Tetsu-to-Hagane
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Corrosion Resistance of Zn-Ni Alloy Films Electroplated from Alkaline Zincate Solution Containing Brightener
Sung Hwa BaeSatoshi OueYu-ki TaninouchiInjoon SonHiroaki Nakano
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2023 Volume 109 Issue 4 Pages 289-300

Details
Abstract

Zn–Ni alloys were electroplated on an Fe plate with thicknesses of 40 μm at 500 A·m−2 and 293 K in unagitated zincate solutions. The reaction product of epichlorohydrin and imidazole (IME) was added in the solution as a brightener at the concentration of 0-5 ml/dm−3. The corrosion resistance of the obtained Zn–Ni alloys films was investigated from the polarization curve in 3 mass% NaCl solution before and after the corrosion treatment (formation of corrosion products) in NaCl solution for 48 h. Before the corrosion treatment, the corrosion current density of plated films rarely changed regardless of addition of IME into the zincate solution because the reduction reaction of dissolved oxygen rarely changed. However, in films plated from the solution containing IME, the anode reaction was suppressed and the corrosion potential shifted to noble direction. The suppression of anode reaction with an addition of IME in plating solution is attributed to the increase in γ-phase in plated films. On the other hand, after the corrosion treatment, the morphology of Zn chloride hydroxide of corrosion product was uniformly formed on the surface with increasing the concentration of IME. The reduction reaction of dissolved oxygen was suppressed with increasing the concentration of IME, resulting in decrease in corrosion current density.

1. 諸言

Zn-Ni合金めっき鋼板は,Znめっき鋼板に比べ耐食性に優れているため,自動車部品,家庭電化製品,建材用部品などに幅広く使用されている18)。Zn-Ni合金めっきは,硫酸塩浴,塩化物浴から行われることが多いが,小物部品等に対する均一電着性の観点からは,ジンケート浴を用いた方が望ましい919)。ジンケート浴からのZn-Ni合金めっきでは,通常,光沢剤が添加されている。めっき膜の外観品質と光沢剤の関係については多数報告されているが2022),浴中への光沢剤の添加がめっき膜の耐食性に及ぼす影響についての報告は少ない。

ジンケート浴に光沢剤としてポリエチレングリコールとバニリン,ピぺロナールまたはクマリンの2種類を添加して得られたZn-Ni合金めっき膜は,光沢剤を添加していない浴中から得られたZn-Ni合金めっき膜と比べて,Na2SO4水溶液中での耐食性が高いことが報告されている23)。また,サリチルアルデヒドとシステイン塩酸塩を縮合したもの24)またはバニリンとグリシンを縮合して合成された光沢剤25)をそれぞれ添加した硫酸塩浴から得られたZn-Ni合金めっき膜は,塩化物イオンを含む環境中での耐食性が向上することも報告されている。しかし,これらは何れも水溶液中に浸漬直後の耐食性であり,めっき膜の表面に腐食生成物が形成された後の耐食性については不明である。

塩化物イオンを含む環境下において,Zn-Ni合金めっき膜の耐食性が,Znめっき膜のそれに比べて優れている要因として,皮膜抵抗の大きい塩基性塩化亜鉛(ZnCl2・4Zn(OH)2)からなる腐食生成物が形成されることが広く知られている2729)。光沢剤を含むジンケート浴から得られたZn-Ni合金めっき膜については,塩化物イオンを含む環境中で塩基性塩化亜鉛の形成が促進されるとの報告26)がある。しかし,添加する光沢剤の種類による現象の差異を含めその詳細は不明である。

以上を踏まえ著者らは,ジンケート浴からのZn-Ni合金めっきにおいて光沢効果のあることが報告3033)されているエピクロルヒドリンとイミダゾールの反応物(IME)を光沢剤として選定し,浴中へのその添加が得られるZn-Ni合金めっき膜の耐食性にどのような影響を及ぼすのかを調査した。本研究では,得られた合金めっき膜の表面を,塩化物イオンを含む環境として代表的なNaCl水溶液中を用いて腐食処理し,その前後における3 mass% NaCl水溶液中での耐食性を分極曲線により評価した。

