により報告された1220°CにおけるCaO-SiO2-Fe2O3系状態図上に初期組成をプロットしたものを示す。CaO添加量が増加するに従いSFCAとの連続固溶体であるSFC単相領域に近づいており,本結果は状態図に従っていることが分かる。
Relationship between initial composition and compositions after CaO additions on CaO-SiO2-Fe2O3 system at 1220°C16). (Online version in color.)
一方,Al2O3添加量の影響については,Table 6で示すT1S3→T2S3の場合を除き,Al2O3添加にともないSFCA相分率が増加し,高Al2O3濃度のSFCAが晶出しFe3+がAl3+で置換された結晶構造となることが示された。Al2O3がSFCA中で最も熱力学的安定状態にあることを示唆しており,本研究のAl2O3添加量の範囲ではSFCA相の晶出に寄与するといえる。ここで,高Al2O3濃度かつ高塩基度のT2S3とT2D3を比較すると,C2S条件に依らずSFCA量には大きな差が見られない。そこで,C2S周囲界面における高Al2O3条件下におけるSFCA組織の生成挙動を明らかにするために,拡散対を用いて検証を行った。
4・3 C2S存在下における高Al2O3鉱石からのSFCA晶出挙動の検証T2/C2S拡散対焼成後の試料のXRD測定結果からFe2O3,γ-C2Sおよびβ-C2Sのピークが確認され,2θ=10.80°および11.70°の2本のピークからSFCAの存在を確認した。Fig.8にT2/C2S拡散対の(a)断面模式図,(b)界面近傍の組織の模式図,(c)界面近傍のBE像を示す。Fig.9にはFig.8(c)中の(1),(2)および(3)の高倍率のBE像を示す。BE像において最も明るく見える相から順にFe2O3,柱状組織とデンドライト組織,スラグ相,C2S,樹脂である。Fig.8(b)の模式図およびFig.8(c)のBE像の粒状組織の間には,Fig.8(c)からでは不明瞭であるが,Fig.9(1)に示すように柱状組織とスラグ相が存在する様子が確認された。Fig.10に元素マッピング像を示す。コントラストと元素マッピング結果から粒状組織はC2Sと判断される。柱状およびデンドライト組織はCa,Fe,Si,Al,Oを含むことが分かる。液相にはAl,Siが濃縮しており,Al濃度は液相>柱状組織>デンドライト組織>ヘマタイト>粒状組織の順に低下した。Table 9に柱状組織4点とデンドライト組織2点の定量結果とM/O(M=Fe,Ca,SiおよびAl)のモル比を示す。ただし,MgOなどの微量成分を無視し,また,Feは全てFe3+であると仮定している。柱状組織のM/OはM14O20(M/O=0.7)に近い値であり,デンドライト組織のM/OはM20O28(M/O=0.714)に近い値となっており,それぞれSFCA15)およびSFCA-I16)であると考えられる。Fig.7に示す状態図の議論においては,T2とC2S間の組成はT2とC2Sを結んだ線上にあると予想されるが,この線上の組成はSFCAと平衡せず,液相とFe2O3の平衡相中に存在する。すなわち,SFCAが晶出するためには局所的な組成差により高CaOの領域が存在する必要がある。本追加試験では,石灰石を添加していないためCaO源は鉄鉱石またはC2S由来に限られる。しかし,鉄鉱石やC2S中に含まれる微量のfree-CaO近傍ではC/S>2となり,液相組成が高Al2O3濃度のSFCAとの平衡相に至り,冷却過程でSFCAを晶出したと考えられる。本研究およびHayashiら8)の結果より,CaOの代替としてC2Sを含む製鋼スラグを添加すると焼結鉱組織中のSFCA晶出量が減少することが推定され,それによって焼結鉱強度が低下すると考えられる。一方で,本研究結果から,CaOおよびAl2O3の添加にともないSFCA量が増加することが分かった。このことは,Fig.11に示すように,C2SにCaOとAl2O3を近接配置することによりSFCA量が増加することを意味している。
T2/C2S diffusion couple; (a) schematic illustration of the couple, (b) schematic illustration of the microstructure in the vicinity of the interface, and (c) BE image in the vicinity of the interface. (Online version in color.)
High magnification BE images of the observation areas (1), (2), and (3) in Fig. 8(c). (Online version in color.)
Element mapping images of T2/C2S diffusion couple. (Online version in color.)
Fe2O3 | CaO | SiO2 | Al2O3 | M/O | |
---|---|---|---|---|---|
Columnar structures | 73.07 | 16.10 | 7.63 | 3.20 | 0.693 |
73.17 | 15.99 | 7.61 | 3.23 | 0.693 | |
72.81 | 16.36 | 7.62 | 3.21 | 0.694 | |
73.64 | 15.82 | 7.23 | 3.31 | 0.694 | |
Dendritic structures | 54.98 | 29.79 | 14.70 | 0.53 | 0.713 |
46.81 | 34.06 | 17.72 | 1.41 | 0.716 |
Schematic illustration of reactions between low Al2O3 containing iron ore, C2S and CaO (a) and high Al2O3 containing iron ore, C2S and CaO (b). (Online version in color.)
C2S添加による焼結鉱中のSFCA晶出量の減少に対しAl2O3添加が及ぼす影響を解明するため,Fe2O3/SiO2(mass%)比を14.43とし,CaO/SiO2(mass%)比を0.22~2.60の範囲で変化させた試料について,Al2O3濃度を1.44 mass%(T1)と3.98 mass%(T2)と変化させた場合における焼成試料の構成相を調査した。実験結果をまとめると以下のようになる。
(1)XRDおよびEPMAの組織観察により,焼成試料の構成相はCaO/SiO2(mass%)比が0.22の試料では主にFe2O3とSiO2となり,1.97以上ではFe2O3,SiO2およびSFCAとなる。
(2)EPMAによる定量分析の結果,SFCA相の組成はいずれもCaFe6O10,CaAl6O10およびCa4Si3O10を結ぶ面上にある。また,T1試料およびT2試料におけるSFCAのAl2O3濃度はそれぞれ約1~5 mass%および約2~8 mass%であり,Al2O3濃度が上がるに従いFe2O3濃度が低下した。
(3)XRDのリートベルト解析結果から,CaOおよびAl2O3の添加により焼成試料中のSFCA相の相分率が増加した。
以上のことから,C2SにCaOとAl2O3を近接配置することによりSFCA量が増加すると考えられる。
XRD測定およびリートベルト解析では,東京工業大学オープンファシリティセンター 分析部門の鈴木優一氏に指導を賜りました。ここに感謝の意を表します。