2. 実験方法

Table 1にZn-Ni合金めっき膜の作製に用いたジンケート浴の組成および電析条件を示す。電解液は市販の特級試薬を用い,常温にてZnO 0.15 mol·dm-3,NiSO4·6H2O 0.016 mol·dm-3,N(CH2CH2OH)3 0.34 mol·dm-3,NaOH 2.5 mol·dm-3を純水に溶解させて作製した。エピクロルヒドリンとイミダゾールの反応物(IME)は,既報34,35)に従い作製したものを使用した。IMEの添加量は,0, 1, 3, 5 ml·dm-3とした。IMEの構造式をFig.1に示す。めっきは,定電流電解法により電流密度500 A·m-2,浴温293 Kにおいて無撹拌下で行なった。基板はFeである。通電量は,めっきの膜厚が40 μmとなるように設定した。本研究では,基板の影響を受けないめっき膜自体の耐食性を評価するため,めっきの膜厚を厚めの40 μmに設定した。作製した供試材の明細をTable 2に示す。めっき膜のNi含有率は,IMEの添加量が,0, 1, 3, 5 ml·dm-3の場合,それぞれ,5.0,3.9,3.9,3.8 mass%であった。

Table 1. Solution compositions and electrolysis conditions.
ZnO(mol∙dm−3)0.15Current density (A∙m−2)500
NiSO4∙6H2O(mol∙dm−3)0.016Temperature (K)293
N(CH2CH2OH)3(mol∙dm−3)0.34Thickness of deposits (μm)40
NaOH(mol∙dm−3)2.5CathodeFe (1×2 cm2)
IME(ml∙dm−3)0, 1, 3. 5AnodePt (1×2 cm2)
Quiescent bath
Fig. 1.

Structural formula of reaction product of epichlorohydrin and imidazole (IME).

Table 2. Zn-Ni films subjected to corrosion tests.
IME in plating solution (ml·dm−3)0135
Ni content of Zn-Ni films (mass%)5.03.93.93.8
Thickness of Zn-Ni films (μm)40

供試材の腐食処理は,酸素を飽和させた298 Kの3 mass% NaCl水溶液に浸漬することで行った。保持時間は24,48,168時間である。

腐食処理前後におけるめっき膜の耐食性を分極測定により評価した。具体的には,酸素を飽和させた313 Kの3 mass% NaCl水溶液中に浸漬し,電位掃引法により10 mV·s-1の速度で卑な電位から貴な電位へ掃引した。得られた分極曲線からめっき膜の腐食電流密度,腐食電位を評価した。腐食処理前の供試材については,めっき膜の溶解反応を評価するため,-0.8 Vの定電位に保持した際のアノード電流密度を測定した。(なお,ZnとNiの標準電極電位E0は,それぞれ-0.76,-0.25 V vs SHEである)。

腐食処理前後におけるめっき膜の表面形態を走査型顕微鏡(SEM)により観察した。また,腐食処理後のサンプルについては,エネルギー分散型X線分析法(EDX)による組成分析も実施した。めっき膜の相同定はX線回折装置(Cu-Kα,管電圧40 kV,管電流15 mA)を用いて行った。

さらに腐食処理前のめっき膜について,共析しているCの量を高周波グロー放電発光分析法(rf-GDOES)により評価した。本測定用のサンプルは,Cu基板上に500 A·m-2で5×104 C·m-2通電して得た。C,Zn,Ni,Cuの含有率を,分析径:ϕ2 mm,アルゴン圧力:600 Pa,出力:40 W,パルス周波数:2000 Hz,デューティサイクル:0.125の条件にて測定した。

3. 結果

3・1 Zn-Ni合金めっき膜の構造

Fig.2に種々の濃度のIMEを含む298 Kのジンケート浴から500 A·m-2で得られたZn-Ni合金めっき膜の外観を示す。IMEを含まない溶液から得られためっき膜(a)は,灰色で無光沢であったが,IMEを1, 3 ml·dm-3含む溶液から得られためっき膜((b),(c))は,若干の光沢を示した。IMEを5 ml·dm-3と増加させると(d),めっき膜は,銀色となり光沢が顕著となった。

Fig. 2.

Appearance of Zn–Ni alloy films deposited with thicknesses of 40 μm at 500 A·m−2 in the solutions containing various amounts of IME. [(a) IME-free, (b) IME 1 ml∙dm−3, (c) IME 3 ml∙dm−3, (d) IME 5 ml∙dm−3] (Online version in color.)

Fig.3にZn-Ni合金めっき膜の表面SEM像を示す。IMEを含まない溶液から得られためっき膜(a)は,三角錐が垂直に成長した形態を示した。IMEを1, 3 ml·dm-3添加しためっき膜((b),(c))では,板状結晶が消失し,丸みを帯びた微細な結晶が集合した塊状となった。IMEを5 ml·dm-3添加した場合(d)は全体的により平滑となり塊状と塊状の隙間もめっき膜で被覆された。

Fig. 3.

SEM images of the Zn–Ni alloy films deposited with thicknesses of 40 μm at 500 A·m−2 in the solutions containing various amounts of IME. [(a) IME-free, (b) IME 1 ml∙dm−3, (c) IME 3 ml∙dm−3, (d) IME 5 ml∙dm−3]

Fig.4にZn-Ni合金めっき膜のXRDパターンを示す。IME添加の有無に関わらずFe基板に由来するピークは検出されず,Zn中にNiが固溶しているη-Zn相と金属間化合物であるγ相(Ni2Zn11)のピークのみが検出された。メインピークは,回折角43.0°で見られたが,η-Zn相とγ相の回折角がそれぞれ43.2°,42.8°であるため,このピークからη-Zn相とγ相の分離同定はできなかった。しかし,56.2°および68.1°の回折ピークより,浴中へのIMEの添加量が多くなるほど総じてγ相が増加すると予想された。

Fig. 4.

X-ray diffraction patterns of the Zn–Ni alloy films deposited with thicknesses of 40 μm at 500 A∙m−2 in the solutions containing various amounts of IME. [(a) IME-free, (b) IME 1 ml∙dm−3, (c) IME 3 ml∙dm−3, (d) IME 5 ml∙dm−3] (● Zn[η] PDF # 87-0713 and ★ Ni2Zn11[γ] PDF # 65-5310)

3・2 Zn-Ni合金めっき膜の耐食性及ぼすに及ぼすIME添加の影響

3・2・1 めっき膜作製直後における耐食性

Fig.5に3 mass% NaCl水溶液に浸漬直後(長時間の腐食処理前)に測定されたZn-Ni合金めっき膜の分極曲線を示す。めっき膜の腐食反応のカソード反応である溶存酸素の還元反応(O2+2H2O+4e-→4OH-)については,-1.00 Vにおける還元電流の値から分かるように,4種類のめっき膜の間で差が無くIMEの有り無しでほとんど変化していない。つまり,めっき膜作製時における浴中へのIMEの添加は,得られためっき膜のNaCl中での腐食電流密度(腐食速度)に有意な影響を及ぼしていないことが分かった。

Fig. 5.

Polarization curves in 3 mass% NaCl solution for corrosion product-free deposits obtained with thicknesses of 40 μm at 500 A∙m−2 in the solutions containing various amounts of IME. [(a) IME-free, (b) IME 1 ml∙dm−3, (c) IME 3 ml∙dm−3, (d) IME 5 ml∙dm−3] (Online version in color.)

IMEを添加していない溶液から得られためっき膜の腐食電位(本研究では浸漬時の自然電位ではなく,LSVで測定された分極曲線において電流がゼロとなる電位を腐食電位とする)は,-0.86 V前後であるが,IMEを添加した浴中から得られた合金皮膜では,腐食電位がより貴な値であった。腐食電位より貴な領域に掃引した際のアノード分極曲線に注目すると,IMEを添加した溶液から得られためっき膜では,酸化反応(腐食電位の近傍ではZn→Zn2++2e-)が抑制されていることが分かる。腐食電位の変化は,カソード反応である酸素の還元は拡散限界に達しており電極電位の依存性が無い一方で,アノード反応が変化したためと理解される。

Fig.6に3 mass% NaCl水溶液に浸漬直後,-0.8Vの定電位に保持した際のZn-Ni合金めっき膜のアノード電流密度を示す。Zn-Ni合金めっき膜の溶解反応速度を示すアノード電流密度は,IMEの添加の有無に関わらず,時間の経過に伴い増加した。アノード電流密度は,初期を除き,IME濃度を0 mlから5 ml·dm-3に増加させると低下することが分かった。定電位に保持した際のアノード電流密度は,アノード反応の分極曲線を反映したものであり,IME濃度を0 mlから5 ml·dm-3に増加させると腐食のアノード反応が抑制されることを示している。本研究で得られためっき膜は,η-Zn相とγ相(Ni2Zn11)の二相から構成されている(Fig.4)。Fig.6に示すアノード電流密度が時間の経過に伴い増加したのは,めっき膜の溶解に伴い,真の表面積が増加することおよびめっき表層に溶解し難いγ相が濃縮していることが考えられる。

Fig. 6.

Anode current density at −0.8 V in 3 mass% NaCl solution for corrosion product-free deposits obtained with thicknesses of 40 μm at 500 A∙m−2 in the solutions with and without IME. [(a) IME-free, (b) IME 5 ml∙dm−3] (Online version in color.)

3・2・2 NaCl水溶液による表面腐食処理後の耐食性

Fig.7に種々の濃度のIMEを含む298 Kのジンケート浴から500 A·m-2で得られたZn-Ni合金めっき膜を3 mass% NaCl水溶液に48,168時間浸漬した後の外観を示す。48時間浸漬後は,IME添加の有無に関わらず赤錆は発生しておらず,白錆のみが見られた。白錆は,IMEを含まない溶液から得られためっき膜(a)で多くなっており,IMEを1, 3, 5 ml·dm-3含む溶液から得られためっき膜((b),(c),(d))では,大きな差は見られなかった。一方,168時間浸漬後は,何れの供試材においても赤錆が発生した。赤錆の発生面積はIMEを含まない溶液から得られためっき膜(e)で最も大きくなっており,IMEの添加量が多くなる程,小さくなった((f),(g),(h))。

Fig. 7.

Appearance after immersed in 3 mass% NaCl solution for 48 and 168 h of Zn–Ni alloy films deposited with thicknesses of 40 μm at 500 A∙m−2 in the solutions containing various amounts of IME. [(a) IME-free, 48 h, (b) IME 1 ml∙dm−3, 48 h, (c) IME 3 ml∙dm−3, 48 h, (d) IME 5 ml∙dm−3, 48 h, (e) IME-free, 168 h, (f) IME 1 ml∙dm−3, 168 h, (g) IME 3 ml∙dm−3, 168 h, (h) IME 5 ml∙dm−3, 168 h] (Online version in color.)

Fig.8にZn-Ni合金めっき膜を3 mass% NaCl水溶液に48時間浸漬して腐食生成物を形成させた後に分極測定を行った結果を示す。NaCl水溶液に48時間浸漬後は,赤錆が発生しておらず基板のFeは露出していない(Fig.7)。また,腐食生成物中のZn(OH)2の還元反応(Zn(OH)2+2e-→Zn+2OH-)の平衡電位はpH 7の条件下では,-0.85 Vであり,それより卑な電位域では,溶存酸素の還元反応と共にZn(OH)2の還元反応も生じている可能性がある。そこで,溶存酸素の還元反応は,-0.85 Vより貴な電位域で評価した。

Fig. 8.

Polarization curves after immersed in 3 mass% NaCl solution for 48 h of deposits obtained with thicknesses of 40 μm at 500 A∙m−2 in the solutions containing various amounts of IME. [(a) IME-free, (b) IME 1 ml∙dm−3, (c) IME 3 ml∙dm−3, (d) IME 5 ml∙dm−3] (Online version in color.)

IMEを添加した溶液から得られためっき膜((b),(c),(d))上では,IMEを含まない溶液からのもの(a)と比較して,溶存酸素の還元電流が大幅に低下した。溶存酸素の還元反応は今回測定した電極電位領域では拡散限界に達していると考えられるため,IMEを添加した溶液から得られためっき膜の方が,耐食性が高い(腐食速度は小さい)と判断される。

めっき膜の腐食電位は,IMEを含まない溶液から得られためっき膜では-0.8 Vであったが,皮膜作製時のIMEの浴中添加量が多くなるほど貴側に移行しIME 5 ml·dm-3の添加で-0.48 Vとなった。また,めっき膜の溶解反応であるアノード反応は,IMEを添加した浴中から得られた皮膜の方が抑制されている。その抑制の程度は,IMEの添加量が多くなるほど大きくなった。アノード反応のターフェル領域では分極曲線に直線関係が見られ直線の傾きは,IMEを1 ml·dm-3添加する(b)と無添加の場合(a)より小さくなり,IMEの添加量を多くしても((c),(d))ほぼ同一であった。めっき膜の腐食電位がIMEの添加量が多くなるほど貴側に移行したのは,アノード反応の抑制の影響の方が大きいためと考えられる。

NaCl水溶液中での48時間浸漬後の分極曲線(Fig.8)を浸漬前の分極曲線(Fig.5)と比較すると,めっき膜作製時のIME添加の有無に関わらず,48時間の腐食処理後の方が溶存酸素の還元反応の電流密度は低い。すなわち,48時間の腐食処理後の方が腐食速度は小さい。また,48時間浸漬後の方が,腐食電位がより貴となり,腐食電位の貴への移行の程度は,IMEの添加量が多くなる程大きくなった。IMEを添加して得られためっき膜のアノード分極曲線を48時間浸漬の有り無しで比較すると,ターフェル領域での分極抵抗dE/diは,48時間浸漬した方がより大きくなった。

3・3 NaCl水溶液中への24,48時間の浸漬により形成された腐食生成物の構造

3・3・1 24時間腐食処理後サンプルの分析結果

Fig.9にZn-Ni合金めっき膜を3 mass% NaCl水溶液に24時間浸漬した後の表面SEM像を示す。IMEを添加していない溶液から得られためっき膜(a)では,板状の結晶が集合した塊状の結晶が形成されており,塊状と塊状間には隙間が見られた。塊状の中心部の結晶は比較的小さかったが周辺部の板状結晶は大きく成長していた。IMEを1 ml·dm-3添加した溶液から得られためっき膜(b)では,板状結晶の厚さがやや厚くなり,塊状と塊状間の隙間が少なくなった。IMEを3 ml·dm-3と増加させると(c),傾斜して大きく成長した板状結晶が主体の形態となった。IMEを更に5 ml·dm-3まで添加させた溶液から得られためっき膜(d)では,全面が比較的均一な板状結晶で被覆されていた。

Fig. 9.

SEM images after immersed in 3 mass% NaCl solution for 24 h of deposits obtained with thicknesses of 40 μm at 500 A∙m−2 in the solutions containing various amounts of IME. [(a) IME-free, (b) IME 1 ml∙dm−3, (c) IME 3 ml∙dm−3, (d) IME 5 ml∙dm−3]

Fig.10にZn-Ni合金めっき膜を3 mass% NaCl水溶液に24時間浸漬した後のXRDパターンを示す。IMEを添加していない溶液から得られためっき膜(a)では,メインのピークは,めっき膜のη-Zn相とγ相(Ni2Zn11の金属間化合物)に由来するものであったが,それ以外にめっき膜の腐食生成物である塩基性塩化亜鉛(ZnCl2・4Zn(OH)2)とZn(OH)2に由来する回折ピークが検出された。IMEを1, 3, 5 ml·dm-3添加した溶液から得られためっき膜((b),(c),(d))においても,IMEを添加していない場合とほぼ同様の結果が得られた。XRDの分析深さは,供試材,測定波長,回折角度により異なるが,無機物質の場合,数100 nm~数10 μmである36)。本研究においては,最表面は塩基性塩化亜鉛とZn(OH)2主体となっているが,内側はZnとZn-Ni合金が残留していると考えられる。以上の結果から,めっき液へのIMEの添加の有無に関わらず,Zn-Ni合金めっき膜を3 mass% NaCl水溶液に24時間浸漬するとめっき膜の腐食生成物である塩基性塩化亜鉛とZn(OH)2が形成されることが分かった。

Fig. 10.

Xray diffraction patterns after immersed in 3 mass% NaCl solution for 24 h of deposits obtained with thicknesses of 40 μm at 500 A∙m−2 in the solutions containing various amounts of IME. [(a) IME-free, (b) IME 1 ml∙dm−3, (c) IME 3 ml∙dm−3, (d) IME 5 ml∙dm−3] (● Zn[η] PDF # 87-0713, ★ Ni2Zn11[γ] PDF # 65-5310, ♣ ZnCl2∙4Zn(OH)2 PDF # 07-0155, ♦ Zn(OH)2 PDF # 41-1359)

Fig.11にIMEを添加していない溶液から得られたZn-Ni合金めっき膜を3 mass% NaCl水溶液に24時間浸漬した後の表面SEM像およびEDXによる分析結果を示す。塊状結晶の中心部(Fig.11(a)中の(b))においてZn,O,Clが検出されたが,Clのピークは小さかった(Fig.11(b))。それに対して塊状結晶の周辺部に見られた板状結晶の箇所(Fig.11(a)中の(c))では,Zn,O,Clが検出された(Fig.11(c))。Zn-Ni合金めっき膜をNaCl水溶液に浸漬すると腐食生成物として塩基性塩化亜鉛(ZnCl2・4Zn(OH)2)が形成されることは広く知られており2729),また,塩基性塩化亜鉛は板状結晶であることが報告されている37)。本研究においても,3 mass% NaCl水溶液に24時間浸漬した後のX線回折パターン(Fig.10)において塩基性塩化亜鉛に由来するピークが検出されており,且つ,EDXによる分析ではZn,O,Clが検出されている(Fig.11(c))ことから,塊状結晶の周辺部に見られた板状結晶(Fig.11(a)中の(c))は,塩基性塩化亜鉛であると考えられる。一方,塊状結晶の中心部(Fig.11(a)中の(b))では,Clのピークが小さいことから,Zn(OH)2主体の腐食生成物が形成されていると考えられる。以上の結果から,Zn-Ni合金めっき鋼板を3 mass% NaCl水溶液に24時間浸漬した後に見られた板状結晶(Fig.9)は,塩基性塩化亜鉛と判断される。

Fig. 11.

SEM image and EDX spectra after immersed in 3 mass% NaCl solution for 24 h of deposits obtained with thicknesses of 40 μm at 500 A∙m−2 in the IME-free solution. [(a) SEM image, (b) EDX spectrum of (b), (c) EDX spectrum of (c)] (Online version in color.)

3・3・2 48時間腐食処理後サンプルの分析結果

Fig.12にZn-Ni合金めっき膜を3 mass% NaCl水溶液に48時間浸漬した後の表面SEM像を示す。IMEを添加していない溶液から得られためっき膜(a)では,腐食生成物が集合した大きな塊があり,塊と塊の間に大きな隙間が見られた。IMEを1 ml·dm-3添加した溶液から得られためっき膜(b)では,板状結晶が全面に渡り形成されており,大きな隙間は消失したが,板状結晶間に多数の凹部が見られた。IMEを3, 5 ml·dm-3と増加すると((c),(d)),板状結晶による表面被覆率が増加し,板状結晶間の凹部が減少した。24時間の腐食処理後のめっき膜の分析結果を踏まえると,表面に存在する板状結晶(Fig.12)は,塩基性塩化亜鉛と判断される。

Fig. 12.

SEM images after immersed in 3 mass% NaCl solution for 48 h of deposits obtained with thicknesses of 40 μm at 500 A∙m−2 in the solutions containing various amounts of IME. [(a) IME-free, (b) IME 1 ml∙dm−3, (c) IME 3 ml∙dm−3, (d) IME 5 ml∙dm−3]

4. 考察

4・1 めっき膜作製直後における耐食性

IMEを添加した溶液から得られたZn-Ni合金めっき膜の耐食性について以下考察する。めっき膜作製直後,すなわち腐食生成物が形成されていないZn-Ni合金めっき膜の腐食電流密度は,めっき液へのIME添加の有無に関わらずほぼ同一であった(Fig.5)。Fig.5より予想されるZn-Ni合金めっき膜の内部分極曲線の模式図をFig.13に示す。3 mass% NaCl水溶液中での腐食速度は,溶存酸素の還元反応支配型であり,酸素の還元反応の速度で決まる。溶存酸素の還元反応は,酸素の拡散律速となっている。腐食生成物が形成されていない状態では,溶存酸素の還元反応の電流密度は,めっき液へのIME添加の有無に関わらずほぼ同一となっており,その結果,腐食電流密度もIME添加の影響を受けなかった。しかし,腐食生成物が形成されていないZn-Ni合金めっき膜のアノード反応(めっき膜の溶解反応)は,IMEを添加して得られためっき膜の方が抑制された。その結果,腐食電位はIMEを添加すると貴な方に移行した。

Fig. 13.

Schematic diagram of internal polarization curves of corrosion product-free deposits obtained in the solutions containing various amounts of IME. (Online version in color.)

めっき液にIMEを添加するとその添加量が多くなるほどめっき膜では金属間化合物であるγ相(Ni2Zn11)が増加した(Fig.4)。Zn-Ni系2元系平衡状態図38)によると室温でのγ相の安定領域はNi 12.8~16.5 mass%である。めっきにおいては,結晶化過電圧が高くなる,すなわち結晶化過程が抑制されると,還元された吸着原子が過飽和の状態で結晶化されるため急冷合金に類似した非平衡相(あるいは高温相)の膜が得られることが報告されている39)。光沢剤を添加すると電荷移動過程に加えて結晶化過程を抑制することが報告されている40)。本研究においては,光沢剤であるIMEの添加により電析の結晶化過電圧が増加するため,還元されたZnとNiの吸着原子(Znad,Niad)がより過飽和になり,状態図とは異なる組成域でγ相が形成され易くなったと推察される。γ相の安定領域のNiよりも少ないNi含有率でγ相が形成される原因としては,γ相にZnが固溶している可能性があるが詳細は不明である。Zn-Ni合金めっき膜のγ相は,η-Zn相に比べ,熱力学的に安定で腐食し難いことが報告されている41)。以上のことから,IMEを含む溶液から得られためっき膜では,γ相が増加するため,めっき膜の溶解反応が抑制されたと考えられる。

4・2 NaCl水溶液中への48時間浸漬により表面に腐食生成物を形成させた後の耐食性

3 mass% NaCl水溶液中に48時間浸漬させて腐食生成物を形成させた後のZn-Ni合金めっき膜の腐食電流密度は,めっき液へIMEを添加した方が明らかに低下した(Fig.8)。Fig.8より予想されるZn-Ni合金めっき膜の内部分極曲線の模式図をFig.14に示す。IMEの添加による腐食電流密度の低下は,溶存酸素の還元反応が抑制されることに起因している。腐食生成物が形成されたZn-Ni合金めっき膜のアノード反応(めっき膜の溶解反応)は,IMEを添加して得られためっき膜の方が大きく抑制された。その結果,腐食電位はIMEを添加すると大きく貴な方に移行した。

Fig. 14.

Schematic diagram of internal polarization curves after formation of corrosion product on deposits obtained in the solutions with and without IME.

めっき液にIMEを添加すると腐食生成物である塩基性塩化亜鉛(ZnCl2・4Zn(OH)2)の表面性状が変化し,IMEの添加量が多くなると,塩基性塩化亜鉛が表面に均一に形成された(Fig.9, 12)。IMEを添加した溶液から得られためっき膜において,溶存酸素の還元反応およびめっき膜の溶解反応が抑制される要因としては,腐食生成物である塩基性塩化亜鉛が表面に均一に形成されることが考えられる。

Zn-Ni合金めっき膜に共析しているC量を評価するため,Cu基板上に500 A·m-2にて5×104 C·m-2通電して得られたZn-Ni合金めっき膜についてrf-GDOES分析を行った。その結果をFig.15に示す。IMEを含まない溶液からのめっき(Fig.15(a))においても,めっき膜にCが共析しているがこれは,Ni2+の錯化剤として添加しているトリエタノールアミンに由来するものと考えられる。IMEを含む溶液から得られためっき膜(Fig.15(b),(c))では,Cの共析量が明らかに増加しており,IMEの成分が共析していると考えられる。

Fig. 15.

Rf-GDOES depth profile of films deposited at 500 A·m−2 and 5×104 C·m−2 in the solutions containing various amounts of IME. [(a) IME-free, (b) IME 1 ml∙dm−3, (c) IME 5 ml∙dm−3] (Online version in color.)

IMEを含む溶液から得られためっき膜において,腐食生成物が表面に均一に形成される理由については,IME添加によりめっき膜の表面が平滑になること(Fig.2),めっき膜中のγ相増加によるアノード反応(めっき膜の溶解反応)抑制効果およびIME成分の共析の影響が考えられるが詳細は不明である。

5. 結言

エピクロルヒドリンとイミダゾールの反応物(IME)を含む溶液から得られたZn-Ni合金めっき膜の耐食性を3 mass% NaCl水溶液中での分極曲線により評価した。めっき膜作製直後は,腐食反応のカソード反応である溶存酸素の還元反応は,IMEの有無でほとんど変化しておらず,その結果,腐食電流密度に及ぼすIME添加の影響はほとんど認められなかった。しかし,IMEを添加した溶液から得られためっき膜は,アノード反応である溶解反応が抑制されており,腐食電位が貴な方に移行した。IMEの添加量が多くなるほど,アノード反応はより抑制されておリ,腐食電位の貴側への移行の程度が大きくなった。IMEの添加によりめっき膜の溶解反応が抑制される要因としては,めっき膜中のγ相が増加することが考えられる。

一方,3 mass% NaCl水溶液に48時間浸漬して腐食生成物を形成させた後は,IMEを添加した溶液から得られためっき膜では,IMEの添加量が多くなるほど溶存酸素の還元反応が抑制され,腐食電流密度が小さくなった。めっき液にIMEを添加すると腐食生成物である塩基性塩化亜鉛(ZnCl2・4Zn(OH)2)の表面性状が変化し,IMEの添加量が多くなると,塩基性塩化亜鉛が表面に均一に形成された。このため,溶存酸素の還元反応が抑制されたと考えられる。

文献
 
© 2023 The Iron and Steel Institute of Japan

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